説明

芝用塗料組成物

【課題】この発明は、十分な隠ぺい性をもち、芝の発育への影響が少なく、芝への固着性に優れ、且つ繰り返し塗装が可能な芝用塗料組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の芝用塗料組成物は、着色顔料、体質顔料、及び有機皮膜形成成分を含有し、顔料容積濃度(PVC)が65〜90%あり、且つ前記着色顔料と前記体質顔料との含有比率(着色顔料の質量/体質顔料の質量)が2/2〜4/2であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、競技場等の天然芝へのラインマーキングに利用可能な塗料組成物、及び塗料組成物を用いた画線方法に関する。
また、この発明の塗料組成物は、競技場等の天然芝だけではなく、あらゆる天然芝及び人工芝等の塗装に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
競技場や広場などには天然芝が広く用いられている。これらの天然芝へのラインマーキングには、石灰や炭酸カルシウム等の粉末を散布する方法、合成樹脂製等の白色テープを粘着剤で貼り付ける方法、前記白色テープを固定具によって固定する方法、又は塗料を塗装する方法等が取られていた。
【0003】
しかし、白色テープを用いる方法は、競技場におけるスポーツ用のラインマーキングとしては用いることはできない。また、スポーツ用のラインマーキングとして使用可能な石灰や炭酸カルシウム等の粉末を散布する方法は、芝への固着性が悪いために降雨や風、又は人の歩行等によって、前記粉末が流失してしまい、施工されたラインが長持ちしないといった問題点があった。
【0004】
そこで、芝への固着性が高く、スポーツ用として利用可能な塗料型のラインマーキング材が求められており、このようラインマーキング材として、特許文献1、及び特許文献2がある。
【0005】
しかし、特許文献1、及び特許文献2のラインマーキング材は、長期的な使用における芝の発育への影響について十分な検討はされていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−18651号公報(「特許請求の範囲」等)
【特許文献2】特開平9−272818号公報(「特許請求の範囲」等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
塗料型のラインマーキング材に酸化チタン等の着色顔料を多く用いた場合には、該ラインマーキング材によって土壌が着色されてしまう現象がみられることがあった。また、前記着色顔料は、石灰や炭酸カルシウム等の粉末を散布するラインマーキング方法に用いられる粉末と比べて粒子径が小さいため、繰り返し使用した場合には、土壌に浸透して凝集し、該土壌の水はけを悪くすることがあった。そして、水はけが悪くなることによって芝の発育に悪影響がみられることがあった。
【0008】
本発明者は、着色顔料としての酸化チタン、有機皮膜形成成分としての酢酸ビニル樹脂エマルション(ガラス転移温度Tg:20℃)、溶媒としての水の添加剤からなり、顔料容積濃度(PVC)が85%の塗料組成物によって、天然芝(ケンタッキーブルーグラス)にライン状の塗装を施した。なお、塗料組成物の塗布量は、固形分換算で50g/mであった。この塗装は1週間程度で視認性が低下したため、前記塗料組成物を塗装した部分に、再び前記塗料組成物を塗装した。
以上のように1週間毎の再塗装を12回繰り返した。そして、最後の塗装を行った後に1週間静置して、前記塗料組成物を塗装した部分の状態を観察した。その結果、前記塗料組成物を塗装していた部分の土壌の表面は白色をしており、更に白色の粉状物質が薄い層状に凝集していた。また、前記塗料組成物を塗装した部分の芝は、塗装をしなかった部分の芝に比較すると、発育が悪く、芝の葉の密度に違いが見られた。
【0009】
この発明は、以上に述べたような問題点に着眼してなされたものである。
この発明は、十分な隠ぺい性をもち、芝の発育への影響が少なく、芝への固着性に優れ、且つ繰り返し塗装が可能な芝用塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の芝用塗料組成物は、着色顔料、体質顔料、及び有機皮膜形成成分を含有する塗料組成物であって、顔料容積濃度(PVC)が65〜90%あり、且つ前記着色顔料と前記体質顔料との含有比率(着色顔料の質量/体質顔料の質量)が2/2〜4/2であることを特徴とする芝用塗料組成物である。
また、前記芝用塗料組成物に用いられる前記体質顔料は、粒子径が0.5〜3μmであることが好ましい。
【0011】
また、前記芝用塗料組成物は、天然芝対して、固形分換算で20〜130g/mの塗布量で塗装して用いる。
【発明の効果】
【0012】
PVC及び前記着色顔料と前記体質顔料との含有比率が上記範囲にある本発明の芝用塗料組成物によれば、十分な隠ぺい性をもち、芝の発育への影響が少なく、芝への固着性に優れ、且つ繰り返し塗装が可能な芝用塗料組成物を提供することができる。
【0013】
また、上記粒子径の体質顔料を用いることで、隠ぺい性に優れた芝用塗料組成物を提供することができる。
【0014】
また、芝用塗料組成物を前記塗布量で塗装することによって、隠ぺい性に優れ、且つ芝の発育に悪影響を及ぼさないラインマーキングを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の芝用塗料組成物について詳細に説明する。
前記芝用塗料組成物とは、天然芝にライン等の標示を描くために用いる塗料組成物である。そのため、該塗料組成物を芝に塗装することによる芝の発育への影響を考慮する必要があり、一般的な塗料にはない技術的課題を有する。
【0016】
本発明の芝用塗料組成物は、着色顔料、体質顔料、有機皮膜形成成分、及び溶媒を含有するものである。更に、必要に応じて、その他の添加剤を添加してもよい。
【0017】
そして、本発明の芝用塗料組成物は、顔料容積濃度(PVC)が65〜90%(さらに望ましくは65〜80%)で、且つ前記着色顔料と前記体質顔料との含有比率(着色顔料の質量/体質顔料の質量)が2/2〜4/2(さらに望ましくは2.5/2〜3.5/2)である。なお、前記PVCとは、前記芝用塗料組成物によって形成される乾燥塗膜の全容積に占める顔料の容積(前記着色顔料の容積と前記体質顔料の容積との和)の割合を百分率で示したものである。
【0018】
前記PVCが大きすぎると、前記芝用塗料組成物による乾燥塗膜の芝への固着性が十分ではなく、前記芝用塗料組成物によって形成された乾燥塗膜が芝から剥がれ易くなる。
【0019】
逆に、前記PVCが小さすぎると、芝の発育に悪影響がみられることがある。なお、芝の発育への悪影響とは、具体的には、芝の発育が悪く、周囲の芝と比較して、芝の葉の密度や、芝の葉や茎の色に違いが見られる現象が生じることである。PVCが小さすぎる場合に、芝の発育に悪影響がみられるのは、前記芝用塗料組成物に含まれる有機皮膜形成成分の含有率が増えることによって、乾燥塗膜の通気性や透湿性が落ちることや、乾燥塗膜の芝への密着力が強くなりすぎることが原因と思われる。
また、前記PVCが小さすぎると、芝用塗料組成物によって形成された乾燥塗膜の隠ぺい性が十分でない場合がある。
また、前記PVCが65〜80%であれば、前記芝用塗料組成物は、固着性が特に優れたものとなる。
【0020】
また、前記含有比率において、前記体質顔料に対する前記着色顔料の比率が小さすぎると、芝用塗料組成物によって形成された塗膜の隠ぺい性が十分でない。
【0021】
逆に、前記体質顔料に対する前記着色顔料の比率が大きすぎると、前記芝用塗料組成物を同じ位置に繰り返して塗装した場合に、前記芝用塗料組成物を塗装していた部分の土壌の表面が着色顔料によって着色される現象がみられる場合がある。標示を描いた土壌の表面が着色されてしまうと、その標示を消し去ることが困難になる。例えば、多目的な用途に用いられる競技場においては、競技場をある競技で使用するために施工した標示を、競技場を別の競技で使用する際には消去しなければならない。従って、標示の消去が困難になるこのような現象は好ましくない。
また、前記体質顔料に対する前記着色顔料の比率が大きすぎると、芝用塗料組成物を塗装した部分の土壌の水はけが悪くなり、芝の発育に悪影響がみられることがある。
また、前記着色顔料として酸化チタン、黄鉛、亜鉛華、黄色酸化鉄、ベンガラ等の比重の大きい(比重4.0以上)無機顔料を用いた場合では、前記体質顔料に対する前記着色顔料の比率が大きすぎると、前記芝用塗料組成物を長期間貯蔵した場合や、前記芝用塗料組成物を塗装のために希釈したときに、着色顔料が沈降してしまうことがある。
【0022】
前記着色顔料としては、酸化チタン、黄鉛、亜鉛華、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムエロー、酸化クロム、プルシアンブルー、コバルトブルー等の無機顔料、アゾ顔料、ジケトピロロピロール顔料、ベンズイミダゾロン顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリン顔料、イソインドリノン顔料、スレン系顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジオキサン系顔料等の有機顔料を用いることができる。
なお、前記着色顔料の粒子径は、一般的には0.01〜0.24μm(「顔料便覧」1989年3月10日(株)誠文堂新光社、日本顔料技術協会編より抜粋)である。
【0023】
前記体質顔料としては、タルク、クレー、カオリン、バリタ、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ粉、アルミナホワイト、珪藻土等を用いることができる。
【0024】
また、前記体質顔料として、粒子径0.5〜3μmのものを用いることが好ましく、粒子径0.7〜2.5μmのものを用いることがより好ましく、粒子径0.8〜2.0μmのものを用いることがより好ましい。
前記粒子径が大きすぎると、前記芝用塗料組成物のPVC、及び前記着色顔料と前記体質顔料との含有比率を上記した範囲に調整した場合に、前記芝用塗料組成物を芝に塗装して得られる乾燥塗膜の隠ぺい性が十分でない場合がある。
逆に、前記粒子径が小さすぎると、前記芝用塗料組成物を塗装した部分の土壌の水はけが悪くなり、芝の発育に悪影響がみられることがある。
前記粒子径が上記の大きさであれば、隠ぺい性に優れ、芝に悪影響を及ぼさない芝用塗料組成物を得ることができる。
【0025】
前記有機皮膜形成成分としては、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂などの合成樹脂を単独又は共重合したものを水に分散させた合成樹脂エマルション、又は、ポリビニルアルコール、繊維素エーテル、澱粉、イン化アルキッド樹脂、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、水性アクリル樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性ポリアミド樹脂、水性ポリウレタン樹脂等の水溶性高分子を用いることができる。また、前記したものに限定されず、一般的な塗料に用いられる有機皮膜形成成分を用いればよい。
【0026】
前記溶媒としては、水、有機溶剤、アルコール類等を用いることができる。しかし、天然芝に塗装した際の芝及び周辺環境の生態への影響を考慮して、前記溶媒が水であることが好ましい。
【0027】
前記添加剤としては、通常の塗料に用いるものを適宜添加することができる。例えば、分散剤、湿潤剤等の界面活性剤、メチルセルロース、HEC、ポリアクリル酸、ベントナイト等の増粘剤、成膜助剤、PH調整剤、消泡剤、防腐剤などを用いることができる。
【0028】
前記芝用塗料組成物の固形分は、30〜80質量%であることが好ましく、45〜65質量%であることがより好ましい。
前記固形分が少ない場合は、芝用塗料組成物の貯蔵時に、芝用塗料組成物中の体質顔料や着色顔料が芝用塗料組成物中で沈降して凝集し、再分散できなくなってしまう場合がある。また、このように凝集することを防止する為には、芝用塗料組成物に分散剤、増粘剤等の添加剤を大量に添加しなければならない為に、それらの添加剤が、前記有機皮膜形成成分が成膜を阻害する場合がある。また、前記固形分が少ない場合は、固形分が多い芝用塗料組成物に比べて、有効成分(前記溶媒を除いた芝用塗料組成物の成分)の量が同じ場合の組成物の嵩が大きくなってしまうため、運搬、保管の際に扱い難くなってしまう。
逆に、前記固形分が多い場合は、芝用塗料組成物の製造時において、体質顔料や着色顔料を分散させ難くなる。また、芝用塗料組成物の塗装時に、芝用塗料組成物を希釈する場合に、芝用塗料組成物と希釈用の溶媒とを均一に混合するのが容易でない場合がある。
前記固形分が上記の範囲であれば、貯蔵時の安定性に優れ、取り扱い易く、製造が容易であり、希釈が容易である芝用塗料組成物を得ることができる。
【0029】
前記芝用塗料組成物を塗装する場合は、芝用塗料組成物を原液のまま用いても良く、前記溶媒を芝用塗料組成物の原液に添加して希釈して用いてもよい。芝用塗料組成物を希釈することによって、塗装時の作業性が向上する。
希釈に用いる溶媒の質量は、通常、芝用塗料組成物の原液の質量の2〜3倍である。希釈後の芝用塗料組成物の固形分を10〜30質量%に調整して塗装すれば、芝用塗料組成物を容易に塗装することができる。
【0030】
前記芝用塗料組成物を塗装する方法としては、通常の塗料の塗装をする方法から適宜選択すればよく、例えば、霧吹き器、噴霧器、アエスガン、エアレズガン等の吹き付け塗装機器、ローラー、刷毛等の一般に用いられる塗装機器や塗装器具を使って塗装すればよい。また、前記芝用塗料組成物と任意の気体とを缶に封入してスプレー缶を作製して、これによって吹き付け塗装してもよい。これらの塗装方法の中でも、芝への塗装方法としては、芝と非接触で塗装が可能な吹き付け塗装であることが好ましい。吹き付け塗装であれば、芝と塗装機器(塗装器具)を接触させずに塗装できるため、塗装によって芝を痛めることがない。
【0031】
また、前記芝用塗料組成物の塗布量は、該芝用塗料組成物中の固形分換算で、20〜130g/mであることが好ましく、30〜100g/mであることがより好ましい。
前記塗布量が少なすぎると、芝用塗料組成物の塗膜によって十分な隠ぺい性が得難い。
逆に、前記塗布量が多すぎると、塗膜の隠ぺい性は向上するが、芝の発育に悪影響がみられることがある。また、前記塗布量は一定量までは該塗布量が多いほど隠ぺい性が向上するが、一定量を超えると、塗布量が増えても隠ぺい性は殆ど向上しない場合がある。
【実施例】
【0032】
以下に本発明の具体的な実施例を説明する。
なお、以下の説明において、特に断りの記載がなければ、「部」とは質量部を示し、「%」とは質量%を示す。
【0033】
(実施例1)着色顔料として酸化チタン(比重4.2)、体質顔料として炭酸カルシウム(比重2.7、粒子径約1.9μm)、及び有機皮膜形成成分としてのエチレン酢酸ビニル樹脂エマルジョン(Tg:20℃、固形分50%)、溶媒としての水、及び添加剤としてのアニオン系界面活性剤及びHEC等の増粘剤を以下の配合で混合・攪拌して芝用塗料組成物を調製した。なお、該芝用塗料組成物のPVCは69%であった。
酸化チタン 30部
炭酸カルシウム 20部
エチレン酢酸ビニル樹脂エマルジョン 11部
水 35部
添加剤 4部
【0034】
(実施例2〜10及び比較例1〜4)
実施例2〜10及び比較例1〜4の配合を表1及び表2に示す。
前記実施例1の芝用塗料組成物に用いた酸化チタン、炭酸カルシウム(表1及び表2には、炭酸カルシウムAと表記)、エチレン酢酸ビニル樹脂エマルジョン、水、及び添加剤を、表1及び表2に示す配合で混合・攪拌して、実施例2〜8、及び比較例1〜4の芝用塗料組成物を調製した。
また、前記実施例1の芝用塗料組成物に用いた酸化チタン、エチレン酢酸ビニル樹脂エマルジョン、水、添加剤、及び比重2.7、粒子径約4μmの炭酸カルシウム(表1及び表2には、炭酸カルシウムBと表記)を、表2に示す配合で混合・攪拌して、実施例9,10の芝用塗料組成物を調製した。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
以上のように製造した実施例1〜10及び比較例1〜4の芝用塗料組成物を、以下の手順で塗装した。
まず、溶媒としての水を用いて、各芝用塗料組成物を希釈して固形分を25%とした。
次に、塗装機器としてアエスガンを用いて、希釈済みの各芝用塗料組成物を、屋外の天然芝(ケンタッキーブルーグラス)に、幅20cm、長さ100cmのライン状に塗装した。このときの塗布量は、固形分換算で90g/mとした。
【0038】
上記手順で塗装した芝用塗料組成物の乾燥塗膜の隠ぺい性、及び芝への固着性を評価した。
【0039】
乾燥塗膜の隠ぺい性の評価は以下の手順で行った。
まず、芝用塗料組成物を塗装した後、24時間養生した。
養生をした後、芝用塗料組成物を塗装した場所から15m離れた位置に立ち、芝用塗料組成物の乾燥塗膜を目視により観察し、以下の基準で、隠ぺい性を評価した。
芝が白色になり、スポーツ用のラインとして十分な視認性があった実施例1の芝用塗料組成物の評価を「○」とした。また、実施例1の芝用塗料組成物による
乾燥塗膜と同等の白さがあり、スポーツ用のラインとして十分な視認性があったものの評価も「○」とした。
芝が白色になり、スポーツ用のラインとして十分な視認性はあるが、実施例1の芝用塗料組成物による乾燥塗膜と比べると、白さが足りず、視認性が劣るものを「△」とした。
芝の白さが足りず、スポーツ用のラインとして用いる場合に視認性が不十分であるものを「×」とした。
【0040】
乾燥塗膜の芝への固着性を評価は以下の手順で行った。
まず、前記手順によって隠ぺい性を評価した後、幅20cm、長さ100cmのライン状に塗装した芝用塗料組成物の乾燥塗膜の幅20cm、長さ50cmの部分に、シャワーを用いて水を1時間散布した。このとき、散布開始から30分後、40分後、50分後に、芝をタオルで軽く擦った。
水の散布を止め、乾燥のために2時間放置した後、以下の基準で、芝への固着性を評価した。
水を散布した部分と、水を散布しなかった部分とに色の違いが見られなかったものを「○」とした。
水を散布した部分と、水を散布しなかった部分とに色の違いが僅かに見られ、水を散布した部分の乾燥塗膜が僅かに流れ落ちたと思われるが、両者の視認性には大きな違いがなかったものを「△」とした。
水を散布した部分と、水を散布しなかった部分とに色の違いが見られ、水を散布した部分の乾燥塗膜の一部が流れ落ちたことで、水を散布した部分の視認性が水を散布しなかった部分の視認性に比べて劣っていたものを「×」とした。
【0041】
次に、前記手順によって芝への固着性を評価した後、1週間放置した。
次に、1週間放置した乾燥塗膜に水を散布しながら、乾燥塗膜をタオルで軽く擦った。次に、乾燥塗膜を乾燥させた後に、各芝用塗料組成物による乾燥塗膜が施された部分に、該乾燥塗膜と同じ芝用塗料組成物を用いて、上記した方法と同様の方法で、各芝用塗料組成物を再塗装した。
以上のように、1週間毎の再塗装を12回繰り返した。
【0042】
上記手順で12回の繰り返し塗装をした後、芝用塗料組成物の芝への影響を評価した。
【0043】
芝への影響の評価は以下の手順で行った。
前記繰り返し塗装の最後の塗装(12回目の塗装)を行った後に、そのまま1週間放置した。その後、各芝用塗料組成物を塗装した部分の芝の状態を目視によって観察し、各芝用塗料組成物を塗装したことによる芝への影響を、以下の基準で評価した。
芝用塗料組成物を塗装した部分の芝が、芝用塗料組成物を塗装しなかった部分の芝比べて、芝の葉の密度、形状等に変化がなかったものを「○」とした。
芝用塗料組成物を塗装した部分の芝が、芝用塗料組成物を塗装しなかった部分の芝比べて、芝の葉の密度が減少したもの、葉の大きさが小さくなる等、葉の形状に変化があったものを「△」とした。
芝用塗料組成物を塗装した部分の芝が枯れたものを「×」とした。
なお、この実施例及び比較例においては、評価が「×」であるものはなかった。
【0044】
実施例1〜10及び比較例1〜4の芝用塗料組成物の乾燥塗膜の隠ぺい性、芝への固着性を評価、及び、芝用塗料組成物の芝への影響の評価を表3及び表4に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
(比較例5)
比較例3で調製した芝用塗料組成物を、該芝用塗料組成物の乾燥塗膜の隠ぺい性が、実施例1の乾燥塗膜と同等になるように、天然芝(ケンタッキーブルーグラス)に塗装した。なお、塗装は、実施例1と同じ方法で行った。
このとき、比較例3で調製した芝用塗料組成物の塗布量は、固形分換算で140g/mであった。
塗布量を固形分換算で140g/mとした以外は、実施例1〜10及び比較例1〜4と全く同じ手順で、芝用塗料組成物の乾燥塗膜の隠ぺい性、芝への固着性を評価、及び、芝用塗料組成物の芝への影響の評価を行った。
【0048】
比較例5の芝用塗料組成物の乾燥塗膜の隠ぺい性、芝への固着性を評価、及び、芝用塗料組成物の芝への影響の評価を表5に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
前記実施例及び比較例の試験結果より以下のことが言える。
【0051】
着色顔料と前記体質顔料との含有比率(着色顔料の質量/体質顔料の質量)が1以上であれば、スポーツ用のラインとして十分な視認性のある乾燥塗膜を得ることができた。
また、着色顔料と前記体質顔料との含有比率(着色顔料の質量/体質顔料の質量)が2を超えた場合には、芝用塗料組成物を同じ場所に繰り返し塗装することによって、芝の発育に悪影響がでた。
なお、この試験で用いた酸化チタン及び炭酸カルシウムによると、前記含有比率が1であれば、着色顔料(酸化チタン)と体質顔料(炭酸カルシウム)の体積比(着色顔料の体積/体質顔料の体積)は0.64、前記含有比率が2であれば、前記体積比は1.30であった。
【0052】
芝用塗料組成物のPVCが90%以下であれば、芝への固着性に優れた芝用塗料組成物を得ることができた。更に、芝用塗料組成物のPVCが80%以下であれば、芝への固着性に特に優れた芝用塗料組成物を得ることができた。
また、芝用塗料組成物のPVCが65%より小さくなると、芝用塗料組成物を同じ場所に繰り返し塗装することによって、芝の発育に悪影響がでた。
【0053】
芝用塗料組成物に、平均粒子径1.9μmの炭酸カルシウムAを用いた場合は、平均粒子径4μmの炭酸カルシウムBを同様の添加量で用いた場合に比べ、隠ぺい性に優れた芝用塗料組成物を得ることができた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色顔料、体質顔料、及び有機皮膜形成成分を含有する塗料組成物であって、顔料容積濃度(PVC)が65〜90%あり、且つ前記着色顔料と前記体質顔料との含有比率(着色顔料の質量/体質顔料の質量)が2/2〜4/2であることを特徴とする芝用塗料組成物。
【請求項2】
前記体質顔料の粒子径が0.5〜3μmであることを特徴とする請求項1に記載の芝用塗料組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の芝用塗料組成物を、天然芝に固形分換算で20〜130g/mの塗布量で塗装することを特徴とする芝用塗料組成物の塗装方法。

【公開番号】特開2010−189476(P2010−189476A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32704(P2009−32704)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】