説明

色柄模様付き粘土シートの製造方法および粘土造形物の製造方法

【課題】 多種多様な柄模様の中から欲しい模様を容易に選ぶことができ、色模様の選択の幅が極めて広く、複雑な絵柄であっても簡単かつ迅速に絵付けできる、粘土シートに絵模様を付ける方法を提供する。
【解決手段】 レース2に絵の具を溶かした着色液4を付着させ、このレースを柔らかい状態の粘土シート1に押し当てて上記レース2の柄模様3を粘土シートに転写するようにしたものであり、多種類の柄模様をもつ既存のレースの中から希望するレースの柄模様を選び、この柄模様を希望する色で粘土シートに簡単に絵付けすることができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、粘土(紙粘土を含む)を薄く延ばしてなるシートに色柄模様を付ける方法およびこのような柄模様付き粘土シートを用いた粘土造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、過去において「特開平5−262098号」に記載された粘土の圧延装置及び圧延方法を開発した。このものは、一対の圧延ローラ間に粘土を挟み込み、これら圧延ローラの回転で粘土を押し潰して薄肉のシート状粘土を作るものである。このように作られた粘土シートは、圧延ローラの間隔を調節することにより様々な厚さ、例えば1ないし2mmもしくはそれ以下のものまで延展成形することができる。
そして、このような粘土シートは生(なま:非乾燥)の状態では柔らかいので、このような生の状態で紙や布のように扱うことができ、すなわち曲げたり、折ったり、又は鋏やナイフで切ったりすることができるので使い勝手が広がる。このため、粘土を素材とした造形物、例えば陶芸品、人形、アクセサリー、インテリア商品、手工芸品などを作る場合、この粘土シートを素材の全部または一部として使用し、これを曲げたり、折ったり、切ったりするなどの細工をして使えばデザインの多様化が期待できる。
【0003】
【特許文献1】 特開平5−262098号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような薄肉の粘土シートは、単にシート形状であるからシンプルすぎるきらいがあり、色を付けるにしても全体が均一な単色になるので、意匠的変化に乏しい。よってこの種粘土シートの更なるデザインの多様化が望まれている。
このようなことから、粘土シートに色柄模様を付けることが考えられている。すなわち、粘土シートに色柄の模様を付けると華やかな素材となり、その使用範囲や利用価値が一層向上することが期待できる。
しかしながら、このような絵付けを手作業で行おうとすれば、多大な手間が掛かり、非効率である。
陶芸の分野では、絵付けとして、素焼きの造形品に絵柄を転写技術で画く方法が知られている。
しかしながら、上記陶芸品に対する転写方法は、まず希望する絵柄を原画に画き、これを転写紙に写し、この転写紙の絵柄を造形物に写すものであるため、希望する絵柄を絵付けしようとすると、原画及び転写紙を作るのに多大な手間を要する。また、市販の転写紙を購入しようとしても模様の種類に限りがあり、希望する絵柄の選択幅が狭い。したがって、デザインの多様化に限界をきたし、使い難いとともに、量産にも不向きであるなどの不具合があった。
また、絵付けの対象物は造形の終わった乾燥品又は素焼きの半完成品であるので、凹凸箇所が出来ており、このような凹凸面に絵付けする場合、平坦面に比べて絵付けが非常に難しく、奥まった凹み箇所への描きが困難であり、不鮮明な絵柄になってしまう。転写の場合は、転写紙が奥まった凹凸面に届かず、密着し難く、転写紙に皺が生じるなどして綺麗な転写ができず、使い難いといった不具合もある。
この発明はこのような事情にもとづきなされたもので、入手が容易であり、色柄模様の種類が極めて多く、よって絵柄の選択の幅が広く、複雑な色柄であっても簡単かつ迅速に絵付けができる粘土シートに色柄模様を付ける方法およびこのような色柄模様付き粘土シートを使って粘土造形物を作る方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため本発明は、カーテンやテーブルクロス、ドレス生地を始めとし広い分野で使用されているレース(lace=糸を編み、組合せ、より合わせるなどして種々の透かし模様を作った布地や編地:広辞苑より)を使用する。レースは、その紋様や柄模様の種類が極めて豊富であり、各種店舗で市販されており、入手が容易であり、しかも安価である。よって、多種類の模様の中から希望する模様のレースを選び、その柄模様を粘土シートに写し取って色模様付き粘土シートを作ろうとするものである。
すなわち、請求項1の発明は、レースに絵の具を溶かした着色液を付着させ、このレースを柔らかい状態の粘土シートに接触させて上記レースの柄模様を粘土シートに転写することを特徴とする色柄模様付き粘土シートの製造方法、である。
請求項2の発明は、レースに含浸される着色液は粘着性をもった泥奨状の絵の具であることを特徴とする請求項1に記載の色柄模様付き粘土シートの製造方法、である。
請求項3の発明は、造形物の少なくとも一部の素材として上記請求項1又は請求項2に記載の製造方法で得られた色柄模様付き粘土シートを用い、この粘土シートが柔らかい状態のときに造形し、この造形が終えた造形物を焼成して完成させることを特徴とする色柄模様付き粘土シートを用いた造形物の製造方法、である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、絵の具を溶かした着色液をレースに付着させ、このレースを柔らかい(生:非乾燥)状態の粘土シートに押し当てて上記レースに付いている着色液を粘土シートに付着させることにより、上記シートの柄模様を粘土シートに上記着色液の色で転写するものであるから、希望するレースの柄模様が希望する色で粘土シートに簡単に描かれる。
レースの模様は千差万別であり、多種多様の模様が存在しており、このようなレースは、衣料品店、布地販売店、家具店、量販店、ホームセンター、その他の店舗で広く販売されているので、入手が容易であり、しかも安価である。このようなレースから希望する柄模様の品を選び、この柄模様を希望する色で粘上シートに写すので、粘土シートは色柄模様付きシートになる。よってこのような柄模様付き粘土シートを造形物の素材として使用すれば、その造形物、つまり陶芸品、手作り教室などで作られる手工芸品、趣味の焼き物、人形、アクセサリー、装飾品その他の作品を作るのに、デザインの幅が広くなり、多様化が可能になって、美的感覚が向上する。しかも、着色液をレースに付着させ、このレースを粘土シートに押し当てれば上記シートの柄模様が粘土シートに転写されるので、転写作業は容易であり、量産にも有効である。
また、同一紋様のレースを使用する場合でも、写す色を変えることにより異なった色の模様にすることができ、趣きを変えることもできる。
なお、色模様とは粘土シートの地肌と異なる色の模様のことであり、生の粘土シートは地肌の色が白ないし土色であり、この地肌に対し異なる色の柄模様を粘土シートに絵付けするものである。
粘土シートが柔らかい状態というのは、粘土を圧延装置でシート状に伸ばし、これが未だ乾燥や焼成がなされずに生(なま)の状態であることを言い、柔らかい状態である。このような柔らかい状態の粘土シートに絵柄を転写する理由は、この粘土シートは造形物の素材として、又は素材の一部として使用するものであるから、絵付けした粘土シートを、絵付けの後で曲げたり、折ったり、切ったりして形を整えるためには、柔らかい段階で絵付けをしておくことが都合が良い。
【0007】
請求項2の発明のように、着色液が粘着性を有していると、レースに付着させた場合、レースから液垂れが少なく、かつ粘土シートに写す場合、着色液の粘土との馴染みがよくなり、粘土に対する接着性が良くなってレースの模様を粘土に鮮明に写すことができる。
請求項3の発明のように、造形物の全部または一部の素材として柄模様の転写された柔らかい状態の粘土シートを使用すれば、これを曲げる、折る、切る、くっつけるなどのように、自由に変形変化させることができるから、造形が容易であるばかりでなく、複雑な形状、例えば凹凸面やひだの付いた面の奥まった凹み箇所などに対しても鮮明な色柄模様が描かれた造形品を作ることができる。このようにして造形を終えた後、少なくとも粘土シートを素材として使った箇所を所定温度で焼成すれば、粘土シートが固形化され、かつ絵の具は焼成により所期の色が現出するので、模様の色彩も明瞭な色に仕上がることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明について、その一実施例を、図面を参照して説明する。
図面は、粘土シートに色柄模様を絵付けし、この絵付けした粘土シートを用いて造形物としての人形を作る方法を工程順に示した図である。
【0009】
図1において、符号1は紙粘土からなる粘土シート、2はレースである。
粘土シート1は、紙粘土を図示しない一対の圧延ローラによって延展成形し、肉厚が1ないし2mm程度の薄肉に圧延したものである。このような粘土シート1は、これが乾燥しない生(なま)の状態、つまり柔らかい状態で使用され、その地肌の色調は粘土本来のもつ白ないし粘土色である。
一方、レース2は、多種多様な絵柄(紋様)模様を持つカーテン、テーブルクロス、ドレス地などのレース地から、製作者の希望する絵柄模様3を持つレースを選んだものである。
このレース2に、絵の具を溶かした着色液4を付着する。着色液4は、例えば図2に示すように、洗面器などの容器5に水を入れ、この水に陶芸用絵の具(顔料を含む)を溶かすと、着色液4としての水溶液が得られる。なお、絵の具の色は製作者の希望する色であるが、少なくとも上記粘土シート1の地肌色とは違う色となっている。
この場合、水に絵の具を溶かして希望の色の水溶液を作るものであるが、絵の具の溶解濃度を高くし、粘着性を持つ泥奨状にすると良い。すなわち、水に対する絵の具の割合を高くして着色液自体に粘着性を持たせ、これによって薄い泥奨状の水溶液、すなわち、泥絵の具のような粘着性を持っていることが好ましい。
このような着色液4を入れた容器5にレース2を浸漬すると、レース2の表面に着色液4が付着するとともに、レース生地の芯まで着色液4が滲み込み、レース2は上記着色液4の色に染まる。
このようなレース2を容器5から取り出し、しずくが滴下しない程度に絞り、これを図3に示すように拡げて粘土シート1の一面に当てる。
拡げた状態のレース2に皺が生じないようにして粘土シート1に密接させ、図4に示すように、例えばローラ6などを用いて粘土シート1に押し当てる。そして、ローラ6を回転させてレース2を押し延ばしつつ粘土シート1の全面に亘って押接する。
すると、レース1に付着していた着色液4が粘土シート1に付着する。この付着した着色液4によってレース1の模様が粘土シート1に画かれる。したがって、粘土シート1にはレース2の柄模様3が転写されることになる。
この転写は、レース2を粘土シート1に軽くあてがってもレース1の表面に付着している着色液4がシート1に写るが、ローラ6などを用いてレース2を粘土シート1にある程度の力で押し付けると、レース2の生地に滲み込んでいた着色液4が絞り出されるのでこの液が粘土シート1に付着し、レース2の模様が粘土シート1に転写される。勿論、転写された模様3は、液の色と同じ色模様となる、
したがって、図5に示すように、レース2を粘上シート1から剥がし取ると、図6に示すように、粘土シート1の表面にレース2の模様3が転写によって絵付けされた状態の粘土シートが出来上がる。
【0010】
このような粘土シート1は、造形物、例えば手作りの紙粘土人形10の素材として使用される。すなわち、絵付けが終わった粘土シート1は、未だ生で、柔らかい状態であるから、これを鋏やカッターで所定の寸法に切断したり、折ったり、曲げたり、又は襞を寄せるなどしながら造形することができる。例えば、図7に示すように、人形10のスカート11に用いる場合、予め作っておいた素焼きの人形ボディ12の腰部に粘土シートを巻きつける。ボディ12の腰に巻きつけたシート1は、これに切ったり、曲げたり、折ったり、ひだを寄せたりしながら美的感覚を考慮しながらその形を整える。
さらに、人形ボディ12に他の素材からなる上着13を着せたり、頭に髪14をつけたり、顔に目や口の色を付けるなどして、人形10を完成させる。
このようにして出来た人形は、光沢を出すための釉薬などを塗り、所定の温度で焼き上げる。すると、図8に示される手作り人形が出来上がる。
上記人形10のスカート11に用いられた粘土シート1には、レース模様の絵付けがなされており、そのような模様がない場合に比べて、人形としてのデザインが向上し、見栄えがよくなる。
しかも、ひだの部分の奥まった箇所にも絵柄模様が描かれており、かつ曲面にも綺麗な絵柄模様が鮮明に画かれているので、手作り人形としての美的感覚が向上する。
【0011】
以上の通り本発明によれば、多種多様の柄模様を持った市販のレースから希望する柄模様のレースを選んでその模様を粘土シートに写し取るので、これを用いた造形物は、デザインの幅が極めて広くなり、多様化が可能になり、美的感覚の向上に有効である。しかも、レースは入手が容易であり、その転写作業は簡単であるから、安価に作ることが出来る、などの利点がある。
なお、上記実施例では、一枚の粘土シートに、同一の柄模様を同一色で転写する場合を説明したが、本発明はこれに限らず、同一粘土シートに同一柄模様であっても部分的に色を変える、部分的に模様を変えるなどの応用も可能であり、多色、多模様の混合にすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】 本発明の一実施例を示し、使用する粘土シートとレースの図
【図2】 レースを着色液に浸している図
【図3】 着色液が付いたレースを広げている図
【図4】 着色液が付いたレースを粘土シートに押し付けている図
【図5】 着色液が付いたレースを粘土シートから剥がしている図
【図6】 柄模様が転写された粘土シートの図
【図7】 柄模様が転写された粘土シートを人形のスカートに用いた図
【図8】 完成した人形の図
【符号の説明】
【0013】
1…粘土シート
2…レース
3…柄模様
4…着色液
10…手作り紙粘土人形
11…スカート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レースに絵の具を溶かした着色液を付着させ、このレースを柔らかい状態の粘土シートに接触させて上記レースの柄模様を粘土シートに転写することを特徴とする色柄模様付き粘土シートの製造方法。
【請求項2】
レースに含浸される着色液は粘着性をもった泥奨状の絵の具であることを特徴とする請求項1に記載の色柄模様付き粘土シートの製造方法。
【請求項3】
造形物の少なくとも一部の素材として上記請求項1又は請求項2に記載の製造方法で得られた色柄模様付き粘土シートを用い、この粘土シートが柔らかい状態のときに造形をし、この造形が終えた造形物を焼成して完成させることを特徴とする色柄模様付き粘土シートを用いた粘土造形物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−83452(P2009−83452A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280944(P2007−280944)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(592083797)
【Fターム(参考)】