説明

色素増感型太陽電池の製造装置及び色素増感型太陽電池の製造方法

【課題】色素吸着工程にかかる時間を短縮するとともに、バリア性の高い色素増感型太陽電池を製造することができる色素増感型太陽電池の製造装置及び製造方法を提供する。
【解決手段】導電性基板上に設けられた酸化物半導体層16に色素を吸着させた光電極と、対向電極12と、光電極及び対向電極12との間に介在する電解液とを備えた色素増感型太陽電池の製造装置において、導電性基板上に酸化物半導体層16が設けられた光電極の前駆体と対向電極12とがシール材13を介して固定されるとともに連通孔H1,H2を介してその内部空間が外部に連通されたセルCに接続され、セルCの内部空間を減圧する排気系25と、光電極の前駆体の水分吸着量を減少させるヒーター21と、色素が溶解又は分散された色素液DSを貯留する色素液貯留部28と、色素液貯留部28とセルCの供給側連通孔H2とを連通する流路を開閉する色素液制御弁V1とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池の製造装置及び色素増感型太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池としては、結晶系シリコンやアモルファスシリコンを用いたシリコン系の太陽電池や、GaAs系、CuInGaSe系やCdTe系等の化合物を用いた化合物系太陽電池が既に知られている。最近では、色素を増感剤として用いた色素増感型太陽電池が次世代の太陽電池として有望視されている。
【0003】
代表的な色素増感型太陽電池は、色素を吸着させた光電極と、対向電極とを電解液を介して対向させた構造を有する(例えば、非特許文献1参照)。一般的に光電極は、導電膜を有する導電性基板と、酸化チタン等からなる酸化物半導体層と、酸化物半導体粒子に吸着した色素とを有する。該電池は、光を吸収した色素の電子励起と、電解液の酸化還元反応とを用いて光電変換を行う。
【0004】
色素増感型太陽電池を実用化するためには、製造工程における生産性の向上が不可欠である。一般的な色素増感型太陽電池の製造方法では、色素が溶解した色素溶液が充填された容器に、酸化物半導体層が形成された導電性基板を入れ、酸化物半導体層に色素を吸着させる。このとき色素が吸着するまでにかかる浸漬時間は、数時間から数日等、長時間にわたる。酸化物半導体層に色素が吸着して光電極が形成されると、光電極に付着した色素溶液を洗い流す洗浄工程を行い、その洗浄した基板と対向電極とを、光電極側を対向電極に向い合せた状態でシール材を介して貼り合わせる。このとき、光電極には、熱や光に対して耐久性が低い色素が既に吸着していることから、シール材として比較的低温で硬化する熱硬化性樹脂等を用いる。熱硬化性樹脂を用いる場合には、色素が分解されない温度で貼り合わせた基板を加熱して、樹脂を硬化させる。また、紫外線硬化性樹脂を用いる場合には、光電極をフィルム等で覆い、紫外線硬化性樹脂に紫外線を照射する。そして、シール材を硬化させると、基板と対向電極との間に電解液を注入する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】B.O ’Regan and M.Gratzel,Nature,353,737-740(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した製造方法では、色素吸着工程にて長時間要することは生産性が低下してしまうために現実的ではない。また、熱硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂からなるシール材は、材料の特性上、発電特性を低下させる水や空気等の透過性が高いといった欠点がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、色素吸着工程にかかる時間を短縮するとともに、バリア性の高い色素増感型太陽電池を製造することができる色素増感型太陽電池の製造装置及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、導電性基板上に設けられた酸化物半導体層に色素を吸着させた光電極と、前記光電極と対向する対向電極と、前記光電極及び前記対向電極との間に介在する電解液とを備えた色素増感型太陽電池の製造装置において、前記導電性基板上に酸化物半導体層が設けられた光電極の前駆体と前記対向電極とがシール材を介して固定されるとともに連通孔を介してその内部空間が外部に連通されたセルに接続され、該セルの内部空間を減圧する排気系と、前記セル内の前記光電極の前駆体の水分吸着量を減少させる水分除去機構と、色素が溶解又は分散された色素液を貯留する色素液貯留部と、前記色素液貯留部と前記セルの連通孔とを連通する流路に設けられ、前記流路を開閉する色素液制御弁とを備えたことを要旨とする。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、上記セルが予め形成されるため、光電極の前駆体の水分吸着量を減少させつつ内部空間を減圧した後、該セル内に色素液を注入することで、酸化物半導体と色素との吸着反応の速度を大きくすることができる。また、色素は熱や光に対する耐久性が低いが、セルが形成された後に色素吸着工程が行われるため、セルを形成する工程において色素の耐久性を考慮しなくてもよい。このため、シール材の材料として、高温加熱により硬化するガラスフリット等、水分や空気の透過性が低い無機物を用いることができる。従って、封止性が高い色素増感型太陽電池を得ることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の色素増感型太陽電池の製造装置において、洗浄液を貯留する洗浄液貯留部と、前記洗浄液貯留部と前記セルの連通孔とを連通する流路に設けられ、前記流路を開閉する洗浄液制御弁と、前記電解液を貯留する電解液貯留部と、前記電解液貯留部と前記セルの連通孔とを連通する流路に設けられ、該流路を開閉する電解液制御弁とを備えたことを要旨とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、製造装置には、洗浄液貯留部と電解液貯留部とが備えられているため、色素吸着工程と、洗浄工程と、電解液を注入する工程とを、同じ装置内で行うことができる。このため、色素を吸着させた光電極を容器内で形成した後、光電極をその容器から取出し、その光電極を用いてセルを形成し、電解液を注入するよりも、電池の製造時間を短縮化することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の色素増感型太陽電池の製造装置において、一端が前記色素液貯留部、前記洗浄液貯留部及び前記電解液貯留部に連通し、他端が前記セルの連通孔に連通するとともに、前記色素液制御弁、前記洗浄液制御弁及び前記電解液制御弁の下流に配置された供給路をさらに備えたことを要旨とする。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、装置に、一端が色素液貯留部、洗浄液貯留部及び電解液貯留部に連通し、他端が前記セルの連通孔に連通する供給路を備えたので、セルに供給する液体を変更する度に、接続する流路を変更することなく、供給路がセルの連通孔に装着された状態を維持することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池の製造装置において、前記セルには、液体を供給する供給側連通孔と、液体及び気体を排出する排出側連通孔とが設けられ、前記排出側連通孔と前記排気系とを連通する流路に設けられ、該流路を開閉する排出側制御弁をさらに備えたことを要旨とする。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、セルには供給側連通孔及び排出側連通孔が設けられ、排出側連通孔及び排気系を連通する流路には、排出側制御弁が設けられているため、排出側制御弁を閉状態とし、酸化物半導体層に色素を吸着させる間、その制御弁を閉状態として色素液を保持することができる。また、各種液体を排出する際には、排出側制御弁を開状態とし、排気系を駆動しつつ排出するので、排出時間を短くすることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、導電性基板上に設けられた酸化物半導体層に色素を吸着させた光電極と、前記光電極と対向する対向電極と、前記光電極及び前記対向電極との間に介在する電解液とを備えた色素増感型太陽電池の製造方法において、色素吸着前の光電極と前記対向電極とがシール材を介して固定され、その内部空間が外部に連通された連通孔を備えたセルを形成し、前記酸化物半導体層の水分吸着量を減少させつつ、前記連通孔を介して前記セルの内部空間を減圧するとともに、前記減圧された前記内部空間に、前記連通孔を介して色素液を注入し前記酸化物半導体層に前記色素液中の色素を吸着させることを要旨とする。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、色素吸着前に上記セルの内部空間が減圧されるので、酸化物半導体層の粒子間に速やかに色素液が浸透する。また、酸化物半導体層と色素との吸着反応を阻害する要因となる水分吸着量を予め減少させるため、酸化物半導体と色素との吸着反応の速度を大きくすることができる。従って、色素吸着工程に掛かる時間を短縮化することができる。また、セルが形成された後に色素吸着工程が行われるため、色素が分解されない条件下でセルを組み立てる必要が無い。即ちセルを形成する際に、色素の耐久性を考慮しなくてもよいため、例えば高温加熱により硬化するガラスフリットや金属ペースト等、水分や空気の透過性が低い材料を用いることができる。従って、水分や空気に対するバリア性が高い色素増感型太陽電池を得ることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の色素増感型太陽電池の製造方法において、前記色素液を排出した後に、前記セル内を洗浄液で洗浄し、洗浄したセル内に、電解液を注入することを要旨とする。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、セルが予め形成されているため、色素吸着工程と、洗浄工程と、電解液を注入する工程とを連続して行うことができる。このため、一連の工程にかかる時間を短縮化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の製造装置及び製造方法の一実施形態を用いて製造された色素増感型太陽電池の断面図。
【図2】同製造装置の模式図。
【図3】同電池の製造工程のフローチャート。
【図4】同電池の酸化物半導体粒子膜の表面を示す模式図であって、(a)は水分吸着量を減少させる前、(b)は水分吸着量を減少させた後の状態を示す。
【図5】本発明の製造装置及び製造方法にかかる別例の色素増感型太陽電池の断面図であって、(a)は排出側連通孔が対向電極に形成された状態、(b)は排出側連通孔がシール材に形成された状態を示す。
【図6】本発明にかかる別例の製造装置の要部を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の色素増感型電池の製造装置及び色素増感型太陽電池の製造方法を具体化した一実施形態について、図1〜図4に従って説明する。
図1に示すように、色素増感型電池は、光電極11と、光電極11に対向した対向電極12と、光電極11及び対向電極12の間に介在するシール材13と、光電極11及び対向電極12の間の空間に充填された電解液ESとを備えている。
【0022】
光電極11は、ガラス等の透光性を有する基材に、透光性及び導電性を有する透明電極層が形成された導電性基板15を備えている。透明電極層は、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)、錫添加酸化インジウム(ITO)、亜鉛添加酸化インジウム(IZO)、ガリウム添加酸化インジウム(GZO)、アルミニウム添加酸化インジウム(ATO)、ニオブ添加酸化インジウム(NTO)、及びフッ素添加酸化錫(FTO)等が挙げられる。
【0023】
また、導電性基板15の隅部には、排出側連通孔H1が貫通形成されている。この排出側連通孔H1は、紫外線硬化性樹脂等からなる封止材18によって閉塞されている。
また、光電極11は、導電性基板15に積層された酸化物半導体層16を備えている。酸化物半導体層16の材料としては、酸化チタンの他、酸化亜鉛、酸化錫、酸化イットリウム、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム及びチタン酸ストロンチウム等が上げられる。特に多孔質材が好ましく、酸化チタンが色素が吸着する表面積が大きいために好ましい。
【0024】
この酸化物半導体層16には色素17が吸着している。色素17は、金属錯体色素、メチン色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、マーキュロクロム系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、アゾ系色素、クマリン系色素、スチリル系色素、ポリエン系色素、スチリル系色素、ジケトピロロピロール系色素、ペリレン系色素、インドリン系色素、スクアリウム系色素、及びキナクドリン系色素等が挙げられる。
【0025】
また、対向電極12のうち、光電極側の面には白金等からなる薄膜が形成され、その隅部には、供給側連通孔H2が貫通形成されている。供給側連通孔H2は、紫外線硬化性樹脂等からなる封止材19によって閉塞されている。
【0026】
この色素増感型電池には、導電性基板15側から太陽光が入射する。そして色素内で励起された電子が、酸化物半導体層16を介して透明電極層に注入される。また、還元された色素17は、電解液中の電子と酸化還元反応することにより再生される。
【0027】
次に、色素増感型太陽電池の製造装置について説明する。図2に示すように、製造装置は、色素増感型太陽電池の前駆体であるセルCを載置するためのステージ20を備える。セルCは、導電性基板15上に、色素が吸着されていない酸化物半導体層16を備え、電解液ESは充填されていない状態である。また、排出側連通孔H1及び供給側連通孔H2は、封止材18,19によって閉塞されずに開放された状態になっている。
【0028】
ステージ20は、ヒーター21を備え、該ステージ20に載置されたセルCを導電性基板側から加熱する。また、ステージ20は、該ステージ20に載置されたセルCの排出側連通孔H1に、排出管22を接続可能な構成を有している。排出管22は、排出側連通孔H1をシールするためのOリング等のシールリング23を備え、セルCの内部空間を減圧可能な排気系25に接続されている。排出管22と排気系25との間には、排出管22を開閉する排出側制御弁V5が設けられている。
【0029】
排気系25は、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプ、拡散ポンプ等の真空ポンプ26と、真空ポンプ26及び排出側制御弁V5との間に配置された廃液トラップ27とを備えている。廃液トラップ27は、セルCから排出された液体を、真空ポンプ側に送り出さずに貯留する。
【0030】
また、製造装置には、色素を溶解又は分散させた色素液DSを貯留した色素液貯留部28と、洗浄液CSを貯留した洗浄液貯留部29と、電解液ESを貯留した電解液貯留部30とが備えられている。各貯留部28〜30は、昇降機構が備えられた筐体31内に配設されている。
【0031】
各貯留部28〜30は、供給路32を介して、セルCの供給側連通孔H2に連通可能となっている。供給路32には、供給側連通孔H2の開口部をシール可能なOリング等のシールリング33が設けられている。
【0032】
供給路32及び色素液貯留部28の間には、色素液制御弁V1が備えられている。色素液制御弁V1は、供給路32及び色素液貯留部28の間の流路を開閉するとともに、色素液DSの流量を計測する流量計を備え、セルCへの色素液供給量が所定量に達したところで該流路を閉状態とする。
【0033】
供給路32及び洗浄液貯留部29の間には、洗浄液制御弁V2が備えられている。洗浄液制御弁V2は、供給路32及び洗浄液貯留部29の間の流路を開閉するとともに、洗浄液の流量を計測する流量計を備え、セルCへの洗浄液供給量が所定量に達したところで該流路を閉状態とする。
【0034】
供給路32及び電解液貯留部30の間には、電解液制御弁V3が備えられている。電解液制御弁V3は、供給路32及び電解液貯留部30の間の流路を開閉するとともに、電解液ESの流量を計測する流量計を備え、セルCへの電解液供給量が所定量に到達したところで該流路を閉状態とする。
【0035】
次に、この製造装置の動作及び色素増感型太陽電池の製造方法について説明する。まず色素増感型太陽電池の前駆体であるセルCを形成する。具体的には、透明電極層が形成された導電性基板15の隅部に、排出側連通孔H1を貫通形成する。そして、その導電性基板15のうち、排出側連通孔H1が形成されていない中央部に、酸化物半導体層16を形成する。酸化物半導体層16を形成する方法は特に限定されないが、例えば酸化チタンペーストを、スキージ法等によって塗布し、焼成する方法を用いることができる。
【0036】
一方、対向電極12の隅部に、供給側連通孔H2を形成する。供給側連通孔H2は、白金等の薄膜が形成される前に形成してもよいし、該薄膜を形成した後に形成してもよい。
そして、排出側連通孔H1が形成された導電性基板15のうち、酸化物半導体層16が形成された面の周縁にシール材13を塗布し、供給側連通孔H2が形成された対向電極12を貼り合わせる。この際、酸化物半導体層16には、熱に対して耐久性が低い色素が吸着されていないため、高温加熱により固着されるシール材13を用いることができる。例えば、水分や空気に対する透過性が小さいガラスフリット等の無機材料や金属を含有する材料を用い、400℃〜900℃といった高温でシール材13を焼成することができる。
【0037】
このようにセルCが作製されると、図3に示すように、製造装置のステージ20のうち所定の位置にセルCが載置される(ステップS1)。この際、セルCの排出側連通孔H1には、排出管22がシールリング23を介して圧接される。また、上記昇降機構が駆動されて筐体31が下降され、供給路32がシールリング33を介してセルCの供給側連通孔H2の開口に圧接される。このとき、筐体内のバルブV1〜V3は閉状態となっている。
【0038】
このようにセルCに排出管22及び供給路32が接続されると、セルC内が減圧されると同時に加熱される(ステップS2)。具体的には、排出側制御弁V5が開状態とされるとともに排気系25が駆動されてセル内の気体が排出され、セル内が0.1Pa〜10Pa程度の圧力に到達するように減圧される。また減圧と同時に、ヒーター21が駆動されて、セルCが50℃〜300℃の温度範囲で30分〜90分間程度加熱される。この温度範囲で加熱されることにより、酸化物半導体層16に吸着した水分子を脱離させ、水分吸着量(水分子の吸着量)を減少させることができる。
【0039】
即ち、酸化物半導体層16が酸化チタンからなる場合を例にして説明すると、図4(a)に示すように、加熱や真空処理を施していない酸化チタンの表面には、チタン原子50に化学吸着した水酸基51と、水酸基51等に物理吸着した水分子52が存在する。色素は、この水酸基51と脱水反応を行うことで酸化チタン表面に吸着するため、水酸基51に水分子52が多量に吸着していると、色素の吸着反応が遅くなる。
【0040】
このため、酸化チタンを50℃〜300℃の温度範囲で加熱するとともに、セル内の減圧を行うと、結合エネルギーの弱い水分子52から順に脱離していく。このとき温度が50℃未満である場合には、水分子52の脱離効果が弱く、300℃以上である場合には、水酸基51が脱離する。また、加熱温度は、100℃〜250℃にすると、水分子52を殆ど脱離させ、酸化チタン上の水酸基量を適量にすることができる。
【0041】
このように酸化物半導体層16を減圧及び加熱すると、図4(b)に示すように、酸化チタン表面の水分子52を減少させ、水酸基51を露出した状態にすることができる。また、セル内は排気されて真空圧に保持されているため、気相内の水分子が酸化チタンに再吸着することなく、図4(b)に示す状態を保持することができる。
【0042】
セルCを減圧及び加熱する工程が終了すると、図3に示すように、排出側制御弁V5を閉状態とするとともに、色素液制御弁V1を開状態とし、色素液貯留部28からセルCに色素液DSを所定量注入する(ステップS3)。色素液DSがセル内に所定量注入されると、色素液制御弁V1が閉状態とされる。そして、セル内に色素液DSを充填した状態を、1〜10分程度保持する。この際、セル内を減圧することにより、酸化物半導体層16を構成する微粒子間の空気が排出されているので、色素液DSが酸化物半導体層内の各細孔に速やかに浸透する。また、酸化物半導体粒子の表面から水分子が脱離しているので、水酸基と色素17との脱水反応が進行しやすく、色素の吸着速度が大きくなる。このため、酸化物半導体層全体に色素17が数分で高速吸着する。
【0043】
色素液DSを充填した状態が数分間保持されると、排出側制御弁V5が開状態とされるとともに排気系25が駆動されて、セル内の色素液DSが排出される(ステップS4)。セルCから排出された色素液DSは、真空ポンプ26に到達せずに、廃液トラップ27に一時貯留される。また、色素液DSが排出される際に排気系25が駆動されることにより、色素液DSの排出が完了したセル内は大気圧よりも低い圧力とされる。
【0044】
セルCから色素液DSを排出すると、排出側制御弁V5を閉状態とするとともに洗浄液制御弁V2を開状態とし、洗浄液CSをセル内に所定量注入する(ステップS5)。この際、セル内が大気圧よりも低い圧力であることから、洗浄液CSが速やかにセル内に注入される。そして洗浄液CSを所定量注入すると、洗浄液制御弁V2が閉状態とされる。そして、この洗浄液制御弁V2を閉状態としたとき、又はその状態が数分間保持された後、排出側制御弁V5を開状態とし、排気系25を駆動して洗浄液CSを排出する(ステップS6)。また、洗浄液CSが排出される際に排気系25が駆動されることにより、洗浄液CSの排出が完了したセル内は大気圧よりも低い圧力とされる。
【0045】
洗浄液CSが排出されると、排出側制御弁V5を閉状態とするとともに、電解液制御弁V3を開状態とし、電解液ESをセル内に所定量注入する(ステップS7)。この際、セル内が減圧されていることから、電解液ESが速やかにセル内に注入される。そして、電解液ESを所定量供給すると、電解液制御弁V3が閉状態とされる。
【0046】
このように、導電性基板15と対向電極12とを貼り合わせたセルCを予め作製することにより、製造装置内で、色素吸着工程、洗浄工程、電解液ESの注入工程を連続して行うことができる。このため、従来のように、色素液DSを充填した容器に導電性基板15を入れて浸漬させた後、導電性基板15を容器から取り出して洗浄し、対向電極12と貼り合わせて、電解液ESを注入するといった工程に比べ、容器に導電性基板15を入れたり出したりする手間が不要となる。また、色素が吸着した酸化物半導体層16を、紫外線遮断フィルム等で覆って、導電性基板15及び対向電極12とを紫外線硬化性樹脂で貼り合わせる等、色素を劣化させない条件の下でセルCを形成する手間が不要となる。
【0047】
電解液ESをセル内に充填すると、排出側連通孔H1及び供給側連通孔H2を、封止材18,19によって閉塞して、セル内を密封する(ステップS8)。具体的には、排出管22をセルCから外して、排出側連通孔H1に紫外線硬化性樹脂を塗布し、紫外線を局所的に照射して、排出側連通孔H1を閉塞する。また、供給路32をセルCから取り外し、供給側連通孔H2に紫外線硬化性樹脂を塗布し、紫外線を局所的に照射して供給側連通孔H2を閉塞する。これにより、内部空間が密封された色素増感型太陽電池セルが完成する。
(実施例1)
ガラス基板にフッ素ドープ酸化スズ(SnO:F)膜が形成された導電性基板(AGCファブリテック社製)の隅部に対し、貫通孔を形成した。そして、その導電性基板に、スキージ法によって酸化チタンペースト(商品名:Ti−Nanoxide D20、Solaronix社製)を塗布した。その後、電気炉にて、450℃で30分間し、酸化チタン微粒子からなる酸化物半導体層を形成した。形成された微粒子層の厚さは、12μmであった。
【0048】
また、Pt薄膜が形成された対向電極の隅部に、貫通孔を形成した。
そして、上記導電性基板の周縁に、熱可塑性樹脂(商品名:ハイミラン、三井デュポンポリケミカル社製)を塗布して対向電極を貼り合わせ、100℃で加熱することにより、シール材を介して互いに固定された導電性基板及び対向電極とからなるセルを得た。
【0049】
一方、製造装置の色素液貯留部、洗浄液貯留部、電解液貯留部に、色素液、洗浄液、電解液をそれぞれ充填した。色素液は、Ru錯体色素(商品名:Ruthenium 535−bisTBA、Solaronix社製)の粉末を、アセトニトリル及びtert‐ブタノールを1:1で混合した溶媒に対し、濃度が5×10−4mol/Lとなるように添加し、1時間超音波撹拌を行って作製した。さらに、電解液には、ヨウ素酸化還元液(商品名:Iodolyte AN−50,Solaronix社製)を用いた。
【0050】
このセルを、製造装置のステージに載置し、昇降機構を駆動させて第2の連通孔を供給路に接続した。また、第1の連通孔を、排出管に接続した。そして、各液体を供給するバルブをそれぞれ閉状態とするとともに排出側制御バルブを閉状態とし、排気系を駆動して、セル内の圧力が10Pa以下に到達するまで排気した。同時に、ヒーターを駆動して、セルを150℃に加熱した状態を30分保持し、酸化物半導体層に吸着した水分子を脱離させた。
【0051】
そして、電解液制御弁を開状態とし、セル内に、色素液を注入して2分間保持した。その後、電解液制御弁を閉状態とするとともに排出側制御弁を閉状態とし、排気系を駆動して、セル内の色素液を排出した。その後、洗浄液をセル内に注入し、排出した。そのセルに、電解液を所定量注入した。
【0052】
電解液を注入したセルを取り出し、各連通孔に紫外線硬化性樹脂を塗布した。そして、プレパラートを載せて蓋をし、紫外線照射ランプにより紫外線を局所的に照射して、樹脂を硬化させることにより色素増感型太陽電池セルを作製した。
【0053】
そして、その色素増感型太陽電池セルに、ソーラーシミュレーター(商品名:WXS−50S−1、5、ワコム社製)により100mW/cmの強度で模擬太陽光を照射し、光電変換効率を測定したところ、6.3%の変換効率を得た。
【0054】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、酸化物半導体層16に色素を吸着させる前にセルCの内部空間が減圧されるので、酸化物半導体層16の粒子間に速やかに色素液DSが浸透する。また、セルCをヒーター21で加熱することで、酸化物半導体層16と色素との吸着反応を阻害する要因となる水分吸着量を予め減少させるため、酸化物半導体と色素との吸着反応の速度を大きくすることができる。従って、色素吸着工程を短縮化することができる。また、セルCが形成された後に色素吸着工程が行われるため、色素が分解されない条件下でセルを組み立てる必要が無い。即ちセルを形成する際に、色素の耐久性を考慮しなくてもよいため、例えば高温加熱により硬化するガラスフリットや金属ペースト等、水分や空気の透過性が低い材料を用いることができる。従って、水分や空気に対するバリア性が高い色素増感型太陽電池を得ることができる。
【0055】
(2)上記実施形態では、製造装置には、色素液貯留部28の他に、洗浄液貯留部29と電解液貯留部30とが備えられているため、色素吸着工程と、洗浄工程と、電解液を注入する工程とを、同じ装置内で行うことができる。このため、色素吸着工程、洗浄工程及び電解液注入工程にかかる時間を短縮することができる。また、従来のように、色素液DSを充填した容器内に光電極11の前駆体を浸漬させた後、光電極をその容器から取出し、その光電極11を用いてセルを形成し、電解液ESを注入する工程に比べ、色素が分解しない条件で光電極11と対向電極12とを貼り合わせる手間が必要ない。
【0056】
(3)上記実施形態では、製造装置に、一端が色素液貯留部28、洗浄液貯留部29及び電解液貯留部30に連通し、他端がセルCの供給側連通孔H2に連通する供給路32を備えたので、セルCに供給する液体を変更する度に、接続する流路を変更することなく、供給路32がセルCに装着された状態を維持することができる。このため、色素吸着工程、洗浄工程及び電解液注入工程にかかる時間を短縮することができる。また、色素液制御弁V1、洗浄液制御弁V2、及び電解液制御弁V3を備えたため、色素液DS、洗浄液CS及び電解液ESを所定量だけセルCに供給することができる。このため、色素液DS、洗浄液CS及び電解液ESが無駄に消耗されることがなく、使用効率を向上することができる。
【0057】
(4)上記実施形態では、セルCには排出側連通孔H1及び供給側連通孔H2が設けられ、排出側連通孔H1及び排気系25を連通する流路には、排出側制御弁V5が設けられているため、排出側制御弁V5を閉状態とし、酸化物半導体層16に色素17を吸着させる間、その排出側制御弁V5を閉状態として色素液DSを保持することができる。また、各種液体を排出する際には、排出側制御弁を開状態とし、排気系を駆動しつつ排出するので、排出時間を短くすることができる。
【0058】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、色素増感型太陽電池を、導電性基板15側から太陽光が入射するタイプの電池としたが、対向電極12を透光性材料から構成し、対向電極側から太陽光が入射するタイプの電池にしてもよい。この際、導電性基板15は、透光性の低い基材、チタン、ステンレス、アルミニウム、銀等の金属薄膜から形成してもよい。
【0059】
・上記実施形態では、光電極11に排出側連通孔H1を形成し、対向電極12に供給側連通孔H2を形成したが、図5(a)に示すように、対向電極12の異なる隅部に各連通孔H1,H2を貫通形成してもよい。このように連通孔H1,H2を形成すると、色素液DS、洗浄液CS、電解液ESをセル内に注入する際に、いずれかの連通孔H1,H2を空気孔として機能させることができるので、それらの液体をスムーズに注入することができる。また、電解液ESをセル内に充填した際も、各連通孔H1,H2の外部に連通する開口を鉛直方向上方に配置すれば、少なくとも製造工程内では電解液ESがより漏れにくくなる。また、シール材13の厚みが数mm〜十数mmある場合には、各連通孔H1,H2の少なくとも一方を、シール材13に貫通形成してもよい。例えば図5(b)に示すように排出側連通孔H1をシール材13に貫通形成してもよい。このようにすると、連通孔を光電極11等に貫通形成する必要が無く、光の入射面積をより拡大することができる。
【0060】
・上記実施形態では、セルCと各貯留部28〜30を供給路32によって接続したが、図6に示すように、供給路32の先端に設けられた供給針60によって接続してもよい。この場合、セルCの供給側連通孔H2にゴム材61等を内嵌し、このゴム材61に供給針60を刺して、セル内に各種液体を供給する。
【0061】
・上記実施形態では、製造装置に、洗浄液貯留部29及び電解液貯留部30を備えるようにしたが、少なくとも色素液貯留部28が備えられていればよい。この場合でも、色素が吸着された光電極11を備えた導電性基板15を、色素が分解されない条件の下で対向電極12と貼り合わせる必要がないといった効果が得られる。
【符号の説明】
【0062】
11…光電極、12…対向電極、13…シール材、14…電解液、15…導電性基板、16…酸化物半導体層、17…色素、21…水分除去機構としてのヒーター、25…排気系、28…色素液貯留部、29…洗浄液貯留部、30…電解液貯留部、32…供給路、C…セル、CS…洗浄液、DS…色素液、ES…電解液、H1…排出側連通孔、H2…供給側連通孔、V1…色素液制御弁、V2…洗浄液制御弁、V3…電解液制御弁、V5…排出側制御弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基板上に設けられた酸化物半導体層に色素を吸着させた光電極と、前記光電極と対向する対向電極と、前記光電極及び前記対向電極との間に介在する電解液とを備えた色素増感型太陽電池の製造装置において、
前記導電性基板上に酸化物半導体層が設けられた光電極の前駆体と前記対向電極とがシール材を介して固定されるとともに連通孔を介してその内部空間が外部に連通されたセルに接続され、該セルの内部空間を減圧する排気系と、
前記セル内の前記光電極の前駆体の水分吸着量を減少させる水分除去機構と、
色素が溶解又は分散された色素液を貯留する色素液貯留部と、
前記色素液貯留部と前記セルの連通孔とを連通する流路に設けられ、前記流路を開閉する色素液制御弁とを備えたことを特徴とする色素増感型太陽電池の製造装置。
【請求項2】
洗浄液を貯留する洗浄液貯留部と、
前記洗浄液貯留部と前記セルの連通孔とを連通する流路に設けられ、前記流路を開閉する洗浄液制御弁と、
前記電解液を貯留する電解液貯留部と、
前記電解液貯留部と前記セルの連通孔とを連通する流路に設けられ、該流路を開閉する電解液制御弁とを備えた請求項1に記載の色素増感型太陽電池の製造装置。
【請求項3】
一端が前記色素液貯留部、前記洗浄液貯留部及び前記電解液貯留部に連通し、他端が前記セルの連通孔に連通するとともに、前記色素液制御弁、前記洗浄液制御弁及び前記電解液制御弁の下流に配置された供給路をさらに備えた請求項2に記載の色素増感型太陽電池の製造装置。
【請求項4】
前記セルには、液体を供給する供給側連通孔と、液体及び気体を排出する排出側連通孔とが設けられ、
前記排出側連通孔と前記排気系とを連通する流路に設けられ、該流路を開閉する排出側制御弁をさらに備えた請求項1〜3のいずれか1項に記載の色素増感型太陽電池の製造装置。
【請求項5】
導電性基板上に設けられた酸化物半導体層に色素を吸着させた光電極と、前記光電極と対向する対向電極と、前記光電極及び前記対向電極との間に介在する電解液とを備えた色素増感型太陽電池の製造方法において、
色素吸着前の光電極と前記対向電極とがシール材を介して固定され、その内部空間が外部に連通された連通孔を備えたセルを形成し、
前記酸化物半導体層の水分吸着量を減少させつつ、前記連通孔を介して前記セルの内部空間を減圧するとともに、
前記減圧された前記内部空間に、前記連通孔を介して色素液を注入し前記酸化物半導体層に前記色素液中の色素を吸着させることを特徴とする色素増感型太陽電池の製造方法。
【請求項6】
前記色素液を排出した後に、前記セル内を洗浄液で洗浄し、洗浄したセル内に、電解液を注入する請求項5に記載の色素増感型太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−110066(P2013−110066A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256094(P2011−256094)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】