説明

色彩分布設計支援システム

【課題】塗料に含有される粒子群の特性と、当該粒子群により奏される物体表面の意匠効果又は質感との関係が勘案された形で、当該物体表面における色彩分布の設計を支援するシステムを提供する。
【解決手段】本発明の色彩分布設計支援システム1によれば、物体表面の塗装層に含有される粒子群の分布態様並びに当該粒子群の構成要素である粒子の形状特性及び光学特性が第2入力装置212を通じて指定される。これに応じて、当該指定因子と、第1記憶装置111に保存されている物体表面の変角に応じた色彩分布とに基づき、粒子群の存在による質感又は意匠効果が反映された物体表面の変角に応じた色彩分布が計算要素12により計算される。そして、当該計算結果が第1出力装置221に表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の色彩分布の設計を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
変角分光反射率に基づき、自動車ボディ等の製品の表面の色彩分布をディスプレイに表示させることにより、当該製品のデザイナーによるカラー開発過程を支援する手法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−071326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、塗料に含有される光輝材などの粒子の特性と、物体表面における意匠効果または質感との関係がカラー開発過程において詳細に考慮されていないため、デザイナーの意図通りの色彩分布を有する物体表面を実現するための塗料の設計が困難になる可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、塗料に含有される粒子群の特性と、当該粒子群により奏される物体表面の意匠効果又は質感との関係が勘案された形で、当該物体表面における色彩分布の設計を支援するシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の色彩分布設計支援システムは、物体表面の塗装層そのものの変角に応じた色彩分布、前記塗装層に含有される粒子群の分布態様、並びに、当該粒子群を構成する粒子の形状特性及び光学特性を保存するように構成されている記憶装置と、前記物体表面の意匠性に関する情報の仮想指定を可能とする入力装置と、前記入力装置を通じた前記意匠性に関する情報の仮想指定に応じて実データと同等の情報に変換するとともに、前記塗装層の視認されない微小粒子により構成されている顔料で覆われた部分の表面反射により、前記粒子の光学特性に応じた前記粒子の前記物体表面の変角に応じ見えなくなる率を示す計算と、目の分解能により顔料層に含有されている粒子が視認されなくなる距離及び方向に応じた平滑変化計算とを実行することにより、前記物体表面の変角に応じた色彩分布を計算するように構成されている計算要素と、前記計算要素により計算された前記物体表面の変角に応じた色彩分布を表示するように構成されている出力装置とを備えていることを特徴とする。
【0007】
本発明の色彩分布設計支援システムによれば、物体表面の塗装層に含有される粒子群の分布態様並びに当該粒子群の構成要素である粒子の形状特性及び光学特性が入力装置を通じて指定される。これに応じて、当該指定因子と、記憶装置に保存されている物体表面の変角に応じた色彩分布とに基づき、粒子群の存在による質感又は意匠効果が反映された物体表面の変角に応じた色彩分布が計算要素により計算される。そして、当該計算結果が出力装置に表示される。このため、塗料に含有される粒子群の特性と、当該粒子群により奏される物体表面の意匠効果又は質感との関係が勘案された形で、デザイナーによる当該物体表面における色彩分布の設計を支援することができる。
【0008】
さらに、粒子群の指定分布態様、並びに、粒子の指定形状特性及び指定光学特性に関する情報は、デザイナーの意図に沿った色彩分布を実現するために塗料に含有させるべき粒子群の選定ひいては塗料設計の直接的な指針として活用されうる。したがって、塗料開発の効率化が図られる。
【0009】
前記出力装置は、視認できない微小粒子で構成された顔料層による屈折と前記粒子ごとの透過率に起因するフレネル反射による粒子の消え角度を、粒子の散らばり度合で描画するように構成され、前記計算要素は、消え角度に応じて視認されない粒子を描画する計算を除き、塗色の意匠性に貢献する計算のみを実行するように構成されていることが好ましい。
【0010】
当該構成の色彩分布設計支援システムによれば、平板状であると仮定された粒子の法線方向の分散又はばらつき加減と、当該粒子由来の質感を含む物体表面の変角に応じた色彩分布との関係をデザイナーに認識させることができる。したがって、入射方向及び視線方向に対する粒子の姿勢に応じて、塗装層に含まれる当該粒子の輝度などその色彩が異なるという事実が勘案された上で、物体表面の色彩分布の設計が支援されうる。
【0011】
前記入力装置は、前記物体表面とこれを臨む視点との間隔の指定を可能とするように構成され、前記計算要素は、前記入力装置を通じて指定された前記間隔が大きいほど、前記粒子群を構成する粒子の光学特性としての透過率が高くなるように当該光学特性を補正した上で、当該補正後の光学特性に基づき、前記物体表面の変角に応じた色彩分布を計算するように構成されていることが好ましい。
【0012】
当該構成の色彩分布設計支援システムによれば、物体表面に対する視点の遠近と、塗装層に含有される粒子由来の物体表面の質感を含む物体表面の変角に応じた色彩分布との関係をデザイナーに認識させることができる。したがって、物体に対する視点の遠近に応じて、塗装層に含まれる粒子の輝度などその色彩が異なるという事実が勘案された上で、物体表面の色彩分布の設計が支援されうる。
【0013】
前記記憶装置は、分布態様、ならびに、構成要素である粒子の形状特性及び光学特性のうち少なくとも一部が異なるような複数の前記粒子群のそれぞれの前記塗装層における様子を示す複数のサンプル画像を保存するように構成され、前記出力装置は、前記記憶装置に保存されている前記複数のサンプル画像を表示するように構成され、前記入力装置は、前記出力装置に表示される前記複数のサンプル画像の指定によって、前記粒子群の分布態様、並びに、当該粒子群を構成する粒子の形状特性及び光学特性の仮想的な指定を可能とするように構成されていることが好ましい。
【0014】
当該構成の色彩分布設計支援システムによれば、サンプル画像を通じて、物体表面における質感を含む色彩分布の設計が簡易化されうる。
【0015】
前記入力装置は、前記塗装層そのものの複数の指定変角に応じた色彩の指定を可能とするように構成され、前記計算要素は、前記入力装置を通じた前記指定変角に応じた指定色彩に基づき、補間法にしたがって、前記指定変角以外の変角範囲における色彩分布を含む前記塗装層の変角に応じた色彩分布を計算するように構成されていることが好ましい。
【0016】
当該構成の色彩分布設計支援システムによれば、物体表面の塗装層の指定変角における色彩が入力装置を通じて指定されたことに応じて、当該物体表面の変角に応じた色彩分布の計算結果が出力装置に表示される。このため、塗料のベースの特性と、当該塗料により奏される物体表面の意匠効果との関係が勘案された形で、デザイナーによる当該物体表面における色彩分布の設計を支援することができる。さらに、指定変角に応じた指定色彩に関する情報が塗料の開発指針として活用されるので、塗料開発の効率化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態としての色彩分布設計支援システムの手順説明図。
【図2】変角に関する説明図。
【図3】第1色彩因子の設定方法に関する説明図。
【図4】第1色彩分布の計算結果の表示形態に関する説明図。
【図5】第2色彩因子の設定方法に関する説明図。
【図6】第2色彩分布の計算方法に関する説明図。
【図7】第2色彩分布の計算結果の表示形態に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(色彩分布設計支援システムの構成)
図1に示されている本発明の一実施形態としての色彩分布設計支援システムは、コンピュータにより構成されている。色彩分布設計支援システムは、第1記憶装置111と、第2記憶装置112と、計算要素12と、第1入力装置211と、第2入力装置212と、第3入力装置213と、第1出力装置221と、第2出力装置222とを備えている。
【0019】
第1記憶装置111及び第2記憶装置112は、メモリとファイルサーバーによって構成され、色彩分布を計算するために必要なデータ及びソフトウェアを保存する本発明の「記憶装置」を構成する。第1入力装置211、第2入力装置212及び第3入力装置213は、情報入力操作をするためのマウスポインティング装置及びキーボード及び測定器等外部接続機から情報を吸い出すポートにより構成され、本発明の「入力装置」を構成する。第1出力装置221及び第2出力装置222は、物品の色彩分布を示す画像及び数値データ等のほか、操作用のインターフェイスを表わす画像等を出力表示するディスプレイ装置等により構成され、本発明の「出力装置」を構成する。
【0020】
第1記憶装置111は、物体の色彩を視認するときに必要な環境要素である背景情報及びその光学情報のほか、物体色を視認するときに変化を確かめるための物体表面の形状特性を保存するように構成されている。具体的には、第1記憶装置111は、物体表面の塗装層そのものの変角に応じた色彩分布、塗装層に含有される粒子群の分布態様(空間分布態様及び必要に応じて粒径分布態様)並びに当該粒子群を構成する粒子の形状特性及び光学特性を保存するように構成されている。
【0021】
例えば、第1記憶装置111には「塗色データ」「描画環境データ」及び「3Dデータ」により構成される「外観画像出力用データ」が保存される。「塗色データ」は「塗装層角度反射率データ」及び「粒子特性データ(形状及び光学特性)」により構成されている。「描画環境データ」は「背景情報」及び「背景情報調整設定(クリア層固定の場合には映り込み率、映り込み画像輝度、映り込み画像γ値(マスター、RGB)等の光学情報が該当する。)」により構成されている。「3Dデータ」は「平板3D調整パラメータ(平板の曲げ率、視野角等の初期値などが該当する。)」及び「描画用光源位置(入射角、光源輝度などが該当する。)」により構成されている。
【0022】
第2記憶装置112は、計算要素12による計算結果を保存するように構成されている。第2記憶装置112には、塗装層の5角度反射率データから作られる色分布、並びに、粒子の形状特性及び光学特性の組み合わせが色情報として保存される。色情報の保存時に第1出力装置221を通じてサムネイル画像を出力させ、色情報をその画像とともに名称をつけて第2記憶装置112に保存させることができる。
【0023】
第1入力装置211は、物体表面の塗色のための「実データ」及び解析結果等のデータファイルの、測定機等の外部機器からシステムに対する入力を可能とするように構成されている。
【0024】
第2入力装置212は、計算要素12によるシミュレーション計算の基礎となる「仮想データ」のデザイナーによる入力を可能とするように構成されている。「仮想データ」には、「塗装層5角度色設定パラメータ」及び「粒子特性設定パラメータ」が含まれる。
【0025】
第3入力装置213は、「描画用環境情報データ」のデザイナーによる入力を可能とするように構成されている。「描画用環境情報データ」には「背景画像データ」「背景データ調整用パラメータ」及び「塗板3Dデータ調整用パラメータ」が含まれている。
【0026】
計算要素12は、コンピュータの構成要素であるCPU(中央演算処理装置)及びGPU(画像データ処理集積回路)により構成されている。計算要素12は、反射率推定計算、粒子外観効果計算及びコンピュータグラフィック計算を実行することにより、物体表面の描画シミュレーション計算を実行するように構成されている。
【0027】
「反射率推定計算」は、第2入力装置212を通じて入力された仮想データを、第1入力装置211により入力された実データに同等に変換するための計算を意味する。
【0028】
「粒子外観効果計算」は、視点から物体表面までの距離に応じて粒子が視認できなくなっていくという効果を表現するための計算である。この計算に際して、物体表面の塗装層そのものの変角に応じた色彩分布及び塗装層に含有される粒子群の分布態様並びに当該粒子群を構成する粒子の形状特性及び光学特性が用いられる。また、粒子の光学特性による粒子の物体表面の変角に応じた透過性及び塗装層の視認できない粒子で構成された顔料等により覆われた部分の表面反射が用いられる。さらに、当該粒子群を構成する粒子が平板状であると仮定される。
【0029】
計算要素12は、第1記憶装置111に保存されている塗料の原色情報(塗色データの一部)を用い、物体色彩が有する原色によって再現できる近似の配合情報を計算し、その近似の配合情報を出力するように構成されている。
【0030】
計算要素12がある計算を実行するように「構成されている」とは、CPU及びGPUが必要なデータ及びソフトウェアをメモリ等の所定の記憶装置から読み取った上で、当該データを対象として当該ソフトウェアにしたがった演算処理を実行し、当該演算処理結果を外部に出力又は保存するように「プログラムされている」ことを意味する。
【0031】
変角θは、図2に示されているように、光源から照射された光に対する物体表面の正反射方向に対して、視線方向がなす角度である。
【0032】
第1出力装置221は、計算要素12による出力情報を表示するように構成されている。第2出力装置222は、出力情報の別ファイルによる出力又は印刷出力を実行するように構成されている。第1出力装置221及び第2出力装置222のそれぞれにおいて、計算要素12による解析結果の1つであるグラフ表示は、さまざまなパラメータにより表現される。5角度反射率データが入力されると、自動計算される5角度のCIELab、CIELch、XYZ、FF値、IV値、SV値などが軸として定義されている空間にグラフが出力されうる。
【0033】
(色彩分布設計支援システムの機能)
前記構成の色彩分布設計支援システムの機能について説明する。車両のボディなどのほか、塗装による意匠が施されるあらゆる物品に関して色彩分布が設計される。
【0034】
第2入力装置212を通じて、一又は複数の指定角度における物体表面の色彩が指定される。
【0035】
例えば、第2入力装置212を通じたインターフェイスの操作により、色空間の種類が指定される。これに応じて、指定色空間を表わす画像が第1出力装置221に表示される。指定対象とされる色空間には、RGB表色系、XYZ表色系、L*u*v*表色系及びL*a*b*表色系などの公知のさまざまな表色系を構成する色空間が含まれる。
【0036】
そして、第2入力装置212を通じて、第1出力装置221に表示されている指定色空間における任意の位置が指定されることにより、当該指定位置の座標値により表わされる色彩が指定変角における物体表面の色彩として設定される。当該色彩の設定により、当該指定変角における分光反射率が計算要素12によって設定され、この分光反射率が色彩分布の計算基礎とされる。
【0037】
なお、一又は複数枚の風景写真が出力装置22に表示され、当該写真の点が指定されることにより、当該指定点における写真の色彩が指定変角における物体表面の色彩として設定されてもよい。
【0038】
そのほか、図3に示されているように、5つの指定変角θ1〜θ5についてLCH表色系におけるL(輝度)、C(彩度)及びΔH(ある変角を基準とした色相変化)の値を変位可能なプロットの位置により表現するインターフェイスが第1出力装置221に表示される。例えばθ1=15°,θ2=25°,θ3=45°,θ4=75°及びθ5=110°である。そして、第2入力装置212を通じて当該プロットのうち少なくとも一部の位置が変更されることにより、当該変更後のプロットの位置に応じた新たな色彩が指定変角θiにおける物体の色彩として設定される。
【0039】
C(彩度)の調節欄に示されている破線は、L(輝度)及びH(色相)の現在値に鑑みて、C(彩度)がとりうる値の範囲を画定する「彩度限界線」を表わしている。反射率測定値のデータ群から得られる近似曲線に基づいて作成された変数λの関数である反射率関数f(λ)が定義される。視野角2°もしくは10°のD65光源に関して、L*a*b*及びLCHが決定される。関数f(λ)ごとに決定される、L値、C値及びH値のそれぞれを表わす関数α(f)、β(f)及びγ(f)が定義される。
【0040】
0<a≦160を満たす関数fの群α-1(a)、0≦c≦100を満たす関数fの群γ-1(c)及び0°≦b≦360°を満たす関数fの群β-1(b)が定義される。そして、α-1(a)=β-1(b)という条件下で群γ-1(c)により定まるc値のとりうる範囲が彩度限界範囲として求められる。
【0041】
第2入力装置212を通じて指定変角における色彩のほか、第1記憶装置111に保存されている物体表面の変角分布、塗装層の分光反射率に基づき、計算要素12によって物体表面の変角θに応じた色彩分布が計算される。色彩は、物体そのものの地の色彩と、映り込みの色彩との合成結果として計算される。計算要素12による計算結果は第2記憶装置112に保存される。
【0042】
地の色彩は、光源から照射された光が塗装層において拡散的に反射されることにより視認される色彩であり、塗装層の分光反射率に基づいて計算される。例えば、指定変角θi(i=1〜5)における指定色彩を物体表面の地の色彩とした場合、その他の変角θ(θk<θ<θk+1)における地の色彩が、線形補間法等の適当な補間法にしたがって計算される。映り込みの色彩は、光源から照射された光が物体表面で鏡面的に反射されることにより視認される色彩であり、塗装層の正反射率に基づいて計算される。
【0043】
塗装層が、色彩を有する意匠塗装層及びクリア塗装層から構成されている場合、各塗装層における屈折率等の光学特性が全て勘案されることにより、物体表面の変角θに応じた色彩分布が計算されうる。
【0044】
例えば、図4(a)に示されているように物体表面の変角範囲θ1〜θ5における色彩分布を示す帯状のダイアグラムが計算結果として第1出力装置221に表示される。そのほか、図4(b)に示されているように円弧状に曲率一定で屈曲している曲面を正面から見た場合における、当該曲面の色彩分布を示すダイアグラムが、物体表面の変角θに応じた色彩分布の計算結果として第1出力装置221に表示されてもよい。これにより、デザイナーは、塗装面の変角θの変化に対する物体表面の色彩の変化態様を直感的に視認することができる。
【0045】
第3入力装置213を通じて、光の照射方向及び視線方向のうち少なくとも一方が変更されることにより、物体表面の変角分布が変更されてもよい。
【0046】
さらに、第2入力装置212を通じて、塗装層に含まれる粒子群の分布態様、並びに、当該粒子群を構成する粒子の形状特性及び光学特性が仮想的に指定される。これらの指定因子は、塗装層に含まれる粒子群による意匠効果又は質感が反映された場合の物体表面の変角θに応じた色彩分布を決定するための因子である。第1出力装置221に表示されているインターフェイスにしたがって、第2入力装置212を通じた入力欄への数値等の入力又はプルダウンメニューにおける選択肢の選定により、当該因子が指定される。
【0047】
粒子の平均粒径のほか、粒径分布態様を表わす分散値などが、粒子の形状特性として指定されうる。
【0048】
粒子の色彩及び透過率などが、粒子の光学特性として指定されうる。例えば、第1出力装置221に表示される色空間座標系における任意の位置が、第2入力装置212を通じて指定されることによって粒子の色彩が指定される。
【0049】
第2入力装置212を通じて、物体表面とこれを臨む視点との間隔が指定され、これに応じて計算要素12により、当該指定間隔が大きいほど、粒子の光学特性としての透過率が高くなるように当該光学特性が補正されてもよい。すなわち、当該間隔の指定によって、粒子の光学特性が間接的に指定されてもよい。
【0050】
塗装層の単位面積当たりの粒子の個数を表わす粒子群の密度が、粒子群の分布態様として指定されうる。また、粒子が平板状であるという仮定下で、当該平板の表面法線方向を確率変数とみなした場合の、粒子群における当該確率変数の分散である「法線方向揺らぎ」が、粒子群の分布態様として指定されうる(図6(b)参照)。これは、視点の位置の相違に応じて、塗装層に含まれる粒子群に由来する物体表面の質感が相違することを表現するために導入された因子である。
【0051】
そのほか、第1記憶装置111に保存されている、図5(a)及び図5(b)に示されているような、分布態様、ならびに、構成要素である粒子の形状特性及び光学特性のうち少なくとも一部が異なるような複数の粒子群のそれぞれの塗装層における様子を示す複数の数値等のデータが第1記憶装置111から読み出された上で第1出力装置221に表示され、当該数値データが選択されることにより、粒子群の分布態様などの因子が間接的に指定されてもよい。
【0052】
第2入力装置212を通じて指定された塗装層に含まれる粒子群の分布態様、並びに、当該粒子群を構成する粒子の形状特性及び光学特性に加えて、第1記憶装置111に保存されている物体表面の変角θに応じた色彩分布の先の計算結果に基づき、物体表面の変角θに応じた色彩分布が計算される。この色彩分布は、塗装層に含まれている粒子群によって奏される意匠効果又は質感が反映された色彩分布である。この場合における色彩は、物体そのものの色彩(地の色彩)及び映り込みの色彩に加えて、粒子の色彩及び粒子を透過して見える物体の色彩の合成結果として計算される。
【0053】
図6(a)に示されているように、実際の物体表面は、個々の粒子が部分的又は全体的に埋め込まれている意匠塗装層にクリア塗装層が重ねられた構造になっている。当該描画計算は図6(b)に示されているように、クリア塗装層の上に平板状の粒子が分布しているという仮定下で色彩分布が計算される。また、アルミニウム粒子など、実際には透過率が0の粒子であってもある程度の透過率を有すると仮定されている。これにより、計算量を減少させ、仮定の変更をリアルタイムに出力装置における描画に反映させることができる。
【0054】
また、図7(a)及び図7(b)に示されているように、粒子の透過率の相違に起因するフレネル反射による粒子の消え角度が、粒子の散らばり度合(又は空間分散度若しくは空間分布態様)により表現される。このため、視認されえない粒子が計算対象から除外され、これにより計算量を抑制しながらも、粒子が塗色の意匠性に寄与するようなシミュレーション計算が実現される。粒子が有する色群、サイズ群、粒子種類に応じた粒子散らばり度合及び透過率などの意匠性の計算量が抑制され、システムの計算負荷の軽減が図られる。
【0055】
(本発明の作用効果)
本発明の色彩分布設計システム1によれば、物体表面の塗装層に含有される粒子群の分布態様並びに当該粒子群の構成要素である粒子の形状特性及び光学特性が入力装置21を通じて指定される。これに応じて、当該指定因子と、第1記憶装置111に保存されている物体表面の変角に応じた色彩分布とに基づき、粒子群の存在による質感又は意匠効果が反映された物体表面の変角に応じた色彩分布が計算要素12により計算される。そして、当該計算結果が第1出力装置221に表示される。
【0056】
このため、塗料に含有される粒子群及びその構成要素である個々の粒子の特性と、当該粒子群によって実現される物体表面の意匠効果又は質感との関係が勘案された形で、デザイナーによる当該物体表面における色彩分布の設計を支援することができる。
【0057】
例えば、平板状であると仮定された粒子の質感と、その光学特性の中の塗装層変角に応じた透過性による粒子の見え方とをデザイナーに認識させることができる(図7参照)。したがって、入射方向及び視線方向に対する粒子の姿勢に応じて、塗装層に含まれる当該粒子の輝度などその色彩が異なるという事実が勘案された上で、物体表面の色彩分布の設計が支援されうる。
【0058】
また、物体表面に対する視点の遠近と、塗装層に含有される粒子由来の物体表面の質感を含む物体表面の変角に応じた色彩分布との関係をデザイナーに認識させることができる。したがって、物体に対する視点の遠近に応じて、塗装層に含まれる粒子の輝度などその色彩が異なるという事実が勘案された上で、物体表面の変角θに応じた色彩分布の設計が支援されうる。
【0059】
さらに、粒子群の指定分布態様、並びに、粒子の指定形状特性及び指定光学特性に関する情報は、デザイナーの意図に沿った色彩分布を実現するために塗料に含有させるべき粒子群の選定ひいては塗料設計の直接的な指針として活用されうる。したがって、塗料開発の効率化が図られる。
【0060】
また、平板上にあると仮定された粒子の大きさ(サイズ)、色又は分布密度などの情報が入力されたことに応じて、粒子の材料ごとに当該粒子由来の質感を含む形で、物体表面の変角に応じた色彩分布との関係をデザイナーに視認させながら、粒子分布の意匠性の設計を支援することができる。
【0061】
さらに、光入射方向及び視線方向に対するコンピュータグラフィックの計算結果が加えられることにより、塗装層に含まれる粒子の輝度、変角透過性又は距離方向に応じた平滑変化など、その物性が異なるという事実が勘案された上で、円柱状に曲げられた物体の表面の色彩分布を可視化させながら設計することを支援する分布システムが実現された。
【0062】
粒子の変角透過性とは、フレネル反射を意味しクリア層及び顔料層のうち一方又は両方の屈折率に応じて、角度方向にしたがってクリア層及び顔料層のうち一方又は両方の表面反射により、顔料層に含有されている粒子の存在が視認されなくなる現象が「粒子広がり」という1つのパラメータにより表現される。
【0063】
例えば、パールなど透過性がある粒子は、正反射付近からわずかに角度が変化しただけで粒子が視認されなくなる。粒子の透過度並びにクリア層及び顔料層のうち一方又は両方の表面反射特性の組み合わせが、粒子広がりという1つのパラメータに集約されたことで、意匠的に重要な粒子の特性が大まかに表現されうる。
【符号の説明】
【0064】
1‥色彩分布設計支援システム、111‥第1記憶装置、112‥第2記憶装置11‥計算要素、211‥第1入力装置、212‥第2入力装置、213‥第3入力装置、221‥第1出力装置、222‥第2出力装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体表面の塗装層そのものの変角に応じた色彩分布、前記塗装層に含有される粒子群の分布態様、並びに、当該粒子群を構成する粒子の形状特性及び光学特性を保存するように構成されている記憶装置と、
前記物体表面の意匠性に関する情報の仮想指定を可能とする入力装置と、
前記入力装置を通じた前記意匠性に関する情報の仮想指定に応じて実データと同等の情報に変換するとともに、前記塗装層の視認されない微小粒子により構成されている顔料で覆われた部分の表面反射により、前記粒子の光学特性に応じた前記粒子の前記物体表面の変角に応じ見えなくなる率を示す計算と、目の分解能により顔料層に含有されている粒子が視認されなくなる距離及び方向に応じた平滑変化計算とを実行することにより、前記物体表面の変角に応じた色彩分布を計算するように構成されている計算要素と、
前記計算要素により計算された前記物体表面の変角に応じた色彩分布を表示するように構成されている出力装置とを備えていることを特徴とする色彩分布設計支援システム。
【請求項2】
請求項1記載の色彩分布設計支援システムにおいて、
前記出力装置は、前記粒子の透過率の相違に起因するフレネル反射による粒子の消え角度を、粒子の散らばり度合で描画するように構成され、
前記計算要素は、消え角度に応じて視認されない粒子を除き、塗色の意匠性に貢献する計算のみを実行するように構成されていることを特徴とする色彩分布設計支援システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の色彩分布設計支援システムにおいて、
前記入力装置は、前記物体表面とこれを臨む視点との間隔の指定を可能とするように構成され、前記計算要素は、前記入力装置を通じて指定された前記間隔が大きいほど、前記粒子群を構成する粒子の光学特性としての透過率が高くなるように当該光学特性を補正した上で、当該補正後の光学特性に基づき、前記物体表面の変角に応じた色彩分布を計算するように構成されていることを特徴とする色彩分布設計支援システム。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1つに記載の色彩分布設計支援システムにおいて、
前記記憶装置は、分布態様、並びに、構成要素である粒子の形状特性及び光学特性のうち少なくとも一部が異なるような複数の前記粒子群のそれぞれの前記塗装層における様子を示す複数のサンプル画像を保存するように構成され、前記出力装置は、前記記憶装置に保存されている前記複数のサンプル画像を表示するように構成され、前記入力装置は、前記出力装置に表示される前記複数のサンプル画像の指定によって、前記粒子群の分布態様、並びに、当該粒子群を構成する粒子の形状特性及び光学特性の仮想的な指定を可能とするように構成されていることを特徴とする色彩分布設計支援システム。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか1つに記載の色彩分布設計支援システムにおいて、
前記入力装置は、前記塗装層そのものの複数の指定変角に応じた色彩の指定を可能とするように構成され、
前記計算要素は、前記入力装置を通じた前記指定変角に応じた指定色彩に基づき、補間法にしたがって、前記指定変角以外の変角範囲における色彩分布を含む前記塗装層の変角に応じた色彩分布を計算するように構成されていることを特徴とする色彩分布設計支援システム。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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