説明

船舶用操舵装置及び船舶

【課題】船舶の走行状態に応じて、常に応答性よく、且つ、操作感が良好に転舵できる船舶用転舵装置及び船舶を提供する。
【解決手段】船舶推進装置12と、船舶推進装置12の推力を制御する制御手段33と、電動アクチュエータ20によって駆動される舵取り装置16と、操船者により操作され、電動アクチュエータ20に電気的に接続されたハンドルとを備え、制御手段33が、ハンドル操作に従った操舵状態を検出する操舵状態検出手段と、船舶の走行状態を検出する走行状態検出手段と、船外機12の搭載数等の状態を認識する船外機状態認識手段と、電動モータの状態を検出する電動モータ状態検出手段との少なくとも一つを有し、少なくとも一つの手段からの検知値に基づいて目標推力を演算する推力演算手段と、推力演算手段が演算した目標推力に応じて船舶推進装置12の推力を制御する推力抑制手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ハンドルの操作により電動アクチュエータが駆動されて転舵される船舶用操舵装置と、この操舵装置が設けられた船舶に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からこの種の船舶としては、特許文献1に記載されたようなものがある。
【0003】
すなわち、この特許文献1には、「ハンドル操作により舵取装置の電動アクチュエータが駆動され、ハンドル操作量に対応して操舵されると共に、船に作用する外力が検出され、この検出された外力に基づいてハンドルに対し、反トルクが付与される。従って、操船者は、水流などによって船に加えられる外力をハンドルを通して感じることができ、この外力に対応する船の動きを認識して迅速に対応することができる。」旨記載されている。
【特許文献1】特開2005−254848号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来のものにあっては、船に作用する外力に基づいてハンドルに対し、反トルクが付与され、操船者は、水流などによって船に加えられる外力をハンドルを通して感じることができ、この外力に対応する船の動きを認識して迅速に対応することができるようになっているが、船に外力が作用していない状態では、ハンドル操作を軽くできるため、転舵に必要な出力(転舵トルク)が大きい場合に、ハンドル操作速度が速いと、ステアリングモータ(電動アクチュエータ)の出力が追いつかず、結果として操作感が良好でなくなるという問題が発生する。
【0005】
ちなみに、転舵に必要な転舵トルク特性(必要転舵力特性)は、図10に示すように、船舶の特性、舵角、操舵速度等により、必要転舵力特性線A1に示す状態から必要転舵力特性線A2に示す状態まで変化する場合があり、かかる場合に、必要転舵力が大きくなるためモータ能力を超えてしまい、応答性を損ない、操作感を悪くする虞がある。
【0006】
また、モータ特性は、図11に示すように、温度条件などの環境によって変化し、例えば、高温になると、モータ特性線B1(図中実線)に示す状態からモータ特性線B2(図中破線)に示す状態まで変化する場合があり、かかる場合に、モータトルクが小さくなるためモータ特性が必要転舵力を満足せず、応答性を損ない、操作感を悪くする虞がある。
【0007】
そこで、この発明は、船舶の走行状態に応じて、常に応答性よく、且つ、操作感が良好に転舵できる船舶用転舵装置及び船舶を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を達成するために、請求項1に記載の船舶用操舵装置発明は、船尾に配設される船舶推進装置と、該船舶推進装置の推力を制御する制御手段と、前記船舶推進装置を転舵させるように電動アクチュエータによって駆動される舵取り装置と、操船者により操作され、操作量に応じた駆動信号を前記電動アクチュエータに与えるために前記電動アクチュエータに電気的に接続されたハンドルと、を備えた船舶用操舵装置であって、前記制御手段は、ハンドル操作に従った操舵状態を検出する操舵状態検出手段と、船舶の走行状態を検出する走行状態検出手段と、前記船舶推進装置の搭載数等の状態を認識する船舶推進装置状態認識手段と、前記電動アクチュエータの状態を検出する電動アクチュエータ状態検出手段との少なくとも一つを有し、該少なくとも一つの手段からの検知値に基づいて目標推力を演算する推力演算手段と、該推力演算手段が演算した目標推力に応じて前記船舶推進装置の推力を抑制する推力抑制手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の船舶用操舵装置は、請求項1に記載の構成に加え、前記操舵状態検出手段には、転舵に必要な転舵力を検出する転舵力検出手段と、舵に作用している負荷を検出する負荷検出手段と、前記ハンドル操作の操作角、操作速度、操作方向を検出する操舵検出手段と、前記ハンドル操作に従って駆動される舵の回転角度、回転速度、回転方向を検出する転舵検出手段と、前記ハンドル操作に従った目標転舵角と検出された実転舵角との偏差を検出する偏差検出手段との少なくとも一つを備えることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の船舶用操舵装置は、請求項1又は2に記載の構成に加え、前記走行状態検出手段には、前記船舶の喫水位置、重量の少なくとも一つを検出する重量検出手段と、前記船舶のトリム角を検出するトリム角検出手段と、前記船舶の速度及び加速度の少なくとも一つを検出する速度検出手段との少なくとも一つを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の船舶用操舵装置は、請求項1乃至3の何れか一つに記載の構成に加え、前記船舶推進装置状態認識手段には、前記船舶推進装置の搭載数、前記船舶推進装置の船舶に対する搭載位置、前記船舶推進装置に設けられたプロペラの回転方向、プロペラ形状、トリムタブ角度、トリムタブ形状のうちのいずれか1つの情報を記憶した操舵記憶手段を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の船舶用操舵装置は、請求項1乃至4の何れか一つに記載の構成に加え、前記電動アクチュエータ状態検出手段には、前記電動アクチュエータの温度を検出する温度検出手段を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の船舶は、請求項1乃至5の何れか一つに記載の船舶用操舵装置が配設されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1乃至5に記載の船舶用操舵装置によれば、制御手段が操舵状態検出手段、走行状態検出手段、船舶推進装置状態認識手段、及び電動アクチュエータ状態検出手段の少なくとも一つの検知値に基づいて、推力演算手段により目標推力を演算し、その目標推力に応じて推力抑制手段により船舶推進装置の推力を抑制するので、ハンドル操作時に転舵に必要な転舵力を低下させることができる。そのため、転舵に必要な転舵力を電動アクチュエータにより出力可能な範囲に抑えることができ、転舵動作に応答遅れが生じたり、過剰な転舵操作が行われることが防止できる。その結果、船舶の走行状態に応じて、常に応答性よく、且つ、操作感が良好に転舵することが可能である。
【0015】
また、請求項6に記載の船舶によれば、過剰な出力が得られる電動アクチュエータを用いる必要がなくて効率のよい制御が可能であると共に、良好な操作感を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0017】
図1乃至図8には、この発明の実施の形態を示す。
【0018】
まず構成を説明すると、この実施の形態の船舶は、図1に示すように、船体10の船尾板11に「船舶推進装置」としての船外機12がクランプブラケット13を介して取り付けられ、この船外機12は、上下方向に沿うスイベル軸(操舵ピボット軸)14廻りに回転可能となっている。
【0019】
このスイベル軸14の上端部には、ステアリングブラケット15が固定され、このステアリングブラケット15の前端部15aに舵切り装置16が連結され、この舵切り装置16が、操船席に配設されたハンドル17により操作されて駆動されるようになっている。
【0020】
また、船外機12の推力を調整するためのリモコン装置18が操船席に配設されており、リモコン装置18のレバー19の操作により船外機12が駆動されるようになっている。
【0021】
その舵切り装置16は、図2に示すように、「電動アクチュエータ」としての例えばDD(Direct Drive)型電動モータ20を有し、この電動モータ20が、左右方向に配設されたネジ棒21に装着され、このネジ棒21に沿って左右方向に移動するように構成されている。
【0022】
そのネジ棒21は、両端部が左右一対の支持部材22に支持され、これら支持部材22は、チルト軸23に支持されている。
【0023】
そして、その電動モータ20には、連結ブラケット24が後方に向けて突設され、この連結ブラケット24とクランプブラケット13とが連結ピン25を介して連結されている。
【0024】
これにより、電動モータ20が駆動して、ネジ棒21に対して左右方向に移動することにより、連結ブラケット24及びクランプブラケット13を介して船外機12が、スイベル軸14を中心として回動するように構成されている。
【0025】
一方、ハンドル17は、図1に示すように、ハンドル軸26に固定され、このハンドル軸26の基端部にハンドル制御部27が設けられ、このハンドル制御部27には、ハンドル17の操舵角を検出するハンドル操舵角センサ28及び、ハンドル17の操作時にこのハンドル17に対して所望の反力を付与する反力モータ29が設けられている。
【0026】
このハンドル制御装置27が、信号ケーブル30を介して「制御手段」としての制御装置(ECU)33に接続され、この制御装置33が舵切り装置16の電動モータ20に接続され、この制御装置33にハンドル操舵角センサ28からの信号が入力され、この制御装置33にて電動モータ20が制御駆動されると共に、この制御装置33にて反力モータ29が制御されるように構成されている。
【0027】
更に、リモコン装置18は、ハンドル17近傍に前後に傾倒可能に装着されており、内部に設けられた位置センサ19aにより操作レバー19の操作量が検出され、操作量が信号ケーブル31を介して接続された制御装置(ECU)33伝達され、その信号に基づいてエンジン側の制御装置にて船外機12の推力が制御されるように構成されている。ここでは、スロットル開度、点火時期、燃料噴射量などを調整することにより推力を制御可能とされている。
【0028】
そして、この制御装置33には、図4に示すように、ハンドル操作に従った操舵状態を検出する操舵状態検出手段38と、船舶の走行状態を検出する走行状態検出手段39と、船外機12の搭載数等の状態を認識する「船舶推進装置状態認識手段」としての船外機状態認識手段40と、電動モータ20の状態を検出する「電動アクチュエータ状態検出手段」としての電動モータ状態検出手段41とを有している。また、これら手段38…からの検知値に基づいて、転舵時に作用する電動モータ20に対する負荷が増加されると判断される時に、船舶推進装置12の目標推力を小さくするように目標推力を演算する推力演算手段42と、推力演算手段42が演算した目標推力に応じて船舶推進装置12の推力を抑制する推力抑制手段43とを有している。
【0029】
その操舵状態検出手段38には、図3に示すハンドル操作に従った転舵に必要な転舵力を検出する転舵力検出手段43と、舵に作用している負荷を検出する負荷検出手段44と、ハンドル操作の操作角、操作速度、操作方向を検出する操舵検出手段46と、ハンドル操作に従って駆動される船外機12の回転角度、回転速度、回転方向を検出する転舵検出手段47と、ハンドル操作に従った目標転舵角と検出された実転舵角との偏差を検出する偏差検出手段45とが接続されている。その操舵検出手段46には、操舵角度を検出する前記ハンドル操舵角センサ28が含まれている。
【0030】
また、その走行状態検出手段39には、図3に示す、船舶の喫水位置、重量の少なくとも一つを検出する重量検出手段48と、船舶のトリム角を検出するトリム角検出手段49と、船舶の速度及び加速度の少なくとも一つ、船外機12の推力、船外機12のエンジン回転数を検出する速度検出手段50とが接続されている。
【0031】
さらに、船外機状態認識手段40には、船外機12の搭載数、船外機12の船舶に対する搭載位置、
船外機12に設けられたプロペラの回転方向、プロペラサイズ、プロペラ形状、トリムタブ角度、トリムタブ形状等の情報を記憶した操舵記憶手段51が接続されている。勿論、操舵記憶手段51はECU33に内蔵されていても良い。
【0032】
さらにまた、電動モータ状態検出手段41には、電動モータ20の温度を検出する温度検出手段52が接続されている。この電動モータ状態検出手段41には、電動モータ20の回転数や温度に対する出力トルクのデータや等が記憶されている。
【0033】
次に、作用について説明する。
【0034】
まず、操船者にてハンドル17が回転されると、操舵検出手段46のハンドル操舵角センサ28からECU33に信号が送られて、図5中、ステップS10で、目標転舵角が検知され、ステップS11で、目標制御偏差が演算される。
【0035】
また、ステップS12で、操舵状態検出手段38により、操舵状態が検知される。操舵状態とは、船外機12の転舵に必要な転舵力、舵に作用している負荷、
ハンドル操作の操作角、操作速度、操作方向、ハンドル操作に従って駆動される船外機12の回転角度、回転速度、回転方向、操舵速度、操舵方向、ハンドル操作に従った目標転舵角と検出された実転舵角との偏差等の状態を言う。
【0036】
その転舵力は転舵力検出手段43により検出され、船外機12に作用している負荷は負荷検出手段44により検出され、ハンドル操作の操作角、操作速度、操作方向は操舵検出手段46により検出され、ハンドル操作に従って駆動される船外機12の回転角度、回転速度、回転方向は転舵検出手段47により検出され、ハンドル操作に従った目標転舵角と検出された実転舵角との偏差は偏差検出手段45により検出され、これら検知信号が操舵状態検出手段38に送信されて、操舵状態が検知される。なお、その転舵力は演算にて算出することも可能である。
【0037】
さらに、ステップS13で、走行状態検出手段39により、走行状態が検知される。走行状態とは、船舶の喫水位置及び重量の少なくとも一つ、トリム角、速度及び加速度の少なくとも一つ、船外機12の推力等の状態を言う。
【0038】
その船舶の喫水位置、重量は重量検出手段48により検出され、船舶のトリム角はトリム角検出手段49により検出され、船舶の速度、加速度、船外機12の推力は速度検出手段50により検出され、エンジン回転数は船外機12内の回転数センサーにより検出され、これら検知信号が走行状態検出手段39に送信されて、走行状態が検知される。
【0039】
さらにまた、ステップS14で、船外機状態認識手段40により、船外機12の状態が認識される。船外機12の状態とは、船外機12の搭載数、船外機12の船舶に対する搭載位置、船外機12に設けられたプロペラの回転方向、プロペラサイズ、プロペラ形状、トリムタブ角度、トリムタブ形状等の状態を言う。
【0040】
その船外機12の搭載数、船外機12の船舶に対する搭載位置、船外機12に設けられたプロペラの回転方向、プロペラ形状、トリムタブ角度、トリムタブ形状等の情報は、操舵記憶手段51に記憶され、この情報が読み出され、この情報が船外機状態認識手段40に送信されて、船外機12の状態が認識される。
【0041】
次いで、ステップS15で、電動モータ状態検出手段41により、電動モータ20の状態が検知される。電動モータ20の状態とは、電動モータ20の温度や電圧等の状態を言う。
【0042】
この電動モータ20の温度は、温度検出手段52により検出され、この検知信号が電動モータ状態検出手段41に送信されて、電動モータ20の状態が検知される。
【0043】
そして、これら検知値に基づいて、ステップS16で、ECU33のトルク演算手段42にて船外機12の推力が演算されると共に、走行状態検出手段39により検出された走行状態の推力との偏差が演算されて目標推力が設定され、ステップS17で、そのECU33の推力抑制手段43からその推力演算値の信号が船外機12に送られて、船外機12内のエンジンのスロットル開度、点火時期、燃料噴射量などの調整が行われ、ステップ10に戻る。
【0044】
これにより、船舶の走行状態等に応じて推力を抑制し、転舵力を低下させることができるため、ハンドル操作に対して転舵動作の急激な変化や、過剰な転舵操作を防止でき、電動モータ20を常に応答性よく駆動でき、且つ、操船者は操船するに当たり、良好な操作感を得ることができる。
【0045】
より詳しくは、
【0046】
(1)転舵状態に応じた船外機12の推力の制御は、転舵角度が大きい程、及び、転舵速度が速い程、推力を抑制するように制御される。また、プロペラ反力を受ける方向の転舵動作時は、反対方向に転舵する場合より、推力を抑制するように制御される。
【0047】
すなわち、図6に示すように、推力と転舵力との関係は(b)、(c)に示すように、推力が大きくなると転舵力が大きくなるような関係を示す。この関係では、舵角を大きくすると、転舵方向を加味した推力に対する転舵力は(b)中の実線から破線に示すように大きくなる。ここでは、転舵角を増加しても推力を抑制することで転舵力の増加を抑えることができる。
【0048】
一方、転舵速度を大きくすると、推力に対する転舵力は(c)中の実線から破線に示すように大きくなる。ここでは、転舵速度を増加しても推力を抑制することで転舵力の増加を抑えることができる。
【0049】
そのため、図6(a)に破線で示すように、舵切り装置16により転舵可能な転舵力と転舵速度及び舵角との関係を示す転舵能力特性線が存在している状態で、転舵角度及び/又は転舵速度を増加する場合、推力を抑制することなく転舵するときに実線aで示すように転舵能力特性線の範囲外となるような操作であっても、推力を抑制することにより転舵力を抑制した場合の実線bのように変化させることができ、転舵能力特性線の範囲内として転舵応答性を確保することができる。
る。従って、転舵能力特性線が破線に示すように設定されている場合には、図7(a)に示すように推力をd1からd2まで抑制すると、転舵力がd1からd2まで抑制され、これにより、図7(b)に示すように転舵力が転舵能力特性線の範囲内となる。
【0050】
その結果、図7(c)に示すように、推力を制御しない従前の状態では、ハンドル17の操作は、図中破線に示すように時間tが小さい場合に操作角(舵角)に達するまでの遅れが生じ易かったが、上述のように推力を抑制することで転舵力を抑制することにより、図中実線に示すように、時間tに対する操舵角(舵角)が急激に変化でき、応答遅れを防止することができることとなる。
【0051】
(2)走行状態に応じた船外機12の推力の制御は、船舶が高速で航行している時、船舶が重い時、トリムイン状態、加減速時等における走行時には、推力を小さくするように制御される。
新)すなわち、図8に示すように、推力と転舵力との関係は(b)、(c)に示すように、推力が大きくなると転舵力が大きくなるような関係を示す。この関係では、舵角を大きくすると、また、船舶重量、トリム角、船速、加減速度を大きくすると、推力に対する転舵力は(b)中の実線から破線に示すように大きくなるが、これらを増加しても推力を抑制することで転舵力の増加を抑えることができる。
【0052】
一方、転舵速度を大きくすると、推力に対する転舵力は(c)中の実線から破線に示すように大きくなるが、転舵速度を増加しても推力を抑制することで転舵力の増加を抑えることができる。
【0053】
そのため、図8(a)に破線で示すように、舵切り装置16により転舵可能な転舵力と転舵速度及び舵角との関係を示す転舵能力特性線が存在している状態で、船舶が高速で航行している時、船舶が重い時、トリムイン状態、加減速時等における走行時に、転舵角度及び/又は転舵速度を増加する場合、推力を抑制することなく転舵するときに実線aで示すように転舵能力特性線の範囲外となるような操作であっても、推力を抑制することにより転舵力を抑制することにより実線bのように変化させることができ、転舵能力特性線の範囲内として転舵応答性を確保することができる。
【0054】
更に、図9(a)に示すように、時間t1からt2までの領域のような急加速時、或いは時間t3からt4までの領域のような急減速時には、エンジンの回転数が図9(a)中の実線で示されるように変化される。そのため、これらの領域においてそのまま転舵するとすれば、転舵力が(b)中の実線のように、加速時及び減速時に急激に増加し、転舵能力特性線の範囲を越える。ところが、図9(a)中に破線で示されるようにエンジンの回転数の急激な変化を抑えることで、転舵力が急激に大きくなる部分を(b)中の破線のように小さくできる。従って、転舵能力の範囲範囲を超えないようにすることができる。
【0055】
(3)船外機12の状態に応じた船外機12の推力の制御は、船外機12の搭載数が多い時、推力を小さくするように制御される。また、船外機12に設けられたプロペラの回転方向により、一方向にプロペラ反力が発生するが、この反力に抗する方向に転舵するときには、反対側に転舵する場合に比較して船外機12の推力を小さくする。
【0056】
船外機12の搭載位置については、複数の船外機12を搭載し、実際にはそのうちの一部の船外機12のみで走行している場合、又は、それぞれの船外機12のトリム状態が異なる場合(ロワーの水没深さが異なる場合)には、左への転舵と右への転舵の荷重特性が異なる。そのため推力を発生している船外機12が船舶の幅方向で右側か左側かに応じて、又は、トリム角が小さく、水没深さがより深い船外機12の搭載位置が船舶の幅方向で左側か右側かに応じて推力を調整する(例えば、水没深さが深い方の船外機12を搭載している側に転舵した位置から戻す時に推力を小さくする。)
【0057】
(4)モータ状態に応じた船外機12の推力の制御は、モータ温度が高くなる程、前述の図11中破線に示すモータ特性を示すようになるため、トルクが出難くくなることから、電動モータ20の能力の限界を超えないようにすべく、船外機12の推力を小さくするようにしている。なお、電動モータ20を複数用いている場合において、これらの中で駆動できるモータ数が少ない程、船外機12の推力を小さくして、電動モータ20の能力の限界を超えないようにしている。
【0058】
このように、かかる船舶では、船外機12の転舵は、電動モータ20で行うようにしているため、ハンドル17操作を軽くできるが、例えば必要な転舵トルクが大きい場合に、ハンドル17操作の速度を速くすると、電動モータ20の出力が追いつかず、転舵動作に応答遅れが生じたりする虞がある。しかし、ここでは、電動モータ20のモータ特性に応じて、このモータ特性の限度を越えないように、船外機12の推力を制御して、転舵力を抑制するようにしている。
【0059】
これにより、ハンドル17操作により電動モータ20の出力の範囲内で、船外機12を転舵できるため、転舵動作に応答遅れが生じることがない。
【0060】
なお、上記実施の形態では、「船舶推進装置」について船外機12を適用したが、これに限らず、船内外機でも良いことは勿論である。また、上記実施の形態では、操舵状態検出手段38、走行状態検出手段39、船外機状態認識手段40及び電動モータ状態検出手段41を有しているが、これら手段の少なくとも一つを備えていればよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この発明の実施の形態に係る船舶の平面図である。
【図2】同実施の形態に係る船舶の舵取り装置の拡大平面図である。
【図3】同実施の形態に係る船舶のブロック図である。
【図4】同実施の形態に係るECUを示すブロック図である。
【図5】同実施の形態に係る推力制御のフローチャート図である。
【図6】同実施の形態に係る転舵状態による推力制御の状態を示すグラフ図である。
【図7】同実施の形態に係る推力制御の効果を示すグラフ図である。
【図8】同実施の形態に係る走行状態に応じた推力制御の状態を示すグラフ図である。
【図9】同実施の形態に係る走行状態での加減速時における特性を示すグラフ図である。
【図10】転舵トルクと転舵速度との関係を示す必要転舵力特性のグラフ図である。
【図11】電動モータの発生トルクと回転速度との関係を示すモータ特性のグラフ図である。
【符号の説明】
【0062】
10 船体
12 船外機(船舶推進装置)
16 舵切り装置
17 ハンドル
20 電動モータ
28 ハンドル操舵角センサ
33 ECU(制御装置)
34 速度センサ
35 回転数センサ
38 操舵状態検出手段
39 走行状態検出手段
40 船外機状態認識手段(船舶推進装置状態認識手段)
41 電動モータ状態検出手段(電動アクチュエータ状態検出手段)
42 トルク演算手段
41 推力抑制手段
43 転舵力検出手段
44 負荷検出手段
45 偏差検出手段
46 操舵検出手段
47 転舵検出手段
48 重量検出手段
49 トリム角検出手段
50 速度検出手段
51 操舵記憶手段
52 温度検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船尾に配設される船舶推進装置と、該船舶推進装置の推力を制御する制御手段と、前記船舶推進装置を転舵させるように電動アクチュエータによって駆動される舵取り装置と、操船者により操作され、操作量に応じた駆動信号を前記電動アクチュエータに与えるために前記電動アクチュエータに電気的に接続されたハンドルと、を備えた船舶用操舵装置であって、
前記制御手段は、
ハンドル操作に従った操舵状態を検出する操舵状態検出手段と、船舶の走行状態を検出する走行状態検出手段と、前記船舶推進装置の搭載数等の状態を認識する船舶推進装置状態認識手段と、前記電動アクチュエータの状態を検出する電動アクチュエータ状態検出手段との少なくとも一つを有し、
該少なくとも一つの手段からの検知値に基づいて目標推力を演算する推力演算手段と、
該推力演算手段が演算した目標推力に応じて前記船舶推進装置の推力を抑制する推力抑制手段と、を備えたことを特徴とする船舶用操舵装置。
【請求項2】
前記操舵状態検出手段には、
転舵に必要な転舵力を検出する転舵力検出手段と、舵に作用している負荷を検出する負荷検出手段と、前記ハンドル操作の操作角、操作速度、操作方向を検出する操舵検出手段と、前記ハンドル操作に従って駆動される舵の回転角度、回転速度、回転方向を検出する転舵検出手段と、前記ハンドル操作に従った目標転舵角と検出された実転舵角との偏差を検出する偏差検出手段との少なくとも一つを備えることを特徴とする請求項1に記載の船舶用操舵装置。
【請求項3】
前記走行状態検出手段には、
前記船舶の喫水位置、重量の少なくとも一つを検出する重量検出手段と、前記船舶のトリム角を検出するトリム角検出手段と、前記船舶の速度及び加速度の少なくとも一つを検出する速度検出手段との少なくとも一つを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の船舶用操舵装置。
【請求項4】
前記船舶推進装置状態認識手段には、
前記船舶推進装置の搭載数、前記船舶推進装置の船舶に対する搭載位置、前記船舶推進装置に設けられたプロペラの回転方向、プロペラ形状、トリムタブ角度、トリムタブ形状のうちのいずれか1つの情報を記憶した操舵記憶手段を備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の船舶用操舵装置。
【請求項5】
前記電動アクチュエータ状態検出手段には、前記電動アクチュエータの温度を検出する温度検出手段を備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の船舶用操舵装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一つに記載の船舶用操舵装置が配設されたことを特徴とする船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−126771(P2008−126771A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312157(P2006−312157)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000176213)ヤマハマリン株式会社 (256)