説明

芝地におけるサッチ層の堆積抑制方法

【課題】芝地におけるサッチ層の堆積抑制方法を提供すること。
【解決手段】被覆粒状窒素肥料(a)及び25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が被覆粒状窒素肥料(a)の80%溶出期間より30〜100日長い被覆粒状窒素肥料(b)を含有する肥料組成物、好ましくは被覆粒状窒素肥料(a)及び被覆肥料組成物(b)が被覆粒状尿素であり、被覆粒状窒素肥料(a)と被覆肥料組成物(b)との比率が3:7〜7:3である肥料組成物を、生育期初期の芝草に施用することを特徴とする芝地におけるサッチ層の堆積抑制方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芝地におけるサッチ層の堆積抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフ場、公園等のような芝地において、芝草の刈りかすや、枯死した芝草の茎、葉、根等が集積し、分解しないで残っている有機物をサッチといい、層状に形成されたサッチの堆積部分をサッチ層という。芝地においてサッチ層が形成されると、水分、空気、肥料、農薬等の土壌への移行が妨げられて、芝草が弱ったり、芝草病害の菌の巣となったりするので、芝草の管理においては芝地におけるサッチ層を過度に堆積させないことが重要である。
サッチ層の堆積抑制方法としては、芝草の刈りかすを機械的に除去する方法や、サッチを分解する特殊な菌体組成物を施用する方法等(例えば、特許文献1)が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−225748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、刈りカスの除去や菌体組成物の施用等、サッチ層の堆積抑制する為の新たな作業が増加し、芝草の生育管理作業はより煩雑である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者はそのような状況において、芝地におけるサッチ層の堆積抑制する方法を鋭意検討し、本発明に至った。
【0006】
即ち、本発明は以下の発明を含む。
[発明1]
芝地におけるサッチ層の堆積抑制のための、
被覆粒状窒素肥料(a)及び25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が被覆粒状窒素肥料(a)より30〜100日長い被覆粒状窒素肥料(b)を含有する肥料組成物の使用。
[発明2]
被覆粒状窒素肥料(a)及び被覆粒状窒素肥料(b)が被覆粒状尿素である発明1記載の使用。
[発明3]
被覆粒状窒素肥料(a)と被覆粒状窒素肥料(b)との比率が、含有される窒素肥料成分換算で3:7〜7:3の比率である発明1又は2記載の使用。
[発明4]
被覆粒状窒素肥料(a)の25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が40〜120日である発明1〜3のいずれか記載の使用。
[発明5]
被覆粒状窒素肥料(a)及び25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が被覆粒状窒素肥料(a)の80%溶出期間より30〜100日長い被覆粒状窒素肥料(b)を含有する肥料組成物を、生育期初期の芝草に施用することを特徴とする芝地におけるサッチ層の堆積抑制方法。
[発明6]
被覆粒状窒素肥料(a)及び被覆粒状窒素肥料(b)における窒素肥料成分の合計量が1m2当り3〜15gであることを特徴とする発明5記載の方法。
[発明7]
被覆粒状窒素肥料(a)及び被覆粒状窒素肥料(b)が被覆粒状尿素である発明5又は6記載の方法。
[発明8]
被覆粒状窒素肥料(a)と被覆粒状窒素肥料(b)との比率が、含有される窒素肥料成分換算で3:7〜7:3の比率である発明5〜7のいずれか記載の方法。
[発明9]
被覆粒状窒素肥料(a)の25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が40〜120日である発明5〜8のいずれか記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法により、芝地におけるサッチ層の堆積抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明を詳しく説明する。
本発明において、芝地に生育する芝草とは日本のゴルフ場や公園において栽培されている地上を這う根茎を有するイネ科の草を意味し、具体的にはベントグラス(Agrostis stolonifera、Agrostis tenuis)、ノシバ(Zoysia japonica)、コウライシバ(Zoysia matrella)、ビロードシバ(Zoysia tenuifolia)、バミューダグラス(Cynodon dactylon)、ブルーグラス(Poa annua、Poa pratensis、Poa trivialis)、ライグラス(Loium perenne)等が挙げられる。
芝草における生育期(通常、気温が生育適温域にあり、繁殖期に相当する期間)及び休眠期若しくは生育衰退期の時期及びその割合は、芝草の種類及び地域により多少変化するが、例えば暖地型芝草であるコウライシバの生育期は本州以南において3月〜12月の期間が生育期であり、寒地型芝草であるベントグラス及びブルーグラスは北海道や高冷地においては4月〜11月の期間、本州以南においては3月〜12月の期間が生育期である。
本発明において、芝草の生育期初期とは上記の芝草の生育期における最初の2〜3.5ヶ月の期間を意味する。
【0009】
本発明において、芝地におけるサッチ層の堆積抑制のために用いられる肥料組成物は、25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間(以下、溶出持続期間と記す。)が30〜100日異なる被覆粒状窒素肥料を2種類含有するが、本発明においては溶出持続期間が短い被覆粒状肥料を被覆粒状肥料(a)、溶出持続期間が長い被覆粒状肥料を被覆粒状肥料(b)と記す。
本発明において、被覆粒状窒素肥料(a)は溶出持続期間が40〜150日であることが好ましく、被覆粒状窒素肥料(b)の溶出持続期間が被覆粒状窒素肥料(a)の溶出持続期間よりも40〜80日長いことが好ましい。
本発明において、溶出持続期間は下記のような方法にて求めることができる。
まず、被覆粒状窒素肥料の7.50gをサンプル瓶に計り取り、蒸留水100mlを加える。その後、25℃で一定期間毎に上澄み液0.5mlを分取して、水中に溶出した窒素肥料成分の量を測定する。以下の式に従って溶出率(%)を算出して、溶出率の変化を記録して、80%相当量の窒素肥料成分が溶出するまでの期間を求める。
溶出率(%)=(水中に溶出した尿素の重量/尿素の全重量)×100
【0010】
本発明において、被覆粒状窒素肥料(a)及び被覆粒状窒素肥料(b)はいずれも通常、窒素肥料成分を含有する粒状肥料の表面を樹脂の被膜で被覆することにより製造することができる。その樹脂被覆の方法としては特に限定されず、公知の方法により被覆することができるが、例えば特開平9−208355号公報に記載されているように、攪拌装置自身の回転により、粒状肥料を転動させながら、未硬化の熱硬化性樹脂を添加し、粒状肥料の表面にて樹脂を硬化させて被膜を形成する方法や、特開平10−158084号公報に記載されているように、噴流塔内にて粒状肥料を噴流状態とし、熱可塑性樹脂の溶液を噴霧し、熱風にて溶媒を除去することにより被膜を形成する方法等を用いることができる。
被覆粒状窒素肥料(a)及び被覆粒状窒素肥料(b)に用いられる被膜材としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。また、特開昭63−147888号、特開平2−275792号、特開平4−202078号、特開平4−202079号、特開平5−201787号、特開平6−56567号、特開平6−87684号、特開平6−191980号、特開平6−191981号、特開平6−87684号等に開示された各種の被覆材を挙げることができる。
【0011】
被覆粒状窒素肥料(a)及び被覆粒状窒素肥料(b)は、いずれも窒素肥料成分を含有するが、窒素肥料成分を含有する化合物としては、例えば尿素、硝酸アンモニウム、硝酸苦土アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硝酸ソーダ、硝酸カルシウム、硝酸加里、石灰窒素等が挙げられる。
本発明において、被覆粒状窒素肥料(a)及び被覆粒状窒素肥料(b)としては被覆粒状尿素が好ましい。
【0012】
本発明の方法において、使用される肥料組成物(以下、本肥料組成物と記す。)は被覆粒状窒素肥料(a)及び被覆粒状窒素肥料(b)を含有するが、好ましくは含有される窒素肥料成分換算で、被覆粒状窒素肥料(a):被覆粒状窒素肥料(b)=3:7〜7:3の比率である。
また、本肥料組成物には、溶出が制御されていない無被覆肥料を更に含有していてもよい。本肥料組成物が無被覆肥料を含有する場合には、無被覆肥料に含有される窒素肥料成分は、本肥料組成物に含有される窒素肥料成分の1/2以下であることが好ましい。
【0013】
無被覆肥料に含有されていてもよい肥料としては、リン酸、カリウム、珪素、マグネシウム、カルシウム、マンガン、ホウ素、鉄等の他の肥料成分を含有する化合物が挙げられる。
リン酸肥料成分を含有する化合物としては、例えば過リン酸石炭、重過リン酸石炭、苦土過リン酸、リン酸アンモニウム、苦土リン酸、硫リン安、リン硝安カリウム、塩リン安等が挙げられる。カリウム肥料成分を含有する化合物としては、例えば塩化カリウム、硫酸カリウム、硫酸カリソーダ、硫酸カリ苦土、重炭酸カリウム、リン酸カリウム、硝酸カリウム等が挙げられる。珪素肥料成分を含有する化合物としては、例えば珪酸カルシウム、珪酸カリウム等が挙げられる。マグネシウム肥料成分を含有する化合物としては、腐植酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
また無被覆肥料は肥料取締法で定められている有機質肥料が配合されていてもよい。有機質肥料としては、例えば、魚かす、魚荒かす、干魚肥料、魚節煮粕、肉粕、肉骨粉、蒸製てい角粉、蒸製毛粉、乾血、蒸製皮革粉、干蚕蛹、蚕蛹油かす、絹紡蚕蛹くず、大豆油かす、菜種油かす、米ぬか油かす、アミノ酸副産物、乾燥酵母、乾燥菌体、醗酵副産物、活性汚泥、醗酵乾ぷん、加工家きんふん等が挙げられる。
【0014】
本肥料組成物において、窒素肥料成分の他にリン酸肥料成分とカリウム肥料成分とを含有していることが好ましく、窒素肥料成分とリン酸肥料成分との比が10:2〜10:7(N:P25)の範囲、窒素肥料成分とカリウム肥料成分との比が10:2〜10:7(N:K2O)の範囲であることが更に好ましい。
【0015】
本発明の方法は通常、生育期初期の芝草に本肥料組成物を施用するが、被覆粒状窒素肥料(a)及び被覆粒状窒素肥料(b)における窒素肥料成分の合計量として、芝草の生育面積1m2当り3〜15gであることが好ましい。本発明の方法において、本肥料組成物は芝草の生育期全体を通じて、生育期初期に1回施用することで、芝草の生育に十分な量の肥料成分を供給することができ、芝草の生育管理作業は簡略化される。
本発明にように、溶出持続期間の異なる被覆粒状窒素肥料(a)及び被覆粒状窒素肥料(b)を組合わせて使用することにより、芝地土壌における窒素肥料成分の濃度の変動を小さくすることができ、これにより芝地土壌に本来存在するサッチの分解菌が盛んに増殖して、サッチを分解するのでサッチ層の堆積抑制することができる。
【実施例】
【0016】
以下に実施例にて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
参考例1(本肥料組成物1の調製)
溶出持続期間が約50日である被覆粒状尿素と溶出持続期間が約100日である被覆粒状尿素とを、窒素肥料成分換算で4:6の比率で混合した。更に、該混合物に窒素、リン酸及びカリウムを含有する無被覆粒状化成肥料を更に加え、混合して本肥料組成物1を調製した。
本肥料組成物1において、窒素肥料成分の約28%は溶出持続期間が約50日である被覆粒状尿素に由来し、窒素肥料成分の約41%は溶出持続期間が約100日である被覆粒状尿素に由来する。
【0017】
参考例2(本肥料組成物2の調整)
溶出持続期間が約100日である被覆粒状尿素と溶出持続期間が約140日である被覆粒状尿素とを、窒素肥料成分換算で3:7の比率で混合した。更に、該混合物に窒素、リン酸及びカリウムを含有する無被覆粒状化成肥料を更に加え、混合して本肥料組成物2を調製した。
本肥料組成物2において、窒素肥料成分の約15%は溶出持続期間が約100日である被覆粒状尿素に由来し、窒素肥料成分の約36%は溶出持続期間が約140日である被覆粒状尿素に由来する。
【0018】
参考例3(本肥料組成物3の調整)
溶出持続期間が約100日である被覆粒状尿素と溶出持続期間が約220日である被覆粒状尿素とを、窒素肥料成分換算で5:5の比率で混合した。更に、該混合物に窒素、リン酸及びカリウムを含有する無被覆粒状化成肥料を更に加え、混合して本肥料組成物3を調製した。
本肥料組成物3において、窒素肥料成分の約37%は溶出持続期間が約100日である被覆粒状尿素に由来し、窒素肥料成分の約37%は溶出持続期間が約220日である被覆粒状尿素に由来する。
【0019】
試験例1
福岡県内の芝地(芝草の種類:コウライシバ)に、表1に示される肥料を施用し、同年の11月下旬に当該芝地におけるサッチ層の厚さを測定した。
【0020】
【表1】

*1:化成肥料の配合割合は、N:P:K=10:10:10。
【0021】
サッチ層の厚さは、実施例1では2.5cmであり、比較例1では5.5cmであった。
【0022】
試験例2
群馬県内の芝地(芝草の種類:コウライシバ)に、表2に示される窒素肥料を施用し、同年の11月上旬にサッチ層の厚さを測定した。
【0023】
【表2】

【0024】
サッチ層の厚さは、実施例2では3.5cmであった。
【0025】
試験例3
北海道内の芝地(芝草の種類:西洋芝)に、表3に示される窒素肥料を施用し、同年の10月下旬にサッチ層の厚さを測定した。
【0026】
【表3】

【0027】
サッチ層の厚さは、実施例3では2.0cmであった。
【0028】
試験例4
千葉県内の芝地(芝草の種類:コウライシバ)に、表4に示される窒素肥料を施用し、同年の11月上旬にサッチ層の厚さを測定した。
【0029】
【表4】

【0030】
サッチ層の厚さは、実施例3では2.5cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の方法により、芝地におけるサッチ層の堆積抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芝地におけるサッチ層の堆積抑制のための、
被覆粒状窒素肥料(a)及び25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が被覆粒状窒素肥料(a)より30〜100日長い被覆粒状窒素肥料(b)を含有する肥料組成物の使用。
【請求項2】
被覆粒状窒素肥料(a)及び被覆粒状窒素肥料(b)が被覆粒状尿素である請求項1記載の使用。
【請求項3】
被覆粒状窒素肥料(a)と被覆粒状窒素肥料(b)との比率が、含有される窒素肥料成分換算で3:7〜7:3の比率である請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
被覆粒状窒素肥料(a)の25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が40〜120日である請求項1〜3のいずれか記載の使用。
【請求項5】
被覆粒状窒素肥料(a)及び25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が被覆粒状窒素肥料(a)の80%溶出期間より30〜100日長い被覆粒状窒素肥料(b)を含有する肥料組成物を、生育期初期の芝草に施用することを特徴とする芝地におけるサッチ層の堆積抑制方法。
【請求項6】
被覆粒状窒素肥料(a)及び被覆粒状窒素肥料(b)における窒素肥料成分の合計量が1m2当り3〜15gであることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
被覆粒状窒素肥料(a)及び被覆粒状窒素肥料(b)が被覆粒状尿素である請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
被覆粒状窒素肥料(a)と被覆粒状窒素肥料(b)との比率が、含有される窒素肥料成分換算で3:7〜7:3の比率である請求項5〜7のいずれか記載の方法。
【請求項9】
被覆粒状窒素肥料(a)の25℃水中における窒素肥料成分の80%溶出期間が40〜120日である請求項5〜8のいずれか記載の方法。

【公開番号】特開2008−154516(P2008−154516A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347306(P2006−347306)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】