説明

船舶バラスト水処理装置

【課題】船舶のバラスト水処理を充分なものとし、環境汚染、漁業被害等に影響を与えないバラスト水処理装置を提供する。
【解決手段】船舶のバラストポンプ室3に隣接して設けられたトリートメントタンク2からなるバラスト水処理装置1であって、前記トリートメントタンク2は、薬液投入および攪拌・凝集を行う一次タンクと、沈殿分離を行う二次タンクとからなり、当該一次タンクには外部の海水を取り入れる注水ポンプ4および注水パイプ9が接続される一方、前記注水パイプ9の中間域には、薬剤タンクからの薬剤添加パイプが接続され、前記一次タンクは上部で前記二次タンクに接続され、前記二次タンクの上部には、各バラストタンクに注水するバラストポンプ15およびバラスト配管が接続され、前記一次タンクと前記二次タンクの底部には、それぞれ沈殿物を投棄する投棄ポンプが設けられた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各バラストタンクに注水する前工程として、一または二以上のトリートメントタンクを設け、水生生物などを処理する船舶バラスト水処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶は両舷にいくつかに区切られ海水を注排水するバラストタンクを有する。バラストタンクに注排水されるバラスト水は、積荷を降ろした船舶が、航行中にプロペラが海水面上に出ることを防ぎ、また、船舶を安定させて安全な航海を行うために、バラストタンクに注排水される海水を称し、タンカーやコンテナ船など、さまざまな貨物を運ぶ船舶にとって必要不可欠なものである。しかしながら、このような働きをするバラスト水は、貨物を積み込む港で排水され、この時に排水されるバラスト水は、貨物を積み込んだ場所の海水に含まれる細菌や水生生物なども一緒に排出されてしまう、このため、バラスト水を排出する周辺海域の生態系に悪影響を及ぼしたり、漁業被害を与える等の問題点が指摘されている。
【0003】
このためバラスト水中に含まれる細菌や水生生物を処理する装置として、例えば、特開2007−130563号公報に開示のものが知られている。当該特開2007-130563号公報は、発明名称「バラスト水の利用システム」に係り、「バラストタンクに導入された海水や淡水などのバラスト水は船舶の運航の安全性より他の用途に使用できない問題があることに鑑み、・・・各種の用途に使用可能なバラスト水の利用システムを提供すること」を目的として(同公報段落番号0014および0015参照)、「海水又は淡水中の微生物や細菌類を処理する装置で且つ処理継続中に少なくとも1日1回の洗浄を必要とするバラスト水処理装置と、該バラスト水処理装置で処理されたバラスト水を貯留するバラストタンクとを有し、且つ前記バラスト水処理装置で処理されたバラスト処理水を貯留するサービスタンクを設け、該サービスタンク内のバラスト処理水を前記バラスト水処理装置の洗浄に供する」ことにより(同公報請求項1参照)、「装置の洗浄水を確保でき、各種の用途に使用可能なバラスト水の利用システムを提供することができる」という効果を奏するものである(同公報段落番号0024参照)。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1等に開示されるものは、バラスト水を単に装置の洗浄水として使用することができるようにしたに止まり、バラスト水処理としては不充分である。
【特許文献1】特開2007−130563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、船舶のバラスト水処理を充分なものとし、排出地の環境汚染、漁業被害等に影響を与えないバラスト水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本願請求項1に係る発明は、船舶のバラストポンプ室舷側または両舷側に設けられたトリートメントタンクからなるバラスト水処理装置であって、前記トリートメントタンクは、薬液投入および攪拌・凝集、沈殿分離を行う一次タンクと、沈殿分離を行う二次タンクとからなり、当該一次タンクには外部の海水を取り入れる注水ポンプおよび注水パイプが接続される一方、前記注水パイプの中間域には、薬剤タンクからの薬剤添加パイプが接続され、前記一次タンクは上部で前記二次タンクに接続され、前記二次タンクの上部には、各バラストタンクに注水するバラストポンプおよびバラスト配管が接続され、前記一次タンクと前記二次タンクの底部には、それぞれ沈殿物を投棄する投棄ポンプが設けられたことを特徴とする。
また、本願請求項2に係る発明は、前記請求項1に係るバラスト水処理装置において、前記薬剤タンクには、複合アルミナ・けい酸塩からなる薬剤が充填され、注水量に応じて予め定められた比率で、前記薬剤添加パイプを通じて前記一次タンクに添加され、噴射しながら攪拌する吐出口であるディフューザーによって混合攪拌がされるように構成されることを特徴とする。
さらに、本願請求項3に係る発明は、前記請求項1に係るバラスト水処理装置において、前記複合アルミナ・けい酸塩からなる薬剤は、酸化ケイ素SiOが50重量%、酸化カルシウムCaOが20重量%、酸化マルミニウムAlが20重量%、酸化鉄Feが5重量%と微量の鉱物性元素を主成分とする天然鉱物からなる薬剤であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るバラスト水処理装置によれば、バラスト水排出地における周辺海域の生態系に悪影響を及ぼしたり、漁業被害等を与えることがない。
また、船舶のバラストポンプ室の両側舷に所定のトリートメントタンクを設けるだけで、バラスト水の浄化処理が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係るバラスト水処理装置を実施するための最良の形態の実施例1を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は、本実施例1に係るバラスト水処理装置1に使用されるトリートメントタンク2の概略配置図である。図1に示されるように、本実施例1に係るバラスト水処理装置1は、バラストポンプ室3の両舷側にトリートメントタンク2、2を設け、さらに、当該トリートメントタンク2は、バラストポンプ15から各バラスト配管5を介して、各バラストタンク(図示外)に接続される。すなわち、各バラストタンク(図示外)にバラスト水を注水する際には、船外開口6、6から注水ポンプ4、4を介して、当該トリートメントタンク2、2に外部の海水を注水し、注水された海水は、前記両舷側に配置された前記トリートメントタンク2内に導かれ、当該トリートメントタンク2において、バラスト水処理が行われ、その後に各バラストタンク(図示外)に注水する構造を有する。
【0010】
図2は、当該トリートメントタンク2の構造を示す概略図であり、基本的には、図2に示されるように、薬液投入および攪拌・凝集を行う一次タンク7および沈殿分離を行う二次タンク8とからなる。すなわち、当該トリートメントタンク2には、前記注水ポンプ4によって外部の海水を取り入れ、注水パイプ9から未処理水が当該一次タンク7内に導かれる。当該注水パイプ9には、薬剤タンク10および薬剤添加パイプ11がその中間に接続され、さらに、当該注水パイプ9の先端には、注水の力で攪拌されるディフューザー12が接続される。
【0011】
また、前記薬剤タンク10には、複合アルミナ・けい酸塩からなる薬剤が充填され、注水量に応じて予め定められた比率で、前記薬剤添加パイプ11を通じて混合され、前記ディフューザー12によって混合攪拌がされるように構成される。具体的には、酸化ケイ素SiOが50重量%、酸化カルシウムCaOが20重量%、酸化マルミニウムAlが20重量%、酸化鉄Feが5重量%と微量の鉱物性元素を主成分とする天然鉱物からなる薬剤であり、これらの天然鉱物からなる複合アルミナ・けい酸塩には、本来的に鉱物性元素を微量に含み、これらの微量鉱物性元素が海水等に溶融されると、海水中の金属類や有機物と結合するに際して触媒的な役割を果たすことが知られている。すなわち、これらの天然鉱物からなるアルミナ・けい酸塩が水中に溶融すると、複合アルミナ・けい酸塩は、これらの微粒鉱物元素がイオン化し、酸性領域においては、陽イオンとして、また、アルカリ領域においては、陰イオンとして、両性に対するイオン交換能を有している。
【0012】
本実施例1に係るバラスト水処理装置1は、これらの特性を利用して注水された海水中に溶存する金属元素をイオン吸着させて、吸着して固定されたものを沈殿させ、それを外部に排出することによりバラスト水を清浄化しようというものである。
また、上述するように、前記鉱物性微量元素は、酸化触媒としての機能をも有するので、バラスト水中に水溶性有機物が存在する場合には、これらの水溶性有機物に吸着し、これも不溶性凝集体とするので、これも沈殿させ、上記と共に外部に排出する。
【0013】
これらの金属類の吸着および水溶性有機物の吸着の機序についてさらに詳しく説明すれば、鉱物性微量元素は、水中に有機物が存する場合には、水中の溶存酸素あるいは水分子の乖離状イオンによって、有機物酸化触媒として作用し、その一部が塩となって化合し、不溶性の凝固体を形成する。また、複合アルミナ・けい酸塩からなる薬剤中の酸化アルミニウムは、水酸化アルミニウムと重縮合され、イオン化して、重縮合アルミニウムとなり、水中の浮遊懸濁物質の粒子間の電位低下を促し、それらの粒子を崩壊・微粒子化し、疎水性の凝固体を形成する。
【0014】
これらの反応は、通常は、それぞれ単体で起こることは知られているが、本実施例1に係るバラスト水処理装置1に使用される複合アルミナ・けい酸塩からなる薬剤は、水中における不溶解成分のアルミナ・けい酸塩と溶解性成分の酸化アルミニウムとの双方を混在させて複合的に用いることにより、水中の金属元素類に対し、また、水溶性有機物に対して、相乗的に作用させ、水中浮遊物を凝集させる反応をいっそ促進させるものである。そして、その結果、凝集された結果を沈殿させ、それを外部に排出するようにしたものである。
これら複合アルミナ・けい酸塩からなる薬剤の添加量は、取り入れる海水中の浮遊物の量によって適宜調整して用いなければならないが、河川水および湖沼汚染水で実験したところによれば、1リットル中に80mgの当該複合アルミナ・けい酸塩薬剤を添加することにより、次のような清浄度が得られる。
【0015】
【表1】

【0016】
表1は、河川水、湖沼汚染水に本実施例1に使用する前記複合アルミナ・けい酸塩からなる薬剤を1リットル中に80mgを添加して、その生物的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T−N)、全りん(T−P)、浮遊物質量(SS)を測定したものである。これらの数値が低いほど、生態系に与える影響は少なく、バラスト水処理に使用した場合には、バラスト水排出地における周辺海域の生態系に悪影響を及ぼしたり、漁業被害等を与えることがないことを示している。
また、同様に、産業廃棄物埋め立て処分地流出汚濁水に対しても、1リットル当たり130mgの本実施例1に使用する前記複合アルミナ・けい酸塩からなる薬剤を添加して、同様に、添加後の生物的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T−N)、全りん(T−P)、浮遊物質量(SS)を測定したところ、次のような清浄度が得られることを知り得た。
【0017】
【表2】

【0018】
すなわち、ここでも生物的酸素要求量(BOD)、化学的酸素要求量(COD)、全窒素(T−N)、全りん(T−P)、浮遊物質量(SS)の値が格段に減少し、生態系に対して低負荷であることを示し、バラスト水処理に使用した場合には、バラスト水排出地における周辺海域の生態系に悪影響を及ぼしたり、漁業被害等を与えることがないことを示している。
【0019】
次に、本実施例1に係るバラスト水処理装置1に上記複合アルミナ・けい酸塩からなる薬剤添加して海水中の浮遊物を凝集固定させ、所定の沈殿後に、それを船外に排出するバラスト水処理の過程について説明する。
【0020】
図2に示すように、前記船外開口6、6から外部の海水を前記注水ポンプ4を介して注水パイプ9から前記トリートメントタンク2の一次タンク7内に導き、前記薬剤タンク10および薬剤添加パイプ11を介して、前記複合アルミナ・けい酸塩からなる薬剤を添加し、前記ディフューザー12で攪拌する。前記複合アルミナ・けい酸塩からなる薬剤は、攪拌時間数分で溶融し、イオン化され、取り込まれた海水中の金属元素を凝集・吸着させ、また、有機物浮遊物を凝集・吸着させ、不溶化・固定化する。不溶化・固定化された結果の凝集・吸着個体は下方に沈殿し、上方には、浄化された海水が滞留する。そこで、当該一次タンク7に滞留する海水を前記一次タンク7の上部開口13から移行パイプ14を介して前記二次タンク8内に移行させる。二次タンク8内に移行された浄化された海水は、なお、上記複合アルミナ・けい酸塩からなる薬剤が溶融しているので、移行によってさらに攪拌され、前記一次タンク7内で行われたと同様の凝集・吸着および沈殿が行われ、前記二次タンク8内で、海水中の金属元素を凝集・吸着させ、また、有機物浮遊物を凝集・吸着させ、それらを不溶化・固定化する。不溶化・固定化された結果の凝集・吸着個体は下方に沈殿し、一次タンク7内と同様に、上方には、浄化された海水が滞留することとなる。
【0021】
そこで、上方の浄化された海水をバラストポンプ15を介して、前記各バラスト配管5を介して、各バラストタンク(図示外)に注水・張り込みされる。
一方、前記一次タンク7および二次タンク8内に沈殿した不溶化・固定化さらた凝集・吸着個体は、適宜、投棄用ポンプ16から船外に排出される。
船外に排出される凝集・吸着個体は、前記船外開口6、6から船舶が停泊する地域の海水に浮遊するものに天然鉱物を主体とした複合アルミナ・けい酸塩からなる薬剤にて吸着・凝集させただけのものであり、他の化学処理を行うものではないため、国際海事機関で定めるバラスト水排出基準(D−2)にも適合する。
【0022】
すなわち、本発明に係るバラスト水処理装置によれば、バラスト水排水地で取り入れた海水を水中に浮遊する物質を天然鉱物を主体とした複合アルミナ・けい酸塩で吸着・凝集させるだけでそのまま排出するので、周辺海域の生態系に悪影響を及ぼしたり、漁業被害等を与えることがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本実施例1に係るバラスト水処理装置1に使用されるトリートメントタンク2の概略配置図、
【図2】図2は、当該トリートメントタンク2の構造を示す概略図
【符号の説明】
【0024】
1 バラスト水処理装置
2 トリートメントタンク
3 バラストポンプ室
4 注水ポンプ
5 バラスト配管
6 船外開口
7 一次タンク
8 二次タンク
9 注水パイプ
10 薬剤タンク
11 薬剤添加パイプ
12 ディフューザー
13 上部開口
14 移行パイプ
15 バラストポンプ
16 投棄用ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶のバラストポンプ室舷側または両舷側に設けられたトリートメントタンクからなるバラスト水処理装置であって、
前記トリートメントタンクは、薬液投入および攪拌・凝集、沈殿分離を行う一次タンクと、沈殿分離を行う二次タンクとからなり、
当該一次タンクには外部の海水を取り入れる注水ポンプおよび注水パイプが接続される一方、前記注水パイプの中間域には、薬剤タンクからの薬剤添加パイプが接続され、
前記一次タンクは上部で前記二次タンクに接続され、前記二次タンクの上部には、各バラストタンクに注水するバラストポンプおよびバラスト配管が接続され、前記一次タンクと前記二次タンクの底部には、それぞれ沈殿物を投棄する投棄ポンプが設けられたことを特徴とする船舶バラスト水処理装置。
【請求項2】
前記薬剤タンクには、複合アルミナ・けい酸塩からなる薬剤が充填され、注水量に応じて予め定められた比率で、前記薬剤添加パイプを通じて前記一次タンクに添加され、噴射しながら攪拌する吐出口であるディフューザーによって混合攪拌がされるように構成されることを特徴とする請求項1に記載の船舶バラスト水処理装置。
【請求項3】
前記複合アルミナ・けい酸塩からなる薬剤は、酸化ケイ素SiOが50重量%、酸化カルシウムCaOが20重量%、酸化マルミニウムAlが20重量%、酸化鉄Feが5重量%と微量の鉱物性元素を主成分とする天然鉱物からなる薬剤であることを特徴とする請求項1に記載の船舶バラスト水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−285525(P2009−285525A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137604(P2008−137604)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000146814)株式会社新来島どっく (101)
【Fターム(参考)】