説明

色素太陽電池用作用極及びその製造方法

【課題】色素増感太陽電池の光電変換効率を上昇させることができる色素増感太陽電池用作用極及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】色素増感太陽電池用作用極30であって、チタンを含むチタン含有層37aを少なくとも表面側に有する線状体37を有する基体33と、基体33のチタン含有層37aの表面に直接設けられ、複数の孔34を有すると共にチタニアで構成されるチタニア構造体35と、チタニア構造体35の孔34の内側に収容されるチタニア粒子36と、チタニア構造体35及びチタニア粒子36に担持される光増感色素とを備える色素増感太陽電池用作用極30。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素太陽電池用作用極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子として、安価で、高い光電変換効率が得られることから色素増感太陽電池が注目されており、色素増感太陽電池に関して種々の開発が行われている。
【0003】
色素増感太陽電池は一般に、作用極と、対極と、作用極及び対極の間に配置される電解質とを備えている。ここで、作用極は一般に、基板と、基板の表面上に形成される導電膜と、導電膜上に形成される多孔質酸化物半導体膜とで構成される。そして、導電膜としては、可視光に対する透過性が高く、高い電気伝導性を有することから、スズドープ酸化インジウム(ITO:Indium doped Tin Oxide)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO:Fluorine doped Tin Oxide)などの透明導電膜が使用されている。
【0004】
しかし、ITO、FTOなどの透明導電膜は、色素増感太陽電池の低価格化の妨げとなっており、このような透明導電膜を用いない色素増感太陽電池が求められていた。
【0005】
このような透明導電膜を用いない色素増感太陽電池として、下記非特許文献1に記載のものが知られている。下記非特許文献1には、光増感色素が担持された作用極と、透明導電性基板からなる対極と、作用極と対極との間に配置された電解質とを有する色素増感太陽電池が開示されている。そして、下記非特許文献1には、平面状のチタン基板に、陽極酸化法を用いてチタニアナノチューブを形成してなる構造を有する作用極が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Zhaoyue Liu,Vaidyanathan (Ravi) Subramania and Mano Misra “Dye-Sensitized TiO2 Nanotube SolarCells with Markedly Enhanced Performance via Rational Surface Engineering,”J.Phys.Chem. C, 2009, 113(31), pp 14028-14033
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した非特許文献1に記載の色素増感太陽電池は、チタニアナノチューブで発生した電子をそのままチタン基体に流すことにより、抵抗を低くすることができるものの、以下の課題を有していた。
【0008】
即ち、上記色素増感太陽電池は、光電変換効率が未だ十分とは言えず、光電変換効率の上昇の点で未だ改善の余地があった。そして、このように光電変換効率が十分とは言えない理由について本発明者らは作用極の構造によるものと考えた。
【0009】
従って、色素増感太陽電池の光電変換効率を上昇させることができる色素増感太陽電池用作用極が求められていた。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、色素増感太陽電池の光電変換効率を上昇させることができる色素増感太陽電池用作用極及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した。まず非特許文献1に記載の作用極において、光電変換効率を上昇させるためには、チタニアナノチューブの数を増加させ、チタニアナノチューブの孔径を小さくすることが考えられる。ここで、チタニアナノチューブを形成するには通常、陽極酸化法が用いられる。しかし、チタニアナノチューブの孔径はナノオーダーであるため、陽極酸化法において、孔径を的確にコントロールすることは極めて困難であり、さらに孔径を小さくし過ぎると、孔が塞がってしまい、かえって比表面積を低下させることになると本発明者らは考えた。そこで、本発明者らはさらに鋭意研究を重ねた結果、チタニア粒子をチタニアナノチューブの内側に導入することで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、色素増感太陽電池用作用極であって、チタンを含むチタン含有層を少なくとも表面側に有する線状体を有する基体と、前記基体の前記線状体における前記チタン含有層の表面に直接設けられ、複数の孔を有すると共にチタニアで構成されるチタニア構造体と、前記チタニア構造体の前記孔の内側に収容されるチタニア粒子と、前記チタニア構造体及び前記チタニア粒子に担持される光増感色素とを備える色素増感太陽電池用作用極である。
【0013】
本発明の作用極においては、チタニア構造体の孔の内側にチタニア粒子が設けられている。このため、チタニア粒子がチタニア構造体の孔の内側に収容されていない場合に比べて、チタニアの比表面積を顕著に増加させることができる。このため、チタニア構造体及びチタニア粒子に光増感色素が十分に担持されることとなり、作用極に光が入射した場合に電子を十分に発生させることができる。またチタニア構造体で発生した電子は直接基体に移動するため、抵抗が小さい。さらにチタニア粒子で発生した電子はチタニア構造体を通じて基体に移動する。このとき、チタニア粒子とチタニア構造体とは同一のチタニアで構成されるため、チタニア粒子で発生した電子がチタニア構造体に移動する際の抵抗も小さい。このため、本発明の作用極を、電解質を有する色素増感太陽電池の作用極として使用した場合、色素増感太陽電池の光電変換効率を上昇させることが可能となる。
【0014】
上記作用極においては、前記チタニア粒子の粒径が、前記チタニア粒子を収容する前記孔の径よりも小さいことが好ましい。
【0015】
この場合、チタニア粒子の粒径が、チタニア粒子を収容する孔の径以上である場合に比べて、チタニア粒子が孔を塞ぐことが十分に防止される。このため、作用極が電解質と接触する場合に、電解質中の電子の運び手である酸化還元対が孔に入り込むことが容易となる。このため、チタニア粒子の粒径が、チタニア構造体の孔の径以上である場合に比べて、光電変換効率をより上昇させることができる。
【0016】
上記作用極においては、前記チタニア粒子の平均粒径が5〜100nmであることが好ましい。
【0017】
この場合、チタニア粒子の平均粒径が5nm未満である場合に比べて、光増感色素が吸着しやすいという利点があり、チタニア粒子の平均粒径が100nmを超える場合に比べて、チタニア粒子の比表面積をより増加させることができ、光電変換効率をより上昇させることができる。
【0018】
上記作用極においては通常、前記基体が前記線状体を複数本有する。
【0019】
ここで、複数本の前記線状体によって織物が形成されていることが好ましい。
【0020】
この場合、受光面積を増大させることができる。
【0021】
上記作用極においては、前記基体が、前記チタン含有層の内側に、前記チタン含有層よりも低い抵抗を有する材料からなる本体部をさらに備えることが好ましい。
【0022】
この場合、基体が上記本体部を有しない場合に比べて、基体から、より容易に電流を取り出すことができる。
【0023】
また本発明は、色素増感太陽電池用作用極の製造方法であって、チタンを含むチタン含有層を少なくとも表面側に有する線状体を有する基体を準備する準備工程と、前記基体を陽極酸化することにより、複数の孔を有し、チタニアで構成されるチタニア構造体を前記チタン含有層の表面に直接形成する陽極酸化工程と、前記チタニア構造体の前記孔の内側にチタニア粒子を導入させる粒子導入工程と、前記チタニア構造体及び前記チタニア粒子に光増感色素を担持させる色素担持工程とを含む色素増感太陽電池用作用極の製造方法である。
【0024】
上記製造方法によれば、チタニア構造体の孔の内側にチタニア粒子が導入される。このため、チタニア粒子がチタニア構造体の孔にチタニア粒子が導入されない場合に比べて、チタニアの比表面積を顕著に増加させることができる。このため、色素担持工程において、チタニア構造体及びチタニア粒子に光増感色素を十分に担持させることができ、作用極に光が入射した場合に電子を十分に発生させることができる。またチタニア構造体で発生した電子は直接基体に移動するため、抵抗が小さい。さらにチタニア粒子で発生した電子はチタニア構造体を通じて基体に移動する。このとき、チタニア粒子とチタニア構造体とは同一のチタニアで構成されるため、チタニア粒子で発生した電子がチタニア構造体に移動する際の抵抗も小さい。このため、本発明の製造方法により得られる作用極を、電解質を有する色素増感太陽電池の作用極として使用した場合、色素増感太陽電池の光電変換効率を上昇させることが可能となる。
【0025】
上記製造方法において、前記準備工程が、複数の前記線状体を織ることによって織物を形成する織物形成工程を含むことが好ましい。
【0026】
この場合、受光面積を増大しやすくなる。
【0027】
なお、本発明において、孔の径とは、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察した場合における孔の二次元画像の外周を横切る線のうち最長の線の長さをいうものとする。
【0028】
またチタニア粒子の粒径とは、チタニア粒子をSEMで観察した場合におけるチタニア粒子の二次元画像の外周を横切る線のうち最長の線の長さをいうものとする。
【0029】
さらにチタニア粒子の平均粒径とは、上記チタニア粒子の個々の粒径の平均値であり、具体的には、ランダムに選択した100個の粒子の粒径の平均値を言うものとする。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、色素増感太陽電池の光電変換効率を上昇させることができる色素増感太陽電池用作用極及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る色素増感太陽電池用作用極の一実施形態を適用した色素増感太陽電池を概略的に示す断面図である。
【図2】図1の作用極を示す部分平面図である。
【図3】図1の作用極を示す部分断面図である。
【図4】図1の作用極の基体を示す部分平面図である。
【図5】図1の作用極を構成する線状体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図1〜図5を参照しながら詳細に説明する。
【0033】
図1は色素増感太陽電池用作用極の一実施形態を適用した色素増感太陽電池を概略的に示す断面図、図2は、図1の作用極を示す部分平面図、図3は、図1の作用極を示す部分断面図、図4は、図1の作用極の基体を示す部分平面図、図5は、図1の作用極を構成する線状体を示す断面図である。
【0034】
図1に示すように、色素増感太陽電池100は、光を透過させることが可能な封入袋10と、封入袋10内に収容される電解質20と、封入袋10内に封入され電解質20に浸漬される作用極30と、作用極30と対向して配置され、電解質20に浸漬される対極40と、作用極30と対極40との間に配置されるセパレータ50とを備えている。
【0035】
対極40は、対極基板41と、対極基板41上に設けられる触媒層42と、対極基板41に接合され、封入袋10の外部に引き出される引出電極43とを有している。
【0036】
図2に示すように、作用極30は、作用極本体31と、作用極本体31に接合され、封入袋10の外部に引き出される集電極32とで構成されている。図3に示すように、作用極本体31は、基体33と、基体33に直接設けられ、複数の孔34を有すると共にチタニアで構成されるチタニア構造体35と、チタニア構造体35の孔34の内側に収容されるチタニア粒子36と、チタニア構造体35及びチタニア粒子36に担持される光増感色素(図示せず)とを有している。チタンチタニア構造体35の孔34は、基体33と反対側の表面35aに形成され、チタニア粒子36は孔34の内壁面34aに付着している。
【0037】
図4に示すように、基体33は、複数本の線状体37からなる織物で構成されている。そして、図5に示すように、線状体37は、チタンを含有する筒状のチタン含有層37aと、チタン含有層37aの内側に設けられる本体部37bとを有する。本体部37bは、チタン含有層37aよりも低い抵抗を有する材料で構成されている。
【0038】
以上の構成を有する色素増感太陽電池100によれば、チタニア構造体35の孔34の内側にチタニア粒子36が収容されている。このため、チタニア粒子36がチタニア構造体35の孔34に収容されていない場合に比べて、チタニアの比表面積を顕著に増加させることができる。このため、チタニア構造体35及びチタニア粒子36に光増感色素が十分に担持されることとなり、作用極30に光が入射した場合に電子を十分に発生させることができる。またチタニア構造体35で発生した電子は直接基体33に移動するため、抵抗が小さい。さらにチタニア粒子36で発生した電子はチタニア構造体35を通じて基体33に移動する。このとき、チタニア粒子36とチタニア構造体35とは同一のチタニアで構成されるため、チタニア粒子36で発生した電子がチタニア構造体35に移動する際の抵抗も小さい。このため、封入袋10に入射された光が、作用極30に入射されると、色素増感太陽電池100の光電変換効率を上昇させることが可能となる。
【0039】
また、色素増感太陽電池100においては、基体33が、複数本の線状体37からなる織物で構成されているため、受光面積を増大させることが可能で、柔軟性に富むという利点がある。
【0040】
さらに色素増感太陽電池100においては、基体33において、本体部37bが、チタン含有層37aよりも低い抵抗を有する材料からなる。このため、基体33が上記本体部37bを有しない場合に比べて、基体33から、より容易に電流を取り出すことができる。
【0041】
次に、封入袋10、電解質20、作用極30、対極40及びセパレータ50について詳細に説明する。
【0042】
<封入袋>
封入袋10は、光を透過させることが可能であり且つ電解質20に対して耐久性を有する材料で構成されていればよい。このような材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂が挙げられる。
【0043】
<電解質>
電解質20は通常、電解液で構成され、この電解液は例えばI/Iなどの酸化還元対と有機溶媒とを含んでいる。有機溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、プロピオニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトンなどを用いることができる。酸化還元対としては、例えばI/Iのほか、臭素/臭化物イオンなどの対が挙げられる。色素増感太陽電池100は、酸化還元対としてI/Iのような揮発性溶質及び、高温下で揮発しやすいアセトニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリルのような有機溶媒を含む電解液を電解質として用いた場合に特に有効である。この場合、色素増感太陽電池100の周囲の環境温度の変化により封入袋10の内圧の変化が特に大きくなり、封入袋10から電解質20が漏洩しやすくなるからである。なお、上記揮発性溶媒にはゲル化剤を加えてもよい。また電解質20は、イオン液体と揮発性成分との混合物からなるイオン液体電解質で構成されてもよい。この場合も、色素増感太陽電池100の周囲の環境温度の変化により封入袋10の内圧の変化が大きくなるためである。イオン液体としては、例えばピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等の既知のヨウ素塩であって、室温付近で溶融状態にある常温溶融塩が用いられる。このような常温溶融塩としては、例えば1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドが好適に用いられる。また揮発性成分としては、上記の有機溶媒や、1−メチル−3−メチルイミダゾリウムヨーダイド、LiI、I、4−t−ブチルピリジンなどが挙げられる。さらに電解質20としては、上記イオン液体電解質にSiO、TiO、カーボンナノチューブなどのナノ粒子を混練してゲル様となった擬固体電解質であるナノコンポジットイオンゲル電解質を用いてもよく、また、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド誘導体、アミノ酸誘導体などの有機系ゲル化剤を用いてゲル化したイオン液体電解質を用いてもよい。
【0044】
<作用極>
作用極本体31は、上述したように、複数本の線状体37からなる織物で構成される基体33と、チタニア構造体35と、チタニア粒子36と、光増感色素とを有している。
【0045】
(基体)
線状体37は、チタンを含有するチタン含有層37aを有する。ここで、チタン含有層37aは、チタン単体で構成されてもよいし、チタンと他の金属との合金で構成されてもよい。この場合、他の金属としては、例えばV及びAlなどを挙げることができる。但し、チタン含有層37aはチタン単体で構成されることが耐食性に優れることから好ましい。
【0046】
本体部37bは、チタン含有層37aよりも低い抵抗を有する材料で構成されていればよい。このような材料としては、例えば銅、Alなどを挙げることができる。
【0047】
基体33は、色素増感太陽電池100においては複数本の線状体37からなる織物で構成されているが、基体33は、複数本の線状体37を平行に配置させてなるものであってもよいし、1本の線状体37のみで構成されてもよい。
【0048】
(集電極)
集電極32は、基体33よりも低い抵抗を有する材料で構成されていればよく、このような材料としては、例えばCuなどを挙げることができる。
【0049】
(チタニア構造体)
チタニア構造体35は、ハニカム状であってもよいし、孔34を有する複数本のチタニアナノチューブの集合体で構成されていてもよい。
【0050】
またチタニア構造体35は通常は、多孔質でない。
【0051】
孔34のアスペクト比は好ましくは10〜100であり、より好ましくは50〜100である。ここで、孔34のアスペクト比とは、孔34の径に対するチタニア構造体35の表面35aからの深さの比を言う。
【0052】
孔34の径は好ましくは20〜200nmであり、より好ましくは100〜200nmである。
【0053】
(チタニア粒子)
チタニア粒子36はチタニアで構成される。チタニア粒子36の粒径は、チタニア粒子36を収容する孔34の径よりも小さいことが好ましい。
【0054】
この場合、チタニア粒子36の粒径が、チタニア粒子36を収容する孔34の径以上である場合に比べて、チタニア構造体35における各孔34において、チタニア粒子36が孔34を塞ぐことが十分に防止される。このため、作用極30が電解質20と接触する場合に、電解質20中の電子の運び手である酸化還元対が孔34に入り込むことが容易となる。このため、チタニア粒子36の粒径が、チタニア粒子36を収容する孔34の径以上である場合に比べて、光電変換効率をより上昇させることができる。
【0055】
ここで、チタニア粒子36の平均粒径は5〜100nmであることが好ましく、5〜20nmであることがより好ましい。
【0056】
この場合、チタニア粒子36の平均粒径が5nm未満である場合に比べて、光増感色素が吸着しやすいという利点があり、チタニア粒子36の平均粒径が100nmを超える場合に比べて、チタニア粒子36の比表面積をより増加させることができ、光電変換効率をより上昇させることができる。
【0057】
(光増感色素)
光増感色素としては、例えばN3、ブラックダイなどのルテニウム色素、ポルフィリン、フタロシアニンなどの錯体色素、エオシン、ローダミン、メロシアニンなどの有機色素が挙げられる。
【0058】
<対極40>
対極40は、上述したように、対極基板41と、対極基板41上に設けられる触媒層42と、触媒層42に接合され、封入袋10の外部に引き出される引出電極43とを有している。
【0059】
(対極基板)
対極基板41は、例えばチタン、ニッケル、白金、モリブデン、タングステン等の耐食性の金属からなる導電材料や、ITO、FTO等の導電性酸化物からなる導電材料を、樹脂、ガラスなどの透明基板上に積層したもので構成される。対極基板41の厚さは、色素増感太陽電池100のサイズに応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、例えば0.005mm〜0.1mmとすればよい。
【0060】
(触媒層)
触媒層42は、白金又は炭素系材料などから構成される。なお、対極基板41として白金又は炭素系材料を使用する場合には、触媒層42は省略することも可能である。
【0061】
(引出電極)
引出電極43は、対極基板41を構成する導電材料より低い抵抗を有する材料であることが好ましい。このような材料は、対極基板41を構成する導電材料によって異なるため一概には言えないが、このような材料としては、例えば集電極32と同様のものを用いることができる。
【0062】
なお、対極40は、色素増感太陽電池100においては、対極基板41と触媒層42とを備える板状体となっているが、このような板状体に代えて、金属線を用いて形成される織物であってもよい。金属線としては、例えば白金線や、白金被覆Ti線などを用いることができる。この場合、作用極30及び対極40のいずれの側からも光を入射させることができる。
【0063】
<セパレータ>
セパレータ50は、作用極30と対極40との間の絶縁を確保するためのものである。このため、セパレータ50は、絶縁材料で構成されるものであればよい。このようなセパレータ50としては、例えばポリエチレンなどが挙げられる。
【0064】
次に、色素増感太陽電池100の製造方法について説明する。
【0065】
<作用極の製造>
まず作用極30の製造方法について説明する。
【0066】
(準備工程)
まず複数本の線状体37を準備する。線状体37は、本体部37bにチタン含有層37aを被覆することにより得ることができる。そして、織機により、複数本の線状体37から、織物を形成する。こうして基体33を準備する。
【0067】
そして、基体33に集電極32を取り付ける。集電極32は、例えば抵抗溶接法により基体33に取り付けることができる。なお、抵抗溶接による接合箇所は、図2において、符号32aで示されている。
【0068】
(陽極酸化工程)
次に、基体33を陽極酸化する。これにより、チタニア構造体35を基体33の表面に直接形成する。チタニア構造体35においては、図3に示すように、基体33の陽極酸化により、基体33とは反対側の表面35aに複数の孔34が形成される。基体33の陽極酸化は、例えば以下のようにして行う。まず基体33を正極材に接続する。一方、負極材を用意する。そして、正極材に接続した基体33及び負極材を溶液中に浸漬した後、正極材及び負極材の間に電圧を印加する。
【0069】
このとき、溶液としては、エチレングリコール、エタノールなどからなる溶媒に、フッ化アンモニウム(NHF)、フッ化水素(HF)などを添加したものを用いることができる。
【0070】
正極材としては、例えばチタン箔などを用い、負極材としては、白金などを用いることができる。
【0071】
正極材及び負極材の間に印加する電圧は通常は、10〜50Vとすればよい。また電圧の印加時間は、チタニア構造体35の厚さに応じて大きくすればよい。例えば印加電圧が35Vであり、且つ形成しようとするチタニア構造体35の厚さが1〜10μm程度であれば、電圧の印加時間は、60〜600分間とすればよい。
【0072】
(粒子導入工程)
次に、チタニア構造体35の孔34の内側にチタニア粒子36を導入させる。このとき、チタニア粒子36をチタニア構造体35の孔34の内側に導入させるには、例えばチタニア粒子36を含む溶液中にチタニア構造体35を浸漬し、取り出した後、乾燥させ、最後にチタニア構造体35及びチタニア粒子36を焼結させればよい。あるいは、チタニア粒子36を含むペーストをスクリーン印刷法やスプレー法により、チタニア構造体35に塗布し、焼結させることによっても、チタニア構造体35の孔34の内側に、チタニア粒子36を導入させることが可能である。また泳動電着法によっても、チタニア構造体35の孔34の内側にチタニア粒子36を導入させることは可能である。
【0073】
(色素担持工程)
次に、チタニア構造体35及びチタニア粒子36に光増感色素を担持させる。このためには、チタニア構造体35を、光増感色素を含有する溶液の中に浸漬させ、その光増感色素をチタニア構造体35及びチタニア粒子36に吸着させた後に上記溶液の溶媒成分で余分な光増感色素を洗い流し、乾燥させることで、光増感色素をチタニア構造体35及びチタニア粒子36に吸着させればよい。但し、光増感色素を含有する溶液をチタニア構造体35及びチタニア粒子36に塗布した後、乾燥させることによって光増感色素を酸化物半導体多孔膜に吸着させても、光増感色素をチタニア構造体35及びチタニア粒子36に担持させることが可能である。
【0074】
こうして作用極30が得られる。
【0075】
<対極の製造>
一方、対極40は、例えば以下のようにして得ることができる。
【0076】
即ち対極基板41上に触媒層42を形成した後、対極基板41に引出電極43を取り付けることによって得ることができる。
【0077】
触媒層42を対極基板41に形成する方法としては、例えばスパッタ法、蒸着法などが用いられる。これらのうちスパッタ法が膜の均一性の点から好ましい。
【0078】
引出電極43は、対極基板41に対し、例えば抵抗溶接によって取り付けることができる。
【0079】
他方、封入袋10を用意する。このとき、封入袋10としては、開口を有する状態のものを用意する。そして、封入袋30内に開口を通して電解質20を収容する。
【0080】
次に、作用極30及び対極40の間にセパレータ50を挿入し、これらを、封入袋10の開口から挿入する。こうして、作用極30、対極40及びセパレータ50は、電解質20中に浸漬されることになる。
【0081】
最後に、封入袋10を封止する。こうして色素増感地用電池100の製造が完了する。
【0082】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、封入袋10内に電解質20が収容され、その電解質20中に作用極30及び対極40が浸漬されているが、封入袋10は必ずしも必要ではない。例えば作用極30及び対極40が封止部で封止され、作用極30、対極40及び封止部によって囲まれる空間に電解質20が充填されていてもよい。
【0083】
また上記実施形態では、線状体37がチタン含有層37aと、その内側の本体部37bとで構成され、本体部37bがチタン含有層37aよりも低い抵抗を有する材料で構成されているが、本体部37bは、チタン含有層37aと同一の抵抗を有するものであってもよい。例えばチタン含有層37aと本体部37bとが同一の材料(例えばチタン単体)で構成されてもよい。また本体部37bは、チタン含有層37aより高い抵抗を有するものであってもよい。
【0084】
さらに上記実施形態では、基体33が、複数本の線状体37によって形成される織物で構成されているが、織物で構成される必要はなく、1本の線状体37によって構成されていてもよいし、複数本の線状体を平行に並べて構成されていてもよい。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0086】
(実施例1)
はじめに、直径6mmのCu線を厚さ500μmのTi層で被覆してなる線材を準備した。次に、この線材を直径0.05mmとなるまで伸線加工して線状体であるTi被覆Cu線を得た。そして、Ti被覆Cu線を、織機を用いて100mm×100mmの正方形のメッシュ状電極を形成した。一方、10mm×150mm×0.05mmのTi箔を集電極として用意した。そして、メッシュ状電極の一辺に集電極を重ね合わせ、抵抗溶接法によりメッシュ状電極に集電極をスポット溶接した。こうして集電極付きの基体を得た。
【0087】
上記のようにして得られた集電極付きの基体を、フッ酸で洗浄した後、エチレングリコールからなる溶媒100質量部に対して0.3質量部のNHFを添加してなる溶液中に浸漬した。溶液にはTiからなる正極板と、Ptからなる負極板を浸漬し、正極板と、基体とを接続した。そして、正極板と負極板との間に35Vの電圧を120分間印加し、集電極付き基体の陽極酸化を行った。この陽極酸化により、基体の各線状体の全面に、深さ約2μm、孔径が90nm、壁厚が約10nmのハニカム状のチタニア構造体が形成された。こうして陽極酸化基体を得た。
【0088】
次に、上記陽極酸化基体を、平均粒径5nmのチタニア粒子を5質量%分散させたエタノール溶液中に浸漬し、取り出した後に自然乾燥させ、大気中にて500℃で1時間の焼結を行った。こうしてチタニア構造体の孔の内側にチタニア粒子を導入させ、作用極本体を得た。このとき、透過型電子顕微鏡(TEM)にてチタニア構造体の断面を観察したところ、チタニア構造体の孔の内側に多数のチタニア粒子が収容されていることが確認された。
【0089】
次に、この作用極本体を、120℃のオーブン中で10分間保持し、作用極本体に吸着した水を蒸発させた。その後、この作用極本体を、1:1(体積比)で混合したアセトニトリル及びtert−ブタノールの混合溶媒を含み、ルテニウム色素であるN719(Ruhtenium535-bisTBA)の濃度を0.3mMとした色素溶液中に浸漬し、室温で24時間放置した。こうしてチタニア構造体及びチタニア粒子に上記色素を担持させ、作用極を得た。そして、作用極を色素溶液から引き上げた後、上記混合溶媒で洗浄した。
【0090】
次に、10cm×10cm×0.1mmのTi箔を用意し、このTi箔に、三次元RFスパッタ装置を用いてPtを蒸着させ、厚さ200nmのPt層を形成した。そして、最後に、Ti箔に対し、10mm×150mm×0.05mmの引出電極を抵抗溶接により接合させた。こうして対極を得た。
【0091】
一方、120mm×120mm×0.05mmのPETからなる透明な樹脂フィルムを2枚用意した後、これらの樹脂フィルムを重ね合わせ、1辺の縁部同士をヒートシールせず、残りの3辺にて縁部同士をヒートシールさせ、1つの開口を有する封入袋を用意した。
【0092】
続いて、封入袋内に、メトキシプロピオニトリル(MPN)10ml中に、0.3777gのI(0.15M)、2.128gの1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド(0.8M)、0.1182gのグアニジンチオシアネート(0.1M)、0.6609gのN−メチルベンズイミダゾール(0.5M)を添加してなる電解質を注入し、続いて、作用極及び対極を封入袋に収容し、電解質に浸漬させた。なお、作用極及び対極の間にはポリエチレン製のメッシュからなるセパレータを挿入した。
【0093】
最後に、作用極の集電極及び対極の引出電極を、封入袋の開口を形成する縁部で挟み、その縁部同士をヒートシールした。こうして色素増感太陽電池を得た。
【0094】
(実施例2)
チタニア粒子の平均粒径を20nmとしたこと以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池を得た。なお、実施例1と同様にして、TEMにてチタニア構造体の断面を観察したところ、チタニア構造体の孔の内側に多数のチタニア粒子が収容されていることが確認された。
【0095】
(実施例3)
チタニア粒子の平均粒径を50nmとしたこと以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池を得た。なお、実施例1と同様にして、TEMにてチタニア構造体の断面を観察したところ、チタニア構造体の孔の内側に多数のチタニア粒子が収容されていることが確認された。
【0096】
(比較例1)
チタニア粒子の平均粒径を120nmとしたこと以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池を得た。なお、実施例1と同様にして、TEMにてチタニア構造体の断面を観察したところ、チタニア構造体の孔の内側にはチタニア粒子が収容されていいことが確認された。
【0097】
(比較例2)
チタニア粒子をチタニア構造体の孔の内側に導入しなかったこと以外は実施例1と同様にして色素増感太陽電池を得た。
【0098】
[特性評価]
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた色素増感太陽電池に対し、ソーラーシミュレータ(AM1.5、100mW/cm)にて光を照射して、電流電位曲線を得た。そして、この電流電位曲線の結果から光電変換効率を算出した。結果を表1に示す。
【表1】

【0099】
表1に示す結果より、実施例1〜3の色素増感太陽電池は、比較例1〜2の色素増感太陽電池に比べて、光電変換効率が顕著に高いことが分かった。
【0100】
このことから、本発明の色素増感太陽電池用作用極によれば、色素増感太陽電池の光電変換効率を十分に上昇させることができることが確認された。
【符号の説明】
【0101】
20…電解質
30…作用極
33…基体
34…孔
35…チタニア構造体
36…チタニア粒子
37…線状体
37a…チタン含有層
37b…本体部
40…対極
100…色素増感太陽電池


【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素増感太陽電池用作用極であって、
チタンを含むチタン含有層を少なくとも表面側に有する線状体を有する基体と、
前記基体の前記線状体における前記チタン含有層の表面に直接設けられ、複数の孔を有すると共にチタニアで構成されるチタニア構造体と、
前記チタニア構造体の前記孔の内側に収容されるチタニア粒子と、
前記チタニア構造体及び前記チタニア粒子に担持される光増感色素と、
を備える色素増感太陽電池用作用極。
【請求項2】
前記チタニア粒子の粒径が、前記チタニア粒子を収容する前記孔の径よりも小さい、請求項1に記載の色素増感太陽電池用作用極。
【請求項3】
前記チタニア粒子の平均粒径が5〜100nmである、請求項2に記載の色素増感太陽電池用作用極。
【請求項4】
前記基体が前記線状体を複数本有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池用作用極。
【請求項5】
複数本の前記線状体によって織物が形成されている、請求項4に記載の色素増感太陽電池用作用極。
【請求項6】
前記基体が、前記チタン含有層の内側に、前記チタン含有層よりも低い抵抗を有する材料からなる本体部をさらに備える請求項1〜5のいずれか一項に記載の色素増感太陽電池用作用極。
【請求項7】
色素増感太陽電池用作用極の製造方法であって、
チタンを含むチタン含有層を少なくとも表面側に有する線状体を有する基体を準備する準備工程と、
前記基体を陽極酸化することにより、複数の孔を有し、チタニアで構成されるチタニア構造体を前記チタン含有層の表面に直接形成する陽極酸化工程と、
前記チタニア構造体の前記孔の内側にチタニア粒子を導入させる粒子導入工程と、
前記チタニア構造体及び前記チタニア粒子に光増感色素を担持させる色素担持工程と、
を含む色素増感太陽電池用作用極の製造方法。
【請求項8】
前記準備工程が、複数の前記線状体を織ることによって織物を形成する織物形成工程を含む、請求項7に記載の色素増感太陽電池用作用極の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−30331(P2013−30331A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165007(P2011−165007)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】