説明

船舶用の区画モジュール

【課題】設置作業上の利点を活かしつつ、軽量化した区画モジュールを提供する。
【解決手段】船体に外部から設置して、閉鎖区画を形成する船舶用の区画モジュール1において、床面がなく、鋼板製の壁面11及び天井面12のみから構成された下方開放構造の箱体として構成され、収納設備を壁面11又は天井面12に支持させてなり、船体の甲板に壁面11の下縁を当接させて設置し、前記船体の甲板を床面として閉鎖区画を形成する船舶用の区画モジュール1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船体に外部から設置して、閉鎖区画(天井面、壁面及び床面に囲まれて外部と隔離された区画)を形成する船舶用の区画モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
一般の船舶は、船体の垂直方向を複数の甲板により複数層に分画し、各層における空間の水平方向を隔壁により複数区画に分画することにより、厨房室、配膳室、船員用又は乗船客用船室、操舵室、無線室、荷役制御室、通路室又は階段室、ロッカー室又はストアー室、機関室等の閉鎖区画を形成する。甲板及び隔壁は鋼板製であり、船体に対して溶接により固定される。このため、鋼板製の甲板又は隔壁は、溶接熱による歪みを除去しなければならず、閉鎖区画の形成に手間が掛かるほか、各閉鎖区画の艤装工事が難しくなる問題があった。この問題を解消するため、特許文献1や特許文献2に見られるように、船体外で製造され、甲板が形成された船体に外部から設置して、閉鎖区画を形成する船舶用の区画モジュールが提案されている。
【0003】
特許文献1が開示する区画モジュールは、底面、壁面及び天井面がすべて鋼板製であり、底面及び天井面には補強用の型鋼が取り付けられている(特許文献1[請求項1]、[0008])。この区画モジュールは、底面、壁面及び天井面がすべて鋼板製であるから、十分な防火性能を発揮する。これに対し、特許文献2が開示する区画モジュールは、特許文献1が開示する区画モジュール同様、船体外で建造されるものの、完全なプレハブ式の構成を目標として、底面、壁面及び天井面を互いに嵌め込み可能な防火パネルで構成している(特許文献2[請求項1]、[0007])。この区画モジュールは、底面、壁面及び天井面を防火パネルで構成し、防火パネル相互の組付を工夫することにより、船舶に要求される必要な耐火性能を実現する。
【0004】
【特許文献1】特開平06-072383号公報
【特許文献2】特開2000-118486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
船体に閉鎖区画を形成する場合、従前から国際海上人命安全条約のA級防火規格又はB級防火規格を満足する防火性能を満たす4.5mm厚以上の鋼板が使用されてきており、当然に前記鋼板に関する取り扱いのノウハウや装置又は工具は多い。これから、4.5mm厚以上の鋼板を用いて床面、壁面及び天井面を構成する区画モジュールの方が、船体に設置する際に係る労力及び手間を低減でき、特に鋼板に関する取り扱いのノウハウや装置又は工具をそのまま利用できて、設置作業上好ましい。特許文献1が開示する区画モジュールは、前記設置作業の観点から、床面、壁面及び天井面をすべて鋼板製としたものと考えられ、現実的かつ有用性が高い構成と思われる。
【0006】
ところが、区画モジュールは、例えば船体外の工場から船体まで運搬される必要から、できるだけ軽量化されることが望まれる。この運搬作業上望まれる軽量化の観点から、床面、壁面及び天井面を鋼板製とすることは好ましくなく、特許文献2が開示する区画モジュールのように、床面、壁面及び天井面に軽量な防火パネルを用いることが望ましい。しかし、床面、壁面及び天井面に用いる防火パネルの割合が増えるほど、鋼板を用いる設置作業上の利点が損なわれる。また、上記防火性能を満たすには、防火パネル自体の防火性能が高いことはもちろん、各部材の寸法精度や組付精度を高く維持しなければならず、製造コストや設置コストを上昇させかねない。
【0007】
すなわち、床面、壁面及び天井面を鋼板製とする区画モジュールは、設置作業上好ましいが、重量物となるために運搬作業にとって好ましくないという問題点があり、床面、壁面及び天井面を防火パネルの組付により構成する区画モジュールは、軽量化により運搬作業が改善するものの、鋼板を用いることによる設置作業上の利点が損なわれる問題点がある。現実的に考えれば、床面、壁面及び天井面を鋼板製とする区画モジュールの設置作業上の利点を優先し、できるだけ軽量化を図ることが望ましい。そこで、設置作業上の利点を活かしつつ、軽量化した船舶用の区画モジュールを提供するため、検討した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
検討の結果開発したものが、船体に外部から設置して、閉鎖区画を形成する船舶用の区画モジュールにおいて、床面がなく、鋼板製の壁面及び天井面のみから構成された下方開放構造の箱体として構成され、収納設備を壁面又は天井面に支持させてなり、船体の甲板に壁面の下縁を当接させて設置し、前記船体の甲板を床面として閉鎖区画を形成する船舶用の区画モジュールである。本発明の区画モジュールは、鋼板製の壁面及び天井面のみから構成され、床面は設置する船体の甲板を利用する。すなわち、本発明の区画モジュールは、鋼板製の船体の甲板を底面とし、同じく鋼板製の壁面及び天井面により、鋼板で囲まれた閉鎖区画を形成する。
【0009】
従来同種の区画モジュール(特許文献1参照)は、構造物の基礎として底面が頑丈に作られ、かなりの重量物になっていた。本発明の区画モジュールは前記重量物となる底面がないため、仮に壁面及び天井面を鋼板製にしても十分に軽量化できる。壁面及び天井面の鋼板相互は、基本的に溶接により接合されるが、防火規格を満足する限り、その他従来公知の各種接合手段、例えばボルト及びナットを用いて接合してもよい。ここで、溶接による壁面及び天井面の接合は、従来の閉鎖区画を形成する設置作業上の利点を享受できる。むしろ、屋外の広い場所で溶接できることから、前記設置作業よりも作業環境を改善できる。
【0010】
壁面又は天井面は、補強桟を外面に設けて、壁面又は天井面の面剛性を向上させるとよい。壁面又は天井面に設ける補強桟の延在方向は自由であるが、例えば壁面の場合、外面の水平方向に横断する構成(以下、水平桟)又は外面の垂直方向に縦断する構成(以下、垂直桟)が好ましい。壁面に設ける水平桟や垂直桟は、複数本を平行かつ等間隔に設けるとより好ましい。後述する補強枠が、壁面の内面を水平方向に横断する水平桟とみなせる場合、前記補強枠に直交する垂直桟が水平桟より好ましい。また、天井面に設ける補強桟は、天井面の長手方向に延びる構成(以下、縦断桟)又は天井面の短手方向に延びる構成(以下、横断桟)が好ましい。縦断桟や横断桟は、壁面の水平桟又は垂直桟に直交する構成を選択するとよい。これら補強桟は、鋼板のほか、H型鋼、I型鋼、C型鋼やアングル材等を用いる。
【0011】
本発明の区画モジュールは、鋼板製の壁面及び天井面により、従来同様の閉鎖区画を形成するため、別途防火パネル等は必要ない。しかし、壁面の内面を見栄えよくしたい場合、壁面又は天井面は、内面に沿って壁パネルを立設又は架設する。好ましくは、壁面の内面に沿って壁パネルを立設し、前記壁パネルの上縁に天井パネルを架設して、下方開放構造の箱体である前記壁パネル及び天井パネルに囲まれた内室を構成するとよい。本発明にいう壁パネルは、主として壁面の内面を見栄えよくする化粧パネルやステンレスパネルを意味するが、防火パネルも含む。ここで、壁パネルが壁面又は天井面から離れていれば、壁パネルと壁面又は天井面との間を給配水管や配電線等の設置空間として利用できる。
【0012】
また、壁面に限って言えば、補強枠を内面に設ける、好ましくは壁面の下縁に沿って補強枠を延在させるとよい。壁面の下縁に沿って延在する補強枠は、壁面の下縁直下に設ける構成又は壁面の下縁に沿って壁面に設ける構成となる。前者の場合、壁面の下縁に代わって補強枠が甲板に当接又は接面する。また、後者の場合、補強枠が壁面の下縁から上方に位置していても構わない。ここで、各壁面の補強枠が相互に接合されると、特に開放端縁となる壁面の下縁を補強枠による枠形状に拘束できるため、壁面の剛性向上に貢献する。このほか、補強枠は、後述する壁パネルの受け枠を設ける基部としても働く。こうした補強枠は、鋼板のほか、H型鋼、I型鋼、C型鋼やアングル材等を用いることができる。
【0013】
本発明の区画モジュールは、従来同種の区画モジュールのように、底面に収納設備(例えば厨房室であれば、調理設備や貯蔵庫等)を載せることができないことから、比較的軽量な収納設備は、壁面に直接又は介装部材を介して連結し、支持させる。これに対し、通常の収納設備は、壁面の内面から突設した支持フレームに連結し、前記支持フレームを介して壁面に支持させたり、壁面の下縁から突設した支持プレートに載せ、前記支持プレートを介して壁面に支持させたりする。支持フレームを用いる場合、支持フレームに支持される収納設備の下方に死角空間が形成される場合がある。この場合、前記死角空間を、給排水管や配電線等の配置に利用できる。支持プレートを用いる場合、収納設備の下方に死角空間があれば、同様に給配水管や配電線等の配置に利用できる。
【0014】
支持フレームは、壁面の内面から突出した支持体と、支持体の下方又は上方の壁面の内面と支持体の突出端又は近傍とを結ぶ方杖(支持体の下方から延びる部材)又は斜梁(支持体の上方から延びる部材)からなる構成が好ましい。前記構成からなる支持フレームは、収納設備の外側に添えて連結してもよいが、収納設備内に差し込んで内側に添えて連結する構成にするとよい。区画モジュールは、壁面及び天井面の接合のほか、収納設備の配置までが一体の製造作業に含まれるため、支持フレームを各収納設備内に差し込むことも簡単である。
【0015】
支持体は、収納設備を支持する主材であるから、剛性のある金属製の棒材、板材、アングル材又は型材等とする。方杖は、支持体を下方から支える関係から、剛性のある金属製の棒材、板材、アングル材又は型材等とする。これに対し、斜梁は、支持体を上方から吊り下げることができればよいので、前記金属製の棒材、板材、アングル材又は型材等のほか、紐体(ワイヤー)やチェーンでも構わない。支持体、方杖又は斜梁は、それぞれ壁面に直接接続してもよいが、各部材の接続端から加わる荷重に対抗するため、壁面の内面に支持ブラケットを固定し、前記支持ブラケットに支持体、方杖又は斜梁の接続端を接続するとよい。支持ブラケットは、鋼板のほか、H型鋼、I型鋼、C型鋼やアングル材等を用いることにより、壁面の内面に設ける補強桟の働きも有する。
【0016】
支持プレートは、甲板に接面して一体化し、収納設備を実質上甲板で支持させる。区画モジュールの運搬作業中の支持プレートは、支持プレートの突き出した前方に補助枠を着脱自在に取り付け、支持プレートの上方の壁面から前記補助枠に着脱自在な斜梁を架け渡すことにより、一時的に支持フレーム同様の構成にして、収納設備を支持させるとよい。支持プレートや着脱自在な斜梁は、それぞれ壁面に直接設けることもできるが、上述同様、壁面に固定した支持ブラケットに支持プレートや着脱自在な斜梁の接続端を接続するとよい。支持プレートは、壁面の下縁に沿って設けることにより、壁面に直近の部分を補強枠として利用することもできる。この場合、別途補強枠を設ける必要がなくなる。
【0017】
壁面は、既述したように、補強桟や補強枠によって面剛性の向上が図られるが、それでも底面がないことにより、特に区画モジュールの運搬中に変形する虞がある。そこで、壁面は、対向する内面に一対の取付ブラケットを設け、前記取付ブラケットに補強梁を着脱自在に架け渡すようにするとよい。すなわち、区画モジュールの運搬中のみ、対向する壁面間に補強梁を架け渡し、壁面の変形を防止する。補強梁は、区画モジュールを甲板に載せた段階で取り外す。補強梁は、鋼板のほか、H型鋼、I型鋼、C型鋼やアングル材等を用い、例えば取付ブラケットに対してボルト及びナットにより着脱自在にする。
【0018】
本発明の区画モジュールは、船舶における大半の閉鎖区画の構築に利用できる。具体的には、A級防火規格、B級防火規格又はH級防火規格のいずれか又はすべてを満足することが要求される厨房室、配膳室、船員用又は乗船客用船室、操舵室、無線室、荷役制御室、通路室又は階段室、ロッカー室又はストアー室(いわゆる倉庫)や機関室を挙げることができる。船員用船室は船長室、機関長室、一般乗員船室を含む。各閉鎖区画は、本発明の区画モジュール単体又は複数を組み付けて構成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の区画モジュールは、壁面及び天井面を鋼板製とすることにより設置作業の利点を享受し、底面を省略することにより従来同種の区画モジュール(特許文献1参照)に比較して軽量化を実現し、運搬作業を改善する。とりわけ、壁面及び天井面を鋼板製とすることにより、従来から培われた鋼板に関する取り扱いのノウハウや装置又は工具を利用できる点が最大の利点である。従来と異なる設置作業を要求する区画モジュール(特許文献2参照)は、造船技術の低い日本以外の造船所では取り扱いが難しかったが、本発明の区画モジュールはそうした造船所でも従来通り取り扱える。これにより、賃金の安い外国で区画モジュールを製造及び設置させ、その後船体を日本に移送して高度な艤装をさせる国際分業を進めることができる。
【0020】
また、本発明の区画モジュールは、次のように構成を特定することにより、従来同種の区画モジュールに対する代替性を高める。まず、補強桟や補強枠は、壁面や天井面の面剛性を高め、より大きな区画モジュールの製造を可能にして、本発明の適用範囲を拡げる。壁パネル又は天井パネルは、壁面又は天井面との間に空間を形成させ、区画モジュールの製造段階での給排水管や配電線等の配置を可能にする。また、支持フレーム及び支持プレートによる収納設備の設置は、区画モジュールの製造段階での収納設備の配置を可能にする。そして、着脱自在な補強梁は、区画モジュールの運搬中の問題を払拭する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図を参照しながら説明する。図1は本発明を適用して構成した厨房室の区画モジュール1の例を表す側面図、図2は本例の区画モジュール1の正面図、図3は天井面12を除いた本例の区画モジュール1の平面図、図4は補強梁161を接続した支持ブラケット134付近を抽出した部分拡大断面図である。本例の区画モジュール1は、壁面11及び天井面12それぞれに沿って壁パネル21を立設し、天井パネル22を前記壁パネル21間に架設して内室2を構成した例である。内室2のない区画モジュール1は、前記壁パネル21及び天井パネル22を除いただけで他の構成は同じであるから、本例は内室2のある区画モジュール1を例に説明する。
【0022】
本例の区画モジュール1は、図1〜図4に見られるように、床面がなく(図4中壁面11のみが図示され、床面が図示されていない)、鋼板製の壁面11及び天井面12のみから構成された下方開放構造の箱体である。壁面11相互や壁面11及び天井面12の接合は、突き合わせる縁部における溶接である。この場合、例えば一方の壁面11に他方の壁面11を突き合わせたり、天井面12に各壁面11の上端を突き合わせたりして、それぞれ開先溶接により接合すると、高い接合強度を実現できて好ましい。床面は、後述するように(後掲図7参照)、区画モジュール1を設置する対象の船体の甲板3を利用する。これにより、本例の区画モジュール1は、6面がすべて鋼板で囲まれた閉鎖区画として、厨房室を形成できる。
【0023】
区画モジュール1は、壁面11及び天井面12の外面に、アングル材である縦断桟111及び横断桟121を、壁面11又は天井面12の外面に対して一辺を直交させた姿勢で、複数本を平行かつ等間隔に設けている。本例は、後述するように、横断桟121による天井面12の面剛性向上の効果を縦断桟111に及ばせることから、前記効果の影響を最大限にするため、縦断桟111及び横断桟121の並び位置を揃えている(図1参照)。この場合、本例は縦断桟111及び横断桟121のアングル材の向きも揃えているが、前記向きは異なっても構わない。このほか、本例の縦断桟111や横断桟121は、本例のアングル材のほか、H型鋼、I型鋼、C型鋼を用いることもでき、またこれらを混在させて利用できる。
【0024】
縦断桟111は、壁面11の外面から突出させ、下縁に沿って延在させた鋼板製の下フランジ112の上面に下端を、また壁面11の上縁から外方にはみ出させた天井面12の縁部の下面に上端をそれぞれ突きあわせ、下フランジ112の上面、壁面11の外面、そして天井面12の縁部の下面にそれぞれ溶接している。横断桟121は、壁面11の上縁から外方にはみ出させた天井面12の縁部にわたり、天井面12の短手方向(図1中紙面直交方向、図2中左右方向)に横断して、天井面12の外面に溶接している。これにより、天井面12の縁部にまで横断桟121による面剛性向上の効果が及ぶため、前記縁部の下面に上端を突き合わせる縦断桟111を安定して支持でき、ひいては壁面11の面剛性向上にも貢献する。
【0025】
本例の区画モジュール1は、図3及び図4に見られるように、壁面11の下縁に沿って壁面11から内方に向けて張り出させた鋼板のフランジからなる補強枠113の上面に、C型材からなる受け枠114を上向きに開いた姿勢で取り付け、化粧パネルである壁パネル21を前記受け枠114に嵌め込んで立設し、各壁パネル21に掛止枠(図示略)等の補助材を取り付け、前記掛止枠にわたって天井パネル22を架け渡すことにより、内室2を構成している。壁面11及び天井面12と、壁パネル21及び天井パネル22との間には空間があり、例えば給配水管や配電線等(図示略)や排気ダクト27の設置空間として利用する。内室2を構成しない場合、前記設置空間は余剰となるため、壁パネル21及び天井パネル22の位置に壁面11及び天井面12を位置させる。この場合、給配水管や配電線等(図示略)は壁面11の外面、排気ダクト27は天井面12の上面に配置することになる。
【0026】
本例の区画モジュール1は厨房室を構成するため、厨房室を構成する収納設備は、外部との出入りを担うドア241、ドア254及びドア256(いずれもドアモジュールとして図示)を除き、後述するようにそれぞれ壁面11に支持しながら、上述した内室2内部に配置している。具体的には、内室2は仕切ドア231を備えた仕切パネル23により小室24及び大室25に区画している。小室24は、壁パネル11にドア241を直接取り付け、流し台242と作業台243とを前記ドア241を挟んだ対向位置関係で配置している。大室25は、一面側(図3中上側)に流し台251、冷蔵庫252を並べ、冷蔵庫252脇の洗面台253を挟んでドア254を壁パネルに直接取り付け、他面側(図3中下側)に作業台257、オーブン258及びコンロ259を配置し、小室24のドア241に対向するドア256を壁面11に直接取り付け、前記ドア256脇に配電盤255を配置している。
【0027】
また、本例の区画モジュール1は、運搬中の変形を防止するため、壁面11の対向する内面に一対の取付ブラケット16,16を設け、壁パネル21を刳り貫いて露出させた前記取付ブラケット16,16に補強梁161を着脱自在に架け渡している(図3中仮想線表示)。補強梁161は、例えば区画モジュール1を運搬する間、対向する壁面11間に架け渡し、壁面11の変形を防止し、後述するように、区画モジュール1を甲板3に載せた段階で取り外す。本例の取付ブラケット16は、壁面11にウェブを平行にして両フランジの縁部を前記壁面11に当接させたC型鋼である。また、本例の補強梁161は、I型鋼の端面にボルト162を貫通するボルト孔を設けた構成で、壁面11に溶接で固定した取付ブラケット16(ウェブ)に前記端面を接面させ、壁面11の外面に溶接で固定した固定ナット163に対してボルト162を螺合又は解除することにより、取付ブラケット16に対して着脱する。
【0028】
図5〜図7は区画モジュール1の設置手順を説明する図4相当部分拡大断面図であり、図5は甲板3に区画モジュール1を載せた段階、図6は補強梁161を外し、固定アングル材31により甲板3に壁面11を固定した段階、そして図7は床面被覆材32を塗布して厨房室を形成し終えた段階をそれぞれ表している。本例の区画モジュール1は、上述した通り、運搬中の変形、特に壁面11の変形を防止するため、壁面11,11間(正確には、壁面11の対向する内面に設けた一対の取付ブラケット16,16間)に補強梁161を架け渡しているので、設置手順において補強梁161を取り外す作業が必要になる。そこで、前記補強梁161を取り外す作業を含めて、設置手順を説明する。
【0029】
区画モジュール1は、壁面11及び天井面12相互の接合や内室2の形成、そして収納設備の配置を終えて製造が完了した段階で、設置対象となる甲板3(図5参照)を有する船体まで運搬するため、図4に見られるように、対向する取付ブラケット16,16間に補強梁161を架け渡される。補強梁161は、製造手順の邪魔にならなければ、いつの段階に架設されてもよい。こうして、区画モジュール1は、補強梁161を架設された状態で船体まで運ばれ、図5に見られるように、甲板3上に載置される。この段階では、壁面11の下縁のみが甲板3に接面する。
【0030】
甲板3上の設置位置が確定すると、図6に見られるように、補強梁161が取り外され、壁面11が甲板3に溶接(隅肉溶接)により固定される。補強梁161は、固定ナット163からボルト162を緩めて引き抜くことにより、取付ブラケット16から取り外す。回収した補強梁161は、別の区画モジュール1に再利用できる。区画モジュール1は、前述のように、壁面11の下縁を隅肉溶接により甲板3に固定するほか、従来甲板3に鋼板製の隔壁を固定する場合同様、壁面11に固定アングル材31を添え、前記固定アングル材31の一辺の縁部を壁面11の外面に隅肉溶接し、かつ他辺の縁部を甲板3に隅肉溶接して、甲板3に対して固定している。
【0031】
閉鎖区画である厨房室は、上述のように区画モジュール1を甲板3上に固定した後、床面となる甲板3の表面に床面被覆材32を塗布する。そして、本例は、床面被覆材32が塗布された甲板3と補強枠113との隙間を防ぐため、補強枠113上の受け枠114に巾木115をネジ止めして前記隙間を塞ぎ、厨房室を完成させている。このように、本発明の区画モジュール1によれば、甲板3に対する固定作業や床面の仕上げ作業等が、鋼板製の甲板と同じく鋼板製の隔壁とで形成される閉鎖区画の構築に用いていた作業とほとんど同じであるから、従来から培われた鋼板に関する取り扱いのノウハウや装置又は工具を利用できる。しかも、収納設備が配置された内室2が既に形成され、必要により給排水管や配電線等も既に配置されているため、艤装作業に係る労力及び時間が大幅に低減される。
【0032】
最後に、上述の艤装作業に係る労力及び時間を大幅に低減する要因として、本発明の区画モジュール1における収納設備の支持について説明する。図8は壁面11に直接連結して支持させた収納棚26(図3中図示略)を表す部分拡大断面図、図9は壁面11の内面から突設した支持フレーム13に連結し、前記支持フレーム13を介して壁面11に支持させた流し台242を表す部分拡大断面図、図10は別例の支持フレーム13を介して壁面11に支持させた流し台242を表す図9相当部分拡大断面図、そして図11は壁面11の下縁から突設した支持プレート14に載せ、前記支持プレート14を介して壁面11に支持させたコンロ259を表す部分拡大断面図である。
【0033】
比較的軽量な収納設備、例えば収納棚26は、図7に見られるように、壁面11に溶接で固定した支持パネル15に対して、前記収納棚26の内側から壁パネル21を貫通してタッピングネジ151を捩じ込み、前記支持パネル15を介して壁面11に支持させる。本例の支持パネル15は、壁パネル21の外面に接面する縦長の鋼板と、壁パネル21と壁面11との隙間の幅に等しい鋼板製のフランジを前記鋼板の上縁及び下縁から突出させた構造である。この支持パネル15は、前述のように、壁パネル21と壁面11との隙間を塞ぐ介装部材であり、鋼板製の壁面11に直接捩じ込むことが難しいタッピングネジ151を捩じ込む対象の基礎部材である。このため、内室2がなく、タッピングネジ151を捩じ込める場合、収納棚26の内側からタッピングネジ151を壁面11に捩じ込んで、収納棚26を直接壁面11に支持させる。
【0034】
通常の収納設備、例えば流し台242は、図9又は図10に見られるように、壁面11の内面から突設した支持フレーム13を前記流し台242の内側に差し込み、流し台242の縦面の内側に添えた状態で連結し、前記支持フレーム13を介して壁面11に支持させる。流し台242と支持フレーム13との連結は、分離する必要がないことから、溶接による連結でも、ボルト及びナットを用いた連結でもよい。また、支持フレーム13は、後述するように、支持体131を下方から方杖132で支える構成(図9参照)と、支持体131を上方から斜梁133で吊り下げる構成(図10参照)とがあるが、いずれを選択するかは設置する収納設備に合わせて適宜決定する。
【0035】
支持体131を下方から方杖132で支える支持フレーム13は、図9に見られるように、壁面11の内面の上下段に一対の支持ブラケット134,134を固定し、壁パネル21を刳り貫いて露出させた上段の支持ブラケット134からアングル材である支持体131を突出させ、同じく壁パネル21を刳り貫いて露出させた下段の支持ブラケット134から前記支持体131の突出端に向けて鋼板製の方杖132を架け渡した構造である。本例の支持ブラケット134は、壁面11にウェブを平行にして両フランジの縁部を前記壁面11に当接させたC型鋼である。支持ブラケット134、支持体131及び方杖132相互の接続は、溶接である。本例では、支持フレーム13に支持された流し台242の下方に死角空間が形成されるため、前記死角空間を給排水管や配電線等の配置に利用できる。
【0036】
支持体131を上方から斜梁133で吊り下げる支持フレーム13は、図10に見られるように、壁面11の内面の上下段に一対の支持ブラケット134,134を固定し、壁パネル21を刳り貫いて露出させた下段の支持ブラケット134からアングル材である支持体131を突出させ、同じく壁パネル21を刳り貫いて露出させた上段の支持ブラケット134から前記支持体131の突出端に向けて鋼板製の斜梁133を架け渡した構造である。本例の支持ブラケット134は、上述同様、壁面11にウェブを平行にして両フランジの縁部を前記壁面11に当接させたC型鋼である。支持ブラケット134、支持体131及び方杖132相互の接続は、上述同様、溶接である。本例では、支持フレーム13に支持された流し台242の下方に死角空間が形成されるため、前記死角空間を給排水管や配電線等の配置に利用できる。
【0037】
支持プレート14は、図11に見られるように、壁面11から内方に向けて張り出した補強枠113と平行に前記壁面11の下縁に設けた鋼板からなり、上面にコンロ259を載せている。ここで、支持プレート14において壁面11に直近の部分を補強枠として利用し、本例図示の補強枠113を省略することもできる。本例の区画モジュールは、突き出した前方にC型鋼からなる補助枠141を着脱自在に取り付け、更に支持プレート14の上方の壁面11にC型鋼からなる支持ブラケット143を固定してある。これにより、区画モジュール1の運搬中、支持プレート14が変形しないように、壁パネル21を刳り貫いて露出する支持ブラケット143と補助枠141とに、鋼板製の斜梁142を着脱自在に架け渡している。
【0038】
区画モジュール1を甲板3に載せた後、補助枠141及び斜梁142は取り除かれる。これから、補助枠141及び斜梁142は、区画モジュール1から容易に着脱できる必要がある。例えば斜梁142と支持ブラケット143との接続は、上述した補強梁161と取付ブラケット16との接続同様、壁面11に固定した固定ナット145に対するボルト144の締付を用いている。斜梁142と補助枠141との接続も、図示を省略するが、同様にするとよい。支持プレート14と補助枠141とは、着脱自在なクランプを利用することが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明を適用して構成した厨房室の区画モジュールの例を表す側面図である。
【図2】本例の区画モジュールの正面図である。
【図3】天井面を除いた本例の区画モジュールの平面図である。
【図4】補強梁を接続した支持ブラケット付近を抽出した部分拡大断面図である。
【図5】甲板に区画モジュールを載せた段階を説明する図4相当部分拡大断面図である。
【図6】補強梁を外し、アングル材により甲板に壁面を固定した段階を説明する図4相当部分拡大断面図である。
【図7】床面被覆材を塗布して厨房室を形成し終えた段階を説明する図4相当部分拡大断面図である。
【図8】壁面に直接連結して支持させた収納棚を表す部分拡大断面図である。
【図9】壁面の内面から突設した支持フレームに連結し、前記支持フレームを介して壁面に支持させた流し台を表す部分拡大断面図である。
【図10】別例の支持フレームを介して壁面に支持させた流し台を表す図9相当部分拡大断面図である。
【図11】壁面の下縁から突設した支持プレートに載せ、前記支持プレートを介して壁面に支持させたコンロを表す部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 区画モジュール
11 壁面
111 縦断桟
113 補強枠
114 受け枠
12 天井面
121 横断桟
13 支持フレーム
14 支持プレート
15 支持パネル
16 取付ブラケット
161 補強梁
2 内室
21 壁パネル
22 天井パネル
23 仕切パネル
3 甲板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に外部から設置して、閉鎖区画を形成する船舶用の区画モジュールにおいて、床面がなく、鋼板製の壁面及び天井面のみから構成された下方開放構造の箱体として構成され、収納設備を壁面又は天井面に支持させてなり、船体の甲板に壁面の下縁を当接させて設置し、前記船体の甲板を床面として閉鎖区画を形成することを特徴とする船舶用の区画モジュール。
【請求項2】
壁面又は天井面は、補強桟を外面に設けた請求項1記載の船舶用の区画モジュール。
【請求項3】
壁面又は天井面は、内面に沿って壁パネルを立設又は架設した請求項1又は2いずれか記載の船舶用の区画モジュール。
【請求項4】
壁面は、補強枠を内面に設けた請求項1〜3いずれか記載の船舶用の区画モジュール。
【請求項5】
収納設備は、壁面の内面から突設した支持フレームに連結し、前記支持フレームを介して壁面に支持させた請求項1〜4いずれか記載の船舶用の区画モジュール。
【請求項6】
収納設備は、壁面の下縁から突設した支持パネルに載せ、前記支持パネルを介して壁面に支持させた請求項1〜4いずれか記載の船舶用の区画モジュール。
【請求項7】
壁面は、対向する内面に一対の取付ブラケットを設け、前記取付ブラケットに補強梁を着脱自在に架け渡した請求項1〜6いずれか記載の船舶用の区画モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−95114(P2010−95114A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266820(P2008−266820)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(395008333)株式会社大晃産業 (12)