船舶バラスト水の処理装置
【課題】設備コストを上昇させずにオゾンの注入を容易にし、比較的形状の大きな水生生物のみならず、細菌類も死滅させることができできるバラスト水の処理装置を提供すること。
【解決手段】水生生物等を含むバラスト水を吸込配管3を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管4を介して船舶のバラストタンク2に圧送するバラストポンプ1と、該吐出配管4内に複数のスリット状の開口を有するスリット板5を設け、前記吐出配管4のバラストポンプ1に近い側から前記水生生物等を含むバラスト水を一部抜き出すと共に、再度前記吐出配管4のバラストポンプ1から遠い側で前記スリット板5の手前に戻すバイパス配管6を設け、該バイパス配管6を介して抜き出したバラスト水にオゾンを添加し混合してオゾンを溶解する溶解装置602を設け、且つ該溶解装置602から送られるオゾン溶解液を前記吐出配管4に戻す加圧ポンプ605を設けたことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【解決手段】水生生物等を含むバラスト水を吸込配管3を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管4を介して船舶のバラストタンク2に圧送するバラストポンプ1と、該吐出配管4内に複数のスリット状の開口を有するスリット板5を設け、前記吐出配管4のバラストポンプ1に近い側から前記水生生物等を含むバラスト水を一部抜き出すと共に、再度前記吐出配管4のバラストポンプ1から遠い側で前記スリット板5の手前に戻すバイパス配管6を設け、該バイパス配管6を介して抜き出したバラスト水にオゾンを添加し混合してオゾンを溶解する溶解装置602を設け、且つ該溶解装置602から送られるオゾン溶解液を前記吐出配管4に戻す加圧ポンプ605を設けたことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶バラスト水の処理装置に関し、詳しくは、噴流とキャビテーションという効果的な機械的殺滅方法とオゾン処理方法を組み合わせることにより、効率的に船舶バラスト水を処理する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原油等を輸送する貨物用船舶には、航行時の船体の安定性を保つためにバラストタンクが設けられている。通常、原油等が積載されていないときには、バラストタンク内をバラスト水で満たし、原油等を積み込む際にバラスト水を排出することにより、船体の浮力を調整し、船体を安定化させている。
【0003】
このようにバラスト水は、船舶の安全な航行のために必要な水であり、通常、荷役を行う港湾の海水が利用される。その量は、世界的にみると年間100億トンを超えるといわれている。
【0004】
ところで、バラスト水中には、それを取水した港湾に生息する水生生物が混入しており、船舶の移動に伴い、これら水生生物が同時に異国に運ばれることになる。
【0005】
従って、もともとその海域には生息していなかった生物種が、既存生物種に取って代わるといった生態系の破壊が深刻化している。
【0006】
このような背景の中、国際海事機関(IMO)の外交会議において、船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための条約(以下、条約という)が採択され、バラスト水処理装置を用いたバラスト水管理の実施義務が2009年以降の建造船から適用される予定となっている。
【0007】
また、条約によりバラスト水の排出基準は、以下の表1に示すように定められている。
【0008】
【表1】
【0009】
このため、バラスト水の排出時には外洋に存在する生物数の100分の1程度まで除去あるいは殺滅することが必要となっている。
【0010】
以上のような背景から、上記のような問題を解決できるバラスト水の処理技術の開発が急務となっている。
【0011】
従来、水生生物を含む水を物理的に処理する手法としては、特許文献1に記載の技術が知られている。
【特許文献1】特開2003−200156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1は、バラスト水中に含まれる水生生物を高圧のバラストポンプによりスリット板を通過させて、水生生物を破壊して殺減する技術である。
【0013】
しかし、特許文献1は、一般の水生生物に対しては一定の効果が得られるものの極めて微小な細菌類には効果が得られず、条約の基準を満足しない欠点がある。
【0014】
これを解決するために、オゾンをバラスト水に添加することも考えられるが、高圧のバラスト水にオゾンを添加しようとすると、以下の問題があった。すなわち、バラストポンプの圧力は、機械的殺滅方法での△P(0.5〜1.0MPa)と各バラストタンクヘの送水に必要な圧力(0.2〜0.4MPa)が必要であるので、約1.5MPa程度のポンプ圧力となる。
【0015】
一方、一般的なオゾン発生装置の吐出圧力は、最大でも0.2MPaであるが、バラストポンプの吐出圧が高いため、オゾンの注入が困難であり、圧力を増加させると設備コストが上昇する問題がある。
【0016】
そこで、本発明の課題は、設備コストを上昇させずにオゾンの注入を容易にし、一般の水生生物のみならず、極めて微小な細菌類も死滅させることができるバラスト水の処理装置を提供することにある。
【0017】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0019】
(請求項1)
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
前記吐出配管のバラストポンプに近い側から前記水生生物等を含むバラスト水を一部抜き出すと共に、再度前記吐出配管のバラストポンプから遠い側で前記スリット板の手前に戻すバイパス配管を設け、
該バイパス配管を介して抜き出したバラスト水にオゾンを添加し混合してオゾンを溶解する溶解装置を設け、且つ該溶解装置から送られるオゾン溶解液を前記吐出配管に戻す加圧ポンプを設けたことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【0020】
(請求項2)
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
前記該バラストポンプの吸込配管から前記水生生物等を含むバラスト水を一部抜き出すと共に、再度前記吐出配管のバラストポンプから遠い側で前記スリット板の上流側に戻すバイパス配管を設け、
該バイパス配管を介して抜き出したバラスト水にオゾンを添加し混合してオゾンを溶解する溶解装置を設け、且つ該溶解装置から送られるオゾン溶解液を前記吐出配管に戻す加圧ポンプを設けたことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【0021】
(請求項3)
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
該バラストポンプの吐出配管における前記スリット板の下流側にオゾンを添加することを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【0022】
(請求項4)
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
該バラストポンプの吸込配管にオゾンを添加することを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、設備コストを上昇させずにオゾンの注入を容易にし、比較的形状の大きな水生生物のみならず、細菌類も死滅させることができるバラスト水の処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
(第1の態様)
図1は本発明の第1の実施態様を示すフロー図であり、同図において、1は水生生物等を含むバラスト水をバラストタンク2に送るためのバラストポンプであり、3は吸込配管、4は吐出配管である。
【0026】
本発明において、処理対象となるバラスト水には、例えば海水、淡水などが用いられ、かかるバラスト水には、動物プランクトン、植物プランクトン、細菌などの水生生物を含む。
【0027】
5は吐出配管4内に設けられたスリット板であり、該スリット板5について、図2及び図3に基づいて説明する。図2はスリット板近傍の概略断面図であり、図3は図2のIII−III線概略断面図である。図2、3に示すように、スリット板5には複数のスリット500、500、・・が形成されている。
【0028】
スリット500の開口幅は、本発明の効果が充分に発揮されうる任意の幅に設定することができるが、好ましくは200μm〜500μmである。
【0029】
バラスト水は、バラストポンプ1によりスリット板5に向かって吐出配管4内を圧送される。圧送されたバラスト水は乱流状態のままスリット板5のスリット500を通過しようとする。該スリット500を通過しようとする際の剪断現象が生じることで液中の水生生物を破壊して殺減する。
【0030】
このスリット500を通過する際、圧力損失△Pが0.5〜1.0MPa程度生じ、またバラストタンク2ヘの送水のための圧力(0.2〜0.4MPa)も必要であるため、バラストポンプ1はそれらの圧力を考慮すると、0.7〜1.4MPa程度のポンプ圧力が必要となる。
【0031】
吐出配管4に取り付けられるスリット板5はバラスト水の流れ方向に対して、直交方向に取り付けることが剪断力を向上させる上で好ましい。
【0032】
スリット板5は吐出配管4内に密接して取り付けられ、図示しないが、取り外し可能にして洗浄ができるようにする上でフランジ等によって取り付けることが好ましい。
【0033】
スリット500は、例えば図3に示すように細長な長方形状からなるものが好ましい態様として挙げられ、スリットの本数は格別限定されない。
【0034】
スリット500の長さは図3のように同じ長さでもよいが、図4のように中央部分の長さを長くしてもよい。
【0035】
またスリット500は直線状に限定されず、図5のように円弧状(曲線状の一例)でもよい。
【0036】
さらにスリット板5の枚数は図2に示すように、1枚でもよいが、図6に示すように2枚のスリット板5a、5bを用いることもできる。その場合、スリット板5aのスリットの開口幅の大きさとスリット板5bのスリットの開口幅の大きさを変えることもできる。
【0037】
本態様では、オゾンを0.7〜1.4MPa程度の高圧で圧送されるバラスト水に添加するためのバイパス配管6を設けている。600はバラスト水を一部抜き出すための抜出部であり、該抜出部600がバイパス配管6の始点であり、前記吐出配管4のバラストポンプ1に近い側に配置される。オゾンの注入のためのバイパス配管6の始点を前記吐出配管4に設けたのは、バラストポンプ1の保護(材質面、エア混入によるキャビテーション)を考慮したためである。
【0038】
601は減圧弁であり、0.2〜0.4MPa程度に減圧される。減圧弁601の構造は特に限定されない。
【0039】
602は抜き出したバラスト水にオゾンを添加し混合してオゾンを溶解する溶解装置である。603はオゾン発生機であり、604はオゾン供給管である。オゾン発生機603で発生したオゾンはオゾン供給管604を介して約0.2MPa程度の圧力で溶解装置602に供給される。溶解装置602としては、気液混合可能であれば種々の装置を使用でき、例えばエジェクター、スタティックミキサー、ラインミキサーなどの静的混合機を使用できる。溶解装置602の圧力損失は0.2〜0.3MPaの範囲が好ましい。
【0040】
605は加圧ポンプであり、加圧ポンプ605を稼動させると、オゾンとバラスト水を吸引しつつ気液混合する。606は逆止弁であり、吐出配管4からの逆流を防止する。
【0041】
オゾンの全バラスト水に対する注入率は、スリット板5によって殺減できない細菌類などを殺菌する上で、最大で5ppm(gオゾン/m3バラスト水)が好ましく、より好ましくは0.5〜5ppmの範囲である。
【0042】
この態様において、バイパス配管6への流入量は最大で全バラスト水量の50%が好ましく、より好ましくは20〜50%である。
【0043】
以上のような構成を採用した結果、バイパス配管6によって一部を分岐させ、減圧弁601により圧力を下げることにより、オゾンを注入できるようになる。そして、分岐させることにより、エジェクター等の溶解装置602や減圧ポンプ605、逆止弁606の口径を小さくすることができる。
【0044】
またオゾンを溶解させたバイパス配管内のバラスト水(海水など)をスリット板5の上流側に戻すことにより、スリット板5で再度オゾンが溶解されるため、相乗効果が期待できる。
【0045】
(第2の態様)
この態様は、第1の態様と、バラスト水をバイパス配管6の方に抜き出す抜出部600の位置が異なっている。即ち、図7に示すように、吸込配管3に抜出部600を設けている。
【0046】
バラストポンプ1の吸い込み側でヘッドHがあり、加圧ポンプ605で吸引が行なえる場合に好適なフローである。
【0047】
図7において、図1と同一の符号の部位は、同一の構成であるので、その説明を省略する。
【0048】
オゾンの全バラスト水に対する注入率は、スリット板5によって殺減できない細菌類などを殺菌する上で、最大で5ppm(gオゾン/m3バラスト水)が好ましく、より好ましくは0.5〜5ppmの範囲である。
【0049】
この態様において、バイパス配管6への流入量は最大で全バラスト水量の50%が好ましく、より好ましくは20〜50%である。
【0050】
第1の態様と比較すると、第1の態様の減圧弁601が不要になる上、容易にオゾン注入が行なえ、さらにオゾン発生装置の吐出圧を0.1MPa程度に下げることができるので好ましい。
【0051】
(第3の態様)
次に、本発明の第3の態様を図8に基づいて説明する。
【0052】
スリット板5は機械的殺滅装置であり、スリット板5を通過後の水生生物は、完全に殺滅されたもの、または死にかけているもの、あるいは生き残るものがあり、このうち死にかけているものや生き残るものはバラストタンク2内で再増殖する可能性がある。これらの再増殖を防止するため、スリット板5を通過後のバラスト水にオゾンを注入する。
【0053】
スリット板5は圧力損失が大きいので、その下流側は圧力が低い。この態様は、従って、オゾンの注入が容易であるスリット板5の下流側にオゾンを添加するものである。
【0054】
なお、図8において、図1と同一の符号の部位は、同一の構成であるので、その説明を省略する。
【0055】
この態様において、死にかけている水生生物及び生き残っている水生生物の存在を明らかにするために、図9及び図10に顕微鏡写真を示す。図9は植物プランクトンの例であり、図10は動物プランクトンの例である。
【0056】
図9の植物プランクトンにおいて、左側の3つの画像には、正常細胞(Normal cells)が示されており、右側の6つの画像はダメージを受けている細胞(Damaged cells)が示されている。
【0057】
また図10の動物プランクトンにおいて、左側の3つの画像には、正常個体(Normal individuals)が示されており、右側の4つの画像には、ダメージを受けている個体(Damaged individuals)が示されている。
【0058】
(第4の態様)
次に、本発明の第4の態様を図11に基づいて説明する。
【0059】
バラストポンプ1の材質が耐オゾン性を有し、気液混入状態での使用が可能な場合(新造船への適用に多い)は、バラストポンプ1の吸い込み側にオゾンの注入が可能である。この態様はそのような場合に対応できる処理装置を提供するものである。
【0060】
この態様では、オゾンの溶解という面では、バラストポンプ1とスリット板5での混合という相乗効果により、オゾン溶解効率を高めることが出来るので好ましい。
【0061】
なお、図11において、図1と同一の符号の部位は、同一の構成であるので、その説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施態様を示すフロー図
【図2】第1の実施態様に用いられるスリット板近傍の概略断面図
【図3】図2のIII−III線概略断面図
【図4】開口の他の形態を示す図
【図5】開口の他の形態を示す図
【図6】スリット板の他の形態を示す概略断面図
【図7】本発明の第2の実施態様を示すフロー図
【図8】本発明の第3の実施態様を示すフロー図
【図9】顕微鏡写真
【図10】顕微鏡写真
【図11】本発明の第4の実施態様を示すフロー図
【符号の説明】
【0063】
1:バラストポンプ
2:バラストタンク
3:吸込配管
4:吐出配管
5、5a、5b:スリット板
500:スリット
6:バイパス配管
600:抜出部
601:減圧弁
602:溶解装置
603:オゾン発生機
604:オゾン供給管
605:加圧ポンプ
606:逆止弁
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶バラスト水の処理装置に関し、詳しくは、噴流とキャビテーションという効果的な機械的殺滅方法とオゾン処理方法を組み合わせることにより、効率的に船舶バラスト水を処理する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原油等を輸送する貨物用船舶には、航行時の船体の安定性を保つためにバラストタンクが設けられている。通常、原油等が積載されていないときには、バラストタンク内をバラスト水で満たし、原油等を積み込む際にバラスト水を排出することにより、船体の浮力を調整し、船体を安定化させている。
【0003】
このようにバラスト水は、船舶の安全な航行のために必要な水であり、通常、荷役を行う港湾の海水が利用される。その量は、世界的にみると年間100億トンを超えるといわれている。
【0004】
ところで、バラスト水中には、それを取水した港湾に生息する水生生物が混入しており、船舶の移動に伴い、これら水生生物が同時に異国に運ばれることになる。
【0005】
従って、もともとその海域には生息していなかった生物種が、既存生物種に取って代わるといった生態系の破壊が深刻化している。
【0006】
このような背景の中、国際海事機関(IMO)の外交会議において、船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための条約(以下、条約という)が採択され、バラスト水処理装置を用いたバラスト水管理の実施義務が2009年以降の建造船から適用される予定となっている。
【0007】
また、条約によりバラスト水の排出基準は、以下の表1に示すように定められている。
【0008】
【表1】
【0009】
このため、バラスト水の排出時には外洋に存在する生物数の100分の1程度まで除去あるいは殺滅することが必要となっている。
【0010】
以上のような背景から、上記のような問題を解決できるバラスト水の処理技術の開発が急務となっている。
【0011】
従来、水生生物を含む水を物理的に処理する手法としては、特許文献1に記載の技術が知られている。
【特許文献1】特開2003−200156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1は、バラスト水中に含まれる水生生物を高圧のバラストポンプによりスリット板を通過させて、水生生物を破壊して殺減する技術である。
【0013】
しかし、特許文献1は、一般の水生生物に対しては一定の効果が得られるものの極めて微小な細菌類には効果が得られず、条約の基準を満足しない欠点がある。
【0014】
これを解決するために、オゾンをバラスト水に添加することも考えられるが、高圧のバラスト水にオゾンを添加しようとすると、以下の問題があった。すなわち、バラストポンプの圧力は、機械的殺滅方法での△P(0.5〜1.0MPa)と各バラストタンクヘの送水に必要な圧力(0.2〜0.4MPa)が必要であるので、約1.5MPa程度のポンプ圧力となる。
【0015】
一方、一般的なオゾン発生装置の吐出圧力は、最大でも0.2MPaであるが、バラストポンプの吐出圧が高いため、オゾンの注入が困難であり、圧力を増加させると設備コストが上昇する問題がある。
【0016】
そこで、本発明の課題は、設備コストを上昇させずにオゾンの注入を容易にし、一般の水生生物のみならず、極めて微小な細菌類も死滅させることができるバラスト水の処理装置を提供することにある。
【0017】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0019】
(請求項1)
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
前記吐出配管のバラストポンプに近い側から前記水生生物等を含むバラスト水を一部抜き出すと共に、再度前記吐出配管のバラストポンプから遠い側で前記スリット板の手前に戻すバイパス配管を設け、
該バイパス配管を介して抜き出したバラスト水にオゾンを添加し混合してオゾンを溶解する溶解装置を設け、且つ該溶解装置から送られるオゾン溶解液を前記吐出配管に戻す加圧ポンプを設けたことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【0020】
(請求項2)
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
前記該バラストポンプの吸込配管から前記水生生物等を含むバラスト水を一部抜き出すと共に、再度前記吐出配管のバラストポンプから遠い側で前記スリット板の上流側に戻すバイパス配管を設け、
該バイパス配管を介して抜き出したバラスト水にオゾンを添加し混合してオゾンを溶解する溶解装置を設け、且つ該溶解装置から送られるオゾン溶解液を前記吐出配管に戻す加圧ポンプを設けたことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【0021】
(請求項3)
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
該バラストポンプの吐出配管における前記スリット板の下流側にオゾンを添加することを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【0022】
(請求項4)
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
該バラストポンプの吸込配管にオゾンを添加することを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、設備コストを上昇させずにオゾンの注入を容易にし、比較的形状の大きな水生生物のみならず、細菌類も死滅させることができるバラスト水の処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
(第1の態様)
図1は本発明の第1の実施態様を示すフロー図であり、同図において、1は水生生物等を含むバラスト水をバラストタンク2に送るためのバラストポンプであり、3は吸込配管、4は吐出配管である。
【0026】
本発明において、処理対象となるバラスト水には、例えば海水、淡水などが用いられ、かかるバラスト水には、動物プランクトン、植物プランクトン、細菌などの水生生物を含む。
【0027】
5は吐出配管4内に設けられたスリット板であり、該スリット板5について、図2及び図3に基づいて説明する。図2はスリット板近傍の概略断面図であり、図3は図2のIII−III線概略断面図である。図2、3に示すように、スリット板5には複数のスリット500、500、・・が形成されている。
【0028】
スリット500の開口幅は、本発明の効果が充分に発揮されうる任意の幅に設定することができるが、好ましくは200μm〜500μmである。
【0029】
バラスト水は、バラストポンプ1によりスリット板5に向かって吐出配管4内を圧送される。圧送されたバラスト水は乱流状態のままスリット板5のスリット500を通過しようとする。該スリット500を通過しようとする際の剪断現象が生じることで液中の水生生物を破壊して殺減する。
【0030】
このスリット500を通過する際、圧力損失△Pが0.5〜1.0MPa程度生じ、またバラストタンク2ヘの送水のための圧力(0.2〜0.4MPa)も必要であるため、バラストポンプ1はそれらの圧力を考慮すると、0.7〜1.4MPa程度のポンプ圧力が必要となる。
【0031】
吐出配管4に取り付けられるスリット板5はバラスト水の流れ方向に対して、直交方向に取り付けることが剪断力を向上させる上で好ましい。
【0032】
スリット板5は吐出配管4内に密接して取り付けられ、図示しないが、取り外し可能にして洗浄ができるようにする上でフランジ等によって取り付けることが好ましい。
【0033】
スリット500は、例えば図3に示すように細長な長方形状からなるものが好ましい態様として挙げられ、スリットの本数は格別限定されない。
【0034】
スリット500の長さは図3のように同じ長さでもよいが、図4のように中央部分の長さを長くしてもよい。
【0035】
またスリット500は直線状に限定されず、図5のように円弧状(曲線状の一例)でもよい。
【0036】
さらにスリット板5の枚数は図2に示すように、1枚でもよいが、図6に示すように2枚のスリット板5a、5bを用いることもできる。その場合、スリット板5aのスリットの開口幅の大きさとスリット板5bのスリットの開口幅の大きさを変えることもできる。
【0037】
本態様では、オゾンを0.7〜1.4MPa程度の高圧で圧送されるバラスト水に添加するためのバイパス配管6を設けている。600はバラスト水を一部抜き出すための抜出部であり、該抜出部600がバイパス配管6の始点であり、前記吐出配管4のバラストポンプ1に近い側に配置される。オゾンの注入のためのバイパス配管6の始点を前記吐出配管4に設けたのは、バラストポンプ1の保護(材質面、エア混入によるキャビテーション)を考慮したためである。
【0038】
601は減圧弁であり、0.2〜0.4MPa程度に減圧される。減圧弁601の構造は特に限定されない。
【0039】
602は抜き出したバラスト水にオゾンを添加し混合してオゾンを溶解する溶解装置である。603はオゾン発生機であり、604はオゾン供給管である。オゾン発生機603で発生したオゾンはオゾン供給管604を介して約0.2MPa程度の圧力で溶解装置602に供給される。溶解装置602としては、気液混合可能であれば種々の装置を使用でき、例えばエジェクター、スタティックミキサー、ラインミキサーなどの静的混合機を使用できる。溶解装置602の圧力損失は0.2〜0.3MPaの範囲が好ましい。
【0040】
605は加圧ポンプであり、加圧ポンプ605を稼動させると、オゾンとバラスト水を吸引しつつ気液混合する。606は逆止弁であり、吐出配管4からの逆流を防止する。
【0041】
オゾンの全バラスト水に対する注入率は、スリット板5によって殺減できない細菌類などを殺菌する上で、最大で5ppm(gオゾン/m3バラスト水)が好ましく、より好ましくは0.5〜5ppmの範囲である。
【0042】
この態様において、バイパス配管6への流入量は最大で全バラスト水量の50%が好ましく、より好ましくは20〜50%である。
【0043】
以上のような構成を採用した結果、バイパス配管6によって一部を分岐させ、減圧弁601により圧力を下げることにより、オゾンを注入できるようになる。そして、分岐させることにより、エジェクター等の溶解装置602や減圧ポンプ605、逆止弁606の口径を小さくすることができる。
【0044】
またオゾンを溶解させたバイパス配管内のバラスト水(海水など)をスリット板5の上流側に戻すことにより、スリット板5で再度オゾンが溶解されるため、相乗効果が期待できる。
【0045】
(第2の態様)
この態様は、第1の態様と、バラスト水をバイパス配管6の方に抜き出す抜出部600の位置が異なっている。即ち、図7に示すように、吸込配管3に抜出部600を設けている。
【0046】
バラストポンプ1の吸い込み側でヘッドHがあり、加圧ポンプ605で吸引が行なえる場合に好適なフローである。
【0047】
図7において、図1と同一の符号の部位は、同一の構成であるので、その説明を省略する。
【0048】
オゾンの全バラスト水に対する注入率は、スリット板5によって殺減できない細菌類などを殺菌する上で、最大で5ppm(gオゾン/m3バラスト水)が好ましく、より好ましくは0.5〜5ppmの範囲である。
【0049】
この態様において、バイパス配管6への流入量は最大で全バラスト水量の50%が好ましく、より好ましくは20〜50%である。
【0050】
第1の態様と比較すると、第1の態様の減圧弁601が不要になる上、容易にオゾン注入が行なえ、さらにオゾン発生装置の吐出圧を0.1MPa程度に下げることができるので好ましい。
【0051】
(第3の態様)
次に、本発明の第3の態様を図8に基づいて説明する。
【0052】
スリット板5は機械的殺滅装置であり、スリット板5を通過後の水生生物は、完全に殺滅されたもの、または死にかけているもの、あるいは生き残るものがあり、このうち死にかけているものや生き残るものはバラストタンク2内で再増殖する可能性がある。これらの再増殖を防止するため、スリット板5を通過後のバラスト水にオゾンを注入する。
【0053】
スリット板5は圧力損失が大きいので、その下流側は圧力が低い。この態様は、従って、オゾンの注入が容易であるスリット板5の下流側にオゾンを添加するものである。
【0054】
なお、図8において、図1と同一の符号の部位は、同一の構成であるので、その説明を省略する。
【0055】
この態様において、死にかけている水生生物及び生き残っている水生生物の存在を明らかにするために、図9及び図10に顕微鏡写真を示す。図9は植物プランクトンの例であり、図10は動物プランクトンの例である。
【0056】
図9の植物プランクトンにおいて、左側の3つの画像には、正常細胞(Normal cells)が示されており、右側の6つの画像はダメージを受けている細胞(Damaged cells)が示されている。
【0057】
また図10の動物プランクトンにおいて、左側の3つの画像には、正常個体(Normal individuals)が示されており、右側の4つの画像には、ダメージを受けている個体(Damaged individuals)が示されている。
【0058】
(第4の態様)
次に、本発明の第4の態様を図11に基づいて説明する。
【0059】
バラストポンプ1の材質が耐オゾン性を有し、気液混入状態での使用が可能な場合(新造船への適用に多い)は、バラストポンプ1の吸い込み側にオゾンの注入が可能である。この態様はそのような場合に対応できる処理装置を提供するものである。
【0060】
この態様では、オゾンの溶解という面では、バラストポンプ1とスリット板5での混合という相乗効果により、オゾン溶解効率を高めることが出来るので好ましい。
【0061】
なお、図11において、図1と同一の符号の部位は、同一の構成であるので、その説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第1の実施態様を示すフロー図
【図2】第1の実施態様に用いられるスリット板近傍の概略断面図
【図3】図2のIII−III線概略断面図
【図4】開口の他の形態を示す図
【図5】開口の他の形態を示す図
【図6】スリット板の他の形態を示す概略断面図
【図7】本発明の第2の実施態様を示すフロー図
【図8】本発明の第3の実施態様を示すフロー図
【図9】顕微鏡写真
【図10】顕微鏡写真
【図11】本発明の第4の実施態様を示すフロー図
【符号の説明】
【0063】
1:バラストポンプ
2:バラストタンク
3:吸込配管
4:吐出配管
5、5a、5b:スリット板
500:スリット
6:バイパス配管
600:抜出部
601:減圧弁
602:溶解装置
603:オゾン発生機
604:オゾン供給管
605:加圧ポンプ
606:逆止弁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
前記吐出配管のバラストポンプに近い側から前記水生生物等を含むバラスト水を一部抜き出すと共に、再度前記吐出配管のバラストポンプから遠い側で前記スリット板の手前に戻すバイパス配管を設け、
該バイパス配管を介して抜き出したバラスト水にオゾンを添加し混合してオゾンを溶解する溶解装置を設け、且つ該溶解装置から送られるオゾン溶解液を前記吐出配管に戻す加圧ポンプを設けたことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【請求項2】
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
前記該バラストポンプの吸込配管から前記水生生物等を含むバラスト水を一部抜き出すと共に、再度前記吐出配管のバラストポンプから遠い側で前記スリット板の上流側に戻すバイパス配管を設け、
該バイパス配管を介して抜き出したバラスト水にオゾンを添加し混合してオゾンを溶解する溶解装置を設け、且つ該溶解装置から送られるオゾン溶解液を前記吐出配管に戻す加圧ポンプを設けたことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【請求項3】
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
該バラストポンプの吐出配管における前記スリット板の下流側にオゾンを添加することを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【請求項4】
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
該バラストポンプの吸込配管にオゾンを添加することを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【請求項1】
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
前記吐出配管のバラストポンプに近い側から前記水生生物等を含むバラスト水を一部抜き出すと共に、再度前記吐出配管のバラストポンプから遠い側で前記スリット板の手前に戻すバイパス配管を設け、
該バイパス配管を介して抜き出したバラスト水にオゾンを添加し混合してオゾンを溶解する溶解装置を設け、且つ該溶解装置から送られるオゾン溶解液を前記吐出配管に戻す加圧ポンプを設けたことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【請求項2】
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
前記該バラストポンプの吸込配管から前記水生生物等を含むバラスト水を一部抜き出すと共に、再度前記吐出配管のバラストポンプから遠い側で前記スリット板の上流側に戻すバイパス配管を設け、
該バイパス配管を介して抜き出したバラスト水にオゾンを添加し混合してオゾンを溶解する溶解装置を設け、且つ該溶解装置から送られるオゾン溶解液を前記吐出配管に戻す加圧ポンプを設けたことを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【請求項3】
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
該バラストポンプの吐出配管における前記スリット板の下流側にオゾンを添加することを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【請求項4】
水生生物等を含むバラスト水を吸込配管を介して吸い込むと共に、該バラスト水を吐出配管を介して船舶のバラストタンクに圧送するバラストポンプと、該吐出配管内に複数のスリット状の開口を有するスリット板を設け、
該バラストポンプの吸込配管にオゾンを添加することを特徴とする船舶バラスト水の処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2006−314902(P2006−314902A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139152(P2005−139152)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(505062307)社団法人日本海難防止協会 (3)
【出願人】(500512162)株式会社エム・オー・マリンコンサルティング (3)
【出願人】(591037362)株式会社海洋開発技術研究所 (7)
【出願人】(591084296)株式会社シンコー (5)
【出願人】(505062318)株式会社水圏科学コンサルタント (7)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(505062307)社団法人日本海難防止協会 (3)
【出願人】(500512162)株式会社エム・オー・マリンコンサルティング (3)
【出願人】(591037362)株式会社海洋開発技術研究所 (7)
【出願人】(591084296)株式会社シンコー (5)
【出願人】(505062318)株式会社水圏科学コンサルタント (7)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】
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