説明

色素増感太陽電池及びその製造方法

【課題】光電変換効率の低下を十分に抑制できる色素増感太陽電池及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】作用極1と、作用極1に対向するように配置される対極2と、作用極1及び対極2を連結する環状の封止部4と、作用極1、対極2及び封止部4によって包囲される電解質3と、作用極1及び対極2の間に設けられる絶縁性のスペーサ5とを備え、スペーサ5が封止部4の内周面4aと外周面4bとの間に設けられている色素増感太陽電池100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子として、安価で、高い発電効率が得られることから色素増感太陽電池が注目されており、色素増感太陽電池に関して種々の開発が行われている。
【0003】
色素増感太陽電池は一般に、作用極と、対極と、作用極及び対極を連結する封止部と、作用極、対極及び封止部とによって囲まれる電解質とを備えている。
【0004】
しかし、この色素増感太陽電池においては、作用極と対極との間の間隔が小さくなると、作用極と対極とが短絡するおそれがある。そのため、作用極と対極との間にスペーサを配置することが望ましい。
【0005】
このように作用極と対極との間にスペーサを配置した色素増感太陽電池として、下記特許文献1に記載のものが知られている。下記特許文献1には、作用極と対極との間に設けられる封止部がスペーサによって作用極側の封止部と対極側の封止部とに分離された色素増感太陽電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−194075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した特許文献1に記載の色素増感太陽電池では光電変換効率が低下しやすいという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、光電変換効率の低下を十分に抑制できる色素増感太陽電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記のように特許文献1に記載の色素増感太陽電池において光電変換効率が低下し易い原因について検討した。まず上述した特許文献1に記載の色素増感太陽電池では、封止部がスペーサによって作用極側の封止部と対極側の封止部とに分離されている。このため、本発明者は、封止部の厚さが不十分となり、作用極及び対極の各々に対する封止部の接着力が不十分になるとともに、スペーサに対する封止部の接着力も不十分となるのではないかと考えた。さらに、特許文献1に記載の色素増感太陽電池では、作用極とスペーサとの間の界面が、電解質と外部とを結ぶように形成され、対極とスペーサとの間の界面も電解質と外部とを結ぶように形成されている。そして、上述したようにスペーサに対する封止部の接着力が不十分であると考えられる。このことから、高温環境下で電解質が揮発して作用極と対極とに大きな応力が加えられることで封止部がスペーサから剥離すると、スペーサと封止部との界面を通って電解質が漏洩しやすくなるのではないかと本発明者は考えた。そこで、本発明者は、封止部の厚さを十分に確保しながら、スペーサと作用極との界面が電解質と外部とを結ぶように形成しないようにすることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、作用極と、前記作用極に対向するように配置される対極と、前記作用極及び前記対極を連結する環状の封止部と、前記作用極、前記対極及び前記封止部によって包囲される電解質と、前記作用極及び前記対極の間に設けられる絶縁性のスペーサとを備え、前記スペーサが前記封止部の内周面と外周面との間に設けられていることを特徴とする色素増感太陽電池である。
【0011】
この色素増感太陽電池によれば、以下の作用効果が奏される。すなわち、本発明の色素増感太陽電池はスペーサを有している。このため、色素増感太陽電池に熱応力等が加わり、作用極と対極とが近づくような力が働いても、スペーサにより、一定間隔の極間距離を保つことができる。このため、作用極と対極との短絡を防止することができる。また本発明の色素増感太陽電池では、封止部が作用極と対極とを連結している。このため、作用極に対する封止部の接着力が十分に確保されると共に、対極に対する封止部の接着力も十分に確保される。このため、作用極からの封止部の剥離、および、対極からの封止部の剥離が十分に抑制される。従って、作用極と封止部との界面、対極と封止部との界面を通る電解質の漏洩が十分に抑制される。また本発明の色素増感太陽電池では、スペーサが封止部の内周面と外周面との間に配置されている。即ち、スペーサと封止部との界面が封止部の内周面と外周面との間に形成されている。このため、熱応力により、スペーサにそれを左右に動かすような力が働いても、封止部の内周面又は外周面によりスペーサの移動がブロックされるので、スペーサが左右に移動して封止部から剥離することが十分に抑制される。また電解質が封止部を通過する場合、その電解質は、スペーサと封止部との界面でトラップされ、そのまま外部へと漏出することが十分に阻止される。このように、本発明の色素増感太陽電池によれば、作用極と封止部との界面、対極と封止部との界面を通る電解質の漏洩を十分に抑制できるとともに、スペーサと封止部との界面を通る電解質の漏洩をも十分に抑制できる。従って、本発明の色素増感太陽電池によれば、電解質の漏洩による光電変換効率の低下を十分に抑制することができる。
【0012】
上記色素増感太陽電池において、前記スペーサの全体が前記封止部によって包囲されていることが好ましい。
【0013】
この場合、スペーサと作用極とが接触している場合に比べて封止部と作用極との接触面積が増加する。同様に、スペーサと対極とが接触している場合に比べて封止部と対極との接触面積が増加する。そのため、作用極と封止部との接着力、対極と封止部との接着力がより向上する。このため、作用極からの封止部の剥離、および、対極からの封止部の剥離がより十分に抑制され、作用極と封止部との界面、対極と封止部との界面を通る電解質の漏洩がより十分に抑制される。また、スペーサと封止部との界面は、作用極及び対極の各々と封止部との界面につながっていない。このため、電解質がスペーサと封止部との界面に入り込んでも、その電解質はその界面にトラップされやすくなる。その結果、電解質が封止部の外側に漏洩しにくくなる。よって、光電変換効率の低下をより十分に抑制することができる。
【0014】
上記色素増感太陽電池において、前記スペーサは、前記作用極及び対極の少なくとも一方に接触していてもよい。
【0015】
この場合、作用極と封止部の界面、又は、対極と封止部の界面を通って漏洩しようとする電解質は、スペーサと封止部の界面に突き当たるため、一部の電解質は、スペーサと封止部の界面にトラップされる。その結果、電解質が封止部の外側に漏洩しにくくなる。よって、光電変換効率の低下をより十分に抑制することができる。
【0016】
上記色素増感太陽電池は、前記作用極及び前記対極の少なくとも一方が可撓性を有する場合でも光電変換効率の低下を十分に抑制できる。即ち一般的には、作用極及び対極の少なくとも一方が可撓性を有すると、作用極及び対極のうち可撓性を有する電極(可撓性電極)に熱応力がかかっても、可撓性電極は熱応力に対応して変形できる。このため、可撓性電極は、クラックが発生しないため好ましい。しかし、この変形により、封止部と作用極との間、又は封止部と対極との間に過大な応力がかかる可能性がある。このような場合でも本発明の色素増感太陽電池は、封止部と作用極との間の接着性が十分に確保されるとともに、封止部と対極との間の接着性も十分に確保されており、電解質の漏洩が起こりにくくなっている。このため、本発明の色素増感太陽電池は、作用極及び対極の少なくとも一方が可撓性を有する場合でも、光電変換効率の低下を十分に抑制できる。また熱応力により、作用極と対極とが近づくような力が働く可能性がより高まる。しかし、このような場合であっても、スペーサにより、一定間隔の極間距離を保つことができる。このため、作用極と対極との短絡を防止することができる。また同様に、可撓性電極を用いると、熱応力により、スペーサにそれを左右に動かすような力が働く可能性がより高まる。しかし、このような場合であっても、封止部の内周面又は外周面によりスペーサの移動が十分にブロックされるので、スペーサが左右に移動して封止部から剥離することが十分に抑制される。
【0017】
また本発明は、作用極と、前記作用極に対向するように配置される対極と、前記作用極及び前記対極を連結する環状の封止部と、前記作用極、前記対極及び前記封止部によって包囲される電解質と、前記作用極及び前記対極の間に設けられる絶縁性のスペーサとを備える色素増感太陽電池の製造方法であって、前記作用極と前記対極とを対向させ、前記作用極と前記対極とによって、環状の接着剤の内周面と外周面との間に絶縁性のスペーサを設けてなり且つ前記スペーサの全体が前記接着剤によって包囲されている構造体を挟む構造体挟持工程と、前記構造体を加圧しながら加熱することにより前記構造体を前記作用極及び前記対極に接着させて前記封止部を形成すると共に前記作用極、前記対極及び前記封止部によって前記電解質を包囲する封止部形成工程とを含むことを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法である。
【0018】
この製造方法によれば、上述した色素増感太陽電池を有効に製造することができる。また本発明の製造方法によれば、封止部形成工程において、構造体の接着剤を作用極及び対極に接着させるために、構造体を加圧しながら加熱する際、スペーサが用いられている。このため、高い圧力が加えられても、スペーサにより一定間隔の極間距離が保たれる。このため、得られる色素増感太陽電池によれば、作用極と対極との短絡を防止することができる。また、本発明の製造方法では、内周面と外周面との間に絶縁性のスペーサが設けられているため、封止部に均等に圧力がかからずスペーサにそれを左右に動かそうとする力が働いても、封止部の内周面又は外周面によりスペーサの移動がブロックされる。このため、スペーサが左右に移動し、スペーサが封止部から剥離した状態となることが十分に抑制される。その結果、圧力を極端に制御する必要がなくなり、歩留まりが向上する。
【0019】
上記色素増感太陽電池の製造方法は、前記構造体挟持工程の前に行われ、前記構造体に接着させる環状の接着剤を前記作用極に固定する工程と、前記構造体挟持工程の前に行われ、前記構造体に接着させる環状の接着剤を前記対極に固定する工程とをさらに含んでもよい。
【0020】
この場合、スペーサの全体が封止部によって包囲された色素増感太陽電池を確実に得ることができる。
【0021】
また本発明は、作用極と、前記作用極に対向するように配置される対極と、前記作用極及び前記対極を連結する環状の封止部と、前記作用極、前記対極及び前記封止部によって包囲される電解質と、前記作用極及び前記対極の間に設けられる絶縁性のスペーサとを備える色素増感太陽電池の製造方法であって、前記スペーサに接着させる環状の接着剤を前記作用極に固定する第1接着剤固定工程と、前記スペーサに接着させる環状の接着剤を前記対極に固定する第2接着剤固定工程と、前記作用極と前記対極とを対向させ、前記作用極に固定した前記接着剤と前記対極に固定した前記接着剤とによって、絶縁性のスペーサを挟むスペーサ挟持工程と、前記作用極及び前記対極上に固定した前記接着剤を加圧しながら加熱することにより前記スペーサを前記作用極及び前記対極上に固定した前記接着剤に接着させ、かつ、前記作用極及び前記対極上に固定した前記接着剤同士を接着させて、前記封止部を形成すると共に前記作用極、前記対極及び前記封止部によって前記電解質を包囲する封止部形成工程とを含み、前記封止部形成工程において、前記スペーサが前記封止部の内周面と外周面との間に配置されるように前記封止部が形成される、ことを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法である。
【0022】
この場合でも、スペーサの全体が封止部によって包囲された色素増感太陽電池を製造することは可能である。また本発明の製造方法によれば、封止部形成工程において、スペーサを作用極及び対極に接着させ、かつ、作用極及び対極上に固定した接着剤同士を接着させるために、作用極及び対極上に固定した接着剤を加圧しながら加熱する際、スペーサが用いられている。このため、高い圧力が加えられても、スペーサにより、一定間隔の極間距離が保たれる。このため、得られる色素増感太陽電池によれば、作用極と対極との短絡を防止することができる。また、本発明の製造方法では、封止部の内周面と外周面との間に絶縁性のスペーサが設けられているため、封止部に均等に圧力がかからずスペーサにそれを左右に動かそうとする力が働いても、封止部の内周面又は外周面によりスペーサの移動がブロックされる。このため、スペーサが左右に移動し、スペーサが封止部から剥離した状態となることが十分に抑制される。その結果、圧力を極端に制御する必要がなくなり、歩留まりが向上する。
【0023】
なお、本発明において、作用極又は対極について「可撓性を有する」とは、20℃の環境下で50mm×200mmのシート状電極の長辺側の両縁部(それぞれ幅5mm)を張力1Nで水平に固定し、電極の中央に20g重の荷重をかけた際の電極の撓みの最大変形率が20%を超えるものを言うものとする。ここで、最大変形率とは、下記式:
最大変形率(%)=100×(最大変位量/シート状電極の厚さ)
に基づいて算出される値を言う。従って、例えば厚さ0.04mmのシート状電極が上記のようにして荷重をかけることにより撓み、最大変形量が0.01mmとなった場合、最大変形率は25%となり、このシート状電極は可撓性電極となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、光電変換効率の低下を十分に抑制できる色素増感太陽電池及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る色素増感太陽電池の一実施形態を示す断面図である。
【図2】構造体を示す断面図である。
【図3】スペーサを接着剤で挟んだ状態を示す断面図である。
【図4】接着剤を固定した作用極を示す断面図である。
【図5】接着剤を固定した対極を示す断面図である。
【図6】図2の構造体を作用極と対極とによって挟持している状態を示す断面図である。
【図7】本発明に係る色素増感太陽電池の他の実施形態を示す断面図である。
【図8】スペーサの変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、全図中、同一又は同等の構成要素については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0027】
図1は本発明に係る色素増感太陽電池の好適な実施形態を示す断面図である。
【0028】
図1に示すように、色素増感太陽電池100は、作用極1と、作用極1に対向するように配置される対極2と、作用極1と対極2とを連結する封止部4と、作用極1、対極2及び封止部4によって包囲される電解質3と、作用極1と対極2との間に配置される絶縁性のスペーサ5とを備えている。
【0029】
作用極1は、透明基板6と、透明基板6の対極2側に設けられる透明導電膜7と、透明導電膜7の上に設けられる多孔質酸化物半導体層8とを備えている。多孔質酸化物半導体層8には光増感色素が担持されている。また対極2は、対極基板9と、対極基板9のうち作用極1側に設けられて対極2の表面における還元反応を促進する導電性の触媒層10とを備えている。ここで、作用極1は可撓性を有しておらず、対極2は可撓性を有している。
【0030】
封止部4は、作用極1と対極2とを連結している。封止部4は作用極1の多孔質酸化物半導体層8側の表面上、即ち透明導電膜7の表面上に固定されると共に、対極2の触媒層10の表面上に固定されている。
【0031】
スペーサ5はその全体が封止部4によって包囲されている。即ちスペーサ5が封止部4に内包されている。詳細に述べると、スペーサ5は、封止部4の内周面4aと外周面4bとの間に配置され、作用極1から離間するとともに対極2からも離間している。即ちスペーサ5は、内周面4a、外周面4b、作用極1及び対極2の全てから離間している。
【0032】
この色素増感太陽電池100によれば、以下の作用効果が奏される。すなわち、色素増感太陽電池100はスペーサ5を有している。このため、色素増感太陽電池100に熱応力が加わり、作用極1と対極2とが近づくような力が働いても、スペーサ5により、一定間隔の極間距離を保つことができる。このため、作用極1と対極2との短絡を防止することができる。また色素増感太陽電池100では、封止部4が作用極1と対極2とを連結している。このため、作用極1に対する封止部4の接着力が十分に確保されると共に、対極2に対する封止部4の接着力も十分に確保される。このため、作用極1からの封止部4の剥離、および、対極2からの封止部4の剥離が十分に抑制される。従って、作用極1と封止部4との界面16、対極2と封止部4との界面17を通る電解質3の漏洩が十分に抑制される。また色素増感太陽電池100では、スペーサ5が封止部4の内周面4aと外周面4bとの間に配置されている。即ちスペーサ5と封止部4との界面15が封止部4の内周面4aと外周面4bとの間に形成されている。即ち、界面15は、封止部4を内周面4aから延びて外周面4bに達するようには形成されていない。このため、熱応力により、スペーサ5にそれを左右に動かすような力が働いても、封止部4の内周面4a又は外周面4bによりスペーサ5の移動がブロックされるので、スペーサ5が左右に移動して封止部4から剥離することが十分に抑制される。また電解質3が封止部4を通過する場合、その電解質3は、スペーサ5と封止部4との界面15でトラップされ、そのまま外部へと漏出することが十分に阻止される。このように、色素増感太陽電池100によれば、作用極1と封止部4との界面16、対極2と封止部4との界面17を通る電解質3の漏洩を十分に抑制できることに加えて、スペーサ5と封止部4との界面15を通る電解質3の漏洩をも十分に抑制できる。従って、色素増感太陽電池100によれば、電解質3の漏洩による光電変換効率の低下を十分に抑制することができる。
【0033】
特に、本実施形態では、スペーサ5はその全体が封止部4によって包囲されており、作用極1から離間すると共に対極2からも離間している。このため、スペーサ5と作用極1とが接触している場合に比べて封止部4と作用極1との接触面積が増加する。同様に、スペーサ5と対極2とが接触している場合に比べて封止部4と対極2との接触面積が増加する。そのため、作用極1と封止部4との接着力、対極2と封止部4との接着力がより向上する。このため、作用極1からの封止部4の剥離、および、対極2からの封止部4の剥離がより十分に抑制され、作用極1と封止部4との界面16、対極2と封止部4との界面17を通る電解質3の漏洩がより十分に抑制される。このため、電解質3がスペーサ5と封止部4との界面15に入り込んでも、その電解質3はその界面15にトラップされやすくなる。その結果、電解質3が封止部4の外側に漏洩しにくくなる。よって、光電変換効率の低下をより十分に抑制することができる。
【0034】
また色素増感太陽電池100は、作用極1及び対極2のうち対極2が可撓性を有しているものの、光電変換効率の低下を十分に抑制できる。即ち、対極2が可撓性を有すると、可撓性を有する対極2に熱応力がかかっても、対極2は熱応力に対応して変形できる。このため、対極2は、クラックが発生しないため好ましい。しかし、この変形により、封止部4と作用極1との間、又は封止部4と対極2との間に過大な応力がかかる可能性がある。このような場合でも色素増感太陽電池100は、封止部4と作用極1との間の接着性が十分に確保されるとともに、封止部4と対極2との間の接着性も十分に確保されており、電解質3の漏洩が起こりにくくなっている。このため、色素増感太陽電池100は、作用極1及び対極2のうち対極2が可撓性を有する場合でも、光電変換効率の低下を十分に抑制できる。また対極2が可撓性を有すると、熱応力により、作用極1と対極2とが近づくような力が働く可能性がより高まる。しかし、このような場合であっても、スペーサ5により、一定間隔の極間距離を保つことができる。このため、作用極1と対極2との短絡を防止することができる。また同様に、対極2が可撓性を有すると、熱応力により、スペーサ5にそれを左右に動かすような力が働く可能性がより高まる。しかし、このような場合であっても、封止部4の内周面4a又は外周面4bによりスペーサ5の移動が十分にブロックされるので、スペーサ5が左右に移動して封止部4から剥離することが十分に抑制される。
【0035】
次に、上述した色素増感太陽電池100の製造方法について説明する。
【0036】
[準備工程]
まず作用極1及び対極2を準備する。
【0037】
(作用極)
作用極1は、以下のようにして得ることができる。
【0038】
はじめに透明基板6の上に透明導電膜7を形成する。透明導電膜7の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法、スプレー熱分解法(SPD:Spray Pyrolysis Deposition)及びCVD法などが用いられる。これらのうちスプレー熱分解法が装置コストの点から好ましい。
【0039】
透明基板6を構成する材料は、例えば透明な材料であればよく、このような透明な材料としては、例えばホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、白板ガラス、石英ガラスなどのガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルスルフォン(PES)などが挙げられる。透明基板6の厚さは、色素増感太陽電池100のサイズに応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、例えば50μm〜10000μmの範囲にすればよい。
【0040】
透明導電膜7を構成する材料としては、例えばスズ添加酸化インジウム(Indium−Tin−Oxide:ITO)、酸化スズ(SnO)、フッ素添加酸化スズ(Fluorine−doped−Tin−Oxide:FTO)などの導電性金属酸化物が挙げられる。透明導電膜7は、単層でも、異なる導電性金属酸化物で構成される複数の層の積層体で構成されてもよい。透明導電膜7が単層で構成される場合、透明導電膜7は、高い耐熱性及び耐薬品性を有することから、FTOで構成されることが好ましい。また透明導電膜7として、複数の層で構成される積層体を用いると、各層の特性を反映させることが可能となることから好ましい。中でも、ITOで構成される層と、FTOで構成される層との積層体を用いることが好ましい。この場合、高い導電性、耐熱性及び耐薬品性を持つ透明導電膜7が実現できる。透明導電膜7の厚さは例えば0.01μm〜2μmの範囲にすればよい。
【0041】
次に、透明導電膜7上に、多孔質酸化物半導体層形成用ペーストを印刷する。多孔質酸化物半導体層形成用ペーストは、酸化物半導体粒子のほか、ポリエチレングリコールなどの樹脂及び、テレピネオールなどの溶媒を含む。多孔質酸化物半導体層形成用ペーストの印刷方法としては、例えばスクリーン印刷法、ドクターブレード法、バーコート法などを用いることができる。
【0042】
次に、多孔質酸化物半導体層形成用ペーストを焼成して透明導電膜7上に多孔質酸化物半導体層8を形成する。焼成温度は酸化物半導体粒子により異なるが、通常は140℃〜600℃であり、焼成時間も、酸化物半導体粒子により異なるが、通常は1〜5時間である。
【0043】
上記酸化物半導体粒子としては、例えば酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO)、酸化ニオブ(Nb)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化スズ(SnO)、酸化インジウム(In)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化タリウム(Ta)、酸化ランタン(La)、酸化イットリウム(Y)、酸化ホルミウム(Ho)、酸化ビスマス(Bi)、酸化セリウム(CeO)、酸化アルミニウム(Al)又はこれらの2種以上で構成される酸化物半導体粒子が挙げられる。これら酸化物半導体粒子の平均粒径は1〜1000nmであることが、色素で覆われた酸化物半導体の表面積が大きくなり、即ち光電変換を行う場が広くなり、より多くの電子を生成することができることから好ましい。ここで、多孔質酸化物半導体層8が、粒度分布の異なる酸化物半導体粒子を積層させてなる積層体で構成されることが好ましい。この場合、積層体内で繰り返し光の反射を起こさせることが可能となり、入射光を積層体の外部へ逃がすことなく効率よく光を電子に変換することができる。多孔質酸化物半導体層8の厚さは、例えば0.5〜50μmとすればよい。なお、多孔質酸化物半導体層8は、異なる材料からなる複数の多孔質酸化物半導体層の積層体で構成することもできる。
【0044】
(対極)
対極2は、以下のようにして得ることができる。
【0045】
即ちまず対極基板9を準備する。そして、対極基板9の上に触媒層10を形成する。触媒層10の形成方法としては、スパッタ法、蒸着法などが用いられる。これらのうちスパッタ法が膜の均一性の点から好ましい。
【0046】
対極基板9は、例えばチタン、ニッケル、白金、モリブデン、タングステン等の耐食性の金属材料や、透明基板6の上にITO、FTO等の導電性酸化物を形成してなるものなどで構成される。対極基板9の厚さは、色素増感太陽電池100のサイズに応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、例えば0.005mm〜0.1mmとすればよい。
【0047】
触媒層10は、白金、炭素系材料又は導電性高分子などから構成される。
【0048】
[構造体の作製工程]
一方、図2に示すように、環状の接着剤11の内周面11cと外周面11dとの間にスペーサ5を配置してなる構造体12を用意する。構造体12は、図3に示すように、2枚の環状で且つフィルム状の接着剤11a,11bを用意し、2枚の接着剤11a,11bでスペーサ5を挟み、接着剤11a,11bを溶融圧着させることによって得ることができる。
【0049】
接着剤11a,11bは、電解質3に対して耐性を有するものであればよく、このような接着剤11a,11bとしては、例えばエチレン−メタクリル酸共重合体、アイオノマー樹脂などが挙げられる。
【0050】
スペーサ5は、絶縁性を有し、接着剤11a,11bよりも大きい剛性を有する材料で構成されればよく、このような材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリカーボネートなどの樹脂のほか、ガラス、アルミナなどの無機絶縁材料を挙げることができる。スペーサ5の剛性は、スペーサ5の剛性率によって決定することができる。
【0051】
[第1及び第2接着剤固定工程]
次に、図4に示すように、作用極1の表面の周縁部に、構造体12に接着させる環状の接着剤13bを固定する。一方、図5に示すように、対極2の表面の周縁部にも、構造体12に接着させる環状の接着剤13aを固定する。
【0052】
接着剤13a,13bとしては、接着剤11a,11bと同様のものを用いることができる。
【0053】
[電解質配置工程]
次に、作用極1上であって封止部4の内側に電解質3を配置する。電解質3は、作用極1上であって封止部4の内側に注入したり、印刷したりすることによって得ることができる。
【0054】
電解質3は通常、電解液で構成される。この電解液は例えばI/Iなどの酸化還元対と有機溶媒とを含んでいる。有機溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、プロピオニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンなどを用いることができる。酸化還元対としては、例えばI/Iのほか、臭素/臭化物イオンなどの対が挙げられる。色素増感太陽電池100は、酸化還元対としてI/Iのような揮発性溶質及び、高温下で揮発しやすいアセトニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリルのような有機溶媒を含む電解液を電解質として用いた場合に特に有効である。この場合、色素増感太陽電池100の周囲の環境温度の変化によりセル空間の内圧の変化が特に大きくなり、封止部4と対極2との界面17、および封止部4と作用極1との界面16から電解質3が漏洩しやすくなるからである。なお、上記揮発性溶媒にはゲル化剤を加えてもよい。また電解質3は、イオン液体と揮発性成分との混合物からなるイオン液体電解質で構成されてもよい。この場合も、色素増感太陽電池100の周囲の環境温度の変化によりセル空間の内圧の変化が大きくなるためである。イオン液体としては、例えばピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等の既知のヨウ素塩であって、室温付近で溶融状態にある常温溶融塩が用いられる。このような常温溶融塩としては、例えば1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドが好適に用いられる。また揮発性成分としては、上記の有機溶媒や、1−メチル−3−メチルイミダゾリウムヨーダイド、LiI、I、4−t−ブチルピリジンなどが挙げられる。さらに電解質3としては、上記イオン液体電解質にSiO、TiO、カーボンナノチューブなどのナノ粒子を混練してゲル様となった擬固体電解質であるナノコンポジットイオンゲル電解質を用いてもよく、また、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド誘導体、アミノ酸誘導体などの有機系ゲル化剤を用いてゲル化したイオン液体電解質を用いてもよい。
【0055】
[構造体挟持工程]
そして、図6に示すように、作用極1と対極2とを対向させ、作用極1と対極2とによって構造体12を挟む(構造体挟持工程)。具体的には、作用極1,対極2によって、接着剤13a、13bを介して構造体12を挟む。
【0056】
[封止部形成工程]
そして、作用極1又は対極2を介して構造体12を加圧しながら加熱することにより、接着剤11a、接着剤11b、接着剤13a及び接着剤13bを溶融させて構造体12を作用極1及び対極2に圧着させる。この溶融圧着により、構造体12は、接着剤13bを介して作用極1に接着され、接着剤13aを介して対極2に接着され、封止部4が形成される。こうして色素増感太陽電池100の製造が完了する。
【0057】
上記のようにして色素増感太陽電池100を製造すると、上述した色素増感太陽電池100の作用効果に加え、以下の作用効果が奏される。
【0058】
すなわち上述した色素増感太陽電池100の製造方法によれば、封止部形成工程において、スペーサ5を作用極1及び対極2に接着させるために、スペーサ5を、作用極1又は対極2を介して加圧する際、スペーサ5が用いられている。このため、高い圧力が加えられても、スペーサ5により一定間隔の極間距離が保たれる。このため、得られる色素増感太陽電池100によれば、作用極1と対極2との短絡を防止することができる。また上述した色素増感太陽電池100の製造方法では、封止部4の内周面4aと外周面4bとの間に絶縁性のスペーサ5が設けられているため、封止部4に均等に圧力がかからずスペーサ5にそれを左右に動かそうとする力が働いても、封止部4の内周面4a又は外周面4bによりスペーサ5の移動がブロックされる。このため、スペーサ5が左右に移動し、スペーサ5が封止部4から剥離した状態となることが十分に抑制される。その結果、圧力を極端に制御する必要がなくなり、歩留まりが向上する。
【0059】
本発明は上記実施形態に限定されない。例えば上記実施形態では、スペーサ5全体が封止部4によって包囲され、スペーサ5が作用極1からも対極2からも離間しているが、図7に示す色素増感太陽電池200のように、スペーサ5は、作用極1に接触し且つ対極2に接触していてもよい。この色素増感太陽電池は以下のようにして作製することができる。すなわち、まず作用極1に環状の接着剤を固定する(第1接着剤固定工程)。一方、対極2にも環状の接着剤を固定する(第2接着剤固定工程)。そして、接着剤を固定した作用極1と、接着剤を固定した対極2とを対向させ、作用極1に固定した接着剤と対極2に固定した接着剤とによってスペーサ5を挟む(スペーサ挟持工程)。そして、作用極1及び対極2上に固定した接着剤を加圧しながら加熱することによりスペーサ5を作用極1及び対極2に接着させ、かつ、作用極1及び対極2上に固定した接着剤同士を接着させて封止部4を形成すると共に作用極1、対極2及び封止部4によって電解質3を包囲する(封止部形成工程)。このとき、封止部4は、スペーサ5が封止部4の内周面4aと外周面4bとの間に配置されるように形成する。またスペーサ5によって接着剤を加圧しながら接着剤を加熱することにより接着剤を十分に流動させ、作用極1とスペーサ5との間、対極2とスペーサ5との間から接着剤を排除するようにする。こうして、スペーサ5が作用極1にも対極2にも接触した色素増感太陽電池200を得ることができる。
【0060】
この場合、スペーサ5を作用極1又は対極2に接着させ、かつ、作用極1及び対極2上に固定した接着剤同士を接着させるために、作用極1及び対極2上に固定した接着剤を加圧しながら加熱する際、スペーサ5が用いられている。このため、高い圧力が加えられても、スペーサ5により一定間隔の極間距離が保たれる。このため、得られる色素増感太陽電池200によれば、作用極1と対極2との短絡を防止することができる。また、色素増感太陽電池200の製造方法では、封止部4の内周面4aと外周面4bとの間に絶縁性のスペーサ5が設けられているため、封止部4に均等に圧力がかからずスペーサ5にそれを左右に動かそうとする力が働いても、封止部4の内周面4a又は外周面4bによりスペーサ5の移動がブロックされる。このため、スペーサ5が左右に移動し、スペーサ5が封止部4から剥離した状態となることが十分に抑制される。その結果、圧力を極端に制御する必要がなくなり、歩留まりが向上する。
【0061】
またスペーサ5は、作用極1及び対極2のいずれか一方にのみ接触していてもよい。この場合、作用極1と封止部4との界面、又は、対極2と封止部4との界面を通って漏洩しようとする電解質3は、スペーサ5と封止部4との界面に突き当たるため、一部の電解質3は、スペーサ5と封止部4との界面にトラップされる。その結果、電解質3が封止部4の外側に漏洩しにくくなる。よって、光電変換効率の低下をより十分に抑制することができる。
【0062】
また上記実施形態では、電解質3が、構造体12を作用極1と対極2とによって挟む前に作用極1の上に配置されているが、電解質3は、構造体12を作用極1及び対極2に固定し、封止部4を形成した後に配置することも可能である。この場合、予め作用極1又は対極2に注入用の穴を形成しておき、この注入用の穴を通して電解質3を注入すればよい。
【0063】
さらに上記実施形態では、スペーサ5を接着剤11a,11bで挟んで構造体12を作製してからこの構造体12を作用極1と対極2とで挟み色素増感太陽電池100が製造されているが、スペーサ5を接着剤11a,11bで挟まず、スペーサ5を、作用極1に固定した接着剤13aと、対極2に固定した接着剤13bとで挟むことによっても、色素増感太陽電池100を製造することは可能である。
【0064】
また上記実施形態では、スペーサ5は連続した環状をなしているが、図8に示すように、環状の封止部4に沿って複数のビーズ5aを所定の間隔で配置してなるものであってもよい。即ち環状のスペーサ5は不連続であってもよい。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
(作用極の作製)
基板として、ガラスからなる基板の上にFTOを形成してなるFTO基板を用意した。そして、この基板の表面に、スクリーン印刷法により酸化チタンナノ粒子のペースト(Solaronix社製、Ti nanoixide T/sp)を塗布し、500℃で1時間焼成した。こうして作用極を得た。
【0067】
次に、この作用極を、光増感色素であるN719色素を0.2mM溶かした脱水エタノール液中に一昼夜浸漬し、作用極に光増感色素を担持させた。
【0068】
そして、作用極の周縁部に、ホットメルト接着剤として、幅2mm、厚さ50μmのニュクレル(三井デュポンポリケミカル社製)からなる環状の接着剤を配置して150℃で溶融圧着した。こうして作用極の周縁部に環状の接着剤を固定した。
【0069】
(対極の作製)
対極基板として、厚さ20μmのTi箔を用い、その上にスパッタリング法により白金膜を形成した。こうして対極を得た。そして、白金膜の上に、ホットメルト接着剤として、幅2mm、厚さ50μmのニュクレル(三井デュポンポリケミカル社製)からなる環状の接着剤を配置して150℃で溶融圧着した。こうして対極の周縁部に環状の接着剤を固定した。
【0070】
(構造体の作製)
スペーサとして幅1mm、厚さ75μmのPETフィルムを準備した。そして、幅2mm、厚さ50μmのニュクレル(三井デュポンポリケミカル社製)からなるフィルムを2枚用意した。そして、2枚のフィルムでスペーサを挟み、150℃でフィルム同士を溶融圧着した。こうして、スペーサ全体がニュクレルによって包囲されている構造体を作製した。
【0071】
(色素増感太陽電池の作製)
そして、作用極に固定した環状の接着剤の内側に、ヨウ化リチウム0.1M、ヨウ素0.05M、4−tert−ブチルピリジン0.5Mをメトキシプロピオニトリル中に溶解させた電解質を注入した。そして、作用極と対極の接着剤同士を互いに対向させ、それらの接着剤の間に、上記のようにして得た構造体を挟んだ。そして、作用極に固定された接着剤、及び、対極に固定された接着剤を、3MPa、150℃の条件で溶融圧着した。こうして図1に示すような構造を有する色素増感太陽電池を得た。すなわち、得られた色素増感太陽電池は、スペーサの全体が封止部によって包囲されている構造を有していた。
【0072】
(実施例2〜4)
作用極に固定した接着剤、対極に固定した接着剤、構造体の作製に使用した接着剤として表1に示すものを用いたこと以外は実施例1と同様にして図1に示すような構造を有する色素増感太陽電池を作製した。すなわち、得られた色素増感太陽電池は、スペーサの全体が封止部によって包囲されている構造を有していた。
【0073】
(実施例5〜8)
構造体の代わりにスペーサをそのまま用い、作用極に固定した接着剤、対極に固定した接着剤、構造体の作製に使用した接着剤として表1に示すものを用いると共に、スペーサを作用極及び対極に接着させる際、スペーサと作用極及び対極の各々との間から接着剤を排除するようにしたこと以外は実施例1と同様にして図7に示すような構造を有する色素増感太陽電池を作製した。すなわち、得られた色素増感太陽電池は、スペーサが封止部の内周面と外周面との間に配置され、且つ、スペーサが作用極及び対極と接触している構造を有していた。なお、表1中、「構造体の作製に使用した接着剤」において、「−」は接着剤を使用しなかったことを示す。
【0074】
(比較例1〜4)
作用極に固定した接着剤、対極に固定した接着剤、構造体の作製に使用した接着剤として表1に示すものを用いたこと以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池を作製した。この色素増感太陽電池は、スペーサが封止部の内周面と外周面との間に配置されておらず、且つスペーサが作用極及び対極と接触していない構造を有する色素増感太陽電池であった。言い換えると、この色素増感太陽電池は、スペーサの内周面が電解質と接触し外周面が外気と接触し、且つスペーサが作用極及び対極から離間している構造を有する色素増感太陽電池であった。
【0075】
[特性評価]
実施例1〜8及び比較例1〜4で得られた色素増感太陽電池について、ソーラーシミュレータ(AM1.5、100mW/cm)にて擬似太陽光を500時間照射して、電流電位曲線を得た。そして、この電流電位曲線の結果から光電変換効率を算出した。そして、擬似太陽光を照射する前後の光電変換効率の値から下記式:
光電変換効率の減少率(%)=(η−η)/η)×100
(上記式中、ηは擬似太陽光照射前の光電変換効率を表し、ηは、擬似太陽光を500h照射した後の光電変換効率を表す)
に基づいて光電変換効率の減少率を算出した。結果を表1に示す。
【表1】

【0076】
表1に示す結果より、実施例1〜8の色素増感太陽電池は、比較例1〜4の色素増感太陽電池に比べて、光電変換効率の減少率が極めて小さいことが分かった。
【0077】
このことから、本発明の色素増感太陽電池によれば、光電変換効率の低下を十分に抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0078】
1…作用極
2…対極
3…電解質
4…封止部
4a…内周面
4b…外周面
5…スペーサ
15…スペーサと封止部との界面
100,200…色素増感太陽電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用極と、
前記作用極に対向するように配置される対極と、
前記作用極及び前記対極を連結する環状の封止部と、
前記作用極、前記対極及び前記封止部によって包囲される電解質と、
前記作用極及び前記対極の間に設けられる絶縁性のスペーサとを備え、
前記スペーサが前記封止部の内周面と外周面との間に設けられていることを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項2】
前記スペーサの全体が前記封止部によって包囲されている、請求項1に記載の色素増感太陽電池。
【請求項3】
前記スペーサが、前記作用極及び対極の少なくとも一方に接触している、請求項1に記載の色素増感太陽電池。
【請求項4】
前記作用極及び前記対極の少なくとも一方が可撓性を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池。
【請求項5】
作用極と、
前記作用極に対向するように配置される対極と、
前記作用極及び前記対極を連結する環状の封止部と、
前記作用極、前記対極及び前記封止部によって包囲される電解質と、
前記作用極及び前記対極の間に設けられる絶縁性のスペーサとを備える色素増感太陽電池の製造方法であって、
前記作用極と前記対極とを対向させ、前記作用極と前記対極とによって、環状の接着剤の内周面と外周面との間に絶縁性のスペーサを設けてなり且つ前記スペーサの全体が前記接着剤によって包囲されている構造体を挟む構造体挟持工程と、
前記構造体を加圧しながら加熱することにより前記構造体を前記作用極及び前記対極に接着させて前記封止部を形成すると共に前記作用極、前記対極及び前記封止部によって前記電解質を包囲する封止部形成工程とを含むことを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項6】
前記構造体挟持工程の前に行われ、前記構造体に接着させる環状の接着剤を前記作用極に固定する第1接着剤固定工程と、
前記構造体挟持工程の前に行われ、前記構造体に接着させる環状の接着剤を前記対極に固定する第2接着剤固定工程とをさらに含む、請求項5に記載の色素増感太陽電池の製造方法。
【請求項7】
作用極と、
前記作用極に対向するように配置される対極と、
前記作用極及び前記対極を連結する環状の封止部と、
前記作用極、前記対極及び前記封止部によって包囲される電解質と、
前記作用極及び前記対極の間に設けられる絶縁性のスペーサとを備える色素増感太陽電池の製造方法であって、
前記スペーサに接着させる環状の接着剤を前記作用極に固定する第1接着剤固定工程と、
前記スペーサに接着させる環状の接着剤を前記対極に固定する第2接着剤固定工程と、
前記作用極と前記対極とを対向させ、前記作用極に固定した前記接着剤と前記対極に固定した前記接着剤とによって、絶縁性のスペーサを挟むスペーサ挟持工程と、
前記作用極及び前記対極上に固定した前記接着剤を加圧しながら加熱することにより前記スペーサを前記作用極及び前記対極上に固定した前記接着剤に接着させ、かつ、前記作用極及び前記対極上に固定した前記接着剤同士を接着させて前記封止部を形成すると共に前記作用極、前記対極及び前記封止部によって前記電解質を包囲する封止部形成工程とを含み、
前記封止部形成工程において、前記スペーサが前記封止部の内周面と外周面との間に配置されるように前記封止部が形成される、ことを特徴とする色素増感太陽電池の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−4178(P2013−4178A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130725(P2011−130725)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】