説明

航空機アクチュエータの油圧装置

【課題】機体側油圧源の機能の喪失時又は低下時であってもアクチュエータを駆動可能であって、装置構成の小型化及び軽量化を図ることができるとともに、装置及び使用される油の温度上昇を抑制することができる、航空機アクチュエータの油圧装置を提供する。
【解決手段】翼102の内部に配置されたポンプユニット13は、機体101側に設置されてアクチュエータ104aに対して圧油を供給する機体側油圧源105の機能の喪失又は低下が発生したときにアクチュエータ104aに対して圧油を供給可能なバックアップ用油圧ポンプ20と、このポンプ20を駆動する電動モータ21とを有する。翼102の表面構造を形成する翼構造体部分112には、貫通形成された吸気口14及び排気口15が設けられる。吸気口14は吸気口開閉部16によって開閉可能に設けられ、排気口15は排気口開閉部17によって開閉可能に設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の舵面を駆動する油圧作動式のアクチュエータに対して圧油を供給する、航空機アクチュエータの油圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機においては、動翼(操縦翼面)として形成されて、補助翼(エルロン)や昇降舵(エレベータ)等として構成される舵面が設けられている。そして、このような舵面を駆動するアクチュエータとして、油圧作動式のアクチュエータがよく用いられている。また、このようなアクチュエータに対しては、航空機の機体側に設置された油圧源である機体側油圧源から圧油が供給される。しかしながら、機体側油圧源の機能(圧油供給機能)の喪失又は低下が発生することがあり、これに対し、特許文献1においては、機体側油圧源の機能の喪失又は低下が発生した場合にもアクチュエータに対して圧油を供給することが可能な油圧装置(航空機アクチュエータの油圧装置)が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された航空機アクチュエータの油圧装置は、機体側油圧源とは独立して設けられたポンプと電動モータとを備えて構成されている。ポンプは、アクチュエータから排出される圧油を昇圧してアクチュエータに供給可能に設けられている。電動モータは、機体側油圧源において圧力低下が生じてその機能の喪失又は低下が発生したときに上記ポンプを駆動するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−46790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
航空機において機体側油圧源の機能の喪失又は低下が発生した場合であっても、特許文献1に開示されたような航空機アクチュエータの油圧装置を作動させることによってアクチュエータを駆動することができる。しかしながら、機体側油圧源の機能の喪失時又は低下時には、上記の油圧装置の連続運転が行われることになる。このため、油圧装置におけるポンプ及び電動モータの温度上昇を招きやすくなり、更に、圧油として油圧装置からアクチュエータに供給されてこの油圧装置とアクチュエータとの間で循環して使用される油(作動油)の温度の上昇も招き易くなってしまう。このため、連続運転時間の制約や油の劣化に伴う油の交換時期の制約が大きくなってしまうことになる。
【0006】
また、近年においては、航空機の更なる軽量化が要求されており、上記の油圧装置についても、小型化及び軽量化が図られることが望ましい。このため、上記の油圧装置は、アクチュエータにより近い領域に設置されることが望ましく、翼の内部に配置されることが望ましい。この場合、油圧装置及び使用される油の温度上昇に伴って、翼の内部の空気の温度も上昇し易くなり、油圧装置及び油の温度上昇を加速させてしまう虞がある。尚、航空機の更なる軽量化が要求される観点から、近年では、翼を形成するための材料として、複合材料としての繊維強化プラスチックが多く用いられる傾向にある。このため、翼の内部に油圧装置が配置されると、油圧装置及び使用される油の温度上昇に伴って、断熱性の高い繊維強化プラスチック製の翼の内部の空気の温度上昇を更に加速させてしまう虞がある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みることにより、機体側油圧源の機能の喪失時又は低下時であってもアクチュエータを駆動可能であって、装置構成の小型化及び軽量化を図ることができるとともに、装置及び使用される油の温度上昇を抑制することができる、航空機アクチュエータの油圧装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための第1発明に係る航空機アクチュエータの油圧装置は、航空機の舵面を駆動する油圧作動式のアクチュエータに対して圧油を供給する、航空機アクチュエータの油圧装置に関する。そして、第1発明に係る航空機アクチュエータの油圧装置は、前記航空機の翼の内部に配置されたポンプユニットと、前記翼の表面構造を形成する翼構造体部分において貫通形成された孔として設けられ、当該翼の外部の空気を当該翼の内部に供給可能な吸気口と、前記翼構造体部分において貫通形成された孔として設けられ、当該翼の内部の空気を当該翼の外部に排出可能な排気口と、前記翼構造体部分に設けられ、前記翼の内部を外部に対して開放する位置と閉鎖する位置との間で位置が切り替えられ、前記吸気口を開閉可能な吸気口開閉部と、前記翼構造体部分に設けられ、前記翼の内部を外部に対して開放する位置と閉鎖する位置との間で位置が切り替えられ、前記排気口を開閉可能な排気口開閉部と、を備え、前記ポンプユニットは、前記航空機の機体側に設置されて前記アクチュエータに対して圧油を供給する油圧源である機体側油圧源の機能の喪失又は低下が発生したときに前記アクチュエータに対して圧油を供給可能なバックアップ用油圧ポンプと、前記バックアップ用油圧ポンプを駆動する電動モータと、を有していることを特徴とする。
【0009】
この発明によると、機体側油圧源の機能の喪失又は低下が発生した場合であっても、翼の内部に配置されたポンプユニットにおけるバックアップ用油圧ポンプから圧油が供給され、アクチュエータを駆動することができる。そして、翼の内部にポンプユニットが配置されるため、航空機アクチュエータの油圧装置(以下、単に「油圧装置」ともいう)について小型化及び軽量化を図ることができる。更に、本発明の油圧装置では、吸気口開閉部及び排気口開閉部が作動することで、吸気口及び排気口を開放し、翼の外部の低温の空気を翼の内部に供給するとともに、翼の内部の高温の空気を翼の外部に排出することができる。このため、油圧装置におけるバックアップ用油圧ポンプ及び電動モータから発生した熱量を吸気口から排気口へと流動する空気によって抜熱して油圧装置を冷却できる。即ち、油圧装置にて発生した熱量を翼の外部の大気へと直接に放熱することができる。また、これにより、油圧装置において使用される油の冷却機能も発揮でき、油の温度の上昇も抑制することができる。
【0010】
従って、本発明によると、機体側油圧源の機能の喪失時又は低下時であってもアクチュエータを駆動可能であって、装置構成の小型化及び軽量化を図ることができるとともに、装置及び使用される油の温度上昇を抑制することができる、航空機アクチュエータの油圧装置を提供することができる。
【0011】
第2発明に係る航空機アクチュエータの油圧装置は、第1発明の航空機アクチュエータの油圧装置において、前記吸気口は前記翼の下面側に配置され、前記排気口は前記翼の上面側に配置されていることを特徴とする。
【0012】
この発明によると、翼において高圧側となる下面側に吸気口が配置され、低圧側となる上面側に排気口が配置される。このため、吸気口及び排気口が開放されることで、高圧側の吸気口から外部の空気が翼内に流入するとともに低圧側の排気口から翼の内部の空気が流出する空気の流れが容易に形成されることになる。これにより、油圧装置にて発生した熱量を翼の外部の大気へと効率よく放熱することができる。
【0013】
第3発明に係る航空機アクチュエータの油圧装置は、第1発明又は第2発明の航空機アクチュエータの油圧装置において、前記吸気口開閉部を開閉駆動する吸気側駆動機構を備え、前記吸気口開閉部は、前記吸気口を塞ぐ第1蓋部材を有し、前記吸気側駆動機構は、前記第1蓋部材を前記翼構造体部分に沿ってスライド移動させることで、前記吸気口開閉部を開閉駆動することを特徴とする。
【0014】
この発明によると、吸気口開閉部において吸気口を塞ぐ第1蓋部材が、吸気側駆動機構によって翼構造体部分に沿ってスライド移動するように駆動され、吸気口の開閉が行われる。このため、吸気口を開閉するための第1蓋部材の移動方向が、この第1蓋部材の面方向に沿った方向となり、吸気口を介して水平尾翼内に流入する外部の空気の流入方向に対向して逆らうように開閉される方向となってしまうことを抑制できる。よって、吸気口の開閉の際に第1蓋部材の移動を妨げるように作用する空気抵抗を小さくすることができる。これにより、吸気口の開閉動作が容易な吸気口開閉部及び吸気側駆動機構を実現することができる。
【0015】
第4発明に係る航空機アクチュエータの油圧装置は、第1発明又は第2発明の航空機アクチュエータの油圧装置において、前記吸気口開閉部を開閉駆動する吸気側駆動機構を備え、前記吸気口開閉部は、前記翼構造体部分において回転軸を介して揺動自在に設置されるとともに前記吸気口を塞ぐ第2蓋部材を有し、前記吸気側駆動機構は、前記第2蓋部材を前記航空機の飛行方向における前方側に向かって開口するように駆動することを特徴とする。
【0016】
この発明によると、吸気口開閉部において吸気口を塞ぐ第2蓋部材が、吸気側駆動機構によって駆動され、航空機の飛行方向の前方側に向かって開口する。このため、翼近傍の空気の流れに沿って飛行方向の前方側から吸気口へと容易に空気を流入させることができる。これにより、翼の外部の低温の大気を吸気口を介して効率よく翼の内部へと供給することができる吸気口開閉部及び吸気側駆動機構を実現することができる。
【0017】
第5発明に係る航空機アクチュエータの油圧装置は、第1発明乃至第4発明のいずれかの航空機アクチュエータの油圧装置において、前記吸気口開閉部を開閉駆動する吸気側駆動機構と、前記排気口開閉部を開閉駆動する排気側駆動機構と、を備え、前記電動モータ、前記吸気側駆動機構、及び前記排気側駆動機構は、前記舵面の動作を制御する舵面制御装置からの指令信号に基づいて作動することを特徴とする。
【0018】
この発明によると、ポンプユニットの電動モータと、吸気口開閉部を開閉駆動する吸気側駆動機構と、排気口開閉部を開閉駆動する排気側駆動機構とが、舵面を駆動するアクチュエータを介して舵面の動作を制御する舵面制御装置からの指令信号に基づいて作動する。このため、舵面制御装置を有効的に利用し、舵面駆動用のアクチュエータの作動状況に連動させてポンプユニットを起動可能であるとともに吸気口及び排気口を開放可能な制御構成を新たな制御装置を別途追加することなく実現することができる。
【0019】
第6発明に係る航空機アクチュエータの油圧装置は、第1発明乃至第5発明のいずれかの航空機アクチュエータの油圧装置において、前記バックアップ用油圧ポンプが起動されるタイミングで、前記吸気口開閉部及び前記排気口開閉部が作動し、前記吸気口及び前記排気口が開放されることを特徴とする。
【0020】
この発明によると、バックアップ用油圧ポンプの起動タイミングで吸気口及び排気口が開放される。このため、油圧装置で発生する熱量を翼の外部の大気へと速やかに放熱することができる。そして、油圧装置が運転されていない通常の飛行時において、吸気口及び排気口が開放されず、翼の外部の空気を翼内に流入させて翼効率の低下を招いてしまうことを防止できる。
【0021】
第7発明に係る航空機アクチュエータの油圧装置は、第1発明乃至第5発明のいずれかの航空機アクチュエータの油圧装置において、前記ポンプユニットの温度と、前記翼の内部の空気の温度と、前記バックアップ用油圧ポンプから供給される圧油として使用される油の温度と、のうちの少なくともいずれかの温度を検知する温度センサを備え、前記温度センサでの検知結果に基づいて、前記吸気口開閉部及び前記排気口開閉部が作動し、前記吸気口及び前記排気口が開放されることを特徴とする。
【0022】
この発明によると、温度センサによって、ポンプユニットの温度、翼内空気温度、油温のうちのすくなくともいずれかの温度が検知され、この検知結果に基づいて、吸気口及び排気口が開放される。このため、油圧装置又は使用される油の温度の上昇が発生したタイミングにおいて、効率よく吸気口及び排気口を開放し、油圧装置で発生する熱量を翼の外部の大気へと速やかに放熱することができる。そして、油圧装置又は使用される油の温度の上昇が発生していない状態において、翼の外部の空気を翼内に流入させて翼効率の低下を招いてしまうことを防止できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、機体側油圧源の機能の喪失時又は低下時であってもアクチュエータを駆動可能であって、装置構成の小型化及び軽量化を図ることができるとともに、装置及び使用される油の温度上昇を抑制することができる、航空機アクチュエータの油圧装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る航空機アクチュエータの油圧装置が適用される航空機の一部を示す模式図である。
【図2】図1に示す航空機アクチュエータの油圧装置及びアクチュエータを含む油圧回路を模式的に示す油圧回路図である。
【図3】図1に示す航空機アクチュエータの油圧装置について翼の一部とともに示す図であって、A−A線矢視位置から見た図である。
【図4】図3に示す航空機アクチュエータの油圧装置の作動を説明するための図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る航空機アクチュエータの油圧装置について、翼の一部とともに示す図である。
【図6】図5に示す航空機アクチュエータの油圧装置の作動を説明するための図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る航空機アクチュエータの油圧装置及びアクチュエータを含む油圧回路を模式的に示す油圧回路図である。
【図8】変形例に係る航空機アクチュエータの油圧装置について、翼の一部とともに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。尚、本発明の実施形態は、航空機の舵面を駆動する油圧作動式のアクチュエータに対して圧油を供給する航空機アクチュエータの油圧装置として広く適用することができるものである。
【0026】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る航空機アクチュエータの油圧装置1(以下、単に「油圧装置1」ともいう)が適用される航空機100の一部を示す模式図であって、航空機100の機体101の後部の部分と一対の水平尾翼(102、102)とを図示したものである。尚、図1の模式図では、機体101の後部の垂直尾翼についての図示を省略している。
【0027】
一対の水平尾翼(102、102)には、航空機100の舵面を構成する動翼(操縦翼面)として、エレベータ(昇降舵)103がそれぞれ設けられている。そして、各水平尾翼102におけるエレベータ103は、図1に例示するように、複数(例えば、2つ)のアクチュエータ104(104a、104b)によって駆動されるように構成されている。各水平尾翼102の内部には、各エレベータ103を駆動するアクチュエータ(104a、104b)と、そのうちの一方のアクチュエータ104aに対して圧油を供給するように構成された油圧装置1とが設置されている。
【0028】
尚、一対の水平尾翼(102、102)のそれぞれに設置されるアクチュエータ(104a、104b)及び油圧装置1は、同様に構成される。そこで、以下の説明においては、一方の水平尾翼102に設置されるアクチュエータ(104a、104b)及び油圧装置1について説明し、他方の水平尾翼102に設置されるアクチュエータ(104a、104b)及び油圧装置1の説明を省略する。
【0029】
図2は、一方の水平尾翼102に設けられたエレベータ103を駆動するアクチュエータ(104a、104b)と、そのうちの一方のアクチュエータ104aに対して圧油を供給するように構成された油圧装置1とを含む油圧回路を模式的に示す油圧回路図である。アクチュエータ(104a、104b)のそれぞれは、シリンダ107、ピストン108aが設けられたロッド108、等を備え、シリンダ107内がピストン108aによって2つの油室(107a、107b)に区画されて構成されている。そして、アクチュエータ104aのシリンダ107における各油室(107a、107b)は、制御弁109aを介して第1機体側油圧源105及びリザーバ回路110と連通可能に構成されている。一方、アクチュエータ104bのシリンダ107における各油室(107a、107b)は、制御弁109bを介して第2機体側油圧源106及びリザーバ回路111と連通可能に構成されている。
【0030】
第1機体側油圧源105及び第2機体側油圧源106のそれぞれは、圧油を供給する油圧ポンプを有し、互いに独立した系統として機体101側に(機体101の内部に)設置されている。そして、第1及び第2機体側油圧源(105、106)のそれぞれは、エレベータ103を駆動するアクチュエータ104とエレベータ103以外の各舵面を駆動するアクチュエータ(図示せず)とに対して圧油を供給する油圧源である機体側油圧源として設けられている。また、アクチュエータ104に対しては、第1機体側油圧源105は、一方の水平尾翼102に設置されたアクチュエータ104aと他方の水平尾翼102に設置されたアクチュエータ104bとに圧油を供給可能に接続されている。一方、第2機体側油圧源106は、一方の水平尾翼102に設置されたアクチュエータ104bと他方の水平尾翼102に設置されたアクチュエータ104aとに対して圧油を供給可能に接続されている。
【0031】
リザーバ回路110は、圧油として供給された後にアクチュエータ104から排出される油(作動油)が流入して戻るタンク(図示せず)を有するとともに、第1機体側油圧源105に連通するように構成されている。また、リザーバ回路110から独立した系統として構成されるリザーバ回路111は、圧油として供給された後にアクチュエータ104から排出される油(作動油)が流入して戻るタンク(図示せず)を有するとともに、第1機体側油圧源105から独立した系統として構成される第2機体側油圧源106に連通するように構成されている。尚、リザーバ回路110は、一方の水平尾翼102に設置されたアクチュエータ104aと他方の水平尾翼102に設置されたアクチュエータ104bとに接続されるとともに、第1機体側油圧源105に接続されている。これにより、リザーバ回路110に戻った油が第1機体側油圧源105で昇圧され、所定のアクチュエータ104に供給される。一方、リザーバ回路111は、一方の水平尾翼102に設置されたアクチュエータ104bと他方の水平尾翼102に設置されたアクチュエータ104aとに接続されるとともに、第2機体側油圧源106に接続されている。これにより、リザーバ回路111に戻った油が第2機体側油圧源106で昇圧され、所定のアクチュエータ104に供給される。
【0032】
制御弁109aは、第1機体側油圧源105に連通する供給通路105a及びリザーバ回路110に連通する排出通路110aと、油室(107a、107b)との接続状態を切り替えるバルブ機構として設けられている。また、制御弁109bは、第2機体側油圧源106に連通する供給通路106a及びリザーバ回路111に連通する排出通路111aと、油室(107a、107b)との接続状態を切り替えるバルブ機構として設けられている。制御弁109aは、例えば、電磁切換弁として構成され、アクチュエータ104aの動作を制御するアクチュエータコントローラ11aからの指令信号に基づいて駆動される。また、制御弁109bは、例えば、電磁切換弁として構成され、アクチュエータ104bの動作を制御するアクチュエータコントローラ11bからの指令信号に基づいて駆動される。
【0033】
上記のアクチュエータコントローラ11aは、エレベータ103の動作を指令する更に上位のコンピュータであるフライトコントローラ12からの指令信号に基づいてアクチュエータ104aを制御する。また、アクチュエータコントローラ11bは、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいてアクチュエータ104bを制御する。そして、フライトコントローラ12は、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)やメモリ、インターフェース等を備えて構成され、本実施形態において舵面として例示するエレベータ103の動作をアクチュエータコントローラ11a及びアクチュエータコントローラ11bを介して制御する本実施形態における舵面制御装置を構成している。
【0034】
尚、アクチュエータコントローラ11a及びアクチュエータコントローラ11bは、例えば、集中制御方式のコントローラとして、又は分散処理方式のコントローラとして設置される。集中制御方式の場合、機体101側に設置された1つの筐体(図示せず)にアクチュエータコントローラ11a及びアクチュエータコントローラ11bが設置され、アクチュエータコントローラ11aがアクチュエータ104aを制御し、アクチュエータコントローラ11bがアクチュエータ104bを制御するように構成される。分散処理方式の場合、アクチュエータ104aに搭載された筐体(図示せず)にアクチュエータコントローラ11aが設置され、アクチュエータ104bに搭載された筐体(図示せず)にアクチュエータコントローラ11bが設置され、アクチュエータコントローラ11aがアクチュエータ104aを制御し、アクチュエータコントローラ11bがアクチュエータ104bを制御するように構成される。尚、本実施形態では、複数の異なるアクチュエータコントローラ(11a、11b)に対して1つのフライトコントローラ12からの指令信号が入力されるように構成されている場合を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。例えば、複数の異なるアクチュエータコントローラ(11a、11b)に対して、それぞれ異なるフライトコントローラからの指令信号が入力されるように構成されていてもよい。
【0035】
また、前述した制御弁109aは、アクチュエータコントローラ11aからの指令に基づいて切り替えられることで、供給通路105aから油室(107a、107b)の一方に圧油が供給され、油室(107a、107b)の他方から排出通路110aに油が排出される。これにより、シリンダ107に対してロッド108が変位し、エレベータ103が駆動される。また、図示を省略するが、制御弁109aとアクチュエータ104aとの間には、油室(107a、107b)間の連通状態(モード)を切り替えるモード切替弁が設けられている。尚、制御弁109bについては、上述した制御弁109aと同様に構成されるため、説明を省略する。
【0036】
次に、本実施形態に係る油圧装置1について詳しく説明する。図1及び図2に示す油圧装置1は、エレベータ103を駆動する油圧作動式のアクチュエータ104aに対して圧油を供給するように構成されている。尚、本実施形態では、油圧装置1が、エレベータ103として構成された舵面を駆動するアクチュエータ104aに対して圧油を供給する形態を例にとって説明するが、この通りでなくてもよい。即ち、油圧装置1が、エルロン(補助翼)等のエレベータ以外の舵面を駆動するアクチュエータに対して圧油を供給する油圧装置として用いられてもよい。
【0037】
図3は、油圧装置1について水平尾翼102の一部とともに示す図であって、図1のA−A線矢視位置から見た図である。図1乃至図3に示す油圧装置1は、ポンプユニット13、吸気口14、排気口15、吸気口開閉部16、排気口開閉部17、吸気側駆動機構18、排気側駆動機構19、等を備えて構成されている。尚、図3では、水平尾翼102の一部については、ポンプユニット13の側方から見た状態における断面を含む図として透視図法に基づいて図示している。また、図3では、水平尾翼102及び油圧装置1以外の要素についての図示を省略している。
【0038】
図3に示すように、本実施形態においては、航空機100の翼である水平尾翼102の内部にポンプユニット13が配置される。そして、吸気口14は、水平尾翼102の表面構造を形成する翼構造体部分112において貫通形成された孔として設けられ、水平尾翼102の外部の空気をこの水平尾翼102の内部に供給可能な孔として形成されている。この吸気口14は、例えば、矩形の貫通孔として形成され、水平尾翼102の下面側に配置されている。
【0039】
排気口15は、翼構造体部分112において貫通形成された孔として設けられ、水平尾翼102の内部の空気をこの水平尾翼102の外部に排出可能な孔として形成されている。この排気口14は、例えば、矩形の貫通孔として形成され、水平尾翼102の上面側に配置されている。
【0040】
また、吸気口14及び排気口15が形成されている翼構造体部分112は、例えば、複合材料としての炭素繊維強化プラスチックで形成されている。尚、翼構造体部分112には、炭素繊維強化プラスチック以外の材料が含まれていてもよい。また、翼構造体部分112は、炭素繊維強化プラスチック以外の繊維強化プラスチックによって形成されていてもよい。例えば、ガラス繊維強化プラスチック、ガラス長繊維強化プラスチック、ボロン繊維強化プラスチック、アラミド繊維強化プラスチック、ポリエチレン繊維強化プラスチック、ザイロン強化プラスチック等の繊維強化プラスチックによって形成されていてもよい。
【0041】
図2及び図3に示すように、ポンプユニット13は、バックアップ用油圧ポンプ20、電動モータ21、等を備えて構成されている。そして、このポンプユニット13は、水平尾翼102の内部に配置されている。
【0042】
バックアップ用油圧ポンプ20は、例えば、可変容量式の油圧ポンプとして構成されている。このバックアップ用油圧ポンプ20は、その吸込み側が排出通路110aに連通するように接続され、その吐出側が逆止弁22を介して供給通路105aに圧油を供給可能に連通するように接続されている。そして、バックアップ用油圧ポンプ20は、第1機体側油圧源105における油圧ポンプの故障や油漏れ等によって第1機体側油圧源105の機能(圧油供給機能)の喪失又は低下が発生したときにアクチュエータ104aに対して圧油を供給可能な油圧ポンプとして設けられている。
【0043】
また、供給通路105aにおけるバックアップ用油圧ポンプ20の吐出側が接続する箇所の上流側(第1機体側油圧源105側)には、アクチュエータ104aへの圧油の流れを許容してその逆方向の油の流れを規制する逆止弁23が設けられている。そして、排出通路110aにおけるバックアップ用油圧ポンプ20の吸込み側が接続する箇所の下流側(リザーバ回路110側)には、アクチュエータ104aから排出された油の圧力が上昇した際にリザーバ回路110へ圧油を排出するリリーフ弁24が設けられている。また、このリリーフ弁24には、供給通路105aに連通するとともにバネが配置されたパイロット圧室が設けられている。供給通路105aから供給される圧油の圧力が所定の圧力値よりも低下すると、パイロット圧油として供給通路105aから上記のパイロット圧室に供給されている圧油の圧力(パイロット圧)も所定の圧力値より低下し、排出通路110aがリリーフ弁24によって遮断されることになる。第1機体側油圧源105の機能の喪失時又は低下時には、上述した逆止弁(22、23)及びリリーフ弁24が設けられていることにより、アクチュエータ104aから排出された油がリザーバ回路110に戻ることなくバックアップ用油圧ポンプ20で昇圧され、その昇圧された圧油がアクチュエータ104aに供給されることになる。
【0044】
電動モータ21は、バックアップ用油圧ポンプ20に対して、図示しないカップリングを介して連結され、このバックアップ用油圧ポンプ20を駆動するように構成されている。そして、電動モータ21は、そのハウジングの内部において、モータ本体部(ロータ、ステータ)とともにモータ本体部の冷却用の冷却ファンが収容されている。また、電動モータ21には、バックアップ用油圧ポンプ20が固定されている。そして、電動モータ21のハウジングは、翼構造体部分112に対して固定されている。また、この電動モータ21は、図示しないドライバを介して、エレベータ103の動作を指令する上位のコンピュータであるフライトコントローラ12からの指令信号に基づいて運転状態が制御される。尚、上記のドライバは、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて電動モータ21へ供給される電力及び電動モータ21の運転速度(回転速度)を制御してこの電動モータ21を駆動する回路基板等として設けられている。
【0045】
尚、フライトコントローラ12は、第1機体側油圧源105の吐出圧力又は供給通路105aを通過する圧油の圧力を検知する圧力センサ(図示せず)に対して、その圧力センサで検知された圧力検知信号が入力されるように接続されている。そして、フライトコントローラ12は、上記の圧力検知信号に基づいて、第1機体側油圧源105の機能の喪失又は低下を検知するように構成されている。
【0046】
例えば、フライトコントローラ12は、圧力検知信号の圧力値が所定の第1圧力値以下となったタイミングに応じて第1機体側油圧源105の機能の低下を検知し、圧力検知信号の圧力値が第1圧力値よりも更に低い所定の第2圧力値以下となったタイミングに応じて第1機体側油圧源105の機能の喪失を検知するように構成されている。そして、フライトコントローラ12にて第1機体側油圧源105の機能の喪失又は低下が検知されると、このフライトコントローラ12からの指令信号に基づいて電動モータ21の運転が開始され、前述のように、アクチュエータ104aに対する圧油の供給が行われることになる。さらに、電動モータ21を圧力検知信号に関わらず、例えば航空機が着陸姿勢に入った段階でフライトコントローラ12からの信号によって起動させてもよい。これによって、着陸段階で急激に第1機体側油圧源105の機能の喪失又は低下が生じても、既に電動モータ21は動作しているため安全な飛行を確保することができる。
【0047】
吸気口開閉部16は、翼構造体部分112における吸気口14の近傍に設けられている。そして、吸気口開閉部16は、吸気口14を塞ぐ吸気側蓋部材16aと、この吸気側蓋部材16aをスライド移動自在に支持するスライド支持部(図示せず)とを備え、吸気口14を開閉可能に構成されている。吸気側蓋部材16aは、例えば、アルミニウム合金等の金属材料で形成された平板状の部材として設けられ、本実施形態における第1蓋部材を構成している。
【0048】
吸気側駆動機構18は、吸気口開閉部16のスライド支持部に対してスライド移動自在に支持された吸気側蓋部材16aを翼構造体部分112に沿ってスライド移動させることで、吸気口開閉部16を開閉駆動するように構成されている。この吸気側駆動機構18は、例えば、電動シリンダを有する駆動機構として、又はリニアモータを有する駆動機構として、或いは油圧シリンダを有する駆動機構として構成されている。
【0049】
図4は、図3に対応して油圧装置1の作動を説明するための図であって、吸気口開閉部16及び後述の排気口開閉部17が吸気口14及び排気口15を開放した状態を示す図である。この図4に示すように、吸気側駆動機構18によって吸気口開閉部16が駆動されて吸気側蓋部材16aが吸気口14を開くように移動することで、吸気口開閉部16は、水平尾翼102の内部を外部に対して開放することになる。一方、吸気側駆動機構18によって吸気口開閉部16が駆動されて吸気側蓋部材16aが吸気口14を塞ぐように移動することで、吸気口開閉部16は、水平尾翼102の内部を外部に対して閉鎖することになる。このように、吸気口開閉部16は、吸気側駆動機構18によって駆動されることで、水平尾翼102の内部を外部に対して開放する位置と閉鎖する位置との間で位置が切り替えられるように構成されている。
【0050】
排気口開閉部17は、翼構造体部分112における排気口15の近傍に設けられている。そして、排気口開閉部17は、排気口15を塞ぐ排気側蓋部材17aと、この排気側蓋部材17aをスライド移動自在に支持するスライド支持部(図示せず)とを備え、排気口15を開閉可能に構成されている。排気側蓋部材17aは、例えば、アルミニウム合金等の金属材料で形成された平板状の部材として設けられている。
【0051】
排気側駆動機構19は、排気口開閉部17のスライド支持部に対してスライド移動自在に支持された排気側蓋部材17aを翼構造体部分112に沿ってスライド移動させることで、排気口開閉部17を開閉駆動するように構成されている。この排気側駆動機構19は、例えば、リニアモータを有する駆動機構として、又は電動シリンダを有する駆動機構として、或いは油圧シリンダを有する駆動機構として構成されている。
【0052】
そして、図4に示すように、排気側駆動機構19によって排気口開閉部17が駆動されて排気側蓋部材17aが排気口15を開くように移動することで、排気口開閉部17は、水平尾翼102の内部を外部に対して開放することになる。一方、排気側駆動機構18によって排気口開閉部17が駆動されて排気側蓋部材17aが排気口15を塞ぐように移動することで、排気口開閉部17は、水平尾翼102の内部を外部に対して閉鎖することになる。このように、排気口開閉部17は、排気側駆動機構19によって駆動されることで、水平尾翼102の内部を外部に対して開放する位置と閉鎖する位置との間で位置が切り替えられるように構成されている。
【0053】
また、吸気側駆動機構18及び排気側駆動機構19は、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて作動するように構成されている。そして、油圧装置1においては、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて、バックアップ用油圧ポンプ20が起動されるタイミングで、吸気側駆動機構18の作動によって吸気口開閉部16が作動して、吸気口14が開放されるように構成されている。更に、油圧装置1においては、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて、バックアップ用油圧ポンプ20が起動されるタイミングで、排気側駆動機構19の作動によって排気口開閉部17が作動して、排気口15が開放されるように構成されている。
【0054】
次に、油圧装置1の作動について説明する。尚、油圧装置1の作動については、上述した油圧装置1の構成についての説明と同様に、第1機体側油圧源105に接続された油圧装置1についてのみ説明し、第2機体側油圧源106に接続された油圧装置1の作動については同様であるため説明を省略する。
【0055】
第1機体側油圧源105の機能の喪失及び低下が発生していない状態では、バックアップ用油圧ポンプ13の運転は行われない。この状態では、アクチュエータ104aに対しては、制御弁109aを介して第1油圧供給源105からの圧油が油室(107a、107b)の一方に供給され、油室(107a、107b)の他方から油が排出されて制御弁109aを介してリザーバ回路110に戻されることになる。また、アクチュエータコントローラ11aからの指令信号に基づいて制御弁109aの接続状態が切り替えられることで、圧油の供給及び油の排出が行われる油室(107a、107b)の切り替えが行われ、アクチュエータ104aが作動してエレベータ103が駆動される。
【0056】
尚、上記のように、第1機体側油圧源105の機能の喪失及び低下が発生しておらず、バックアップ用油圧ポンプ13の運転が行われていない状態では、吸気口開閉部16は、吸気側蓋部材16aにおいて吸気口14を塞いでおり、水平尾翼102の内部を外部に対して閉鎖している。そして、排気口開閉部17は、排気側蓋部材17aにおいて排気口15を塞いでおり、水平尾翼102の内部を外部に対して閉鎖している。
【0057】
一方、第1機体側油圧源105の機能の喪失及び低下が発生すると、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて、電動モータ21の運転が開始され、バックアップ用油圧ポンプ13が起動されてその運転が開始される。そして、アクチュエータ104aに対しては、制御弁109aを介してバックアップ用油圧ポンプ13からの圧油が油室(107a、107b)の一方に供給され、油室(107a、107b)の他方から油が排出されて制御弁109aを介してバックアップ用油圧ポンプ13に吸い込まれて昇圧されることになる。また、アクチュエータコントローラ11aからの指令信号に基づいて制御弁109aの接続状態が切り替えられることで、圧油の供給及び油の排出が行われる油室(107a、107b)の切り替えが行われ、アクチュエータ104aが作動してエレベータ103が駆動される。
【0058】
そして、油圧装置1においては、上記のようにバックアップ用油圧ポンプ20が起動されるタイミングで、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて、吸気側駆動機構18及び排気側駆動機構19が作動する。そして、吸気口開閉部16が吸気側駆動機構18によって駆動されて吸気側蓋部材16aがスライド移動し、排気口開閉部17が排気側駆動機構19によって駆動されて排気側蓋部材17aがスライド移動する。これにより、吸気口14が開放されるとともに排気口15が開放されることになる。
【0059】
一方、油圧装置1のポンプユニット13の運転が開始されると、バックアップ用油圧ポンプ20及び電動モータ21が発熱し、翼構造体部分112の内部の空気の温度が上昇することになる。とくに、本実施形態のように翼構造体部分112が炭素繊維強化プラスチック製の場合、断熱性が高いため、翼構造体部分112の内部の空気の温度が上昇し易くなる。また、油圧装置1において使用される油、即ち、バックアップ用油圧ポンプ20で昇圧されてアクチュエータ104aに対して供給される油の温度も上昇することになる。このため、発生した熱量の抜熱が不十分であれば、バックアップ用油圧ポンプ20、電動モータ21、及び使用される油の更なる温度上昇を招くことになる。
【0060】
しかしながら、油圧装置1においては、前述のように、バックアップ用油圧ポンプ20が起動されたタイミングで、吸気口14及び排気口15が開放される。このため、吸気口14が開放されることで、水平尾翼102において高圧側となるこの水平尾翼102の下面側に配置された吸気口14から水平尾翼102の外部の空気が流入することになる。そして、排気口15が開放されることで、水平尾翼102において低圧側となるこの水平尾翼102の上面側に配置された排気口15から水平尾翼102の内部の空気が流出することになる。このように、水平尾翼102の外部の低温の空気が吸気口14から水平尾翼102の内部に流入するとともに、水平尾翼102の内部の空気が排気口15から外部へと流出する空気の流れが形成されることになる。即ち、図4において、二点鎖線で図示する矢印Hで示す空気の流れが形成されることになる。
【0061】
尚、バックアップ用油圧ポンプ20、電動モータ21及び使用されている油にて発生した熱量は、翼構造体部分112の内部の空気へと熱伝導、熱伝達(対流)及び熱放射によって伝達される。そして、翼構造体部分112の内部の空気へと伝達された熱量は、上述した吸気口14から水平尾翼102の外部の空気が流入して吸気口15から水平尾翼102の内部の空気が流出する空気の流れ(二点鎖線の矢印Hで示す空気の流れ)に伴って、水平尾翼102の外部へと抜熱されることになる。即ち、水平尾翼102の外部の低温の空気が水平尾翼102の内部へ供給され、水平尾翼102の内部の高温の空気が水平尾翼102の外部に排出されることになる。これにより、吸気口14から翼構造体部分112の内部を通過して排気口15へと流動する空気を介して油圧装置1が冷却され、バックアップ用油圧ポンプ20、電動モータ21及び使用されている油が冷却され、それらの温度上昇が抑制されることになる。
【0062】
以上説明したように、油圧装置1によると、機体側油圧源(105、106)の機能の喪失又は低下が発生した場合であっても、水平尾翼102の内部に配置されたポンプユニット13におけるバックアップ用油圧ポンプ20から圧油が供給され、アクチュエータ104aを駆動することができる。そして、水平尾翼102の内部にポンプユニット13が配置されるため、油圧装置1について小型化及び軽量化を図ることができる。更に、油圧装置1では、吸気口開閉部16及び排気口開閉部17が作動することで、吸気口14及び排気口15を開放し、水平尾翼102の外部の低温の空気を水平尾翼102の内部に供給するとともに、水平尾翼102の内部の高温の空気を水平尾翼102の外部に排出することができる。このため、油圧装置1におけるバックアップ用油圧ポンプ20及び電動モータ21から発生した熱量を吸気口14から排気口15へと流動する空気によって抜熱して油圧装置1を冷却できる。即ち、油圧装置1にて発生した熱量を水平尾翼102の外部の大気へと直接に放熱することができる。また、これにより、油圧装置1において使用される油の冷却機能も発揮でき、油の温度の上昇も抑制することができる。
【0063】
従って、本実施形態によると、機体側油圧源(105、106)の機能の喪失時又は低下時であってもアクチュエータ104aを駆動可能であって、装置構成の小型化及び軽量化を図ることができるとともに、装置及び使用される油の温度上昇を抑制することができる、航空機アクチュエータの油圧装置1を提供することができる。
【0064】
また、油圧装置1によると、水平尾翼102において高圧側となる下面側に吸気口14が配置され、低圧側となる上面側に排気口15が配置される。このため、吸気口14及び排気口15が開放されることで、高圧側の吸気口14から外部の空気が水平尾翼102内に流入するとともに低圧側の排気口15から水平尾翼102の内部の空気が流出する空気の流れが容易に形成されることになる。これにより、油圧装置1にて発生した熱量を水平尾翼102の外部の大気へと効率よく放熱することができる。
【0065】
また、油圧装置1によると、吸気口開閉部16において吸気口14を塞ぐ吸気側蓋部材16aが、吸気側駆動機構18によって翼構造体部分112に沿ってスライド移動するように駆動され、吸気口14の開閉が行われる。このため、吸気口14を開閉するための吸気側蓋部材16aの移動方向が、この吸気側蓋部材16aの面方向に沿った方向となり、吸気口14を介して水平尾翼102内に流入する外部の空気の流入方向に対向して逆らうように開閉される方向となってしまうことを抑制できる。よって、吸気口14の開閉の際に吸気側蓋部材16aの移動を妨げるように作用する空気抵抗を小さくすることができる。これにより、吸気口14の開閉動作が容易な吸気口開閉部16及び吸気側駆動機構18を実現することができる。
【0066】
また、油圧装置1によると、ポンプユニット13の電動モータ21と、吸気口開閉部16を開閉駆動する吸気側駆動機構18と、排気口開閉部17を開閉駆動する排気側駆動機構19とが、エレベータ103を駆動するアクチュエータ104を介してエレベータ103の動作を制御するフライトコントローラ12からの指令信号に基づいて作動する。このため、フライトコントローラ12を有効的に利用し、エレベータ103駆動用のアクチュエータ104の作動状況に連動させてポンプユニット13を起動可能であるとともに吸気口14及び排気口15を開放可能な制御構成を新たな制御装置を別途追加することなく実現することができる。
【0067】
また、油圧装置1によると、バックアップ用油圧ポンプ20の起動タイミングで吸気口14及び排気口15が開放される。このため、油圧装置1で発生する熱量を水平尾翼102の外部の大気へと速やかに放熱することができる。そして、油圧装置1が運転されていない通常の飛行時において、吸気口14及び排気口15が開放されず、水平尾翼102の外部の空気を水平尾翼102内に流入させて水平尾翼102の翼効率の低下を招いてしまうことを防止できる。
【0068】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る航空機アクチュエータの油圧装置2(以下、単に「油圧装置2」ともいう)について説明する。油圧装置2は、第1実施形態の油圧装置1と同様に、航空機100の水平尾翼102の内部に設置され、エレベータ103を駆動する油圧作動式のアクチュエータ104aに対して圧油を供給するように構成されている。そして、油圧装置2は、第1実施形態の油圧装置1と同様の油圧回路形態で、第1機体側油圧源105、リザーバ回路110、制御弁109aに対して接続されている。また、油圧装置2は、油圧装置1と同様に、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて作動するように構成されている。
【0069】
図5は、油圧装置2について水平尾翼102の一部とともに示す図であって、第1実施形態の図3に対応する状態で示す図である。この図5に示すように、油圧装置2は、第1実施形態の油圧装置1と同様に、ポンプユニット13、吸気口14、排気口15、吸気口開閉部31、排気口開閉部32、吸気側駆動機構33、排気側駆動機構34、等を備えて構成されている。但し、油圧装置2は、吸気口開閉部31、排気口開閉部32、吸気側駆動機構33、排気側駆動機構34において、第1実施形態の油圧装置1とは構成が異なっている。以下、油圧装置2の説明においては、第1実施形態と構成が異なる点について説明し、第1実施形態と同様に構成される要素については、図面において同一の符号を付すことで、又は同一の符号を引用することで、説明を省略する。
【0070】
吸気口開閉部31は、翼構造体部分112における吸気口14の近傍に設けられている。そして、吸気口開閉部31は、吸気口14を塞ぐ吸気側蓋部材31aと、この吸気側蓋部材31aを回転自在に支持する回転軸31bとを備え、吸気口14を開閉可能に構成されている。吸気側蓋部材31aは、翼構造体部分112において回転軸31bを介して揺動自在に設置されている。そして、吸気側蓋部材31aは、例えば、アルミニウム合金等の金属材料で形成された平板状の部材として設けられ、本実施形態における第2蓋部材を構成している。
【0071】
図6は、図5に対応して油圧装置2の作動を説明するための図であって、吸気口開閉部31及び後述の排気口開閉部32が吸気口14及び排気口15を開放した状態を示す図である。吸気側駆動機構33は、吸気口開閉部31を開閉駆動する機構として設けられ、回転軸31bに対して回転自在に支持された吸気側蓋部材31aを航空機100の飛行方向(図4及び図5にて矢印Bで示す方向)における前方側に向かって開口するように駆動するよう構成されている。この吸気側駆動機構33は、例えば、電動シリンダを有する駆動機構として、又はリニアモータを有する駆動機構として、或いは油圧シリンダを有する駆動機構として構成されている。そして、図6に示すように、吸気側駆動機構33は、上記駆動機構に連動するリンク33aを介して、吸気側蓋部材31aを駆動するように構成されている。
【0072】
そして、吸気側駆動機構33によって吸気口開閉部31が駆動されて吸気側蓋部材31aが吸気口14を開くように揺動することで、吸気口開閉部31は、水平尾翼102の内部を外部に対して開放することになる。一方、吸気側駆動機構33によって吸気口開閉部31が駆動されて吸気側蓋部材31aが吸気口14を塞ぐように揺動することで、吸気口開閉部31は、水平尾翼102の内部を外部に対して閉鎖することになる。このように、吸気口開閉部31は、吸気側駆動機構33によって駆動されることで、水平尾翼102の内部を外部に対して開放する位置と閉鎖する位置との間で位置が切り替えられるように構成されている。
【0073】
排気口開閉部32は、翼構造体部分112における排気口15の近傍に設けられている。そして、排気口開閉部32は、排気口15を塞ぐ排気側蓋部材32aと、この排気側蓋部材32aを回転自在に支持する回転軸32bとを備え、排気口15を開閉可能に構成されている。排気側蓋部材32aは、翼構造体部分112において回転軸32bを介して揺動自在に設置されている。そして、排気側蓋部材32aは、例えば、アルミニウム合金等の金属材料で形成された平板状の部材として設けられている。
【0074】
排気側駆動機構34は、排気口開閉部32を開閉駆動する機構として設けられ、回転軸32bに対して回転自在に支持された排気側蓋部材32aを航空機100の飛行方向における後方側(図4及び図5にて矢印Bで示す方向と反対方向)に向かって開口するように駆動するよう構成されている。この排気側駆動機構34は、例えば、電動シリンダを有する駆動機構として、又はリニアモータを有する駆動機構として、或いは油圧シリンダを有する駆動機構として構成されている。そして、図6に示すように、排気側駆動機構34は、上記駆動機構に連動するリンク34aを介して、排気側蓋部材32aを駆動するように構成されている。
【0075】
そして、排気側駆動機構34によって排気口開閉部32が駆動されて排気側蓋部材32aが排気口15を開くように揺動することで、排気口開閉部32は、水平尾翼102の内部を外部に対して開放することになる。一方、排気側駆動機構34によって排気口開閉部32が駆動されて排気側蓋部材32aが排気口15を塞ぐように揺動することで、排気口開閉部32は、水平尾翼102の内部を外部に対して閉鎖することになる。このように、排気口開閉部32は、排気側駆動機構34によって駆動されることで、水平尾翼102の内部を外部に対して開放する位置と閉鎖する位置との間で位置が切り替えられるように構成されている。
【0076】
また、吸気側駆動機構33及び排気側駆動機構34は、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて作動するように構成されている。そして、油圧装置2においては、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて、バックアップ用油圧ポンプ20が起動されるタイミングで、吸気側駆動機構33の作動によって吸気口開閉部31が作動して、吸気口14が開放されるように構成されている。更に、油圧装置2においては、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて、バックアップ用油圧ポンプ20が起動されるタイミングで、排気側駆動機構34の作動によって排気口開閉部32が作動して、排気口15が開放されるように構成されている。
【0077】
上述した油圧装置2においては、第1実施形態の油圧装置1と同様に、第1機体側油圧源105の機能の喪失及び低下が発生すると、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて、電動モータ21の運転が開始され、バックアップ用油圧ポンプ13が起動されてその運転が開始される。そして、アクチュエータ104aに対しては、制御弁109aを介してバックアップ用油圧ポンプ13からの圧油が油室(107a、107b)の一方に供給され、油室(107a、107b)の他方から油が排出されて制御弁109aを介してバックアップ用油圧ポンプ13に吸い込まれて昇圧されることになる。また、アクチュエータコントローラ11aからの指令信号に基づいて制御弁109aの接続状態が切り替えられることで、圧油の供給及び油の排出が行われる油室(107a、107b)の切り替えが行われ、アクチュエータ104aが作動してエレベータ103が駆動される。
【0078】
また、油圧装置2においては、バックアップ用油圧ポンプ20が起動されるタイミングで、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて、吸気側駆動機構33及び排気側駆動機構34が作動する。そして、吸気口開閉部31が吸気側駆動機構33によって駆動されて吸気側蓋部材31aが開口するように揺動し、排気口開閉部32が排気側駆動機構34によって駆動されて排気側蓋部材32aが開口するように揺動する。これにより、吸気口14が開放されるとともに排気口15が開放されることになる。
【0079】
そして、油圧装置2においては、上記のように、バックアップ用油圧ポンプ20が起動されたタイミングで吸気口14が開放されることで、水平尾翼102において高圧側となるこの水平尾翼102の下面側に配置された吸気口14から水平尾翼102の外部の空気が流入することになる。そして、同じタイミングで排気口15が開放されることで、水平尾翼102において低圧側となるこの水平尾翼102の上面側に配置された排気口15から水平尾翼102の内部の空気が流出することになる。このように、水平尾翼102の外部の低温の空気が吸気口14から水平尾翼102の内部に流入するとともに、水平尾翼102の内部の空気が排気口15から外部へと流出する空気の流れが形成されることになる。即ち、図6において、二点鎖線で図示する矢印Hで示す空気の流れが形成されることになる。
【0080】
よって、油圧装置2においては、第1実施形態の油圧装置1と同様に、バックアップ用油圧ポンプ20、電動モータ21及び使用されている油にて発生して翼構造体部分112の内部の空気へと伝達された熱量は、吸気口14から水平尾翼102の外部の空気が流入して吸気口15から水平尾翼102の内部の空気が流出する空気の流れ(二点鎖線の矢印Hで示す空気の流れ)に伴って、水平尾翼102の外部へと抜熱されることになる。即ち、水平尾翼102の外部の低温の空気が水平尾翼102の内部へ供給され、水平尾翼102の内部の高温の空気が水平尾翼102の外部に排出されることになる。これにより、翼構造体部分112の内部を通過して流動する空気を介して油圧装置1が冷却され、バックアップ用油圧ポンプ20、電動モータ21及び使用されている油が冷却され、それらの温度上昇が抑制されることになる。
【0081】
以上説明した本実施形態によると、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。即ち、本実施形態によると、機体側油圧源(105、106)の機能の喪失時又は低下時であってもアクチュエータ104aを駆動可能であって、装置構成の小型化及び軽量化を図ることができるとともに、装置及び使用される油の温度上昇を抑制することができる、航空機アクチュエータの油圧装置2を提供することができる。
【0082】
更に、油圧装置2によると、吸気口開閉部31において吸気口14を塞ぐ吸気側蓋部材31aが、吸気側駆動機構33によって駆動され、航空機100の飛行方向の前方側に向かって開口する。このため、水平尾翼102の近傍の空気の流れに沿って飛行方向の前方側から吸気口14へと容易に空気を流入させることができる。これにより、水平尾翼102の外部の低温の大気を吸気口14を介して効率よく水平尾翼102の内部へと供給することができる吸気口開閉部31及び吸気側駆動機構33を実現することができる。
【0083】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る航空機アクチュエータの油圧装置3(以下、単に「油圧装置3」ともいう)について説明する。油圧装置3は、第1実施形態の油圧装置1と同様に、航空機100の水平尾翼102の内部に設置され、エレベータ103を駆動する油圧作動式のアクチュエータ104aに対して圧油を供給するように構成されている。
【0084】
図7は、一方の水平尾翼102に設けられたエレベータ103を駆動するアクチュエータ(104a、104b)と、そのうちの一方のアクチュエータ104aに対して圧油を供給するように構成された油圧装置1とを含む油圧回路を模式的に示す油圧回路図であって、第1実施形態の図2に対応する図である。この図7に示すように、油圧装置3は、第1実施形態の油圧装置1と同様の油圧回路形態で構成され、第1機体側油圧源105、リザーバ回路110、制御弁109aに対して接続されている。また、油圧装置3は、油圧装置1と同様に、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて作動するように構成されている。
【0085】
また、油圧装置3は、第1実施形態の油圧装置1と同様に、ポンプユニット13、吸気口14、排気口15、吸気口開閉部16、排気口開閉部17、吸気側駆動機構18、排気側駆動機構19、等を備えて構成されている。但し、油圧装置3は、温度センサ41が更に備えられている点において、第1実施形態の油圧装置1とは構成が異なっている。以下、油圧装置3の説明においては、第1実施形態と構成が異なる点について説明し、第1実施形態と同様に構成される要素については、図面において同一の符号を付すことで、又は同一の符号を引用することで、説明を省略する。
【0086】
温度センサ41は、供給通路105aにおけるバックアップ用油圧ポンプ20の下流側における油の温度を検知可能なように、供給通路105aに接続されたセンサとして設けられている。即ち、温度センサ41は、バックアップ用油圧ポンプ20から供給される圧油として使用される油の温度を検知するように構成されている。そして、油圧装置3においては、温度センサ41での油の温度の検知結果についての信号が、フライトコントローラ12に入力されるように構成されている。
【0087】
また、吸気側駆動機構18及び排気側駆動機構19は、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて作動するように構成されている。そして、フライトコントローラ12は、温度センサ41で検知された油の温度が所定の温度以上の高温である場合に、吸気側駆動機構18及び排気側駆動機構19に対して、吸気口14及び排気口15をそれぞれ開放させるように吸気口開閉部16及び排気口開閉部17をそれぞれ作動させる指令信号を出力する。これにより、油圧装置3においては、温度センサ41での検知結果に基づいて、吸気側駆動機構18及び排気側駆動機構19が作動し、吸気口14及び排気口15が開放されるように構成されている。
【0088】
上述した油圧装置3においては、第1実施形態の油圧装置1と同様に、第1機体側油圧源105の機能の喪失及び低下が発生すると、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて、電動モータ21の運転が開始され、バックアップ用油圧ポンプ13が起動されてその運転が開始される。そして、アクチュエータ104aに対しては、制御弁109aを介してバックアップ用油圧ポンプ13からの圧油が油室(107a、107b)の一方に供給され、油室(107a、107b)の他方から油が排出されて制御弁109aを介してバックアップ用油圧ポンプ13に吸い込まれて昇圧されることになる。また、アクチュエータコントローラ11aからの指令信号に基づいて制御弁109aの接続状態が切り替えられることで、圧油の供給及び油の排出が行われる油室(107a、107b)の切り替えが行われ、アクチュエータ104aが作動してエレベータ103が駆動される。
【0089】
また、油圧装置2においては、温度センサ41で検知された油の温度が所定の温度以上となったタイミングで、フライトコントローラ12からの指令信号に基づいて、吸気側駆動機構18及び排気側駆動機構19が作動する。そして、吸気口開閉部16が吸気側駆動機構18によって駆動されて吸気側蓋部材16aがスライド移動し、排気口開閉部17が排気側駆動機構19によって駆動されて排気側蓋部材17aがスライド移動する。これにより、吸気口14が開放されるとともに排気口15が開放されることになる。
【0090】
そして、油圧装置3においては、上記のように、温度センサ41で検知された油の温度が所定の温度以上となったタイミングで吸気口14が開放されることで、水平尾翼102において高圧側となるこの水平尾翼102の下面側に配置された吸気口14から水平尾翼102の外部の空気が流入することになる。そして、同じタイミングで排気口15が開放されることで、水平尾翼102において低圧側となるこの水平尾翼102の上面側に配置された排気口15から水平尾翼102の内部の空気が流出することになる。このように、水平尾翼102の外部の低温の空気が吸気口14から水平尾翼102の内部に流入するとともに、水平尾翼102の内部の空気が排気口15から外部へと流出する空気の流れが形成されることになる。
【0091】
よって、油圧装置3においては、第1実施形態の油圧装置1と同様に、バックアップ用油圧ポンプ20、電動モータ21及び使用されている油にて発生して翼構造体部分112の内部の空気へと伝達された熱量は、吸気口14から水平尾翼102の外部の空気が流入して吸気口15から水平尾翼102の内部の空気が流出する空気の流れに伴って、水平尾翼102の外部へと抜熱されることになる。即ち、水平尾翼102の外部の低温の空気が水平尾翼102の内部へ供給され、水平尾翼102の内部の高温の空気が水平尾翼102の外部に排出されることになる。これにより、翼構造体部分112の内部を通過して流動する空気を介して油圧装置1が冷却され、バックアップ用油圧ポンプ20、電動モータ21及び使用されている油が冷却され、それらの温度上昇が抑制されることになる。
【0092】
以上説明した本実施形態によると、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。即ち、本実施形態によると、機体側油圧源(105、106)の機能の喪失時又は低下時であってもアクチュエータ104aを駆動可能であって、装置構成の小型化及び軽量化を図ることができるとともに、装置及び使用される油の温度上昇を抑制することができる、航空機アクチュエータの油圧装置3を提供することができる。
【0093】
更に、油圧装置3によると、温度センサ41によって、使用される油の温度が検知され、この検知結果に基づいて、吸気口14及び排気口15が開放される。このため、油圧装置3にて使用される油の温度の上昇が発生したタイミングにおいて、効率よく吸気口14及び排気口15を開放し、油圧装置3で発生する熱量を水平尾翼102の外部の大気へと速やかに放熱することができる。そして、油圧装置3にて使用される油の温度の上昇が発生していない状態において、水平尾翼102の外部の空気を水平尾翼102内に流入させて水平尾翼102の翼効率の低下を招いてしまうことを防止できる。
【0094】
尚、上記の第3実施形態では、バックアップ用油圧ポンプ20から供給される圧油として使用される油の温度を検知する温度センサ41での検知結果に基づいて、吸気口14及び排気口15が開放される形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。図8は、温度センサについての変形例を説明するための図であって、第1実施形態の図3に対応して示す図である。この図8に示す変形例に係る航空機アクチュエータの油圧装置4においては、ポンプユニット13のバックアップ用油圧ポンプ20に設置されてポンプユニット13の温度を検知する温度センサ42が設けられている。そして、この変形例に係る航空機アクチュエータの油圧装置4は、温度センサ42での検知結果に基づいて、吸気口開閉部16及び排気口開閉部17が作動し、吸気口14及び排気口15が開放されるように構成されている。このように、ポンプユニット13の温度を検知する温度センサ42の検知結果に基づいて吸気口14及び排気口15が開放される形態であってもよい。また、ポンプユニット13とは独立して水平尾翼102内に配置されて水平尾翼102の内部の空気の温度を検知する温度センサ(図示せず)が設けられ、この温度センサでの検知結果に基づいて、吸気口開閉部16及び排気口開閉部17が作動し、吸気口14及び排気口15が開放される形態であってもよい。
【0095】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した第1乃至第3の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができる。例えば、エルロン等のエレベータ以外の舵面を駆動するアクチュエータに対して圧油を供給する航空機アクチュエータの油圧装置を実施してもよい。また、航空機アクチュエータの油圧装置と機体側油圧源とを接続する油圧回路形態については、種々変更して実施してもよい。また、吸気口及び排気口の配置や形状については、種々変更して実施してもよい。また、排気口開閉部、排気口開閉部、吸気側駆動機構及び排気側駆動機構の形態については、種々変更して実施してもよい。また、吸気口開閉部及び排気口開閉部は、航空機の飛行中に一旦開放されると、航空機が着陸するまでは開放されたままの状態に維持されるように構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、航空機の舵面を駆動する油圧作動式のアクチュエータに対して圧油を供給する、航空機アクチュエータの油圧装置として、広く適用することができるものである。
【符号の説明】
【0097】
1 航空機アクチュエータの油圧装置
13 ポンプユニット
14 吸気口
15 排気口
16 吸気口開閉部
17 排気口開閉部
20 バックアップ用油圧ポンプ
21 電動モータ
100 航空機
102 水平尾翼(翼)
103 エレベータ(舵面)
104、104a アクチュエータ
105 第1機体側油圧源(機体側油圧源)
106 第2機体側油圧源(機体側油圧源)
112 翼構造体部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の舵面を駆動する油圧作動式のアクチュエータに対して圧油を供給する、航空機アクチュエータの油圧装置であって、
前記航空機の翼の内部に配置されたポンプユニットと、
前記翼の表面構造を形成する翼構造体部分において貫通形成された孔として設けられ、当該翼の外部の空気を当該翼の内部に供給可能な吸気口と、
前記翼構造体部分において貫通形成された孔として設けられ、当該翼の内部の空気を当該翼の外部に排出可能な排気口と、
前記翼構造体部分に設けられ、前記翼の内部を外部に対して開放する位置と閉鎖する位置との間で位置が切り替えられ、前記吸気口を開閉可能な吸気口開閉部と、
前記翼構造体部分に設けられ、前記翼の内部を外部に対して開放する位置と閉鎖する位置との間で位置が切り替えられ、前記排気口を開閉可能な排気口開閉部と、
を備え、
前記ポンプユニットは、前記航空機の機体側に設置されて前記アクチュエータに対して圧油を供給する油圧源である機体側油圧源の機能の喪失又は低下が発生したときに前記アクチュエータに対して圧油を供給可能なバックアップ用油圧ポンプと、前記バックアップ用油圧ポンプを駆動する電動モータと、を有していることを特徴とする、航空機アクチュエータの油圧装置。
【請求項2】
請求項1に記載の航空機アクチュエータの油圧装置であって、
前記吸気口は前記翼の下面側に配置され、前記排気口は前記翼の上面側に配置されていることを特徴とする、航空機アクチュエータの油圧装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の航空機アクチュエータの油圧装置であって、
前記吸気口開閉部を開閉駆動する吸気側駆動機構を備え、
前記吸気口開閉部は、前記吸気口を塞ぐ第1蓋部材を有し、
前記吸気側駆動機構は、前記第1蓋部材を前記翼構造体部分に沿ってスライド移動させることで、前記吸気口開閉部を開閉駆動することを特徴とする、航空機アクチュエータの油圧装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の航空機アクチュエータの油圧装置であって、
前記吸気口開閉部を開閉駆動する吸気側駆動機構を備え、
前記吸気口開閉部は、前記翼構造体部分において回転軸を介して揺動自在に設置されるとともに前記吸気口を塞ぐ第2蓋部材を有し、
前記吸気側駆動機構は、前記第2蓋部材を前記航空機の飛行方向における前方側に向かって開口するように駆動することを特徴とする、航空機アクチュエータの油圧装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の航空機アクチュエータの油圧装置であって、
前記吸気口開閉部を開閉駆動する吸気側駆動機構と、
前記排気口開閉部を開閉駆動する排気側駆動機構と、
を備え、
前記電動モータ、前記吸気側駆動機構、及び前記排気側駆動機構は、前記舵面の動作を制御する舵面制御装置からの指令信号に基づいて作動することを特徴とする、航空機アクチュエータの油圧装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の航空機アクチュエータの油圧装置であって、
前記バックアップ用油圧ポンプが起動されるタイミングで、前記吸気口開閉部及び前記排気口開閉部が作動し、前記吸気口及び前記排気口が開放されることを特徴とする、航空機アクチュエータの油圧装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の航空機アクチュエータの油圧装置であって、
前記ポンプユニットの温度と、前記翼の内部の空気の温度と、前記バックアップ用油圧ポンプから供給される圧油として使用される油の温度と、のうちの少なくともいずれかの温度を検知する温度センサを備え、
前記温度センサでの検知結果に基づいて、前記吸気口開閉部及び前記排気口開閉部が作動し、前記吸気口及び前記排気口が開放されることを特徴とする、航空機アクチュエータの油圧装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−235844(P2011−235844A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111095(P2010−111095)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】