説明

芳香族ジアゾニウム塩の製造方法

芳香族ジアゾニウム塩を調製するための方法であって、出発化合物が芳香族アミドであり、アミド結合を先ず加水分解的に切断し、このようにして得られたアミン化合物を無機亜硝酸塩でジアゾ化する、前記方法を記載する。このようにして得られたジアゾニウム塩を、安定な塩に変換し、次にさらなる反応、例えばHeck反応のための出発物質として供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ジアゾニウム塩を合成するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ジアゾニウム塩は、極めて反応性であるアリール化試薬であることが知られている。しかし、これらは反応性かつ不安定な化合物であり、分解する傾向があるため、これらの塩類の単離は困難である。
【0003】
これらの化合物がアミン類から合成されることは、さらなる欠点である。アミン類自体が反応性であり、通常の条件の下ですでに分解、特に酸化する傾向がある。この理由により、用いるアミン類は、所望されない副産物および不純物の生成を低減するために、十分な純度を有しなければならない。
【発明の概要】
【0004】
したがって、本発明の目的は、従来技術の欠点を克服した、芳香族ジアゾニウム塩を合成するための方法を利用できるようにすることである。
【0005】
本発明において、この目的は、芳香族ジアゾニウム塩を合成するための方法であって、出発化合物が芳香族アミドであり、アミド結合を最初に加水分解的に切断し、このようにして得られたアミン化合物を無機亜硝酸塩でジアゾ化する、前記方法により、達成される。
【0006】
本発明において、得られたジアゾニウム塩を、好ましくは錯陰イオンで安定化し、単離する。
さらに、本発明において、芳香族アミドにおいて存在し得る他の反応性基には、好ましくはすでに保護基が付与されており、これは加水分解的にアミドを切断する条件下では切断されない。
本発明において、加水分解的切断を、好ましくは鉱酸を用いて行う。
【0007】
この点において、加水分解的切断を、アルコール性鉱酸(alcoholic mineral acid)を用いて行う場合が、特に好ましく、アルコールは、C〜Cアルコールである。また、鉱酸が塩酸、臭化水素酸または硫酸である場合が、さらに特に好ましい。さらに、アルコールがメタノール、エタノール、n−プロパノールまたはイソプロパノールである場合がまた、特に好ましい。ブタノール類、例えば1‐ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノールおよび2−メチル−2−プロパノールもまた、好適なアルコールである。
【0008】
さらに、アミドの加水分解的切断を20℃〜100℃の温度にて行う方法が、本発明において好ましい。
さらに、ジアゾ化を−10℃〜+10℃の温度にて行う方法が、本発明において好ましい。
【0009】
本発明において特に好ましいのは、アミドの加水分解的切断およびジアゾ化を同一の反応混合物内で、アミンを単離せずに行う方法である。本発明の方法は、一容器反応(one-vessel reaction)に基づく。これは、合成ステップ数を減少させ、したがって時間および資源の節約をもたらすという利点を有する。
さらに、得られたジアゾニウム塩を、好ましくは安定な塩に変換し、任意に単離する。
【0010】
本発明の他の目的はさらに、テトラフルオロホウ酸p−ベンジルオキシフェニルジアゾニウムを合成するための方法であって、4−アセトアミドフェノールを、既知の方法で臭化ベンジルと反応させて保護し、このようにして得られる生成物のアミド結合を、水性、アルコール性鉱酸で選択的に切断し、次に、このようにして得られる混合物を無機亜硝酸塩で既知の方法でジアゾ化し、任意に、得られたジアゾニウム塩を、NHBFでテトラフルオロホウ酸塩に変換し、任意に単離する、前記方法である。
【0011】
本発明の方法は、一連の利点を有する。出発物質として用いられる芳香族アミド類は一般的に容易に合成することができ、安定な化合物なので、十分に精製または高純度で合成できる。
【0012】
本発明の意味において、芳香族アミド類は、一般式I
【化1】

式中、
は、直鎖状または分枝状脂肪族C〜C基であり、
Arは、アリール、アルカリール、ヘテロアリールまたはヘテロアルキルアリール基であり、これは任意に他の官能基で置換されている、
で表される化合物であると理解される。
【0013】
メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、イソヘキシルおよびシクロヘキシルは、特に好適なR基である。
特に好適なAr基は、ベンゼン、トルエン、キシリレン、ピラゾレン(pyrazolene)、イミダゾール、オキサゾロン、チアゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ナフタレン、プリン、ペトリジン(petridine)、キノリン、イソキノリンおよびアントラセンから誘導され、これはまた、脂肪族C〜C基で置換されていてもよい。
【0014】
したがって、本発明において出発物質として用いる芳香族アミド類は、芳香族アミン類および脂肪酸類から生成するアミド類である。
【0015】
出発化合物は、特に有利には、他の官能基を有していてもよい。このような基は、例えば、ヒドロキシ基、チオール基、カルボキシル基、アミド基、カルボキサミド基、ニトリル基またはイミノ基であり得るが、これらの基には限定されない。任意に、これらの基は、保護基によって保護されていなければならない。保護基を、これらが、一方でアミド基の加水分解的切断に、他方でジアゾ化反応に耐えるように、選択するべきである。このような保護基は、当業者に知られており、Theodora W. Greeneによる"Protective Groups in Organic Chemistry"、Wiley著1981年版に記載されている。
【0016】
本発明の方法の最終生成物、即ち対応する芳香族ジアゾニウム塩は、反応性出発物質であり、これを既知の反応(例としてはJapp-Klingemann反応、脱アミノ化、Sandmeyer反応、Schiemann反応、Meerwein反応およびGomberg反応)によって変換することができる。特に、本発明に従って合成されるジアゾニウム塩は、Heck反応に適する。
【0017】
挙げた反応および他の反応は、特に、活性医薬成分の合成に適する。即ち、芳香族ジアゾニウム塩は、高純度を有するか、または容易に精製することができ、したがってさらなる反応の間、副産物およびこれと共に不純物の形成がより少量となる。これは、従来技術のジアゾ化反応に勝る顕著な利点である。
以下の例は、本発明を説明するが、これを限定することを意図しない。
【0018】

例1
芳香族ジアゾニウム塩を合成するための一般的手順
任意に他の反応性基を保護するための保護基があらかじめ付与されている芳香族アミド(0.1mol)を、半濃縮(half concentrated)鉱酸(1mol)に溶解するかまたは懸濁させ、アルコール(C〜C、100mL)を加える。混合物を、1〜5時間還流させ、次に10℃より低温に冷却する。次に、亜硝酸ナトリウム(1mol)の水溶液を滴加する。この添加の間、反応混合物の温度は、出発値を超えてはならない。次に、得られた溶液を、通常の方法でさらに加工することができる。
【0019】
例2
p−ベンジルオキシフェニルジアゾニウムアセトアミドの合成
a)四ホウ酸N−(4−ベンジルオキシフェニル)ジアゾニウム
炭酸カリウム(6.60g、0.048mol)を、4−アセトアミドフェノール(6.00g、0.040mol)および臭化ベンジル(5.2mL、0.044mol)をアセトン(100mL)に溶解した溶液に加える。混合物を4時間還流させ、常温に冷却し、濾過する。沈殿物をアセトン(100mL)で洗浄し、混ぜ合わせた濾液を濃縮し、表題化合物を得(9.29g、97%)、これを、さらに精製せずに次の段階において用いることができる。
【0020】
【化2】

【0021】
b)テトラフルオロホウ酸p−ベンジルオキシフェニルジアゾニウム
N−(4−ベンジルオキシ−フェニル)アセトアミド(5.80g、0.024mol)を塩酸(3mol/L、80mL)およびメタノール(20mL)に懸濁させた懸濁液を、3時間還流させる。得られた溶液を、0℃に冷却し、亜硝酸ナトリウム(1.66g、0.024mol)を水(2mL)に溶解した溶液を、滴加する。この温度にて1時間撹拌した後、NHBF(2.77g、0.026mol)を少量加え、得られた懸濁液を0℃にて30分間撹拌する。沈殿物を濾別し、冷水(100mL)、エタノール(100mL)およびジエチルエーテル(100mL)で洗浄し、表題化合物(2.70g、34%)を得る。
【0022】
【化3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジアゾニウム塩を合成するための方法であって、出発化合物が芳香族アミドであり、最初に、アミド結合を加水分解的に切断し、このようにして得られたアミン化合物を無機亜硝酸塩でジアゾ化する、前記方法。
【請求項2】
得られたジアゾニウム塩を、錯陰イオンで安定化し、単離することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
芳香族アミドにおいて任意に存在する他の反応性基に、あらかじめ保護基が付与されており、これはアミドの加水分解的切断の条件下では切断されないことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
加水分解的切断を、鉱酸を用いて行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
加水分解的切断を、アルコール性鉱酸を用いて行い、アルコールが、C〜Cアルコールであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
鉱酸が塩酸、臭化水素酸または硫酸であることを特徴とする、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
アルコールがメタノール、エタノール、n−プロパノールまたはイソプロパノールであることを特徴とする、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
アミドの加水分解的切断を20℃〜100℃の温度にて行う、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ジアゾ化を−10℃〜+10℃の温度にて行う、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
アミドの加水分解的切断およびジアゾ化を同一の反応混合物内で、アミンを単離せずに行う、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
得られたジアゾニウム塩を安定な塩に変換し、任意に単離する、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
テトラフルオロホウ酸p−ベンジルオキシフェニルジアゾニウムを合成するための請求項1に記載の方法であって、4−アセトアミドフェノールを、既知の方法で臭化ベンジルで変換し、保護し、このようにして得られる生成物のアミド結合を、水性、アルコール性鉱酸で選択的に切断し、このようにして得られる混合物を無機亜硝酸塩で既知の方法によりジアゾ化し、任意に、得られたジアゾニウム塩を、NHBFでテトラフルオロホウ酸塩に変換し、任意に単離する、前記方法。

【公表番号】特表2010−509278(P2010−509278A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535717(P2009−535717)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【国際出願番号】PCT/EP2007/061999
【国際公開番号】WO2008/055927
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(508335624)ツィルム・ベタイリグングスゲゼルシャフト・エムベーハー・ウント・コ・パテンテ・ツヴァイ・カーゲー (4)
【Fターム(参考)】