船舶操船装置
【課題】操作手段の斜航成分決定部と回頭成分決定部とを同時に操作したときに、滑らかな操作が可能となり、操作感を向上させることができる船舶操船装置を提供する。
【解決手段】船舶操船装置において、制御装置は、ジョイスティックによる操作量から、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの斜航のための斜航成分推進力ベクトルTAtrans、TBtransと、回頭のための回頭成分推進力ベクトルTArot.TBrotとをそれぞれ演算するとともに、左右のそれぞれのアウトドライブ装置10A・10Bの斜航成分推進力ベクトルTAtrans,TBtransと回頭成分推進力ベクトルTArot,TBrotを合成して合成ベクトルを算出し、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの推進力と方向とを演算する。
【解決手段】船舶操船装置において、制御装置は、ジョイスティックによる操作量から、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの斜航のための斜航成分推進力ベクトルTAtrans、TBtransと、回頭のための回頭成分推進力ベクトルTArot.TBrotとをそれぞれ演算するとともに、左右のそれぞれのアウトドライブ装置10A・10Bの斜航成分推進力ベクトルTAtrans,TBtransと回頭成分推進力ベクトルTArot,TBrotを合成して合成ベクトルを算出し、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの推進力と方向とを演算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶操船装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、船体内部に左右一対のエンジンを配置し、船体外部に配置された左右一対のアウトドライブ装置へ動力を伝達する船内外機(インボートエンジン・アウトボートドライブ)を有する船舶が知られている。アウトドライブ装置は、スクリュープロペラを回転することによって船体を推進させる推進装置であり、船体の進行方向に対して回動することによって該船体を旋回させる舵装置でもある。
【0003】
このようなアウトドライブ装置は、該アウトドライブ装置に設けられた操舵用油圧アクチュエータによって左右方向に回動される(例えば特許文献1参照。)。そして、アウトドライブ装置の回動角度、即ち、舵角度は、このアウトドライブ装置を構成するリンク機構に取り付けられた角度検出センサ等の検出結果に基づいて把握される。
また、船舶は船舶の進行方向を設定する操作手段を有する。船舶は、操作手段で設定した方向に進行するように制御装置によって制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−285486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
操作手段は、斜航成分決定部と回頭成分決定部とを有する。従来、斜航成分決定部と回頭成分決定部とを同時に操作したときに、優先度が設定されていなかったため、船体の動きが不自然となり、滑らかな操船が行えなかった。
【0006】
本発明はかかる課題に鑑み、操作手段の斜航成分決定部と回頭成分決定部とを同時に操作したときに、滑らかな操作が可能となり、操作感を向上させることができる船舶操船装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、左右一対のエンジンと、前記左右一対のエンジンの回転数をそれぞれ独立して変更する回転数変更アクチュエータと、前記左右一対のエンジンにそれぞれ接続されて、スクリュープロペラを回転させることによって船体を推進させる左右一対のアウトドライブ装置と、前記エンジンとスクリュープロペラとの間に配設される前後進切換クラッチと、前記左右一対のアウトドライブ装置をそれぞれ独立して左右方向に所定角度範囲内で回動させる左右一対の操舵用アクチュエータと、船舶の進行方向を設定する操作手段と、前記操作手段の操作量を検出する操作量検出手段と、前記操作手段で設定した方向に進行するように、前記回転数変更アクチュエータと前後進切換クラッチと操舵用アクチュエータを制御するための制御装置と、を備える船舶操船装置において、前記制御装置は、前記操作手段による操作量から、左右のアウトドライブ装置の斜航のための斜航成分推進力ベクトルと、回頭のための回頭成分推進力ベクトルとをそれぞれ演算するとともに、前記左右のそれぞれのアウトドライブ装置の斜航成分推進力ベクトルと回頭成分推進力ベクトルを合成して合成ベクトルを算出し、左右のアウトドライブ装置の推進力と方向とを演算するものである。
【0009】
請求項2においては、前記合成ベクトルの方向が、前記アウトドライブ装置の前記所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、前記アウトドライブ装置が所定の限界角度モードとなるように制御し、エンジン回転数を設定回転数に減少するものである。
【0010】
請求項3においては、前記合成ベクトルの方向が、前記アウトドライブ装置の前記所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、前記アウトドライブ装置の回動角度を所定の限界角度の状態で固定するものである。
【0011】
請求項4においては、前記合成ベクトルの方向が、前記アウトドライブ装置の前記所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、合成ベクトルの方向と船体左右方向とで形成された劣角が減少するにつれてエンジンの回転数を減少させるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、斜航成分推進力ベクトルと回頭成分推進力ベクトルとに基づき合成ベクトルを算出することにより、斜航成分推進力ベクトルのみに基づき左右のアウトドライブ装置の推進力と方向とを演算したあと、回頭成分推進力ベクトルのみに基づき左右のアウトドライブ装置の推進力と方向とを演算した場合と比較して、滑らかな操作が可能となり、操作感が向上する。また、斜航成分推進力と回頭成分推進力を独立して制御できるため、それぞれの成分が干渉しあわず、回頭操作入力時に発生する回頭モーメントが、斜航操作入力に依存せずいつでも同じ特性となる。これにより、本制御を搭載した船舶では、回頭方向の補正の精度が向上する。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、合成ベクトルの方向がアウトドライブ装置の所定の角度範囲を越えていた場合であっても、アウトドライブ装置の操舵補正を行うことが可能となる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、合成ベクトルの方向がアウトドライブ装置の所定の角度範囲を越えていた場合に、アウトドライブ装置の回動角度の頻繁な変更や正逆回転の頻繁な切換を防止することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、合成ベクトルの方向がアウトドライブ装置の所定の角度範囲を越えていた場合に、アウトドライブ装置の正逆回転の切換を滑らかに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る船舶を示す図。
【図2】本発明の一実施形態に係るアウトドライブ装置を示す左側面一部断面図。
【図3】本発明の一実施形態に係るアウトドライブ装置を示す右側面一部断面図。
【図4】操作装置を示す図。
【図5】制御装置を示すブロック図。
【図6】左右のアウトドライブ装置の推進力と方向の演算方法を示すフローチャート図。
【図7】(A)アウトドライブ装置の斜航成分推進力ベクトルを示す図(B)同じく回頭成分推進力ベクトルを示す図(C)同じく合成ベクトルを示す図。
【図8】アウトドライブ装置の回動角度を示す平面図。
【図9】アウトドライブ装置の合成ベクトルの角度と回動角度との関係を示すグラフ図。
【図10】アウトドライブ装置の回動角度を示す平面図。
【図11】アウトドライブ装置の回動角度とエンジン回転数の減少率との関係を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明の一実施形態に係る船舶操船装置について説明する。
船舶操船装置1は、図1、図2及び図3に示すように、左右一対のエンジン3A・3Bと、左右一対のエンジン3A・3Bのエンジン回転数NA・NBをそれぞれ独立して変更する回転数変更アクチュエータ4A・4Bと、左右一対のエンジン3A・3Bにそれぞれ接続されて、スクリュープロペラ15A・15Bを回転させることによって船体2を推進させる左右一対のアウトドライブ装置10A・10Bと、エンジン3A・3Bとスクリュープロペラ15A・15Bとの間に配設される前後進切換クラッチ16A・16Bと、左右一対のアウトドライブ装置10A・10Bをそれぞれ独立して左右方向に回動させる左右一対の操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bと、油圧アクチュエータ17A・17B内の油圧を調整するための電磁弁17Aa・17Baと、船舶の進行方向を設定する操作手段としてのジョイスティック21、アクセルレバー22A・22B、及び操作ハンドル23、ジョイスティック21の操作量を検出する操作量検出手段としての操作量検出センサ39(図5参照)と、アクセルレバー22A・22Bの操作量を検出する操作量検出手段としての操作量検出センサ43A・43B(図5参照)と、操作ハンドル23の操作量を検出する操作量検出手段としての操作量検出センサ44(図5参照)と、ジョイスティック21、アクセルレバー22A・22B、及び操作ハンドル23、で設定した方向に進行するように、回転数変更アクチュエータ4A・4Bと前後進切換クラッチ16A・16Bと操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bと、電磁弁17Aa・17Baとを制御するための制御装置31(図5参照)と、を備える。
【0019】
エンジン3A・3Bは、船体2後部に左右一対で配置されており、船外に配置されたアウトドライブ装置10A・10Bと接続されている。エンジン3A・3Bは、回転動力を出力するための出力軸41A・41Bを有する。
回転数変更アクチュエータ4A・4Bは、エンジン回転数を制御する手段であり、燃料噴射装置の燃料噴射量等を変更してエンジン3A・3Bのエンジン回転数を制御可能としている。
【0020】
アウトドライブ装置10A・10Bは、スクリュープロペラ15A・15Bを回転させることによって船体2を推進させる推進装置であり、船体2後方外部に左右一対で設けられている。左右一対のアウトドライブ装置10A・10Bはそれぞれ左右一対のエンジン3A・3Bと接続されている。また、アウトドライブ装置10A・10Bは、船体2の進行方向に対して回動することによって船体2を旋回させる舵装置でもある。アウトドライブ装置10A・10Bは、主に入力軸11A・11Bと、前後進切換クラッチ16A・16Bと、駆動軸13A・13Bと、最終出力軸14A・14Bと、スクリュープロペラ15A・15Bと、から構成される。
【0021】
入力軸11A・11Bは、回転動力の伝達を行うものである。詳細には、入力軸11A・11Bは、エンジン3A・3Bの出力軸41A・41Bからユニバーサルジョイント5A・5Bを介して伝達されたエンジン3A・3Bの回転動力を前後進切換クラッチ16A・16Bに伝達する回転軸である。入力軸11A・11Bの一端部は、エンジン3A・3Bの出力軸41A・41Bに取り付けられたユニバーサルジョイント5A・5Bと連結され、その他端部は、前後進切換クラッチ16A・16Bと連結される。
【0022】
前後進切換クラッチ16A・16Bは、エンジン3A・3Bとスクリュープロペラ15A・15Bとの間に配置されており、回転動力の回転方向を切り換えるものである。詳細には、前後進切換クラッチ16A・16Bは、入力軸11A・11B等を介して伝達されたエンジン3A・3Bの回転動力を正回転方向又は逆回転方向に切換可能とする回転方向切換装置である。前後進切換クラッチ16A・16Bは、ディスクプレートを備えたインナードラムと連結された正回転用ベベルギア、ならびに、逆回転用ベベルギアを有し、入力軸11A・11Bに連結されたアウタードラムのプレッシャープレートをいずれのディスクプレートに押し付けるかによって回転方向の切り換えが行なわれる。
【0023】
駆動軸13A・13Bは、回転動力の伝達を行なうものである。詳細には、駆動軸13A・13Bは、前後進切換クラッチ16A・16B等を介して伝達されたエンジン3A・3Bの回転動力を最終出力軸14A・14Bに伝達する回転軸である。駆動軸13A・13Bの一端部に設けられたベベルギアは、前後進切換クラッチ16A・16Bに設けられた正回転用ベベルギア、ならびに、逆回転用ベベルギアと歯合され、その他端部に設けられたベベルギアは、最終出力軸14A・14Bのベベルギアと歯合される。
【0024】
最終出力軸14A・14Bは、回転動力の伝達を行うものである。詳細には、最終出力軸14A・14Bは、駆動軸13A・13B等を介して伝達されたエンジン3A・3Bの回転動力をスクリュープロペラ15A・15Bに伝達する回転軸である。最終出力軸14A・14Bの一端部に設けられたベベルギアは、上述したように駆動軸13A・13Bのベベルギアと歯合され、その他端部には、スクリュープロペラ15A・15Bが取り付けられている。
【0025】
スクリュープロペラ15A・15Bは、回転することによって推進力を発生させるものである。詳細には、スクリュープロペラ15A・15Bは、最終出力軸14A・14B等を介して伝達されたエンジン3A・3Bの回転動力によって駆動され、回転軸周りに配置された複数枚のブレードが周囲の水をかくことによって推進力を発生させる。
【0026】
操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bは、アウトドライブ装置10A・10Bの操舵アーム18A・18Bを駆動してアウトドライブ装置10A・10Bを回動させる油圧装置である。操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bには、油圧を調整するための電磁弁17Aa・17Baが設けられており、電磁弁17Aa・17Baは、制御装置31に接続されている。
操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bは、いわゆる片ロッド型の油圧アクチュエータとされるが、両ロッド型であっても良い。
【0027】
操作手段としてのジョイスティック21は、船舶の進行方向を決定する装置であり、船体2の操縦席付近に設けられている。ジョイスティック21の平面操作面が斜航成分決定部21aであり、ねじり操作面が回頭成分決定部21bである。
ジョイスティック21は、図4に示すX−Y平面と平行な操作面内を自在に動けるものとし、操作面内の中心を中立原点とする。操作面内の前後左右方向は、進行方向と対応し、ジョイスティック21の傾斜量が目標船速と対応する。ジョイスティック21の傾斜量が増加するにつれて、目標船速は増加する。
また、ジョイスティック21はねじり操作面が設けられており、平面操作面から略垂直に延びるZ軸を旋回軸としてねじることにより、回頭速度を変更させることができる。ジョイスティック21のねじり量が目標回頭速度と対応する。また、ジョイスティック21の一定ねじり角位置において左右の最大目標回頭速度を設定する。
【0028】
操作手段としてのアクセルレバー22A・22Bは、船舶の目標船速を決定する装置であり、船体2の操縦席付近に設けられている。アクセルレバー22A・22Bは、左右のエンジン3A・3Bにそれぞれ対応するように二つ設けられており、一方のアクセルレバー22Aが操作されることにより、エンジン3Aの回転数が変更されるとともに、他方のアクセルレバー22Bが操作されることにより、エンジン3Bの回転数が変更される。
【0029】
操作手段としての操作ハンドル23は、船舶の進行方向を決定する装置であり、船体2の操縦席付近に設けられている。操作ハンドル23の回動量が増加するにつれて進行方向が大きく変化する。
【0030】
補正制御開始スイッチ42(図5参照)は、船体2の回頭動作の補正制御を開始するスイッチである。
補正制御開始スイッチ42は、ジョイスティック21の近傍に設けられており、制御装置31と接続されている。
【0031】
次に、各種検出手段について、図5を用いて説明する。
回転数検出手段としての回転数検出センサ35A・35Bは、エンジン3A・3Bのエンジン回転数NA・NBを検出するための手段であり、エンジン3A・3Bに設けられている。
迎角検出手段としての迎角センサ36は、船体2の迎角αを検出するための手段である。迎角とは、水中の船体が、流れに対してどれだけ傾いているかという角度を表すものである。
船速検出手段としての船速センサ37は、船速Vを検出するための手段であり、例えば、電磁ログやドップラーソナー、GPSなどである。
左右回動角度検出手段としての左右回動角度検出センサ38A・38Bは、アウトドライブ装置10A・10Bの左右の回動角度θA、θBを検出するための手段である。左右回動角度検出センサ38A・38Bは、操舵用油圧アクチュエータ17A・17B近傍に設けられており、操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bの駆動量に基づいて、アウトドライブ装置10A・10Bの左右の回動角度θA、θBを検出する。
操作量検出手段としての操作量検出センサ39は、ジョイスティック21の平面操作面での操作量及びねじり操作面での操作量を検出するセンサである。操作量検出センサ39は、ジョイスティック21の傾倒角度及び傾倒方向を検出する。また、操作量検出センサ39は、ジョイスティック21の旋回軸を中心としたねじり量を検出する。
操作量検出手段としての操作量検出センサ43A・43Bは、アクセルレバー22A・22Bの操作量を検出するセンサである。操作量検出センサ43A・43Bは、アクセルレバー22A・22Bの傾倒角度を検出する。
操作量検出手段としての操作量検出センサ44は、操作ハンドル23の操作量を検出するセンサである。操作量検出センサ44は、操作ハンドル23の回転量を検出する。
アウトドライブ装置10A・10Bの回転数検出手段としてのアウトドライブ装置用回転数検出センサ40A・40Bは、アウトドライブ装置10A・10Bのスクリュープロペラ15A・15Bの回転数を検出するセンサであり、最終出力軸14A・14B中途部に設けられている。アウトドライブ装置用回転数検出センサ40A・40Bはアウトドライブ装置回転数NDA、NDBを検出する。
【0032】
制御装置31は、ジョイスティック21で設定した方向に船舶が進行するように回転数変更アクチュエータ4A・4Bと前後進切換クラッチ16A・16Bと操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bとを制御するための装置である。制御装置31は、回転数変更アクチュエータ4A・4B、前後進切換クラッチ16A・16B、操舵用油圧アクチュエータ17A・17B、電磁弁17Aa・17Ba、ジョイスティック21、アクセルレバー22A・22B、操作ハンドル23、回転数検出センサ35A・35B、迎角センサ36、船速センサ37、左右回動角度検出センサ38A・38B、操作量検出センサ39、操作量検出センサ43A・43B、操作量検出センサ44及びアウトドライブ装置用回転数検出センサ40A・40Bとそれぞれ接続される。制御装置31は、CPU(中央演算処理装置)からなる演算手段32や、ROM、RAM、HDD等の記憶手段33から構成されている。
【0033】
次に、制御装置31による、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの推進力と方向とを演算する方法について図6を用いて説明する。
まず、ジョイスティック21の操作量を検出し(ステップS10)、ジョイスティック21の操作量から左右のアウトドライブ装置10A・10Bの斜航のための斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransと、回頭のための回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotとをそれぞれ演算する(ステップS20)。
ジョイスティック21の操作量は、ジョイスティック21の傾倒角度、傾倒方向及びねじり量であり、それぞれ操作量検出センサ39によって検出される。そして、これらの操作量に基づき、制御装置31は、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの斜航のための斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransと、回頭のための回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotとをそれぞれ演算する。図7(A)に示すように、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransが算出される。また、図7(B)に示すように、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotが算出される。
【0034】
次に、左右のそれぞれのアウトドライブ装置10A・10Bの斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransと回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotを合成し、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの推進力と方向とをそれぞれ演算する(ステップS30)。
図7(C)に示すように、ステップS20で算出した、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtrans、回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotを合成したベクトルTA・TBをそれぞれ算出する。
【0035】
次に、前記合成したベクトルTA・TBのノルムに基づいて、制御装置31は、左右のエンジン3A・3Bの回転数Nをそれぞれ算出し(ステップS40)、前後進切換クラッチ16A・16Bを切り換えて、左右のエンジン3A・3Bを駆動し、合成したベクトルTA・TBの方向に基づいて左右のアウトドライブ装置10A・10Bの左右の回動角度θA・θBをそれぞれ算出し(ステップS50)、操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bを駆動する。
【0036】
次にステップS50の回動角度θA・θB算出における、左右一対のアウトドライブ装置10A・10Bの左右の回動角度の制限処理について説明する。左右一対のアウトドライブ装置10A・10Bのそれぞれについて同様の処理をするので、ここでは、一つのアウトドライブ装置10Aの左右の回動角度の制限処理について説明する。
【0037】
前記フローチャートのステップS50において合成ベクトルTAの角度(方向)βが、アウトドライブ装置10Aの所定の角度範囲を越えた範囲にある場合に、アウトドライブ装置10Aが所定の限界角度モードとなるように制御する。
ここで、所定の角度範囲とは、図8の斜線で示された範囲であって、アウトドライブ装置10Aを回動できる角度範囲である。つまり、操舵用油圧アクチュエータ17Aは、油圧シリンダで構成しているため、回動できる範囲に限界があるため設けられる。この所定角度範囲をθ1、限界角度をαとすると、後方を0°とした場合に、−α<θ1≦αである。また、エンジン3Aの回転は前後進切換クラッチ16Aにより正逆切換が可能となるので前方、言い換えれば180°(−180°)を中心として左右の角度−180°<θ1≦−180°−(−α)、180°−α<θ1≦180°となる。例えばαが30°であった場合には、−180°<θ1≦−150、−30°<θ1≦30°、150°<θ1≦180°が所定の角度範囲となる。
【0038】
次に、限界角度モードについて説明する。
限界角度モードにおいては、ジョイスティック21の操作に対してなめらかに動作するように、推力を減少して駆動する。つまり、エンジン回転数NAを設定回転数Nsetに減少する。また、限界角度モードにおいては、アウトドライブ装置10Aの回動角度θAを所定の限界角度の状態で固定する。具体的には、制御装置31によって決定された合成ベクトルTAの角度(方向)βによって、アウトドライブ装置10Aの左右の回動角度θAが決定される。図9に示すように、合成ベクトルTAの角度βをX軸にとり、アウトドライブ装置10Aの左右の回動角度θAをY軸に取った場合、合成ベクトルTの角度βが−180°−(−α)<β≦―90°の範囲にあれば、アウトドライブ装置10Aの左右の回動角度θAは−180°−(−α)となる。また、合成ベクトルTの角度βが−90°<β≦−αの範囲にあれば、アウトドライブ装置10Aの左右の回動角度θAは(−α)となる。また、合成ベクトルTAの角度βがα<β≦90°の範囲にあれば、アウトドライブ装置10Aの左右の回動角度θAはαとなる。また、合成ベクトルTAの角度βが90°<β≦180°−αの範囲にあれば、アウトドライブ装置10Aの左右の回動角度θAは180°−αとなる。
【0039】
また、図9に示すように、限界角度モードにおいては、アウトドライブ装置10Aの回動角度θAが頻繁に変化するのを防止するための遊び幅(ヒステリシス)が設定されている。
合成ベクトルTAの角度βが−180°−(−α)<β≦―90°の範囲にあった際には、合成ベクトルTAの角度βが−90°+γより大きくなったときに、アウトドライブ装置10Aの回動角度θAは(−α)となる。また、合成ベクトルTAの角度βが−90°<β≦−αの範囲にあった際に、合成ベクトルTAの角度βが−90°−γ以下となったときに、アウトドライブ装置10Aの回動角度θAは−180°−(−α)となる。
合成ベクトルTAの角度βがα<β≦90°の範囲にあった際には、合成ベクトルTAの角度βが90°+γより大きくなったときに、アウトドライブ装置10Aの回動角度θAは180°−αとなる。また、合成ベクトルTAの方向βが90°<β≦180°−αの範囲にあった際に、合成ベクトルTAの方向が90°−γ以下となったときに、アウトドライブ装置10Aの回動角度θAはαとなる。
【0040】
また、限界角度モードにおいて、合成ベクトルTAの方向と船体2の左右方向とで形成された劣角が減少するにつれてエンジン3Aのエンジン回転数NAを減少させる構成とすることもできる。合成ベクトルTAの方向と船体左右方向(90°及び−90°)とで形成された角度が減少するにつれて、すなわち、合成ベクトルTAの角度βが90°若しくは−90°に近づくにつれてエンジン3Aのエンジン回転数NAを減少させるものである。
【0041】
図10及び図11に示すように、限界角度モードにおいて、エンジン3Aの回転減少率を上昇させることにより、エンジン回転数NAを減少させる。
図10において、斜線で示された領域が、エンジン回転数NAを徐々に減少させる回転数減少領域であり、色付きで示された領域が、エンジン回転数NAの減少率が100%となる領域である減少率100%領域である。
具体的には、図11に示すように、−180°−(−α)より大きくΦ1以下であれば、合成ベクトルTAの角度βが増加するにつれて減少率が上昇し、Φ1において減少率は100%、すなわち、エンジン回転数NAがローアイドル回転数となる。
合成ベクトルTAの角度βがΦ1より大きくΦ2以下であれば、減少率は100%のまま維持される。
また、合成ベクトルTAの角度βがΦ2より大きく−α以下であれば、角度βが増加するにつれて減少率は低下し、−αにおいて減少率は0%、すなわち、エンジン回転数NAはステップS40で算出されたエンジン回転数となる。
ここで、Φ1とΦ2とは、−90°を挟んで線対称にある角度であり、例えば、Φ1が−100°であればΦ2は−80°である。
【0042】
また、合成ベクトルTAの角度βがαよりも大きくΦ3以下であれば、角度βが増加するにつれて減少率が上昇し、Φ3において減少率は100%、すなわち、エンジン回転数NAがローアイドル回転数となる。
合成ベクトルTAの角度βがΦ3より大きくΦ4以下であれば、減少率は100%のまま維持される。
合成ベクトルTAの角度βがΦ4よりも大きく180°−α以下であれば、角度βが増加するにつれて減少率は低下し、180°−αにおいて減少率は0%、すなわち、ステップS40で算出されたエンジン回転数となる。
ここで、Φ3とΦ4とは、90°を挟んで線対称にある角度であり、例えば、Φ3が80°であればΦ4は100°である。
また、Φ1、Φ2、Φ3、Φ4は適宜数値を変更することも可能である。但し、−180°−(−α)≦Φ1<−90°、−90°≦Φ2<−α、α≦Φ3<90°、90°≦Φ4<180°−αを満たすことが必要である。
【0043】
以上のように、左右一対のエンジン3A・3Bと、左右一対のエンジン3A・3Bのエンジン回転数Nをそれぞれ独立して変更する回転数変更アクチュエータ4A・4Bと、左右一対のエンジン3A・3Bにそれぞれ接続されて、スクリュープロペラ15A・15Bを回転させることによって船体2を推進させる左右一対のアウトドライブ装置10A・10Bと、エンジン3A・3Bとスクリュープロペラ15A・15Bとの間に配設される前後進切換クラッチ16A・16Bと、左右一対のアウトドライブ装置10A・10Bをそれぞれ独立して左右方向に所定角度範囲内で回動させる左右一対の操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bと、船舶の進行方向を設定するジョイスティック21と、ジョイスティック21の操作量を検出する操作量検出センサ39と、ジョイスティック21で設定した方向に進行するように、回転数変更アクチュエータ4A・4Bと前後進切換クラッチ16A・16Bと操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bを制御するための制御装置31と、を備える船舶操船装置1において、制御装置31は、操作装置21による操作量から、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの斜航のための斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransと、回頭のための回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotとをそれぞれ演算するとともに、左右のそれぞれのアウトドライブ装置10A・10Bの斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransと回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotを合成して合成ベクトルTA・TBを算出し、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの推進力と方向とを演算するものである。
このように構成することにより、斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransと回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotとに基づき合成ベクトルTA・TBを算出することにより、斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransのみに基づき左右のアウトドライブ装置10A・10Bの推進力と方向とを演算したあと、回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotのみに基づき左右のアウトドライブ装置10A・10Bの推進力と方向とを演算した場合と比較して、最終的な推進力と方向とを演算することができるので、優先度を設定せずとも滑らかな操作が可能となり、操作感が向上する。
【0044】
また、合成ベクトルTA(TB)の角度βが、アウトドライブ装置10A・10Bの所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、アウトドライブ装置10A・10Bが所定の限界角度モードとなるように制御し、エンジン回転数NA(NB)を設定回転数Nsetに減少するものである。
このように構成することにより、合成ベクトルTA(TB)の角度βがアウトドライブ装置10A(10B)の所定の角度範囲を越えていた場合であっても、アウトドライブ装置10A(10B)の操舵補正を行うことが可能となる。
【0045】
また、合成ベクトルTA(TB)の角度βが、アウトドライブ装置10A(10B)の所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、アウトドライブ装置10A(10B)の回動角度θA(θB)を所定の限界角度の状態で固定するものである。
このように構成することにより、合成ベクトルTA(TB)の角度がアウトドライブ装置10A(10B)の所定の角度範囲を越えていた場合に、アウトドライブ装置10A(10B)の回動角度の頻繁な変更や正逆回転の頻繁な切換を防止することができる。
【0046】
また、合成ベクトルTA(TB)の角度βが、アウトドライブ装置10A(10B)の所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、合成ベクトルTA(TB)の方向βと船体左右方向とで形成された劣角が減少するにつれてエンジン3A(3B)のエンジン回転数NA(NB)を減少させるものである。
このように構成することにより、合成ベクトルTA(TB)の角度がアウトドライブ装置10A(10B)の所定の角度範囲を越えていた場合に、アウトドライブ装置10A(10B)の正逆回転の切換を滑らかに行うことができる。
【符号の説明】
【0047】
1 船舶操船装置
2 船体
3A・3B エンジン
4A・4B 回転数変更アクチュエータ
10A・10B アウトドライブ装置
15A・15B スクリュープロペラ
16A・16B 前後進切換クラッチ
17A・17B 操舵用油圧アクチュエータ
21 ジョイスティック(操作手段)
31 制御装置
39 操作量検出センサ(操作量検出手段)
TAtrans・TBtrans 斜航成分推進力ベクトル
TArot・TBrot 回頭成分推進力ベクトル
TA・TB 合成ベクトル
β 合成ベクトルの角度
θA・θB アウトドライブ装置の回動角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶操船装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、船体内部に左右一対のエンジンを配置し、船体外部に配置された左右一対のアウトドライブ装置へ動力を伝達する船内外機(インボートエンジン・アウトボートドライブ)を有する船舶が知られている。アウトドライブ装置は、スクリュープロペラを回転することによって船体を推進させる推進装置であり、船体の進行方向に対して回動することによって該船体を旋回させる舵装置でもある。
【0003】
このようなアウトドライブ装置は、該アウトドライブ装置に設けられた操舵用油圧アクチュエータによって左右方向に回動される(例えば特許文献1参照。)。そして、アウトドライブ装置の回動角度、即ち、舵角度は、このアウトドライブ装置を構成するリンク機構に取り付けられた角度検出センサ等の検出結果に基づいて把握される。
また、船舶は船舶の進行方向を設定する操作手段を有する。船舶は、操作手段で設定した方向に進行するように制御装置によって制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−285486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
操作手段は、斜航成分決定部と回頭成分決定部とを有する。従来、斜航成分決定部と回頭成分決定部とを同時に操作したときに、優先度が設定されていなかったため、船体の動きが不自然となり、滑らかな操船が行えなかった。
【0006】
本発明はかかる課題に鑑み、操作手段の斜航成分決定部と回頭成分決定部とを同時に操作したときに、滑らかな操作が可能となり、操作感を向上させることができる船舶操船装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、左右一対のエンジンと、前記左右一対のエンジンの回転数をそれぞれ独立して変更する回転数変更アクチュエータと、前記左右一対のエンジンにそれぞれ接続されて、スクリュープロペラを回転させることによって船体を推進させる左右一対のアウトドライブ装置と、前記エンジンとスクリュープロペラとの間に配設される前後進切換クラッチと、前記左右一対のアウトドライブ装置をそれぞれ独立して左右方向に所定角度範囲内で回動させる左右一対の操舵用アクチュエータと、船舶の進行方向を設定する操作手段と、前記操作手段の操作量を検出する操作量検出手段と、前記操作手段で設定した方向に進行するように、前記回転数変更アクチュエータと前後進切換クラッチと操舵用アクチュエータを制御するための制御装置と、を備える船舶操船装置において、前記制御装置は、前記操作手段による操作量から、左右のアウトドライブ装置の斜航のための斜航成分推進力ベクトルと、回頭のための回頭成分推進力ベクトルとをそれぞれ演算するとともに、前記左右のそれぞれのアウトドライブ装置の斜航成分推進力ベクトルと回頭成分推進力ベクトルを合成して合成ベクトルを算出し、左右のアウトドライブ装置の推進力と方向とを演算するものである。
【0009】
請求項2においては、前記合成ベクトルの方向が、前記アウトドライブ装置の前記所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、前記アウトドライブ装置が所定の限界角度モードとなるように制御し、エンジン回転数を設定回転数に減少するものである。
【0010】
請求項3においては、前記合成ベクトルの方向が、前記アウトドライブ装置の前記所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、前記アウトドライブ装置の回動角度を所定の限界角度の状態で固定するものである。
【0011】
請求項4においては、前記合成ベクトルの方向が、前記アウトドライブ装置の前記所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、合成ベクトルの方向と船体左右方向とで形成された劣角が減少するにつれてエンジンの回転数を減少させるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、斜航成分推進力ベクトルと回頭成分推進力ベクトルとに基づき合成ベクトルを算出することにより、斜航成分推進力ベクトルのみに基づき左右のアウトドライブ装置の推進力と方向とを演算したあと、回頭成分推進力ベクトルのみに基づき左右のアウトドライブ装置の推進力と方向とを演算した場合と比較して、滑らかな操作が可能となり、操作感が向上する。また、斜航成分推進力と回頭成分推進力を独立して制御できるため、それぞれの成分が干渉しあわず、回頭操作入力時に発生する回頭モーメントが、斜航操作入力に依存せずいつでも同じ特性となる。これにより、本制御を搭載した船舶では、回頭方向の補正の精度が向上する。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、合成ベクトルの方向がアウトドライブ装置の所定の角度範囲を越えていた場合であっても、アウトドライブ装置の操舵補正を行うことが可能となる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、合成ベクトルの方向がアウトドライブ装置の所定の角度範囲を越えていた場合に、アウトドライブ装置の回動角度の頻繁な変更や正逆回転の頻繁な切換を防止することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、合成ベクトルの方向がアウトドライブ装置の所定の角度範囲を越えていた場合に、アウトドライブ装置の正逆回転の切換を滑らかに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る船舶を示す図。
【図2】本発明の一実施形態に係るアウトドライブ装置を示す左側面一部断面図。
【図3】本発明の一実施形態に係るアウトドライブ装置を示す右側面一部断面図。
【図4】操作装置を示す図。
【図5】制御装置を示すブロック図。
【図6】左右のアウトドライブ装置の推進力と方向の演算方法を示すフローチャート図。
【図7】(A)アウトドライブ装置の斜航成分推進力ベクトルを示す図(B)同じく回頭成分推進力ベクトルを示す図(C)同じく合成ベクトルを示す図。
【図8】アウトドライブ装置の回動角度を示す平面図。
【図9】アウトドライブ装置の合成ベクトルの角度と回動角度との関係を示すグラフ図。
【図10】アウトドライブ装置の回動角度を示す平面図。
【図11】アウトドライブ装置の回動角度とエンジン回転数の減少率との関係を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明の一実施形態に係る船舶操船装置について説明する。
船舶操船装置1は、図1、図2及び図3に示すように、左右一対のエンジン3A・3Bと、左右一対のエンジン3A・3Bのエンジン回転数NA・NBをそれぞれ独立して変更する回転数変更アクチュエータ4A・4Bと、左右一対のエンジン3A・3Bにそれぞれ接続されて、スクリュープロペラ15A・15Bを回転させることによって船体2を推進させる左右一対のアウトドライブ装置10A・10Bと、エンジン3A・3Bとスクリュープロペラ15A・15Bとの間に配設される前後進切換クラッチ16A・16Bと、左右一対のアウトドライブ装置10A・10Bをそれぞれ独立して左右方向に回動させる左右一対の操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bと、油圧アクチュエータ17A・17B内の油圧を調整するための電磁弁17Aa・17Baと、船舶の進行方向を設定する操作手段としてのジョイスティック21、アクセルレバー22A・22B、及び操作ハンドル23、ジョイスティック21の操作量を検出する操作量検出手段としての操作量検出センサ39(図5参照)と、アクセルレバー22A・22Bの操作量を検出する操作量検出手段としての操作量検出センサ43A・43B(図5参照)と、操作ハンドル23の操作量を検出する操作量検出手段としての操作量検出センサ44(図5参照)と、ジョイスティック21、アクセルレバー22A・22B、及び操作ハンドル23、で設定した方向に進行するように、回転数変更アクチュエータ4A・4Bと前後進切換クラッチ16A・16Bと操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bと、電磁弁17Aa・17Baとを制御するための制御装置31(図5参照)と、を備える。
【0019】
エンジン3A・3Bは、船体2後部に左右一対で配置されており、船外に配置されたアウトドライブ装置10A・10Bと接続されている。エンジン3A・3Bは、回転動力を出力するための出力軸41A・41Bを有する。
回転数変更アクチュエータ4A・4Bは、エンジン回転数を制御する手段であり、燃料噴射装置の燃料噴射量等を変更してエンジン3A・3Bのエンジン回転数を制御可能としている。
【0020】
アウトドライブ装置10A・10Bは、スクリュープロペラ15A・15Bを回転させることによって船体2を推進させる推進装置であり、船体2後方外部に左右一対で設けられている。左右一対のアウトドライブ装置10A・10Bはそれぞれ左右一対のエンジン3A・3Bと接続されている。また、アウトドライブ装置10A・10Bは、船体2の進行方向に対して回動することによって船体2を旋回させる舵装置でもある。アウトドライブ装置10A・10Bは、主に入力軸11A・11Bと、前後進切換クラッチ16A・16Bと、駆動軸13A・13Bと、最終出力軸14A・14Bと、スクリュープロペラ15A・15Bと、から構成される。
【0021】
入力軸11A・11Bは、回転動力の伝達を行うものである。詳細には、入力軸11A・11Bは、エンジン3A・3Bの出力軸41A・41Bからユニバーサルジョイント5A・5Bを介して伝達されたエンジン3A・3Bの回転動力を前後進切換クラッチ16A・16Bに伝達する回転軸である。入力軸11A・11Bの一端部は、エンジン3A・3Bの出力軸41A・41Bに取り付けられたユニバーサルジョイント5A・5Bと連結され、その他端部は、前後進切換クラッチ16A・16Bと連結される。
【0022】
前後進切換クラッチ16A・16Bは、エンジン3A・3Bとスクリュープロペラ15A・15Bとの間に配置されており、回転動力の回転方向を切り換えるものである。詳細には、前後進切換クラッチ16A・16Bは、入力軸11A・11B等を介して伝達されたエンジン3A・3Bの回転動力を正回転方向又は逆回転方向に切換可能とする回転方向切換装置である。前後進切換クラッチ16A・16Bは、ディスクプレートを備えたインナードラムと連結された正回転用ベベルギア、ならびに、逆回転用ベベルギアを有し、入力軸11A・11Bに連結されたアウタードラムのプレッシャープレートをいずれのディスクプレートに押し付けるかによって回転方向の切り換えが行なわれる。
【0023】
駆動軸13A・13Bは、回転動力の伝達を行なうものである。詳細には、駆動軸13A・13Bは、前後進切換クラッチ16A・16B等を介して伝達されたエンジン3A・3Bの回転動力を最終出力軸14A・14Bに伝達する回転軸である。駆動軸13A・13Bの一端部に設けられたベベルギアは、前後進切換クラッチ16A・16Bに設けられた正回転用ベベルギア、ならびに、逆回転用ベベルギアと歯合され、その他端部に設けられたベベルギアは、最終出力軸14A・14Bのベベルギアと歯合される。
【0024】
最終出力軸14A・14Bは、回転動力の伝達を行うものである。詳細には、最終出力軸14A・14Bは、駆動軸13A・13B等を介して伝達されたエンジン3A・3Bの回転動力をスクリュープロペラ15A・15Bに伝達する回転軸である。最終出力軸14A・14Bの一端部に設けられたベベルギアは、上述したように駆動軸13A・13Bのベベルギアと歯合され、その他端部には、スクリュープロペラ15A・15Bが取り付けられている。
【0025】
スクリュープロペラ15A・15Bは、回転することによって推進力を発生させるものである。詳細には、スクリュープロペラ15A・15Bは、最終出力軸14A・14B等を介して伝達されたエンジン3A・3Bの回転動力によって駆動され、回転軸周りに配置された複数枚のブレードが周囲の水をかくことによって推進力を発生させる。
【0026】
操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bは、アウトドライブ装置10A・10Bの操舵アーム18A・18Bを駆動してアウトドライブ装置10A・10Bを回動させる油圧装置である。操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bには、油圧を調整するための電磁弁17Aa・17Baが設けられており、電磁弁17Aa・17Baは、制御装置31に接続されている。
操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bは、いわゆる片ロッド型の油圧アクチュエータとされるが、両ロッド型であっても良い。
【0027】
操作手段としてのジョイスティック21は、船舶の進行方向を決定する装置であり、船体2の操縦席付近に設けられている。ジョイスティック21の平面操作面が斜航成分決定部21aであり、ねじり操作面が回頭成分決定部21bである。
ジョイスティック21は、図4に示すX−Y平面と平行な操作面内を自在に動けるものとし、操作面内の中心を中立原点とする。操作面内の前後左右方向は、進行方向と対応し、ジョイスティック21の傾斜量が目標船速と対応する。ジョイスティック21の傾斜量が増加するにつれて、目標船速は増加する。
また、ジョイスティック21はねじり操作面が設けられており、平面操作面から略垂直に延びるZ軸を旋回軸としてねじることにより、回頭速度を変更させることができる。ジョイスティック21のねじり量が目標回頭速度と対応する。また、ジョイスティック21の一定ねじり角位置において左右の最大目標回頭速度を設定する。
【0028】
操作手段としてのアクセルレバー22A・22Bは、船舶の目標船速を決定する装置であり、船体2の操縦席付近に設けられている。アクセルレバー22A・22Bは、左右のエンジン3A・3Bにそれぞれ対応するように二つ設けられており、一方のアクセルレバー22Aが操作されることにより、エンジン3Aの回転数が変更されるとともに、他方のアクセルレバー22Bが操作されることにより、エンジン3Bの回転数が変更される。
【0029】
操作手段としての操作ハンドル23は、船舶の進行方向を決定する装置であり、船体2の操縦席付近に設けられている。操作ハンドル23の回動量が増加するにつれて進行方向が大きく変化する。
【0030】
補正制御開始スイッチ42(図5参照)は、船体2の回頭動作の補正制御を開始するスイッチである。
補正制御開始スイッチ42は、ジョイスティック21の近傍に設けられており、制御装置31と接続されている。
【0031】
次に、各種検出手段について、図5を用いて説明する。
回転数検出手段としての回転数検出センサ35A・35Bは、エンジン3A・3Bのエンジン回転数NA・NBを検出するための手段であり、エンジン3A・3Bに設けられている。
迎角検出手段としての迎角センサ36は、船体2の迎角αを検出するための手段である。迎角とは、水中の船体が、流れに対してどれだけ傾いているかという角度を表すものである。
船速検出手段としての船速センサ37は、船速Vを検出するための手段であり、例えば、電磁ログやドップラーソナー、GPSなどである。
左右回動角度検出手段としての左右回動角度検出センサ38A・38Bは、アウトドライブ装置10A・10Bの左右の回動角度θA、θBを検出するための手段である。左右回動角度検出センサ38A・38Bは、操舵用油圧アクチュエータ17A・17B近傍に設けられており、操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bの駆動量に基づいて、アウトドライブ装置10A・10Bの左右の回動角度θA、θBを検出する。
操作量検出手段としての操作量検出センサ39は、ジョイスティック21の平面操作面での操作量及びねじり操作面での操作量を検出するセンサである。操作量検出センサ39は、ジョイスティック21の傾倒角度及び傾倒方向を検出する。また、操作量検出センサ39は、ジョイスティック21の旋回軸を中心としたねじり量を検出する。
操作量検出手段としての操作量検出センサ43A・43Bは、アクセルレバー22A・22Bの操作量を検出するセンサである。操作量検出センサ43A・43Bは、アクセルレバー22A・22Bの傾倒角度を検出する。
操作量検出手段としての操作量検出センサ44は、操作ハンドル23の操作量を検出するセンサである。操作量検出センサ44は、操作ハンドル23の回転量を検出する。
アウトドライブ装置10A・10Bの回転数検出手段としてのアウトドライブ装置用回転数検出センサ40A・40Bは、アウトドライブ装置10A・10Bのスクリュープロペラ15A・15Bの回転数を検出するセンサであり、最終出力軸14A・14B中途部に設けられている。アウトドライブ装置用回転数検出センサ40A・40Bはアウトドライブ装置回転数NDA、NDBを検出する。
【0032】
制御装置31は、ジョイスティック21で設定した方向に船舶が進行するように回転数変更アクチュエータ4A・4Bと前後進切換クラッチ16A・16Bと操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bとを制御するための装置である。制御装置31は、回転数変更アクチュエータ4A・4B、前後進切換クラッチ16A・16B、操舵用油圧アクチュエータ17A・17B、電磁弁17Aa・17Ba、ジョイスティック21、アクセルレバー22A・22B、操作ハンドル23、回転数検出センサ35A・35B、迎角センサ36、船速センサ37、左右回動角度検出センサ38A・38B、操作量検出センサ39、操作量検出センサ43A・43B、操作量検出センサ44及びアウトドライブ装置用回転数検出センサ40A・40Bとそれぞれ接続される。制御装置31は、CPU(中央演算処理装置)からなる演算手段32や、ROM、RAM、HDD等の記憶手段33から構成されている。
【0033】
次に、制御装置31による、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの推進力と方向とを演算する方法について図6を用いて説明する。
まず、ジョイスティック21の操作量を検出し(ステップS10)、ジョイスティック21の操作量から左右のアウトドライブ装置10A・10Bの斜航のための斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransと、回頭のための回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotとをそれぞれ演算する(ステップS20)。
ジョイスティック21の操作量は、ジョイスティック21の傾倒角度、傾倒方向及びねじり量であり、それぞれ操作量検出センサ39によって検出される。そして、これらの操作量に基づき、制御装置31は、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの斜航のための斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransと、回頭のための回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotとをそれぞれ演算する。図7(A)に示すように、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransが算出される。また、図7(B)に示すように、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotが算出される。
【0034】
次に、左右のそれぞれのアウトドライブ装置10A・10Bの斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransと回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotを合成し、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの推進力と方向とをそれぞれ演算する(ステップS30)。
図7(C)に示すように、ステップS20で算出した、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtrans、回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotを合成したベクトルTA・TBをそれぞれ算出する。
【0035】
次に、前記合成したベクトルTA・TBのノルムに基づいて、制御装置31は、左右のエンジン3A・3Bの回転数Nをそれぞれ算出し(ステップS40)、前後進切換クラッチ16A・16Bを切り換えて、左右のエンジン3A・3Bを駆動し、合成したベクトルTA・TBの方向に基づいて左右のアウトドライブ装置10A・10Bの左右の回動角度θA・θBをそれぞれ算出し(ステップS50)、操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bを駆動する。
【0036】
次にステップS50の回動角度θA・θB算出における、左右一対のアウトドライブ装置10A・10Bの左右の回動角度の制限処理について説明する。左右一対のアウトドライブ装置10A・10Bのそれぞれについて同様の処理をするので、ここでは、一つのアウトドライブ装置10Aの左右の回動角度の制限処理について説明する。
【0037】
前記フローチャートのステップS50において合成ベクトルTAの角度(方向)βが、アウトドライブ装置10Aの所定の角度範囲を越えた範囲にある場合に、アウトドライブ装置10Aが所定の限界角度モードとなるように制御する。
ここで、所定の角度範囲とは、図8の斜線で示された範囲であって、アウトドライブ装置10Aを回動できる角度範囲である。つまり、操舵用油圧アクチュエータ17Aは、油圧シリンダで構成しているため、回動できる範囲に限界があるため設けられる。この所定角度範囲をθ1、限界角度をαとすると、後方を0°とした場合に、−α<θ1≦αである。また、エンジン3Aの回転は前後進切換クラッチ16Aにより正逆切換が可能となるので前方、言い換えれば180°(−180°)を中心として左右の角度−180°<θ1≦−180°−(−α)、180°−α<θ1≦180°となる。例えばαが30°であった場合には、−180°<θ1≦−150、−30°<θ1≦30°、150°<θ1≦180°が所定の角度範囲となる。
【0038】
次に、限界角度モードについて説明する。
限界角度モードにおいては、ジョイスティック21の操作に対してなめらかに動作するように、推力を減少して駆動する。つまり、エンジン回転数NAを設定回転数Nsetに減少する。また、限界角度モードにおいては、アウトドライブ装置10Aの回動角度θAを所定の限界角度の状態で固定する。具体的には、制御装置31によって決定された合成ベクトルTAの角度(方向)βによって、アウトドライブ装置10Aの左右の回動角度θAが決定される。図9に示すように、合成ベクトルTAの角度βをX軸にとり、アウトドライブ装置10Aの左右の回動角度θAをY軸に取った場合、合成ベクトルTの角度βが−180°−(−α)<β≦―90°の範囲にあれば、アウトドライブ装置10Aの左右の回動角度θAは−180°−(−α)となる。また、合成ベクトルTの角度βが−90°<β≦−αの範囲にあれば、アウトドライブ装置10Aの左右の回動角度θAは(−α)となる。また、合成ベクトルTAの角度βがα<β≦90°の範囲にあれば、アウトドライブ装置10Aの左右の回動角度θAはαとなる。また、合成ベクトルTAの角度βが90°<β≦180°−αの範囲にあれば、アウトドライブ装置10Aの左右の回動角度θAは180°−αとなる。
【0039】
また、図9に示すように、限界角度モードにおいては、アウトドライブ装置10Aの回動角度θAが頻繁に変化するのを防止するための遊び幅(ヒステリシス)が設定されている。
合成ベクトルTAの角度βが−180°−(−α)<β≦―90°の範囲にあった際には、合成ベクトルTAの角度βが−90°+γより大きくなったときに、アウトドライブ装置10Aの回動角度θAは(−α)となる。また、合成ベクトルTAの角度βが−90°<β≦−αの範囲にあった際に、合成ベクトルTAの角度βが−90°−γ以下となったときに、アウトドライブ装置10Aの回動角度θAは−180°−(−α)となる。
合成ベクトルTAの角度βがα<β≦90°の範囲にあった際には、合成ベクトルTAの角度βが90°+γより大きくなったときに、アウトドライブ装置10Aの回動角度θAは180°−αとなる。また、合成ベクトルTAの方向βが90°<β≦180°−αの範囲にあった際に、合成ベクトルTAの方向が90°−γ以下となったときに、アウトドライブ装置10Aの回動角度θAはαとなる。
【0040】
また、限界角度モードにおいて、合成ベクトルTAの方向と船体2の左右方向とで形成された劣角が減少するにつれてエンジン3Aのエンジン回転数NAを減少させる構成とすることもできる。合成ベクトルTAの方向と船体左右方向(90°及び−90°)とで形成された角度が減少するにつれて、すなわち、合成ベクトルTAの角度βが90°若しくは−90°に近づくにつれてエンジン3Aのエンジン回転数NAを減少させるものである。
【0041】
図10及び図11に示すように、限界角度モードにおいて、エンジン3Aの回転減少率を上昇させることにより、エンジン回転数NAを減少させる。
図10において、斜線で示された領域が、エンジン回転数NAを徐々に減少させる回転数減少領域であり、色付きで示された領域が、エンジン回転数NAの減少率が100%となる領域である減少率100%領域である。
具体的には、図11に示すように、−180°−(−α)より大きくΦ1以下であれば、合成ベクトルTAの角度βが増加するにつれて減少率が上昇し、Φ1において減少率は100%、すなわち、エンジン回転数NAがローアイドル回転数となる。
合成ベクトルTAの角度βがΦ1より大きくΦ2以下であれば、減少率は100%のまま維持される。
また、合成ベクトルTAの角度βがΦ2より大きく−α以下であれば、角度βが増加するにつれて減少率は低下し、−αにおいて減少率は0%、すなわち、エンジン回転数NAはステップS40で算出されたエンジン回転数となる。
ここで、Φ1とΦ2とは、−90°を挟んで線対称にある角度であり、例えば、Φ1が−100°であればΦ2は−80°である。
【0042】
また、合成ベクトルTAの角度βがαよりも大きくΦ3以下であれば、角度βが増加するにつれて減少率が上昇し、Φ3において減少率は100%、すなわち、エンジン回転数NAがローアイドル回転数となる。
合成ベクトルTAの角度βがΦ3より大きくΦ4以下であれば、減少率は100%のまま維持される。
合成ベクトルTAの角度βがΦ4よりも大きく180°−α以下であれば、角度βが増加するにつれて減少率は低下し、180°−αにおいて減少率は0%、すなわち、ステップS40で算出されたエンジン回転数となる。
ここで、Φ3とΦ4とは、90°を挟んで線対称にある角度であり、例えば、Φ3が80°であればΦ4は100°である。
また、Φ1、Φ2、Φ3、Φ4は適宜数値を変更することも可能である。但し、−180°−(−α)≦Φ1<−90°、−90°≦Φ2<−α、α≦Φ3<90°、90°≦Φ4<180°−αを満たすことが必要である。
【0043】
以上のように、左右一対のエンジン3A・3Bと、左右一対のエンジン3A・3Bのエンジン回転数Nをそれぞれ独立して変更する回転数変更アクチュエータ4A・4Bと、左右一対のエンジン3A・3Bにそれぞれ接続されて、スクリュープロペラ15A・15Bを回転させることによって船体2を推進させる左右一対のアウトドライブ装置10A・10Bと、エンジン3A・3Bとスクリュープロペラ15A・15Bとの間に配設される前後進切換クラッチ16A・16Bと、左右一対のアウトドライブ装置10A・10Bをそれぞれ独立して左右方向に所定角度範囲内で回動させる左右一対の操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bと、船舶の進行方向を設定するジョイスティック21と、ジョイスティック21の操作量を検出する操作量検出センサ39と、ジョイスティック21で設定した方向に進行するように、回転数変更アクチュエータ4A・4Bと前後進切換クラッチ16A・16Bと操舵用油圧アクチュエータ17A・17Bを制御するための制御装置31と、を備える船舶操船装置1において、制御装置31は、操作装置21による操作量から、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの斜航のための斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransと、回頭のための回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotとをそれぞれ演算するとともに、左右のそれぞれのアウトドライブ装置10A・10Bの斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransと回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotを合成して合成ベクトルTA・TBを算出し、左右のアウトドライブ装置10A・10Bの推進力と方向とを演算するものである。
このように構成することにより、斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransと回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotとに基づき合成ベクトルTA・TBを算出することにより、斜航成分推進力ベクトルTAtrans・TBtransのみに基づき左右のアウトドライブ装置10A・10Bの推進力と方向とを演算したあと、回頭成分推進力ベクトルTArot・TBrotのみに基づき左右のアウトドライブ装置10A・10Bの推進力と方向とを演算した場合と比較して、最終的な推進力と方向とを演算することができるので、優先度を設定せずとも滑らかな操作が可能となり、操作感が向上する。
【0044】
また、合成ベクトルTA(TB)の角度βが、アウトドライブ装置10A・10Bの所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、アウトドライブ装置10A・10Bが所定の限界角度モードとなるように制御し、エンジン回転数NA(NB)を設定回転数Nsetに減少するものである。
このように構成することにより、合成ベクトルTA(TB)の角度βがアウトドライブ装置10A(10B)の所定の角度範囲を越えていた場合であっても、アウトドライブ装置10A(10B)の操舵補正を行うことが可能となる。
【0045】
また、合成ベクトルTA(TB)の角度βが、アウトドライブ装置10A(10B)の所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、アウトドライブ装置10A(10B)の回動角度θA(θB)を所定の限界角度の状態で固定するものである。
このように構成することにより、合成ベクトルTA(TB)の角度がアウトドライブ装置10A(10B)の所定の角度範囲を越えていた場合に、アウトドライブ装置10A(10B)の回動角度の頻繁な変更や正逆回転の頻繁な切換を防止することができる。
【0046】
また、合成ベクトルTA(TB)の角度βが、アウトドライブ装置10A(10B)の所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、合成ベクトルTA(TB)の方向βと船体左右方向とで形成された劣角が減少するにつれてエンジン3A(3B)のエンジン回転数NA(NB)を減少させるものである。
このように構成することにより、合成ベクトルTA(TB)の角度がアウトドライブ装置10A(10B)の所定の角度範囲を越えていた場合に、アウトドライブ装置10A(10B)の正逆回転の切換を滑らかに行うことができる。
【符号の説明】
【0047】
1 船舶操船装置
2 船体
3A・3B エンジン
4A・4B 回転数変更アクチュエータ
10A・10B アウトドライブ装置
15A・15B スクリュープロペラ
16A・16B 前後進切換クラッチ
17A・17B 操舵用油圧アクチュエータ
21 ジョイスティック(操作手段)
31 制御装置
39 操作量検出センサ(操作量検出手段)
TAtrans・TBtrans 斜航成分推進力ベクトル
TArot・TBrot 回頭成分推進力ベクトル
TA・TB 合成ベクトル
β 合成ベクトルの角度
θA・θB アウトドライブ装置の回動角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のエンジンと、
前記左右一対のエンジンの回転数をそれぞれ独立して変更する回転数変更アクチュエータと、
前記左右一対のエンジンにそれぞれ接続されて、スクリュープロペラを回転させることによって船体を推進させる左右一対のアウトドライブ装置と、
前記エンジンとスクリュープロペラとの間に配設される前後進切換クラッチと、
前記左右一対のアウトドライブ装置をそれぞれ独立して左右方向に所定角度範囲内で回動させる左右一対の操舵用アクチュエータと、
船舶の進行方向を設定する操作手段と、
前記操作手段の操作量を検出する操作量検出手段と、
前記操作手段で設定した方向に進行するように、前記回転数変更アクチュエータと前後進切換クラッチと操舵用アクチュエータを制御するための制御装置と、
を備える船舶操船装置において、
前記制御装置は、前記操作手段による操作量から、左右のアウトドライブ装置の斜航のための斜航成分推進力ベクトルと、回頭のための回頭成分推進力ベクトルとをそれぞれ演算するとともに、前記左右のそれぞれのアウトドライブ装置の斜航成分推進力ベクトルと回頭成分推進力ベクトルを合成して合成ベクトルを算出し、左右のアウトドライブ装置の推進力と方向とを演算する
船舶操船装置。
【請求項2】
前記合成ベクトルの方向が、前記アウトドライブ装置の前記所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、前記アウトドライブ装置が所定の限界角度モードとなるように制御し、エンジン回転数を設定回転数に減少する
請求項1に記載の船舶操船装置。
【請求項3】
前記合成ベクトルの方向が、前記アウトドライブ装置の前記所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、前記アウトドライブ装置の回動角度を所定の限界角度の状態で固定する
請求項1又は2に記載の船舶操船装置。
【請求項4】
前記合成ベクトルの方向が、前記アウトドライブ装置の前記所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、合成ベクトルの方向と船体左右方向とで形成された劣角が減少するにつれてエンジンの回転数を減少させる
請求項1に記載の船舶操船装置。
【請求項1】
左右一対のエンジンと、
前記左右一対のエンジンの回転数をそれぞれ独立して変更する回転数変更アクチュエータと、
前記左右一対のエンジンにそれぞれ接続されて、スクリュープロペラを回転させることによって船体を推進させる左右一対のアウトドライブ装置と、
前記エンジンとスクリュープロペラとの間に配設される前後進切換クラッチと、
前記左右一対のアウトドライブ装置をそれぞれ独立して左右方向に所定角度範囲内で回動させる左右一対の操舵用アクチュエータと、
船舶の進行方向を設定する操作手段と、
前記操作手段の操作量を検出する操作量検出手段と、
前記操作手段で設定した方向に進行するように、前記回転数変更アクチュエータと前後進切換クラッチと操舵用アクチュエータを制御するための制御装置と、
を備える船舶操船装置において、
前記制御装置は、前記操作手段による操作量から、左右のアウトドライブ装置の斜航のための斜航成分推進力ベクトルと、回頭のための回頭成分推進力ベクトルとをそれぞれ演算するとともに、前記左右のそれぞれのアウトドライブ装置の斜航成分推進力ベクトルと回頭成分推進力ベクトルを合成して合成ベクトルを算出し、左右のアウトドライブ装置の推進力と方向とを演算する
船舶操船装置。
【請求項2】
前記合成ベクトルの方向が、前記アウトドライブ装置の前記所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、前記アウトドライブ装置が所定の限界角度モードとなるように制御し、エンジン回転数を設定回転数に減少する
請求項1に記載の船舶操船装置。
【請求項3】
前記合成ベクトルの方向が、前記アウトドライブ装置の前記所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、前記アウトドライブ装置の回動角度を所定の限界角度の状態で固定する
請求項1又は2に記載の船舶操船装置。
【請求項4】
前記合成ベクトルの方向が、前記アウトドライブ装置の前記所定の角度範囲を越えた範囲にある場合には、合成ベクトルの方向と船体左右方向とで形成された劣角が減少するにつれてエンジンの回転数を減少させる
請求項1に記載の船舶操船装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−14174(P2013−14174A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146743(P2011−146743)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
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