色素体DNAの単離方法および該色素体DNAを用いたラテックス産生植物の品種判別方法
【課題】ラテックス産生植物の色素体から簡便に、かつ核DNAの混入を防止しつつ、高純度に色素体DNAを単離する方法を提供すること。
【解決手段】ラテックス産生植物からの色素体DNAの単離方法であって、ラテックス産生植物のラテックスを遠心分離し、ゴム相とセラム相とに分離する工程と、前記ゴム相から色素体画分を抽出する工程と、抽出した前記色素体画分からDNAを単離する工程とを有することを特徴とする色素体DNAの単離方法。
【解決手段】ラテックス産生植物からの色素体DNAの単離方法であって、ラテックス産生植物のラテックスを遠心分離し、ゴム相とセラム相とに分離する工程と、前記ゴム相から色素体画分を抽出する工程と、抽出した前記色素体画分からDNAを単離する工程とを有することを特徴とする色素体DNAの単離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラテックス産生植物のラテックスからの色素体DNAの単離方法に係り、より詳しくは、遠心分離により得られたラテックスのゴム相から色素体画分を抽出し、該色素体画分から色素体DNAを単離することで、核DNAの混入を抑制し、純度の高い色素体DNAを単離することが可能な色素体DNAの単離方法及び該単離方法で得られた色素体DNAを用いてラテックス産生植物の品種を判別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)は、天然ゴムの原料として栽培される代表的なゴムノキであり、パラゴムノキの分泌するラテックスという乳液から天然ゴムは製造される。このパラゴムノキは、品種によって乳管数、ラテックス放出能、ラテックス再生能等が異なるため、パラゴムノキ1本あたりのラテックス収量が異なってくる。したがって、これらの能力に優れたパラゴムノキの品種を判別し、ラテックスの生成を行なうことが、天然ゴムの生産を安定化させる上で極めて重要である。
【0003】
従来、パラゴムノキの品種は、葉・樹皮・樹形などの形態で判別されていた。しかしながら、形態による品種判別方法においては、パラゴムノキの成長を待つ必要があるため、長期間を要する。その上、このような品種判別方法の習熟・熟練にも時間を要する。また、パラゴムノキの品種によっては外観で判別が困難であり、品種判別において誤判定が生じることがあった。
【0004】
一方で、近年、植物においていくつかの遺伝子工学を応用した品種判別方法が開発されてきた。これらの方法では、品種間の塩基配列の違い、すなわち多型を検出することで品種判別を行なっている。この品種判別方法は、遺伝子上の客観的な特徴を指標とすることから、精確な品種判定が可能となる。既に多くの商業作物において、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)法、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphisms)法、マイクロサテライト法などの遺伝子工学を用いた品種判別法が開発されている。
【0005】
パラゴムノキにおいては、遺伝子の多型を検出可能なDNAマーカーとして、矮性の変異体のクローンを識別可能なRAPDマーカーを用いる方法が非特許文献1に、耐乾燥性の変異体のクローンの開発やスクリーニングに有用なDNAマーカーを用いる方法が非特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Venkatachalam,P. et al. Identification,cloning and sequence analysis of a dwarf genome-specific RAPD marker in rubber tree[Hevea brasiliensis(Muell.)Arg.], Plant Cell Reports 2004;23(5):327-332
【非特許文献2】Venkatachalam,P. et al. Molecular cloning and sequencing of a polymorphic band from rubber tree[Hevea brasiliensis(Muell.)Arg.]:the nucleotide sequence revealed partial homology with proline-specific permease genesequence. Current Science 2006;90(11):1510-1515
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した非特許文献1〜2に記載の方法では、パラゴムノキから直接葉や茎などを採取してDNAを単離するため、操作が煩雑であり、また、パラゴムノキに損傷を与えてしまうという問題がある。また、植物には、核DNAの他に葉緑体等が有する色素体DNAがあり、これを用いて、遺伝的解析を行なうことも可能であるが、葉や茎から色素体DNAを単離すると、核DNAの混入が生じやすい。そのため、色素体DNAを鋳型としてRAPDやPCR等により品種判別を行った際に、核DNAに由来するDNA断片が生じてしまい、品種判別の誤判定や再現性に欠ける等の問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ラテックス産生植物の色素体から簡便に、かつ核DNAの混入を防止しつつ、高純度に色素体DNAを単離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に記載の色素体DNAの単離方法は、ラテックス産生植物からの色素体DNAの単離方法であって、ラテックス産生植物のラテックスを遠心分離し、ゴム相とセラム相とに分離する工程と、前記ゴム相から色素体画分を抽出する工程と、抽出した前記色素体画分からDNAを単離する工程とを有することを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の色素体DNAの単離方法は、請求項1において、前記ラテックス産生植物がパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)であることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載のラテックス産生植物の品種判別方法は、請求項1または2に記載の方法で単離された色素体DNAを用いてラテックス産生植物の品種を判別することを特徴とする。
本発明の請求項4に記載のラテックス産生植物の品種判別方法は、請求項3において、ラテックス産生植物の品種を判別する方法が、前記色素体DNAを鋳型とし、PCRを行なう工程と、前記PCRで増幅されたDNA断片を用いてラテックス産生植物の品種を判別する工程と、を少なくとも有すること特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の色素体DNAの単離方法は、ラテックス産生植物のラテックスを遠心分離して得られた色素体画分から、色素体DNAを単離する方法である。色素体には核DNAが含まれていないため、本発明の方法で単離されたDNAは、その大部分が色素体DNAである。そのため、該色素体DNAを用いて、例えばPCR等を行なった場合には、核DNAの混入による非特異的なバンドの検出を顕著に抑制することができる。ゆえに、本発明の色素体DNAの単離方法により単離された色素体DNAを用いることにより、PCRやRAPD法等の周知の解析方法によって、精度よくラテックス産生植物の品種判別を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のラテックス産生植物のラテックスから色素体DNAを単離する方法を段階的に示したフローチャートである。
【図2】ラテックスを超遠心分離した際の模式図である。
【図3】PCRによる増幅範囲を示した図である。
【図4】実施例における電気泳動の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<色素体DNAの単離方法>
図1は、本発明の色素体DNAの単離方法を段階的に示したフローチャートである。
本発明の色素体DNAの単離方法は、ラテックス産生植物のラテックスを遠心分離し、ゴム相とセラム相とに分離する工程と、前記ゴム相から色素体画分を抽出する工程と、抽出した前記色素体画分からDNAを単離する工程とを有している。以下、本発明の色素体DNAの単離方法を詳細に説明する。
【0013】
まず、ラテックス産生植物のラテックスを用意する。本発明において、ラテックス産生植物とは、乳管を有しており、乳管中にラテックス(主にポリイソプレン)が含まれている植物であれば、特に限定されるものではなく、例えば、トウダイグサ科のパラゴムノキ(Havea brasiliensis)、セアラゴムノキ(Manihot glaziovii)、クワ科のインドゴムノキ(Ficus elastica)、パナゴムノキ(Castilloa elastica)、マメ科のアラビアゴムノキ(Accacia senegal)、トラガントゴムノキ(Astragalus gummifer)、キョウチクトウ科のクワガタノキ(Dyera costulata)、ザンジバルツルゴム(Landolphia kirkii)、フンツミアエラスチカ(Funtumia elastica)、ウルセオラ(Urceola elastica)、キク科のグアユールゴムノキ(Parthenium argentatum)、ゴムタンポポ(Taraxacum kok−saghyz)、アカテツ科のガタパーチャノキ(palaguium gatta)、バラタゴムノキ(Mimusops balata)、サポジラ(Achras zapota)等が挙げられる。中でも、パラゴムノキ、セアラゴムノキ、インドゴムノキ等であることが好ましく、工業用天然ゴム原料として汎用されているパラゴムノキであることがより好ましい。
【0014】
ラテックスとしては、ラテックス産生植物から例えばタッピング等の従来公知の方法で採取したフィールドラテックスを用いてもよいし、このフィールドラテックスに保存や腐敗、凝固を防止するためにアンモニアや他の保存剤が添加されたラテックスや、ゴム成分(ポリイソプレン)が濃縮されたラテックスであってもよい。また、市販のラテックスを用いてもよい。
【0015】
次に、ラテックスを遠心分離し、ゴム相とセラム相とに分離する。
ラテックスは、遠心分離用の遠心管に所定量充填され、遠心分離を行なうことで、図2に示すように、ゴム相1とセラム相2とボトム画分3とに分離することができる。遠心分離に関しては、分離が綺麗で容易に行なえることから、超遠心分離を行なうことが好ましい。この遠心分離に関しては、例えば6000G以上9000G以下、0℃以上4℃以下にて0.5時間以上1時間以下で行なえばよい。
【0016】
本発明において、ゴム相1とは、遠心分離を行った際に、白色の容態を示すコロイド状の相であり、主にラテックス粒子からなる。このゴム相1には、色素体が濃縮された色素体画分が存在する。
またセラム相2とは、遠心分離を行なった際に、半透明の容態を示す水相であり、水溶性のタンパク質や粒径の小さいラテックス粒子が溶解している。
【0017】
次に、ゴム相1から色素体画分4を抽出する。色素体画分4は、主にラテックス粒子からなる画分と構成が異なるため、その色等により目視で簡便に判別することができる。色素体画分4の抽出にあたっては、色素体画分4のみを抽出することができれば特に限定されるものではなく、例えば注射器等を用いて行なえば、簡便に色素体画分4をゴム相1から抽出することができる。
【0018】
次に、抽出した色素体画分4から、色素体DNAを単離する。色素体DNAの単離にあたっては、フェノール法や臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)法、アルカリSDS法、市販のキット等を用いて行なうことができる。色素体画分4を抽出する際にゴム相1が含まれると、市販のキットを用いて色素体DNAの単離を行なった場合、該ゴム相1によってDNAの収量および純度が低減する虞がある。したがって、色素体DNAを単離する際に、フェノール法を用いた場合には、ゴム相1のラテックス粒子等の混入が生じていた場合でも、精度よく簡便に色素体DNAを単離することができる。
【0019】
以上で、ラテックス産生植物のラテックスから、色素体DNAを単離することが可能である。ラテックスの色素体画分4から色素体DNAを単離することにより、核DNAの混入を抑制し、精度よく色素体DNAを得ることができる。したがって、該色素体DNAを用いて、PCRやRAPD法によりラテックス産生植物の品種判別を行った際には、核DNAに由来するDNA断片を顕著に抑制することができるため、該DNA断片による品種判別の誤判定が抑制され、再現性よくラテックス産生植物の品種判別を行なうことが可能となる。
【0020】
また、ラテックス産生植物の葉や茎を採取する必要がないため、ラテックス産生植物への負担が少ない。さらに、ラテックス産生植物からすでに回収されたラテックスを用いて色素体DNAを単離することができるため、流通工程の途中でラテックスが由来する品種を判別することができる。
さらに、本発明で得られた色素体DNAは、例えば上記で述べた品種判別の他にも、生物由来の他のDNAと同様に、種々の核酸解析に供することができる。例えば、ラテックス産生植物の品種改良や遺伝子組み換えによる新品種の作製等が挙げられる。
【0021】
<ラテックス産生植物の品種判別方法>
本発明の色素体DNAの単離方法で得られた色素体DNAを用いて、核DNAと同様に色素体DNAにあっても、品種間で塩基配列が異なる部位を検出することにより、ラテックス産生植物の品種判別ができる。パラゴムノキの品種を判別することが好ましい。品種判別可能なパラゴムノキとしては、例えば、PB260、PB340、RRIM600等が挙げられる。
【0022】
ラテックス産生植物の品種判別に関しては、核DNAを用いた品種判別方法と同様な方法で行なうことができ、例えば、単離した色素体DNAを鋳型とした核酸増幅法やサザンブロッティング等のハイブリダイゼーション法、または単離したDNAを用いた変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis:DGGE)、RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法等により行なうことができる。
【0023】
核酸増幅法に関しては、ポリメラーゼを用いた塩基の伸長反応を行うものであれば特に限定されるものではなく、通常のPCRに加えて、リアルタイムPCR、マルチプレックスPCR、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism)、PCR−RFLP、PCR−SSCP(Single Strand Conformation Polymorphism)等が挙げられる。
【0024】
これら核酸増幅法の中でも、簡便に短時間で精度よく判別できることから、通常のPCRにより行なうことが好ましい。
PCRに用いるプライマーは、色素体DNAにおいて、ラテックス産生植物の品種間で塩基配列の異なる領域が、PCRにより増幅されたDNA断片中に含まれるように設計される。プライマーの設計としては、色素体DNAにおいて、ラテックス産生植物の品種間で塩基配列の異なる領域が、プライマーの塩基配列に含まれる、あるいはPCRにより増幅される塩基対数が、ラテックス産生植物の品種間で異なるように設計することが好ましい。なお、各プライマーのTm値を、ほぼ一致させておくことにより、同一のPCR条件で核酸増幅を行うことができる。このようなプライマーの合成は、当該技術分野で公知の手法を用いて行うことができる。
この品種間で塩基配列が異なる領域としては、一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)、単純反復配列(simple sequence repeat:SSR)、挿入/欠失多型(insertion/deletion polymorphism:In/Del)等が挙げられ、得られたPCR産物を解析することにより、ラテックス産生植物の品種判別を行なうことができる。
【0025】
PCRに用いるポリメラーゼとしては、増幅塩基数や増幅塩基配列、反応温度等を考慮して公知のものを適宜選択可能であり、例えば耐熱性ポリメラーゼや校正活性を有したポリメラーゼ等が挙げられる。
PCRに用いるバッファーとしては、用いるポリメラーゼを考慮して、公知のものを適宜調整して用いることができる。
PCRに用いるヌクレオチドに関しては、標識試薬等で標識されたものを用いることもできる。
【0026】
本発明のラテックス産生植物の品種判別方法における通常のPCRは、目的のDNA断片が増幅できれば特に限定されるものではないが、例えば以下に示す条件で行なうことができる。反応溶液の組成としては、例えば、反応溶液中の濃度が0.1〜2μMのフォワードプライマーとリバースプライマー、100mMのTris−HCl(pH 8.0)、580mMのKCl、0.1%のTriton X−100、1.5〜2.25mMのMgCl2、0.2〜0.4mMの各dNTPs、0.5〜2ユニットのDNAポリメラーゼ(例えばTaqポリメラーゼ)、及び1〜100ngの色素体DNAである。PCRの温度サイクルは、例えば約94℃を約2分の後、約94℃を約30秒、約55℃を約30秒、約72℃を約2分の工程を25〜45回繰り返す。その後、反応溶液を、約72℃で約5分間反応させてもよい。
【0027】
上述したPCRで増幅されたDNA断片は、例えばゲル電気泳動やバイオアナライザー2100システム(Agilent社製)等の検出機器により検出することができる。ゲル電気泳動は、アガロースゲルまたはポリアクリルアミドゲル等を用いて行なうことができる。電気泳動後は、エチジウムブロマイド、SYBER(登録商標) Green等でDNA断片を染色し、UV照射下でDNA断片の有無、大きさ、パターンを検出する。
得られたDNA断片のパターンは、写真撮影あるいは直接スキャンして画像データとして記録することができる。
ラテックス産生植物の品種間で得られるDNA断片のサイズが異なる場合は、DNA断片の有無、または得られたDNA断片の大きさやパターン、配列を比較することにより、品種判別をすることが可能である。DNA断片の有無や大きさ、パターンは、上述したゲル電気泳動やバイオアナライザー2100システム等の検出機器で解析することができ、DNA断片の配列は、シークェンシング法により、直接塩基配列を確認することができる。
【0028】
以上のように、PCRで増幅されたDNA断片を検出し、ラテックス産生植物の品種特異的なDNA断片の有無、あるいは品種特異的なDNA断片の大きさパターン、塩基配列を比較することで、ラテックス産生植物の品種を判別することが可能である。または、RFLP法のように、DNA断片を酵素処理して得られるバンドパターンを比較することで、ラテックス産生植物の品種を判別することも可能である。
【0029】
<品種改良、新品種の作製>
また、単離した色素体DNAを改変し、この改変色素体DNAをラテックス産生植物の色素体に導入することで、該改変色素体DNAを有したラテックス産生植物の形質転換体を作製し、品種改良や新品種を得ることができる。
【0030】
改変色素体DNAとしては、従来公知の方法で行うことができ、所定の塩基配列が挿入されたものや欠損されたもの、1塩基以上の塩基配列で置換されたもの等を挙げることができる。ここで、色素体DNAの改変に用いられる塩基配列の種類は特に限定されるものではなく、作製する改変色素体DNAの用途など、その目的に応じて適宜選択することができる。また、改変に用いられる塩基配列は、天然のものであってもよいし人工的に合成されたものであってもよい。
本発明の方法で単離された色素体DNAは、核DNAの混入がほとんどなく精製効率が高いため、効率よく改変色素体DNAを作製することができる。
【0031】
改変色素体DNAのラテックス産生植物への導入方法としては、パーティクルガン法やアグロバクテリウム法がある。
パーティクルガン法は、パーティクルガンを用いて該改変色素体DNAをラテックス産生植物の例えば葉の色素体に導入し、該改変色素体DNAが導入された葉をカルス誘導してカルスを形成させることで、改変色素体DNAを有した形質転換体のラテックス産生植物を得ることができる。パーティクルガンを用いた色素体DNAの導入に関しては、直径1〜2μmの金粒子を改変色素体DNAでコーティングし、マイクロキャリアーに接着させ、例えば葉やカルス等に2回、パーティクルガンで打ち込むことで、改変色素体DNAを導入することができる。また、カルスの形成に関しては特に限定されるものではなく、従来公知の方法で行なうことができる。
【0032】
アグロバクテリウム法は、改変色素体DNAをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に導入して、カルス又は幼植物に該アグロバクテリウム・ツメファシエンスを感染させることで、該改変色素体DNAを有した形質転換体のラテックス産生植物を得ることができる。
【0033】
または、カルスから調製したプロトプラストを用いて、エレクトロポレーション法やリン酸カルシウムトランスフェクション法、DAEA−デキストラン媒介トランスフェクション法等により、該プロトプラストに改変色素体DNAを導入し、形質転換体のラテックス産生植物を得ることができる。
【実施例】
【0034】
<ラテックス産生植物のラテックスから色素体DNAの単離>
ラテックス産生植物である、パラゴムノキからタッピングにより採取したラテックス40gを遠心管に入れ、8000G、0℃にて1時間、超遠心分離を行い、ラテックスをゴム相とセラム相とボトム画分とに分離させた。また、遠心管の底部には、沈殿(ボトム画分)が観察された。その後、ゴム相に含まれる、色の付いた色素体画分を注射器で吸い出して、ゴム相から色素体を抽出した。次いで、抽出した色素体からフェノール法、あるいは市販のキットを用いてDNAの単離を行なった。
【0035】
<PCRによる色素体DNAの確認>
次に、色素体から単離したDNAが色素体由来のDNA(色素体DNA)か確認を行なった。まず、上記で単離した各DNAを鋳型とし、PCRを行なった。プライマーは、図3に示すように、フォワードプライマー、リバースプライマーとして、rbcL遺伝子に対するものを用いた。具体的には、フォワードプライマーとして、rbcL遺伝子の110位〜134位の塩基配列に相同的な塩基配列を有するFd2プライマー(配列番号1)、と、リバースプライマーとして、rbcL遺伝子の1142位〜1166位の塩基配列に相補的な塩基配列を有するFdRプライマー(配列番号2)とを用いた。
PCRの反応溶液は、1×reaction Bufferと、0.2mMのdNTPmixtureと、0.5ユニットのExTaq DNA polymerase(Takara社)と、各1.25μMのプライマー(Fd2及びFdR)と、1〜25ngの鋳型DNAとを含み、反応溶液の合計が20μlとなるように、水で調節した。次に、反応溶液を94℃で4分間反応させた後、94℃を30秒、55℃を30秒、72℃を2分で30サイクル反応させてPCRを行った。このPCRにより、プライマーとしてFd2とFdRを用いた際には、1067塩基対のDNA断片が得られる。その後、反応溶液を72℃で5分間反応させ、Agilent社のバイオアナライザー2100システムを用いた電気泳動によりPCR産物を分離し、DNA断片のバンドパターンを検出した。検出結果を、図4に示す。なお、ポジティブコントロールとして、葉から抽出した全ゲノムを用いた。
【0036】
rbcL遺伝子は核DNAにはなく、色素体DNAにのみ存在するため、図4より、ラテックスの色素体画分から単離されたDNAが色素体DNAであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、ラテックス産生植物の品種判別に適用することができ、ラテックス産生植物から採取したラテックスを用いて、簡便に精度よく、ラテックス産生植物の品種を判別することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 ゴム相、2 セラム層、3 ボトム画分、4 色素体画分。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラテックス産生植物のラテックスからの色素体DNAの単離方法に係り、より詳しくは、遠心分離により得られたラテックスのゴム相から色素体画分を抽出し、該色素体画分から色素体DNAを単離することで、核DNAの混入を抑制し、純度の高い色素体DNAを単離することが可能な色素体DNAの単離方法及び該単離方法で得られた色素体DNAを用いてラテックス産生植物の品種を判別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)は、天然ゴムの原料として栽培される代表的なゴムノキであり、パラゴムノキの分泌するラテックスという乳液から天然ゴムは製造される。このパラゴムノキは、品種によって乳管数、ラテックス放出能、ラテックス再生能等が異なるため、パラゴムノキ1本あたりのラテックス収量が異なってくる。したがって、これらの能力に優れたパラゴムノキの品種を判別し、ラテックスの生成を行なうことが、天然ゴムの生産を安定化させる上で極めて重要である。
【0003】
従来、パラゴムノキの品種は、葉・樹皮・樹形などの形態で判別されていた。しかしながら、形態による品種判別方法においては、パラゴムノキの成長を待つ必要があるため、長期間を要する。その上、このような品種判別方法の習熟・熟練にも時間を要する。また、パラゴムノキの品種によっては外観で判別が困難であり、品種判別において誤判定が生じることがあった。
【0004】
一方で、近年、植物においていくつかの遺伝子工学を応用した品種判別方法が開発されてきた。これらの方法では、品種間の塩基配列の違い、すなわち多型を検出することで品種判別を行なっている。この品種判別方法は、遺伝子上の客観的な特徴を指標とすることから、精確な品種判定が可能となる。既に多くの商業作物において、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)法、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphisms)法、マイクロサテライト法などの遺伝子工学を用いた品種判別法が開発されている。
【0005】
パラゴムノキにおいては、遺伝子の多型を検出可能なDNAマーカーとして、矮性の変異体のクローンを識別可能なRAPDマーカーを用いる方法が非特許文献1に、耐乾燥性の変異体のクローンの開発やスクリーニングに有用なDNAマーカーを用いる方法が非特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Venkatachalam,P. et al. Identification,cloning and sequence analysis of a dwarf genome-specific RAPD marker in rubber tree[Hevea brasiliensis(Muell.)Arg.], Plant Cell Reports 2004;23(5):327-332
【非特許文献2】Venkatachalam,P. et al. Molecular cloning and sequencing of a polymorphic band from rubber tree[Hevea brasiliensis(Muell.)Arg.]:the nucleotide sequence revealed partial homology with proline-specific permease genesequence. Current Science 2006;90(11):1510-1515
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した非特許文献1〜2に記載の方法では、パラゴムノキから直接葉や茎などを採取してDNAを単離するため、操作が煩雑であり、また、パラゴムノキに損傷を与えてしまうという問題がある。また、植物には、核DNAの他に葉緑体等が有する色素体DNAがあり、これを用いて、遺伝的解析を行なうことも可能であるが、葉や茎から色素体DNAを単離すると、核DNAの混入が生じやすい。そのため、色素体DNAを鋳型としてRAPDやPCR等により品種判別を行った際に、核DNAに由来するDNA断片が生じてしまい、品種判別の誤判定や再現性に欠ける等の問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ラテックス産生植物の色素体から簡便に、かつ核DNAの混入を防止しつつ、高純度に色素体DNAを単離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1に記載の色素体DNAの単離方法は、ラテックス産生植物からの色素体DNAの単離方法であって、ラテックス産生植物のラテックスを遠心分離し、ゴム相とセラム相とに分離する工程と、前記ゴム相から色素体画分を抽出する工程と、抽出した前記色素体画分からDNAを単離する工程とを有することを特徴とする。
本発明の請求項2に記載の色素体DNAの単離方法は、請求項1において、前記ラテックス産生植物がパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)であることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載のラテックス産生植物の品種判別方法は、請求項1または2に記載の方法で単離された色素体DNAを用いてラテックス産生植物の品種を判別することを特徴とする。
本発明の請求項4に記載のラテックス産生植物の品種判別方法は、請求項3において、ラテックス産生植物の品種を判別する方法が、前記色素体DNAを鋳型とし、PCRを行なう工程と、前記PCRで増幅されたDNA断片を用いてラテックス産生植物の品種を判別する工程と、を少なくとも有すること特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の色素体DNAの単離方法は、ラテックス産生植物のラテックスを遠心分離して得られた色素体画分から、色素体DNAを単離する方法である。色素体には核DNAが含まれていないため、本発明の方法で単離されたDNAは、その大部分が色素体DNAである。そのため、該色素体DNAを用いて、例えばPCR等を行なった場合には、核DNAの混入による非特異的なバンドの検出を顕著に抑制することができる。ゆえに、本発明の色素体DNAの単離方法により単離された色素体DNAを用いることにより、PCRやRAPD法等の周知の解析方法によって、精度よくラテックス産生植物の品種判別を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のラテックス産生植物のラテックスから色素体DNAを単離する方法を段階的に示したフローチャートである。
【図2】ラテックスを超遠心分離した際の模式図である。
【図3】PCRによる増幅範囲を示した図である。
【図4】実施例における電気泳動の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<色素体DNAの単離方法>
図1は、本発明の色素体DNAの単離方法を段階的に示したフローチャートである。
本発明の色素体DNAの単離方法は、ラテックス産生植物のラテックスを遠心分離し、ゴム相とセラム相とに分離する工程と、前記ゴム相から色素体画分を抽出する工程と、抽出した前記色素体画分からDNAを単離する工程とを有している。以下、本発明の色素体DNAの単離方法を詳細に説明する。
【0013】
まず、ラテックス産生植物のラテックスを用意する。本発明において、ラテックス産生植物とは、乳管を有しており、乳管中にラテックス(主にポリイソプレン)が含まれている植物であれば、特に限定されるものではなく、例えば、トウダイグサ科のパラゴムノキ(Havea brasiliensis)、セアラゴムノキ(Manihot glaziovii)、クワ科のインドゴムノキ(Ficus elastica)、パナゴムノキ(Castilloa elastica)、マメ科のアラビアゴムノキ(Accacia senegal)、トラガントゴムノキ(Astragalus gummifer)、キョウチクトウ科のクワガタノキ(Dyera costulata)、ザンジバルツルゴム(Landolphia kirkii)、フンツミアエラスチカ(Funtumia elastica)、ウルセオラ(Urceola elastica)、キク科のグアユールゴムノキ(Parthenium argentatum)、ゴムタンポポ(Taraxacum kok−saghyz)、アカテツ科のガタパーチャノキ(palaguium gatta)、バラタゴムノキ(Mimusops balata)、サポジラ(Achras zapota)等が挙げられる。中でも、パラゴムノキ、セアラゴムノキ、インドゴムノキ等であることが好ましく、工業用天然ゴム原料として汎用されているパラゴムノキであることがより好ましい。
【0014】
ラテックスとしては、ラテックス産生植物から例えばタッピング等の従来公知の方法で採取したフィールドラテックスを用いてもよいし、このフィールドラテックスに保存や腐敗、凝固を防止するためにアンモニアや他の保存剤が添加されたラテックスや、ゴム成分(ポリイソプレン)が濃縮されたラテックスであってもよい。また、市販のラテックスを用いてもよい。
【0015】
次に、ラテックスを遠心分離し、ゴム相とセラム相とに分離する。
ラテックスは、遠心分離用の遠心管に所定量充填され、遠心分離を行なうことで、図2に示すように、ゴム相1とセラム相2とボトム画分3とに分離することができる。遠心分離に関しては、分離が綺麗で容易に行なえることから、超遠心分離を行なうことが好ましい。この遠心分離に関しては、例えば6000G以上9000G以下、0℃以上4℃以下にて0.5時間以上1時間以下で行なえばよい。
【0016】
本発明において、ゴム相1とは、遠心分離を行った際に、白色の容態を示すコロイド状の相であり、主にラテックス粒子からなる。このゴム相1には、色素体が濃縮された色素体画分が存在する。
またセラム相2とは、遠心分離を行なった際に、半透明の容態を示す水相であり、水溶性のタンパク質や粒径の小さいラテックス粒子が溶解している。
【0017】
次に、ゴム相1から色素体画分4を抽出する。色素体画分4は、主にラテックス粒子からなる画分と構成が異なるため、その色等により目視で簡便に判別することができる。色素体画分4の抽出にあたっては、色素体画分4のみを抽出することができれば特に限定されるものではなく、例えば注射器等を用いて行なえば、簡便に色素体画分4をゴム相1から抽出することができる。
【0018】
次に、抽出した色素体画分4から、色素体DNAを単離する。色素体DNAの単離にあたっては、フェノール法や臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)法、アルカリSDS法、市販のキット等を用いて行なうことができる。色素体画分4を抽出する際にゴム相1が含まれると、市販のキットを用いて色素体DNAの単離を行なった場合、該ゴム相1によってDNAの収量および純度が低減する虞がある。したがって、色素体DNAを単離する際に、フェノール法を用いた場合には、ゴム相1のラテックス粒子等の混入が生じていた場合でも、精度よく簡便に色素体DNAを単離することができる。
【0019】
以上で、ラテックス産生植物のラテックスから、色素体DNAを単離することが可能である。ラテックスの色素体画分4から色素体DNAを単離することにより、核DNAの混入を抑制し、精度よく色素体DNAを得ることができる。したがって、該色素体DNAを用いて、PCRやRAPD法によりラテックス産生植物の品種判別を行った際には、核DNAに由来するDNA断片を顕著に抑制することができるため、該DNA断片による品種判別の誤判定が抑制され、再現性よくラテックス産生植物の品種判別を行なうことが可能となる。
【0020】
また、ラテックス産生植物の葉や茎を採取する必要がないため、ラテックス産生植物への負担が少ない。さらに、ラテックス産生植物からすでに回収されたラテックスを用いて色素体DNAを単離することができるため、流通工程の途中でラテックスが由来する品種を判別することができる。
さらに、本発明で得られた色素体DNAは、例えば上記で述べた品種判別の他にも、生物由来の他のDNAと同様に、種々の核酸解析に供することができる。例えば、ラテックス産生植物の品種改良や遺伝子組み換えによる新品種の作製等が挙げられる。
【0021】
<ラテックス産生植物の品種判別方法>
本発明の色素体DNAの単離方法で得られた色素体DNAを用いて、核DNAと同様に色素体DNAにあっても、品種間で塩基配列が異なる部位を検出することにより、ラテックス産生植物の品種判別ができる。パラゴムノキの品種を判別することが好ましい。品種判別可能なパラゴムノキとしては、例えば、PB260、PB340、RRIM600等が挙げられる。
【0022】
ラテックス産生植物の品種判別に関しては、核DNAを用いた品種判別方法と同様な方法で行なうことができ、例えば、単離した色素体DNAを鋳型とした核酸増幅法やサザンブロッティング等のハイブリダイゼーション法、または単離したDNAを用いた変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis:DGGE)、RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism)法等により行なうことができる。
【0023】
核酸増幅法に関しては、ポリメラーゼを用いた塩基の伸長反応を行うものであれば特に限定されるものではなく、通常のPCRに加えて、リアルタイムPCR、マルチプレックスPCR、RAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphism)、PCR−RFLP、PCR−SSCP(Single Strand Conformation Polymorphism)等が挙げられる。
【0024】
これら核酸増幅法の中でも、簡便に短時間で精度よく判別できることから、通常のPCRにより行なうことが好ましい。
PCRに用いるプライマーは、色素体DNAにおいて、ラテックス産生植物の品種間で塩基配列の異なる領域が、PCRにより増幅されたDNA断片中に含まれるように設計される。プライマーの設計としては、色素体DNAにおいて、ラテックス産生植物の品種間で塩基配列の異なる領域が、プライマーの塩基配列に含まれる、あるいはPCRにより増幅される塩基対数が、ラテックス産生植物の品種間で異なるように設計することが好ましい。なお、各プライマーのTm値を、ほぼ一致させておくことにより、同一のPCR条件で核酸増幅を行うことができる。このようなプライマーの合成は、当該技術分野で公知の手法を用いて行うことができる。
この品種間で塩基配列が異なる領域としては、一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)、単純反復配列(simple sequence repeat:SSR)、挿入/欠失多型(insertion/deletion polymorphism:In/Del)等が挙げられ、得られたPCR産物を解析することにより、ラテックス産生植物の品種判別を行なうことができる。
【0025】
PCRに用いるポリメラーゼとしては、増幅塩基数や増幅塩基配列、反応温度等を考慮して公知のものを適宜選択可能であり、例えば耐熱性ポリメラーゼや校正活性を有したポリメラーゼ等が挙げられる。
PCRに用いるバッファーとしては、用いるポリメラーゼを考慮して、公知のものを適宜調整して用いることができる。
PCRに用いるヌクレオチドに関しては、標識試薬等で標識されたものを用いることもできる。
【0026】
本発明のラテックス産生植物の品種判別方法における通常のPCRは、目的のDNA断片が増幅できれば特に限定されるものではないが、例えば以下に示す条件で行なうことができる。反応溶液の組成としては、例えば、反応溶液中の濃度が0.1〜2μMのフォワードプライマーとリバースプライマー、100mMのTris−HCl(pH 8.0)、580mMのKCl、0.1%のTriton X−100、1.5〜2.25mMのMgCl2、0.2〜0.4mMの各dNTPs、0.5〜2ユニットのDNAポリメラーゼ(例えばTaqポリメラーゼ)、及び1〜100ngの色素体DNAである。PCRの温度サイクルは、例えば約94℃を約2分の後、約94℃を約30秒、約55℃を約30秒、約72℃を約2分の工程を25〜45回繰り返す。その後、反応溶液を、約72℃で約5分間反応させてもよい。
【0027】
上述したPCRで増幅されたDNA断片は、例えばゲル電気泳動やバイオアナライザー2100システム(Agilent社製)等の検出機器により検出することができる。ゲル電気泳動は、アガロースゲルまたはポリアクリルアミドゲル等を用いて行なうことができる。電気泳動後は、エチジウムブロマイド、SYBER(登録商標) Green等でDNA断片を染色し、UV照射下でDNA断片の有無、大きさ、パターンを検出する。
得られたDNA断片のパターンは、写真撮影あるいは直接スキャンして画像データとして記録することができる。
ラテックス産生植物の品種間で得られるDNA断片のサイズが異なる場合は、DNA断片の有無、または得られたDNA断片の大きさやパターン、配列を比較することにより、品種判別をすることが可能である。DNA断片の有無や大きさ、パターンは、上述したゲル電気泳動やバイオアナライザー2100システム等の検出機器で解析することができ、DNA断片の配列は、シークェンシング法により、直接塩基配列を確認することができる。
【0028】
以上のように、PCRで増幅されたDNA断片を検出し、ラテックス産生植物の品種特異的なDNA断片の有無、あるいは品種特異的なDNA断片の大きさパターン、塩基配列を比較することで、ラテックス産生植物の品種を判別することが可能である。または、RFLP法のように、DNA断片を酵素処理して得られるバンドパターンを比較することで、ラテックス産生植物の品種を判別することも可能である。
【0029】
<品種改良、新品種の作製>
また、単離した色素体DNAを改変し、この改変色素体DNAをラテックス産生植物の色素体に導入することで、該改変色素体DNAを有したラテックス産生植物の形質転換体を作製し、品種改良や新品種を得ることができる。
【0030】
改変色素体DNAとしては、従来公知の方法で行うことができ、所定の塩基配列が挿入されたものや欠損されたもの、1塩基以上の塩基配列で置換されたもの等を挙げることができる。ここで、色素体DNAの改変に用いられる塩基配列の種類は特に限定されるものではなく、作製する改変色素体DNAの用途など、その目的に応じて適宜選択することができる。また、改変に用いられる塩基配列は、天然のものであってもよいし人工的に合成されたものであってもよい。
本発明の方法で単離された色素体DNAは、核DNAの混入がほとんどなく精製効率が高いため、効率よく改変色素体DNAを作製することができる。
【0031】
改変色素体DNAのラテックス産生植物への導入方法としては、パーティクルガン法やアグロバクテリウム法がある。
パーティクルガン法は、パーティクルガンを用いて該改変色素体DNAをラテックス産生植物の例えば葉の色素体に導入し、該改変色素体DNAが導入された葉をカルス誘導してカルスを形成させることで、改変色素体DNAを有した形質転換体のラテックス産生植物を得ることができる。パーティクルガンを用いた色素体DNAの導入に関しては、直径1〜2μmの金粒子を改変色素体DNAでコーティングし、マイクロキャリアーに接着させ、例えば葉やカルス等に2回、パーティクルガンで打ち込むことで、改変色素体DNAを導入することができる。また、カルスの形成に関しては特に限定されるものではなく、従来公知の方法で行なうことができる。
【0032】
アグロバクテリウム法は、改変色素体DNAをアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に導入して、カルス又は幼植物に該アグロバクテリウム・ツメファシエンスを感染させることで、該改変色素体DNAを有した形質転換体のラテックス産生植物を得ることができる。
【0033】
または、カルスから調製したプロトプラストを用いて、エレクトロポレーション法やリン酸カルシウムトランスフェクション法、DAEA−デキストラン媒介トランスフェクション法等により、該プロトプラストに改変色素体DNAを導入し、形質転換体のラテックス産生植物を得ることができる。
【実施例】
【0034】
<ラテックス産生植物のラテックスから色素体DNAの単離>
ラテックス産生植物である、パラゴムノキからタッピングにより採取したラテックス40gを遠心管に入れ、8000G、0℃にて1時間、超遠心分離を行い、ラテックスをゴム相とセラム相とボトム画分とに分離させた。また、遠心管の底部には、沈殿(ボトム画分)が観察された。その後、ゴム相に含まれる、色の付いた色素体画分を注射器で吸い出して、ゴム相から色素体を抽出した。次いで、抽出した色素体からフェノール法、あるいは市販のキットを用いてDNAの単離を行なった。
【0035】
<PCRによる色素体DNAの確認>
次に、色素体から単離したDNAが色素体由来のDNA(色素体DNA)か確認を行なった。まず、上記で単離した各DNAを鋳型とし、PCRを行なった。プライマーは、図3に示すように、フォワードプライマー、リバースプライマーとして、rbcL遺伝子に対するものを用いた。具体的には、フォワードプライマーとして、rbcL遺伝子の110位〜134位の塩基配列に相同的な塩基配列を有するFd2プライマー(配列番号1)、と、リバースプライマーとして、rbcL遺伝子の1142位〜1166位の塩基配列に相補的な塩基配列を有するFdRプライマー(配列番号2)とを用いた。
PCRの反応溶液は、1×reaction Bufferと、0.2mMのdNTPmixtureと、0.5ユニットのExTaq DNA polymerase(Takara社)と、各1.25μMのプライマー(Fd2及びFdR)と、1〜25ngの鋳型DNAとを含み、反応溶液の合計が20μlとなるように、水で調節した。次に、反応溶液を94℃で4分間反応させた後、94℃を30秒、55℃を30秒、72℃を2分で30サイクル反応させてPCRを行った。このPCRにより、プライマーとしてFd2とFdRを用いた際には、1067塩基対のDNA断片が得られる。その後、反応溶液を72℃で5分間反応させ、Agilent社のバイオアナライザー2100システムを用いた電気泳動によりPCR産物を分離し、DNA断片のバンドパターンを検出した。検出結果を、図4に示す。なお、ポジティブコントロールとして、葉から抽出した全ゲノムを用いた。
【0036】
rbcL遺伝子は核DNAにはなく、色素体DNAにのみ存在するため、図4より、ラテックスの色素体画分から単離されたDNAが色素体DNAであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、ラテックス産生植物の品種判別に適用することができ、ラテックス産生植物から採取したラテックスを用いて、簡便に精度よく、ラテックス産生植物の品種を判別することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 ゴム相、2 セラム層、3 ボトム画分、4 色素体画分。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラテックス産生植物からの色素体DNAの単離方法であって、
ラテックス産生植物のラテックスを遠心分離し、ゴム相とセラム相とに分離する工程と、
前記ゴム相から色素体画分を抽出する工程と、
抽出した前記色素体画分からDNAを単離する工程とを有することを特徴とする色素体DNAの単離方法。
【請求項2】
前記ラテックス産生植物がパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)であることを特徴とする請求項1に記載の色素体DNAの単離方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で単離された色素体DNAを用いてラテックス産生植物の品種を判別することを特徴とするラテックス産生植物の品種判別方法。
【請求項4】
ラテックス産生植物の品種を判別する方法が、
前記色素体DNAを鋳型とし、PCRを行なう工程と、
前記PCRで増幅されたDNA断片を用いてラテックス産生植物の品種を判別する工程と、
を少なくとも有すること特徴とする請求項3に記載のラテックス産生植物の品種判別方法。
【請求項1】
ラテックス産生植物からの色素体DNAの単離方法であって、
ラテックス産生植物のラテックスを遠心分離し、ゴム相とセラム相とに分離する工程と、
前記ゴム相から色素体画分を抽出する工程と、
抽出した前記色素体画分からDNAを単離する工程とを有することを特徴とする色素体DNAの単離方法。
【請求項2】
前記ラテックス産生植物がパラゴムノキ(Hevea brasiliensis)であることを特徴とする請求項1に記載の色素体DNAの単離方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法で単離された色素体DNAを用いてラテックス産生植物の品種を判別することを特徴とするラテックス産生植物の品種判別方法。
【請求項4】
ラテックス産生植物の品種を判別する方法が、
前記色素体DNAを鋳型とし、PCRを行なう工程と、
前記PCRで増幅されたDNA断片を用いてラテックス産生植物の品種を判別する工程と、
を少なくとも有すること特徴とする請求項3に記載のラテックス産生植物の品種判別方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2010−158204(P2010−158204A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2755(P2009−2755)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(594201744)バダン ペングカジアン ダン ペネラパン テクノロジ (13)
【氏名又は名称原語表記】Badan Pengkajian Dan Penerapan Teknologi
【住所又は居所原語表記】Jl. M. H. Thamrin No.8, Jakarta 10340, Indonesia
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(594201744)バダン ペングカジアン ダン ペネラパン テクノロジ (13)
【氏名又は名称原語表記】Badan Pengkajian Dan Penerapan Teknologi
【住所又は居所原語表記】Jl. M. H. Thamrin No.8, Jakarta 10340, Indonesia
【Fターム(参考)】
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