説明

良渋皮剥皮系ニホングリ品種の渋皮剥皮法

【課題】クリ筑波36号等の良渋皮剥皮系ニホングリ品種の渋皮を、簡便に、且つ短時間で剥皮することを可能とする方法を提供する。
【解決手段】クリ筑波36号及びその親系統の後代品種を含む良渋皮剥皮系ニホングリ品種の鬼皮を、鬼皮除去機器等で除去し、渋皮にナイフ等で傷をつけた後に、マイクロ波照射装置等でマイクロ波照射処理を行うか、又はオ−ブン等で加熱処理を行えば、果肉表面に渋皮が付着することなく、容易に渋皮が剥がれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば良渋皮剥皮系ニホングリ品種の渋皮剥皮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニホングリは、チュウゴクグリに比べ渋皮剥皮性が悪いため、家庭での消費が伸び悩んでいる。また、ニホングリは、加工時に渋皮の剥皮に要する時間とコストが大きく問題となっている。このため、これまでにニホングリの渋皮剥皮方法がいくつも検討されてきた。
【0003】
現在、ニホングリの渋皮の除去法として、主に刃物で果肉表層ごと渋皮を削り取る方法が用いられている。しかしながら、この方法では人件費等のコストが高く、また、果肉の歩留まりが5〜6割とかなり低くなってしまう点が問題となっている。
【0004】
また、ニホングリの渋皮剥皮方法としては、以下の方法が知られている。
特許文献1には、鬼皮を剥離した渋皮付栗果を水酸化ナトリウム水溶液に浸漬することを含む渋皮剥離整形方法が開示されている。
【0005】
特許文献2及び3には、水蒸気の断熱膨張力を利用した方法が開示されている。具体的には、特許文献2には、栗を密閉容器に入れ、水蒸気等の気体により加圧加熱した後、瞬間的に常圧下の緩衝装置に放出することで、鬼皮及び渋皮を剥皮することを含む、栗の剥皮方法が開示されている。特許文献3には、栗を密閉容器に入れ、水蒸気等の気体により加圧加熱した後、瞬間的に常圧下の緩衝装置に放出し、鬼皮を分離除去した後、高速の水蒸気を吹き付けて栗の表面から渋皮を分離除去することを特徴とする栗の剥皮方法が開示されている。
【0006】
特許文献4には、渋皮付きの生栗を50℃〜80℃の温水に浸漬若しくは温水でシャワーを行い、渋皮の表面温度50℃〜80℃に昇温し、この栗に50℃〜80℃の高圧水のジェットを噴射し、渋皮を剥皮することを特徴とする、生栗の渋皮の剥皮方法が開示されている。
【0007】
特許文献5には、栗を熱風を流動させながら加熱処理を行う流体加熱に供することを特徴とする栗の皮遊離方法が開示されている。
【0008】
特許文献6には、鬼皮付きのままの栗或いは鬼皮を完全に又は不完全に除いた栗を薬液(塩酸水溶液等)処理した後、マイクロ波照射処理することを特徴とする栗の剥皮処理法が開示されている。
【0009】
特許文献7には、栗の座部に切り込みを入れる切り込み工程と、切り込みの形成された栗を酵素剤を含む水溶液に浸漬する工程とを含むことを特徴とする栗の剥皮方法が開示されている。
【0010】
しかしながら、これら従来の方法は、いずれも大がかりで、特殊な設備や機械を必要とするか、或いは、長時間の薬品処理や加熱時間等を必要とし、実用に耐える方法ではない。また、これら従来の方法は、ニホングリの渋皮を完全に剥皮することが困難であったり、果肉表層が渋皮側に付着してしまうという欠点を有する。
【0011】
【特許文献1】特開昭54-80450号公報
【特許文献2】特開昭54-119077号公報
【特許文献3】特開昭57-12988号公報
【特許文献4】特開2001-238654号公報
【特許文献5】特開2000-125832号公報
【特許文献6】特開平4-112779号公報
【特許文献7】特開平10-84928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した実情に鑑み、良渋皮剥皮系ニホングリ品種の渋皮を、簡便に、且つ短時間で剥皮することを可能とする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、良渋皮剥皮系ニホングリ品種をマイクロ波照射処理又は加熱処理に供することで、当該クリの渋皮を容易に剥皮できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は以下を包含する。
(1)良渋皮剥皮系ニホングリ品種をマイクロ波照射処理又は加熱処理に供することを特徴とする、クリの渋皮剥皮方法。
(2)上記良渋皮剥皮系ニホングリ品種がニホングリ品種クリ筑波36号又はその系統品種であることを特徴とする、(1)記載の方法。
(3)上記良渋皮剥皮系ニホングリ品種の鬼皮が除去されていることを特徴とする、(1)記載の方法。
(4)マイクロ波照射処理又は加熱処理前に、上記良渋皮剥皮系ニホングリ品種の鬼皮及び渋皮に傷を付けることを特徴とする、(1)記載の方法。
(5)マイクロ波照射処理又は加熱処理前に、上記良渋皮剥皮系ニホングリ品種の渋皮に傷を付けることを特徴とする、(3)記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、簡便に、且つ短時間で行うことができる、良渋皮剥皮系ニホングリ品種の渋皮剥皮方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るクリの渋皮剥皮方法(以下、「本方法」という)は、良渋皮剥皮系ニホングリ品種をマイクロ波照射処理又は加熱処理に供し、当該クリの渋皮を剥皮する方法である。本方法によれば、マイクロ波照射処理又は加熱処理による水分蒸発により果肉が縮むために、渋皮と果肉とが離れ、良渋皮剥皮系ニホングリ品種から渋皮を容易に剥皮することができる。
【0017】
ここで、良渋皮剥皮系ニホングリ品種とは、ニホングリ品種のうち渋皮剥皮性に優れた品種を意味する。良渋皮剥皮系ニホングリ品種としては、例えば、ニホングリ品種クリ筑波36号(以下、「クリ筑波36号」という)及びその親系統である「550-40」の後代品種又はそれらの系統品種が挙げられる。「クリ筑波36号」は、2006年(平成18年)9月に命名登録予定であり、種苗法による品種登録に出願中である。その特性は、以下の通りである。(1)渋皮剥皮性がよい、(2)大果である、(3)粉質で食味が優れる、(4)早生である、(5)裂果が少ない、(6)場所により虫害果率が高い。図1は、「クリ筑波36号」の系統図を示す。図1に示すように、「クリ筑波36号」は、早生の大果系統である「550-40」と早生の主要品種である「丹沢」との交雑品種である。なお、「クリ筑波36号」は、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所より提供される。
【0018】
また、「クリ筑波36号」の系統品種としては、例えば、図1に示す品種と「クリ筑波36号」との交雑品種が挙げられる。
【0019】
本方法では、良渋皮剥皮系ニホングリ品種をマイクロ波照射処理又は加熱処理に供する。なお、良渋皮剥皮系ニホングリ品種の鬼皮は、事前に除去されていてもよい。鬼皮の除去方法としては、例えば、栗の鬼皮剥き機(WK-M701型 (株)渡辺工業)等の鬼皮除去機器を用いる方法及びナイフを用いて除去する方法が挙げられる。
【0020】
さらに、マイクロ波照射処理又は加熱処理での破裂を防ぐべく、マイクロ波照射処理又は加熱処理前に、良渋皮剥皮系ニホングリ品種の鬼皮及び渋皮に、又は事前に鬼皮が除去されている場合には渋皮に傷を付けることが好ましい。傷の付け方としては、例えば、鬼皮及び渋皮又は渋皮に、ナイフ等の刃物で、クリの頂から座を軸として経度方向に渋皮を通して果肉に達する程度まで傷(切り口)を付ける。
【0021】
マイクロ波照射処理は、例えば、電子レンジ、マイクロ波照射装置等を用いて行うことができる。マイクロ波照射処理条件としては、例えば、一般的な電子レンジで用いられる周波数2450MHzにおいては、出力200W〜700W下で1分間〜3分間(好ましくは500W〜700W下で1分間〜2分間、特に好ましくは700W下で2分間)である。
【0022】
一方、加熱処理は、例えば、オーブン、オーブントースター等を用いて行うことができる。加熱処理条件としては、例えば、温度160℃〜200℃下で10分間〜20分間(好ましくは180℃〜200℃下で10〜20分間、特に好ましくは180℃下で15分間)である。
【0023】
以上に説明した本方法によれば、良渋皮剥皮系ニホングリ品種の渋皮を、特殊な機械を用いずに完全に且つ短時間で剥皮でき、労力・コストを大きく削減することができる。
【0024】
また、本方法適用後には、素手でも簡単に渋皮の剥皮を行うことができる。さらに、渋皮のみを除去できるため、剥皮後の果肉表面が非常に綺麗であり、果肉の歩留まりも高い。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0026】
〔実施例1〕マイクロ波照射処理を用いた「クリ筑波36号」の渋皮剥皮
果樹研究所に植栽されている「クリ筑波36号」から適期に収穫され、その後恒温高湿庫(ホシザキ電機)内で0℃で貯蔵された果実を供試した。
【0027】
試験2時間前に恒温高湿庫から果実を出し、室温に曝した後、フルーツナイフを用いて貯蔵果実の頂から座を軸として経度方向に渋皮を通して果肉に達する程度まで傷(切り口)を付けた。
【0028】
市販のオーブンレンジ(三洋電機、EMO-FR1(S))を用いて果実へのマイクロ波照射処理を行った。出力700W下で2分間のマイクロ波照射処理条件で試験を行った。マイクロ波照射処理後、室温に放冷した後、鬼皮を除去し、その後にフルーツナイフを用いて果肉に傷をつけないように渋皮の剥皮を行い、それに要する時間を測定した。剥皮時間の上限は3分間とした。
【0029】
〔実施例2〕加熱処理を用いた「クリ筑波36号」の渋皮剥皮
果樹研究所に植栽されている「クリ筑波36号」から適期に収穫され、その後恒温高湿庫(ホシザキ電機)内で0℃で貯蔵された果実を供試した。
【0030】
試験2時間前に恒温高湿庫から果実を出し、室温に曝した後、フルーツナイフを用いて貯蔵果実の頂から座を軸として経度方向に渋皮を通して果肉に達する程度まで傷(切り口)を付けた。
【0031】
市販のオーブンレンジ(三洋電機、EMO-FR1(S))を用いて果実への加熱処理を行った。温度180℃で15分間の加熱処理条件で試験を行った。加熱処理後、室温に放冷した後、鬼皮を除去し、その後にフルーツナイフを用いて果肉に傷をつけないように渋皮の剥皮を行い、それに要する時間を測定した。剥皮時間の上限は3分間とした。
【0032】
〔比較例1〕マイクロ波照射処理を用いたクリ品種「筑波」の渋皮剥皮
「クリ筑波36号」の代わりにクリ品種「筑波」を用いたこと以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法で、渋皮の剥皮を行った。
【0033】
〔比較例2〕加熱処理を用いたクリ品種「国見」の渋皮剥皮
「クリ筑波36号」の代わりにクリ品種「国見」を用いたこと以外は、実施例2に記載の方法と同様の方法で、渋皮の剥皮を行った。
【0034】
実施例1及び2並びに比較例1及び2における、渋皮剥皮の結果を図2〜4に示す。
図2には、上段に実施例1における渋皮剥皮の結果、下段に実施例2における渋皮剥皮の結果を示した。いずれの実施例においても、「クリ筑波36号」は非常に良好な渋皮剥皮性を示した。また、いずれの場合も渋皮剥皮時間は一果あたり数秒程度であり、果肉表面が渋皮に付着することなく非常に綺麗な外観を保ったまま渋皮の剥皮が可能であった。
【0035】
一方、図3には比較例1における渋皮剥皮の結果、図4には比較例2における渋皮剥皮の結果をそれぞれ示した。いずれの場合も3分間で渋皮の剥皮を完了することはできず、渋皮全体の1〜3割のみの剥皮に留まった。また、剥皮時に果肉が渋皮に付着してはがれるため、果肉表面を綺麗に保ったまま剥皮することはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、「クリ筑波36号」の系統図を示す。
【図2】図2は、本実施例における渋皮剥皮の結果を示す。上段が実施例1の結果、下段が実施例2の結果である。
【図3】図3は、比較例1における渋皮剥皮の結果を示す。
【図4】図4は、比較例2における渋皮剥皮の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
良渋皮剥皮系ニホングリ品種をマイクロ波照射処理又は加熱処理に供することを特徴とする、クリの渋皮剥皮方法。
【請求項2】
上記良渋皮剥皮系ニホングリ品種がニホングリ品種クリ筑波36号又はその系統品種であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記良渋皮剥皮系ニホングリ品種の鬼皮が除去されていることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
マイクロ波照射処理又は加熱処理前に、上記良渋皮剥皮系ニホングリ品種の鬼皮及び渋皮に傷を付けることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
マイクロ波照射処理又は加熱処理前に、上記良渋皮剥皮系ニホングリ品種の渋皮に傷を付けることを特徴とする、請求項3記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−54548(P2008−54548A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233535(P2006−233535)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】