説明

色−音変換装置

【課題】対象物の色を音色や音声で認識させる装置に用いる色−音変換装置に関するもので、色の配置や変化の様子、例えば色が徐々に変化しているのか異なる色の領域が境界となる線を境にして隣り合っているかを容易に知ることができ、色と音色との関係を習得することや確認することも容易にできる、上記装置を得る。
【解決手段】受光した光の色を特定するRGB値やHLS値などの色要素値を繰返し演算し、各繰返し演算毎に演算した色要素値に対応させた音データを生成し、この音データに対応する音を連続的に又は繰返し発音すると共に、指令信号を受けたときに、前記演算した色要素値に最も近い色要素値を持つ色名を予め登録された複数の色名から選択し、当該選択した色名を発声する、色−音変換装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、対象物の色を音色や音声で認識させる装置に用いる色−音変換装置に関するもので、光センサで検出した対象物表面の反射光から当該対象物表面の色を認識して音情報を出力する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
視覚に障害のある者は、日常生活の中で、物体の色や柄が分からず不便を強いられている場面が多い。たとえば、靴下の左右の色合わせや冠婚葬祭での適切な色の服装の選択などである。また、色覚障害者は色名での会話に苦慮しており、対象物の色を色名で知ることも重要である。
【0003】
対象物の表面からの反射光を受光して音声で人に色を認識させる装置は公知であり、特許文献1には、対象物の色を色名で発声する装置が提案されており、特許文献2及び3には、対象物の色を音色に変換して発音する装置が提案されている。
【特許文献1】特開2002−22537号公報
【特許文献2】特開昭56−137235号公報
【特許文献3】特開昭63−163120号公報
【非特許文献1】月東充:色障害者のための色識別システムについての研究、名古屋市工業技術研究報告、81(1996)13.
【非特許文献2】高橋廉:色を音声で読み上げる色センサ、トランジスタ技術、37、78(2000)260.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし従来のこの種装置は、対象物の一点の色を音色や音声で出力するに留まり、対象物表面の色の配置や変化の様子を知りたいときには、対象物表面に幾度も装置の受光部を当てて各点毎の音や声から色の分布や変化の様子を推測するしか方法がなかった。
【0005】
また、検出した色を色名で出力するものは、色が徐々に変化しているときにも閾値を越えたときに色名が変わるので、色が徐々に変化しているのか異なる色の領域が境界となる線を境にして隣り合っているかを知ることができない問題があった。
【0006】
また色を音色で出力するものは、色と音色との関係を習得しないと使用することができず、視覚で色を認識できない視覚障害者は、色と音色との関係を習得する際に補助者を必要とし、かつ色と音色の関係を忘れたりあいまいになったときは、正確に色を認識できなくなるという問題が生じていた。
【0007】
更に、視覚障害者がFAXやコピーを行うとき、用紙のどちらの面が情報が記載された印刷面であるかを特定する必要がある。しかし、1点の色を認識するだけでは、特定は難しく、複数点の色を認識していたが、情報の記載領域が小さいときは、表裏を特定するのに多数回の操作が必要となり、誤って白紙であると判断してしまう問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明は、請求項1に記載のように、受光した光の色を特定するRGB値やHLS値などの色要素値を繰返し演算し、各繰返し演算毎に演算した色要素値に対応させた音データを生成し、この音データに対応する音を連続的に又は繰返し発音すると共に、指令信号を受けたときに、前記演算した色要素値に最も近い色要素値を持つ色名を予め登録された複数の色名から選択し、当該選択した色名を発声する、色−音変換装置を提供することにより、上記課題を解決したものである。
【0009】
上記請求項1の色−音変換装置は、請求項2に記載のように、光を受光する光センサ3と、受光した光からその光の色を特定する色要素値を演算する色要素演算手段33、35と、演算した色要素値に対応する音データを生成する音データ生成手段31と、複数の色名と各色名に対応する色要素値とを登録した色名テーブル34と、演算した色要素値に最も近い色要素値を持った色名を前記色名テーブルから取得する色名取得手段37と、スピーカ4、9、42と、指令ボタン21とを備え、前記音データ生成手段は生成した音を常時スピーカに出力し、前記色名取得手段は、指令信号を受けたときに、選択した色名の声情報をスピーカに出力する構成として実現することができる。
【0010】
また上記請求項1の色−音変換装置は、請求項3に記載のように、光を受光する光センサ3と、受光した光からその光の色を特定する色要素値を演算する色要素演算手段33、35と、演算した色要素値に対応する音データを生成する音データ生成手段31と、複数の色名と各色名に対応する色要素値とを登録した色名テーブル34と、演算した色要素値に最も近い色要素値を持った色名を前記色名テーブルから取得する色名取得手段37と、スピーカ4、9、42とを備え、前記音データ生成手段は生成した音を常時スピーカに出力し、前記色名取得手段は、色名の取得を繰返し行って取得した色名が変わったときに、取得した色名の声情報をスピーカに出力する構成として実現することもできる。
【0011】
色と音とのマッピングは、種々のものが可能である。例えば色相を無限音階信号にマッピングすることができ、このときは、請求項4に記載のように、無限音階信号を含む音データが生成される。
【0012】
また色を決める要素(例えばRGB)のそれぞれを特定の楽器に対応させて各要素の値を対応する楽器の音の大きさで表現したときは、請求項5に記載のように、少なくとも3種類の楽器の音色を含む音データが生成される。
【0013】
また明度について、例えば明るい色を高い音に、暗い色を低い音にして変換したときは、請求項6に記載のように、色の明度に対応して明度が高くなるほど全体としての周波数が高くなる音データが生成される。
【0014】
また彩度について、濁った色はその彩度の低さに対応して割合が大きくなるノイズを加えるようにして変換したときは、請求項7に記載のように、色の彩度に対応して彩度が低くなるほど割合が大きくなるノイズを含む音データが生成される。
【発明の効果】
【0015】
この発明の装置は、対象に沿ってなぞりながら連続で色情報を音情報に変換して音声出力することができる。また必要に応じて又は自動的に、音色に併せて色名が出力されるので、これまで不可能であった下記のことが可能になる。
(1)色模様の認識
縞模様のような境界のある模様は、対象物の表面に沿って装置を移動しているときに音色が突然変化する。一方、グラデーションは、装置の移動に伴って音色が連続的に変化するので、その相違により色の変化の様子が分かる。また音色がどの方向に変化するかにより、どのような色がどのように配置されているかを認識することができ、移動方向を変えたときの音色の変化を聞くことにより、どのような模様であるかの推測も可能になる。
(2)情報の有無確認
この発明の装置で対象物表面をなぞることにより、色の変化や境界がわかるので、対象物表面に文字などの情報の有無を色の変化として認識でき、印刷面を特定することが容易になる。
(3) 音色と色名の習得と確認
色に対応する音色が出力されているときに、色名が変わったりボタンを押すなどの操作を行うことにより、その音色に対応する色名が発声されるから、音色と色名の対応を常に確認できるので、誤認識を避けることができる。また、最初から補助者なしで装置を使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下の記述では、色名を表す言葉の音声情報を声といい、言葉としての意味を持たない音声情報を音という。また、色の変化の様子や境界を認識することを色模様認識と言い、音の種類で色を特定することを色名認識と言う。
【0017】
1.スタンドアロン型色認識装置
図1は、この発明で用いる色模様認識の確認試験に用いたスタンドアロン型の色認識装置の構成を示した図である。図中、1は公知の声による色名発声装置で、この装置は、光源2とRGBそれぞれのフォトダイオードとを備えた光センサ3と、声を出力するスピーカ4とを備えている。5はパソコンで、このパソコンには所定のアルゴリズムで色のRGB信号又はHLS信号を音の属性データに変換する変換手段6を備え、得られた音データがMIDIデータに変換される。8はMIDIシンセサイザ、9は音を出力するスピーカである。
【0018】
光センサ3の信号は、A/Dコンバータによってデジタル値に変換される。光センサ3は、温度などの条件によって検出値に誤差が出る。そのため図1の色名発声装置1では、色補正用基準データが格納メモリに格納されており、測色を行うときの装置に内蔵された図示しない基準色も同時に読取って色補正用基準データと比較し、その差により対象物10の測色値を補正している。
【0019】
連続で測色するためには、測色時に自動校正機能を作動させて、測色の安定化を図ることが必要である。測色する間隔は、例えば0.1から1.0秒まで0.1秒間隔で変更できるようにするなど、使用者に合わせて調整可能にしてある。
【0020】
図1の色名発声装置1は、図示しない指令ボタンによって作動し、当該指令ボタンがおされたとき、RGB値を色の三属性(色相:hue、明度:lightness、彩度:saturation)であるHLS値に変換し、更にHLS値を色名データに変換する。色名データとは、HLS値を丸めたデータで、HLS値に対応する音声データを持つ色名テーブルを検索可能な色数に丸めたデータである。
【0021】
そして、色名データで図示しない色名テーブルを参照して、対応する色名の音声のサンプリングデータを取得し、D/Aコンバータ11を通しスピーカ4から発声する。その後指令ボタンが押し続けられていれば、図示しない処理切替手段は、連続して測定・演算されているRGB値またはHLS値をパソコンにに送信する。
【0022】
パソコンで受信したデータは、本発明で提案する色‐音マッピング方式に従った変換アルゴリズムで音に変換される。色に対応した音はMIDI(Musical Instrument Digital Interfhce)規格のメッセージとしてパソコンからMIDI音源8に送信し、スピーカ9から発音させる。
【0023】
2.色-音マッピング方式
色を音に変換するためのマッピング方式として、色の表現方法や音の三要素を考慮に入れ、以下の2つの方式を提案する。
【0024】
3.無限音階方式
3.1 色相と音のマッピング
色の表現方法で代表的な心理的属性による三属性の基本となる、色相のマッピングについて検討する。
【0025】
色相は徐々に変化させると環をなすような連続性がある。音でそのような連続性を持つ要素は、C(ド)、D(レ)、E(ミ)・・・C(ド)という音階である。Cから次のCまでを1オクターブといい、1オクターブ高くなると周波数が2倍に、逆に低くなると1/2になる。この1オクターブを12の音階で均等に分ける12平均律により色とマッピングする方法が考えられる。しかし、1オクターブ高いCは基点のCと一致せず、環ではなく螺旋構造となるので色の連続性が損なわれてしまう。そこで、この矛盾を解決する方法として、無限音階によるマッピングを行う。この方式を無限音階方式と呼ぶ。
【0026】
無限音階は、数個の音で無限に高くなり続けるように知覚的に感じる音階である。これまで実用性がないと言われてきたが、音階の連続性が実現できる点に注目し、色相環と無限音階をマッピングする。
【0027】
3.2 明度・彩度と音のマッピング
色相を無限音階でマッピングしただけでは色相しか表現できず、グラデーションのような微妙な色の変化を認識することはできない。色の他の属性である明度や彩度に対するマッピングも必要である。
【0028】
明度や彩度をマッピングするために、無限音階に対して可能な色変化について考える。まず、無限音階に対する音高の変化は、無限音階自身が音の高低であるため、音階単位での上下ではなく、無限音階の周波数分布のピークをオクターブ単位の上下で変化させることとする。次に、音色の変化は一般的には楽器音の変化であるが、楽器音が色相の認識に影響を与える危険性もあるために変化させず、楽器音の代わりにノイズ(ホワイトノイズやピンクノイズ)を合成することで音色に変化を持たせることができる。以上のことから、無限音階を色相とし、明度と彩度にマッピングする音の要素は、オクターブ単位での音の上下変化とノイズの付加とする。
【0029】
3.3 明度・彩度と音の相関実験
音の変化要素として、ホワイトノイズの付加とオクターブ単位の上下変化が、明度と彩度のどちらと相関が強いかを実験により確認した。実験方法は、ホワイトノイズ無し(OdB)、40dB、60dBの3種類と、一般的なド(C)であるC4(261.6Hz)を基準とし、2オクターブ上のC6(1046.5Hz)、2オクターブ下のC2(65.4Hz)の3種類の音を組合せた9種類の音を再生し、評価を行った。音は図1の色認識装置で生成し、MIDI音源よりオーボエの音を鳴らし、スピーカ9から50cm離れた場所で70dBとなるよう音量を調整した。ここでホワイトノイズはMIDI音源に含まれない音であるため、WAV形式で生成し、同時再生した。
【0030】
この実験により、オクターブを基準として比較すると、ホワイトノイズ音量は彩度に与える影響が大きく、音量を大きくするとくすんだ色に感じると認められた。オクターブの変化は、ホワイトノイズ音量を基準として比較すると、明度に与える影響が大きく、オクターブを上昇させると明るい色に感じると認められた。また、ホワイトノイズを付加するとくすんだイメージが加わり、若干暗く感じるようであるが、ホワイトノイズの音量変化による明度への影響は少ない。
【0031】
3.4 無限音階方式の概要
無限音階方式の概要を図2に示す。色相は12平均律の無限音階とマッピングし、12分割した。基点となるCは色聴研究で共通性の高かった赤とした。次に明度はオクターブの段階的な上下(例えば−2、−1、0、+1、+2の5段階)、彩度はノイズの段階的な付加(例えば0、40、60dBの3段階)にマッピングした。また、無彩色はノイズのみの音として、白から黒へ段階的に音量を大きくした。本来、白は無音とすべきであるが、測色状態であることを示すために、35dB程度の小さい音量とした。この方式に従い、色・音変換アルゴリズムを開発し、184色に対応した音が生成できる。この音をMIDIメッセージとしてMIDI音源に送信することで音を再生する。
【0032】
4.三重奏方式
4.1 RGBと音のマッピング
色は光の三原色であるRGBの加法混色により表現することができる。このRGBの各々に楽器音を対応させ、合奏することで色を表現することが可能である。必要な楽器音の数が3つであることから三重奏方式と呼ぶ。例えば、赤=ピアノ、緑=オーボエ、青=ホルンとした場合に、ピアノだけの音ならば赤で、ピアノとオーボエが同じ音量で規定値の最大であれば黄色となる。RGBに対応する3つの楽器音は、各色をイメージしやすい楽器音を選択することが理想的である。しかし、色聴能力は個人差が大きいことから楽器音を特定することは難しい。そこで、楽器音を分離識別しやすく、不快感を与えなように、表1に示す5種類の三重奏を候補とした。
【0033】
【表1】

【0034】
色はRGBの各刺激量に応じて変化するため、刺激量と音のマッピングが必要となる。マッピングする音の要素として「高さ」と「大きさ」が考えられるが、赤などの三原色自体の音は1種類の楽器音だけが聞こえることが望ましいため、自然な形で消音できる「大きさ」とマッピングした(図3)。
【0035】
4.2 三重奏方式の概要
RGBに対応する3つの楽器音は、表1の中から好みの組合せを選択可能とした。また、3つの楽器音が同じ音階よりも各楽器音で音階も異なるほうが3音の識別がしやすいと考え、各楽器音にC・E・Gを割付け、和音とした。
【0036】
楽器間で音量のバランスが悪いと、イメージする色が偏る。MIDIの実際の音量は、音量を指定する数値が等しくても楽器音によってバラツキがあった。そこで、どの楽器音でも同じ音量となるように、各楽器の音量を実測し、各楽器の音量補正係数を求めて補正した。音量は64段階で変化させた。RGBの各光量をr、g、b(0≦r、g、b<256)、3種類の楽器音のMIDI音量指定値をVa、Vb, Vc(0≦Va、Vb, Vc<64)とすると、三重奏方式は以下の数式で示すことができる。
【0037】
【数1】

ここで、kは定数、α、β、γは音量補正係数である。
【0038】
この方式に従った色‐音変換アルゴリズムにより音を生成するMIDIメッセージを作成し、マルチティンバー機能を使ってMIDI音源に送信し、音を再生する。これにより、無限音階よりも連続的な音が生成できる。
【0039】
5.実証試験結果
色を音色で呈示する方法として、この発明で提案した無限音階方式と三重奏方式について、複数人を対称とする検証試験を行った。被験者は10〜30代の晴眼者8人(男性5人、女性3人)と視覚障害者2人(30代女性、50代男性)で、晴眼者には目隠しをしてもらい、色模様サンプルに沿って測色部を移動させ、移動にともなう音の変化を聞かせ、(1)グラデーションか縞模様か?(2)縞模様なら、色数と色名は?(3)グラデーションなら、何色から何色への変化か?などの質問に回答してもらうことにより行った。検証試験により得られた結果は以下のとおりである。
・色模様の識別では、三重奏方式が無限音階方式より有効であった。しかし、無限音階方式も高い識別率であり、非常に有効な方式と考える。
・色模様の識別では、両マッピング方式とも視覚障害や音階同定能力による差はなかった。
・無限音階方式による色名認識では、音階同定能力が大きく影響し、音階同定能力の高い人ほど正答率が高かった。
・音階同定能力の低い人の色名認識では、三重奏方式の方が有効であった。
・視覚障害者が本システムにより色模様を認識できることが確認できた。
【0040】
6.携帯型色認識装置
図1のようなスタンドアロン型の装置は、実用には不便である。図4は、この発明に係る携帯型の色認識装置の基本構成の例を示した図である。装置は、測色部20、指令ボタン21、音声データ生成部30、及び出力部40に大別される。測色部20は、光センサ3、A/Dコンバータ22、色補正用基準データを格納するメモリ23、及び色補正用の比較演算機24を備える。
【0041】
音声データ生成部30は、音データ生成部31と声データ生成部32とを備える。音データ生成部は測色した色に前述したようなマッピング方法で対応させた音データを出力し、声データ生成部32は測色した色の色名に対応する声データを出力する。出力部40は、D/Aコンバータ41とスピーカ42とを備えており、測色した色に対応する音と声とは、一つのスピーカ42から出力される。
【0042】
図5は、声データ生成部32の構成を示した図で、図1で示した色名発声装置で用いられているものと同様な構成である。すなわち、演算機33でRGB値を色の三属性のHLS値に変換し、更に色の三属性データを色名データに変換する。色名データとは、ここではJIS Z8102に定義されている色の事とし、色の3属性情報を丸めて、音声データに対応する色名データを持つ色名テーブル34にある色数まで減らす。
【0043】
そして、色名データで色名テーブル34を参照して、取得した色名の声情報(サンプリングデータ)をD/Aコンバータ(図4参照)を通しスピーカ42から発声する。
【0044】
図6は、三重奏方式によるときの音データ生成部31の構成の例を示した図である。すなわち、演算器35でRGB値からそれぞれの楽器のパートの音量を算出し、それぞれの音量をシンセサイザ36に対して命令することで行う。
【0045】
シンセサイザ36は、一般的な構成のもので、図には電圧制御発振器(VCO)、電圧制御フィルタ(VCF)、電圧制御アンプ(VCA)、ノイズジェネレータ、音色格納メモリ及びミキサーを備えたものとして示しているが、あくまで模式的に表した図である。実際にはそれぞれに信号を送るのではなく、シンセサイザ36が持つ命令に変換して送られる。図の処理に限定されるものではなく、音階と音色を持つ複数音を発生させる装置全てに適用できる。
【0046】
一般的なシンセサイザーは、VCOで目的の音の基準周波数を発生させ、VCFで目的の音色のフィルターをかけ、VCAでADSR(アタック、ディケイ、サスティン、リリース)と呼ばれる値を利用して音量と音の立ち上がりと減衰を制御する。VCOでは音程を、VCFとVCAで音色を、VCAで音量をそれぞれ制御する。これらは、発音する音1音分(1パート)ずつにそれぞれある。
【0047】
RGB音で鳴らす場合、例えば、Rにピアノの音色、Gにトランペットの音色、Bにバイオリンの音色を設定し、検出したRGB値のそれぞれの値を対応する楽器の音量として、シンセサイザ36に対し、それぞれの音色を処理するチャンネルに音色データと音量データを命令することで発音する。
【0048】
図7は、前述した無限音階方式によるときの音データ生成部31の構成の例を示した図である。すなわち、演算器33でRGB値を色の3属性HLS値に変換し、色相H、彩度L、明度Sそれぞれの値によって、音階、音程、ノイズ音量を指令する。
【0049】
色相の値は、C(ド),C#(ド#),D(レ),D#(レ#),E(ミ),F(ファ),F#(ファ#),G(ソ),G#(ソ#),A(ラ),A#(ラ#),B(シ)の12音階にそれぞれ割り当てる。
【0050】
明度の値は、オクターブとして、低い明度では低いオクターブで、高い明度では高いオクターブで鳴るようにする。彩度の値は、ノイズの音量とし、低い彩度になるほどノイズの音量が大きくなるようにする。このように作成した音階データを、三重奏方式で示したようなシンセサイザー36に命令することで発音する。
【0051】
指令ボタン21は、動作スイッチであると共に音と声を切替える切替器として作動し、指令ボタン21が操作されたとき声データ生成部32に信号を送って色名を一回発声させたあと音データ生成部31に戻って、指令ボタンが押し続けられる間、測色部20の信号を音データ生成部31に送り続ける。従って、指令ボタン21を押すと最初に色名が発声され、指令ボタンを押し続けて対象物表面をなぞると音が色の変化に応じて変化しながら発音され、適時指令ボタン21を一旦離して再び押せば、そのときに検出している色の色名が発声される。
【0052】
指令ボタン21の操作による装置の基本的な使用方法は、測色部を対象に押し当て、指令ボタンを押すと起点の色名が聞け、さらに指令ボタンを押し続けると色に対応した音が鳴るので、使用者が対象物をなぞりながら色の変化を音の変化として聞くことで色模様が認識できる。色と音のマッピングに慣れない初期段階では、音が変化したときに適時指令ボタンを押し、その都度色名を聞きながら色の変化を認識する。また習熟することで、音だけで何色であるか認識できるようになり、より効率的な色認識が可能になる。
【0053】
色を音で認識しているときに、色名の発声を自動的に行わせることもできる。図8は、対象物の表面に沿って装置を移動させているとき、色名が変わったときに自動的に色名を発声する声データ生成部32の構成を示した図である。図に示すように、色の三属性を色名データに変換したのち、前回に記録した色名データとの比較を行い、色名データが変化したときに測色部20の信号を出力する。
【0054】
上記実施態様においては、色と音のマッピング方式として、無限音階方式と三重奏方式を例示した。これらの方式は、人間の知覚に適合した好ましい方式であるが、この発明は、勿論これらの方式に限定されるものではない。例えば他の方式として、色相を複数の楽器音に対応させ、色の連続性は隣接された楽器を同時に鳴らし、音量を一方は大から小へ、もう一方は小から大へ変化させることで色相の連続性を出す方式も考えられ、これに彩度表現にノイズを付加し、明度表現は音の周波数の高低あるいは高低の周波数の比率を変える、またノイズとして風や波などの自然の音を用いるなど、種々の方式が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】スタンドアロン型の色認識装置の例を示した図
【図2】無限音階方式の概要を示す図
【図3】三重奏方式の概要を示す図
【図4】携帯型の色認識装置の基本構成の例を示した図
【図5】声データ生成部の例を示した図
【図6】三重奏方式によるときの音データ生成部の例を示した図
【図7】無限音階方式によるときの音データ生成部の例を示した図
【図8】自動的に色名を発声する声データ生成部の例を示した図
【符号の説明】
【0056】
3 光センサ
4 スピーカー
9 スピーカ
21 音-声切換器
31 音データ生成部
32 声データ生成部
34 色名テーブル
42 スピーカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光した光の色を特定する(RGBやHLSなどの)色要素値を繰返し演算し、各繰返し演算毎に演算した色要素値に対応させた音データを生成し、この音データに対応する音を発音すると共に、指令信号を受けたときに、前記演算した色要素値に最も近い色要素値を持つ色名を予め登録された複数の色名から選択し、当該選択した色名を発声する、色−音変換装置。
【請求項2】
光を受光する光センサ(3)と、受光した光からその光の色を特定する色要素値を演算する色要素演算手段(33,35)と、演算した色要素値に対応する音データを生成する音データ生成手段(31)と、複数の色名と各色名に対応する色要素値とを登録した色名テーブル(34)と、演算した色要素値に最も近い色要素値を持った色名を前記色名テーブルから取得する色名取得手段(37)と、スピーカ(4,9,42)と、指令ボタン(21)とを備え、前記音データ生成手段は生成した音を常時スピーカに出力し、前記色名取得手段は、指令信号を受けたときに、選択した色名の声情報をスピーカに出力する、色−音変換装置。
【請求項3】
光を受光する光センサ(3)と、受光した光からその光の色を特定する色要素値を演算する色要素演算手段(33,35)と、演算した色要素値に対応する音データを生成する音データ生成手段(31)と、複数の色名と各色名に対応する色要素値とを登録した色名テーブル(34)と、演算した色要素値に最も近い色要素値を持った色名を前記色名テーブルから取得する色名取得手段(37)と、スピーカ(4,9,42)とを備え、前記音データ生成手段は生成した音を常時スピーカに出力し、前記色名取得手段は、色名の取得を繰返し行って取得した色名が変わったときに、取得した色名の声情報をスピーカに出力する、色−音変換装置。
【請求項4】
音データが無限音階信号を含む音データである、請求項1、2又は3記載の色−音変換装置。
【請求項5】
音データが少なくとも3種類の楽器の音色を含む音データである、請求項1、2又は3記載の色−音変換装置。
【請求項6】
音データが色の明度に対応して明度が高くなるほど全体としての周波数が高くなる音データである、請求項1、2又は3記載の色−音変換装置。
【請求項7】
音データが色の彩度に対応して彩度が低くなるほど割合が大きくなるノイズを含む音データである、請求項1、2又は3記載の色−音変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−10525(P2006−10525A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188529(P2004−188529)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月1日 社団法人精密工学会発行の「2004年度 精密工学会春季大会 学術講演会講演論文集」に発表
【出願人】(591040236)石川県 (70)
【出願人】(503174800)レハ・ヴィジョン株式会社 (1)
【出願人】(000154886)株式会社北計工業 (6)
【Fターム(参考)】