説明

船舶用推進システムおよびそれを備えた船舶

【課題】構造が複雑になることを抑制しながら、船の動きを細かくコントロールする際の操作性を向上させることが可能な船舶用推進システムを提供する。
【解決手段】この船舶用推進システムは、シフト状態および推進力を船外機300に指示するための操作レバー102と、操作レバーの位置を検出する2つのレバー位置センサ102cおよび102dと、レバー位置センサ102cおよび102dの検出結果に基づいて、船外機300のシフト状態および推進力を制御する船体ECU104とを備えている。船体ECU104は、2つのレバー位置センサ102cおよび102dの検出結果に基づいて、2つの操作レバーの相対位置に応じた目標回頭速度を設定し、それらの中立位置からの変位量に応じた目標進行速度を設定する。船体ECU104は、目標回頭速度および目標進行速度が達成されるように、船外機300のそれぞれの操舵角、シフト状態および推進力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の推進機のシフト状態を推進機に指示するための操作レバーを備えた船舶用推進システムおよびそれを備えた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の推進機のシフト状態を推進機に指示するために操船者によって操作される操作レバーを備えた船舶用推進システムが知られている。推進機の一例は、船外機である。
このような船舶用推進システムは、たとえば、船体に取り付けられた2機の船外機を含む。2機の船外機は、タイバーにより互いに連結されており、同一の操舵角となるように構成されている。船舶用推進システムは、さらに、2機の船外機のそれぞれに対応した2つの操作レバーを含む。2つの操作レバーを操作することにより、2機の船外機のシフト状態およびスロットル開度を個別に調節することができる。さらに、2機の船外機は、1つのステアリングハンドルによって操舵することが可能に構成されている。
【0003】
上記のような船舶用推進システムでは、たとえば船を離着岸させる場合などのように船の動きを細かくコントロールする場合には、操作が煩雑になる。すなわち、操船者は、ステアリングハンドルと、2つの操作レバーとの両方を微調整しなければならない。
離着岸の際の操船を容易にするために、船体にサイドスラスタ(横方向移動用の推進機)が備えられる場合がある。しかし、船舶用推進システムの構造が複雑になってしまうから、とくに小型の船舶には適していない。
【0004】
特許文献1は、サイドスラスタを設けることなく、容易な操作で船の動きを細かくコントロールすることが可能な舶用推進システムを開示している。
この船舶用推進システムは、2機の船外機のそれぞれに対応した2つの操作レバーと、2つの操作レバーとは別個に設けられた十字キーとを含む。2つの操作レバーを操作することにより、船外機のシフト状態およびスロットル開度を個別に調節することが可能に構成されている。さらに、2機の船外機は、1つのステアリングハンドルによって操舵することが可能に構成されている。この船舶用推進システムは、操船支援モードを設定できるように構成されている。操船支援モードでは、十字キーを操作することにより、十字キーにより指示した方向に船体が移動するように、2機の船外機のそれぞれの操舵角、シフト状態およびスロットル開度が調整される。これにより、サイドスラスタを要することなく、容易な操作で船の動きを細かくコントロールできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−200004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の先行技術では、2つの操作レバーに加えて、十字キーを別途設ける必要があるので、船舶用推進システムの構造が複雑になってしまう。つまり、サイドスラスタを備えていないとはいえ、操作レバーおよびステアリングハンドルの他に十字キーという新たな操作系が追加されている。したがって、構造が複雑であり、かつ、操作系が増えているために操作もやや煩雑である。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、構造が複雑になることを抑制しながら、船の動きを細かくコントロールする際の操作性を向上させることが可能な船舶用推進システムおよびそれを備えた船舶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一の局面に係る実施形態は、操舵角を変化させることが可能なように船体に取り付けられるように構成された第1推進機および第2推進機と、前記第1推進機のシフト状態を、前進状態、中立状態および後進状態のいずれかに指示し、かつ、前記第1推進機の出力を指示するために操船者によって操作されるように構成された第1操作レバーと、前記第2推進機のシフト状態を、前進状態、中立状態および後進状態のいずれかに指示し、かつ、前記第2推進機の出力を指示するために操船者によって操作されるように構成された第2操作レバーと、前記第1操作レバーの位置を検出するように構成された第1レバー位置センサと、前記第2操作レバーの位置を検出するように構成された第2レバー位置センサと、前記第1および第2レバー位置センサの検出結果に基づいて、前記第1操作レバーおよび前記第2操作レバーの相対位置に応じた目標回頭速度を設定し、かつ、前記第1および第2操作レバーの中立位置からの変位量に応じた目標進行速度を設定し、前記目標回頭速度で前記船体が回頭し、かつ前記目標進行速度で前記船体が進行するように、前記第1および第2推進機のそれぞれの操舵角、シフト状態および推進力を制御するように構成された制御ユニットとを含む、船舶用推進システムを提供する。
【0009】
この船舶用推進システムでは、第1および第2の操作レバーの位置に基づいて、船体の目標回頭速度および目標進行速度が設定される。そして、設定された目標回頭速度および目標進行速度に応じて、第1および第2推進機の操舵角、シフト状態および推進力が制御される。つまり、シフト状態および推進力だけでなく、操舵角も、第1および第2操作レバーの位置に従う。これにより、船体が回頭動作や旋回動作(前進または後進しながら回頭する動作)を行う際に、推進機の推進力を効果的に用いることができる。その結果、船体の挙動を素早く(応答性よく)変化させることができる。したがって、船の動きを細かくコントロールすることができる。
【0010】
また、操作レバーの操作のみによって船をコントロールすることができるので、ステアリングハンドルを操作する必要がなくなる。そのため、船の動きを細かくコントロールする際の操作性を向上させることができる。また、操作レバーとは別に十字キーなどの操作系を設ける必要がないから、船舶用推進システムの構造が複雑になることを回避できる。また、操作系を追加する必要がないので、操作が煩雑になることもない。
【0011】
この発明の一実施形態において、前記制御ユニットは、前記第1および第2レバー位置センサによって検出される前記第1および第2操作レバーの位置の差に応じた目標回頭速度を設定するように構成されている。この構成により、操船者は、目標回頭速度を直感的な操作によって設定できる。
また、この発明の一実施形態において、前記制御ユニットは、前記第1および第2操作レバーのうち中立位置からの変位量の小さい方の操作レバーの位置に応じた目標進行速度を設定するように構成されている。この構成により、操船者は、目標進行速度を直感的な操作によって設定することができる。
【0012】
さらに、この発明の一実施形態において、前記制御ユニットは、前記第1操作レバーが中立位置の一方側に位置し、前記第2操作レバーが中立位置の他方側に位置するときに、目標進行速度を零に設定するように構成されている。この構成により、操船者は、船体を実質的に前後に移動させることなく回頭させる操船を容易に行える。
この発明の一実施形態においては、前記第1および第2操作レバーが右左に並んで配置されており、前記第1操作レバーが右側に配置され、かつ前後に操作されるように構成されており、前記第2操作レバーが左側に配置され、かつ前後に操作されるように構成されており、前記制御ユニットは、前記第1操作レバーが前記第2操作レバーよりも前方に位置していれば船体を左まわりに回頭させ、前記第1操作レバーが前記第2操作レバーよりも後方に位置していれば船体を右まわりに回頭させるように、前記目標回頭速度を設定するように構成されている。この構成により、第1および第2操作レバーの位置と船体の回頭方向および回頭速度が整合するので、より直感的な操作によって、船体を回頭させることができる。
【0013】
この発明の一実施形態において、前記制御ユニットは、各推進機により船体に与えるべきモーメント(たとえば0よりも大きなモーメント)が所定のしきい値以下のときは、当該推進機の出力を一定値(たとえば最小出力値)に制御し、かつ前記モーメントに応じて当該推進機の操舵角を制御するように構成されている。この構成により、操舵角の変化によってモーメントが調整されるので、推進機の出力を増やす場合に比較して、必要なエネルギーを少なくすることができる。
【0014】
この場合において、好ましくは、前記制御ユニットは、各推進機により船体に与えるべきモーメントが前記しきい値を超えるときは、当該推進機の操舵角を最大操舵角に制御し、かつ前記モーメントに応じて当該推進機の出力を制御するように構成されている。この構成により、操舵角の調整によっては発生できない大きなモーメントを、推進力の調整によって発生することができる。しかも、推進機の操舵角が最大操舵角に達するまでは、操舵角の調整によってモーメントが調整されるから、推進機によるエネルギー消費を少なくすることができる。
【0015】
この発明の一実施形態では、前記制御ユニットは、前記第1および第2推進機の一方の推進機の操舵角を当該推進機の推進力の方向が船体の回転中心を通る直線に沿うように定め、前記第1および第2推進機の他方の推進機の操舵角、シフト状態および推進力を前記目標回頭速度に応じて定めるように構成されている。この構成によれば、前記一方の推進機の推進力は、船体にモーメントをほとんど与えないので、船体の回頭にほとんど寄与しない。したがって、前記他方の推進機の操舵角、シフト状態および推進力を目標回頭速度に応じて定めればよいから、目標回頭速度を達成するための制御演算が容易になる。
【0016】
この場合において、好ましくは、前記制御ユニットは、前記一方の推進機のシフト状態および推進力を、前記他方の推進機が発生する推進力の前後方向分力と、前記目標進行速度とに応じて定めるように構成されている。この構成により、船体にモーメントを与える前記他方の推進機の推進力の前後方向分力の影響を、前記一方の推進機が発生する推進力によって排除できる。これにより、目標回頭速度と目標進行速度とをいずれも達成することができる。たとえば、目標進行速度が零のときは、前記他方の推進機の推進力の前後方向分力は、前記一方の推進機の推進力によって相殺される。
【0017】
この発明の一実施形態は、前記第1および第2推進機の操舵角を変更するために操船者によって操作されるように構成されたステアリングハンドルと、前記ステアリングハンドルの回動角度を検出するように構成されたハンドル角センサと、通常操船制御と、操船アシスト制御とを切り換えるように構成された切換ユニットとをさらに含む。この場合、好ましくは、前記制御ユニットは、前記通常操船制御時において、前記第1および第2レバー位置センサの検出結果に基づいて、前記第1および第2推進機のシフト状態および推進力を制御し、かつ前記ハンドル角センサの検出結果に基づいて、前記第1および第2推進機の操舵角を変化させるように構成されている。さらに好ましくは、前記制御ユニットは、前記操船アシスト制御時において、前記第1および第2レバー位置センサの検出結果に基づいて、前記第1操作レバーおよび前記第2操作レバーの相対位置に応じた目標回頭速度を設定し、かつ、前記第1および第2操作レバーの中立位置からの変位量に応じた目標進行速度を設定し、前記目標回頭速度で前記船体が回頭し、かつ前記目標進行速度で前記船体が進行するように、前記第1および第2推進機のそれぞれの操舵角、シフト状態および推進力を制御するように構成されている。この構成によれば、通常操船制御と操船アシスト制御とを切り換えることができる。操船者は、通常操船制御のときは、ステアリングハンドルを用いて操船を行うことができる。また、船の動きを細かくコントロールする必要がある場合(離着岸を行う場合など)には、操船アシスト制御に切り換えることによって、操作レバーのみを用いて操船を行うことができる。
【0018】
前記制御ユニットは、前記操船アシスト制御時において、前記通常操船制御時における前記第1および第2操作レバーの位置に対応する前記第1および第2推進機の推進力よりも小さい推進力となるように前記第1および第2推進機を制御するように構成されていてもよい。
この発明の一実施形態では、前記第1推進機は、操舵角を変化させることが可能なように前記船体に取り付けられるように構成された第1船外機を含み、前記第2推進機は、操舵角を変化させることが可能なように前記船体に取り付けられるように構成された第2船外機を含む。前記第1および第2船外機は、それぞれ、たとえば、スロットル開度を調節することによって駆動力を調節可能に構成されたエンジンと、前記エンジンの駆動力によって回転されるように構成されたプロペラと、シフト状態を切り換えるように構成された切換機構部とを含む。この場合、好ましくは、前記第1および第2操作レバーは、前記第1および第2船外機のシフト状態およびスロットル開度を前記船外機に指示するために操船者によって操作されるように構成されている。また、好ましくは、前記制御ユニットは、前記第1および第2レバー位置センサの検出結果に基づいて、前記第1および第2船外機のそれぞれの操舵角、シフト状態およびスロットル開度を制御するように構成されている。このように構成すれば、船外機を用いた船舶用推進システムにおいて、船の動きを細かくコントロールする際の操作性を向上させることができる。
【0019】
この発明の他の局面に係る実施形態は、操舵角を変化させることが可能なように船体に取り付けられるように構成された複数の推進機と、複数の操作レバーと、複数のレバー位置センサと、記憶ユニットと、制御ユニットとを含む。複数の操作レバーは、複数の推進機のシフト状態を、それぞれ、前進状態、中立状態および後進状態のいずれかに指示するために操船者によって操作されるように構成されている。レバー位置センサは、複数の操作レバーのそれぞれに対応して設けられ、操作レバーの位置を検出するように構成されている。記憶ユニットは、複数の操作レバーの位置関係と対応付けて予め設定された船体の挙動パターンを記憶している。制御ユニットは、複数のレバー位置センサの検出結果に基づいて挙動パターンを選択し、選択された挙動パターンに対応する操舵角およびシフト状態となるように、複数の推進機のそれぞれの操舵角およびシフト状態を制御するように構成されている。船体の挙動パターンは、当該挙動パターンを実現するための設定情報の形式で記憶されていてもよい。設定情報は、たとえば、複数の推進機の操舵角およびシフト状態の目標値を含む。
【0020】
この船舶用推進システムでは、複数のレバー位置センサの検出結果に基づいて、船体の挙動パターンが選択される。そして、選択された挙動パターンに対応する操舵角およびシフト状態となるように、複数の推進機のそれぞれの操舵角およびシフト状態が制御される。つまり、シフト状態だけでなく、操舵角も、レバー位置センサの検出結果に従う。船体の挙動パターンは、たとえば、回頭動作、横方向移動などを含む。操船者は、所定の挙動を船体に取らせたい場合、その挙動に対応した位置関係となるように複数の操作レバーを操作する。これにより、その挙動を船体に取らせるために適切な操舵角およびシフト状態となるように、自動的に推進機の操舵角およびシフト状態が調節される。これにより、船体が回頭動作や横方向への移動などの挙動を行う際に、推進機の推進力を効果的に用いることができる。これにより、船体の挙動を素早く(応答性よく)変化させることができる。その結果、船の動きを細かくコントロールすることができる。
【0021】
また、操作レバーの操作のみによって船をコントロールすることができるので、ステアリングハンドルを操作する必要がなくなる。そのため、船の動きを細かくコントロールする際の操作性を向上させることができる。また、操作レバーとは別に十字キーなどの操作系を設ける必要がないから、船舶用推進システムの構造が複雑になることを回避できる。また、操作系を追加する必要がないので、操作が煩雑になることもない。
【0022】
この発明の一つの実施形態において、複数の推進機は、第1推進機と、第1推進機とは異なる第2推進機とを含む。また、複数の操作レバーは、第1推進機に対応する第1操作レバーと、第2推進機に対応する第2操作レバーとを含む。さらに、制御ユニットは、第1操作レバーの位置と第2操作レバーの位置とが異なる場合に、第1操作レバーと第2操作レバーとの位置関係に対応して予め設定された挙動パターンを選択し、選択された挙動パターンに対応する操舵角およびシフト状態となるように、第1および第2の推進機のそれぞれの操舵角およびシフト状態を調節するように構成されている。たとえば、第1操作レバーの位置と第2操作レバーの位置とが異なる場合に、船体に回頭動作や横方向への移動など、直進移動とは異なる挙動を行わせてもよい。この場合、第1および第2操作レバーの位置が同じなら直進移動、異なれば直進移動以外の挙動となる。この挙動は、通常の操作レバーの操作による船体の挙動に似ているので、操船者に与える違和感を抑制できる。
【0023】
この発明の一実施形態では、第1操作レバーおよび第2操作レバーは、横方向に並んで配置されている。そして、制御ユニットは、第1操作レバーの位置と、第2操作レバーの位置とが異なる場合に、第1操作レバーの位置から第2操作レバーの位置に向かう方向に船体を移動させるように、第1および第2の推進機のそれぞれの操舵角、シフト状態を調節するように構成されている。操船者は、第1および第2操作レバーを操作して、それらの位置を結ぶ線分の方向を、船体を移動させたい方向に一致させる。これにより、船体をその方向に移動させることができる。これにより、容易に船をコントロールすることができる。
【0024】
この場合に、好ましくは、制御ユニットは、第1操作レバーの位置が前記中立位置であり、第2操作レバーの位置が中立位置以外の位置である場合に、中立位置の第1操作レバーの位置から中立位置以外の位置の第2操作レバーの位置に向かう方向に船体を移動させるように、第1および第2の推進機のそれぞれの操舵角、シフト状態および推進力を調節するように構成されていてもよい。たとえば、第1操作レバーが中立位置に位置する場合に、第1操作レバーの位置を基準として、第1操作レバーの位置から第2操作レバーの位置に向かう方向を船体の移動方向とすることができる。このように、中立位置を船体の移動方向の基準とすることによって、操船者は、容易に船体の移動方向を設定することができる。
【0025】
この発明の一実施形態に係る船舶用推進システムは、複数の推進機の操舵角を変更するために操船者によって操作されるように構成されたステアリングハンドルと、ステアリングハンドルの回動角度を検出するハンドル角センサと、通常操船制御と、操船アシスト制御とを切り換えるように構成された切換ユニットとをさらに含む。この場合、制御ユニットは、好ましくは、通常操船制御時において、複数のレバー位置センサの検出結果に基づいて、推進機のシフト状態および推進力を制御し、かつハンドル角センサの検出結果に基づいて、複数の推進機の操舵角を変化させるように構成されていてもよい。また、好ましくは、制御ユニットは、操船アシスト制御時において、複数のレバー位置センサの検出結果に基づいて、複数の操作レバーの位置関係に対応した挙動パターンを選択し、選択された挙動パターンに対応する操舵角およびシフト状態となるように、複数の推進機のそれぞれの操舵角、シフト状態を調節するように構成されていてもよい。このように構成すれば、通常操船制御と操船アシスト制御とを切り換えることができる。操船者は、通常操船制御のときは、ステアリングハンドルを用いて操船を行うことができる。また、船の動きを細かくコントロールする必要がある場合(離着岸を行う場合など)には、操船アシスト制御に切り換えることによって、操作レバーのみを用いて操船を行うことができる。
【0026】
この場合、好ましくは、制御ユニットは、操船アシスト制御時において、通常操船制御時における操作レバーの位置に対応する推進機の推進力よりも小さい推進力となるように推進機を制御するように構成されていてもよい。
また、好ましくは、制御ユニットは、操船アシスト制御時において、複数のレバー位置センサの検出結果に基づいて、通常操船制御時における操作レバーの位置と推進機のシフト状態との対応関係に拘わらず、複数の操作レバーの位置関係に対応して予め設定された挙動パターンを選択し、選択された挙動パターンに対応する操舵角およびシフト状態となるように、複数の推進機のそれぞれの操舵角およびシフト状態を調節するように構成されていてもよい。操船アシスト制御時において、操船者は、推進機のシフト状態を気にすることなく、船体に取らせたい挙動に対応する位置関係となるように操作レバーを操作する。これにより、容易に船体にその挙動を取らせることができる。
【0027】
好ましくは、推進機は、操舵角を変化させることが可能なように前記船体に取り付けられるように構成された船外機を含む。船外機は、たとえば、スロットル開度を調節することによって駆動力を調節可能に構成されたエンジンと、エンジンの駆動力によって回転されるように構成されたプロペラと、シフト状態を切り換えるように構成された切換機構部とを含む。また、好ましくは、操作レバーは、複数の船外機のシフト状態およびスロットル開度を船外機に指示するために操船者によって操作されるように構成されている。また、好ましくは、制御ユニットは、複数のレバー位置センサの検出結果に基づいて挙動パターンを選択し、選択された挙動パターンに対応する操舵角およびシフト状態となるように、複数の船外機のそれぞれの操舵角およびシフト状態を制御するように構成されている。このように構成すれば、船外機を用いた船舶用推進システムにおいて、船の動きを細かくコントロールする際の操作性を向上させることができる。
【0028】
この発明の一実施形態は、船体と、前記船体に搭載された前述の特徴を有する船舶用推進システムとを含む、船舶を提供する。この構成により、船舶用推進システムの構造が複雑になることを抑制しながら、船の動きを細かくコントロールする際の操作性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施形態による船舶用推進システムの全体構成を示す斜視図である。
【図2】前記船舶用推進システムの全体構成を示す模式的な平面図である。
【図3】前記船舶用推進システムのコントロールレバーを示す模式的な平面図である。
【図4】前記船舶用推進システムの船外機を示す側面図である。
【図5】前記船舶用推進システムの電気的構成を示すブロック図である。
【図6】図6Aおよび図6Bは、操船アシストモードにおける目標値の設定を説明するための図である。
【図7】レバー位置差に基づく目標回頭速度の設定例を示す特性図である。
【図8】最小変位位置に基づく目標進行速度の設定例を示す特性図である。
【図9】操船アシストモードに切り換えた直後における船外機の基本姿勢を示す図解的な平面図である。
【図10】操船アシストモードにおいて、右左の操作レバーが前進側の等しい位置まで操作されたときの動作を説明するための図である。
【図11】操船アシストモードにおいて、右左の操作レバーが後進側の等しい位置まで操作されたときの動作を説明するための図である。
【図12】図12は、操船アシストモードにおいて、右側操作レバーが前進側に位置し、左側操作レバーが中立位置に位置している状態を示す。図12Aは、前記レバー位置に対応した船外機の姿勢の一例を示す。図12Bは、前記レバー位置に対応した船外機の姿勢の他の例を示す。
【図13】図13は、操船アシストモードにおいて、右側操作レバーが後進側に位置し、左側操作レバーが中立位置に位置している状態を示す。図13Aは、前記レバー位置に対応した船外機の姿勢の一例を示す。図13Bは、前記レバー位置に対応した船外機の姿勢の他の例を示す。
【図14】図14Aおよび図14Bは、操船アシストモードにおいて、右側操作レバーが後進側に位置し、左側操作レバーが中立位置に位置しているときの別の動作例を示す。
【図15】左側船外機が船体に与えるモーメントを説明するための図である。
【図16】船体ECUの処理を説明するためのフローチャートである。
【図17】回頭モーメント発生制御および並進抑制制御(図16のステップS6,S7)の詳細を説明するためのフローチャートである。
【図18】目標モーメントと船外機の操舵角との関係の一例を説明するための特性図である。
【図19】船体に船外機を3機搭載した構成(3機掛け)の船舶を示す模式的な平面図である。
【図20】船体に船外機を4機搭載した構成(4機掛け)の船舶を示す模式的な平面図である。
【図21】本発明の第2の実施形態による船舶用推進システムの操船アシストモード時における操舵角の制御を説明するための図である。
【図22】前記第2の実施形態の船舶用推進システムの操船アシストモード時における、操作レバーの位置と船外機のシフト状態および操舵角との対応関係を示す図である。
【図23】前記第2の実施形態の船舶用推進システムの制御を説明するためのフローチャートである。
【図24】前記第2の実施形態の船舶用推進システムの効果を説明するための図である。
【図25】変形例による船舶用推進システムの通常操船モード時および操船アシストモード時におけるスロットル開度の制御を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
第1の実施形態
まず、図1〜図5を参照して、本発明の一実施形態による船舶用推進システムの構造を説明する。
船体100の船尾101に2つの舵取装置200(右側舵取装置201および左側舵取装置202)(図2および図5参照)を介して2機の船外機300(右側船外機301および左側船外機302)が取り付けられている。船体100には、リモコンレバー102、ステアリングハンドル103、船体ECU(Electronic Control Unit)104、トリムスイッチ(図示せず)などが設置されている。リモコンレバー102は、船外機300のスロットル開度およびシフト状態の切換を指示するために操船者によって操作されるように構成されている。ステアリングハンドル103は、船体100の進行方向を変更するために操船者によって操作されるように構成されている。船体ECU104は、船舶用推進システムの制御を行うように構成されている。トリムスイッチは、船外機300の船体100に対する取り付け角度を変更するために操船者によって操作されるスイッチである。船外機300および船体ECU104は、それぞれ、本発明の一実施形態における「推進機」および「制御ユニット」の一例である。
【0031】
リモコンレバー102は、右側船外機301および左側船外機302にそれぞれ対応する2つの操作レバー(右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102b)を含んでいる。右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bは、横方向(A方向。右左方向)に並んで配置されており、それぞれが独立して縦方向(B方向。前後方向)に回動可能に構成されている。操船者は、右側操作レバー102aを回動させることにより、右側船外機301のシフト状態の切換と、アクセル操作(スロットル開度の調節)とを行うことが可能である。また、左側操作レバー102bを回動させることにより、左側船外機302のシフト状態の切換と、アクセル操作とを行うことが可能である。船外機301,302のシフト状態は、ニュートラル状態(中立状態)、前進状態および後進状態のいずれかに切り換えて設定できる。右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bは、それぞれ、本発明の一実施形態における「第1操作レバー」および「第2操作レバー」の一例である。また、右側船外機301は、本発明の一実施形態における「第1推進機」の一例である。また、左側船外機302は、本発明の一実施形態における「第2推進機」の一例である。
【0032】
図3に示すように、操作レバー(右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102b)は、ニュートラル位置(中立位置)、前進位置および後進位置にそれぞれ移動可能に構成されている。ニュートラル位置、前進位置および後進位置は、船外機300のニュートラル状態、前進状態および後進状態にそれぞれ対応する。船舶用推進システムは、操作レバーが前進位置または後進位置に位置する場合に、操作レバーの位置のニュートラル位置に対する変位量に対応して、船外機300のスロットル開度(出力)が変化するように構成されている。すなわち、操作レバーの位置のニュートラル位置に対する変位量が大きいほど、船外機300のスロットル開度が大きくなる。リモコンレバー102には、操作レバーの回動角度を検出するレバー位置センサ102cおよび102dが、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bにそれぞれ対応して設けられている。レバー位置センサ102cおよび102dの検出結果に基づいて、船外機300(右側船外機301および左側船外機302)のシフト状態およびスロットル開度が制御される。
【0033】
また、ステアリングハンドル103は、船外機300(右側船外機301および左側船外機302)を操舵するために操船者によって操作されるように構成されている。ステアリングハンドル103には、ステアリングハンドル103の回動角度を検出するためのハンドル角センサ103aが設けられている。
舵取装置200(右側舵取装置201および左側舵取装置202)は、クランプブラケット400を介して船体100の船尾101に取り付けられている。右側舵取装置201は、図5に示すように、操舵時に船外機300を回動させるためのモータ201aと、船外機300の回動角度(実舵角)を検出するための実舵角センサ201bと、舵取ECU201cとを含んでいる。同様に、左側舵取装置202は、操舵時に船外機300を回動させるためのモータ202aと、船外機300の回動角度(実舵角)を検出するための実舵角センサ202bと、舵取ECU202cとを含んでいる。船体ECU104、舵取ECU201cおよび舵取りECU202cは、船体100内に構築されたLAN(ローカルエリアネットワーク)10を介して、情報を授受することができるように構成されている。
【0034】
ハンドル角センサ103aの検出結果に基づいて、モータ201aおよび202aが駆動されることにより、船外機300(右側船外機301および左側船外機302)の操舵角が調節される。すなわち、船外機300の本体を右左に振る(回動させる)ことにより、プロペラ307の向きが変わる。これによって、プロペラ307が発生する推進力で船体100が進む方向が変わる。
【0035】
舵取装置200は、船外機300の操舵角を60度(±30度)の角度範囲で変更できるように構成されている。ハンドル角センサ103aの検出結果に基づいて船外機300の操舵角が調節される場合には、右側船外機301の操舵角と左側船外機302の操舵角とが同じ角度となるようにモータ201aおよび202aが制御される。
図4に示すように、船外機300は、エンジン303と、ドライブ軸304と、前後進切換機構305と、プロペラ軸306と、プロペラ307と、船外機ECU308とを含む。エンジン303は、空気と燃料との混合気を燃焼させることにより駆動力を発生するように構成されている。ドライブ軸304は、鉛直方向(Z方向)に延び、エンジン303の駆動力により回転されるように構成されている。ドライブ軸304の下端に、前後進切換機構305が接続されている。プロペラ軸306は、前後進切換機構305と接続され、水平方向に延びている。プロペラ軸306の後端部にプロペラ307が取り付けられている。船外機ECU308は、エンジン303および前後進切換機構305の動作を制御するように構成されている。船体ECU104および右左(right and left)の船外機の船外機ECU308は、LAN10を介して、情報を授受することができるように構成されている。
【0036】
エンジン303は、モータ303aと、スロットルバルブ303bとを含む。スロットルバルブ303bは、混合気の燃焼室(図示せず)に空気を供給する供給経路に設けられている。スロットルバルブ303bは、モータ303aの駆動力により、全閉状態(開度0%)から全開状態(開度100%)までの範囲で開閉されるように構成されている。モータ303aは、船外機ECU308によって制御される。スロットルバルブ303bの開度(スロットル開度)を調節して空気の供給量を調節することにより、エンジン303の駆動力を調節することが可能である。
【0037】
前後進切換機構305は、シフト状態を、前進状態、後進状態およびニュートラル状態のいずれかに設定するように構成されている。前進状態とは、エンジン303の駆動力により回転されるドライブ軸304の回転を、プロペラ軸306に伝達して、プロペラ軸306を前進回転させるシフト状態である。後進状態とは、ドライブ軸304の回転を、反転させてプロペラ軸306に伝達し、プロペラ軸306を後進回転させるシフト状態である。ニュートラル状態とは、ドライブ軸304とプロペラ軸306との回転の伝達を遮断するシフト状態である。シフト状態の切換は、モータ305aの駆動力により行われる。モータ305aは、船外機ECU308によって制御される。
【0038】
船外機ECU308は、船体ECU104からの信号に基づいて、モータ303aおよび305aその他船外機300の電装品の制御を行う。前後進切換機構305は、本発明の一実施形態における「切換機構部」の一例である。
エンジン303は、エンジンカバー309内に収納されている。エンジンカバー309の下方に配置されたアッパーケース310およびロアーケース311内には、ドライブ軸304、前後進切換機構305およびプロペラ軸306が収納されている。エンジンカバー309の後進方向(矢印B1方向)側の側部には通気穴309aが形成されている。通気穴309aを介してエンジンカバー309内の取り込まれた空気が、エンジン303に供給される。
【0039】
船外機300は、船体100の船尾101にクランプブラケット400を介して取り付けられている。クランプブラケット400は、船外機300を、チルト軸400aを中心に船体100に対して上下に揺動可能に支持している。
船体100には、制御モードを切り換えるために操船者によって操作される切換スイッチ105が備えられている。制御モードは、ステアリングハンドル103を用いて操船を行う通常操船モードと、ステアリングハンドル103を用いずに操船を行うことが可能な操船アシストモードとを含む。切換スイッチ105の操作によって、これらの制御モードのいずれかを選択することができる。
【0040】
通常操船モード時においては、レバー位置センサ102cおよび102dの検出結果に基づいて、右側船外機301および左側船外機302のそれぞれのシフト状態およびスロットル開度が調節される。また、ハンドル角センサ103aの検出結果に基づいて、船外機300(右側船外機301および左側船外機302)の操舵角が調節される。
操船アシストモード時においては、レバー位置センサ102cおよび102dの検出結果に基づいて、右側船外機301および左側船外機302のそれぞれのシフト状態およびスロットル開度と、操舵角とが調節される。
【0041】
操船者は、切換スイッチ105のオンおよびオフを切り換えることにより、通常操船モードと操船アシストモードとを切り換えることが可能である。すなわち、切換スイッチ105がオフのときは通常操船モードとなる。切換スイッチ105がオンのときは操船アシストモードとなる。操船アシストモード時において、ステアリングハンドル103が操作された場合には、船体ECU104の制御によって、切換スイッチ105が自動でオフになり、通常操船モードに自動的に切り替わる。切換スイッチ105は、本発明の一実施形態における「切換ユニット」の一例である。
【0042】
通常操船モードでは、船体ECU104は、レバー位置センサ102cおよび102dによって検出される操作レバーの位置情報に基づいて、右側船外機301および左側船外機302のシフト状態およびスロットル開度を決定する。この決定されたシフト状態およびスロットル開度は、船外機ECU308に送信される。船外機ECU308は、受信したシフト状態およびスロットル開度に基づいてモータ303a,305aを制御することにより、スロットルバルブ303bおよび前後進切換機構305を駆動する。また、船体ECU104は、ハンドル角センサ103aによって検出されるハンドル角に応じて、右側船外機301および左側船外機302の操舵角を決定し、舵取ECU201c,202cに送信する。舵取ECU201c,202cは、実舵角センサ201b,202bによって検出される実舵角が、受信した操舵角となるように、右側舵取装置201のモータ201aおよび左側舵取装置202のモータ202aを駆動する。
【0043】
図6Aおよび図6Bは、操船アシストモードにおける目標値の設定を説明するための図であり、リモコンレバー102の図解的な平面図である。船体ECU104は、右側操作レバー102aの位置L1と、左側操作レバー102Bの位置L2とに基づいて、船体100の目標回頭速度および目標進行速度を設定するように構成されている。位置L1,L2は、中立位置よりも前進側にあるときに正の値、中立位置からよりも後進側にあるときに負の値で表すものとする。位置L1,L2の絶対値|L1|,|L2|は、それぞれ、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bの中立位置からの変位量である。これらの位置L1,L2は、レバー位置センサ102c,102dの出力から得られる。船体100の目標回頭速度は、平面視において反時計まわり方向(左回転)の速度を正の値で表し、時計まわり方向(右回転)の速度を負の値で表すものとする。また、船体100の進行速度は、前進方向の速度を正の値で表し、後進方向の速度を負の値で表すものとする。
【0044】
船体ECU104は、右側操作レバー102aの位置L1から左側操作レバー102bの位置L2を差し引いてレバー位置差ΔL(=L1−L2)を求める。そして、船体ECU104は、このレバー位置差ΔLに基づいて、目標回頭速度を求める。
さらに、船体ECU104は、右左の操作レバー102a,102bの位置L1,L2が同符号か異符号かを判断する。すなわち、中立位置に対して、右左の操作レバー102a,102bが同じ方向(前進側または後進側)に位置しているかどうかが判断される。右左の操作レバー102a,102bの位置L1,L2が異符号であるときは、船体ECU104は、目標進行速度を零とする。一方、右左の操作レバー102a,102bの位置L1,L2が同符号であるときは、船体ECU104は、右側操作レバー102aの変位量|L1|および左側操作レバー102bの変位量|L2|のうち、小さい方を特定する。そして、小さい方の変位量に相当する位置Lmin(=L1またはL2。以下「最小変位位置Lmin」という。)に基づいて、目標進行速度を求める。いずれかの変位量|L1|,|L2|の絶対値が零であれば、目標進行速度は零とされる。
【0045】
図6Aに示す例では、ΔL>0であり、かつLmin=L2>0である。それに応じて、目標回頭速度は正となり、目標進行速度は正の値となる。よって、船体100が前進しながら左回頭(すなわち、左前方へ旋回)するように、船外機300が制御される。一方、図6Bに示す例では、ΔL>0であり、Lmin=L2=0である。したがって、目標回頭速度は正の値となり、目標進行速度は零となる。よって、船体100がその場で左回頭するように、船外機300が制御されることになる。このような船体100の挙動は、通常操船モードのときの同様のレバー操作に対応した船体100の挙動に近似している。したがって、操船者は、違和感を持つことなく、操船アシストモードでの操船を行うことができる。換言すれば、直感的に分かりやすい操作によって、船体100の挙動を制御できる。
【0046】
図7は、レバー位置差ΔLに基づく目標回頭速度の設定例を示す特性図である。レバー位置差ΔL=0の近傍に所定幅の不感帯を設けて、レバー位置差ΔLの絶対値が所定値以上でないときには目標回頭速度=0としている。レバー位置差ΔLが不感帯よりも大きいときには、目標回頭速度は正の値に設定されている。また、レバー位置差ΔLが不感帯よりも小さいときには、目標回頭速度は負の値に設定されている。そして、レバー位置差ΔLの絶対値が増加するに従って、目標回頭速度の絶対値が単調に(図7の例ではリニアに)増加するようになっている。
【0047】
図8は、最小変位位置Lminに基づく目標進行速度の設定例を示す特性図である。最小変位位置Lmin=0の近傍に所定幅の不感帯を設けて、最小変位位置Lminの絶対値が所定値以上でないときには目標進行速度=0としている。最小変位位置Lminが不感帯よりも大きいときには、目標進行速度は正の値(前進値)に設定されている。また、最小変位位置Lminが不感帯よりも小さいときには、目標進行速度は負の値(後進値)に設定されている。そして、最小変位位置Lminの絶対値が増加するに従って、目標進行速度の絶対値が単調に(図8の例ではリニアに)増加するようになっている。
【0048】
図9は、操船アシストモードに切り換えた直後における船外機301,302の基本姿勢を示す図解的な平面図である。切換スイッチ105が操作されて操船アシストモードに切り換えられると、船体ECU104は、船外機301,302を図9に示す基本姿勢に制御する。より具体的には、船体ECU104は、船外機301,302の推進力方向に沿う直線301a,302aが平面視において船体100の回転中心20を通るように、船外機301,302の目標操舵角を設定する。すなわち、船外機301,302の基本姿勢は、それらの後端部が互いに遠ざかる位置関係となる姿勢である。この基本姿勢に対応する目標操舵角がLAN10を介して舵取ECU201c,202cに与えられることにより、右左の船外機301,302が転舵されて、図9に示す基本姿勢となる。右左の操作レバー102a,102bがいずれも中立位置のときは、ΔL=0、Lmin=0である。このとき、右左の船外機301,302は基本姿勢に制御され、それらのシフト状態は中立位置に制御され、それらのエンジン回転速度は、アイドル回転速度に制御される。すなわち、目標スロットル開度は、アイドル回転速度に対応する全閉値とされる。
【0049】
なお、操舵角は、船体100の前後方向(船体中心線21に沿う方向)に対して船外機301,302の後端部(プロペラ307)を右側に振ったときに正の値をとり、左側に振ったときに負の値をとるものとする。したがって、基本姿勢では、右側船外機301の操舵角は正の値、左側船外機302の操舵角は負の値となる。
図10は、操船アシストモードにおいて、右左の操作レバー102a,102bが前進側の等しい位置まで操作された状態を示す。このとき、ΔL=0、Lmin>0となるから、目標回頭速度は零とされ、目標進行速度は正の値となる。よって、船体100が前方に直進するように船外機301,302が制御される。具体的には、船体ECU104は、船外機301,302の目標操舵角を、基本姿勢の操舵角とする。さらに、船体ECU104は、船外機301,302の目標シフト状態はいずれも前進状態とする。また、船体ECU104は、船外機301,302の目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)を、最小変位量Lminに対応する値とする。
【0050】
目標操舵角は、LAN10を介して、舵取ECU201c,202cに与えられる。これにより、船外機301,302は、いずれもの基本姿勢に制御され、それらの推進力(図10に矢印で示す。)の方向は船体100の回転中心20に向けられる。目標シフト状態(前進状態)および目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)は、LAN10を介して、右左の船外機301,302の船外機ECU308に与えられる。これにより、右左の船外機301,302のシフト状態はいずれも前進状態に制御され、右左の船外機301,302のエンジン回転速度はほぼ等しい値となる。その結果、右左の船外機301,302が発生する推進力の合力は、船体100の前進方向に向く。右左の船外機301,302の推進力がいずれも船体100の回転中心20を通る方向に作用するので、船体100は、実質的に回頭することなく前進する。すなわち、船体100は、その中心線21に沿って前方に進む。
【0051】
図11は、操船アシストモードにおいて、右左の操作レバー102a,102bが後進側の等しい位置まで操作された状態を示す。このとき、ΔL=0、Lmin<0となるから、目標回頭速度は零とされ、目標進行速度は負の値となる。よって、船体100が後方に直進するように船外機301,302が制御される。具体的には、船体ECU104は、船外機301,302の目標操舵角を、基本姿勢の操舵角とする。さらに、船体ECU104は、船外機301,302の目標シフト状態はいずれも後進状態とする。また、船体ECU104は、船外機301,302の目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)を、最小変位量Lminに対応する値とする。
【0052】
目標操舵角がLAN10を介して舵取ECU201c,202cに与えられることにより、船外機301,302は、いずれもの基本姿勢に制御され、それらの推進力(図11に矢印で示す)の方向は、船体100の回転中心20を通る直線301a,302aにそれぞれ沿って後方に向けられる。目標シフト状態(後進状態)および目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)は、LAN10を介して、右左の船外機301,302の船外機ECU308に与えられる。これにより、右左の船外機301,302のシフト状態はいずれも後進状態に制御され、右左の船外機301,302のエンジン回転速度はほぼ等しい値となる。その結果、右左の船外機301,302が発生する推進力の合力は、船体100の後進方向に向く。右左の船外機301,302の推進力がいずれも船体100の回転中心20を通る方向に作用するので、船体100は、実質的に回頭することなく後進する。すなわち、船体100は、その中心線21に沿って後方に進む。
【0053】
図12は、操船アシストモードにおいて、右側操作レバー102aが前進側に位置し、左側操作レバー102bが中立位置に位置している状態を示す。この場合、ΔL>0、Lmin=0となるから、目標回頭速度は正の値とされ、目標進行速度は零となる。よって、船体100がその場で左まわりに回頭するように船外機301,302が制御される。たとえば、船体ECU104は、船外機301,302を、図12Aまたは図12Bに示す状態に制御する。
【0054】
図12Aは、右側船外機301の操舵角を基本姿勢の操舵角よりも小さくし、その推進力の方向を船体100の回転中心20よりも右側の前方に向けた状態を示す。左側船外機302は、基本姿勢とされている。つまり、船体ECU104は、右側船外機301の目標操舵角を基本姿勢の操舵角よりも小さな値に設定する。また、船体ECU104は、右側船外機301の目標シフト状態を前進状態とし、右側船外機301の目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)をレバー位置差ΔLに対応した値に設定する。これにより、右側船外機301の推進力は、船体100に回転中心20まわりのモーメント(左まわり方向)を与える。
【0055】
ただし、右側船外機301の推進力は、同時に、船体100に対して前進方向の推進力を与える。そこで、船体ECU104は、左側船外機302を、後進方向の推進力を発生するように制御する。より具体的には、船体ECU104は、左側船外機302の目標操舵角を基本姿勢に対応した値とし、左側船外機302の目標シフト状態を後進状態とする。さらに、船体ECU104は、左側船外機302の目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)を、右側船外機301による前進方向の推進力(前後方向分力)を打ち消すことができる値に設定する。こうして、船体100には、回転中心20まわりの左まわり方向へのモーメントのみが作用することになるから、船体100をその場で左まわりに回頭させることができる。より詳しくは、左側船外機302によって船体100の移動が規制された状態で、右側船外機301の前進方向の推進力によって船体100にモーメントが与えられる。その結果、船体100は、その船首側が左側に移動するように回頭する。
【0056】
図12Bは、左側船外機302の操舵角を基本姿勢の操舵角よりも大きく(絶対値を小さく)し、その推進力の方向を船体100の回転中心20よりも左側を通る直線302aに沿って後方に向けた状態を示す。右側船外機301は、基本姿勢とされている。つまり、船体ECU104は、左側船外機302の目標操舵角を基本姿勢の操舵角よりも小さな値に設定する。また、船体ECU104は、左側船外機302の目標シフト状態を後進状態とし、左側船外機302の目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)をレバー位置差ΔLに対応した値に設定する。これにより、左側船外機302の推進力は、船体100に回転中心まわりのモーメント(左まわり方向)を与える。
【0057】
ただし、左側船外機302の推進力は、同時に、船体100に対して後進方向の推進力を与える。そこで、船体ECU104は、右側船外機301を、前進方向の推進力を発生するように制御する。より具体的には、船体ECU104は、右側船外機301の目標操舵角を基本姿勢に対応した値とし、右側船外機301の目標シフト状態を前進状態とする。さらに、船体ECU104は、右側船外機301の目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)を、左側船外機302による後進方向の推進力(前後方向分力)を打ち消すことができる値に設定する。こうして、船体100には、回転中心20まわりのモーメント(左まわり方向)のみが作用することになるから、船体100をその場で左まわりに回頭させることができる。より詳しくは、右側船外機301によって船体100の移動が規制された状態で、左側船外機302の前進方向の推進力によって船体100にモーメントが与えられる。その結果、船体100は、その船首側が左側に移動するように回頭する。
【0058】
このようにして、船体100の船首側を左側へと移動させる左回頭動作が実現される。これにより、たとえば、岸壁等の着岸対象30への着岸操作が容易になる。
図13は、操船アシストモードにおいて、右側操作レバー102aが後進側に位置し、左側操作レバー102bが中立位置に位置している状態を示す。この場合、ΔL<0、Lmin=0となるから、目標回頭速度は負の値とされ、目標進行速度は零となる。よって、船体100がその場で右まわりに回頭するように船外機301,302が制御される。たとえば、船体ECU104は、船外機301,302を図13Aまたは図13Bに示す状態に制御する。
【0059】
図13Aは、左側船外機302の操舵角を基本姿勢の操舵角よりも小さく(絶対値を大きく)し、その推進力の方向を船体100の回転中心20よりも右側を通る直線302aに沿って後方に向けた状態を示す。右側船外機301は、基本姿勢とされている。つまり、船体ECU104は、左側船外機302の目標操舵角を基本姿勢の操舵角よりも小さな値(絶対値の大きな負の値)に設定する。また、船体ECU104は、左側船外機302の目標シフト状態を後進状態とし、左側船外機302の目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)をレバー位置差ΔLに対応した値に設定する。これにより、左側船外機302の推進力は、船体100に回転中心20まわりのモーメント(右まわり方向)を与える。
【0060】
ただし、左側船外機302の推進力は、同時に、船体100に対して後進方向の推進力を与える。そこで、船体ECU104は、右側船外機301を、前進方向の推進力を発生するように制御する。より具体的には、船体ECU104は、右側船外機301の目標操舵角を基本姿勢に対応した値とし、右側船外機301の目標シフト状態を前進状態とする。さらに、船体ECU104は、右側船外機301の目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)を、左側船外機302による後進方向の推進力(前後方向分力)を打ち消すことができる値に設定する。こうして、船体100には、回転中心20まわりの右まわり方向へのモーメントのみが作用することになるから、船体100をその場で右まわりに回頭させることができる。より詳しくは、右側船外機301によって船体100の移動が規制された状態で、左側船外機302の後進方向の推進力によって船体100にモーメントが与えられる。その結果、船体100は、その船尾側が左側に移動するように回頭する。
【0061】
図13Bは、右側船外機301の操舵角を基本姿勢の操舵角よりも大きくし、その推進力の方向を船体100の回転中心20よりも左側を通る直線301aに沿って前方に向けた状態を示す。左側船外機302は、基本姿勢とされている。つまり、船体ECU104は、右側船外機301の目標操舵角を基本姿勢の操舵角よりも大きな値に設定する。また、船体ECU104は、右側船外機301の目標シフト状態を前進状態とし、右側船外機301の目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)をレバー位置差ΔLに対応した値に設定する。これにより、右側船外機301の推進力は、船体100に回転中心まわりのモーメント(右まわり方向)を与える。
【0062】
ただし、右側船外機301の推進力は、同時に、船体100に対して前進方向の推進力を与える。そこで、船体ECU104は、左側船外機302を、後進方向の推進力を発生するように制御する。より具体的には、船体ECU104は、左側船外機302の目標操舵角を基本姿勢に対応した値とし、左側船外機302の目標シフト状態を後進状態とする。さらに、船体ECU104は、左側船外機302の目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)を、右側船外機301による前進方向の推進力(前後方向分力)を打ち消すことができる値に設定する。こうして、船体100には、回転中心20まわりの右まわり方向へのモーメントのみが作用することになるから、船体100をその場で右まわりに回頭させることができる。より詳しくは、左側船外機302によって船体100の移動が規制された状態で、右側船外機301の前進方向の推進力によって船体100にモーメントが与えられる。その結果、船体100は、その船尾側が左側に移動するように回頭する。
【0063】
このようにして、船体100の船尾側を左側へと移動させる右回頭動作が実現される。これにより、たとえば、岸壁等の着岸対象30への着岸操作が容易になる。
図12,12Aおよび12Bに示した操作(船首の左移動)と、図13,13Aおよび13Bに示した操作(船尾の左移動)とを交互に行えば、船体100を左方向へと横移動させることができる。つまり、左側操作レバー102bを中立位置で保持し、右側操作レバー102aを前進側に移動させれば船首を左に移動させることができる。また、右側操作レバー102aを後進側に移動させれば船尾を左に移動させることができる。
【0064】
図14Aおよび図14Bは、操船アシストモードにおいて、右側操作レバー102aが後進側に位置し、左側操作レバー102bが中立位置に位置しているとき(図13参照)の別の動作例を示す。
図14Aは、右側船外機301の操舵角を基本姿勢の操舵角よりも小さくして負の値とし、その推進力の方向を船体100の回転中心20よりも右側を通る直線301aに沿って後方に向けた状態を示す。左側船外機302は、基本姿勢とされている。この動作例では、右側船外機301の推進力の方向は、左側船外機302の推進力が沿う直線302aよりもさらに右まわり方向に回転させた直線301aに沿う。これにより、右側船外機301が発生する推進力は、船体100に対して、より大きなモーメントを与える。船体ECU104は、右側船外機301の目標操舵角を負の値に設定する。また、船体ECU104は、右側船外機301の目標シフト状態を後進状態とし、右側船外機301の目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)をレバー位置差ΔLに対応した値に設定する。これにより、右船外機301の推進力は、船体100に回転中心20まわりのモーメント(右まわり方向)を与える。
【0065】
ただし、右側船外機301の推進力は、同時に、船体100に対して後進方向の推進力(前後方向分力)を与える。そこで、船体ECU104は、左側船外機302を、前進方向の推進力を発生するように制御する。より具体的には、船体ECU104は、左側船外機302の目標操舵角を基本姿勢に対応した値とし、左側船外機302の目標シフト状態を前進状態とする。さらに、船体ECU104は、左船外機302の目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)を、右側船外機301による後進方向の推進力を打ち消すことができる値に設定する。こうして、船体100には、回転中心20まわりの右まわり方向へのモーメントのみが作用することになるから、船体100をその場で回頭させ、船尾を左方向に移動させることができる。
【0066】
図14Bは、左側船外機302の操舵角を基本姿勢の操舵角よりも大きくして正の値とし、その推進力の方向を船体100の回転中心20よりも左側を通る直線302aに沿って前方に向けた状態を示す。右側船外機302は、基本姿勢とされている。この動作例では、左側船外機302の推進力の方向は、右側船外機301の推進力が沿う直線301aよりもさらに左まわり方向に回転させた直線に沿う。これにより、左側船外機302が発生する推進力は、船体100に対して、より大きなモーメントを与える。
【0067】
船体ECU104は、左側船外機302の目標操舵角を基本姿勢の操舵角よりも大きな値(正の値)に設定する。また、船体ECU104は、左側船外機302の目標シフト状態を前進状態とし、左側船外機302の目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)をレバー位置差ΔLに対応した値に設定する。これにより、左側船外機302の推進力は、船体100に回転中心まわりのモーメント(右まわり方向)を与える。
【0068】
ただし、左側船外機302の推進力は、同時に、船体100に対して前進方向の推進力(前後方向分力)を与える。そこで、船体ECU104は、右側船外機301を、後進方向の推進力を発生するように制御する。より具体的には、船体ECU104は、右側船外機301の目標操舵角を基本姿勢に対応した値とし、右側船外機301の目標シフト状態を後進状態とする。さらに、船体ECU104は、右側船外機301の目標スロットル開度(目標エンジン回転速度)を、左側船外機302による前進方向の推進力を打ち消すことができる値に設定する。こうして、船体100には、回転中心20まわりの右まわり方向へのモーメントのみが作用することになるから、船体100をその場で回頭させることができる。このようにして、船体100の船尾側を左側へと移動させることができる。
【0069】
図12〜図14には、船体100を左まわりに回頭させる場合の動作を説明したけれども、船体100を右まわりに回頭させる場合の動作も同様である。むろん、右側操作レバー102aと左側操作レバー102bとの操作が入れ替わる。それに応じて、右側船外機301および左側船外機302の動作が入れ替わる。
図15は、左側船外機302が船体100に与えるモーメントを説明するための図である。船体100の回転中心20から船体100の前後方向(船体中心線21に沿う方向)に沿って左側船外機302の操舵軸線25に至る距離をL1とする。また、船体100の回転中心20から船体100の右左方向(平面視において船体中心線21に直交する方向)に沿って船外機302の操舵軸線25に至る距離をL2とする。さらに、左側船外機302が発生する推進力をTとする。そして、左側船外機302の操舵角をθとする。このとき、船体100の回転中心20まわりのモーメントMは、次式で与えられる。
【0070】
=T・(L1・sinθ+L2・cosθ
右側船外機301の推進力が船体100に与えるモーメントMも同様にして計算できる。これらの合計が船体100に与えられるモーメントM(=M+M)となる。したがって、操船アシストモードにおいて、必ずしも、左側または右側の船外機301,302の推進力の方向が回転中心20を通る直線に沿っている必要はない。ただし、この場合の演算は複雑になる。したがって、演算を簡単にするためには、操船アシストモードにおいて、一方の船外機の推進力の方向を船体100の回転中心20を通る直線に沿う方向に定め、当該一方の船外機が発生するモーメントMまたはMを零とすることが好ましい。
【0071】
図16は、船体ECU104の処理を説明するためのフローチャートである。まず、ステップS1において、船体ECU104により、切換スイッチ105がオン状態であるか否かが判断される。切換スイッチ105がオフ状態である場合には、ステップS9に進み、通常操船モードによる制御が行われる。また、切換スイッチ105がオン状態である場合には、ステップS2において、操船アシストモードによる制御が行われる。
【0072】
通常操船モードでは、船体ECU104は、レバー位置センサ102cおよび102dによって検出される操作レバーの位置情報に基づいて、右側船外機301および左側船外機302のシフト状態およびスロットル開度を決定する。この決定されたシフト状態およびスロットル開度は、船外機ECU308に送信される。船外機ECU308は、受信したシフト状態およびスロットル開度に基づいてモータ303a,305aを制御することにより、スロットルバルブ303bおよび前後進切換機構305を駆動する。また、船体ECU104は、ハンドル角センサ103aによって検出されるハンドル角に応じて、右側船外機301および左側船外機302の操舵角を決定し、舵取ECU201c,202cに送信する。舵取ECU201c,202cは、実舵角センサ201b,202bによって検出される実舵角が、受信した操舵角となるように、右側舵取装置201のモータ201aおよび左側舵取装置202のモータ202aを駆動する。
【0073】
一方、操船アシストモードでは、ステップS3において、操作レバー(右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102b)の位置がレバー位置センサ102cおよび102dにより検出される。操作レバーの位置情報はレバー位置センサ102cおよび102dから船体ECU104に送信される。そして、ステップS4において、船体ECU104は、受信した操作レバーの位置情報に基づいて、目標回頭速度を設定する。すなわち、船体ECU104は、レバー位置差ΔLに応じた目標回頭速度を設定する。さらに、船体ECU104は、ステップS5において、操作レバー102a,102bの位置情報に基づいて、目標進行速度を設定する。すなわち、船体ECU104は、操作レバー102a,102bが中立位置から同方向に位置している場合に、中立位置からの変位量が小さい方の操作レバーの位置(最小変位位置Lmin)に対応する目標進行速度を設定する。前述のとおり、操作レバー102a,102bが中立位置に対して反対方向に位置している場合には、船体ECU104は、目標進行速度を零に設定する。
【0074】
次いで、船体ECU104は、求められた目標回頭速度を実現するためのモーメントを船体100に作用させるための回頭モーメント発生制御(ステップS6)を実行する。さらに、船体ECU104は、船体100が目標進行速度で進行するように(目標進行速度が零の場合は停止するように)、船体100の並進を抑制するための並進抑制制御を実行する(ステップS7)。
【0075】
また、ステップS8において、船体ECU104は、ハンドル角センサ103aの検出結果に基づいて、ステアリングハンドル103が操作されたか否かを判断する。所定の角度以上ステアリングハンドル103が回動された場合には、船体ECU104は、ステアリングハンドル103が操船者によって操作されたと判断してステップS9に進み、通常操船モードの制御に切り換える。所定の角度以上ステアリングハンドル103が回動されていない場合には、船体ECU104は、操船者によるステアリングハンドル103の操作はされていないと判断してステップS1に戻る。この後、ステップS1〜ステップS9の処理が繰り返し行われる。
【0076】
図17は、回頭モーメント発生制御および並進抑制制御(図16のステップS6,S7)の詳細を説明するためのフローチャートである。回頭モーメント発生制御は、目標回頭モーメントの算出(ステップS61)を含む。船体ECU104は、レバー位置差ΔLに基づいて算出した目標回頭速度を達成するために必要な目標回頭モーメントを算出する。この処理は、予め準備したマップから目標回頭速度に対応した目標モーメントを読み出す処理を含んでいてもよい。マップは、予め、船体ECU104のメモリ104M(図5参照)に格納しておけばよい。
【0077】
船体ECU104は、求められた目標回頭モーメントに基づいて、モーメントを発生させる船外機(右側船外機301または左側船外機302)を選択する(ステップS62)。以下では、選択された船外機を「選択船外機」といい、選択されなかった船外機を「非選択船外機」という。非選択船外機の操舵角は、その推力が船体100の回転中心を通る直線に沿うように制御されることになる。すなわち、この処理例では、非選択船外機の推進力はモーメントの発生にほとんど寄与しない。
【0078】
船体ECU104は、選択船外機を最小エンジン回転速度で運転した場合に目標回頭モーメントを達成するために必要となる、選択船外機の操舵角を演算する(ステップS63)。最小エンジン回転速度とは、操作レバー102a,102bをシフトイン位置まで操作したときに設定されるべきエンジン回転速度である。シフトイン位置とは、中立位置から前方または後方に操作レバー102a,102bを操作したときに、シフト状態がニュートラルから前進状態または後進状態に切り換わる位置である。シフトイン位置での回転速度は、トロール回転速度と呼ばれる場合もある。一般には、最小エンジン回転速度は、アイドル回転速度からトロール回転速度までの速度領域に属する。最小エンジン回転速度は、船体ECU104の内部演算処理の目的のために、シフト状態が前進状態のときのエンジン回転速度は正符号を付して表され、シフト状態が後進状態のときのエンジン回転速度は負符号を付して表される。
【0079】
船体ECU104は、求められた操舵角の絶対値と、船外機の最大操舵角絶対値(たとえば25度)とを比較し、操舵制御だけで目標回頭モーメントを発生できるかどうかを判断する(ステップS64)。最大操舵角絶対値でも目標回頭モーメントを発生できない場合には、船体ECU104は、さらに、加算すべきエンジン回転速度(加算エンジン回転速度)を算出する(ステップS65)。目標シフト状態が前進状態のときは、加算エンジン回転速度は正の値とされ、目標シフト状態が更新状態のときは、加算エンジン回転速度は負の値とされる。加算エンジン回転速度は、最小エンジン回転速度によって発生される推進力の不足分を補うために最小エンジン回転速度に加算すべきエンジン回転速度である。最大操舵角絶対値以下の絶対値の操舵角で目標回頭モーメントを発生できるときは、加算エンジン回転速度の演算(ステップS65)は省かれる。このようにして、選択船外機の目標エンジン回転速度および目標操舵角が定まる。
【0080】
並進抑制制御は、前記選択船外機が発生する推進力の前後方向分力を演算する処理(ステップS66)を含む。前後方向分力とは、選択船外機が発生する推進力のうち、船体100の前後方向に沿う成分をいう。船体ECU104は、選択船外機が発生する推進力と、選択船外機の操舵角とから前後方向分力(船体中心線21への推進力の正射影)を求める。船体ECU104は、さらに、選択船外機および非選択船外機の前後方向分力の合力が、目標進行速度に対応する値となるように、非選択船外機が発生すべき推力を演算する(ステップS67)。目標進行速度が零のときには、選択船外機の前後方向分力を打ち消すために非選択船外機が発生すべき推進力が演算されることになる。この演算された推進力に基づいて、非選択船外機の目標エンジン回転速度が求められる(ステップS68)。非選択船外機の目標操舵角は、非選択船外機の推進力の方向が船体100の回転中心を通る直線に沿うように定められる。
【0081】
船体ECU104は、選択船外機および非選択船外機の目標操舵角をLAN10を介して舵取ECU201c,202cに与える。また、船体ECU104は、選択船外機および非選択船外機の目標エンジン回転速度に対応する目標シフト状態および目標スロットル開度を、LAN10を介して、船外機ECU308,308に与える(ステップS69)。目標シフト状態は、目標エンジン回転速度が正のときは前進状態とされ、目標エンジン回転速度が負のときには後進状態とされる。舵取ECU201c,202cは、船外機301,302の操舵角をそれぞれの目標操舵角に導く。船外機ECU308,308は、船外機301,302のシフト状態およびスロットル開度をそれぞれの目標値に導く。
【0082】
図18は、目標回頭モーメントと船外機の操舵角との関係の一例を説明するための特性図である。船体ECU104は、たとえば、図18に示す特性に従って、図17のステップS63〜64の処理を実行する。
たとえば、最小エンジン回転速度は750rpmである。また、船外機の一方向への最大操舵角絶対値は25度である。船外機の操舵角を大きくすることによって、船体100に与えるモーメントを大きくすることができる。しかし、最小エンジン回転速度を保持するとすれば、最大操舵角絶対値のときのモーメントが限界値となる。したがって、最小エンジン回転速度および最大操舵角絶対値に対応するしきい値を超える目標回頭モーメントに対しては、加算エンジン回転速度を設定することにより、推進力が増加させられる。すなわち、目標操舵角を最大操舵角絶対値に相当する値としておき、エンジン回転速度を増加させて推進力を増加させることによって、目標回頭モーメントが達成される。
【0083】
目標回頭モーメントがしきい値以下の場合に、船外機を最大操舵角絶対値まで転舵する代わりに、エンジン回転速度を増加させることによって、目標回頭モーメントを達成することもできる。この場合の特性を、図18に二点鎖線で示す。しかし、この場合には、エンジン回転速度の増加に伴って、選択船外機が発生する前後方向分力が大きくなる。そのため、この前後方向分力を相殺するために、非選択船外機のエンジン回転速度を大きくしなければならない。したがって、省エネルギー性の観点からは、最小エンジン回転速度で目標回頭モーメントを実現できる範囲では、エンジン回転速度を最小エンジン回転速度とし、操舵角を変化させることによって目標回頭モーメントを達成することが好ましい。
【0084】
このように、操船アシストモードでは、2つのレバー位置センサ102cおよび102dの検出結果に基づいて、右左の船外機301および302のシフト状態および推進力だけでなく、それらの操舵角も制御される。より具体的には、右左の操作レバー102a,102bの操作位置に応じて目標回頭速度および進行速度が設定され、それに応じて、右左の船外機301および302のシフト状態、推進力(エンジン回転速度)、および操舵角が制御される。これによって、船外機300の推進力を船体100に効果的に作用させることができる。これにより、船体100の旋回半径を小さくすることができ、かつ船体100の挙動を素早く変化させることができるので、船の動きを細かくコントロールすることができる。また、操作レバー(右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102b)の操作のみによって船をコントロールすることができるので、ステアリングハンドル103を操作する必要がない。そのため、船の動きを細かくコントロールする際の操作性を向上させることができる。また、操作レバーの操作のみによって船をコントロールすることができるので、操作レバーとは別に十字キーなどの操作系を設ける必要がない。その結果、船舶用推進システムの構造が複雑になることを抑制することができ、かつ操作が煩雑になることを回避できる。
【0085】
また、操船アシストモードでは、右操作レバー102aが左操作レバー102bより前方にあれば、船体100が左回頭し、左操作レバー102bが右操作レバー102bより前方にあれば、船体100が右回頭する。すなわち、このような回頭挙動となるように、船外機301,302のシフト状態、エンジン回転速度および操舵角が制御される。しかも、操作レバーのレバー位置差ΔLに応じて目標回頭速度が設定される。したがって、操作レバー102aおよび102bの位置関係と船体100の回頭挙動との関係が、通常操船モードのときと類似している。そのため、操船者は、操作レバーの操作による船舶の挙動を容易にイメージすることができる。
【0086】
しかも、操船アシストモードでは、右操作レバー102aおよび102bが中立位置から同方向に操作されている場合に、当該操作方向へ船体100が進行するように、船外機301,302が制御される。さらに、その場合に、中立位置からの変位量の小さい方の操作レバーの当該変位量に従って目標進行速度が定められる。したがって、操作レバー102a,102bの操作位置と船体100の進行速度との関係も、通常操船モードのときと類似した関係となる。したがって、そのため、操船者は、操作レバーの操作による船舶の挙動を容易にイメージすることができる。
【0087】
このように、操船者は、操船アシストモードにおいて、直感的な操作によって、目標回頭速度および目標進行速度を定めることができる。
また、右左の操作レバー102a,102bが中立位置を挟んで反対側に位置しているときには、目標進行速度が零とされ、船体100はその場で回頭することになる。これにより、操船者は、通常操船モードのときと同様なレバー操作を行えば、それに応じて、操船者の操船意図に対応した回頭挙動が達成される。
【0088】
図19は、船体100に船外機300を3機搭載した構成(3機掛け)の船舶を示す模式的な平面図である。この船舶では、船体100の船尾に、右側船外機301、左側船外機302および中央船外機400が取り付けられている。たとえば、操船アシストモードのとき、中央船外機400は、操舵角が0度に制御され、シフト状態がニュートラル状態に制御される。右側船外機301および左側船外機302には、前述の2機掛けの船舶の場合と同様に制御される。これにより、操船アシストモードにおける船舶の挙動は、前述の2機掛けの船舶と同様になる。なお、図19には、右側操作レバー102aが中立位置よりも前方にあり、左側操作レバー102bが中立位置にある場合の動作例を示す(図12参照)。
【0089】
図20は、船体100に船外機300を4機搭載した構成(4機掛け)の船舶を示す模式的な平面図である。この船舶では、船体100の後尾に、右側船外機301、左側船外機302、中央右船外機401および中央左船外機402が取り付けられている。右側船外機301および中央右船外機401は、船体100の中心線21よりも右側に配置されており、右側船外機グループを形成している。右側船外機301が最も右寄りに配置されており、中央右船外機401は、右側船外機301よりも中心線21寄りに配置されている。左側船外機302および中央左船外機402は、船体100の中心線21よりも左側に配置されており、左側船外機グループを形成している。左側船外機302が最も左寄りに配置されており、中央左船外機402が左側船外機302よりも中央線21寄りに配置されている。
【0090】
操船アシストモードにおいて、右側船外機グループを形成する右側船外機301および中央右船外機401は、前述の2機掛けの船舶における右側船外機301と同様に制御される。同様に、操船アシストモードにおいて、左側船外機グループを形成する左側船外機302および中央左船外機402は、前述の2機掛けの船舶における左側船外機302と同様に制御される。すなわち、右側船外機301および中央右船外機401は、本発明の一実施形態における「第1推進機」に相当し、左側船外機302および中央左船外機402は本発明の一実施形態における「第2推進機」に相当する。
【0091】
たとえば、右側操作レバー102aが中立位置よりも前方にあり、左側操作レバー102bが中立位置にある場合(図12参照)の動作例は、次のとおりである。右側船外機グループを形成する右側船外機301および中央右船外機401は、いずれもシフト状態が前進状態に制御される。また、右側船外機301および中央右船外機401は、それぞれ、推進力の方向が船体100の回転中心20を通る直線301a,401aに沿うように操舵角が制御される。一方、左側船外機グループを形成する左側船外機302および中央左船外機402は、いずれもシフト状態が後進状態に制御される。さらに、左側船外機302および中央左船外機402は、互いに等しい操舵角に制御される。この操舵角は、推進力の方向が船体100の回転中心20から外れる方向となるように定められる。より具体的には、左側船外機302および中央左船外機402が発生する推進力は、船体100の回転中心20よりも左側を通る直線302a,402aを通って後方に向かう方向に作用する。これにより、船体100には、左まわりのモーメントが与えられ、船首が左側に向かうように船体100が回頭する。
【0092】
このように、この実施形態の構成は、3機以上の船外機を備えた船舶に対しても容易に応用することができる。
第2の実施形態
この発明の第2の実施形態は、操船アシストモードにおける制御内容が前述の第1の実施形態とは異なる。そこで、第2の実施形態の説明では、前述の図1〜図5を再び参照することとし、重複する説明を省く。
【0093】
図21および図22を参照して、第2の実施形態による船舶用推進システムの操船アシストモード時における制御について説明する。なお、図21に矢印で示す「推進方向」は、右側船外機301および左側船外機302が船体100に与える推進力の方向を示している。矢印の長さは右側船外機301および左側船外機302の推進力の大きさを示している。
【0094】
操船アシストモード時においては、操作レバーの位置関係に対応した挙動パターンを船体が取るように、船外機300(右側船外機301および左側船外機302)のそれぞれの操舵角、シフト状態およびスロットル開度が調節される。すなわち、所定の挙動パターンを船体100が取るような船外機300(右側船外機301および左側船外機302)のそれぞれの操舵角、シフト状態およびスロットル開度が、操作レバーの位置関係に対応付けて船体ECU104に予め設定され記憶されている。このような設定情報は、船体ECU104に備えられた記憶ユニット104M(図5参照)に格納されている。記憶ユニット104Mに格納された設定情報が図22に示されている(ただし、スロットル開度の図示は省略されている)。操作レバーの位置関係には、右側操作レバー102aの位置、左側操作レバー102bの位置、および、右側操作レバー102aと左側操作レバー102bとの相対的な位置が含まれる。船体ECU104は、レバー位置センサ102cおよび102dの検出結果に基づいて、操作レバーの位置関係を取得し、その位置関係に対応する設定情報(操舵角、シフト状態およびスロットル開度)を記憶ユニット104Mから読み出す。この読み出された設定情報が、LAN10を介して、舵取ECU201c,202cおよび船外機ECU308に与えられる。これにより、当該位置関係に対応する挙動パターンを船体100が取るように、右側舵取装置201のモータ201aと、左側舵取装置202のモータ202aと、船外機300(右側船外機301および左側船外機302)とが制御される。
【0095】
操船アシストモードにおいては、2つの操作レバーの位置関係に基づいて、船外機300の操舵角、シフト状態およびスロットル開度が制御される。このため、図22に示すように、右側操作レバー102aの位置(前進位置、後進位置およびニュートラル位置)と右側船外機301のシフト状態(前進(F)、後進(R)およびニュートラル(N))とは、通常操船モード時と異なり、必ずしも対応していない。また、右側操作レバー102aの位置と右側船外機301のスロットル開度とについても、通常操船モード時と異なり、必ずしも対応していない。同様に、左側操作レバー102bの位置と左側船外機302のシフト状態およびスロットル開度とは必ずしも対応していない。以下、具体的な制御について説明する。
【0096】
右側操作レバー102aの位置に対応する右側船外機301のシフト状態と、左側操作レバー102bの位置に対応する左側船外機302のシフト状態とが同じ場合には、通常操船モード時と同様の動作となる。すなわち、船外機300の操舵角は中立位置で変化せず、船外機300のシフト状態およびスロットル開度のみが変化する。具体的には、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bが共にニュートラル位置の場合には、右側船外機301および左側船外機302のシフト状態は共にニュートラル(N)に制御される。この場合、右左の船外機301,302のスロットル開度は共に全閉状態(開度0%)に制御される。また、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bが共に前進位置または後進位置の場合には、右側船外機301および左側船外機302のシフト状態は共に前進(F)または後進(R)に制御される。そして、右左の船外機301,302のスロットル開度は共に操作レバーの位置のニュートラル位置に対する変位量に対応した開度(0%以上100%以下)に制御される。
【0097】
操船アシストモードにおいて、右側操作レバー102aの位置(前進位置、後進位置またはニュートラル位置)と、左側操作レバー102bの位置(前進位置、後進位置またはニュートラル位置)とが異なる場合には、通常操船モードとは異なる制御が行われる。すなわち、操作レバーの位置関係に対応して予め定められた挙動パターンを船体100が取るように、船外機300の操舵角、シフト状態およびスロットル開度が調節される。
【0098】
たとえば、図21および図22の(A1)に示すように、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bがそれぞれニュートラル位置および前進位置に位置する場合の動作は次のとおりである。この操作レバーの位置関係に対応して予め定められた船体100の挙動は、ニュートラル位置の右側操作レバー102aから前進位置の左側操作レバー102bに向かう方向(左前方)への移動(平行移動)である。すなわち、船体100が左前方に平行移動するように、船外機300の操舵角、シフト状態およびスロットル開度が調節される。平行移動とは、実質的に回頭しない状態での船体100の移動をいう。
【0099】
この場合、右側船外機301の操舵角が+10度に変化され、かつ左側船外機302の操舵角が−10度に変化される。すなわち、右側船外機301の後端部と左側船外機302の後端部とが離れるように船外機300の操舵角が変化される。これにより、右側船外機301の推進力ベクトルと左側船外機302の推進力ベクトルとが、いずれも船体100の回転中心に向けられる。したがって、船体100はほとんど回頭せず、平行移動することになる。ただし、操舵角は、船体100の前後方向に対して船外機301,302の後端部(プロペラ307)を右側に振ったときに正の値をとり、左側に振ったときに負の値をとるものとする。
【0100】
さらに、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bがそれぞれニュートラル位置および前進位置に位置しているけれども、船外機301,302のシフト状態は、それらの位置に整合しない。すなわち、右側船外機301のシフト状態および左側船外機302のシフト状態は、それぞれ前進(F)および後進(R)に制御される。また、右側船外機301および左側船外機302のそれぞれのスロットル開度も、操作レバーの位置に拘わらず、予め設定された所定の値になる。(A1)の挙動パターンでは、右側船外機301のスロットル開度は、左側船外機302のスロットル開度よりも大きくなるように制御される。これにより、右側船外機301の推進力と左側船外機302の推進力との合力により、船体100は左前方に平行移動する。
【0101】
図22の(A2)に示すように、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bがそれぞれ前進位置およびニュートラル位置の場合の動作は、次のとおりである。この操作レバーの位置関係に対応して予め定められた船体100の挙動は、ニュートラル位置の左側操作レバー102bから前進位置の右側操作レバー102aに向かう方向(右前方)への移動(平行移動)である。すなわち、右側船外機301の操舵角が+10度に変化されるとともに、左側船外機302の操舵角が−10度に変化される。また、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bがそれぞれ前進位置およびニュートラル位置に位置しているけれども、右側船外機301のシフト状態および左側船外機302のシフト状態はそれぞれ後進(R)および前進(F)に制御される。また、(A2)の挙動パターンでは、右側船外機301のスロットル開度は、左側船外機302のスロットル開度よりも小さくなるように制御される。これにより、右側船外機301の推進力と左側船外機302の推進力との合力により、船体100は右前方に平行移動する。
【0102】
また、図21および図22の(B1)に示すように、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bがそれぞれニュートラル位置および後進位置の場合の動作は、次のとおりである。この操作レバーの位置関係に対応して予め定められた船体100の挙動は、ニュートラル位置の右側操作レバー102aから後進位置の左側操作レバー102bに向かう方向(左後方)への移動(平行移動)である。すなわち、船体100が左後方に平行移動するように、船外機300の操舵角、シフト状態およびスロットル開度が調節される。
【0103】
この場合、右側船外機301の操舵角が+10度に変化されるとともに、左側船外機302の操舵角が−10度に変化される。また、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bがそれぞれニュートラル位置および後進位置に位置しているけれども、右側船外機301のシフト状態および左側船外機302のシフト状態はそれぞれ前進(F)および後進(R)に制御される。また、(B1)の挙動パターンでは、左側船外機302のスロットル開度は、右側船外機301のスロットル開度よりも大きくなるように制御される。これにより、右側船外機301の推進力と左側船外機302の推進力との合力により、船体100は左後方に平行移動する。
【0104】
さらに、図22の(B2)に示すように、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bがそれぞれ後進位置およびニュートラル位置の場合の動作は、次のとおりである。この操作レバーの位置関係に対応して予め定められた船体100の挙動は、ニュートラル位置の左側操作レバー102bから後進位置の右側操作レバー102aに向かう方向(右後方)への移動(平行移動)である。すなわち、右側船外機301の操舵角が+10度に変化されるとともに、左側船外機302の操舵角が−10度に変化される。また、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bがそれぞれ後進位置およびニュートラル位置に位置しているけれども、右側船外機301のシフト状態および左側船外機302のシフト状態はそれぞれ後進(R)および前進(F)に制御される。また、(B2)の挙動パターンでは、右側船外機301のスロットル開度は、左側船外機302のスロットル開度よりも大きくなるように制御される。これにより、右側船外機301の推進力と左側船外機302の推進力との合力により、船体100は右後方に平行移動する。
【0105】
また、図21および図22の(C1)に示すように、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bがそれぞれ後進位置および前進位置の場合には、右側船外機301および左側船外機302のシフト状態がそれぞれ後進(R)および前進(F)に制御される。この場合、図22の(C1)に示すように、右側船外機301の操舵角が−10度に変化され、かつ左側船外機302の操舵角が+10度に変化される。すなわち、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bが後進位置および前進位置の場合には、右側船外機301の後端部と左側船外機302の後端部とが近づくように右側船外機301および左側船外機302の操舵角が変化される。また、右側船外機301および左側船外機302のそれぞれのシフト状態は、右側操作レバー102aの位置(後進位置)および左側操作レバー102bの位置(前進位置)に対応して、後進(R)および前進(F)に制御される。また、右側船外機301および左側船外機302のそれぞれのスロットル開度は、操作レバーの位置に拘わらず、予め設定された所定の値に制御される。(C1)の挙動パターンでは、右側船外機301のスロットル開度と左側船外機302のスロットル開度とは等しい。ただし、シフト状態が後進(R)のときは、シフト状態が前進(F)のときよりもスラスト(推進力)が弱くなるので、右側船外機301のスロットル開度を左側船外機302のスロットル開度よりも大きく設定してもよい。
【0106】
(C1)の挙動パターンでは、上記のように船外機300の操舵角、シフト状態およびスロットル開度を調節することによって、船体100の左側に前進方向の推進力が加わり、船体100の右側に後進方向の推進力が加わるので、船体100の挙動は船体100の船尾部分を中心とした右方向への回頭動作となる。右側船外機301および左側船外機302は、船体100の回頭動作の動作方向に沿うように操舵角が調節されているので、右側船外機301および左側船外機302のそれぞれの推進力が船体100の回頭方向に効果的に加わっている。
【0107】
同様にして、図22の(C2)に示すように、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bがそれぞれ前進位置および後進位置の場合には、右側船外機301の操舵角が−10度に変化され、かつ左側船外機302の操舵角が+10度に変化される。また、右側船外機301および左側船外機302のそれぞれのシフト状態は、右側操作レバー102aの位置(前進位置)および左側操作レバー102bの位置(後進位置)に対応して、前進(F)および後進(R)に制御される。また、右側船外機301および左側船外機302のそれぞれのスロットル開度は、操作レバーの位置に拘わらず、予め設定された所定の値に制御される。(C2)のパターンでは、右側船外機301のスロットル開度と左側船外機302のスロットル開度とは等しい。ただし、シフト状態が後進(R)のときは、シフト状態が前進(F)のときよりもスラスト(推進力)が弱くなるので、左側船外機302のスロットル開度を右側船外機301のスロットル開度よりも大きく設定してもよい。
【0108】
(C2)のパターンでは、船体100の左側に後進方向の推進力が加わり、船体100の右側に前進方向の推進力が加わるので、船体100の挙動は船体100の船尾部分を中心とした左方向への回頭動作となる。右側船外機301および左側船外機302は、船体100の回頭動作の動作方向に沿うように操舵角が調節されているので、右側船外機301および左側船外機302のそれぞれの推進力が船体100の回頭方向に効果的に加わっている。
【0109】
このように、右左の操作レバー102aおよび102bが前進位置および後進位置の一方および他方にそれぞれ位置する場合には、右左の船外機301および302の後端部同士が近づくように、右側船外機301および左側船外機302の操舵角が変化される。右左の船外機300が発生する推進力のベクトル方向は、船体100の回転中心(たとえば船体100の重心にほぼ一致する。)を向いていない。そのため、右左の船外機300が発生する推進力は、船体100に鉛直軸線まわりのモーメントを与える。これにより、船体100は、ほとんど位置を変えることなく回頭する。
【0110】
なお、上記した(C1)および(C2)の挙動パターンは、2つの操作レバーが前進位置および後進位置に位置する場合の制御の一例であり、上記回頭動作以外の挙動を船体100が示すように、船外機300の操舵角、シフト状態およびスロットル開度を制御してもよい。
本実施形態では、船外機300の操舵角の変化量は、操作レバーの位置のニュートラル位置に対する変位量(スロットル開度)に拘わらず、10度で固定されている。2機の船外機300を用いた船舶用推進システムでは、たとえば、右左の船外機301および302の後端部同士が近づくようにそれぞれの操舵角を13度以上変化させると、右左の301および30とが干渉する。したがって、船外機300の操舵角の変化量は、たとえば、12度以下となるように設定される。
【0111】
次に、図22および図23を参照して、この第2の実施形態による船舶用推進システムの制御を説明する。
まず、ステップS11において、船体ECU104により、切換スイッチ105がオン状態であるか否かが判断される。切換スイッチ105がオフ状態である場合には、ステップS17に進み、通常操船モードによる制御が行われる。また、切換スイッチ105がオン状態である場合には、ステップS12において、操船アシストモードによる制御が行われる。
【0112】
通常操船モードでは、船体ECU104は、レバー位置センサ102cおよび102dによって検出される操作レバーの位置情報に基づいて、右側船外機301および左側船外機302のシフト状態およびスロットル開度を決定する。この決定されたシフト状態およびスロットル開度は、船外機ECU308に送信される。船外機ECU308は、受信したシフト状態およびスロットル開度に基づいてモータ303a,305aを制御することにより、スロットルバルブ303bおよび前後進切換機構305を駆動する。また、船体ECU104は、ハンドル角センサ103aによって検出されるハンドル角に応じて、右側船外機301および左側船外機302の操舵角を決定し、舵取ECU201c,202cに送信する。舵取ECU201c,202cは、実舵角センサ201b,202bによって検出される実舵角が、受信した操舵角となるように、右側舵取装置201のモータ201aおよび左側舵取装置202のモータ202aを駆動する。
【0113】
一方、操船アシストモードでは、ステップS13において、操作レバー(右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102b)の位置がレバー位置センサ102cおよび102dにより検出される。操作レバーの位置情報はレバー位置センサ102cおよび102dから船体ECU104に送信される。そして、ステップS14において、船体ECU104は、受信した操作レバーの位置情報および図22に示した対応関係に基づいて、右側船外機301および左側船外機302のシフト状態、スロットル開度および操舵角を決定する。
【0114】
次に、ステップS15において、船体ECU104は、決定したシフト状態およびスロットル開度を右側船外機301および左側船外機302の船外機ECU308に送信する。船外機ECU308は、受信したシフト状態およびスロットル開度となるように、前後進切換機構305のモータ305aおよびスロットルバルブ303bのモータ303aを駆動する。また、船体ECU104は、決定した操舵角を右側舵取装置201および左側舵取装置202の舵取ECU201c,202cに送信する。舵取ECU201c,202cは、実舵角センサ201b,202bによって検出される実舵角が、受信した操舵角となるように、右側舵取装置201のモータ201aおよび左側舵取装置202のモータ202aを駆動する。
【0115】
また、ステップS16において、船体ECU104は、ハンドル角センサ103aの検出結果に基づいて、ステアリングハンドル103が操作されたか否かを判断する。所定の角度以上ステアリングハンドル103が回動された場合には、船体ECU104は、ステアリングハンドル103が操船者によって操作されたと判断してステップS17に進み、通常操船モードの制御に切り換える。所定の角度以上ステアリングハンドル103が回動されていない場合には、船体ECU104は、操船者によるステアリングハンドル103の操作はされていないと判断してステップS11に戻る。この後、ステップS11〜ステップS17の処理が繰り返し行われる。
【0116】
このように、操船アシストモードでは、2つの操作レバー(右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102b)の位置関係に対応して設定された挙動パターンを船体100が取るように、複数の船外機300のそれぞれの操舵角、シフト状態および推進力が調節される。したがって、操船者は、回頭動作や横方向への移動などの所定の挙動を船体100に取らせたい場合に、その挙動に対応した位置関係となるように操作レバーを操作すればよい。このレバー操作に応じて、その挙動を船体100に取らせるために適切な操舵角、シフト状態および推進力となるように、自動的に船外機300の操舵角、シフト状態および推進力が調節される。これにより、船体100が回頭動作や横方向への移動などの挙動を行う際に、船外機300の推進力を効果的に用いることができる。これにより、船体100の回頭動作などの挙動を素早く(応答性よく)変化させることができる。その結果、船の動きを細かくコントロールすることができる。
【0117】
また、操作レバーの操作のみによって船をコントロールすることができるので、ステアリングハンドル103を操作する必要がなくなる。そのため、船の動きを細かくコントロールする際の操作性を向上させることができる。また、操作レバーとは別に十字キーなどの操作系を設ける必要がないから、船舶用推進システムの構造が複雑になることを回避できる。また、操作系を追加する必要がないので、操作が煩雑になることもない。したがって、本実施形態では、船舶用推進システムの構造が複雑になることを抑制しながら、船の動きを細かくコントロールする際の操作性を向上することができる。
【0118】
また、本実施形態では、上記のように、操船アシストモードでは、操船レバー102a,102bの位置と船外機300のシフト状態とは必ずしも対応しない。すなわち、操作レバー102a,102bの位置関係に対応した挙動パターンを船体100が取るように、複数の船外機300のそれぞれの操舵角、シフト状態および推進力が調節される。操船者は、操船アシストモードにおいて、船外機300のシフト状態を気にすることなく、船体100に取らせたい挙動に対応する位置関係となるように操作レバーを操作すればよい。これにより、容易に船体100にその挙動を取らせることができる。
【0119】
また、本実施形態では、操船アシストモードでは、右側操作レバー102aの位置に対応するシフト状態と、左側操作レバー102bの位置に対応するシフト状態とが同じであれば、船体100は直進(前進または後進)する。それらのシフト状態が異なる場合には、船体100は、右側操作レバー102aと左側操作レバー102bとの位置関係に対応した挙動パターン(直進以外の挙動)をとる。この挙動は、通常の操作レバーの操作による船体100の挙動に似ているので、操船者に与える違和感を抑制できる。
【0120】
また、本実施形態では、操船アシストモードにおいて、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bの位置がそれぞれニュートラル位置およびニュートラル位置以外の位置(前進位置または後進位置)である場合に、特徴的な動作が行われる。すなわち、ニュートラル位置の右側操作レバー102aの位置からニュートラル位置以外の位置の左側操作レバー102bの位置に向かう方向に船体100を移動させるように、船外機300のそれぞれの操舵角、シフト状態および推進力が調節される。操船者は、右側操作レバー102aがニュートラル位置に位置する場合に、右側操作レバー102aの位置から左側操作レバー102bの位置へと向かう直線の方向が船体100を移動させたい方向(左前方または左後方)になるように操作レバーを操作する。これによって、船体100をその方向に移動させることができる。
【0121】
操船アシストモードにおいて、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bの位置がそれぞれニュートラル位置以外の位置(前進位置または後進位置)およびニュートラル位置である場合にも、同様の動作が行われる。すなわち、ニュートラル位置の左側操作レバー102bの位置からニュートラル位置以外の位置の右側操作レバー102aの位置に向かう方向に船体100を移動させるように、船外機300のそれぞれの操舵角、シフト状態および推進力が調節される。操船者は、左側操作レバー102bがニュートラル位置に位置する場合に、左側操作レバー102aの位置から左側操作レバー102bの位置と向かう直線の方向が船体100を移動させたい方向になるように操作レバーを操作する。これによって、船体100をその方向(右前方または右後方)に移動させることができる。
【0122】
このようにして、操船技術が未熟な操船者であっても、容易に船をコントロールすることができる。
また、本実施形態では、操船アシストモードにおいて、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bがそれぞれ前進位置および後進位置に位置する場合に、右側船外機301および左側船外機302のシフト状態がそれぞれ前進状態および後進状態に制御される。さらに、右側船外機301の後端部と左側船外機302の後端部とが近づくように右側船外機301および左側船外機302の操舵角が変化させられる。同様に、右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bがそれぞれ後進位置および前進位置に位置する場合に、右側船外機301および左側船外機302のシフト状態がそれぞれ後進状態および前進状態に制御される。さらに、右側船外機301の後端部と左側船外機302の後端部とが近づくように右側船外機301および左側船外機302の操舵角が変化させられる。このように構成することによって、船体100が回頭する方向に沿って右側船外機301の推進力および左側船外機302の推進力を作用させることができる。その結果、右側船外機301の推進力および左側船外機302の推進力によって、船体100の位置を大きく変動させることなく(その場で)素早く(応答性よく)回転(回頭)させることができる。
【0123】
また、本実施形態では、上記のように、通常操船モードと、操船アシストモードとに制御モードを切り換えるための切換スイッチ105が設けられている。これによって、操船者は、通常の操船時には通常操船モードに切り換えてステアリングハンドル103を用いて操船を行。また、操船者は、船の動きを細かくコントロールする必要がある場合(離着岸を行う場合など)には、操船アシストモードに切り換えて、操作レバーのみを用いて操船を行うことができる。これにより、操船者の利便性を向上させることができる。
【0124】
次に、図24を参照して、第2の実施形態による船舶用推進システムの上記した効果をより詳細に説明する。図24では、操作レバーの位置に応じた操舵角の制御を行わない通常操船モードでの船体100の挙動を、操船アシストモードでの船体100の挙動と比較可能なように示している。
図24では、操船アシストモードおよび通常操船モードについて、桟橋に船を横付けする場合の船体100の挙動を示している。図24に示すように、通常操船モードでは、船体100の小回りが効かず、船を桟橋に横付けするために大きいスペースRを使う必要がある。その一方、操船アシストモードでは、船体100の小回りが効くので、小さいスペースSを使って船を桟橋に横付けすることができる。
【0125】
その他の実施形態
ここに開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0126】
たとえば、上記実施形態では、2つの操作レバーを用いて2機の船外機を操舵する例を主として示したが、本発明はこれに限らない。たとえば、2つの操作レバーを用いて4機の船外機を操舵したり(図20参照)、3つの操作レバーを用いて3機の船外機を操舵するなど(図19参照)、2つ以上の操作レバーを用いて4機以上の船外機を操舵してもよい。
【0127】
また、上記実施形態では、エンジンの駆動力によりプロペラを回転させて推進力を発生する船外機を用いた例を示したが、本発明はこれに限らない。すなわち、電動モータの駆動力によりプロペラを回転させて推進力を発生させる船外機その他の推進機を用いてもよい。また、プロペラの回転により推進力を発生させる推進機のみならず、噴射ノズルから水を噴射するジェットドライブにより推進力を発生させる推進機(ジェット推進機)を用いてもよい。
【0128】
また、上記実施形態では、通常操船モードと操船アシストモードとを切換ボタンにより操船者が切り換えるように構成した例を示したが、本発明はこれに限らない。すなわち、所定の条件を満たした場合に、自動的に、通常操船モードから操船アシストモードに切り替わる構成を採ることもできる。
また、上記第2の実施形態では、(A1)、(A2)のパターンを横前方移動と対応させ、(B1)、(B2)のパターンを横後方移動と対応させ、(C1)、(C2)のパターンを回頭動作と対応させた例を示したが、本発明はこれに限らない。すなわち、(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)および(C2)のパターンを他の船体の挙動と対応させるように設定してもよい。たとえば、真横への移動や、旋回動作を上記(A1)、(A2)、(B1)、(B2)、(C1)および(C2)のパターンのいずれかと対応させてもよい。
【0129】
また、上記実施形態では、通常操船モードと1つの操船アシストモードとを切換可能に構成した例を示したが、本発明はこれに限らない。たとえば、レバーの位置関係と船体の挙動の対応関係が異なる複数の操船アシストモードを設けてしておき、いずれかの操船アシストモードを操船者が選択できる構成としてもよい。
また、上記第2の実施形態では、船外機の操舵角の変化量を10度に固定した例を示したが、本発明はこれに限らず、10度以外の角度だけ操舵角を変化させてもよい。
【0130】
また、上記第2の実施形態では、右側船外機301の操舵角の変化量と左側船外機302の操舵角の変化量とを同じ角度(10度)に設定した例を示したが、本発明はこれに限らない。すなわち、右側船外機301の操舵角の変化量と左側船外機302の操舵角の変化量とを異ならせてもよい。
また、上記第2の実施形態では、右側操作レバー102aの位置に対応するシフト状態と左側操作レバー102bの位置に対応するシフト状態とが異なる場合に、操作レバーの位置関係に対応した挙動を取るように船外機の操舵角、シフト状態およびスロットル開度が制御されている。しかし、本発明はこれに限られない。たとえば、右左の操作レバー102aおよび102bの位置に対応するシフト状態とが同じであった場合(たとえば、両方が前進位置にある場合)でも、右側操作レバー102aの位置と左側操作レバー102bの位置とが異なる場合(右側船外機301と左側船外機302のスロットル開度が異なる場合)もある。このような場合に、右左の操作レバーの位置関係に対応した挙動を取るように、船外機の操舵角、シフト状態およびスロットル開度を変化させてもよい。
【0131】
また、この場合に、右側操作レバー102aの位置から左側操作レバー102bの位置に向かう方向(または、左側操作レバー102bの位置から右側操作レバー102aの位置に向かう方向)に船体100を移動させるように、複数の船外機300のそれぞれの操舵角、シフト状態および推進力を調節してもよい。この場合、操船者は、船体100を移動させたい方向に向かって右側操作レバー102aの位置と左側操作レバー102bの位置とが並ぶように右側操作レバー102aおよび左側操作レバー102bを操作する。これにより、船体100をその方向に移動させることができる。これにより、操船技術が未熟な操船者であっても、容易に船をコントロールすることができる。
【0132】
また、上記第2の実施形態では、操船アシストモード時において、通常操船モード時における操作レバーの変位量とスロットル開度との関係と同じ関係になるようにスロットル開度を制御した例を示したが、本発明はこれに限らない。すなわち、操船アシストモード時においては、通常操船モード時のスロットル開度よりも小さくなるようにスロットル開度を制御してもよい。たとえば、図25に示すように、操作レバーの変位量が最大の場合のスロットル開度が通常操船モード時の30%の開度となるようにスロットル開度を制御してもよい。同様に、上記第1の実施形態の操船アシストモードにおいて、最小変位位置Lminに対応するスロットル開度を、通常操船モード時のスロットル開度よりも小さくなるようにスロットル開度制御を行ってもよい。また、第1および第2実施形態のいずれにおいても、エンジン回転速度に上限値を定めておき、操船アシストモード時においてはエンジン回転速度が上限値を上回らないようにスロットル開度を制御してもよい。
【符号の説明】
【0133】
100 船体
102a 右側操作レバー102a(操作レバー、第1操作レバー)
102b 左側操作レバー102b(操作レバー、第2操作レバー)
102c レバー位置センサ
102d レバー位置センサ
103 ハンドル
103a ハンドル角センサ
104 船体側ECU104(制御部)
105 切換スイッチ(切換手段)
300 船外機(推進機)
301 右側船外機301(第1推進機)
302 左側船外機302(第2推進機)
303 エンジン
305 前後進切換機構(切換機構部)
307 プロペラ
400 中央船外機
401 中央右船外機(第1推進機)
402 中央左船外機(第2推進機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵角を変化させることが可能なように船体に取り付けられるように構成された第1推進機および第2推進機と、
前記第1推進機のシフト状態を、前進状態、中立状態および後進状態のいずれかに指示し、かつ、前記第1推進機の出力を指示するために操船者によって操作されるように構成された第1操作レバーと、
前記第2推進機のシフト状態を、前進状態、中立状態および後進状態のいずれかに指示し、かつ、前記第2推進機の出力を指示するために操船者によって操作されるように構成された第2操作レバーと、
前記第1操作レバーの位置を検出するように構成された第1レバー位置センサと、
前記第2操作レバーの位置を検出するように構成された第2レバー位置センサと、
前記第1および第2レバー位置センサの検出結果に基づいて、前記第1操作レバーおよび前記第2操作レバーの相対位置に応じた目標回頭速度を設定し、かつ、前記第1および第2操作レバーの中立位置からの変位量に応じた目標進行速度を設定し、前記目標回頭速度で前記船体が回頭し、かつ前記目標進行速度で前記船体が進行するように、前記第1および第2推進機のそれぞれの操舵角、シフト状態および推進力を制御するように構成された制御ユニットとを含む、船舶用推進システム。
【請求項2】
前記制御ユニットは、前記第1および第2レバー位置センサによって検出される前記第1および第2操作レバーの位置の差に応じた目標回頭速度を設定するように構成されている、請求項1記載の船舶用推進システム。
【請求項3】
前記制御ユニットは、前記第1および第2操作レバーのうち中立位置からの変位量の小さい方の操作レバーの位置に応じた目標進行速度を設定するように構成されている、請求項1または2に記載の船舶用推進システム。
【請求項4】
前記制御ユニットは、前記第1操作レバーが中立位置の一方側に位置し、前記第2操作レバーが中立位置の他方側に位置するときに、目標進行速度を零に設定するように構成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の船舶用推進システム。
【請求項5】
前記第1および第2操作レバーが右左に並んで配置されており、
前記第1操作レバーが右側に配置され、かつ前後に操作されるように構成されており、
前記第2操作レバーが左側に配置され、かつ前後に操作されるように構成されており、
前記制御ユニットは、前記第1操作レバーが前記第2操作レバーよりも前方に位置していれば船体を左まわりに回頭させ、前記第1操作レバーが前記第2操作レバーよりも後方に位置していれば船体を右まわりに回頭させるように、前記目標回頭速度を設定するように構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の船舶用推進システム。
【請求項6】
前記制御ユニットは、各推進機により船体に与えるべきモーメントが所定のしきい値以下のときは、当該推進機の出力を一定値に制御し、かつ前記モーメントに応じて当該推進機の操舵角を制御するように構成されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の船舶用推進システム。
【請求項7】
前記制御ユニットは、各推進機により船体に与えるべきモーメントが前記しきい値を超えるときは、当該推進機の操舵角を最大操舵角に制御し、かつ前記モーメントに応じて当該推進機の出力を制御するように構成されている、請求項6記載の船舶用推進システム。
【請求項8】
前記制御ユニットは、前記第1および第2推進機の一方の推進機の操舵角を当該推進機の推進力の方向が船体の回転中心を通る直線に沿うように定め、前記第1および第2推進機の他方の推進機の操舵角、シフト状態および推進力を前記目標回頭速度に応じて定めるように構成されている、請求項1〜7のいずれか一項に記載の船舶用推進システム。
【請求項9】
前記制御ユニットは、前記一方の推進機のシフト状態および推進力を、前記他方の推進機が発生する推進力の前後方向分力と、前記目標進行速度とに応じて定めるように構成されている、請求項8記載の船舶用推進システム。
【請求項10】
前記第1および第2推進機の操舵角を変更するために操船者によって操作されるように構成されたステアリングハンドルと、
前記ステアリングハンドルの回動角度を検出するように構成されたハンドル角センサと、
通常操船制御と、操船アシスト制御とを切り換えるように構成された切換ユニットとをさらに含み、
前記制御ユニットは、前記通常操船制御時において、前記第1および第2レバー位置センサの検出結果に基づいて、前記第1および第2推進機のシフト状態および推進力を制御し、かつ前記ハンドル角センサの検出結果に基づいて、前記第1および第2推進機の操舵角を変化させるように構成されており、
前記制御ユニットは、前記操船アシスト制御時において、前記第1および第2レバー位置センサの検出結果に基づいて、前記第1操作レバーおよび前記第2操作レバーの相対位置に応じた目標回頭速度を設定し、かつ、前記第1および第2操作レバーの中立位置からの変位量に応じた目標進行速度を設定し、前記目標回頭速度で前記船体が回頭し、かつ前記目標進行速度で前記船体が進行するように、前記第1および第2推進機のそれぞれの操舵角、シフト状態および推進力を制御するように構成されている、請求項1〜9のいずれか一項に記載の船舶用推進システム。
【請求項11】
前記制御ユニットは、前記操船アシスト制御時において、前記通常操船制御時における前記第1および第2操作レバーの位置に対応する前記第1および第2推進機の推進力よりも小さい推進力となるように前記第1および第2推進機を制御するように構成されている、請求項10に記載の船舶用推進システム。
【請求項12】
前記第1推進機は、操舵角を変化させることが可能なように前記船体に取り付けられるように構成された第1船外機を含み、
前記第2推進機は、操舵角を変化させることが可能なように前記船体に取り付けられるように構成された第2船外機を含み、
前記第1および第2船外機は、それぞれ、スロットル開度を調節することによって駆動力を調節可能に構成されたエンジンと、前記エンジンの駆動力によって回転されるように構成されたプロペラと、シフト状態を切り換えるように構成された切換機構部とを含み、
前記第1および第2操作レバーは、前記第1および第2船外機のシフト状態およびスロットル開度を前記船外機に指示するために操船者によって操作されるように構成されており、
前記制御ユニットは、前記第1および第2レバー位置センサの検出結果に基づいて、前記第1および第2船外機のそれぞれの操舵角、シフト状態およびスロットル開度を制御するように構成されている、請求項1〜11のいずれか一項に記載の船舶用推進システム。
【請求項13】
操舵角を変化させることが可能なように船体に取り付けられるように構成された複数の推進機と、
前記複数の推進機のシフト状態を、それぞれ、前進状態、中立状態および後進状態のいずれかに指示するために操船者によって操作されるように構成された複数の操作レバーと、
前記複数の操作レバーのそれぞれに対応して設けられ、前記操作レバーの位置を検出するように構成された複数のレバー位置センサと、
前記複数の操作レバーの位置関係と対応付けて予め設定された前記船体の挙動パターンを記憶した記憶ユニットと、
前記複数のレバー位置センサの検出結果に基づいて前記挙動パターンを選択し、選択された挙動パターンに対応する操舵角およびシフト状態となるように、前記複数の推進機のそれぞれの操舵角およびシフト状態を制御するように構成された制御ユニットとを含む、船舶用推進システム。
【請求項14】
前記複数の推進機は、第1推進機と、前記第1推進機とは異なる第2推進機とを含み、
前記複数の操作レバーは、前記第1推進機に対応する第1操作レバーと、前記第2推進機に対応する第2操作レバーとを含み、
前記制御ユニットは、前記第1操作レバーの位置と前記第2操作レバーの位置とが異なる場合に、前記第1操作レバーと前記第2操作レバーとの位置関係に対応して予め設定された挙動パターンを選択し、選択された挙動パターンに対応する操舵角およびシフト状態となるように、前記第1および第2の推進機のそれぞれの操舵角およびシフト状態を制御するように構成されている、請求項13に記載の船舶用推進システム。
【請求項15】
前記第1操作レバーおよび前記第2操作レバーは、横方向に並んで配置されており、
前記制御ユニットは、前記第1操作レバーの位置と、前記第2操作レバーの位置とが異なる場合に、前記第1操作レバーの位置から前記第2操作レバーの位置に向かう方向に前記船体を移動させるように、前記第1および第2の推進機のそれぞれの操舵角、シフト状態および推進力を調節するように構成されている、請求項14に記載の船舶用推進システム。
【請求項16】
前記制御ユニットは、前記第1操作レバーの位置が前記中立位置であり、前記第2操作レバーの位置が前記中立位置以外の位置である場合に、前記中立位置の前記第1操作レバーの位置から前記中立位置以外の位置の前記第2操作レバーの位置に向かう方向に前記船体を移動させるように、前記第1および第2の推進機のそれぞれの操舵角およびシフト状態を調節するように構成されている、請求項15に記載の船舶用推進システム。
【請求項17】
前記複数の推進機の操舵角を変更するために操船者によって操作されるように構成されたステアリングハンドルと、
前記ステアリングハンドルの回動角度を検出するように構成されたハンドル角センサと、
通常操船制御と、操船アシスト制御とを切り換えるように構成された切換ユニットとをさらに含み、
前記制御ユニットは、前記通常操船制御時において、前記複数のレバー位置センサの検出結果に基づいて、前記推進機のシフト状態および推進力を制御し、かつ前記ハンドル角センサの検出結果に基づいて、前記複数の推進機の操舵角を変化させるように構成されており、
前記制御ユニットは、前記操船アシスト制御時において、前記複数のレバー位置センサの検出結果に基づいて、前記複数の操作レバーの位置関係に対応した挙動パターンを選択し、選択された挙動パターンに対応する操舵角およびシフト状態となるように、前記複数の推進機のそれぞれの操舵角およびシフト状態を制御するように構成されている、請求項13〜16のいずれか1項に記載の船舶用推進システム。
【請求項18】
前記制御ユニットは、前記操船アシスト制御時において、前記通常操船制御時における前記操作レバーの位置に対応する前記推進機の推進力よりも小さい推進力となるように前記推進機を制御するように構成されている、請求項17に記載の船舶用推進システム。
【請求項19】
前記制御ユニットは、前記操船アシスト制御時において、前記複数のレバー位置センサの検出結果に基づいて、前記通常操船制御時における前記操作レバーの位置と前記推進機のシフト状態との対応関係に拘わらず、前記複数の操作レバーの位置関係に対応して予め設定された挙動パターンを選択し、選択された挙動パターンに対応する操舵角およびシフト状態となるように、前記複数の推進機のそれぞれの操舵角およびシフト状態を制御するように構成されている、請求項17または18に記載の船舶用推進システム。
【請求項20】
前記推進機は、操舵角を変化させることが可能なように前記船体に取り付けられるように構成された船外機を含み、
前記船外機は、スロットル開度を調節することによって駆動力を調節可能に構成されたエンジンと、前記エンジンの駆動力によって回転されるように構成されたプロペラと、シフト状態を切り換えるように構成された切換機構部とを含み、
前記操作レバーは、前記複数の船外機のシフト状態およびスロットル開度を前記船外機に指示するために操船者によって操作されるように構成されており、
前記制御ユニットは、前記複数のレバー位置センサの検出結果に基づいて前記挙動パターンを選択し、選択された挙動パターンに対応する操舵角およびシフト状態となるように、前記複数の船外機のそれぞれの操舵角およびシフト状態を制御するように構成されている、請求項13〜19のいずれか1項に記載の船舶用推進システム。
【請求項21】
船体と、
前記船体に備えられた、請求項1〜20のいずれか一項に記載の船舶用推進システムとを含む、船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−195388(P2010−195388A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13281(P2010−13281)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)