説明

船舶エネルギーシステム

【課題】船舶の入港時以降接岸時までの間、補機発電機を駆動する補機用原動機を効率よい領域で運転することにより、補機用原動機の使用する燃料を少なくし、排気ガスを減らすこと。
【解決手段】電気推進器部200aで消費する電力を検出する電力検出手段20と、船内電力母線6に接続され、充放電動作する電力貯蔵装置21と、バウスラスタ300に始動指令を与える始動スイッチ12と、電力検出手段の検出信号が閾値以下になると電力貯蔵装置を充電モードにし、始動スイッチの始動指令により放電モードにし、蓄電している電力を船内電力母線に放電させる制御回路22とを備え、入港時に電気推進器部の推力を下げて推進する際にその消費電力が閾値以下になると制御回路により電力貯蔵装置を補機発電機4−1,4−2から充電させ、その充電動作中に始動スイッチの始動指令を受ける場合、電力貯蔵装置を放電動作させてバウスラスタにその放電電力を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バウスラスタを備えた船舶の推進および船内電力負荷に使用する電力を供給する船舶エネルギーシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶には、入港後タグボートの助けによらずに船体を岸壁までスムーズに移動するためにバウスラスタを備えるようにしたものがある(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
図7はプロペラを主機関で駆動する従来の主機関推進方式の構成図である。
図7において、1はディーゼル機関等の主機関(以降、主機という)であり、主機軸2に推進用プロペラ3を直結して主機1で直接駆動するようになっている。この主機1、主機軸2および推進用プロペラ3からなる部分を主機関推進器部100と称する。
【0004】
−1〜4−nは図示しないディーゼル機関等の補機用原動機により駆動される同期発電機等の補機発電機であり、それぞれ発電機遮断器5−1〜5−nを介して船内電力母線6に給電するように接続されている。7は船内電力負荷であり、負荷遮断器8−1を介して前記船内電力母線6に接続されている。
【0005】
また、この船内電力母線6には他の負荷遮断器8−2、始動装置9を介してバウスラスタ300のモータ10が接続され、このモータ10によってプロペラ11を駆動するように構成されている。バウスラスタとは、船首部に横向きにあけたトンネル部にプロペラを設置したもので、出入港、接岸作業時にプロペラを正転/逆転、増減速することにより、船首の向きを変えることを可能としたものである。なお、12はバウスラスタ300の始動スイッチである。
【0006】
図8は図7のように構成された船舶エネルギーシステムを装備した船舶の入港時におけるタイムチャートであり、(a)は主機1の出力特性を、(b)はバウスラスタ300の負荷特性を、そして(c)は補機発電機4の出力特性をそれぞれ示す。
【0007】
船舶の外洋航行中は、プロペラ3を駆動するために主機関推進器部100を稼働させるが、バウスラスタ300は稼働させない。そして、船舶が港の近くまでくると、操船者は主機1の出力を図8(a)の特性(A)のように急激に低下させて減速させ、その後緩やかに低下させることによって船舶を低出力・低速度で岸壁に向かって推進させる。
【0008】
操船者は船舶が岸壁に近づくとバウスラスタ300を稼働させるために、始動スイッチ12を操作して始動装置9に始動指令を出力し、モータ10によってプロペラ11を駆動する。バウスラスタ300の稼働によって船体は横方向に移動して接岸する。バウスラスタ300が船体の接岸作業時に消費する電力(言い換えれば、バウスラスタ負荷)は、同図(b)の特性(B)のようにバウスラスタ300が始動し始めてから停止するまでの期間生じる。
【0009】
バウスラスタ300以外の負荷である船内電力負荷7による消費電力は外洋航行中および入港後を含めてほぼ一定であるので、補機発電機4の出力は、接岸作業でバウスラスタ300が稼働する直前まではほぼ一定に保たれるが、バウスラスタ300が始動始めてから停止するまでの間、同図(c)の特性(C)のように増加する。
【0010】
このため、補機発電機4を駆動する図示しない補機用原動機のガバナーは、船内電力負荷7の消費電力にバウスラスタ300の消費電力を加算した電力を出力するように燃料供給量を増加させて補機発電機4の入力を増加させるように制御する。なお、以上ではバウスラスタ300の稼働に合わせて2台の補機発電機4の出力を増加するようにガバナー制御するように説明したが、バウスラスタ300の稼働に合わせて補機発電機4の運転台数を調整する様にしても良い。
【0011】
図9はプロペラを主機で駆動する主機関推進方式に替わって、推進モータで駆動する電気推進方式を採用した別の従来例の構成図である。
【0012】
図9において、200は図8の主機関推進器部100に替わって装備された電気推進器部であり、推進モータ13、プロペラ14および推進モータ13を駆動するインバータ15から構成されている(例えば、特許文献2参照)。
【0013】
インバータ15は負荷遮断器18−3を介して船内電力母線6に接続されて推進モータ13を可変速制御しプロペラ14を駆動して船舶を推進させる。なお、この電気推進方式の場合、推進モータ13が大きな電力を消費するので、図7の主機関推進方式に比べて補機発電機4−3を1台増設しているが、その他の構成は図7の場合と同じである。
【0014】
図10は図9のように構成された船舶エネルギーシステムを装備した船舶の入港時におけるタイムチャートであり、(a)は推進モータ13の出力特性を、(b)はバウスラスタ300の負荷特性を、そして(c)は補機発電機4の出力特性をそれぞれ示す。
【0015】
船舶の外洋航行中は、プロペラ14を駆動する推進モータ13の出力は図10(a)のようにほぼ一定である。また、このときバウスラスタ300を稼働させないのでバウスラスタ300の消費電力は同図(b)のようにゼロである。
【0016】
この外洋航行中、補機発電機4は電気推進器部200および船内電力負荷7の各消費電力分を発電すればよいので、補機発電機4を駆動する図示しないディーゼル機関等の補機用原動機はほぼ一定の出力で運転されている。
【0017】
そして、船舶が港の近くまでくると、操船者はインバータ15を制御して推進モータ13の出力を図10(a)の特性(A)のように急激に低下させて減速させ、その後緩やかに低下させることによって船舶を低出力・低速度で岸壁に向かって推進させる。
【0018】
操船者は船舶が岸壁に近づくと始動スイッチ12を操作して始動装置9に始動指令を出力し、バウスラスタ300を始動する。バウスラスタ300の稼働によって船体は横方向に移動して接岸する。バウスラスタ300が船体の接岸作業時に消費する電力(バウスラスタ負荷)は、同図(b)の特性(B)のようにバウスラスタ300が始動し始めてから停止するまでの期間生じる。
【0019】
一方、補機発電機4は、外洋航行中高負荷の電気推進器部200と、低負荷の船内電力負荷7の各消費電力分に見合った発電量を出力すればよいので、出力特性は同図(c)のようにある一定の発電量を出力する。しかし、船舶が港の近くまでくると、推進モータ13の出力を図10(a)の特性(A)のように急激に低下させるので、これに合わせて発電量を急激に下げ、その後は緩やかに下げる。そして船体が岸壁に近づき操船者がバウスラスタ300を始動させると、バウスラスタ300の消費電力分だけ(C)のように発電量を増加させなければならない。
【0020】
前述したように、補機発電機4はディーゼル機関等の補機用原動機によって駆動されているため、発電機の発電量を増減されるたびに図示しないディーゼル補機のガバナーは、燃料供給量を変化するように制御しなければならない。
【特許文献1】特開2002−362492号公報、
【特許文献2】特開2001−251895号公報、
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
図7に示す第1の従来例の場合、船舶の入港時には主機1の出力を定格運転時よりも下げて運転せざるを得ないために、主機1の効率が悪くなるということが懸念される。また、船舶の入港時には、主機1の排出する排気ガスに含まれるNOx、SOxなどの大気汚染物質が港湾近くの地域住環境に悪影響を与える懸念もあるため、港の近くでは排気ガスの排出を減らすことが求められている。
【0022】
図9に示す第2の従来例の場合も、船舶の入港時には推進モータ13の出力を下げて運転するので、推進モータ13に給電する補機発電機4の駆動用ディーゼル補機の出力も急激に下げて運転せざるを得ない。このため、補機発電機4を駆動する補機用原動機の効率が悪くなるということが懸念される。また、船の入港時には、補機発電機4を駆動する補機用原動機についても、排気ガスの排出を減らすことが求められている。
【0023】
また、第1および第2の従来例において、接岸時にはバウスラスタ300が電力を消費するために、その電力を供給する補機発電機4を駆動する補機用原動機からの排気ガスも増加する。この場合についても前述した理由により排気ガスの排出を減らすことが求められている。
【0024】
そこで、本発明は、船舶の入港時以降接岸時までの間、補機発電機を駆動する補機用原動機を効率よい領域で運転することにより、補機発電機を駆動する補機用原動機の使用する燃料を少なくし、排気ガスを減らすことのできる船舶エネルギーシステムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、主機、主機軸およびプロペラからなる推進器部と、船内電力母線に接続され電力を供給する補機発電機と、前記船内電力母線に接続されたインバータ、このインバータにより駆動される推進モータおよびこの推進モータにより駆動されるプロペラからなる電気推進器部と、前記船内電力母線に接続されて当該船内電力母線の電力を使用して駆動するモータおよびこのモータにより駆動されるプロペラを備えたバウスラスタと、を備えた船舶エネルギーシステムにおいて、前記電気推進器部で消費する電力を検出する電力検出手段と、前記船内電力母線に接続され、充放電動作する電力貯蔵装置と、前記バウスラスタに始動指令を与える始動スイッチと、前記電力検出手段による検出信号を入力し、この検出信号が予め定めた閾値以下になると前記電力貯蔵装置を充電モードにして前記船内電力母線から充電させ、前記始動スイッチの始動指令を入力すると、前記電力貯蔵装置の充電を停止させて放電モードにし、蓄電している電力を前記船内電力母線に放電させる制御回路と、を備え、船舶が外洋航海時は前記推進器部と前記電気推進器部とにより船舶を推進させ、船舶の入港時に推進器部を停止させ、さらに電気推進器部の推力を下げて推進する際に前記電気推進器部の消費電力が予め定めた前記閾値以下になると前記制御回路を動作させて前記電力貯蔵装置を前記補機発電機から充電させ、その充電動作中に前記制御回路が前記始動スイッチの始動指令を受ける場合、前記電力貯蔵装置を放電動作させて前記バウスラスタのモータにその放電電力を供給するようにしたことを特徴とする。
【0026】
また、請求項2に係る発明は、船内電力母線に接続され電力を供給する補機発電機と、前記船内電力母線に接続されたインバータ、このインバータにより駆動される推進モータおよびこの推進モータにより駆動されるプロペラからなる電気推進器部と、前記船内電力母線に接続されて当該船内電力母線の電力を使用して駆動するモータおよびこのモータにより駆動されるプロペラを備えたバウスラスタと、を備えた船舶エネルギーシステムにおいて、前記電気推進器部で消費する電力を検出する電力検出手段と、前記船内電力母線に接続され、充放電する電力貯蔵装置と、前記バウスラスタに始動指令を与える始動スイッチと、前記電力検出手段による検出信号を入力し、この検出信号が予め定めた閾値以下になると、前記電力貯蔵装置を充電モードにして前記船内電力母線から充電させ、前記始動スイッチの指令を入力すると、前記電力貯蔵装置の充電を停止させて放電モードにし、蓄電している電力を前記船内電力母線に放電させる制御回路と、を備え、船舶が外洋航海時は前記電気推進器部により船舶を推進させ、船舶の入港時に前記電気推進器部の推力を下げて推進する際に前記電気推進器部の消費電力が予め定めた閾値以下になると、前記制御回路を動作させて前記電力貯蔵装置を前記補機発電機から充電させ、その充電動作中に前記始動スイッチの始動指令を受けた場合、前記電力貯蔵装置を放電動作させて前記バウスラスタのモータにその放電電力を供給するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る船舶エネルギーシステムによれば、船が入港時に推進力を下げる際は主機を停止させるので、主機の効率が低い領域で使用しないようにすることができさらに、推進力を下げることに伴い船内で消費される電力が減少した際には電力貯蔵装置に充電することで補機発電機の出力の低下を抑えて、補機発電機を駆動する補機用原動機を効率よい領域で運転し、接岸時には、電力貯蔵装置に蓄電された電力を利用してバウスラスタのモータを駆動することによって、補機用原動機の使用する燃料が少なくて済み、補機用原動機から排出される排気ガスを減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
なお、各図中の同一部分については同一符号を付けることにより重複する説明は適宜割愛する。
【0029】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態による船舶エネルギーシステムの構成例を示す図である。
本実施形態は、主機関推進器部および電気推進器部を備えたハイブリッド電気推進船に適用した船舶エネルギーシステムである。
【0030】
図1において、100は主機関推進器部であり、船尾側に向けて設置したプロペラ3を駆動する。200aは主機関推進器部100の補助的推進器部として装備された電気推進器部であり、図9の電気推進器部200と同様に推進モータ13a、プロペラ14aおよび推進モータ13aを駆動するインバータ15aから構成され、インバータ15aを負荷遮断器18−4を介して船内電力母線6に接続し、推進モータ13aを可変速制御してプロペラ14aを駆動する。なお、ハイブリッド電気推進船では、主機1で駆動されるプロペラ3とこのプロペラ3よりもさらに船尾側に設置されたプロペラ14aとを向かい合わせで設置することで、二重反転効果で推進効率を向上させるようにしている。
【0031】
20は電気推進器部200aで消費される電力すなわち、インバータ15aおよび推進モータ13aで消費される電力を検出する電力検出器である。21は負荷遮断器18−5を介して船内電力母線6に接続した電力貯蔵装置であり、電力貯蔵デバイス21−1および充放電装置21−2から構成されている。
【0032】
この電力貯蔵デバイス21−1は、例えば、二次電池(鉛電池、リチウムイオン電池など)、電気二重層コンデンサ、SMES(超電導電力貯蔵)などを適用することができる。一方、充放電装置21−2は、制御整流素子で構成され、電力貯蔵デバイス21−1を船内電力母線6の電圧で充電するとき(充電モードという)は、船内電力母線6の交流電圧を直流電圧に変換するコンバータとして動作し、逆に電力貯蔵デバイス21−1に蓄積した電力を船内電力母線6に放電するとき(放電モードという)は、電力貯蔵デバイス21−1の直流電圧を船内電力母線6の電圧および周波数と一致する交流電圧に変換するためのインバータとして動作する。
【0033】
22は制御回路であり、電力検出器20の検出値および始動スイッチ12からのバウスラスタ稼働指令を入力するように構成され、始動スイッチ13からバウスラスタ稼働指令を入力していない状態のとき、電力検出器20の検出値が後述する閾値K1よりも小さい場合、前記電力貯蔵装置21の充放電装置21−2に充電指令を出力して充電動作させ、始動スイッチ13からバウスラスタ稼働指令が入力されると、充放電装置21−2に出力していた充電指令を停止し、放電指令を出力する。
【0034】
以下、図2に示す電気品の特性図を参照して、本実施の形態の動作を説明する。
船舶が外洋を通常に航行している時、主機関推進器部100では主機軸2を介してプロペラ3を駆動して推進力を発生させ、電気推進器部200aでは、インバータ15aが船内電力母線6から電力を受けて推進モータ14aを駆動してプロペラ13aを駆動することにより推進力を発生させ、両推進器部100、200aが協働して船舶を推進させる。このとき、バウスラスタ300は停止している。
【0035】
船舶が港に接近すると、操船者は推進力を下げる必要があるので、まず、主機関推進器部100の主機1を停止させ(図2(a))、推進モータ14aの出力も徐々に低下させるようにインバータ15aを制御する(図2(b))。主機1の停止後は、船舶は電気推進器部200aの推進力のみで推進する。このことにより、主機1は効率の悪い低出力での運転を回避できる。
【0036】
船舶が岸壁に近づくにつれ、操船者がさらに船速を下げるためにインバータ15aを制御して推進モータ14aの出力を低下させると、図2(b)に示すように、電力検出器22で検出したインバータ15aの消費電力が減少する。このとき、補機発電機4の出力電圧、周波数を一定値に維持するために、図示しない補機発電機用原動機のガバナーが動作して補機発電機4の出力電力も減少する(図2(d))。
【0037】
図2(a)の時点(A)において、インバータ15aの消費電力が閾値Kより小さくなると、制御回路22は充放電装置21−2に充電指令を出力して充電動作させる。
【0038】
船舶が港湾内で岸壁に向かって推進しているときは、補機発電機4の出力を絞っている状態なので補機発電機4を駆動する補機用原動機の効率は良くないが、図2(c)のように電力貯蔵装置21を充電することで補機発電機4にとって負荷が増加することになり、補機発電機4を駆動する補機用原動機の出力を増加させることになるので、電力貯蔵装置21を充電しない場合に比べ、補機用原動機を効率良い領域で運転することができる。
【0039】
船舶を接岸させる時、操船者の操作により始動スイッチ12から始動装置9に始動指令が出力され、バウスラスタ300のモータ10がプロペラ11を駆動する。これに伴い、モータ10が大きい電力を消費する(図2(e))。始動スイッチ12からの始動指令は、制御回路22にも出力される。
【0040】
制御回路22は始動スイッチ13の始動指令を受けると、充放電装置21−2に出力していた充電指令を停止し、放電指令を出力する。電力貯蔵装置21は放電指令により放電動作を行う(図2(c))。効率良く発電した補機発電機4の電力を電力貯蔵装置21に蓄電し、その電力を利用してバウスラスタ300を駆動することになるので、補機発電機4を駆動する補機用原動機の燃料使用量が少なくて済み、補機用原動機の排出する排気ガスを減らすことができる。また、バウスラスタ300を動作させる際には、電力負荷としては、ほぼ船内電力負荷7とバウスラスタ300(インバータ15aの負荷は少ない)とになるので、電力負荷量と電力貯蔵装置の出力電力とのバランスから、補機発電機4の全部または一部を停止させれば、無駄に排気ガスが排出されることはない。
【0041】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態による船舶エネルギーシステムの構成例を示す図である。
本実施形態は、図3で示すように、図1に示した第1の実施形態との違いは、主機関推進器部100および電気推進器部200aを備えたハイブリッド電気推進方式に替えて、電気推進器部200のみを備えた船舶エネルギーシステムであり、その他の点は図1の第1の実施形態と同じである。
【0042】
以下、図4に示す電気品の特性図を参照して本実施の形態の動作を説明する。
電気推進器部200では、インバータ15が船内電力母線6から電力を受けて推進モータ13を駆動する。推進モータ13はプロペラ14を駆動し、推進力を発生させる。
【0043】
船舶が外洋を通常に航行している時は、電気推進器部200が船を推進させ、バウスラスタ300は停止している。
【0044】
船舶が港に接近すると、操船者は推進力を下げる必要があるので、インバータ15を制御して推進モータ13の出力を低下させる。すると、図4(a)で示すように、電力検出器20で検出されたインバータ15の消費電力が減少する。このとき、補機発電機4の出力電圧、周波数を一定値に維持するために、図示しない補機発電機用原動機のガバナーが動作して補機発電機4の出力電力も減少する(図4(c))。
【0045】
図4(a)の時点(A)において、インバータ15の消費電力が閾値Kより小さ<なると、制御回路22は充放電装置21−2に充電指令を出力して充電動作させる(図4(b))。
【0046】
船舶が港湾内で岸壁に向かって推進しているときは、補機発電機4の出力を絞っている状態なので補機発電機4を駆動する補機用原動機の効率は良くないが、電力貯蔵装置21を充電することで補機発電機4にとって負荷が増加することになり、補機発電機4を駆動する補機用原動機の出力を増加させることになるので、電力貯蔵装置21を充電しない場合に比べ、補機用原動機を効率良い領域で運転することができる。
【0047】
船舶を接岸させる時、操船者の操作により始動スイッチ12から始動装置9に始動指令が出力され、バウスラスタ300のモータ10がプロペラ11を駆動する。これに伴い、モータ10が大きい電力を消費する(図4(d))。始動スイッチ12からの始動指令は、制御回路22にも出力される。
【0048】
制御回路22は始動スイッチ13の始動指令を受けると、充放電装置21−2に出力していた充電指令を停止し、放電指令を出力する。電力貯蔵装置21は放電指令により放電動作を行う(図4(b))。効率良く発電した補機発電機4の電力を電力貯蔵装置21に蓄電し、その電力を利用してバウスラスタ300を駆動することになるので、捕機発電機4を駆動する補機用原動機の燃料使用量が少なくて済み、補機用原動機の排出する排気ガスを減らすことができる。また、バウスラスタ300を動作させる際には、電力負荷としては、ほぼ船内電力負荷7とバウスラスタ300(インバータ15aの負荷は少ない)になるので、電力負荷量と電力貯蔵装置の出力電力とのバランスから、補機発電機4の全部または一部を停止させれば、無駄に排気ガスが排出されることはない。
【0049】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態による船舶エネルギーシステムの構成例を示す図である。
本実施形態は、推進器部として第1実施形態による船舶エネルギーシステムと同様に、主機関推進器部100および電気推進器部200aを備えたハイブリッド電気推進船に適用した船舶のエネルギーシステムである。
【0050】
本実施形態は、図5で示すように、図1に示した第1の実施形態との違いは、制御回路22を制御回路22aに置換した点と、太陽光で発電するための太陽電池23およびこの太陽電池23で発電した直流電圧を交流に変換するPVインバータ24で構成された太陽光発電装置400を付加した点と、制御回路22aに充電指令を与える充電スイッチ25を付加した点である。なお、太陽電池23は例えば船の甲板等、太陽光を受けられる場所に設置する。
【0051】
制御回路22aは、充電スイッチ25から充電指令を与えられると、電力貯蔵装置21の充放電装置21−2に対して充電指令を出力し、電力貯蔵装置21を船内電力母線6から充電動作させる。また、太陽光発電装置400のPVインバータ24は、太陽電池23で発電した電力の情報を電力貯蔵装置21の充放電装置21−2に与えるように機能する。
【0052】
以下、図6に示す電気品の特性図を参照して本実施形態の動作を説明する。
充電スイッチ25がOFFの時は、電力貯蔵装置21は充電動作も放電動作も行わない。このとき、補機発電機4および太陽光発電装置400により発電した電力は、船内電力負荷7およびインバータ15aで利用される。
【0053】
充電スイッチ25を、例えば船舶の外洋航行中に操船者がONにすると、制御回路22aは充放電装置21−2に対して充電指令を出力して船内電力母線6から充電動作させる(図6(c))。この結果、補機発電機4にとって負荷が増加することになり、出力電力が増加し、補機発電機を駆動する補機用原動機は、効率よい領域で運転することになる(補機発電機4を効率良く運転して発電した電力の一部を充電する。)。
【0054】
一方、太陽光発電装置400の発電電力は太陽電池23で受けた日光の強さに応じて変化する。この太陽電池23で発電した電力の情報を、PVインバータ24より充放電装置21−2へ与える。充放電装置21−2は太陽電池23で発電した電力量に応じて、充電電力が増加するように制御される。このようにして、太陽光発電装置400の発電電力も電力貯蔵装置21に充電される。
【0055】
電力貯蔵装置21が図6(a)の(A)時点で満充電になると、図6(c)で示すように充放電装置21−2は充電を停止し、太陽光発電装置400により発電した電力は、船内電力負荷7およびインバータ15aで利用される。
【0056】
船舶が港に接近すると、操船者は推進力を下げる必要があるので、まず、主機関推進器部100の主機1を停止させ(図6(a))、推進モータ14aの出力も徐々に低下させるようにインバータ15aを制御する(図6(b))。主機1の停止後は、船舶は電気推進器部200aの推進力のみで推進する。このことにより、主機1は効率の悪い低出力での運転を回避できる。
【0057】
船舶が岸壁に近づくにつれ、操船者がさらに船速を下げるために(B)のようにインバータ15aを制御して推進モータ14aの出力を低下させると、図6(b)に示すように、電力検出器22で検出したインバータ15aの消費電力が減少する。このとき、補機発電機4の出力電圧、周波数を一定値に維持するために、図示しない補機発電機を駆動する補機用原動機のガバナーが動作して補機発電機4の出力電力も減少する(図6(e))。
【0058】
図6(b)の時点(C)において、インバータ15aの消費電力が閾値Kより小さくなると、制御回路22aは図6(c)で充放電装置21−2に放電指令を出力して放電動作させ、補機発電機4の運転を停止させる。なお、停止する代わりに運転台数を減少させてもよい。このことにより、本実施形態によれば、自然エネルギーを有効利用しつつ、補機発電機4を駆動する補機用原動機から排出される排気ガスを抑制することができる。
【0059】
船舶を接岸させる時、操船者の操作により始動スイッチ12から始動装置9に始動指令が出力され、バウスラスタ300のモータ10がプロペラ11を駆動する。この時の挙動を図6(d)の(D)に示す。
【0060】
バウスラスタ300のプロペラ11の駆動に伴い、モータ10が大きい電力を消費するが、この電力は電力貯蔵装置21が放電動作しているので電力貯蔵装置21から供給される。
【0061】
このことにより、バウスラスタ300を動作させた際に補機発電機4の出力電力を増加させずに、電力貯蔵装置21より必要な電力を賄うことができるので、補機発電機4を駆動する補機用原動機から排出される排気ガスの増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施形態による船舶エネルギーシステムを示す構成図。
【図2】本発明の第1の実施形態による電気品の特性図。
【図3】本発明の第2の実施形態による船舶エネルギーシステムを示す構成図。
【図4】本発明の第2の実施形態による電気品の特性図。
【図5】本発明の第3の実施形態による船舶エネルギーシステムを示す構成図。
【図6】本発明の第3の実施形態による電気品の特性図。
【図7】第1の従来例の船舶エネルギーシステムの構成を示す図。
【図8】図7の電気品の特性図。
【図9】第2の従来例の船舶エネルギーシステムの構成を示す図。
【図10】図9の電気品の特性図。
【符号の説明】
【0063】
1…主機、2…主機軸、3…プロペラ、4…補機発電機、5…発電機遮断器、6…船内電力母線、7…船内電力負荷、8…負荷遮断器、9…始動装置、10…モータ、11…プロペラ、12…始動スイッチ、13、13a…推進モータ、14、14a…プロペラ、15、15a…インバータ、20…電力検出器、21…電力貯蔵装置、21−1…蓄電デバイス、21−2…充放電装置、22、22a…制御回路、23…太陽電池、24…PVインバータ、25…充電スイッチ、100…主機関推進器部、200、200a…電気推進器部、300…バウスラスタ、400…太陽光発電装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主機、主機軸およびプロペラからなる推進器部と、
船内電力母線に接続され電力を供給する補機発電機と、
前記船内電力母線に接続されたインバータ、このインバータにより駆動される推進モータおよびこの推進モータにより駆動されるプロペラからなる電気推進器部と、
前記船内電力母線に接続されて当該船内電力母線の電力を使用して駆動するモータおよびこのモータにより駆動されるプロペラを備えたバウスラスタと、
を備えた船舶エネルギーシステムにおいて、
前記電気推進器部で消費する電力を検出する電力検出手段と、
前記船内電力母線に接続され、充放電動作する電力貯蔵装置と、
前記バウスラスタに始動指令を与える始動スイッチと、
前記電力検出手段による検出信号を入力し、この検出信号が予め定めた閾値以下になると前記電力貯蔵装置を充電モードにして前記船内電力母線から充電させ、前記始動スイッチの始動指令を入力すると、前記電力貯蔵装置の充電を停止させて放電モードにし、蓄電している電力を前記船内電力母線に放電させる制御回路と、を備え、
船舶が外洋航海時は前記推進器部と前記電気推進器部とにより船舶を推進させ、船舶の入港時に推進器部を停止させ、さらに電気推進器部の推力を下げて推進する際に前記電気推進器部の消費電力が予め定めた前記閾値以下になると前記制御回路を動作させて前記電力貯蔵装置を前記補機発電機から充電させ、その充電動作中に前記制御回路が前記始動スイッチの始動指令を受ける場合、前記電力貯蔵装置を放電動作させて前記バウスラスタのモータにその放電電力を供給するようにしたことを特徴とする船舶エネルギーシステム。
【請求項2】
船内電力母線に接続され電力を供給する補機発電機と、
前記船内電力母線に接続されたインバータ、このインバータにより駆動される推進モータおよびこの推進モータにより駆動されるプロペラからなる電気推進器部と、
前記船内電力母線に接続されて当該船内電力母線の電力を使用して駆動するモータおよびこのモータにより駆動されるプロペラを備えたバウスラスタと、
を備えた船舶エネルギーシステムにおいて、
前記電気推進器部で消費する電力を検出する電力検出手段と、
前記船内電力母線に接続され、充放電する電力貯蔵装置と、
前記バウスラスタに始動指令を与える始動スイッチと、
前記電力検出手段による検出信号を入力し、この検出信号が予め定めた閾値以下になると、前記電力貯蔵装置を充電モードにして前記船内電力母線から充電させ、前記始動スイッチの指令を入力すると、前記電力貯蔵装置の充電を停止させて放電モードにし、蓄電している電力を前記船内電力母線に放電させる制御回路と、を備え、
船舶が外洋航海時は前記電気推進器部により船舶を推進させ、船舶の入港時に前記電気推進器部の推力を下げて推進する際に前記電気推進器部の消費電力が予め定めた閾値以下になると、前記制御回路を動作させて前記電力貯蔵装置を前記補機発電機から充電させ、その充電動作中に前記始動スイッチの始動指令を受けた場合、前記電力貯蔵装置を放電動作させて前記バウスラスタのモータにその放電電力を供給するようにしたことを特徴とする船舶エネルギーシステム。
【請求項3】
太陽電池およびPVインバータで構成された太陽光発電装置を船舶に設置して当該PVインバータを前記船内電力母線に接続し、かつ、当該PVインバータから太陽電池で発電した電力の情報を前記電力貯蔵装置の充放電装置ヘ与えることにより前記電力貯蔵装置で充電する電力を増加させることを特徴とする請求項1または2記載の船舶エネルギーシステム。
【請求項4】
前記制御回路に対して充電指令を与える充電スイッチを設置し、当該充電スイッチがON操作された場合、前記制御回路を介して前記電力貯蔵装置の充放電装置に充電指令を出力し、船内電力母線から前記電力貯蔵装置を充電動作させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の船舶エネルギーシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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