説明

舶用制御装置

【課題】 舶用エンジンとプロペラとの結合に弾性継手を使用した駆動系における共振現象を低減させる。
【解決手段】 操縦装置12からの速度指令と、エンジン4からの実回転数とが、ガバナコントローラ2に入力され、ガバナコントローラ2は、速度指令と実回転数とからエンジン4への燃料の供給量を算出する。エンジン4とプロペラ6とを結合する弾性継手10よりもプロペラ6側の回転数を駆動側回転数としてガバナコントローラ2に入力し、速度指令、実回転数及び駆動側回転数に基づき、共振現象の影響を低減させて、燃料の供給量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舶のエンジンへの燃料の供給量を制御する舶用制御装置に関し、特に、エンジンとプロペラとの接続に弾性継手が使用されている舶用のものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に開示されているように、エンジンとプロペラとの接続に弾性継手を使用したものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】2011−1055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術によれば、弾性継手を使用していることに起因して、プロペラの駆動経路において共振が発生することがあった。
【0005】
本発明は、弾性継手を使用した駆動系における共振現象を低減させることができる舶用制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の舶用制御装置には、操縦装置からの速度指令と、エンジンからの実回転数とが入力される。舶用制御装置は、少なくとも前記速度指令と前記実回転数とから前記エンジンへの燃料の供給量を算出する。この舶用制御装置は、弾性継手よりもプロペラ側の回転数を駆動側回転数として入力し、少なくとも前記速度指令、前記実回転数及び前記駆動側回転数に基づき、前記燃料の供給量を算出する。エンジンからの実回転数は、例えばエンジンに設けた回転数検出手段によって検出され、駆動側回転数は、例えば弾性継手よりもプロペラ側に設けられた回転数検出手段によって検出される。
【0007】
このように構成すると、共振の原因となっている弾性継手の前段側での回転数であるエンジンの実回転数と、弾性継手の後段側での回転数である駆動側回転数とに基づき燃料の供給量を算出し、燃料の供給量を制御することが可能となるので、共振を低減させることができる。
【0008】
前記弾性継手を前記エンジンと減速機との間に配置することができる。減速機はプロペラ側に接続されている。この場合、前記弾性継手の出力回転数が前記駆動側回転数として舶用制御装置に入力される。前記駆動側回転数と前記実回転数とを平均した補正回転数を算出し、この補正回転数と前記速度指令とに基づき前記燃料の供給量を算出する。
【0009】
このように構成すると、駆動側回転数と実回転数との位相差が180度の場合、両者を平均化することによって共振を低減することができ、しかも平均化するための回路構成には、簡単な構成のものを使用することができる。
【0010】
更に、前記実回転数と前記補正回転数とを選択する選択手段を設けることができる。この場合、前記弾性継手を使用した駆動系が共振したとき、前記選択手段によって前記補正回転数が選択され、選択された補正回転数に基づいて前記燃料の供給量が算出される。

【0011】
このように構成すると、共振が発生していない場合には、実回転数に基づいて燃料の供給量を制御することができ、実回転数の変動に即座に反応することができ、制御遅れを低減させることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、弾性継手を使用してエンジンとプロペラとを接続している場合でも、駆動系において発生することがある共振現象を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の1実施形態の舶用制御装置のブロック図である。
【図2】図1の舶用制御装置における実回転数と駆動側回転数とを示す図である。
【図3】図2の実回転数と駆動側回転数との平均値及びその平均値のフィルタ通過値を示す図である。
【図4】図1の舶用制御装置の変形例の一部を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の1実施形態の舶用制御装置は、例えば図1に示すガバナコントローラ2であり、舶に搭載されているエンジン4の燃料供給量をデジタル制御する。エンジン4としては、例えばディーゼルエンジンを使用することができる。エンジン4は、舶に設けられているプロペラ6を駆動するためのものである。
【0015】
プロペラ6は減速機8に結合されており、この減速機8は弾性継手10を介してエンジン4の出力軸に結合されている。エンジン4、減速機8、プロペラ6及び弾性継手10は、造船メーカーによって異なるメーカー製のものが選択されることがある。この場合、エンジン4、減速機8、プロペラ6及び弾性継手10の相性が悪いと、弾性継手10を使用していることに起因して、プロペラ6の駆動系であるエンジン4、減速機8及びプロペラ6において共振現象が発生する。
【0016】
ガバナコントローラ2には、操縦装置12から例えばデジタル形式で速度指令が供給されている。速度指令は、目標とするエンジン4の回転数を表し、ガバナコントローラ2内のデジタルPID制御回路14に供給される。通常、PID制御回路14には、エンジン4の実回転数も入力される。実回転数を検出するために、例えばエンジン4の出力軸に検出用円板16を取り付け、この検出用円板16に形成された検出子(図示せず)の回転周波数をピックアップ18が検出し、この周波数をガバナコントローラ2内の周波数−速度変換器20によってデジタル回転数に変換して、PID制御回路14に供給している。これら検出用円板16、ピックアップ18及び周波数−速度変換器20が、実回転数検出手段を構成している。
【0017】
PID制御回路14は、速度指令と実回転数との差が零となるように、両者の偏差を求め、偏差に対してPID処理を施して、その処理値を供給燃料量としてエンジン4に供給している。上述したような共振現象が生じた場合に対応するために、PID制御回路14の感度を下げることが考えられる。しかし、感度を下げておくと、共振現象が生じていない場合の燃料供給量の応答性が悪くなり、制御遅れが生じる。また、共振現象を、機械的な共振防止機構によって防止することもできるが、共振防止機構の構成が複雑であり、その設置作業が面倒であり、コスト増も招く。
【0018】
そこで、PID制御の感度を低下させることなく、電気的に共振現象を低減させることが望まれる。図2に符号22で示すのは、実回転数の時間経過に伴う変化で、実回転数に共振が生じていることを表している。同図に符号24で示すのは弾性継手10と減速機8との間で測定した弾性継手10の出力回転数の時間経過に伴う変化で、駆動側回転数の時間経過に伴う変化の一例である。この駆動側回転数は、弾性継手10の出力軸に検出用円板26を取り付け、この検出用円板26に、その回転と共に回転するように形成した検出子(図示せず)を、ピックアップ28で検出することによって弾性継手10の回転周波数を検出し、この回転周波数をガバナコントローラ2内の周波数−速度変換器30によって回転数に変換することによって、検出されている。これら検出用演算26、ピックアップ28及び周波数−速度変換器30が、駆動側回転数検出手段を構成している。
【0019】
実回転数と駆動側回転数との比較から明らかなように、この実施形態では、実回転数と駆動側回転数とにほぼ180度の位相差がある。両者の平均を求めると、図3に符号32で示すように共振の影響を互いに相殺することができる。そこで、図1に示すように実回転数と駆動側回転数とをガバナコントローラ2内の平均化及び判定回路34に供給して、この平均化及び判定回路34内の平均化回路(図示せず)によって実回転数と駆動側回転数の平均化を行って出力し、PID制御回路14に供給している。なお、平均化及び判定回路34では、平均化を行った後、その平均化出力をフィルタ回路によってフィルタリングして、図3に符号36で示すように平滑化を図っている。
【0020】
このように共振現象の影響を除去した回転数をPID制御回路14に供給しているので、燃料供給量に共振現象の影響を低減させることができる。ただし、平均化及びフィルタリングした出力をPID制御回路14に常に供給していると、平均化及びフィルタリングの影響によって、実回転数をPID制御回路14に供給している場合と比較して、応答性が低下する。共振現象は常に発生するものではないので、共振が生じていない状態では実回転数に基づくPID制御によって制御遅れを低減させ、共振が生じた状態では平均値に基づいて共振の影響を低減させた制御を行うことが望ましい。
【0021】
そこで、図1に示すように、選択手段、例えば切換スイッチ38を、周波数−速度変換器20の出力側、平均化及び判定回路34の出力側及びPID制御回路14の入力側の間に設け、周波数−速度変換器20からの実回転数または平均化及び判定回路14からの平均化出力のいずれか選択されたものがPID制御回路14の入力側に供給されるように、切換スイッチ38を切り換えている。
【0022】
この切換は、平均化及び判定回路34内の判定回路が、共振が生じているか否かを判定し、共振が生じていない状態では、周波数−速度変換器20からの実回転数をPID制御回路14に供給し、共振が生じている状態では、平均化及び判定回路34の平均化出力をPID制御回路14に供給するように行う。この判定回路は、例えば、周波数−速度変換器20からの実回転数または周波数−速度変換器30からの駆動側回転数が予め定めた回転数以上になったとき、または実回転数または駆動側回転数の振幅が予め定めた値以上になったとき、共振していると判断する。また、切換スイッチ38は手動で切換可能にすることもできる。
【0023】
このように実回転数と駆動側回転数とを用いているので、PID制御の感度を低下させることなく、しかも機械的な共振防止機構を設置する必要もなく、共振現象を低減させることができる。
【0024】
上記の実施形態では、実回転数と駆動回転数との位相差がほぼ180度であってので、両者の平均値を算出することによって共振の影響を除去したが、位相差が180で無い場合には、実回転数と駆動回転数の一方を可変移相回路に供給して、実回転数と駆動回転数の位相差を位相差検出手段で検出し、この検出手段での検出結果に基づいて、両者の位相差がほぼ180度となるように、移相回路を制御し、制御された移相回路の出力と、実回転数と駆動回転数の他方との平均を算出するように構成することもできる。なお、上記の実施形態では、周波数−速度変換器20からの実回転数と周波数−速度変換器30からの駆動側回転数との位相差のみを問題としたが、実回転数と駆動側回転数との振幅も一致させるようにレベル調整を実回転数及び駆動回転数のいずれか一方または双方に対して行うようにすることもできる。
【0025】
上記の実施形態では、駆動側回転数をピックアップ28の出力である周波数−変換器30に供給することによって求めたが、例えば図4に示すように、ピックアップ28からの出力を周波数−電圧変換器40に供給し、この周波数−電圧変換器40からの出力電圧を、ガバナコントローラ2内の電圧−回転数変換器42に供給して、回転数に変換して平均化及び判定回路14に供給することもできる。同様に、実回転数も周波数−電圧変換器及び電圧−回転数変換器によって検出することもできる。また、上記の実施形態では、ピックアップ18、28を使用して回転周波数を検出したが、ピックアップ18、28に代えてエンコーダ、レゾルバ等の回転数検出手段を使用することもできる。
【符号の説明】
【0026】
2 ガバナコントローラ(舶用制御装置)
4 エンジン
6 プロペラ
10 弾性継手
12 操縦装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操縦装置からの速度指令と、エンジンからの実回転数とが、入力され、
少なくとも前記速度指令と前記実回転数とから前記エンジンへの燃料の供給量を算出する舶用制御装置において、
弾性継手よりもプロペラ側の回転数を駆動側回転数として入力し、少なくとも前記速度指令、前記実回転数及び前記駆動側回転数に基づき、前記燃料の供給量を算出する舶用制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の舶用制御装置において、前記弾性継手が、前記エンジンと減速機との間に配置されており、前記弾性継手の出力回転数を前記駆動側回転数として入力し、
前記駆動側回転数と前記実回転数とを平均した補正回転数を算出し、この補正回転数と前記速度指令とに基づき前記燃料の供給量を算出する舶用制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の舶用制御装置において、前記実回転数と前記補正回転数とを選択する選択手段を設け、前記弾性継手を使用した駆動系が共振したとき、前記選択手段によって前記補正回転数を選択し、選択された補正回転数に基づいて前記燃料の供給量を算出する舶用制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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