説明

色素増感太陽電池における対向電極の製造方法、色素増感太陽電池の製造方法および色素増感太陽電池

【課題】対向電極に白金を用いなくても当該対向電極が高い触媒性能を有し、その対向電極で作製した色素増感太陽電池が高い電池性能を有する色素増感太陽電池における対向電極の製造方法、色素増感太陽電池の製造方法および色素増感太陽電池を提供する。
【解決手段】透明導電基板1に半導体多孔膜4を形成してなる光電極5と、対極基板21に形成されたカーボン層22に触媒薄膜を形成してなる対向電極2と、これら両電極2,5間に配置される電解質層3とを具備する色素増感太陽電池における対向電極2の製造方法であって、対極基板21上に、炭素粉末を溶媒に溶かしたカーボン溶液を、ペースト状にして塗布または印刷した後に焼成してカーボン層22を形成し、カーボン層22をp型半導体前駆体溶液に浸漬させた後に焼成することで、当該カーボン層22にp型半導体微粒子23が担持されることによって上記触媒薄膜が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池における対向電極の製造方法、色素増感太陽電池の製造方法および色素増感太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、色素増感太陽電池は、半導体膜に色素が増感剤として被覆されて光感受性をもたせた光電極と、対向電極と、これら両電極間に配置されるヨウ素系の酸化還元電解質層とからなる。ここで、上記の光電極は、ガラス板などの透明基板に透明導電膜が形成されてなる透明導電基板の表面に、色素増感された半導体のナノ多孔膜を被覆して構成され、この半導体多孔膜としては、n型半導体として酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)などの金属酸化物が一般に用いられ、色素にはルテニウムビピリジル錯体などの有機色素分子を吸着させたものが知られている。
【0003】
色素増感太陽電池において、光電極はアノードとして、対向電極はカソードとして作用する。光電極と対向電極との電気化学的機能をそれぞれ高めることによって、色素増感太陽電池の電池性能を向上させることができる。ここで対向電極のカソード反応を促すためには、対向電極を構成する対極基板の表面に電気化学触媒が担持される。この触媒には希少金属(レアメタル)である白金が一般的に用いられるが、白金は資源的に希少でありコスト的に高価であるため、白金に代わるものとして、安価で触媒性能に優れる材料、例えばカーボンを用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
対向電極は通常、触媒機能のみを有し光感受性を持たないが、これに光感受性を持たせるための手段として、色素を吸着させたp型半導体を対極側に用いることでnpタンデム型の色素増感太陽電池を作製する方法も知られている(例えば、特許文献2および3参照)。ここでp型半導体は、色素から正孔を受け取り光発電につなげる役目を担っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−251310号公報
【特許文献2】特開2006−147280号公報
【特許文献3】特許第3959471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の対向電極は、白金以外の材料を用いた対向電極と比較すれば触媒性能に優れているが、白金を用いた対向電極と比較すれば触媒性能が低い。また、上記特許文献1に記載の対向電極で作製した色素増感太陽電池は、白金を用いた対向電極で作製した色素増感太陽電池と比較して、電池性能が低いという問題があった。
【0007】
また、上記特許文献2〜3に記載したnpタンデム型色素増感太陽電池は、色素増感光電極(アノード)と直列につながった対向電極(カソード)の光発電機能が低いために、電流密度やフィルファクタが大きく低下し、その変換効率は光発電機能を持たない白金対極を用いる場合に比べてはるかに低い。
【0008】
そこで、本発明は、対向電極に白金を用いず、また、対向電極に光感受性を持たせなくとも、当該対向電極が白金を超える高い触媒性能を有し、その対向電極で作製した色素増感太陽電池に高い電池性能を与えるような色素増感太陽電池における対向電極の製造方法、色素増感太陽電池の製造方法および色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る色素増感太陽電池における対向電極の製造方法は、透明導電基板に半導体多孔膜を形成してなる光電極と、対極基板に形成された炭素層に触媒薄膜を形成してなる対向電極と、これら両電極間に配置される電解質層とを具備する色素増感太陽電池における対向電極の製造方法であって、
上記対極基板上に、炭素粉末を溶媒に溶かした溶液を、塗布または印刷した後に焼成して上記炭素層を形成し、
上記炭素層にp型半導体微粒子を担持させることによって上記触媒薄膜を形成するものである。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る色素増感太陽電池における対向電極の製造方法は、請求項1に記載の対向電極の製造方法において、炭素層にp型半導体微粒子を担持させることによって触媒薄膜を形成するために、
炭素層をp型半導体前駆体溶液に浸漬させた後、または炭素層にp型半導体前駆体溶液を塗布した後、当該炭素層を焼成するものである。
【0011】
さらに、本発明の請求項3に係る色素増感太陽電池における対向電極の製造方法は、透明導電基板に半導体多孔膜を形成してなる光電極と、対極基板に形成された炭素層に触媒薄膜を形成してなる対向電極と、これら両電極間に配置される電解質層とを具備する色素増感太陽電池における対向電極の製造方法であって、
炭素粉末およびp型半導体前駆体を溶媒に溶かした混合溶液を、焼成した後に粉砕して混合粉末にし、
上記対極基板上に、上記混合粉末を溶媒に溶かした溶液を、塗布または印刷した後に焼成することで、炭素層が形成されるとともに、当該炭素層にp型半導体微粒子が担持されることによって上記触媒薄膜が形成されるものである。
【0012】
また、本発明の請求項4に係る色素増感太陽電池における対向電極の製造方法は、透明導電基板に半導体多孔膜を形成してなる光電極と、対極基板に形成された炭素層に触媒薄膜を形成してなる対向電極と、これら両電極間に配置される電解質層とを具備する色素増感太陽電池における対向電極の製造方法であって、
上記対極基板上に、炭素粉末およびp型半導体前駆体を溶媒に溶かした混合溶液を、塗布した後に焼成することで、炭素層が形成されるとともに、当該炭素層にp型半導体微粒子が担持されることによって上記触媒薄膜が形成されるものである。
【0013】
また、本発明の請求項5に係る色素増感太陽電池における対向電極の製造方法は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の対向電極の製造方法において、p型半導体微粒子が酸化ニッケル微粒子であるものである。
【0014】
また、本発明の請求項6に係る色素増感太陽電池における対向電極の製造方法は、請求項5に記載の対向電極の製造方法において、酸化ニッケル微粒子の粒径が3〜100nmであるものである。
【0015】
また、本発明の請求項7に係る色素増感太陽電池における対向電極の製造方法は、請求項5または6に記載の対向電極の製造方法において、酸化ニッケル微粒子の比表面積が、2〜200m/gであるものである。
【0016】
また、本発明の請求項8に係る色素増感太陽電池における対向電極の製造方法は、請求項5乃至7のいずれか一項に記載の対向電極の製造方法において、炭素層の膜厚が3〜5μmであるものである。
【0017】
また、本発明の請求項9に係る色素増感太陽電池の製造方法は、透明導電基板に半導体多孔膜を形成してなる光電極と、対極基板に形成された炭素層に触媒薄膜を形成してなる対向電極と、これら両電極間に配置される電解質層とを具備する色素増感太陽電池の製造方法であって、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の製造方法により上記対向電極を製造し、
上記両電極間に上記電解質層を配置するものである。
【0018】
また、本発明の請求項10に係る色素増感太陽電池は、透明導電基板に半導体多孔膜を形成してなる光電極と、対極基板に形成された炭素層に触媒薄膜を形成してなる対向電極と、これら両電極間に配置される電解質層とを具備する色素増感太陽電池であって、
上記対極基板上に形成された炭素層と、この炭素層に担持させることによって上記触媒薄膜を形成する酸化ニッケル微粒子とを有し、
上記酸化ニッケル微粒子は、粒径が3〜100nmで且つ比表面積が2〜200m/gであり、
上記炭素層の膜厚が3〜5μmであるものである。
【発明の効果】
【0019】
上記色素増感太陽電池における対向電極の製造方法および色素増感太陽電池の製造方法によると、対向電極に希少金属(レアメタル)の白金を用いなくても、炭素層にp型半導体微粒子を担持させることで、当該対向電極の触媒性能を向上させることができる。また、炭素層に微量(適量)のp型半導体微粒子が担持されるため、この対向電極で作製した色素増感太陽電池の電池性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1〜3に係る対向電極で作製した色素増感太陽電池の概略構成を示す断面図である。
【図2】同対向電極の電子顕微鏡写真である。
【図3】酸化ニッケル微粒子を担持する前のカーボン層の電子顕微鏡写真である。
【図4】同対向電極のカーボン層と他の材料との触媒性能を比較するサイクリックボルタモグラムを示すグラフである。
【図5】同対向電極のカーボン層の膜厚による電池性能の変化を示すグラフであり、(a)は電圧およびフィルファクタとの関係を示し、(b)は電流密度および変換効率との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態1]
以下、本発明の実施の形態1に係る色素増感太陽電池における対向電極の製造方法を説明する。
【0022】
まず、本実施の形態1に係る色素増感太陽電池の概略構成を図1に基づき説明する。
この色素増感太陽電池は、図1に示すように、負極としての光電極5と、正極としての対向電極2と、これら両電極2,5間に配置される電解質層3とが具備されている。
【0023】
上記光電極5は、透明導電基板1と、この透明導電基板1の表面に形成された半導体多孔膜4とから構成されている。上記透明導電基板1は、透明基板11と、この透明基板11の表面に形成されて上記半導体多孔膜4が接する透明導電膜12とから構成されている。また対向電極2は、対極基板21と、p型半導体微粒子23を担持するとともに上記対極基板21上に形成されたカーボン層(炭素層である)22とから構成されている。これら両電極2,5は、半導体多孔膜4とカーボン層22とが対向するようにして配置されている。なお、カーボン層22には、p型半導体微粒子23が担持されることによって、触媒薄膜が形成されている。
【0024】
上記透明基板11および対極基板21としては、合成樹脂板、ガラス板などが適宜使用される。合成樹脂板としては、ポリエチレン・ナフタレート(PEN)フィルムなどの熱可塑性樹脂、ポリエチレン・テレフタレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリイミド、テフロン(登録商標)などが用いられる。また、対極基板21については、導電性基板、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス、スズなどの金属シート、PEN−ITOフィルム、スズ添加酸化インジウム(ITO)、フッ素添加酸化スズ(FTO)、酸化スズ(SnO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)などの導電性金属酸化物を含む薄膜、さらには、上記ポリエチレン・テレフタレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリイミド、テフロン(登録商標)などの合成樹脂板上にアルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス、スズなどの金属を蒸着またはスパッタリングなどにより形成したものであってもよい。
【0025】
また、透明導電膜12として、好ましくは、スズ添加酸化インジウム(ITO)が使用され、この他に、フッ素添加酸化スズ(FTO)、酸化スズ(SnO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)などの導電性金属酸化物を含む薄膜を使用することができる。
【0026】
上記電解質層3としては、例えばヨウ素系酸化還元電解液が使用される。具体的には、ヨウ素、ヨウ化物イオン、ターシャリーブチルピリジンなどの電解質成分が、エチレンカーボネートやメトキシアセトニトリルなどの有機溶媒に溶解されたものが用いられる。上記電解質成分のうち、ヨウ素、ヨウ化物イオンが、酸化還元剤として作用する。なお、電解質層3は、電解液に限られるものではなく、固体電解質であってもよい。
【0027】
上記固体電解質としては、例えば、DMPImI(ジメチルプロピルイミダゾリウムヨウ化物)が例示され、この他、LiI、NaI、KI、CsI、CaIなどの金属ヨウ化物、テトラアルキルアンモニウムヨーダイドなど4級アンモニウム化合物のヨウ素塩などのヨウ化物とIとを組み合わせたもの、LiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBrなどの金属臭化物、およびテトラアルキルアンモニウムブロマイドなど4級アンモニウム化合物の臭素塩などの臭化物とBrとを組み合わせたものなどを適宜使用することができる。
【0028】
ところで、上記半導体多孔膜4は、光増感色素42が吸着された酸化物半導体層41により形成されており、その製造に際しては、半導体多孔膜の微粒子である酸化物半導体ナノ結晶を含むペーストを透明導電基板1の表面に塗布し、乾燥させた後、光増感色素42を酸化物半導体に吸着させることにより得られる。
【0029】
また、上記酸化物半導体としては、酸化チタン(TiO)、酸化スズ(SnO)、酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb)などの金属酸化物が用いられ、光増感色素としては、ビピリジン構造若しくはターピリジン構造を含む配位子を有するルテニウム錯体や鉄錯体、ポルフィリン系やフタロシアニン系の金属錯体、またはエオシン、ローダミン、メロシアニン、クマリンなどの有機色素などが用いられる。
【0030】
次に、本発明の要旨である対向電極2の製造方法について説明する。
まず、炭素粉末および必要に応じてバインダを溶媒に溶かしてカーボン溶液とし、このカーボン溶液をペースト状にして対極基板21に塗布または印刷する。そして、対極基板21に塗布または印刷されたペースト状のカーボン溶液を仮焼成してカーボン膜を形成し、その後、このカーボン膜を焼成して当該カーボン膜に含まれるバインダを熱分解させることで、カーボン層22が得られる。
【0031】
また、p型半導体前駆体の粉末および必要に応じてバインダを溶媒に溶かしてp型半導体前駆体溶液とし、このp型半導体前駆体溶液を上記カーボン層22に塗布する。そして、カーボン層22に塗布されたp型半導体前駆体溶液を仮焼成してカーボン層22にp型半導体前駆体微粒子を担持させる。その後、このカーボン層22を焼成することで、このカーボン層22に担持されるp型半導体前駆体微粒子がp型半導体微粒子23になる。このp型半導体微粒子23は、特許文献2や3のように感光性(光感受性)を持つものではなく、当該p型半導体微粒子23を担持するカーボン層22の電子放出を促進するものであり、したがって当該カーボン層22が形成された対向電極2の触媒性能が向上する。
【0032】
ここで、上記溶媒として、エタノール、2−プロパノール、NMP(N−メチルピロリドン)、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)などを使用することができる。また、上記バインダとして、PVP(ポリビニルピロリドン)などを使用することができる。上記p型半導体としては、酸化ニッケル、酸化ルテニウム、酸化銅、酸化アルミニウム、銅−ガリウム酸化物、p型カーボンナノチューブなどを用いることができるが、特に酸化ニッケルが好ましい。酸化ニッケルの場合、前駆体として、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、塩化ニッケル、水酸化ニッケルなどを使用することができ、これらは焼成により酸化ニッケルとなる。その他のp型半導体を用いるときは、それぞれの前駆体を用いてもよい。
【0033】
上記p型半導体前駆体溶液をカーボン層22に塗布する方法としては、スピンコート法、スプレー法が用いられる。また、塗布ではなく、p型半導体前駆体溶液に、カーボン層22を浸漬させてもよい。
【0034】
上述した製造方法により製造された対向電極2と、上記半導体多孔膜4が配置された上記透明導電基板1との間に、上記電解質層3を配置することで、色素増感太陽電池が作製される。
【0035】
上述した色素増感太陽電池における対向電極2の製造方法によると、対向電極2に希少金属(レアメタル)の白金を用いなくても、カーボン層22がp型半導体微粒子23を担持することで、対向電極2の触媒性能を向上させることができる。また、対向電極2のカーボン層22に微量のp型半導体微粒子23が担持されるため、この対向電極2で作製した色素増感太陽電池の電池性能を向上させることができる。
【0036】
以下、上記実施の形態1をより具体的に示した実施例に係る色素増感太陽電池における対向電極2の製造方法について説明する。
【実施例】
【0037】
まず、炭素粉末5.0wt%およびPVP(ポリビニルピロリドン)5.0wt%をエタノール30mlに溶かしてカーボン溶液とし、このカーボン溶液をペースト状にしてドクターブレード法により対極基板21であるフッ素添加酸化スズ(FTO)に塗布した。そして、この塗布されたペースト状のカーボン溶液を、150℃で10分間仮焼成し、カーボン膜を形成した。その後、このカーボン膜を150〜350℃で30分間焼成して当該カーボン膜に含まれるPVP(ポリビニルピロリドン)を熱分解させることで、カーボン層22が得られた。
【0038】
また、硝酸ニッケル粉末4.50gおよびPVP(ポリビニルピロリドン)をエタノール30mlに溶かして酸化ニッケル前駆体溶液とし、この酸化ニッケル前駆体溶液をスピンコート法により上記カーボン層22に塗布した。そして、カーボン層22に塗布された酸化ニッケル前駆体溶液を、150℃で10分間仮焼成し、カーボン層22に酸化ニッケル前駆体微粒子を担持させた。その後、このカーボン層22を150〜400℃(好ましくは300〜350℃)で30分間焼成することで、このカーボン層22に担持される酸化ニッケル前駆体微粒子が酸化ニッケル微粒子になった。当該酸化ニッケル微粒子を電子顕微鏡で観察したところ、図2に示すように、カーボン層22に酸化ニッケル微粒子が付着していることを確認できた。比較のために、図3に、酸化ニッケル微粒子を担持する前のカーボン層のみの電子顕微鏡写真も示しておく。こうして得られた層、すなわち、酸化ニッケル微粒子を担持したカーボン層22は、膜厚が3〜4μmであった。
【0039】
上記実施例により製造された対向電極2を使用して、6mm角の色素増感太陽電池を作製し、疑似太陽光源を用いてAM1.5,100mW/cmの標準光源照射を行い、電池性能を計測した。その計測結果を表1に示す。比較のために、p型半導体を酸化ルテニウムとしたときの結果も表1に本発明2として示しておく。なお、製造した比較例3における対向電極は、ガラス基板に白金を真空蒸着により成膜したものである。
【0040】
【表1】

表1に示すように、本実施例の場合、すなわち、カーボン層22が酸化ニッケル微粒子を担持する対向電極2で作製した色素増感太陽電池(本発明1)では、電流密度が9.10mA/cm、開放電圧が0.73V、フィルファクタが0.64、変換効率が4.25%であった。また、本実施例での酸化ニッケル微粒子を酸化ルテニウム微粒子(p型半導体微粒子23の一例である)とした場合、すなわち、カーボン層22が酸化ルテニウム微粒子を担持する対向電極2で作製した色素増感太陽電池(本発明2)では、電流密度が6.25mA/cm、開放電圧が0.72V、フィルファクタが0.63、変換効率が2.84%であった。これに対して、比較例1に示すように、酸化ニッケル膜単体では、触媒性能が全くないことを確認した。また、カーボン層22がp型半導体微粒子23を担持しない対向電極で作製した色素増感太陽電池(比較例2)では、計測された電流密度が7.77mA/cm、開放電圧が0.70V、フィルファクタが0.45、変換効率が2.44%であった。また、カーボン層22の代わりに白金層が形成された対向電極で作製した色素増感太陽電池(比較例3)では、計測された電流密度が8.76mA/cm、開放電圧が0.77V、フィルファクタが0.65、変換効率が4.38%であった。次に対向電極2の触媒性能を評価するために、図4に示すように、サイクリックボルタモグラム(CV)にて、酸化ニッケル微粒子を担持するカーボン層(C−NiO:本発明)と、酸化ニッケル微粒子を担持しないカーボン層(C only:比較例)と、白金層(Pt:比較例)との触媒性能の比較を行った。比較の結果、酸化ニッケル微粒子を担持するカーボン層は、白金層よりもカソード電流密度のピークが高いことを確認した。
【0041】
以上の結果から、上記実施例に係る本発明の色素増感太陽電池は、触媒にカーボンを用いた比較例2と比較して大きく電池性能が向上しており、触媒に白金を用いた比較例3と比較しても電流密度が向上した。特にp型半導体に酸化ニッケルを用いたときに高い光電流値と変換効率が得られ、遜色のない電池性能が得られた。このように本発明による対向電極2は、その触媒性能が高いことが特長となって、色素増感太陽電池の発電特性が改善されたことが明らかである。
【0042】
表2には、本発明に係る対向電極2の作製方法において、酸化ニッケル微粒子の粒径(平均直径)と比表面積を変化させたときの色素増感太陽電池の電池性能の比較を示した。この実験で、カーボン層22に付着した酸化ニッケル微粒子の粒径は、図2に示すように、数〜数十nmであった。カーボン層22に担持される酸化ニッケル微粒子は、前駆体における硝酸ニッケルの濃度や担持回数などによりサイズが変わるが、概ね、p型半導体として機能する酸化ニッケル微粒子の粒径は、3〜100nm、好ましくは数〜数十nmである。また、酸化ニッケル微粒子の比表面積は2〜200m/gで、好ましくは5〜100m/gであることも、表3に示すように、電池性能の計測により確認した。これは、p型半導体微粒子23の担持量が少なければ対向電極2の触媒性能を向上させることができず、逆にp型半導体微粒子23の担持量が多ければ当該p型半導体微粒子23が絶縁物として機能し、却って対向電極2の触媒性能を低下させるからである。また、p型半導体前駆体溶液をカーボン層22に塗布して焼成することにより、当該カーボン層22にp型半導体微粒子23を担持させるので、このカーボン層22に担持されるp型半導体微粒子23が微量、つまり適量となる。このため、上記対向電極2で作製した色素増感度太陽電池では、p型半導体微粒子23の過多を原因とする電池性能の低下が防止される。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

上記実施例に係るカーボン層22の好ましい膜厚を調べるため、当該カーボン層22の膜厚を変更して色素増感太陽電池を作製した。カーボン層22の膜厚を変化させたときの電池性能の計測結果を表4および図5に示す。図5(a)は、電圧およびフィルファクタとカーボン層22の膜厚との関係を示し、三角のプロットが電圧で左縦軸に対応し、四角のプロットがフィルファクタで右縦軸に対応する。また、図5(b)は、電流密度および変換効率とカーボン層22の膜厚との関係を示し、三角のプロットが電流密度で左縦軸に対応し、四角のプロットが変換効率で右縦軸に対応する。なお、図5(a)および(b)の横軸は、いずれもカーボン層22の膜厚である。表4および図5に示すように、カーボン層22の膜厚が増加するほど電池性能が向上し、当該カーボン層22の膜厚が1〜10μm、好ましくは3〜5μmの範囲で、変換効率が略一定(4.2〜4.4%)となった。
【0045】
【表4】

[実施の形態2]
本発明の実施の形態2に係る色素増感太陽電池における対向電極の製造方法を説明する。
【0046】
まず、炭素粉末およびp型半導体前駆体の粉末を溶媒に溶かして混合溶液とする。この混合溶液を150〜400℃(好ましくは300〜350℃)で焼成して固形化する。こうして、炭素粉末にp型半導体前駆体微粒子を予め担持させておく。その後、焼成して固形化した混合溶液を粉砕し、粉末状(以下では混合粉末という)にする。
【0047】
次に、この混合粉末を溶媒に溶かした溶液を、ペースト状にして対極基板21に塗布または印刷する。そして、このペースト状の混合溶液を対極基板21とともに150〜350℃(好ましくは150〜300℃)で焼成すると、p型半導体微粒子を担持したカーボン層22が得られる。なお、得られるカーボン層22の膜厚は3〜4μmである。
【0048】
このように、上記実施の形態2に係る色素増感太陽電池における対向電極の製造方法によると、実施の形態1と同様の効果に加えて、対極基板21の加熱温度が比較的低温で可能となるため、対極基板21に樹脂基板など耐熱性が低い基板を使用でき、より安価に対向電極を製造することができる。
[実施の形態3]
本発明の実施の形態3に係る色素増感太陽電池における対向電極の製造方法を説明する。
【0049】
本発明の実施の形態3では、実施の形態2での混合溶液を、焼成および粉砕することなく、ペースト状にして対極基板21に塗布または印刷する。そして、この対極基板21を150〜350℃(好ましくは150〜300℃)で焼成すると、p型半導体微粒子を担持したカーボン層22が得られる。
【0050】
このように、上記実施の形態3に係る色素増感太陽電池における対向電極の製造方法によると、実施の形態1および2と同様の効果に加えて、実施の形態2での混合溶液の焼成および粉砕の工程を省略するため、より一層安価に対向電極を製造することができる。
【0051】
ところで、上記実施の形態1〜3では、p型半導体の一例として酸化ニッケルを用いた例を示したが、本発明で用いるp型半導体の材料はこれに限定されるものではなく、酸化ルテニウム、酸化銅、酸化アルミニウム、銅−ガリウム酸化物、p型カーボンナノチューブなどの酸化物系半導体やポリ−3−アルキルチオフェン系(P3HT、P3OT、P3DDT)、PTAA、MEH−PPV、F8T−2などの有機半導体であってもよい。実施例で用いた酸化ニッケルに代えて、酸化ルテニウム、酸化銅、銅−ガリウム酸化物、をそれぞれ用いて対極を作製した結果、p型半導体として酸化ニッケルが最も高い太陽電池特性を与える傾向が見出された。
【0052】
また、上記実施の形態1〜3では、カーボン層22にp型半導体微粒子を担持させるとして説明したが、カーボン層22の代わりに、導電性高分子(PEDOT、ポリピロール、ポリアニリン)にp型半導体微粒子23を担持させてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 透明導電基板
2 対向電極
3 電解質層
4 半導体多孔膜
5 光電極
21 対極基板
22 カーボン層
23 p型半導体微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電基板に半導体多孔膜を形成してなる光電極と、対極基板に形成された炭素層に触媒薄膜を形成してなる対向電極と、これら両電極間に配置される電解質層とを具備する色素増感太陽電池における対向電極の製造方法であって、
上記対極基板上に、炭素粉末を溶媒に溶かした溶液を、塗布または印刷した後に焼成して上記炭素層を形成し、
上記炭素層にp型半導体微粒子を担持させることによって上記触媒薄膜を形成することを特徴とする色素増感太陽電池における対向電極の製造方法。
【請求項2】
炭素層にp型半導体微粒子を担持させることによって触媒薄膜を形成するために、
炭素層をp型半導体前駆体溶液に浸漬させた後、または炭素層にp型半導体前駆体溶液を塗布した後、当該炭素層を焼成することを特徴とする請求項1に記載の色素増感太陽電池における対向電極の製造方法。
【請求項3】
透明導電基板に半導体多孔膜を形成してなる光電極と、対極基板に形成された炭素層に触媒薄膜を形成してなる対向電極と、これら両電極間に配置される電解質層とを具備する色素増感太陽電池における対向電極の製造方法であって、
炭素粉末およびp型半導体前駆体を溶媒に溶かした混合溶液を、焼成した後に粉砕して混合粉末にし、
上記対極基板上に、上記混合粉末を溶媒に溶かした溶液を、塗布または印刷した後に焼成することで、炭素層が形成されるとともに、当該炭素層にp型半導体微粒子が担持されることによって上記触媒薄膜が形成されることを特徴とする色素増感太陽電池における対向電極の製造方法。
【請求項4】
透明導電基板に半導体多孔膜を形成してなる光電極と、対極基板に形成された炭素層に触媒薄膜を形成してなる対向電極と、これら両電極間に配置される電解質層とを具備する色素増感太陽電池における対向電極の製造方法であって、
上記対極基板上に、炭素粉末およびp型半導体前駆体を溶媒に溶かした混合溶液を、塗布した後に焼成することで、炭素層が形成されるとともに、当該炭素層にp型半導体微粒子が担持されることによって上記触媒薄膜が形成されることを特徴とする色素増感太陽電池における対向電極の製造方法。
【請求項5】
p型半導体微粒子が酸化ニッケル微粒子であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池における対向電極の製造方法。
【請求項6】
酸化ニッケル微粒子の粒径が3〜100nmであることを特徴とする請求項5に記載の色素増感太陽電池における対向電極の製造方法。
【請求項7】
酸化ニッケル微粒子の比表面積が、2〜200m/gであることを特徴とする請求項5または6に記載の色素増感太陽電池における対向電極の製造方法。
【請求項8】
炭素層の膜厚が3〜5μmであることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池における対向電極の製造方法。
【請求項9】
透明導電基板に半導体多孔膜を形成してなる光電極と、対極基板に形成された炭素層に触媒薄膜を形成してなる対向電極と、これら両電極間に配置される電解質層とを具備する色素増感太陽電池の製造方法であって、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の製造方法により上記対向電極を製造し、
上記両電極間に上記電解質層を配置することを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項10】
透明導電基板に半導体多孔膜を形成してなる光電極と、対極基板に形成された炭素層に触媒薄膜を形成してなる対向電極と、これら両電極間に配置される電解質層とを具備する色素増感太陽電池であって、
上記対極基板上に形成された炭素層と、この炭素層に担持させることによって上記触媒薄膜を形成する酸化ニッケル微粒子とを有し、
上記酸化ニッケル微粒子は、粒径が3〜100nmで且つ比表面積が2〜200m/gであり、
上記炭素層の膜厚が3〜5μmであることを特徴とする色素増感太陽電池。


【図1】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−65418(P2013−65418A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202497(P2011−202497)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(593232206)学校法人桐蔭学園 (33)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】