説明

芯鞘型複合繊維およびそれを用いた布帛ならびに中空繊維からなる布帛の製造方法

【課題】軽量性、保温性等の機能性に優れたセルロース脂肪酸混合エステル中空繊維を生産性良くかつ、高次加工工程での中空潰れが発生することなく提供するものである。
【解決手段】 芯部を形成する熱可塑性樹脂がアルカリ性水溶液に可溶性の重合体であり、鞘部を形成する熱可塑性樹脂がセルロース脂肪酸混合エステルを主たる成分とする組成物であり、芯成分と鞘成分の繊維断面における面積比率が芯部/鞘部=20/80〜80/20である芯鞘型複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース脂肪酸混合エステル中空繊維を用いた軽量性、ソフト性、保温性などに優れた布帛に関するものである。
更に詳しくは、高次加工工程での溶出処理速度に優れた熱可塑性樹脂とセルロース脂肪酸混合エステルを主たる成分とする組成物からなる芯鞘型複合繊維を生産性良く製造し、この複合繊維を布帛とした後に芯部の熱可塑性樹脂を溶出処理することで、仮撚加工や流体噴射加工および製織、製編などの高次加工工程での中空潰れが発生しないセルロース脂肪酸混合エステル中空繊維布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロース系フィラメントはビスコース、キュプラなどの再生セルロース繊維、セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロースアセテート繊維が知られている。これらの繊維はいずれも組成物が熱可塑性を全く有していない、あるいは熱可塑化が発現する温度が熱分解温度以上であるため、溶融紡糸法によって繊維とすることはできず、溶媒を使用する湿式あるいは乾式の製糸方法によって製造されている。これらの繊維はセルロース由来であることによって、良好な光沢や吸放湿性など衣料用繊維として非常に良好な特性を有している一方、有害な有機溶媒を用いた溶液紡糸であるため環境負荷が懸念される。
【0003】
セルロース系ポリマーの中空繊維を得る方法としては、古くから中空糸膜が知られている。例えば特許文献1〜2で提案されている方法により得られるセルロース系中空糸(膜)は、逆浸透膜や血液透析などにおいて、従来より実用的に使用されている。しかしながらこれらの中空糸は、中空率は非常に高いものの、単糸繊度が大きい(単糸の直径が大きい)ため衣料用途としては使用できなかった。更には機械的特性が非常に悪く、布帛の作成、染色等の高次加工工程通過性、実用上に耐える機械的特性、実用耐久性を有しているものではなかった。
【0004】
一方、特許文献3ではセルロース系ポリマーの軽量繊維を得る方法として、芯鞘型複合繊維が提案されている。ここでは、芯成分にセルロースジアセテート、鞘成分にセルローストリアセテートを配した芯鞘型複合繊維を乾式紡糸法により得、その後アセトン処理、水処理により芯部に多数の微細な空隙を形成させ、軽量感を発現させるというものである。しかしながらこの方法では、芯成分が完全に溶出されないため、十分な軽量感を発現することは困難であり、また軽量感を付与させるために有機溶剤を使用するなど環境面、設備面、コスト面等に課題があった。
【0005】
また特許文献4には、吸湿性ポリエステル繊維を得るために、芯部にポリエステル、鞘部にセルロースジアセテートを配した芯鞘型複合繊維が提案されている。溶融紡糸により芯鞘型複合繊維を得た後、アルカリ水溶液処理を実施し、鞘成分のセルロースジアセテートを実質的にセルロース化また多孔質化することで、吸湿性付与を行なっている。この場合、アルカリ水溶液処理により鞘部の形態を変化させているだけであって芯部の溶出はなされておらず、軽量性、保温性等の特性を有する中空繊維は得られない。
【0006】
特許文献5には、芯部に酢酸セルロース、鞘部にポリエステルを配した芯鞘型複合繊維が提案されている。ここでは芯鞘型複合繊維を得た後、アルカリ性水溶液処理により鞘部が芯部まで貫通している微細孔を有する吸湿性ポリエステル繊維が提案されているが、微細孔は有しているものの軽量性、保温性等に優れたものではなかった。
このように高い中空率を有し、実用上に耐えうる機械的特性を有する、軽量性、保温性、ソフト性に優れたセルロース系中空繊維はこれまで得られていなかった。
【特許文献1】特開昭54−42420号公報
【特許文献2】特開昭59−199807号公報
【特許文献3】特開2000−192334号公報
【特許文献4】特開昭52−85518号公報
【特許文献5】特開平4−300324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、軽量性、ソフト性、保温性などに優れたセルロース脂肪酸混合エステル中空繊維を生産性良くかつ、高次加工工程での中空潰れが発生することなく高品位な中空繊維布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記した課題を解決するために鋭意検討を行った結果、芯部にアルカリ性水溶液に可溶性の熱可塑性樹脂を配し、鞘部にセルロース脂肪酸混合エステルを主たる成分とする組成物を配した芯鞘型複合繊維を得、その後芯部を溶出することにより、中空繊維およびそれからなる中空繊維布帛を得ることに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
【0010】
本発明の第1の発明は、芯部を形成する熱可塑性樹脂がアルカリ性水溶液に可溶性の重合体であり、鞘部を形成する熱可塑性樹脂がセルロース脂肪酸混合エステルを主たる成分とする組成物であり、芯部と鞘部の複合比率(面積比率)が芯部/鞘部=20/80〜80/20であることを特徴とする芯鞘型複合繊維である。
【0011】
第2の発明は、芯部を形成する熱可塑性樹脂がポリ乳酸であることを特徴とする上記第1の発明に記載の芯鞘型複合繊維である。
【0012】
第3の発明は、セルロース脂肪酸混合エステルがセルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする上記第1または2の発明に記載の芯鞘型複合繊維である。
【0013】
第4の発明は上記第1〜3の発明に記載の芯鞘型複合繊維を少なくとも一部に用いたことを特徴とする布帛である。
【0014】
第5の発明は、上記第4の発明に記載の布帛をアルカリ性水溶液で処理して、芯鞘型複合繊維の芯部を溶出することを特徴とする中空繊維からなる布帛の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、後溶出タイプのセルロース脂肪酸混合エステル中空繊維を生産性良く製造することができる。また高次加工工程での芯部の溶出性に優れていることから、中空部が潰れることなく、軽量性、保温性およびソフト性に優れた高品位なセルロース脂肪酸混合エステル中空繊維を得ることができる。該繊維は、衣料用繊維をはじめとして、軽量性、ソフト性および保温性が要求される用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の芯鞘型複合繊維について詳細に説明する。
【0017】
本発明の芯鞘型複合繊維は、芯部を形成する熱可塑性樹脂がアルカリ性水溶液に可溶性の重合体であり、鞘部を形成する熱可塑性樹脂がセルロース脂肪酸混合エステルを主成分とする組成物である。
【0018】
芯部を形成する熱可塑性組成物をアルカリ性水溶液に可溶の重合体とすることで、芯鞘型複合繊維の芯部の溶出処理の際、芯部の溶出が速やかに進行する。アルカリ性水溶液に可溶とは、95℃に加熱された濃度1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液中で1時間処理した場合に、ポリマー全量に対して70重量%以上が溶解可能なものを言い、ポリマー全量に対して80重量%以上溶解することがより好ましく、90重量%以上溶解することが更に好ましい。なお本発明のアルカリ水溶液に可溶の重合体は、おおよそ中性の水溶液に可溶であっても良い。測定方法は実施例にて詳細に説明する。
【0019】
また芯部の熱可塑性組成物の融点は240℃以下であることが好ましい。融点を240℃以下とすることで、芯鞘型複合繊維を得る際、紡糸温度を低く抑えることができるため、製糸性が良好となる。また繊維特性の低下を抑制できるため高次加工工程での操業性が良好となる。更には鞘部に配したポリマーの熱劣化による着色(黄味)を抑制できるため、最終製品の品位が良好なものとなる。なおここでいう融点とは、示差走査熱量計(DSC)測定によって得られた溶融ピークのピーク温度を意味する。
【0020】
芯部を形成する熱可塑性樹脂としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトンなどの脂肪族ポリエステルやポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)共重合体などのポリアルキレングリコール系ポリマー、5−ナトリウムスルホイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート、5−ナトリウムスルホイソフタル酸共重合ポリプロピレンテレフタレート、5−ナトリウムスルホイソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレートなどの共重合ポリエステル、エチレンなどのオレフィン変性ビニルアルコール系重合体などが例示できるが、なかでもポリ乳酸が好ましい。
【0021】
ポリ乳酸はポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステルよりもアルカリ水溶液による溶出速度が速いため、溶出時間の短縮等が図れるため非常に好ましく、また製造コスト面からも好ましい。
【0022】
本発明におけるポリ乳酸とは、−(O−CHCH−CO)n−を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やそのオリゴマーを重合したものをいう。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体のみからなるポリ(D−乳酸)とL体のみからなるポリ(L−乳酸)および両者からなるポリ(D,L−乳酸)がある。ポリ乳酸中のD−乳酸、あるいはL−乳酸の光学純度は、低くなるにしたがい結晶性が低下し、融点の降下が大きくなる。そのため耐熱性を高めるために光学純度は90%以上であることが好ましい。より好ましい光学純度は93%以上、さらに好ましい光学純度は95%以上である。
【0023】
またポリ乳酸の性質を損なわない範囲で、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよく、ポリ乳酸以外の熱可塑性重合体等を含有していてもよい。さらには、ポリ乳酸に艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤、着色顔料、制電剤、抗菌剤等として無機粒子や有機化合物を必要に応じて添加することができる。
【0024】
ポリ乳酸の製造方法には、乳酸を原料として一旦環状二量体であるラクチドを生成せしめ、その後開環重合を行う二段階のラクチド法と、乳酸を原料として溶媒中で直接脱水縮合を行う一段階の直接重合法が知られている。本発明で用いられるポリ乳酸は、いずれの製法によって得られたポリ乳酸であってもよい。
【0025】
溶融紡糸以前の段階でポリ乳酸中に含有されるラクチド等の低分子量物の含有量は、低分子量物による急速な加水分解促進を抑制し製糸操業性を良好とするためには、1.0重量%以下とすることが好ましく、0.5重量%以下であることがより好ましく、0.3重量%以下であることが更に好ましい。
【0026】
また製糸操業性および芯鞘型複合繊維の機械的特性の観点から、ポリ乳酸の重量平均分子量は、5万〜35万であることが好ましく、10万〜30万であることがより好ましい。
【0027】
鞘部を形成する熱可塑性樹脂はセルロース脂肪酸混合エステルを主成分とする組成物である。セルロース脂肪酸混合エステルとは、セルロースのグルコースユニットに存在する3つの水酸基が2種類以上のアシル基により封鎖されたものであり、芯鞘型複合繊維の製糸操業性、コスト面等からセルロース脂肪酸混合エステルとしては、アセチル基とプロピオニル基が結合したセルロースアセテートプロピオネート、アセチル基とブチリル基が結合したセルロースアセテートブチレートが好ましい。この場合、アセチル基およびアシル基(プロピオニル基またはブチリル基)の平均置換度は、下記式を満たすことが好ましい。なお平均置換度とはセルロースのグルコース単位あたりに存在する3つの水酸基のうちアシル基が化学的に結合した数を指す。
【0028】
2.2≦(アセチル基の平均置換度+アシル基の平均置換度)≦2.9
上記式を満たすセルロース脂肪酸混合エステルは、可塑剤との混和性が良好となり溶融紡糸性、製糸操業性が格段に良好となる。また中空繊維布帛を得る際のアルカリ性水溶液処理を実施しても、セルロース脂肪酸混合エステルのアシル基のセルロース化(けん化)が進行しにくいため、最終製品での染色斑の問題が発生しない。また適度な水膨潤性を有しているため、芯成分の溶出が速やかに進行する。
【0029】
セルロース脂肪酸混合エステルの重量平均分子量は、芯鞘型複合繊維の機械的特性、製糸操業性、ポリマーの耐熱分解性の観点から5〜30万であることが好ましく、8〜27万であることがより好ましく、10〜25万であることが更に好ましい。
【0030】
鞘部を形成するセルロース脂肪酸混合エステルを主成分とする熱可塑性組成物には、可塑剤を含有していても良い。可塑剤を添加することで、組成物の曳糸性が向上するため製糸操業性が良好となったり、また得られた芯鞘型複合繊維のアルカリ性水溶液処理の際、可塑剤の溶出が伴うため、芯部の溶出速度が速くなるなど好ましい点がある。
【0031】
可塑剤としては、多価アルコール系化合物が好ましく、具体的にはセルロース脂肪酸混合エステルとの相溶性が良好であり、また溶融紡糸可能な熱可塑化効果が顕著に現れるポリアルキレングリコール、グリセリン系化合物、カプロラクトン系化合物などであり、なかでもポリアルキレングリコールが好ましい。
【0032】
ポリアルキレングリコールの具体的な例としては、重量平均分子量が200〜4000であるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0033】
また製糸操業性および得られる繊維の機械的特性の観点から、可塑剤の含有量は、5〜25重量%であることが好ましく、8〜22重量%がより好ましく、10〜20重量%がさらに好ましい。
【0034】
本発明におけるセルロース脂肪酸混合エステルを主成分とする熱可塑性組成物は、リン系酸化防止剤を含有していることが好ましく、特にペンタエリスリトール系化合物が好ましい。リン系酸化防止剤を含有している場合、紡糸温度が高い範囲および低吐出領域においてもセルロース脂肪酸混合エステルの熱分解防止効果が非常に顕著であり、繊維の機械的特性の悪化が抑制され、得られる繊維の色調が良好になる。リン系酸化防止剤の配合量は、溶融紡糸組成物に対して0.005重量%〜0.500重量%であることが好ましい。
【0035】
本発明におけるセルロース脂肪酸混合エステルを主たる組成物には、その物性を損なわない範囲で艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、着色防止剤、着色顔料、染料、制電剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤等として、無機微粒子や有機化合物を必要に応じて含有することができる。
【0036】
本発明の芯鞘型複合繊維の芯成分と鞘成分の繊維断面積における面積比率は、芯/鞘=20/80〜80/20であることが重要である。芯成分の面積比率が20%未満の場合、芯成分を溶出した後でも中空率が低いために、本発明の目的である軽量性および保温性等の効果を全く得ることができない。また芯成分の面積比率が80%より大きくなると、製糸操業性が不安定化したり、また得られる繊維の特性が低下するため、高次加工工程通過性が悪化する。更には最終製品時において、外力により繊維断面の潰れが発生しやすくなり、保温性能が低下してしまう。芯/鞘比率は、25/75〜75/25であることがより好ましく、30/70〜70/30であることが更に好ましい。
【0037】
本発明における芯鞘型複合繊維の芯部および鞘部の形状は、鞘部が繊維表面を完全に覆っており、芯部が繊維表面に露出していないことが好ましい。芯部の熱可塑性樹脂が繊維表面に露出したいわゆるC型断面などでは、製糸工程において糸道ガイドとの擦過などにより芯部と鞘部が割れて糸切れの原因となったり、整経、製織、製編などの高次加工工程において毛羽が発生するため適さない。したがって芯鞘型複合繊維の断面形状は、鞘部が繊維表面を完全に覆っていることが好ましい。なお芯鞘型複合繊維の断面形状は丸断面、多角断面、多葉断面、その他公知の断面形状のいずれでもよく、芯部も単芯の他、2芯、3芯といった多芯構造であっても良い。
【0038】
本発明における芯鞘型複合繊維の引張強度は0.5cN/dtex以上であることが好ましい。引張強度が0.5cN/dtex以上であれば、製織や製編時など高次加工工程の通過性が良好となる。良好な強度特性の観点から、強度は高ければ高いほど好ましいが、0.7cN/dtex以上であることがより好ましく、0.9cN/dtex以上であることが更に好ましい。
【0039】
本発明における芯鞘型複合繊維の伸度は10%以上であることが好ましい。伸度が10%以上である場合には、紡糸工程で毛羽が発生せず、また製織や製編時など高次加工工程において毛羽や糸切れが多発することがなく高次加工の工程通過性が良好となる。伸度は、13%以上であることがより好ましく、15%以上であることが更に好ましい。
【0040】
本発明における芯鞘型複合繊維の繊度変動値(U%)は2.0%以下であることが好ましい。繊度変動値(U%)は繊維長手方向における太さ斑の指標であり、ツェルベガーウースター社製ウースターテスターにより求めることができる。繊度変動値(U%)が2.0%以下であれば、繊維長手方向の均一性が優れていることを指し、織編物に加工する際、毛羽や糸切れが発生せず、また染色を行っても、部分的に強い染め斑、染め筋などの欠点が発生せず、高品位な織編物となる。繊度変動値(U%)は小さい程よく、より好ましくは1.8%以下、更に好ましくは1.5%以下である。なお繊度変動値(U%)の測定条件に関しては、実施例にて詳細に説明する。
【0041】
次に本発明の芯鞘型複合繊維の製造方法について説明する。図1は、本発明の芯鞘型複合繊維の製造方法に用いる装置の一実施態様を示す図である。
【0042】
芯部の熱可塑性樹脂および鞘部のセルロース脂肪酸混合エステルを主成分とする熱可塑性組成物をエクストルーダーにてそれぞれ別々に溶融し、計量ポンプ1で計量した後、紡糸ブロック2に内蔵された紡糸パック3に送り、パック内でポリマーを濾過した後、紡糸口金4で芯鞘構造に貼り合わせ後、吐出して糸条を得る。紡出された糸条5は冷却装置6によって一旦冷却・固化された後、給油ガイド7で油剤を付与され、交絡装置8で適度に交絡を与えられた後、ゴデットローラー9で引き取られ、ゴデットローラー10を介して、巻取機11で巻き取られ、巻取糸12が得られる。なお製糸性、機械的特性を向上させるために必要に応じて紡糸口金下に2〜20cmの加熱筒や保温筒を設置しても良い。
【0043】
本発明の芯鞘型複合繊維を用いた布帛は、上記芯鞘型複合繊維を常法によって製織、あるいは製編することにより得られるが、布帛を形成する際には芯鞘型複合繊維を主要な構成成分として形成する必要がある。すなわち芯鞘型複合繊維のみを用いて布帛とするか、あるいは布帛が複数種の繊維より構成される場合は、布帛を構成する複数の繊維の中でも芯鞘型複合繊維の混率を1番目もしくは2番目に高くする必要がある。
【0044】
複数種の繊維よりなる布帛の例として、ストレッチ性を持たせるためにポリウレタン等の弾性繊維と混合した編物や、芯鞘型複合繊維を経糸または緯糸のみに用いた織物、さらには綿、絹、麻、羊毛等の天然繊維、レーヨンやセルロースアセテート等の再生繊維・化学繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、アクリル、ビニロン、ポリオレフィン、ポリウレタン等の合成繊維と合撚、複合加工する方法などが挙げられる。
【0045】
編物としては、天竺、スムース、トリコット等が挙げられ、丸編み、トリコット等の場合には、製編、熱セットを施した後に、芯成分の溶出処理を行い、必要に応じて染色、仕上げセットを行う。また織物としてはタフタ、デシン、ジョーゼット、ツイル等の織物が挙げられ、織物の場合には整経、糊付け、製織を行った後に芯成分の溶出処理を行い、必要に応じて染色、仕上げセットを行う。また、これらの前工程として仮撚や流体噴射加工などを行い、繊維に嵩高性を持たせることも可能である。
【0046】
本発明の中空繊維布帛は、芯鞘型複合繊維を少なくとも一部に用いた布帛をアルカリ性水溶液を用いた溶出処理によって芯部の熱可塑性樹脂を除去することにより得られる。
【0047】
芯成分の溶出処理はアルカリ水溶液で行い、その際、アルカリ性水溶液の濃度は10〜100g/Lであることが好ましく、20〜80g/Lで行なうことがより好ましい。
【0048】
溶出処理温度としては、50〜120℃であることが好ましく、60〜110℃であることがより好ましく、70〜100℃であることが更に好ましい。溶出処理時間は、アルカリ性水溶液の濃度および処理温度によって変わり、一概に限定できないが、本発明者らの知見からは、処理時間が10〜90分の範囲内で十分に芯成分の溶出ができるように、アルカリ性水溶液の濃度、温度を設定することが好ましい。
【0049】
アルカリ処理方法としては、100℃以下の場合、常圧下でバッチ式の処理槽にて布帛を攪拌・流動させながら処理し、また100℃を超える場合は加圧下で同様に処理を行うことが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
このように布帛を構成した後にアルカリ性水溶液により芯部を溶出処理して中空繊維布帛とすることができる。そのため糸加工、製織、製編等の工程で受ける外力による中空潰れを防ぐことができ、得られる布帛は高品位なものとなる。また高中空率の中空繊維を製造することが可能となる。
【0051】
なお最終製品におけるセルロース脂肪酸混合エステル中空繊維に含まれる可塑剤含有量は0〜25重量%であることが好ましい。可塑剤の含有量がこの範囲にある場合、最終製品の強力が不足することがないため好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0053】
A.融点
Perkin Elmer社製DSC−7を用いて融点を測定した。この時、試料重量を約10mg、昇温速度を10℃/分とした。
【0054】
B.ポリ乳酸の重量平均分子量の測定
試料をクロロホルムに完全溶解させ、これを用いてWaters社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー2690を用い、ポリスチレン換算で重量平均分子量を算出した。
【0055】
C.セルロース脂肪酸混合エステルの平均置換度
80℃で8時間の乾燥したセルロース脂肪酸混合エステル0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
【0056】
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[{1−(Mwace−(16.00+1.01))×TA}+{1−(Mwacy−(16.00+1.01))×TA}×(Acy/Ace)]]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSace:アセチル基の平均置換度
DSacy:アシル基の平均置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:他の有機酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と他の有機酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量
D.セルロース脂肪酸混合エステルの重量平均分子量測定
試料をテトラヒドロフランに完全溶解させ、これを用いてWaters社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー2690を用い、ポリスチレン換算で重量平均分子量を算出した。
【0057】
E.引張強度および伸度
温度20℃、湿度65%の環境下において、島津製作所製オートグラフAG−50NISMS形を用い、試料長20cm、引張速度20cm/minの条件で引張試験を行って、最大荷重の示す点の応力(cN)を初期繊度(dtex)で除した値を引張強度(cN/dtex)とした。またそのときの伸度を伸度(%)とした。なお測定回数は5回とし、その平均値を引張強度、伸度とした。
【0058】
F.繊度変動値(U%)
U%測定(ノーマルモード)は、ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにより、下記条件にて測定して求めた。
【0059】
測定速度 :200m/分
測定時間 :2.5分
測定繊維長:500m
撚り :S撚り、12000/m
なお測定回数は5回であり、その平均値をU%とした。
【0060】
G.芯成分の溶出性評価
かせにした芯鞘型複合繊維を95℃に加熱された濃度1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液中で1時間処理した。その後、光学顕微鏡を用いて断面観察を行い、下記基準で芯成分の溶出性を評価し、◎および○を合格とした。
【0061】
◎:溶出量が90重量%以上であり、芯成分の溶出性が極めて優れている。
【0062】
○:溶出量が70重量%以上90重量%未満であり、芯成分の溶出性が優れている。
【0063】
×:溶出量が70重量%未満であり、芯成分の溶出性が極めて悪い。
【0064】
H.軽量性の評価
中空繊維布帛(織物)および中空繊維と同じ糸直径を有する中実糸(中空率0%)の織物の2つを用いて、パネラー10名で官能評価を実施し、下記の基準で評価し、◎および○を合格とした。
(1)軽量感:中空糸と中実糸の織物を持った時、前記2つの織物の重量差が明確に感じられたかどうか。
【0065】
(2)軽量性の評価基準
◎:9名以上が有意差あり(軽量感が優れている)と判定
○:7〜8名が有意差あり(軽量感が優れている)と判定
△:5〜6名が有意差あり(軽量感が優れている)と判定
×:4名以下が有意差あり(軽量感が優れている)と判定
I.保温性の評価
中空繊維布帛(織物)および中空繊維と同じ糸直径を有する中実糸(中空率0%)の織物の2つを用いて、パネラー10名で官能評価を実施し、下記の基準で評価し、◎および○を合格とした。
(1)保温性:中空糸と中実糸の織物を持った時、前記2つの織物の保温性を明確に感じられたかどうか。
【0066】
(2)保温性の評価基準
◎:9名以上が有意差ありと判定
○:7〜8名が有意差ありと判定
△:5〜6名が有意差ありと判定
×:4名以下が有意差ありと判定
J.染色性
下記条件で中空繊維布帛を染色した後、下記基準で評価した。
(1)染色条件
液流染色機を用いて下記処方でpH5において、常法により染色を行った(染料:Cibacet Scarlet EL−F2G 0.5%owf(チバスペシャリティケミカルズ株式会社製)、染色温度98℃)。染色後は、下記条件でRC洗浄を行った。
【0067】
炭酸ナトリウム 1g/l
ハイドロサルファイト 2g/l
ソフタノールEP12030(日本触媒株式会社 製) 0.2g/l
さらに、乾燥後150℃の仕上げセットを行った。
(2)染色性の評価
○:均一に染色されていて濃淡の染色差が全く見られない。
【0068】
△:一部濃淡部が存在し、均一な染色性ではない。
【0069】
×:濃淡斑が顕著である。
【0070】
合成例1
セルロース(コットンリンター)100重量部に、酢酸240重量部とプロピオン酸67重量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172重量部と無水プロピオン酸168重量部をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。反応後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333重量部と水100重量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6重量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロースアセテートプロピオネートを濾別し、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネート(CAP)のアセチル基およびプロピオニル基の平均置換度は各々1.9、0.7であり、重量平均分子量(Mw)は17.7万であった。
【0071】
実施例1
合成例1で製造したCAP80重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)19.9重量%およびリン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を二軸エクストルーダーを用いて240℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロース脂肪酸混合エステル組成物ペレット(Mw16.0万)を得た。
【0072】
この組成物を鞘成分とし、一方、重量平均分子量16.8万、融点170℃、残留ラクチド量0.1重量%のポリL−乳酸(光学純度98%L−乳酸)を芯成分とし、図1に示す紡糸機を用いて別々に溶融し(芯:235℃、鞘:250℃)、紡糸温度250℃で図2に示す構造を有する紡糸口金(吐出孔直径0.25mm、孔深度0.75mm)を用い、吐出させた。この紡出糸条を風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却し、給油装置にて油剤を付与して収束させ、交絡を付与した後、第1ゴデットローラー(速度2000m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った。得られた繊維の物性は表1の通りであり、良好なものであった。
【0073】
得られた複合繊維(100デシテックス−24フィラメント)を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmのタフタ織物を製織した。
【0074】
製織したタフタ織物を15g/Lの水酸化ナトリウム水溶液中で温度90℃、時間30分の条件で芯部の溶出処理を行い、続いて染色加工を行った。得られた織物の評価結果を表1の通りであり、軽量性、保温性、染色性はいずれも極めて良好であった。
【0075】
また芯成分の溶出性評価を行なったところ、芯部にポリマーは残存しておらず溶出性は極めて良好であった。
【0076】
実施例2〜4
芯鞘複合比率を表1のように変更し、実施例1と同様に製糸を実施し、芯鞘型複合繊維を得た。また実施例1と同様にタフタ織物を作成し、芯部の溶出処理を行い、その後、染色加工を行った。評価結果は表1の通りである。
【0077】
実施例2および4で得られた織物は、軽量性、保温性、染色性はいずれも極めて良好であった。また実施例3で得られた織物の軽量性、保温性も良好であった。
【0078】
実施例5〜6
イーストマンケミカル社製セルロースアセテートプロピオネート(CAP482−20、アセチル基置換度0.1、プロピオニル基置換度2.5)93重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)7重量%を二軸エクストルーダーを用いて210℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロースエステル組成物ペレット(Mw18.3万)を得た。
【0079】
この組成物を鞘成分とし、一方、重量平均分子量16.8万、融点170℃、残留ラクチド量0.1重量%のポリL−乳酸(光学純度98%L−乳酸)を芯成分とし、図1に示す紡糸機を用いて別々に溶融(芯:235℃、鞘:235℃)し、紡糸温度235℃で図2に示す構造を有する紡糸口金(吐出孔直径0.25mm、孔深度0.75mm)を用い吐出させた。この紡出糸条を紡糸口金下5.5cmのところに設置した加熱筒(高さ10cm、設定温度260℃)を通過させた後、風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却し、給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、交絡を付与した後、第1ゴデットローラー(速度2500m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った。繊維特性は表1の通りであった。
【0080】
得られた複合繊維(100デシテックス−24フィラメント)を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmのタフタ織物を製織した。
【0081】
製織したタフタ織物を20g/Lの水酸化ナトリウム水溶液中で温度90℃、時間30分の条件で芯部の溶出処理を行い、その後染色加工を行った。得られた織物の評価結果を表1の通りであった。
【0082】
実施例5では芯成分比率が高く、得られた織物の軽量性、保温性、染色性は極めて良好であり、また芯成分の溶出性も極めて良好なものであった。
【0083】
実施例6では、得られた織物の軽量性、保温性、染色性さらには芯成分の溶出性は極めて良好なものであった。
【0084】
実施例7
イーストマンケミカル社製セルロースアセテートブチレート(CAB171:アセチル基置換度1.0、ブチリル基置換度1.7)87重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)13重量%を二軸エクストルーダーを用いて220℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロースエステル組成物ペレット(Mw17.3万)を得た。
【0085】
この組成物を鞘成分とし、一方、重量平均分子量16.8万、融点170℃、残留ラクチド量0.1重量%のポリL−乳酸(光学純度98%L−乳酸)を芯成分とし、図1に示す紡糸機を用いて別々に溶融(芯:240℃、鞘:245℃)し、紡糸温度250℃で図2に示す構造を有する紡糸口金(吐出孔直径0.25mm、孔深度0.75mm)を用い、吐出させた。この紡出糸条を紡糸口金下5.5cmのところに設置した保温筒(高さ5.5cm)を通過させた後、風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却し、給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、交絡を付与した後、第1ゴデットローラー(速度1850m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った。繊維特性は表1の通りであった。
【0086】
得られた複合繊維(100デシテックス−24フィラメント)を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmのタフタ織物を製織した。
【0087】
製織したタフタ織物を20g/Lの水酸化ナトリウム水溶液中で温度90℃、時間40分の条件で芯部の溶出処理を行い、その後染色加工を行った。得られた織物の軽量性、保温性、染色性はいずれも良好なものであった。また芯成分の溶出性は極めて良好なものであった。
【0088】
実施例8
実施例1で用いた組成物を鞘成分とし、一方、グリコール成分としてエチレングリコール、酸成分としてテレフタル酸/イソフタル酸/5−ナトリウムスルホイソフタル酸(61.5/26.0/12.5モル%)共重合したポリエステル(軟化点155℃、IV=0.59)を芯成分とし、図1に示す紡糸機を用いて別々に溶融(芯:265℃、鞘:245℃)し、紡糸温度270℃で図2に示す構造を有する紡糸口金(吐出孔直径0.25mm、孔深度0.75mm)を用い、吐出させた。この紡出糸条を加熱筒(高さ15cm、設定温度290℃)を通過させた後、風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却し、給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、交絡を付与した後、第1ゴデットローラー(速度2300m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った。繊維特性は表1のとおりであった。
【0089】
得られた複合繊維(100デシテックス−24フィラメント)を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmのタフタ織物を製織した。
【0090】
製織したタフタ織物を5g/Lの水酸化ナトリウム水溶液中で温度98℃、時間40分の条件で芯部の溶出処理を行い、その後染色加工を行った。得られた織物の評価結果を表1の通りであった。
【0091】
得られた織物の軽量性、保温性、染色性さらには芯成分の溶出性は極めて良好なものであった。
【0092】
【表1】

【0093】
比較例1〜2
芯鞘複合比率を表2のように変更し、実施例1と同様に製糸を実施し、芯鞘型複合繊維を得た。また実施例1と同様にタフタ織物を作成し、芯部の溶出処理を行い、染色加工を行った。評価結果は表1の通りである。
【0094】
比較例1では、繊維特性は良好であったものの芯比率が15%と小さいため、得られる織物の軽量性、保温性はやや劣るものであった。
【0095】
また比較例2では、芯比率が85%と非常に大きく、得られる繊維の機械的特性は不良であり、製織時に原糸糸切れが多発した。得られた芯鞘型複合繊維の布帛は毛羽が多発しており、低品位のものであった。アルカリ処理後の中空繊維布帛を分解し、繊維横断面を観察したところ、中空潰れが多数発生しており、そのため保温性は劣るものであった。
【0096】
比較例3
実施例1で用いたセルロース脂肪酸混合エステル組成物、メルター温度250℃にて溶融させ、紡糸温度250℃とした溶融紡糸パックへ導入して紡糸口金(吐出孔径0.25mm、吐出孔深度0.75mm、ホール数24)より紡出した。この紡出糸条を風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却し、給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、交絡を付与した後、第1ゴデットローラー(速度2000m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った。
【0097】
得られた繊維(100デシテックス−24フィラメント)を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmのタフタ織物を製織し、続いて染色加工を行った。得られた織物の評価結果は表2の通りであり、中空部を有していないため、織物の軽量性、保温性は劣るものであった。
【0098】
比較例4
ポリエチレンテレフタレート(IV=0.65)を芯部とし、実施例1で用いたセルロース脂肪酸混合エステル組成物を鞘部とし、図1に示す紡糸機を用いて別々に溶融(芯:290℃、鞘:250℃)し、紡糸温度295℃で図2に示す構造を有する紡糸口金(吐出孔直径0.25mm、孔深度0.75mm)を用い、吐出させた。この紡出糸条を風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却し、給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、交絡を付与した後、第1ゴデットローラー(速度2000m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った。得られた繊維の特性は表1の通り劣るものであった。
【0099】
得られた複合繊維(100デシテックス−24フィラメント)を用いて実施例1と同様にタフタ織物を製織しようと試みたが、糸切れが多発し織物を得ることができなかった。
【0100】
芯部の溶出性評価を行なったところ、芯部の溶出性は劣るものであった。
【0101】
比較例5
セルロースジアセテート60重量%(アセチル基置換度2.4)とポリエチレングリコール600(PEG600)40重量%からなる組成物を鞘成分として、一方、重量平均分子量16.8万、融点170℃、残留ラクチド量0.1重量%のポリL−乳酸(光学純度98%L−乳酸)を芯成分とし、図1に示す紡糸機を用いて別々に溶融し(芯:235℃、鞘:250℃)、紡糸温度250℃で図2に示す構造を有する紡糸口金(吐出孔直径0.25mm、孔深度0.75mm)を用い、吐出させた。この紡出糸条を風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却し、給油装置にて油剤を付与して収束させ、交絡を付与した後、第1ゴデットローラー(速度500m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った。得られた繊維の特性は表1の通り劣るものであった。
【0102】
得られた複合繊維(100デシテックス−24フィラメント)を経糸および緯糸に用いてエアージェットルームにより経糸密度120本/2.54cm、緯糸密度95本/2.54cmのタフタ織物を製織したが、製織途中、糸切れが多数発生し、また毛羽が多数発生した低品位な織物であった。
【0103】
製織したタフタ織物を15g/Lの水酸化ナトリウム水溶液中で温度90℃、時間30分の条件で芯部の溶出処理を行い、続いて染色加工を行った。
【0104】
得られた織物の評価結果を表2の通りであり、軽量性は優れていたものの、保温性は劣るものであった。アルカリ処理後の中空繊維布帛を分解し、繊維横断面を観察したところ、中空潰れが多数発生していた。また染色評価を行なったところ、鞘部のセルロース化が進行していたため、染まっていない部分が多数あるなど濃淡斑が顕著であった。
【0105】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0106】
中空部の潰れがなく高品位なセルロース脂肪酸混合エステル中空繊維は、衣料用繊維をはじめとして、軽量性、ソフト性および保温性が要求される用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の芯鞘型複合繊維の製造方法に用いる溶融紡糸装置の一実施態様を示す図である。
【図2】本発明の芯鞘型複合繊維を製造するために用いられる一例の口金の縦断面図である。
【符号の説明】
【0108】
1.計量ポンプ
2.紡糸ブロック
3.紡糸パック
4.紡糸口金
5.紡出糸条
6.冷却装置
7.給油装置
8.交絡付与装置
9.第1ゴデットローラー
10.第2ゴデットローラー
11.巻取機
12.巻取糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部を形成する熱可塑性樹脂がアルカリ性水溶液に可溶性の重合体であり、鞘部を形成する熱可塑性樹脂がセルロース脂肪酸混合エステルを主たる成分とする組成物であり、芯部と鞘部の複合比率が芯部/鞘部=20/80〜80/20であることを特徴とする芯鞘型複合繊維。
【請求項2】
芯部を形成する熱可塑性樹脂がポリ乳酸であることを特徴とする請求項1に記載の芯鞘型複合繊維。
【請求項3】
鞘部を形成するセルロース脂肪酸混合エステルがセルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする請求項1または2に記載の芯鞘型複合繊維。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の芯鞘型複合繊維を少なくとも一部に用いることを特徴とする布帛。
【請求項5】
請求項4に記載の布帛をアルカリ性水溶液で処理して、芯鞘型複合繊維の芯部を溶出することを特徴とする中空繊維からなる布帛の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−174858(P2008−174858A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8268(P2007−8268)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)/溶融紡糸により得られる天然物由来新規繊維の研究」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】