説明

芳香族アミンの製法

【課題】常温、常圧で芳香族化合物を直接アミノ化して芳香族アミンを製造する方法の提供。
【解決手段】反応容器に芳香族化合物とアンモニア水とを入れ、不活性ガス雰囲気中、Ni,Cu,Ru,Rh,Pd,Ag,Pt及びAuからなる群より選ばれた少なくとも1つの金属を、光触媒である酸化チタンに添加した活性化触媒の存在下、光を照射することにより前記芳香族化合物に直接アミノ基を導入することにより芳香族アミンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族アミンの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
アニリンに代表される芳香族アミンは、染料、ゴム、農薬や医薬品などを製造する際の中間原料であり、芳香族化合物の中で最も重要な基本物質の一つである。こうした芳香族アミンは、芳香族化合物を硝酸でニトロ化してニトロ芳香族化合物とし、次いでニトロ芳香族化合物を水素化することにより製造される(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−359685号公報(段落0002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した製法では、アンモニアを酸化することにより得られる硝酸を用いて芳香族化合物をニトロ化したあと、今度はニトロ基をアミノ基に還元することにより芳香族アミンを得るという、非効率的な多段階反応を経由しなければならず、好適なプロセスとは言いにくかった。また、ベンゼンにアンモニアを作用させて芳香環に直接アミノ基を導入する反応も検討されているが、高温、高圧を要するなどから好適なプロセスとは言いがたい。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、常温、常圧で芳香族化合物を直接アミノ化する芳香族アミンの製法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、反応容器にベンゼンとアンモニア水を入れ、アルゴンガス雰囲気中、Ptを酸化チタンに添加した活性化触媒の存在下で光を照射することによりアニリンが高選択的に得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の芳香族アミンの製法は、反応容器に芳香族化合物とアンモニア水とを入れ、不活性ガス雰囲気中、Ni,Cu,Ru,Rh,Pd,Ag,Pt及びAuからなる群より選ばれた少なくとも1つの金属を光触媒に添加した活性化触媒の存在下で光を照射することにより前記芳香族化合物にアミノ基を導入することを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
この芳香族アミンの製法によれば、常温、常圧で芳香環にアミノ基を一段の反応で導入することができる。また、反応条件を選定することにより、副生成物の生成を抑制し、高選択的に芳香族アミンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】外部照射型閉鎖系反応装置10の模式図である。
【図2】Pt添加率と生成物収量との関係を表すグラフである。
【図3】反応時間と生成物収量との関係を表すグラフである。
【図4】活性化触媒を再利用したときの反応時間とアニリン収量との関係を表すグラフである。
【図5】照射光の強度と生成物収量との関係を表すグラフである。
【図6】照射光の強度と生成物収量との関係を表すグラフであり、(a)は照射光の波長が365±20nmの場合、(b)は照射光の波長が405±20nmの場合を示す。
【図7】Pd添加率と生成物収量との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に用いられる芳香族化合物は、分子内に少なくとも一つのベンゼン環を有し、当該ベンゼン環にアミノ基を導入可能な未置換部位を有するベンゼン系芳香族化合物を包含している。ここに、ベンゼン系芳香族化合物は、単一のベンゼン環を有する芳香族系化合物(以下、単環式芳香族化合物という。)と、二以上のベンゼン環を多価基を介して連結された芳香族化合物(以下、多価式芳香族化合物という。)と二以上のベンゼン環を縮合状態で有する芳香族系化合物(以下、縮合環式芳香族化合物という。)と二以上のベンゼン環が直接連結した芳香族系化合物(以下、環集合式芳香族化合物という。)とを包含している。単環式芳香族化合物としては、ベンゼンの他、一置換ベンゼン、二置換ベンゼン、多置換ベンゼンを挙げることができる。置換基としては、特に限定しないで、各種官能基を含む置換基で置換されていてもよい。アルキル基、アルケニル基、アルキニル基などの各種の直鎖状及び分岐状の飽和あるいは不飽和炭化水素基、シクロアルキル基などの環状の飽和及び不飽和炭化水素基、さらに、ヒドロキシ基、カルボニル基、オキシ基、カルボキシル基、エステル基などの含酸素官能基を有する置換基、シアノ基、イミド基などの含窒素官能基を有する置換基などであってもよい。また、複素環系官能基を有する置換であってもよい。これらの置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、カルボキシル基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、アセチル基、アルコキシ基、ヒドロキシル基、アセトキシ基、ハロゲン元素、チオアルコキシ基等を挙げることができる。
【0011】
このような単環式芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、スチレン、キシレン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、クメン、シメン、安息香酸、ニトロベンゼン、アニリン、ベンゾニトリル、アセトフェノン、アニソール、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、酢酸フェニル、ハロゲン化ベンゼン(フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン)、クレゾール、クロロトルエン、塩化ベンジル、ニトロトルエン、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ベンズアルデヒド、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等を挙げることができる。なかでも、ベンゼン、ハロゲン化ベンゼンが好ましい。
【0012】
なお、単環式芳香族化合物は、ベンゼン以外の他の共役環を含む炭化水素環や複素環をベンゼン環に縮合してあるいは連結して有する化合物も含まれる。このような単環式芳香族化合物としては、インデン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、ベンゾピラン、キノサン等を挙げることができる。
【0013】
多価式芳香族化合物は、オキシ基、アルキレン基、イミノ基などの二価以上の多価基を介してベンゼン環あるいはベンゼン環を含むユニットが連結された化合物である。多価芳香族化合物には、ベンゼン環を含むユニットを単量体単位として直鎖状あるいは分枝状に連結された高分子化合物も含まれる。多価式芳香族化合物は置換基を有していてもよく、置換基は、単環式芳香族化合物におけるのと同様の各種置換基を有することができる。例えば、このような多価式芳香族化合物としては、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジベンジルケトン、ジベンジル等を挙げることができる。
【0014】
多環式芳香族化合物としては、縮合環系芳香族化合物と環集合系芳香族化合物とを挙げることができる。縮合環系芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、トリフェニリン等あるいはこれらのベンゼン環において1あるいは2以上の置換基を有する化合物を挙げることができる。置換基は、単環式芳香族化合物におけるのと同様の各種置換基を有することができる。このような縮合環系芳香族化合物としては、例えば、ナフタレン、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン、アントラセン、トリフェニリン、ベンゾフェナントレン等を挙げることができる。
【0015】
また、環集合系芳香族化合物としては、分子内の少なくとも二つのベンゼン環が共有原子を持つことなく結合を介して連結されている化合物である。例えば、ビフェニル、テルフェニルなどのベンゼン環が直鎖状に連結した環集合系芳香族化合物、分岐して連結した環集合系芳香族化合物及びこれらのベンゼン環において1あるいは2以上の置換基を有する化合物を挙げることができる。置換基は、単環式芳香族化合物におけるのと同様の各種置換基を有することができる。このような縮合環系芳香族化合物としては、例えば、ビフェニル、テレフェニル、スチルベン等を挙げることができる。
【0016】
なお、本発明の芳香族化合物は、アミノ基を導入可能な未置換部位を有する少なくとも一つのベンゼン環あるいは非ベンゼン系芳香族環を有していれば足り、上記のカテゴリーに分類されないあるいは2つ以上のカテゴリーに同時に分類される化合物も包含している。
【0017】
アンモニア水としては、各種濃度のものが使用可能であるが、高濃度のもの、例えば濃度28%のものが好ましい。
【0018】
不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガスなどが挙げられる。
【0019】
光触媒としては、光触媒反応を誘起できる物質であればよく、一般的に知られている金属酸化物や化合物半導体などを使用することができる。具体的には、酸化チタン(TiO2)や酸化亜鉛(ZnO)、酸化鉄(Fe23)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、タンタル酸ナトリウム(NaTaO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、酸化ニオブ(Nb25)、酸化タングステン(WO3)等の各種金属酸化物;硫化カドミウム(CdS)や硫化亜鉛(ZnS)等の硫化物;窒化ガリウム(GaN)、ガリウム亜鉛オキシナイトライド(GZnON)等の窒素含有化合物;リン化ガリウムやVI族半導体(セレン化物、テルル化物)等の化合物半導体が挙げられる。また、これらを基に化学修飾や異元素をドープしたものなども挙げられる。これらは1種のみ用いてもよいが、2種以上を組み合わせてもよい。このうち、酸化チタンが好ましい。芳香族化合物としてベンゼン(無置換ベンゼン)を用いる場合には、ルチル型酸化チタンを用いるか、照射する光の量を調節しながらアナターゼ型酸化チタンを用いることが、芳香族アミンの選択率が向上するため好ましい。一方、芳香族化合物としてハロゲン化ベンゼンなどの置換ベンゼンを用いる場合には、ルチル型酸化チタンでは活性が低いためアナターゼ型酸化チタンを用いるのが好ましい。この場合、照射する光の波長を最適化することにより芳香族アミンの選択率が向上する。
【0020】
光触媒に添加される金属としては、Ni,Cu,Pd,Ru,Rh,Ag,Pt及びAuからなる群より選ばれた少なくとも1つが挙げられる。このうち、Ni,Au,Pd,Ptが好ましく、Pd,Ptが特に好ましい。添加量は、0.01〜1.0wt%の範囲であることが好ましく、0.07〜0.5wt%の範囲であることがより好ましい。0.01wt%を下回ったり1.0%を上回ったりすると、芳香族アミンの収率が低くなるため好ましくない。
【0021】
また、こうした金属を光触媒に添加した活性化触媒は、再利用することが可能である。具体的には、反応時間が長期化すると反応生成物である芳香族アミン同士がカップリングした副生成物などが増加することがあるため、こうした副生成物が増加する前に反応を切り上げ、反応を切り上げた後の活性化触媒を洗浄したあと乾燥する。この乾燥後の活性化触媒は再利用することができる。
【0022】
活性化触媒の使用量は、特に限定するものではないが、使用する反応容器に応じて設定することが好ましい。例えば、酸化チタンを光触媒として用いる場合、芳香族化合物1molに対して20〜100gの範囲であることが好ましい。下限値を下回ると、収量が低くなるため好ましくない。また、上限値を上回る量の活性化触媒を用いても光を有効に利用できず効率的ではなくなるため好ましくない。
【0023】
照射光の波長としては、特に限定するものではないが、使用する光触媒の励起に必要な波長の光を照射する必要がある。また、反応基質が吸収しない波長領域であることが好ましい。例えば酸化チタンでは、220〜400nmの範囲で設定することが好ましく、300〜380nmの範囲で設定することがより好ましい。例えば、365±20nmの波長に設定した場合、反応基質がベンゼンやハロゲン化ベンゼンの場合には芳香族アミンの選択率が向上するため好ましい。
【0024】
照射光の強度(光量)としては、特に限定するものではないが、光触媒の種類に応じて設定することが好ましい。例えば、酸化チタンでは、0.1〜1000mWcm-2が好ましく、10〜100mWcm-2がより好ましい。光量が低いと収量が低くなるため好ましくなく、光量が多いと光の利用効率が下がり且つ芳香族アミンの選択率が低下するため好ましくない。
【0025】
反応条件は、使用する芳香族化合物や金属添加触媒の種類、量などに応じて適宜設定すればよい。例えば、常温(5〜40℃)、常圧で行ってもよい。
【実施例】
【0026】
1.活性化触媒の調製
ここでは、貴金属であるPtを光触媒である酸化チタンへ添加して活性化触媒を調製する場合を例に挙げて説明する。ビーカーに酸化チタン4gと蒸留水300mLを加え、マグネティックスターラーで攪拌しながら、300Wのキセノンランプで60分光照射を行い、酸化チタン表面の不純物を分解した。メタノール100mLと目的添加量に相当する塩化白金酸六水和物水溶液をビーカーに加え、暗下で60分攪拌後、180分光照射を行い、酸化チタン自身の光触媒作用(光還元反応)によってPtを酸化チタン表面に析出させた。メタノールは、光励起によって触媒中に生成した正孔(ホール)を消費するための犠牲剤として導入された。得られた活性化触媒を吸引ろ過し、蒸留水で洗浄後、60℃の乾燥機で一晩乾燥させ、目的とする活性化触媒すなわちPtを酸化チタンに添加した触媒を得た。この方法では、Ptのほぼ全量が酸化チタンに添加された。
【0027】
2.芳香族アミンの製法
2−1.基本的手順
ここでは、芳香族アミンの製法の基本的な実験手順について、反応基質であるベンゼンとアンモニア水とを上記1.で得た活性化触媒(Ptを酸化チタンに添加した触媒)の存在下で光を照射することによりアニリンを製造する場合を例に挙げて説明する。図1は、外部照射型閉鎖系反応装置10の模式図である。この外部照射型閉鎖系反応装置10は、石英反応セル12と、この石英反応セル12内の攪拌子16を回転させるマグネティックスターラー14と、光をマグネティックスターラー14の上面に配置されたミラー18に反射させて石英反応セル12の底面に照射するキセノンランプ20とを備えている。
【0028】
上記1.の活性化触媒0.2gを石英反応セル12に入れ、空気を含むこの石英反応セル12の底面に300Wのキセノンランプ20を用いて60分照射することで、活性化触媒の表面の不純物を分解した。反応系内の空気をアルゴンで置換し、ベンゼン及びアンモニア水(濃度28%)をそれぞれ1mLずつ加え、マグネティックスターラー14で攪拌子16を回転させることにより反応液を攪拌しながらキセノンランプ20を用いて光照射を行うことで光触媒的アミノ化反応を進行させた。反応後、気相は、石英反応セル12に通じるガス採取口22より採取し、ガスクロマトグラフィー(TCD検出器)で分析した。液相は、メタノールで有機相と水相を混和させ、ろ過により活性化触媒を分離した後、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)で分析した。
【0029】
2−2.実験例
実験例1〜73は、上記2−1.の基本的な実験手順に準じて、Ptを酸化チタンに添加した活性化触媒を用いて表1〜8に示す条件で芳香族化合物のアミノ化を行った。その結果を表内に示す。なお、表中、「JRC−TIO−6」はルチル型の酸化チタン、「JRC−TIO−8」はアナターゼ型の酸化チタンを表す。
【0030】
実験例74〜80は、上記1.の活性化触媒の調製手順に準じて、Pdを酸化チタンに添加した活性化触媒を調製した。そして、上記2−1.の基本的な実験手順に準じて、この活性化触媒を用いて表9に示す条件で芳香族化合物のアミノ化を行った。その結果を表内に示す。
【0031】
実験例81,82は、上記1.の活性化触媒の調製手順に準じて、Ni及びAuを添加率が0.1wt%となるようにアナターゼ型の酸化チタンに添加した活性化触媒をそれぞれ調製した。そして、上記2−1.の基本的な実験手順に準じて、各活性化触媒を0.2g使用し、180分間光を照射しベンゼンの光触媒的アミノ化反応を行った(反応時間は180分)。そうしたところ、Niを添加した触媒を用いた場合には、1.9μmolのアニリンが生成した。このときのアニリンの選択率は58%であった。また、Auを添加した触媒を用いた場合には、3.4μmolのアニリンが生成した。このときのアニリンの選択率は40%であった。
【0032】
なお、実験例1−31、35、36、38−43、45−50、52−58、60−66、68−82は本発明の実施例に相当し、実験例32−34、37、44、51、59、67は比較例に相当する。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
【表6】

【0039】
【表7】

【0040】
【表8】

【0041】
【表9】

【0042】
3.評価
3−1.Ptを添加したルチル型酸化チタンを使用したときの評価
3−1−1.アニリン収量のPt添加率依存性
実験例1〜6の結果に基づいて、Pt添加率(wt%)と生成物収量(μmol)との関係を表すグラフ(図2)を作成した。このグラフから明らかなように、Pt添加率が0.07〜0.5wt%の範囲のときにアニリンの収量が良好であり、0.1wt%のときにアニリンの収量が最大となった。
【0043】
3−1−2.アニリン収量の光照射時間依存性
実験例7〜10の結果に基づいて、反応時間(h)と生成物収量(μmol)との関係を表すグラフ(図3)を作成した。このグラフから明らかなように、光照射時間を長くしていくと、12h以後アニリンの生成量が減少に転じ、アニリンの選択率が低下した。反応後に活性化触媒が顕著に着色していたことやアニリン由来のカップリング体がトレース量検出されたことから、選択率が低下した理由は光照射時間の長期化に伴ってアニリンが逐次カップリングして活性化触媒の表面に吸着したためであると考えられる。
【0044】
3−1−3.活性化触媒の再利用
実験例11〜14の結果に基づいて、活性化触媒を再利用したときの反応時間とアニリン収量との関係を表すグラフ(図4)を作成した。活性化触媒は、反応後の触媒をベンゼン12mLで洗浄し、乾燥して利用したものを再利用した。なお、図4の点線は、図3の連続照射の実験結果をグラフ化したものである。その結果、1回目の再利用で若干活性低下があったものの、それ以後はほぼ活性を維持し続け、連続で光照射した場合よりも多くのアニリンを得ることができた。
【0045】
3−1−4.ベンゼン、アンモニア水の使用量
実験例15〜18の結果からベンゼンやアンモニア水の使用量を調節することによりアニリンの収率を0.11%(実験例16)まで改善できることがわかった。
【0046】
3−2.Ptを添加したアナターゼ型酸化チタンを使用したときの評価
3−2−1.アニリン収量の光量依存性
実験例19〜23の結果に基づいて、照射光の強度(mWcm-2)と生成物収量(μmol)との関係を表すグラフ(図5)を作成した。図5をみると、光量を低下させるにつれて全有機生成物の収量は減少する傾向を示したが、アニリン収量の減少は他の生成物に比べ小さかった。また、アナターゼ型酸化チタンを用いた場合には、光量を調節することによりアニリンの選択率を92%(実験例21)まで上げることができた。
【0047】
3−2−2.波長制限効果
実験例24〜31の結果に基づいて、照射光の強度(mWcm-2)と生成物収量(μmol)との関係を表すグラフ(図6)を作成した。図6(a)は、バンドパスフィルターを使用して365±20nmの光を照射したときのグラフ、図6(b)は、バンドバスフィルターを使用して405±20nmの光を照射したときのグラフである。これらのグラフから明らかなように、405±20nmの光を照射したときには、365±20nmの光を照射したときに比べてアニリンの収量が圧倒的に小さくなった。このことから、光触媒的アミノ化反応は、バンドギャップ励起による反応物質の活性化によって進行していると考えられる。
【0048】
3−2−3.アンモニウム塩の検討
実験例32〜34では、アンモニウムイオン(NH4+ )が18mmol導入されるようにアンモニウム塩を秤量し使用したが、光触媒的アミノ化反応は進行しなかった。実験例35では、NH3とNH4+ を9mmolずつ導入したが、この場合には光触媒的アミノ化反応が進行した。このことから、この光触媒的アミノ化反応ではアンモニアはNH3の形で関与しているものと考えられる。
【0049】
3−2−4.反応基質の検討
反応基質としてトルエンを用いた場合(実験例36、38〜42,表4)も、クロロベンゼンを用いた場合(実験例43、45〜50,表5)も、ベンゾニトリルを用いた場合(実験例52〜57,表6)も、フルオロベンゼンを用いた場合(実験例58、60〜65,表7)も、ブロモベンゼンを用いた場合(実験例66、68〜73,表8)も、光触媒的アミノ化反応の進行が見られた。
【0050】
ここで、反応基質としてベンゾニトリルを用いた場合、ベンズアミドなどが副生したが、これらの副生成物については定量しなかった。反応基質としてハロゲン化ベンゼンを用いた場合、Ptを添加しなかった場合(実験例44、59、67)では、Ptを添加した場合(実験例45、60、68)に比べて芳香環アミノ化選択率及びアミノ化生成物の収率が劣っていた。また、波長制限を行わなかった場合(実験例45、60、68)に比べて、365±20nmに波長制限を行った場合(実験例46〜50、61〜65、69〜73)は高選択的にアミノ化生成物を得ることができた。また、反応基質としてハロゲン化ベンゼンを用いた場合には、ビフェニルを除く2量体、3量体生成物については複数存在したが、表5及び表7、表8にはその代表的な物を挙げた。
【0051】
3−3.Pdを添加した酸化チタンを使用したときの評価
実験例74〜80の結果に基づいて、Pd添加率(wt%)と生成物収量(μmol)との関係を表すグラフ(図7)を作成した。このグラフから明らかなように、Pd添加率が0.07〜0.5wt%の範囲のときにアニリンの収量が良好であり、0.1wt%のときにアニリンの収量が最大となった。なお、ビフェニルの還元体やベンゼンの還元体が痕跡量検出されたが、選択率にはこれらの生成物を考慮していない。また、実験例80はアナターゼ型の酸化チタンを用いた活性化触媒であるが、この場合、実験例76と比べてアニリンの収量は向上したものの、アニリンの選択率は低下した。
【符号の説明】
【0052】
10 外部照射型閉鎖系反応装置、12 石英反応セル、14 マグネティックスターラー、16 攪拌子、18 ミラー、20 キセノンランプ、22 ガス採取口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器に芳香族化合物とアンモニア水とを入れ、不活性ガス雰囲気中、Ni,Cu,Ru,Rh,Pd,Ag,Pt及びAuからなる群より選ばれた少なくとも1つの金属を光触媒に担持した活性化触媒の存在下で光を照射する光触媒的アミノ化反応により前記芳香族化合物にアミノ基を導入する、芳香族アミンの製法。
【請求項2】
前記金属は、Pt又はPdである、請求項1に記載の芳香族アミンの製法。
【請求項3】
前記光触媒は、ルチル型又はアナターゼ型の酸化チタンである、請求項1又は2に記載の芳香族アミンの製法。
【請求項4】
前記活性化触媒は、前記金属の添加率が0.07〜0.5wt%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の芳香族アミンの製法。
【請求項5】
前記照射する光は、波長が220〜400nmの範囲である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の芳香族アミンの製法。
【請求項6】
前記照射する光は、波長が365±20nmの範囲である、請求項5に記載の芳香族アミンの製法。
【請求項7】
前記活性化触媒は、以前の光触媒的アミノ化反応で用いたものを洗浄・乾燥したものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の芳香族アミンの製法。
【請求項8】
前記芳香族化合物は、ベンゼン又はハロゲン化ベンゼンである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の芳香族アミンの製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−159237(P2010−159237A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4075(P2009−4075)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 触媒学会 刊行物名 第102回触媒討論会 討論会A予稿集 発行年月日 平成20年9月23日
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】