説明

航空機作業車両のリフト用ストッパ装置

【課題】機種により異なる航空機の開口床部の高さとその変位範囲に対応して、昇降体の高さをスムーズに調整する。
【解決手段】車体フレーム21上から航空機の乗降口床部に対応する位置に昇降床を昇降するリフト装置において、昇降位置を維持するストッパ装置46で、伸縮シリンダ53のシリンダチューブ53aに、機種毎の乗降口床部に対応して昇降床15を停止する係合歯群55A〜55Dが形成された係合歯体54と、車体フレーム21に上下方向に揺動自在に設けられて先端部に係合歯群55A〜55Dのラチェット歯55に係脱自在な爪歯57を有する揺動レバー56とを設け、各係合歯群55A〜55Dに、少なくとも乗降口床部の最大高さに対応する上限ラチェット歯と、乗降口床部の最低高さに対応する下限ラチェット歯と、上限、下限ラチェット歯の中央位置に形成された基準ラチェット歯が設けられた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の乗降口や貨物出入口などの開口床部に対応して、昇降体を停止させ、客の乗降や貨物の出し入れなどを行う航空機作業車両のリフト用ストッパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1などに示されるように、航空機用のリフト装置には、安全装置として機械式のストッパ機構が設けられている。このストッパ機構は、リフトシリンダと平行に、無負荷状態で伸縮自在なシリンダ装置が伸縮ガイド用として回動自在に連結され、昇降体側に連結されたシリンダチューブに、ラチェット歯が一定ピッチで形成された係合歯体が長さ方向に取り付けられ、車体側に回動自在に連結された揺動レバーの先端部に、ラチェット歯に噛み合う爪歯が取り付けられ、揺動アームを揺動して爪歯をラチェット歯から離脱可能な解除シリンダが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2007/091461(図20〜図22)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、客の乗降や貨物の出し入れを行う開口床部の高さは、航空機の機種によって異なる。また航空機に積まれた荷物や客の重量変化により、開口床部の高さが変動する。そして、この変動範囲も機種毎に異なっている。
【0005】
従来構造では、ラチェット歯が一定ピッチで形成されているため、開口床部と昇降体とを最初に位置合わせする時に、最適な位置に昇降体を停止できなかったり、また荷や乗員がほとんど下ろされて機体が上昇し開口床部が上限位置近傍まで浮上した時や、荷や乗員が最大限重量近くまで積み込まれて機体が下降し、開口床部が下限位置近傍まで沈降した時に、昇降体を最適な位置に位置合わせできないことがあった。
【0006】
本発明は上記問題点を解決して、機種により異なる航空機の開口部の高さおよび高さ変位範囲に対応して、昇降体の高さをスムーズに調整することができる航空機作業車両のリフト用ストッパ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、
航空機の開口床部に対応して昇降体を昇降移動するリフト装置を具備し、当該リフト装置に、車体フレームと昇降体の間に複数のリンク部材を幅方向の軸心回りに回動自在に連結した平行リンク機構と、当該平行リンク機構を伸縮駆動するリフトシリンダを有する航空機作業車両のリフト用ストッパ装置であって、
昇降体と共に昇降される昇降部材と車体フレームとの間に、伸縮自在な伸縮ガイド体と前記リフトシリンダとをそれぞれ連結し、
前記伸縮ガイド体に、前記昇降部材に連結されたガイド体と、当該ガイド体に出退自在に案内されて車体フレームに連結されたロッドを設け、
前記ガイド体に、係合歯体を伸縮方向に沿って取り付け、
先端部に前記係合歯体のラチェット歯に係脱自在な爪歯を有する揺動レバーを、前記車体フレームに上下方向に揺動自在に設け、
前記揺動レバーと車体フレームの間に、当該揺動レバー上方に引き上げて前記爪歯を前記ラチェット歯から離脱可能な解除シリンダを設け、
前記係合歯体は、航空機の各機種毎の開口床部に対応して、昇降体がそれぞれ停止される前記爪歯の係合部に、それぞれ複数のラチェット歯からなる係合歯群を有し、
前記各係合歯群は少なくとも、各機種毎の開口床部の変動範囲の最大高さに対応する上限ラチェット歯と、各機種毎の開口床部の変動範囲の最低高さに対応する下限ラチェット歯と、当該上限ラチェット歯と下限ラチェット歯の中央部に形成された基準ラチェット歯とを有するものである。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の構成において、
係合歯体の係合歯群の間に、ラチェット歯の切除部を設けたものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、係合歯体に、航空機の機種毎の開口床部の高さに対応して、複数のラチェット歯からなる係合歯群をそれぞれ形成し、係合歯群のラチェット歯を、少なくとも基準位置と上限位置と下限位置とにそれぞれ対応して配置したので、各航空機の機種毎の開口床部に適切に対応する位置に昇降体をそれぞれ停止させることができ、また開口床部が変動した時も、昇降体の高さを最適な位置に調整することができる。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、係合歯体に切除部を形成してラチェット歯の数を減少させることにより、加工コストの低減と軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るリフト用ストッパ装置の実施例を示す側面図である。
【図2】リフト用ストッパ装置の平面図である。
【図3】(a)(b)はラチェット歯を示し、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図4】リフト装置の動作を示す側面図である。
【図5】航空機乗降車両を示す斜視図である。
【図6】航空機乗降車両を示す側面図である。
【図7】航空機乗降車両を示す平面図である。
【図8】ストッパ装置を削除したリフト装置を示す側面図である。
【図9】リフト装置を示す平面図である。
【図10】ラチェット歯の他の実施例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施例1]
本発明に係るリフト用ストッパ装置を具備した航空機乗降車両の実施例を、図面を参照して説明する。
【0013】
この乗降車両は、図5〜図7に示すように、走行装置により前輪11および後輪12を介して路面を走行自在な車両本体13と、この車両本体13にリフト装置14を介して昇降自在に設けられ航空機Mの乗降口(開口床部)Eに接続して乗客を乗り降りさせる昇降床(昇降体)15と、この昇降床15に連結された階段装置16と、車両本体13の後部に配置されて昇降床15に乗降可能な身障者用のリフター17とが具備されている。
【0014】
前記車両本体13は、前後方向に長く形成されて平面視が矩形状の車体フレーム21と、この車体フレーム21の左側に設けられた運転室22とから構成されている。また車両本体13における車体フレーム21の前後左右位置には、車両本体13を地上に支持させて固定する(位置決めする)ためのアウトリガー23が設けられている。
【0015】
昇降床15は、車体フレーム21上にリフト装置14を介して昇降自在に配置されて横断面が矩形枠形の主通路体31と、この主通路体31の前部に出退用油圧シリンダ33により前後方向に出退自在に嵌合された副通路体32とを具備し、副通路体32の前部に上方を覆うフード体34が揺動することにより出退自在に設けられている。
【0016】
前記リフト装置14は、図8および図9に示すように、車両本体13と主通路体31の床体15aとの間に配置されて内側リンク部材41と外側リンク部材42とが水平幅方向の支軸43を介してX字状に連結されたパンタグラフ式の平行リンク機構からなる内外組のリンク支持体44と、このリンク支持体44を上下方向に伸縮させる油圧式リフトシリンダ(伸縮駆動装置の一例)45と、このリンク支持体44の伸縮位置を維持する本発明に係るストッパ装置46とから構成されている。
【0017】
リンク支持体44は、内側リンク部材41と外側リンク部材42のうち、いずれか一方のリンク部材、ここでは内側リンク部材41の上端が主通路体31の床体15aに水平幅方向の上連結軸47により連結されるとともに、下端に設けられた下ガイドローラ48が、車体フレーム21に設けられた下ガイド部材51の溝部内で水平前後方向に転動可能に配置されている。また、外側リンク部材42の下端が車体フレーム21に水平幅方向の下連結軸49を介して連結されるとともに上端に設けられた上ガイドローラ50が主通路体31の床体15a側に設けられた上ガイド部材52の溝部内で水平前後方向に転動可能に配置されている。なお、図8においては、ストッパ装置46を省略している。
【0018】
リフトシリンダ45およびストッパ装置46は、内側リンク部材41の上部間に連結された連結部材40と車体フレーム21との間に連結されている。
前記ストッパ装置46は、図1〜図4に示すように、リフトシリンダ45と並設された伸縮ガイド体として、油圧が供給されずフリー状態の無負荷の伸縮シリンダ53が使用され、内部に潤滑油程度の油量が入れられている。そしてこの伸縮シリンダ53のシリンダチューブ53aの上面で伸縮(軸心)方向に配置された係合歯体54と、伸縮シリンダ53の伸縮ロッド53bと車体フレーム21との連結部で連結ピン53cを介して上下方向に揺動自在に支持され、先端部に係合歯体54に形成されたラチェット歯55に噛合可能な爪歯57を有する揺動レバー56と、伸縮ロッド53bの連結部に立設された支持アーム58と揺動レバー56の遊端部の間に連結され揺動レバー56を上方に引き上げることで爪歯57をラチェット歯55から離脱可能な連結部材60付きの油圧式解除シリンダ59とで構成されている。
【0019】
係合歯体54に形成されたラチェット歯55は、図3,図4に示すように、複数の機種(ここでは4機種)の航空機Mの開口床部である乗降口底部(以下、乗降口という)Eの高さに対応する昇降床15のたとえば4つの高さH1〜H4でそれぞれ係止できるように、ピッチPa〜Pdの係合歯群55A〜55Dが所定位置に形成されている。すなわち、航空機は機種毎に乗降口Eの高さが異なり、さらに機種毎に荷物や乗降客数によっても乗降口Eの高さがそれぞれ変動するため、高さH1〜H4が変動する範囲に対応する部位に複数のラチェット歯55からなる係合歯群55A〜55Dが形成されている。
【0020】
これら各係合歯群55A〜55Dは、対応機種の乗降口Eの高さ変動範囲の中央位置(基準位置)に形成された基準ラチェット歯55mと、各対応機種で荷や乗客をほとんど乗せない変動範囲上限の乗降口Eの高さに対応する上限ラチェット歯55uと、各対応機種で最大の荷や乗客を乗せた変動範囲下限の乗降口Eの最低高さに対応する下限ラチェット歯55dの合計3個がそれぞれのピッチPa〜Pdで形成されている。したがって、係合歯群55A〜55D毎のラチェット歯55u,55m,55dのピッチPa〜Pdは、それぞれ機種毎に異なる変動範囲に対応して形成されることになる。なお、仮想線で示されたラチェット歯は、ラチェット歯を連続して形成した時に、係合歯群55A〜55D間に形成されるもので、通常使用されないものなので、予めラチェット歯を削除して切除部61とすることができ、これにより加工コストの低減と重量の軽減に寄与している。
【0021】
また図10に示すように、各係合歯群55A〜55D毎に、基準ラチェット歯55mと上限ラチェット歯55uとの間に形成された中間上部ラチェット歯55muと、基準ラチェット歯55mと下限ラチェット歯55dとの間に形成された中間下部ラチェット歯55mduとを追加して、合計5個をそれぞれのピッチPa〜Pdで形成している。これら各係合歯群55A〜55Dのラチェット歯55は、機種毎に異なる変動範囲で、強度が許す限り数を多く形成することが望ましく、昇降床15の停止位置を増やすことで、乗降口Eの高さ変動に対応して、昇降床15をスムーズに追従して変位させることができる。
【0022】
上記構成において、ラチェット歯55に爪歯57が係合されて揺動レバー56が下限の戻り防止姿勢で、かつ解除シリンダ59がフリー状態(油圧の出入りが自由状態)にあるときに、リフトシリンダ45の伸展により連結部材40を上昇させると、爪歯57はラチェット歯55に順に移動・係合していくことになり、リンク支持体44の上端が上昇するとともにその上昇位置が維持される。
【0023】
逆に、リンク支持体44を収縮させる場合には、まずリフトシリンダ45を少しだけ伸展させてラチェット歯55に対する爪歯57の係合を解除した後、解除シリンダ59を収縮して揺動レバー56を上方に揺動させ解除姿勢とした後、リフトシリンダ45を収縮させてリンク支持体44の上端を下降させる。
【0024】
上記実施例によれば、係合歯体54に、航空機の機種毎にその乗降口Eの高さH1〜H4に対応して、少なくとも基準、上限、下限の3個のラチェット歯からなる係合歯群55A〜55Dをそれぞれ形成し、係合歯群55A〜55Dでは、各ラチェット歯55u,55m,55dにより、機種毎にその乗降口Eの変動に対応して基準位置と上限位置と下限位置で昇降床15を停止させることができ、昇降床15の高さを最適な位置に調整して、客の乗降をスムーズに行うことができる。
【0025】
また、係合歯体54に切除部を形成してラチェット歯の数を減少させることにより、加工コストの低減と軽量化を図ることができる。
なお、上記実施例では、航空機乗降車両について説明したが、開口部に対して作業したり、荷物の搬入、搬出や他の作業を行う作業車両や荷役車両であってもよい。
【符号の説明】
【0026】
E 乗降口(開口部)
H1〜H4 昇降床の高さ
11 前輪
12 後輪
13 車両本体
14 リフト装置
15 昇降床
16 階段装置
17 リフター
21 車体フレーム
22 運転室
40 連結部材(昇降部材)
41 内側リンク部材
42 外側リンク部材
43 支軸(昇降部材)
44 リンク支持体
45 リフトシリンダ
46 ストッパ装置
47 上連結軸
48 下ガイドローラ
49 下連結軸
50 上ガイドローラ
51 下ガイド部材
52 上ガイド部材
53 伸縮シリンダ(伸縮ガイド体)
53a シリンダチューブ
53b 伸縮ロッド
54 係合歯体
55 ラチェット歯
55A〜55D 係合歯群
55u 上限ラチェット歯
55m 基準ラチェット歯
55d 下限ラチェット歯
56 揺動レバー
57 爪歯
58 支持アーム
59 解除シリンダ
61 切除部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の開口床部に対応して昇降体を昇降移動するリフト装置を具備し、当該リフト装置に、車体フレームと昇降体の間に複数のリンク部材を幅方向の軸心回りに回動自在に連結した平行リンク機構と、当該平行リンク機構を伸縮駆動するリフトシリンダを有する航空機作業車両のリフト用ストッパ装置であって、
昇降体と共に昇降される昇降部材と車体フレームとの間に、伸縮自在な伸縮ガイド体と前記リフトシリンダとをそれぞれ連結し、
前記伸縮ガイド体に、前記昇降部材に連結されたガイド体と、当該ガイド体に出退自在に案内されて車体フレームに連結されたロッドを設け、
前記ガイド体に、係合歯体を伸縮方向に沿って取り付け、
先端部に前記係合歯体のラチェット歯に係脱自在な爪歯を有する揺動レバーを、前記車体フレームに上下方向に揺動自在に設け、
前記揺動レバーと車体フレームの間に、当該揺動レバー上方に引き上げて前記爪歯を前記ラチェット歯から離脱可能な解除シリンダを設け、
前記係合歯体は、航空機の各機種毎の開口床部に対応して、昇降体がそれぞれ停止される前記爪歯の係合部に、それぞれ複数のラチェット歯からなる係合歯群を有し、
前記各係合歯群は少なくとも、各機種毎の開口床部の変動範囲の最大高さに対応する上限ラチェット歯と、各機種毎の開口床部の変動範囲の最低高さに対応する下限ラチェット歯と、当該上限ラチェット歯と下限ラチェット歯の中央部に形成された基準ラチェット歯とを有する
ことを特徴とする航空機作業車両のリフト用ストッパ装置。
【請求項2】
係合歯体は、係合歯群の間にラチェット歯の切除部が形成された
ことを特徴とする請求項1記載の航空機作業車両のリフト用ストッパ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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