説明

色分解光学系及びそれを有する撮像装置

【課題】三色色分解特性を維持しつつ、空隙を構成する面によるゴーストを抑制することを可能にした色分解光学系を提供する。
【解決手段】色分解光学系は、入射光束を反射光束と透過光束に分離する第2面を有し、反射光束を分離する第1プリズムと、第2面との間に空隙を挟んで配置される第3面を有し、第3面から入射した光束を反射光束と透過光束に分離する第4面を備え、第4面で反射された後、第3面で反射された光束を分離する第2プリズムと、を有し、第2面及び第3面の少なくともいずれかの表面に多層膜が形成され、λを第2プリズムで分離される光束の波長範囲の中心波長(nm)、ndを多層膜最外層の光学膜厚(nm)、Nmを多層膜最外層の中心波長に対する屈折率、Ngを第2プリズム硝材の、分離される色光の波長範囲の中心波長に対する屈折率、θ2を第2プリズムの頂角とした時、0.70 < nd×cosθ2A/(λ/4) < 1.2、θ2A=sin-1{(Ng/Nm)sin(θ2)}、を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色分解光学系およびそれを有する撮像装置に関し、特に対物レンズからの光を複数の光束に分割する光分解プリズム、あるいはこの光分解プリズムを用いた撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放送用カメラや一部の民生用高級撮像カメラには、第1プリズムと第2プリズムの間に空隙を有する、所謂フィリップスタイプと呼ばれる3色色分解光学系が使われることが多い。以下にその概要について説明する。
【0003】
図10にフィリップスタイプの色分解光学系の概念図を示す。このような色分解光学系を用いる撮像装置にはCCDを代表とする固体撮像素子が使われる。CCDの表面には金属コーティングが施され、その反射率は比較的高い。このため、強い光源を撮影するとCCD面上で強い回折を伴う反射が起こる。CCD表面で反射された光の一部は、図12(A)のような第2プリズムの光路(1021)を通って固体撮像素子1011Rに再入射することでゴーストとなって現れる。図12(B)は、図12(A)のゴースト光路(1021)を第2プリズムに沿って展開した図である。特に、反射面1007に垂直に入射し反射する光線を描いている。この図から、CCDにて反射した光の内、第2プリズムに入射した直後の面1006への入射角度βと、面1007にて反射した後、再度面1006に入射する角度γは、ともにプリズムの頂角θ2と等しい。ここで、Ngをプリズム硝材の屈折率とすると、θ2<sin-1(1/Ng)を満たす場合、このゴースト光路は面1006で全反射しないので、空隙1005を挟んだ1003と1006の反射光による干渉が起こる。また、θ2≧sin-1(1/Ng)を満たす場合、このゴースト光路は面1006で全反射する。従って、干渉は発生せず100%全反射して固体撮像素子に戻る。
【0004】
図13は面1007への入射角が垂直からわずかにずれたゴースト光路(1022)を示した図である。この場合、面1006への入射角が変わるため、場所によりゴースト光反射強度が変化する。点P3での入射角は点P4での入射角より大きいため、点P3においては全反射がより起こりやすい傾向にあり、逆に点P4は全反射が起こりにくい傾向にあることがわかる。従って、全反射しない場合に点P4において干渉が発生する。図14に、画像に現れるゴースト光の模式図を示す。図14の全反射ゴースト領域においては点P3、P4ともに全反射し、干渉縞ゴーストの現れる領域においては、点P3もしくは点P4において干渉が発生している。θ2を変化させることで、画面上に現れる全反射ゴーストの領域および干渉縞の現れる領域が変化する。
例えば、特許文献1では第2プリズムの頂角θ2を適切にすることにより、第2プリズム入射面1006でゴースト光を全反射させ、空隙による干渉縞が発生しない光束分割プリズムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−266915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献に開示された従来技術では、干渉縞を目立たなくさせることは可能であるが、ゴースト光の反射率が100%となる領域は拡大してしまう。従って、赤色用固体撮像素子における映像は画面全体にフレアがかかった画像になってしまう。
そこで、本発明の目的は、三色色分解特性を維持しつつ、空隙を構成する面に起因するゴーストを抑制することを可能にした色分解光学系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の入射光束を複数の光束に分離する色分解光学系であって、光束が入射する第1面と、入射光束を、反射される光束と透過する光束に分離する第2面を有し、該反射される光束を分離する第1プリズムと、該第2面との間に空隙を挟んで配置される第3面を有する第2プリズムであって、該第3面から入射した光束を、反射される光束と透過する光束に分離する第4面を備え、該第4面で反射された後、該第3面で反射された光束を分離する第2プリズムと、を有し、該第2面及び該第3面、の少なくともいずれか一方の表面に、多層膜が形成され、λを該第2プリズムで分離される光束の波長範囲の中心波長(nm)、ndを該多層膜の最外層の光学膜厚(nm)、Nmを該多層膜の最外層の該中心波長に対する屈折率、Ngを第2プリズムの硝材の、該第2プリズムで分離される色光の波長範囲の該中心波長に対する屈折率、θ2を該第2プリズムの該第3面と該第4面によって形成される頂角とした時、
0.70 < nd×cosθ2A/(λ/4) < 1.2、
θ2A=sin-1{(Ng/Nm)sin(θ2)}
の条件を満たすことを特徴とする色分解光学系。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、三色色分解特性を維持しつつ、エアギャップを構成する面に起因するゴーストを抑制することを可能にした色分解光学系を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1におけるプリズム断面図。
【図2】本発明における膜構成概念図。
【図3】実施例1における、(a)正規光、(b)ゴースト光、の分光特性。
【図4】実施例2における、(a)正規光、(b)ゴースト光、の分光特性。
【図5】実施例3における、(a)正規光、(b)ゴースト光、の分光特性。
【図6】実施例4におけるプリズム断面図。
【図7】実施例4における、(a)正規光、(b)ゴースト光、の分光特性。
【図8】実施例5における、(a)正規光、(b)ゴースト光、の分光特性。
【図9】実施例6における、(a)正規光、(b)ゴースト光、の分光特性。
【図10】微細周期構造膜の概念図。
【図11】色分解光学系の断面図。
【図12】本発明が課題とするゴースト光路図。
【図13】本発明が課題とするゴースト光路図。
【図14】本発明が課題とするゴーストの模式図。
【図15】比較例1における、(a)正規光、(b)ゴースト光、の分光特性。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の色分解光学系の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
図1は本発明に関する色分解光学系である色分解プリズム1の断面図である。色分解プリズム1は撮像装置内に構成され、固体撮像素子11B、11G、11Rと、該撮像装置に対して着脱可能に設置される対物レンズLeとの間に位置し、対物レンズLeからの光を青、緑、赤の複数の各色光に分解し、その各々を青色用、緑色用、赤色用の固体撮像素子11B、11G、11Rそれぞれに導く働きをする。各固体撮像素子11B、11G、11Rは、ぞれぞれ、青、緑、赤色の画像情報を電気映像信号に変換している。尚、色分解プリズム1と各固体撮像素子は、撮像装置であるカメラ本体内に固定されている。
【0012】
色分解光学系である色分解プリズム1は、光束の進行方向において物体側から順に、第1プリズム(青色分解用のプリズム)と、空隙を介して隣接して配置される第2プリズム(赤色分解用のプリズム)と、この第2プリズムと接合された第3プリズム(緑色光を導光するプリズム)より構成されている。各プリズムを構成する光学材料の屈折率は全て同じである。第1プリズムは、空隙と接する面3(第2面)で青色光(第1の光束)のみを反射し、残りの光(第2の光束)を透過する誘電体多層膜で構成された青反射ダイクロイック膜(青色用の反射面)3を有する。この面3に入射する光線の入射角αは、第1プリズムの面2(第1面)への入射角が0度であるため、第1プリズムの頂角(面2と面3の成す角)θ1に等しい。
【0013】
第2プリズムは、第3プリズムと接合される面に、赤色光(第3の光束)のみを反射し、残りの緑色光(第4の光束)を透過する誘電体多層膜で構成された、赤反射ダイクロイック膜(赤色用の反射面)7を有している。色分解プリズム1は、対物レンズからの光を第1プリズムの入射面2より取り込み、第1プリズムの青反射ダイクロイック面3にて青色成分の反射光とその他の透過光に分離する。反射された青色光は、入射面2にて全反射して面4から射出し、青色成分のための固体撮像素子11Bに導かれる。面3にて透過により分離された光(赤色成分と緑色成分)の内、赤色成分の光は赤反射ダイクロイック面7(第4面)よって反射される一方、緑色成分の光は透過する。反射された赤色光は、空隙5と接する第2プリズムの入射面6(反射面)(第3面)にて全反射され、射出面8を射出して赤色成分のための固体撮像素子11Rに導かれる。二つのダイクロイック膜を最後まで透過した緑色成分の光は、面10より射出し、緑色成分のための固体撮像素子11Gに導かれる。図2は、本発明の実施形態にかかわる第1プリズム射出面である面3の膜構成およびゴースト光線21、正規反射光線23が入射する部分のミクロ的な模式図である。
【0014】
固体撮像素子として使用されるCCDの表面には反射率が比較的高い金属コーティングが施され、強い光源を撮影するとCCD面上で強い反射が起こる。このため、図1に示すように第2プリズムの面7で反射した後に面6で反射して固体撮像素子11Rに入射した光束の一部は、固体撮像素子11R上で反射され、面6、面7、面6の順に反射され、固体撮像素子11Rに再入射することでゴーストとなって現れる。
【0015】
図2に示すように、青色チャネルの波長域の成分を主光線入射角θ1で選択的に反射するために、ガラス基板101の面3上には20〜30層程度の誘電体多層膜102が形成されている。
【0016】
第2プリズムの硝材の、第2プリズムで分離する色光の中心波長の光線に対する屈折率Ngにおける全反射条件から求められる臨界角はsin-1(1/Ng)で表され、この臨界角よりも小さい入射角では全反射することはない。固体撮像素子11R上で反射され、面6で反射され、面7へ垂直入射して反射する光線(ゴースト光線)は、
θ2<sin-1(1/Ng)
である場合には面6で全反射しない。この場合に、反射せずに面6に入射(面6にから空隙内に射出)した光線がゴースト光線として面3に入射することになる。面7から面6に入射したゴースト光線は屈折され、面7へ垂直入射したゴースト光線の面6への入射角はθ2であるので、面3への入射角θ2Bはスネルの法則より、
θ2B=sin-1(Ng ×sinθ2)
となる。面3に入射したゴースト光線が面3で反射されて面6に入射すると、面6で反射された光線と干渉する。本発明の色分解プリズムにおいては、この干渉の発生を抑制するため、図2に示すように、面3上に構成された多層膜は、誘電体多層膜102の上に最外層として低屈折率膜103を有することを特徴とする。最外層の低屈折率膜103は以下の条件を満足する膜厚を有するように形成する。
【0017】
0.70 < nd×cosθ2A/(λ/4) < 1.2 (1)
ただし、θ2A=sin-1{(Ng/Nm) ×sin(θ2)}
ここで、θ2Aは最外層膜内におけるゴースト光線の角度を表す。λは第2プリズムで分解抽出される光の波長帯の中心波長(nm)であり、ここでは赤色帯域の中心で650nmとする。nd は最外層の光学膜厚(nm)を表し、nd×cosθ2Aは前述のゴースト光の最外層における光路長を表す。この光路長が略λ/4となるように最外層の膜厚ndを構成することでゴースト光反射を抑制することができる。従って、(1)式の上限または下限の条件を満足しない場合は、最外層103表面でゴースト光線は反射されることになる。(1)式は、より好ましくは、
0.84 < nd×cosθ2A/(λ/4) < 1.2 (1a)
さらに好ましくは、
0.9 < nd×cosθ2A/(λ/4) < 1.1 (1b)
の条件で形成すると良い。
【0018】
最外層である低屈折率膜103は、第2プリズムでの反射によって分離して取得する光束の波長範囲の略中心波長、例えば、波長650nm、に対する屈折率をNmとしたとき、
1.05<Nm<1.34 (2)
を満足する材料で構成されることを特徴とする。この範囲の屈折率を有する最外層を構成することにより、最外層である低屈折率膜103が接する空隙5を構成する空気との間での屈折率差、及び、ガラス基板101と低屈折率膜103との間での屈折率差を適切に確保することができるため、(1)式を満足するように構成する際に、ゴースト光の反射をより効率的に抑制することが出来る。特に、(2)式の上限の条件が満たされないと、正規光の入射角における波長帯600〜700nmの反射率の抑制(色再現性の向上)とゴースト光の抑制を両立することが困難になる。
この(2)式は、より好ましくは、
1.15<Nm<1.32 (2a)
を満足すると尚好ましい。
【0019】
第2プリズムでの反射によって分離して取得する光束の波長範囲の略中心波長、例えば、波長650nm、に対するプリズム硝材の屈折率Ngは、
1.35≦Ng (3)
を満足することが好ましい。(3)式の条件を満足することにより、最外層である低屈折率膜103が接する空隙5を構成する空気との間での屈折率差、及び、ガラス基板101と低屈折率膜103との間での屈折率差を適切に確保することができるため、(1)式を満足するように構成する際に、ゴースト光の反射をより効率的に抑制することが出来る。
この(3)式は、より好ましくは、
1.43<Ng<1.70 (3a)
を満足すると尚好ましい。
【0020】
さらに、第2プリズムでの反射によって分離して取得する光束の波長範囲の略中心波長、例えば、波長650nm、に対するプリズム硝材の屈折率Ngは、
0.75 < θ2/sin-1(1/Ng) < 1.1 (4)
を満たすことを特徴とする。θ2/sin-1(1/Ng)<1の場合、このゴースト光路は面6で全反射しないので、本発明の低屈折率膜103の効果を享受することが出来る。しかし、第2プリズムの面6でレンズからの入射光束を全反射させて、固体撮像素子11Rへ導くためには、
θ2≧[θ1+sin-1(1/Ng)+sin-1{1/(2×Ng×Fno)}]/2 (5)
の条件を満足する必要がある。ここで、Fnoは対物レンズLeのFナンバーである。(4)式の下限が満たされないと、(5)式で表される全反射条件を満足させるために、使用できる対物レンズLeは、Fナンバーの大きい(暗い)レンズしか許容できなくなってしまい、好ましくない。また、(4)式の上限を満たさない領域は全反射の領域であるため、本発明の効果は小さい。(4)式の上限値を1でなく1.1としたのは、色分解光学系への入射角の幅を考慮したためである。
この(4)式は、より好ましくは、
0.79 < θ2/sin-1(1/Ng) < 1.02 (4a)
を満足すると尚好ましい。
【0021】
また、上記の説明では、低屈折率膜103はプリズム1の面3の表面に構成された多層膜の最外層とする構成を例示した。しかし、本発明は、この構成に限定されることはない。本発明で抑制しようとしているゴースト光による干渉縞は、空隙5を挟む3面と6面で反射した光束により発生するので、面3での反射を低減する上記の構成以外に、面6での反射を低減する構成においても同様の効果を得ることができる。従って、面6の表面のダイクロイック膜の最外層に低屈折率膜を構成することによっても、本発明の効果を得ることが出来る。さらに、面3及び面6の両方のダイクロイック膜の最外層に低屈折率膜を構成することによっても、本発明の効果を得ることが出来る。
【実施例1】
【0022】
以下、図3を参照して、本発明の第1の実施例による、色分解光学系について説明する。
【0023】
本実施例における、面3に形成した多層膜の構成を表1に、正規光である入射角θ1に対する反射率特性を図3(a)に示す。基板から順に27層の多層膜と1層の低屈折率膜から構成される。27層の多層膜は、正規光における波長域400〜500nmの反射率を70%以上にするために形成されている。表8に記載されているように、式(1)、(2)、(4)の条件を満たしている。
【0024】
条件式(4)を満たすプリズム形状にすることにより、ゴースト光の入射角を小さくすることができる。今回の低屈折率膜の効果は入射角が小さいほど大きい。従って、本実施例においては、条件式(4)の上限を満たすことで、撮像面の広範囲でゴースト光の反射を抑制している。
【0025】
また、本実施例における面3に形成した多層膜の入射角δ=θ2B×0.9=74.8°における反射率特性を図3(b)に示す。この入射角δは、先述した図12のような光路を通るゴースト光が面3に入射する角度の一つとして規定している。この角度は画面中央に高輝度被写体が存在し、4:3比率のセンサーにゴースト光が発生する場合のセンサー上下端へのゴースト光線の角度に近い。波長域600〜700nmにおいて反射率は5%以下である。この反射率条件を満たすことにより、前述のゴースト光の反射を抑制することができる。
【0026】
また、本実施例における低屈折率膜の屈折率はNm=1.25である。Nm=1.25とすることにより、前述に述べたゴースト光を抑制しつつ、より入射角の小さい正規光の入射角における波長帯600〜700nmの反射率をも抑制しているので、Bch以外の波長帯の光線を固体撮像素子11Bに導いてしまうことがなく、色再現性の低下を抑制できる。
【実施例2】
【0027】
図4を参照して、本発明の第2の実施例による、色分解光学系について説明する。本実施例における、面3に形成した多層膜の構成を表2に示す。面3に形成した多層膜の、正規光である入射角θ1における反射率特性を図4(a)に、入射角δ=θ2B×0.9=74.8°における反射率特性を図4(b)に示す。
【0028】
本実施例におけるプリズム形状は実施例1と同じである。異なるのは第1プリズム射出側の膜構成である。本実施例の多層膜は、基板から順に27層の多層膜と1層の低屈折率膜から構成される。表8に記載されているように、式(1)、(2)、(4)の条件を満たしており、ゴースト光の反射を良好に抑制し、干渉縞の発生を良好に抑制できている。
【実施例3】
【0029】
図5を参照して、本発明の第3の実施例による、色分解光学系について説明する。本実施例における、面3に形成した多層膜の構成を表3に示す。面3に形成した多層膜の、正規光である入射角θ1における反射率特性を図5(a)に、入射角δ=θ2B×0.9=74.8°における反射率特性を図5(b)に示す。
【0030】
本実施例におけるプリズム形状は実施例1と同じである。異なるのは第1プリズム射出側の膜構成である。本実施例の多層膜は、基板から順に27層の多層膜と1層の低屈折率膜から構成される。表8に記載されているように、式(1)、(2)、(4)の条件を満たしており、ゴースト光の反射を良好に抑制し、干渉縞の発生を良好に抑制できている。
【実施例4】
【0031】
図6、7を参照して、本発明の第4の実施例による、色分解光学系について説明する。図6は本実施例におけるプリズム断面図である。
【0032】
本実施例における、面3に形成した多層膜の構成を表4に示す。面3に形成した多層膜の、正規光である入射角θ1における反射率特性を図7(a)に、入射角δ=θ2B×0.9=50.0°における反射率特性を図7(b)に示す。本実施例における第2プリズムの頂角θ2は32.11°であり、表8に記載されているように、式(1)、(2)、(4)の条件を満たしており、ゴースト光の反射を良好に抑制し、干渉縞の発生を良好に抑制できている。これにより、プリズムが許容するレンズのFnoを大きくすることなく、第2プリズムの面6でレンズからの入射光束を全反射する条件(式(5))を満足させている。
【実施例5】
【0033】
図8を参照して、本発明の第5の実施例による、色分解光学系について説明する。本実施例における、面3に形成した多層膜の構成を表5に示す。面3に形成した多層膜の、正規光である入射角θ1における反射率特性を図8(a)に、入射角δ=θ2B×0.9=74.8°における反射率特性を図8(b)に示す。
【0034】
本実施例におけるプリズム形状は実施例1と同じである。異なるのは第1プリズム射出側の最外層にある低屈折率膜の屈折率である。本実施例の多層膜は、基板から順に27層の多層膜と1層の低屈折率膜から構成される。表8に記載されているように、式(1)、(2)、(4)の条件を満たしている。
【実施例6】
【0035】
図9を参照して、本発明の第6の実施例による、色分解光学系について説明する。本実施例における、面3に形成した多層膜の構成を表6に示す。面3に形成した多層膜の、正規光である入射角θ1における反射率特性を図9(a)に、入射角δ=θ2B×0.9=74.8°における反射率特性を図9(b)に示す。
【0036】
本実施例におけるプリズム形状は実施例1と同じである。異なるのは第1プリズム射出側の最外層にある低屈折率膜の屈折率である。基板から順に27層の多層膜と1層の低屈折率膜から構成される。表8に記載されているように、式(1)、(2)、(4)の条件を満たしており、干渉縞の発生を良好に抑制している。
【0037】
上記の実施例における低屈折率膜103は、例えば、フッ素樹脂若しくはシリカを主成分とする多孔質材料によって形成することが出来る。又は、低屈折率膜103は、微細周期構造を持つ構造膜でも形成することができる。これは、図10の模式図に示すように、基板201の上に構成された誘電体多層膜202上に、200nm以下の周期の微細周期構造を有する構造膜203を構成することによって形成されるものである。この構造膜203の充填率を制御することで、見かけ上の屈折率が条件式(2)を満足するように、構造膜203を構成することが出来る。
なお、本願発明の撮像装置は、交換レンズが着脱可能な撮像装置(カメラ本体)も、元々撮影用のレンズを備えている撮像装置(レンズの着脱を行わない撮像装置)も含んでいる。
【0038】
[比較例]
図15を参照しながら、本発明の効果をより明確にするための比較例について説明する。
本比較例における、面3に形成した多層膜の構成を表7に示す。面3に形成した多層膜の、正規光である入射角θ1における反射率特性を図15(a)に、入射角δ=θ2B×0.9=74.8°における反射率特性を図15(b)に示す。
【0039】
表8に示した式(1)、(2)、(3)に対応する数値から明らかなように、条件式(1)の下限条件を満たさない。そのため、図15(b)に示すように、面3に形成した多層膜の波長域600〜700nmにおける反射率が10%程度あり、実施例1乃至6のいずれと比べても非常に大きい。本比較例における第2プリズム頂角θ2は39.8°、θ2/sin-1(1/Ng)=0.991であり、ゴースト光の面3への入射角は十分に小さい。それでも、このようにゴースト光の反射率が高いのは、最外層の光学膜厚が条件式(1)を満たしていないためである。
【0040】
このように、本発明において、空隙5を挟む面の最外層の光学膜厚が条件式(1)の条件を満たすことは、本発明の効果を得るためには必須の条件であり、条件式(4)は条件式(1)の条件下でより好適に効果を得るための条件である。
表8に各実施例および比較例における、条件式(1)、(2),(4)に対応する数値を示す。
【0041】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【0047】
【表6】

【0048】
【表7】

【0049】
【表8】

【符号の説明】
【0050】
1 色分解プリズム系
2 第1プリズム
3 青色分解のためのダイクロイックミラー
4 赤色用の光射出面
5 空隙
6 反射面
7 赤色分解のためのダイクロイックミラー
8 赤色用の光射出面
θ2 第2プリズムの頂角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光束を複数の光束に分離する色分解光学系であって、
光束が入射する第1面と、入射光束を、反射される光束と透過する光束に分離する第2面を有し、該反射される光束を分離する第1プリズムと、
該第2面との間に空隙を挟んで配置される第3面を有する第2プリズムであって、該第3面から入射した光束を、反射される光束と透過する光束に分離する第4面を備え、該第4面で反射された後、該第3面で反射された光束を分離する第2プリズムと、
を有し、
該第2面及び該第3面、の少なくともいずれか一方の表面に、多層膜が形成され、
該第2プリズムで分離される光束の波長範囲の中心波長(nm)をλ、該多層膜の最外層の光学膜厚(nm)をnd、該多層膜の最外層の該中心波長に対する屈折率をNm、第2プリズムの硝材の、該第2プリズムで分離される色光の波長範囲の該中心波長に対する屈折率をNg、該第2プリズムの該第3面と該第4面によって形成される頂角をθ2、としたとき、
0.70 < nd×cosθ2A/(λ/4) < 1.2
ここで、θ2A=sin-1{(Ng/Nm)sin(θ2)}
を満たすことを特徴とする色分解光学系。
【請求項2】
次の条件式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の色分解光学系。
0.75 < θ2/ sin-1(1/Ng) < 1.1
【請求項3】
次の条件式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の色分解光学系。
1.05 < Nm < 1.34、
1.35 ≦ Ng
【請求項4】
前記最外層はフッ素樹脂もしくはシリカを主成分とする多孔質材で構成される、ことを特徴とする請求項3に記載の色分解光学系。
【請求項5】
前記最外層は微細周期構造を有する構造膜である、ことを特徴とする請求項3に記載の色分解光学系。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の色分解光学系を有することを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−105122(P2013−105122A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250422(P2011−250422)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】