説明

航空機用始動発電装置

【課題】エンジンの低圧軸による一定周波数発電と、高圧軸による電気式スタートとを1台で行うことにより、装置の簡素化、コストダウンを実現できる航空機用始動発電装置を提供する。
【解決手段】航空機用始動発電装置1は、スタータと発電機を兼ねる電気式回転機26、無段変速機25、エンジン10の高圧軸7に連結される高圧側クラッチ27、および低圧軸8に連結される低圧側クラッチ28を備え、スタート時は回転機26が高圧側クラッチ27を介して高圧軸7を駆動し、エンジン10が自立運転に入った後は低圧軸8が低圧側クラッチ28および無段変速機25を介して回転機26を一定回転数で駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機エンジンに連結されて、エンジン・スタータおよび発電機を兼ねる航空機用始動発電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来型の航空機用発電装置は、二軸型ジェットエンジンの高圧軸で駆動されていたが、航空機の電気化進展に伴い発電容量が増大し、低エンジン出力時(地上アイドル、降下中等)にエンジンストールが発生するリスクが増大してきた。今後、エンジンの高バイパス化が進むと、このリスクはますます高まると考えられる。これを回避するために、低圧軸で駆動される発電装置が計画されたが、高圧軸の回転数範囲1:2程度に対し、低圧軸の回転数範囲1:5となり、従来型のIDG(Integrated Drive Generator:エンジン回転数が変動しても一定周波数発電が可能なように無段変速機を内蔵した駆動機構一体型発電装置で、CF(Constant Frequency)方式ともいう。)や、VF(Variable Frequency)方式では対処できない。よって、この問題に対処するためトラクションドライブ無段変速機を使用した新方式の低圧軸装着型IDG(低圧軸装着型IDG)が提案され、航空機の電気化推進に寄与している(特願2009-026220 参照)。なおこの場合、IDGなので一定周波数(CF)の電力が供給される。
【0003】
一方、航空機の電気化推進のもうひとつのキーテクノロジーとして、従来の圧縮空気式に代わる電気式スタータがあるが、エンジン・スタート時以外は発電機として作動するスタータ・ジェネレータ(始動・発電機)として1人2役をこなし、軽量化・コストダウンに寄与している。なお、この場合、圧縮機は高圧軸によって駆動されるので、エンジンをスタートさせるには、このスタータ・ジェネレータを高圧軸に接続する必要があり、やはり、エンジンストールの問題がある。また、発電周波数はVFである。
【0004】
さらに、前記従来型のIDGをスタータ・ジェネレータ化する案も提示されているが(特許文献1〜5)、いずれも高圧軸装着を前提としており、低圧軸装着には対応できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−38902号公報
【特許文献1】米国特許第3274855号明細書
【特許文献1】米国特許第3786696号明細書
【特許文献1】米国特許第4315442号明細書
【特許文献1】英国特許第1199145号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
航空機のさらなる電動化を進めるに当り、上述のように高圧軸からの馬力抽出の限界およびエンジンスタートの必要上、1 台は高圧軸駆動のスタータ・ジェネレータ、1 台は低圧軸駆動の低圧軸装着型IDGとする案があるが、VFとCFが混在する、異なる2種類の装置を用意する必要がある、という問題点があり、航空機電源システムの複雑化、補用品の増加、コストの増大を招く。
【0007】
一方、低圧軸装着型IDGをスタータ・ジェネレータ化し高圧軸に配置することで、CF化し、装置も共用することも考えられるが、このままではスタート時にトラクションドライブが低速で大トルクを伝達することになり、停止状態からスタートするときの接触面焼き付きや表面疲労が発生するため、実用困難である。
【0008】
本発明は上記課題の解決をめざし、エンジンの低圧軸による一定周波数発電と、高圧軸による電気式スタートとを1台で行うことにより、装置の簡素化、コストダウンを実現できる航空機用始動発電装置およびこの装置を制御する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の航空機用始動発電装置は、航空機用の二軸型ガスタービンエンジンに使用される装置であって、スタータと発電機を兼ねる電気式回転機、無段変速機、前記エンジンの高圧軸に連結される高圧側クラッチ、および低圧軸に連結される低圧側クラッチを備え、スタート時は前記回転機が前記高圧側クラッチを介して前記高圧軸を駆動し、前記エンジンが自立運転に入った後は前記低圧軸が前記低圧側クラッチおよび前記無段変速機を介して前記回転機を一定回転数で駆動する。
【0010】
この構成によれば、エンジンの低圧軸による一定周波数発電と、高圧軸による電気式スタートとを1台の回転機で行うことにより、装置の簡素化、コストダウンを実現できる。また、エンジンスタート時は、回転機が高圧軸のみを駆動してエンジンをスタートさせる一方で、低圧側クラッチは空転するので、低圧軸は駆動されない。したがって、低圧軸に連結される巨大なファンのような負荷による大きな抵抗の発生を避けることができるので、スタート時の所要動力が低減される。
【0011】
本発明において、前記高圧側クラッチは、前記高圧軸が第1回転速度に達したとき遮断され、前記低圧側クラッチは、前記高圧軸が前記第1回転速度よりも高い第2回転速度に達したときに接続されるのが好ましい。この構成によれば、回転機をスタータとして使用するスタート時に高圧軸の回転速度が上昇する際に、第1回転速度で回転機がカットオフされたのち第2回転速度で低圧側クラッチが接続されて回転機が発電機として駆動され始める。したがって、高圧軸と低圧軸とが干渉することはないので、回転機をスタータ動作から発電機動作に円滑に切り換えることができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、前記回転機の一端部と前記高圧側クラッチとが第1のギヤ列を介して連結され、前記回転機の他端部と前記低圧軸とが第2のギヤ列および前記無段変速機を介して連結される。第1および第2のギヤ列のそれぞれにおける適切なギヤ比の設定により、スタート時に、高圧側クラッチが遮断されたのち低圧側クラッチが接続される動作を容易に実行できる。
【0013】
本発明において、前記第1のギヤ列と第2のギヤ列を、前記回転機の一端部の軸方向外方と他端部の軸方向外方とに配置することができる。これにより、回転機の両側に第1のギヤ列と第2のギヤ列が配置されるので、回転機の回りのスペースを有効利用できる。
【0014】
このような第1ギヤ列と第2ギヤ列の配置において、前記無段変速機と前記低圧軸との間に前記低圧側クラッチを配置するか、または前記無段変速機と前記第2ギヤ列との間に前記低圧側クラッチを配置することができる。
【0015】
本発明において、さらに、前記回転機、前記無段変速機、前記高圧側クラッチ、前記低圧側クラッチ、第1のギヤ列および第2のギヤ列を収納するハウジングを備え、前記ハウジングが、前記高圧軸および低圧軸に連結された伝達ギヤ列を収納したギヤボックスに連結されている構成とすることができる。これにより、始動発電装置の全体がハウジング内に収納されてコンパクトな構造となるとともに、このハウジングをギヤボックスに連結することにより、始動発電装置を容易にギヤボックスに取り付けることができる。
【0016】
これとは異なり、前記高圧軸および低圧軸に連結された伝達ギヤ列を収納したギヤボックスに、前記高圧側クラッチ、前記低圧側クラッチ、第1のギヤ列および第2のギヤ列が収納され、前記回転機を収納した回転機ハウジングと前記無段変速機を収納した変速機ハウジングとが、前記ギヤボックスに連結された構成とすることができる。これにより、回転機ハウジングと変速機ハウジングが小型化されるので、他のアクセサリと同列に取り扱って、ギヤボックスに接続できるので、作業性がよい。
【0017】
前記高圧側クラッチと前記低圧側クラッチの少なくとも一方は、ワンウエイクラッチとすることが好ましい。これにより、クラッチ制御手段が不要になり、構造が簡略化される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の始動発電装置によれば、エンジンの低圧軸による一定周波数発電と、高圧軸による電気式スタートとを1台の回転機で行うことにより、装置の簡素化、コストダウンを実現できる。また、エンジンスタート時に、低圧軸に連結される負荷による大きな抵抗の発生を避けることができるので、スタート時の所要動力が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る航空機用始動発電装置のエンジンへの連結状態を示す概略縦断面図である。
【図2】同実施形態に係る航空機用始動発電装置を示す概略縦断面図である。
【図3】同航空機用始動発電装置に含まれるトラクションドライブ無段変速機を示す概略縦断面図である。
【図4】同航空機用始動発電装置のスターターモード時を示す概略縦断面図である。
【図5】同航空機用始動発電装置の発電モード時を示す概略縦断面図である。
【図6】同航空機用始動発電装置の各軸の回転速度の時間推移を示す特性図である。
【図7】本発明の第2実施形態の航空機用始動発電装置を示す概略縦断面図である。
【図8】本発明の第3実施形態の航空機用始動発電装置を示す概略縦断面図である。
【図9】本発明の第4実施形態の航空機用始動発電装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の始動発電装置1は、図1に示すような航空機用のエンジン10に補機として使用される。このエンジン10は、ガスタービンエンジンの一種であるジェットエンジンである。この例では、エンジン10は2軸型のターボファンエンジンであり、圧縮機2、燃焼器3、高圧タービン4および低圧タービン5を備えている。高圧タービン4は高圧軸7を介して圧縮機2に連結されて、圧縮機2を駆動する。低圧タービン4は出力用であり、低圧軸8を介して、負荷であるファン9を回転させる。
【0021】
高圧軸7および低圧軸8には、補機用の出力取出しギヤ列11を介して、高お2,13はエンジン・アクセサリ・ギヤボックス15に連結され、このギヤボックス15に収納された伝達ギヤ列16を経て、高圧側入力軸21と低圧側入力軸22にそれぞれギヤ連結されている。
【0022】
1.本装置(TDSG:Traction Drive starter Generator)1は、図2に示すように、トラクションドライブ無段変速機25、スタータと発電機を兼ねる電気式の回転機26、2つのワンウェイ・クラッチ27,28、2箇所の入力軸21,22、これらを繋ぐ第1および第2のギヤ列30,31およびこれらを収容するハウジング33を主な構成要素とする。ハウジング33が、図示しないボルトのような締結部材によりギヤボックス15に連結されている。回転機26の回転軸29は、回転機26の両端面26a、26bから軸方向の両側に突出しており、第1ギヤ列である増速ギヤ列30が回転軸29の一端部29aに接続され、第2ギヤ列であるアイドラギヤ列31が、回転軸29の他端部29bに接続されている。こうして、増速ギヤ列30とアイドラギヤ列31を回転機26の両側、つまり軸方向の一方の外方と他方の外方に配置することで、ハウジング33内のスペースのバランスよい利用を図っている。
【0023】
増速ギヤ列30は、回転機26と高圧側クラッチ27との間に接続され、アイドラギヤ列31は、回転機26と無段変速機25の間に接続されている。無段変速機25は低圧側クラッチ28に接続されている。
【0024】
2.エンジン10の高圧(HP)軸7に接続される高圧側入力軸(HP入力軸) 21は、高圧側ワンウエイ・クラッチ(スプラグ式、ローラー式等)27のインナーレース27aと繋がる。高圧側ワンウエイ・クラッチ(以下、HPクラッチという)27はインナーレース27a側の方が高速のときに空転する向きに設定されており、エンジンが自立運転に入って回転数が上昇すると自動的に遮断されて空転する。エンジン10の低圧(LP)軸8に接続される低圧側入力軸(LP入力軸) 22は、低圧側ワンウエイ・クラッチ28のアウターレース28bと繋がる。低圧側ワンウエイ・クラッチ(以下、LPクラッチという)28も、インナーレース28a側のほうが高速のときに空転する向きに設定されており、エンジン回転数が低いスタート時に自動的に遮断されて空転する。HPクラッチ27のアウターレース27bは、増速ギヤ列30を介して回転機26の回転軸29の一端部29aに接続されている。
【0025】
3.始動発電装置1には始動制御装置61が設けられている。この始動制御装置61は、エンジン10を停止状態から起動するための装置であり、モータ制御回路62およびスタータ制御回路63を備えている。モータ制御回路62は、
スタータモードにおいて、外部の電源または航空機搭載のAPU(補助動力源)等である電源35からの電力を調整して回転機26に供給し、発電モードにおいて、回転機からの発電電力を調整して外部の電気負荷36に供給する。スタータ制御回路63は、高圧軸回転センサ65から入力される高圧軸回転速度に基づき、モータ制御回路62を制御するとともに、無段変速機25の制御器50を制御して、スタートモードで無段変速機25の減速比を最大値に固定させる。モータ制御回路62は、スタータモードで、予め設定された回転数上昇パターンで回転機26の回転速度を上昇させることにより、エンジン10を起動する。
【0026】
4.エンジンスタート時は、回転機26は電源35からモータ制御回路62を介して給電されてスタータ・モーターとして作動し、HP入力軸21を経由して図1のエンジン10のHP軸7を回転させ、エンジン10をスタートする。図2の高圧軸回転センサ65からの回転速度信号に基づきHP軸7が一定回転に達したことがわかると、回転機26は、モータ制御回路62によって給電が停止され、徐々に減速して停止する(スタータ・カットオフ)が、このときまでにエンジン10は自立運転しているので、HP軸7の回転数は上昇し続ける。こうなるとHPクラッチ27は、インナーレース27aの方がアウターレース24bよりも高速になるので、自動的に遮断されて、アウターレース24bが空転する。(スタータモード)
【0027】
5.図1のエンジン10の回転、すなわちHP軸7の回転がさらに上昇するにつれ、LP軸(ファン軸)8の回転が上昇し始める。LP入力軸22は、前述のとおり、図2のLPクラッチ28のアウターレース28bに繋がっている。一方、回転機26は、アイドラギヤ列31およびトラクションドライブ無段変速機25を経由して、LPクラッチ28のインナーレース28aに繋がっている。具体的には、アイドラギヤ列31がトラクションドライブ無段変速機25の出力側に連結され、この変速機25の入力側がLPクラッチ28のインナーレース28aに繋がっている。このとき、アウターレース28bの方がインナーレース28aよりも高速なので、LPクラッチ28は遮断状態にある。
【0028】
6.上記4項でスターター・カットオフ後は、回転機26の回転低下とともにLPクラッチ28のインナーレース28aの回転も低下する。一方、5項でLPクラッチ28のアウターレース28bの回転は上昇していくので、両者が一致したところでLPクラッチ28が自動的に接続状態となり、エンジン10のLP軸8で回転機26が駆動され始める。
【0029】
7.このとき、図3に示すように、スタータ制御回路63からの指令を受けた制御器50により、トラクションドライブ無段変速機25は最大減速モード(入力側に対し、出力側の速度が最低)となっている。上記5〜7項をトランジェント・モードと称す。
【0030】
トラクションドライブ無段変速機25は、ダブルキャビティ型であり、各キャビティ41の軸方向外側に一対の入力ディスク42,42が配置され、軸方向内側に一対の出力ディスク43,43が配置されている。入力ディスク42は入力軸45に連結され、出力ディスク43は出力軸46に連結されている。入力ディスク42と出力ディスク43とは、その間に配置されたパワーローラ48により、潤滑油の流体摩擦を利用して回転連結される。パワーローラ48は周方向に間隔を空けて複数個が配置される。出力軸46には出力ギヤ47が結合されており、この出力ギヤ47が図1のアイドラギヤ列31に連結された中間ギヤ51に接続されている。図3のパワーローラ48の姿勢は制御器50によって制御され、入出力ディスク42,43間の速度比が無段で変更される。最大増速モードでは、パワーローラ48は図3に二点鎖線で示す姿勢となる。
【0031】
8.図1のエンジン10のLP軸8の回転速度が上昇し、グランドアイドル(地上運転時のアイドリング状態)に達すると、図2の無段変速機25による速度制御が開始され、制御器50により、LP軸8の回転速度が変化しても回転機26の回転速度が一定(例えば24000rpm)となるよう無段変速機25の出力軸47の回転速度が制御される。回転機26が所定速度に達すると発電が開始され、LP入力軸22の回転速度に拘らず一定周波数(発電機が2極の場合400Hz )の交流電力が外部の電気負荷36に供給される。(ジェネレータ・モード)なお、このモードにおいてはHPクラッチ27のアウターレース速度はインナーレース速度より遅くなるよう増速ギヤ列30のギヤ比が設定されているので、HPクラッチ27は空転しており、したがって、始動発電装置1は、LP軸8のみから駆動され、HP軸7の作動に影響を及ぼさない。
【0032】
つぎに、始動発電装置1の動作を図4および図5にしたがって説明する。図4および図5では無段変速機25および回転機26から遮断されている部分を破線で示している。
【0033】
図4に示すエンジンスタート時(スタータ・モード)は回転機26がHP軸7のみを駆動してエンジンをスタートさせる。このとき、LPクラッチ28は空転するので、LP軸8は駆動されない。したがって、LP軸8に連結された巨大なファン9の回転による大きな抵抗の発生を避けることができるので、スタート時の所要動力が低減される。
【0034】
エンジン自立後は、図5に示すように、LP軸8からLP入力軸22、LPクラッチ28、無段変速機25およびアイドラギヤ列31を介して回転機26を駆動するが(ジェネレータ・モード)、HPクラッチ27は空転しているので、HP入力軸21とLP入力軸22とが干渉することはない。上記となるようなギヤ比の1例として、HP入力軸21側から見て、増速ギヤ列30(図示は遊星歯車であるが、並行軸でもよい)=1:3 、アイドラギヤ列31=1.34:1 (減速)、中間ギヤ51と変速機出力ギヤ47の間=2:1(減速)、無段変速機25の変速比1/√5 (減速)〜√5 /1(増速)(全変速比1:5 )とする。
【0035】
なお、上記を実施するため、無段変速機25の変速比は、スタータモード、およびトランジェントモードにおける変速制御開始までは、前述のとおり、スタータ制御回路63によって常に最大減速(LP入力側からみて出力ギヤ47が1/√5 となるLoモード(図3の実線))に固定される。
【0036】
図2の各軸の各モードにおける速度関係の一例を、図6に示す。
a)スタータモードにおいて、図2のスタータ制御回路63からの指令により、モータ制御回路62が作動して、回転機26をモーターとして作動させ、HP軸7を駆動し始める。モーター回転とともに、図6に示すHP軸回転数Aも上昇し、エンジンは自立運転を始める。
【0037】
b)HP軸7が例えば第1回転数である5500rpm に達すると、高圧軸回転センサ65からの回転数検出信号を受けたスタータ制御回路63が作動し、モータ制御回路62から回転機(モータ)26への給電がカット・オフ(給電停止)される。このときモーター回転数Bは16500rpm(ギヤ比より)である。モーター・カットオフに伴い、HPクラッチ・アウターレース速度Cが低下し、一方でHP軸速度Aは上昇するので、HPクラッチ27は空転する。
【0038】
c)LPクラッチ・インナーレース速度Dは、9項で示したギヤ比の関係および無段変速機25がLoモードに固定されていることより、エンジンスタート後から4000rpm (モーター・カットオフ)まで、モーター回転数Bに連動して回転数が上昇する。その後はモーター・カットオフにより他の軸と共に回転は急落する。
【0039】
d)LP軸回転数E(ファンに直結)はHP軸回転数Aに連動して上昇していく。これがLPクラッチ・インナーレース速度Dと合致したとき、例えばHP軸7が第2回転数である7500rpmに達したとき、LPクラッチ28が自動的に接続される。それ以降は、LP側入力軸22が無段変速機25を介して回転機26を駆動し始める。他方、HPクラッチ・アウターレース速度CはHP軸速度Aよりも十分低いので、HPクラッチ27は空転する。
【0040】
e)HP軸速度Aはエンジンがグランドアイドルになると静定する(9000rpm)。他軸も同様に静定する。
【0041】
f)静定後、図3のトラクションドライブ制御器50が起動し、図2の回転機26を一定回転数(24000rpm)に制御する。無段変速機25は、LP側軸回転数Eの4000rpm 〜20000rpmに対し、発電機(回転機)回転数Bを一定になるよう制御できる。回転機26は2極なので発電周波数は400Hzである。連動してHPクラッチ・アウターレース速度Cも8000rpm まで上昇するが、グランドアイドル時のHP軸回転数Aの9000rpm より遅いため、HPクラッチ27は空転したままである。
【0042】
g)その後テイクオフに移ると、LP軸速度Eは20000rpmまで上昇するが、無段変速機25の速度制御範囲内なので、発電機速度である回転機速度Bは24000rpm一定に保たれている。一方、HP軸速度Aは15000rpmまで上昇するが、HPクラッチ・アウターレース速度Cは回転機速度Bに連動して一定の8000rpm に維持されるので、HPクラッチ27は空転のままである。
【0043】
異常発生時は、無段変速機25は制御器50によってLoモードに固定され、各回転軸速度を最低にし、安全を図る。
【0044】
図7の第2実施形態に示すように、クラッチ27,28、ギヤ列30,31はエンジン・アクセサリ・ギヤボックス15に内蔵し、無段変速機25と回転機26を、このギヤボックス15の外に配置して、それぞれ別々の変速機ハウジングH25と回転機ハウジングH26に収納し、両ハウジングH25,H26をギヤボックス15に連結する構造として、他のアクセサリと同列で扱ってもよい。
【0045】
また、図8の第3実施形態に示すように、LPクラッチ28をアイドラギヤ列31と、無段変速機25、詳しくはその中間ギヤ51との間に設けてもよい。その場合、LPクラッチ28のインナーレース28aがアイドラギヤ列31に連結され、アウターレース28bが中間ギヤ51に連結される。
【0046】
図9の第4実施形態では、発電容量を大きくするために、本発明の始動発電装置(TDSG)1を複数、例えば2台設けている。両装置1,1からの発電出力を接触器55,56を介して電路57,58に供給する。一定周波数(CF)の電流が流れる両電路57,58間には遮断器60が接続されている。所要電力の大きさに応じて、接触器55,56を開閉することにより、一方の装置1の電力のみを使用する場合と、両方の装置1の電力を使用する場合とに切り換える。
【0047】
以上説明した本発明のポイントをまとめると、つぎのとおりである。
(1)航空機のエンジン・スタータと発電機を兼用する始動発電装置1であって、図2に示したスタータと発電機を兼ねる回転機26、変速機(例えばトラクションドライブ無段変速機)25、高圧側クラッチ27および低圧側クラッチ28を備え、エンジン10の高圧系と低圧系のそれぞれと結合し、エンジン・スタート時はモータ26が直接高圧系を駆動し、エンジン10が自立運転に入ったあとはエンジン10の低圧系が無段変速機25を駆動し、この無段変速機25がエンジン10からの入力回転数にかかわらず発電機26を一定回転速度で駆動する。
【0048】
(2)上記(1)となるように2つのクラッチ27,28、増速ギヤ列30およびアイドラギヤ列31を配置する。(高圧側クラッチ27はエンジン高圧軸7側が高速回転のとき空転し、低圧側クラッチ28は装置1側が高速回転のとき空転するように設定する。)
【0049】
(3)スタート時は、制御器50により、無段変速機25が常にLoモード(最大減速モード)となるよう制御する。
(4)スタート時は常にエンジン低圧軸8の回転速度が装置1側よりも遅く、エンジン自立後は常にエンジン高圧軸7が装置1側よりも速い回転速度となるように、第1ギヤ列30および第2ギヤ列31の各ギヤ比を選定して各要素間を繋ぐ(無段変速機25はLoモード)。これにより、スタート時はファン9を回転させず、エンジン自立後はコア(高圧軸7)に影響を及ぼさない。
【0050】
(5)回転機26の両側に、高圧側入出力ギヤ(増速ギヤ列30)と低圧側入出力ギヤ(アイドラギヤ列31)とを分けて配置して、スペースをバランスよく利用した。
【0051】
(6)両クラッチ27,28はアクセサリ・ギヤボックス15内に配置してもよい(図7)。
(7)無段変速機25と回転機26は別々のハウジングH25,H26に収納してもよい(図7)。
(8)非常時は必ず無段変速機25がLoモードとなるように制御する。
【0052】
以上説明したとおり、本発明によれば、図1の航空機エンジン10の図2に示す低圧軸8による一定周波数発電と、高圧軸7による電気式エンジンスタートが1台で行えるので、複数機器の搭載が必要でなくなる結果、航空機の電気システムの簡素化、コストダウンが実現する。さらに、全機を一定周波数発電で統一でき、航空機の電源システムの簡素化ができる。
また、エンジンスタート時は回転機26が高圧軸21のみを駆動してエンジン10をスタートさせ、このとき、低圧側クラッチ28は空転するので、低圧軸22は駆動されない。したがって、低圧軸22に連結される巨大なファン9(図1)のような負荷による大きな抵抗の発生を避けることができるので、スタート時の所要動力が低減される。
上記を通じ航空機の電動化を促進できる。
【0053】
なお、無段変速機として、上記無段変速機25以外の、例えばベルト式変速機を使用してもよい。また、高圧側クラッチ27および低圧側クラッチ28の一方または両方として、ワンウエイクラッチに代えて、多板クラッチのような、外部からオン・オフ制御する非自動型のクラッチを使用してもよい。
【0054】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。例えば、本発明は、ターボプロプエンジンとして使用するガスタービンエンジンにも適用できる。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1 始動発電装置
7 高圧軸
8 低圧軸
10 エンジン
15 ギヤボックス
16 伝達ギヤ列
21 高圧側入力軸
22 低圧側入力軸
25 トラクションドライブ無段変速機
26 回転機
27 高圧側ワンウエイ・クラッチ
28 低圧側ワンウエイ・クラッチ
30 増速ギヤ列(第1ギヤ列)
31 アイドラギヤ列(第2ギヤ列)
33 ハウジング
H25 変速機ハウジング
H26 回転機ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機用の二軸型ガスタービンエンジンに使用される装置であって、スタータと発電機を兼ねる電気式回転機、無段変速機、前記エンジンの高圧軸に連結される高圧側クラッチ、および低圧軸に連結される低圧側クラッチを備え、スタート時は前記回転機が前記高圧側クラッチを介して前記高圧軸を駆動し、前記エンジンが自立運転に入った後は前記低圧軸が前記低圧側クラッチおよび前記無段変速機を介して前記回転機を一定回転数で駆動する航空機用始動発電装置。
【請求項2】
請求項1において、前記高圧側クラッチは、前記高圧軸が第1回転速度に達したときに遮断され、前記低圧側クラッチは、前記高圧軸が前記第1回転速度よりも高い第2回転速度に達したとき接続されるように設定されている航空機用始動発電装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記回転機の一端部と前記高圧側クラッチとが第1のギヤ列を介して連結され、前記回転機の他端部と前記低圧軸とが第2のギヤ列および前記無段変速機を介して連結されている航空機用始動発電装置。
【請求項4】
請求項3において、前記第1のギヤ列と第2のギヤ列が、前記回転機の一端部の軸方向外方と他端部の軸方向外方とに配置されている航空機用始動発電装置。
【請求項5】
請求項3または4において、前記無段変速機と前記低圧軸との間に前記低圧側クラッチが配置されている航空機用始動発電装置。
【請求項6】
請求項3または4において、前記無段変速機と前記第2ギヤ列との間に前記低圧側クラッチが配置されている航空機用始動発電装置。
【請求項7】
請求項3から6のいずれか一項において、さらに、前記回転機、前記無段変速機、前記高圧側クラッチ、前記低圧側クラッチ、第1のギヤ列および第2のギヤ列を収納するハウジングを備え、前記ハウジングが、前記高圧軸および低圧軸に連結された伝達ギヤ列を収納したギヤボックスに連結されている航空機用始動発電装置。
【請求項8】
請求項3から6のいずれかにおいて、前記高圧軸および低圧軸に連結された伝達ギヤ列を収納したギヤボックスに、前記高圧側クラッチ、前記低圧側クラッチ、第1のギヤ列および第2のギヤ列が収納され、前記回転機を収納した回転機ハウジングと前記無段変速機を収納した変速機ハウジングとが、前記ギヤボックスに連結されている航空機用始動発電装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項において、前記高圧側クラッチと前記低圧側クラッチの少なくとも一方がワンウエイクラッチからなる航空機用始動発電装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−117437(P2011−117437A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142267(P2010−142267)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)