説明

良好な醸造香を有するビールテイスト発酵飲料の製造方法

【課題】 酢酸イソアミルを豊富に含む嗜好性の高い発酵飲料、特にビールテイスト発酵飲料を提供することを目的とする。
【手段】 糖質成分と所望によりホップを含む原料および水からなる水性混合液をアルコール発酵させて発酵飲料を製造する方法において、アルコール発酵前またはアルコール発酵中の原料に窒素源としてとうもろこしタンパク分解物を含めることにより香味の優れた発酵飲料を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香味の優れたビールテイスト発酵飲料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールや発泡酒等醸造酒の嗜好性、特に香りを大きく左右する成分として、発酵中酵母によって生成される高級アルコールやエステルなどの醸造香が挙げられる。その中でも酢酸イソアミルはバナナ様のフレーバーでフルーティーさを付与する醸造香であり、ビールや発泡酒に限らず、清酒、ワインなどでも嗜好性を高める物質としてこの成分を高める技術が注目されている。
【0003】
たとえば、特開平11-235176号では、酢酸イソアミル高生産酵母を用いて酢酸エステル産生量を改変した酒類の製造方法が開示されている。また、特開平6-30756号には発酵温度を低下させるといった特殊な条件で発酵させることによるエステル香の高いビールの製造方法が開示されている。
【0004】
発酵液中のアミノ酸組成によっても酢酸イソアミルの制御が可能である。特にロイシンが発酵液中に豊富に存在すると、酵母によって取り込まれ資化される途中段階で、酢酸イソアミルの前駆体が豊富に生成されることにより、酢酸イソアミルの生成量が増加することが確認されている(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、ビールテイスト発酵飲料、中でも、麦芽など麦の使用量が少なく、麦由来のアミノ酸含有量の少ない場合において、発酵飲料に香味を付与する方法については充分な検討がなされていない。
【0006】
一方で、特開2003-250512には、とうもろこしタンパク質分解物をグルタミン酸の供給源として用いて、高ギャバ(ガンマアミノ酪酸)含有アルコール飲料を製造する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平11-235176
【特許文献2】特開平6-30756号
【特許文献3】特開2003-250512
【非特許文献1】Journal of American Society of Brewing Chemists 59(4):157-162(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は酢酸イソアミルを豊富に含む嗜好性の高い発酵飲料、特にビールテイスト発酵飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、麦芽など麦由来の成分の使用比率が低い場合においても、酢酸イソアミルを豊富に含む嗜好性の高い醸造酒を製造できる方法であれば、ビール様アルコール飲料の原料として使用可能であると考え、原料中の分枝アミノ酸に着目し、とうもろこしタンパク分解物を原料として選択した。
【0009】
通常、ビールテイスト発酵飲料の原料に、麦以外の穀物を用いると、穀物由来の独特の臭いが強くなり、ビール様の好ましい風味が損われる。しかしながら、本発明者らは、穀物のタンパク分解物は麦以外のものでも穀物由来の独特の臭いを生じること無しに、ビールテイスト発酵飲料の原料として用い得ることを見出した。
【0010】
そこで、各種穀物のタンパク分解物について、アミノ酸組成や香味への影響などを詳細に検討した。その結果、とうもろこしタンパク分解物が分枝アミノ酸の1つであるロイシンを麦芽などに比べ豊富に含むこと、および、これを発酵液のアミノ酸源として添加し酵母発酵した場合、飲料中の酢酸イソアミル含量は非常に高くなること、さらには、麦芽を全くまたは少量しか原料に使用しなくても発酵飲料にビール様の風味を与えうることを見出した。
【0011】
したがって、本発明は、とうもろこしタンパク分解物を原料の一部に用いることを特徴とする発酵飲料の製造方法、より詳細には、炭素源、窒素源、水、所望によりホップを含む原料からなる発酵原液をアルコール発酵させて発酵飲料を製造する方法において、原料にとうもろこしタンパク分解物を含めることにより香味の優れた発酵飲料を製造する方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、香味の優れたビールテイスト発酵飲料とその製造方法が提供される。特に、主な炭素源として糖類を用いるビールテイストの発酵飲料において、主な窒素源として、ロイシンを多く含むとうもろこしタンパク分解物を用い、更に、酵母エキスなどの増殖発酵助剤を用いることで、酢酸イソアミル含量の高い、香味の優れた発酵飲料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発酵飲料
本発明の発酵飲料は酵母による発酵工程を経て製造される飲料を全て包含する。本発明が提供する発酵飲料、そのなかでもビールテイスト発酵飲料とは、炭素源、窒素源、ホップ類などを原料とし、酵母で発酵させた飲料であって、ビールのような風味を有するものをいう。通常は麦芽および大麦、米、とうもろこしなどの穀物類を糖化して得た糖液や、糖類そのものから得た糖液などに、酵母を添加し発酵させる工程を経るが、窒素源としては、麦芽以外の植物由来のタンパク質もしくはその加水分解物を利用する場合もある。ビールテイスト発酵飲料としては、例えば、ビール、発泡酒、雑酒、リキュール類、スピリッツ類、低アルコール発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の麦芽発酵飲料)などが挙げられる。
【0014】
本発明の飲料を製造する場合、炭素源および窒素源に、場合によりタンパク分解、糖化を行い、場合によりホップ類を加えて混合し、混合液を煮沸し、固液分離した清澄な発酵原液に酵母を添加し酵母発酵を行う。なお、固液分離は発酵後に行ってもよい。
【0015】
炭素源
本明細書にいう炭素源とは、発酵の際の炭素源となる原料をいう。例えば、糖化工程を経ることで炭素源となる麦芽、麦芽以外の麦、米、とうもろこしといった穀物原料が挙げられる。また、炭素源のうち、糖化工程を経ないでも酵母が資化可能な原料である糖化デンプン、糖シロップなどは、本明細書中で糖類と呼ぶこともある。本発明の方法は、炭素源として、糖化工程を経ないでも酵母が資化可能な原料である糖化デンプン、糖シロップなどの糖類を用いる場合に好適に用いることができる。あるいは、原料中の炭素源の50重量%以上を初めから糖類として存在させ、残りの炭素源は穀物原料を糖化してから発酵に供することができる。糖化は、麦芽を使用する代わりに、他の植物、もしくは動物、微生物由来の糖化酵素により、行ってもよい。
【0016】
窒素源
本発明においては、酵母発酵で資化されるアミノ酸源として、発酵により酢酸イソアミルを豊富に生じさせるのに十分な量のロイシンまたはロイシン残基を含むものを用いる。好ましいアミノ酸源は、穀物のタンパク分解物である。とうもろこしタンパク分解物が特に好ましい。
【0017】
とうもろこしタンパク分解物とは、植物蛋白質加水分解物の一種であり、とうもろこしを分画精製して得られたタンパク質画分を酸、アルカリまたはタンパク分解酵素で加水分解し、分解物を中和、脱色脱臭、精製、濃縮などの工程を得て得られる粉末またはペースト状の原料である。とうもろこしタンパク分解物は市販されているもの、例えば大日本明治製糖社製のエンザップCPなどを用いてもよい。とうもろこしタンパク分解物は、構成アミノ酸中に、ロイシンを非常に豊富に含むことがわかっている。本発明の発酵飲料の優れた香味は、とうもろこしタンパク分解物中のロイシンから発酵中に産生する酢酸イソアミルの香りに由来する。したがって、本発明の発酵飲料は酢酸イソアミルの含量が、とうもろこしタンパク分解物を原料として使用せずに同様の方法で製造した発酵飲料に比べて多いことを特徴とする。この特徴による利点は、発酵飲料がビールテイスト発酵飲料である場合に特に著しい。
【0018】
したがって、ビールテイスト発酵飲料である本発明の態様において、製造原料にビール同様に麦芽を含めてもよいが、麦芽や麦を全く使用しなくても、あるいはそれらを固形分換算で原料の50重量%以下、好ましくは25重量%以下しか使用しなくても、ビールに匹敵する優れた香味のビールテイスト飲料が製造できる。
【0019】
とうもろこしタンパク分解物の添加量は、良好な香味を付与することができ、発酵工程に悪影響を及ぼさない範囲であれば特に限定されないが、このましくは、酵母発酵工程の仕込み液(発酵原液)中に対して、固形分換算で0.1〜0.5重量%程度である。添加の時期は、発酵前の原料中に存在するよう添加すればどの段階で行ってもよい。
【0020】
ホップ
ホップについては本発明の発酵飲料が、ビールテイスト発酵飲料である場合の製造に使用する。ホップはビール等の製造に使用する通常のペレットホップ、粉末ホップ、ホップエキスを香味に応じて適宜選択使用する。さらに、イソ化ホップ、ヘキサホップ、テトラホップなどのホップ加工品を用いることもできる。
【0021】
酵母
本発明で用いる酵母は、製造すべき発酵飲料の種類、目的とする香味や発酵条件などを考慮して自由に選択できる。例えばWeihenstephan-34株など、市販のビール酵母を用いることができる。
【0022】
酵母増殖発酵助剤
一方、本発明において、原料として、麦芽などの麦、或いは、他の穀物を含まず、或いは、それらの使用比率を低くし、主な炭素源として糖類を用いて、ビール様の風味づけのためにホップ、カラメル等の色素を添加する一般的なビールテイスト発酵飲料の製造においては、とうもろこしタンパク分解物を主な窒素源とすると、酵母発酵が充分に進まない場合がある。そのような場合、酵母増殖発酵助剤を用いることができる。酵母増殖発酵助剤は、一般に知られているもの、例えば、酵母エキス、米や麦などの糠成分、ビタミン、ミネラル剤などを単独または組み合わせて適量使用すればよい。中でも酵母エキスが好適に用いられる。酵母エキスは窒素源として作用する。その使用量は、酵母が旺盛に発酵する範囲であれば特に限定されないが、香味上、とうもろこしタンパク分解物と酵母エキスの重量比が、4:6〜8:2の範囲であることが望ましい。
【0023】
本発明の方法で製造されるビールテイスト発酵飲料は、酢酸イソアミルを豊富に含むので、酵母エキス等の酵母増殖発酵促進助剤を添加しても、原料独特の臭いを少なくできるのである。酵母増殖発酵促進剤を使用する場合は、これをアルコール発酵前の原料に添加しても良く、またはアルコール発酵中に添加してもよい。
【0024】
FAN値
本発明において、遊離アミノ態窒素濃度(FAN値)とは、遊離のα−アミノ酸の総量に該当する量である。発酵原液のFAN値はとうもろこしタンパク分解物や酵母エキスなど、窒素源となる原料の添加量によって調整することができるが5〜22mg/100ml、好ましくは10〜20mg/100ml程度、より好ましくは15〜20mg/100ml程度とすることが、酵母発酵を行う上で望ましい。
【0025】
更に、本発明においては、必要に応じて、色素や泡形成剤、香料、水溶性食物繊維などを添加することができる。色素についてはビール様の色を与えるために使用するものであり、カラメル色素などをビール様の色彩を呈する量添加する。ビール様の泡を形成させるため、大豆サポニン、キラヤサポニン等の植物抽出サポニン系物質、牛血清アルブミン等のタンパク質系物質などを適宜使用する。ビール様の風味付けのためにビール風味を有する香料を適量使用することができる。さらに難消化性デキストリン、ポリデキストロース、水溶性トウモロコシ繊維などの水溶性食物繊維を必要により添加することができる。

低糖質または低カロリー発酵飲料
本発明の発酵飲料の好ましい態様の一つは、低糖質または低カロリー発酵飲料である。
【0026】
本発明の方法を用いて得られる発酵飲料は、そのまま飲用することができるが、糖質やカロリーをできるだけ摂取せずに楽しむことが可能な発酵飲料を製造するために、これを希釈して、低糖質ビールテイスト発酵飲料を製造することができる。それは、本発明で発酵原料中に使用するとうもろこしのタンパク分解物はイソロイシンを豊富に含有し、醸造中に酢酸イソアミルが豊富に生成するためである。特に、酢酸イソアミルが発酵物上清中に、2.0ppmを超え且つ10.0ppm未満まで含まれるように条件を設定して発酵を行うと、得られた発酵飲料を5〜8倍に希釈しても、香味の優れた発酵飲料となることが判明した(特願2005-157921)。希釈は水により行うが、このとき低糖質発酵飲料に不足する呈味物質を補うため、酸味料、甘味料、苦味料、アルコールを一緒に添加してもよく、あるいは呈味物質の補足は、希釈操作後に別途行うこともできる(特願2005-157921)。
【0027】
糖質の低下は希釈による方法の代わりに、または希釈による方法と組み合わせて、炭素源として酵母が資化しやすい3糖類、2糖類および単糖類の比率を高めた(例えば全炭素源の80%以上にした)、発酵原料を用いることで行うことも可能である。
【0028】
低糖質とは、発酵飲料中の糖質濃度が、固形分換算で0.8重量%、特に0.5重量%未満であることを意味する。低糖質であることが好ましい発酵飲料には、清酒、ワイン、ビール、発泡酒、リキュール類、スピリッツ類、雑酒、ビールテイスト発酵飲料などが含まれる。特に発泡酒、ビールテイスト発酵飲料が好ましく、特にビールテイスト発酵飲料が好ましい。
【0029】
また、本発明の別の好適な飲料の例として、低カロリー飲料、特にビールテイストの低カロリー発酵飲料が挙げられる。低カロリー飲料とは、12kcal/100ml未満の飲料であり、低糖質および/または低アルコールとすることによって実現することができる。
【0030】
低糖質または低カロリーのビールテイスト飲料は、香り付与が課題であることが多い。本発明の技術は、とうもろこしタンパク質画分を発酵原料の窒素源として用いるため、十分な発酵により良好な発酵香を与えるものであることから、低糖質または低カロリーのビールテイスト飲料の製造に際し、本発明の技術を好適に用いることができる。
【実施例】
【0031】
実施例1 各種穀物由来タンパクのアミノ酸組成の検討
各種穀物タンパクのアミノ酸組成、とくに分枝アミノ酸の組成量について検討した。
穀物として、とうもろこし、小麦、大豆、えんどう豆を用いた。これらを、常法によって皮画分、脂肪分、デンプン質および繊維質などを物理的にとりのぞき、タンパク質画分を得た。
【0032】
得られたタンパク質画分100g中のアミノ酸組成を高速液体クロマトグラム法で測定した。各穀物のタンパク画分をエタノール処理してタンパク質を除去し、フィルター濾過後2000倍に希釈した溶液中のアミノ酸を測定した。分析条件を下に示す。
<分析条件>
カラム:Aapak Na II-S2(Φ4.6×100mmL)、
アンモニア除去カラム:AECPac II(Φ4.6×50mmL)
溶離液流速:0.6ml/min
試薬流速:0.4ml/min each
カラム温度:60℃
測定器波長:Ex.345nm Em.455nm

3種の分枝アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)の測定結果を表1に示す。とうもろこしタンパクは、他の穀物タンパクに比較して、ロイシンを多く含むことがわかった。このように、発酵中に酢酸イソアミルの生成に寄与するロイシンを豊富含むことから、とうもろこしタンパクは、発酵飲料に香味を付与することができる素材であると判断された。またバリン、イソロイシンが多い場合、逆に酢酸イソアミルの生成が抑制されるが(非特許文献1)、とうもろこしタンパクについて、バリン、イソロイシン含量は他のタンパク素材程度であり、酢酸イソアミルの生成に悪影響を及ぼすものではないと判断した。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例2 発酵飲料への影響
とうもろこしタンパク分解物がビールテイスト発酵飲料の酢酸イソアミル含量に与える影響を検討した。
市販の糖シロップ(加藤化学製)を用い、10重量%糖液を作成した。これにカラメル色素0.03%、ペレットホップ0.03%を添加し、更に、とうもろこしタンパク分解物0.2%(試料A)、またはとうもろこしタンパク分解物0.2%プラス酵母エキス0.2%(試料B)、または酵母エキスのみを0.4%(試料C)を添加した。これらの試料を60-80分間煮沸したのち、ホップ粕を静置にて除去し、それぞれ発酵原液を得た。
【0035】
一方、麦芽比率100%として常法により調製したビール麦汁(試料D)を合わせて得た。
これら4種の発酵原液について、実施例1と同様の手法でアミノ酸組成を測定し、全アミノ酸組成に対する分枝アミノ酸の割合を算出した。
【0036】
結果を表2に示す。とうもろこしタンパク分解物を用いた発酵原液(試料A及び試料B)では、それ以外の試料(試料C,試料D)に比較して、ロイシンの割合が高かった。
【0037】
【表2】

【0038】
次に、これらの発酵原液を酵母発酵させて、ビールテイスト発酵飲料を製造した。各発酵原液に、ビール酵母Weihenstephan-34株を0.4-0.6%加え、12-15℃にて6-8日間発酵させた後、発酵終了モロミから酵母を除いた上清の密度を密度計にて測定し、酵母によって資化された炭素源を算出し、発酵の進行の状態を観察した。また、モロミ上清を40℃で保持し気液平衡に達した気相中の酢酸イソアミル量を、Analytica-EBC(EBC:Europian Brewery Convention)記載の方法に則り、ガスクロマトグラフィーにて分析した。更に、得られた飲料の香りについて、訓練されたパネラー10名にて異臭の有無を評価した。
【0039】
結果を表3に示す。本発明品である、とうもろこしタンパクを原料として調製した発酵原液を使用した飲料(飲料A、飲料B)は、ビール麦汁を用いた飲料(飲料D)に比較して、飲料中の酢酸イソアミルの含量が高かった。また異臭もなく、良好な香りを有していた。
【0040】
一方、増殖発酵促進剤として用いられる酵母エキスのみを窒素源として用いた飲料Cでは、酢酸イソアミル量は増加したものの、異臭が認められ、飲料としては不適当であった。
【0041】
また、試料Aについては、他の飲料と同じ発酵工程を経ても、なお、資化可能な糖が残っており、発酵が不十分である可能性が示された。これは、とうもろこしタンパク分解物は十分なアミノ酸を含んでいるものの、酵母の増殖発酵に必要な微量成分(ビタミン、ミネラル等)が欠乏しているためと考えられた。
【0042】
【表3】

【0043】
以上より、とうもろこしタンパク分解物を原料として用いると、発酵原液のロイシン含量が非常に高くなり、発酵飲料中の酢酸イソアミル生成も非常に高いことが確認された。

実施例3
とうもろこしタンパク分解物を用いるビールテイスト発酵飲料について、発酵工程における酵母エキスの影響を検討した。
【0044】
市販の糖シロップ(加藤化学製)を用い、10重量%糖液を作成した。これにとうもろこしタンパク分解物0.2%、カラメル色素0.03%、ペレットホップ0.03%を添加し、1つの水準にはさらに酵母エキス0.2%を添加した。これらの溶液を60-80分煮沸した後、ホップ粕を静置にて除去したものを発酵前液として使用した。0.4-0.6%のビール酵母(Weihenstephan-34株)を添加し12-15℃にて150時間発酵させた。その間、発酵中に資化された炭素源の挙動を密度計にて計測し、発酵の進行状況を観察した。
【0045】
一方、コントロールとして、発酵が充分に進むことが知られている麦芽比率100%のビールを常法により調製し、同様に評価した。
結果を図1に示す。発酵が充分に進むことが知られているビールに比較して、とうもろこしタンパク分解物を用いた飲料では、糖の資化速度、すなわち、発酵速度が遅かった。一方、とうもろこしタンパクグ分解物に酵母エキスを添加した場合には、発酵速度は、ビールと同等であった。
【0046】
従って、原料にとうもろこしタンパク分解物を用いる場合には、酵母エキスのような発酵助剤を添加することが望ましいと考えられた。

実施例4 とうもろこしタンパク分解物と酵母エキスの最適添加量の検討
発酵原液のFAN値を一定にし、とうもろこしタンパク分解物と酵母エキスの至適配合比を検討した。
【0047】
市販の糖シロップ(加藤化学製)を用い、10重量%糖液を作成した。これに、窒素源として、とうもろこしタンパク分解物と酵母エキスを、重量比を変えて添加した。さらに、カラメルエキス0.03%、ペレットホップ0.03%を添加し、60-80分間煮沸した後、静置にてホップ粕を除去したものを発酵前液とした。FAN値はいずれも20mg/100mlとなるようにした。
【0048】
これに0.4-0.6%のビール酵母を添加し、12-15℃にて発酵させた。発酵開始時から60-80時間目からタンク内の圧力を1kg/cm2に設定した。発酵終了時(発酵液中エキス分減少終了時)のサンプルから酵母を取り除いた上清を40℃で保持し、気液平衡に達した気相の酢酸イソアミル量をAnalytica-EBC法に則り、ガスクロマトグラフィーにて分析した。また、発酵終了時の炭素源の残量を密度計にて計測し、発酵の進行状況を観察した。
【0049】
結果を表4に示す。窒素源としてとうもろこしタンパク分解物を、10%〜100%用いた場合、いずれの飲料においても、目標としている1.5ppm以上の高い酢酸イソアミル量であり、また、発酵は充分に進むことが判った。中でも、とうもろこしタンパク分解物:酵母エキスの割合が、4:6〜8:2の場合において、酢酸イソアミル量は3ppm以上となり、とくに良好であった。
【0050】
【表4】

【0051】
実施例5 ビールテイスト飲料の製造例
とうもろこしタンパク分解物と酵母エキスの添加量を変えて2種類のビールテイスト飲料を製造した。
【0052】
仕込水85kgに対し、糖シロップ(加藤化学製)を15kg、とうもろこしタンパク分解物300g(0.3重量%)、酵母エキス200g(0.2重量%)、カラメル色素30g、ペレットホップ30gを加えた(本発明品1)。もう1種類としては、糖シロップ(加藤化学製)を10kg、とうもろこしタンパク分解物200g(0.2重量%)、酵母エキス300g(0.3重量%)、カラメル色素30g、ペレットホップ30gを加えた(本発明品2)。
【0053】
これらを60分間煮沸した後、静置してホップ粕を除き、発酵原液を得た。FAN値はいずれも20mg/100mlであった。当該 2種類の発酵原液に酵母(Weihenstephan-34株)を、生菌数20×106cells/mlになるように添加し、温度13℃で8日間発酵を行なった。炭素源の資化終了後、濾過により酵母を取り除き、得られた発酵飲料を瓶に充填した。この2種類の発酵飲料の酢酸イソアミル含量をAnalytica-EBC法に則り、ガスクロマトグラフィーにより測定した。
【0054】
結果を表5に示す。2種類とも生成した酢酸イソアミルは3.0〜3.5ppmと通常市販ビールの2倍以上の値となり、本発明の技術が実際の発酵飲料の製造に適用できることが示された。
【0055】
【表5】

【0056】
実施例6 発泡酒の製造例
とうもろこしタンパク分解物を低麦芽比率飲料(発泡酒)の仕込工程中に添加し、酢酸イソアミル生成への効果を確認した。
【0057】
粉砕麦芽2.4kgと仕込水9.6kgを混合し、糖化、濾過を行い、市販の糖シロップ(加藤化学製)を7.6kg加え全量100kgとなるように仕込水にて調整した(試料1)。一方で水準1にさらにとうもろこしタンパク分解物を100g加えた(試料2)。これら2試料につき、ペレットホップ8gを添加し、60-80分間煮沸した後、静置にてホップ粕を除去したものを発酵前液とした。
【0058】
これに0.4-0.6%のビール酵母を添加し、12-15℃にて発酵させた。発酵開始時より60-80時間目からタンク内の圧力を1kg/cm2に設定した。発酵終了(発酵液中エキス分減少終了時)後、酵母をフィルターろ過にて取り除き、バイアル瓶に入れた試料を40℃で保持した後、気液平衡に達した気相の酢酸イソアミル量をAnalytica-EBC法に則り、ガスクロマトグラフィーにて分析した。
【0059】
結果を表6に示す。通常の麦芽発泡酒(試料1)に比べ、とうもろこしタンパク分解物を添加した飲料(試料2)はほぼ2倍程度の酢酸イソアミル量となり、とうもろこしタンパク分解物が少量の添加(0.1%)で酢酸イソアミル生成に大きな効果があることが明らかとなった。
【0060】
【表6】

【0061】
実施例7 低糖質、低カロリー飲料の製造例
仕込水85kgに対し、四糖類以上の糖組成が7%の糖シロップ(加藤化学製)を15kg、とうもろこしタンパク分解物200g(0.2重量%)、酵母エキス200g(0.2重量%)、とうもろこしの繊維画分を高温高圧処理したコーン穀皮加工品0.01重量%、カラメル色素200g、ペレットホップ160gを加えた。これらを60分間煮沸した後、静置してホップ粕」を除き、発酵原液を得た。この発酵原液に、ビール酵母(Weihenstephan-34株)を生菌数20×106cells/mlになるように添加し、温度13℃にて8日間発酵させた。炭素源資化終了後、ろ過により酵母を取り除き、発酵液に対し4倍容量の脱気水にて希釈し、得られた発酵飲料を瓶に充填した。この発酵飲料の発酵終了時(希釈前)、および瓶充填時(希釈後)での酢酸イソアミル含量をAnalytica-EBC法に則り、ガスクロマトグラフィーにて測定した。また、製品の糖濃度をBCOJ法により測定した。カロリーおよびアルコール濃度は定法により測定した。
【0062】
なお、本実施例で用いたとうもろこしタンパク分解物およびとうもろこしの繊維画分を高温高圧処理したコーン穀皮加工品は、本出願と同日に本出願人によりされた特許出願(発明の名称:分画したコーンを用いた発酵飲料)の実施例3および実施例4でそれぞれ製造されたものである。

結果を表7に示す。
【0063】
【表7】

【0064】
糖質、カロリーを下げるために4倍希釈したにもかかわらず生成した酢酸イソアミルは希釈後でも1.2ppmと、通常市販ビール並の値となり本発明が実際の発酵飲料製造に適用できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】とうもろこしタンパク分解物を用いるビールテイスト発酵飲料について、発酵工程における酵母エキスの影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源、窒素源、水および所望によりホップを含む原料からなる発酵原液をアルコール発酵させて発酵飲料を製造する方法において、原料に窒素源としてとうもろこしタンパク分解物を含めることにより香味の優れた発酵飲料を製造する方法。
【請求項2】
発酵飲料がビールテイスト発酵飲料である請求項1記載の方法。
【請求項3】
原料に、麦由来の成分を麦芽も含めて全くまたは50重量%以下しか用いないことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
原料中の炭素源の50重量%以上がはじめから糖類として存在し、残りの炭素源は穀物類から糖化されて存在する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
更に増殖発酵促進剤を、原料に含めることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
増殖発酵促進剤が酵母エキスである請求項5記載の方法。
【請求項7】
とうもろこしタンパク分解物と酵母エキスの重量比が、4:6〜8:2である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
発酵原液の遊離アミノ態窒素濃度(FAN値)が、10〜20mg/100mlである請求項1ないし7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
発酵原液のとうもろこしタンパク分解物が、0.1〜0.5重量%である請求項1ないし8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
炭素源、水と所望によりホップを含む原料からなる発酵原液をアルコール発酵させて発酵飲料を製造する方法において、原料に窒素源としてとうもろこしタンパク分解物を含めることにより、製造される発酵飲料中の酢酸イソアミル量を増加させる方法。
【請求項11】
発酵飲料がビールテイスト発酵飲料である請求項10記載の方法。
【請求項12】
原料に、麦由来の成分を麦芽も含めて全くまたは50重量%以下しか用いないことを特徴とする請求項10または11記載の方法。
【請求項13】
原料中の炭素源の50重量%以上がはじめから糖類として存在し、残りの炭素源は穀物類から糖化されて存在する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
更に増殖発酵促進剤を、原料に含めることを特徴とする、請求項10ないし13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
増殖発酵促進剤が酵母エキスである請求項14記載の方法。
【請求項16】
とうもろこしタンパク分解物と酵母エキスの重量比が、4:6〜8:2である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
発酵原液の遊離アミノ態窒素濃度(FAN値)が、10〜20mg/100mlである請求項10ないし16のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
発酵原液のとうもろこしタンパク分解物が、0.1〜0.5重量%である請求項10ないし17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
請求項1ないし18のいずれか1項の方法で製造された、とうもろこしタンパク分解物を使用すること以外は同じ条件で製造した場合に比較して、酢酸イソアミル量が増強された発酵飲料。
【請求項20】
発酵飲料中の酢酸イソアミル含量が1.5〜4.8ppmである、請求項19記載の発酵飲料。
【請求項21】
ビールテイスト飲料である請求項19または20に記載の発酵飲料。
【請求項22】
低糖質ビールテイスト飲料または低カロリービールテイスト飲料である請求項21記載の発酵飲料。
【請求項23】
ビールテイスト飲料以外の発酵飲料である請求項19または20に記載の発酵飲料。
【請求項24】
低糖質発酵飲料または低カロリー発酵飲料である請求項23に記載の発酵飲料。

【図1】
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【公開番号】特開2006−149367(P2006−149367A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175769(P2005−175769)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】