説明

芳香族スルホン酸誘導体、及び該誘導体の製造方法

【課題】スルホン酸基の導入量を増加させても、プロトン伝導性に優れる芳香族系高分子材料、及び該高分子材料を得るためのモノマーを提供すること。
【解決手段】本発明の芳香族スルホン酸誘導体は、式(A)で表されることを特徴とする。


[式(A)において、X1〜X4は水素原子又はハロゲン原子を示す。ただしX1〜X4の少なくとも2つはハロゲン原子である。Rは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、または炭素数1〜20の炭化水素基、a及びbは1以上の整数、Ar1及びAr2は芳香族基を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニレン結合を有する芳香族スルホン酸誘導体、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、燃料として純水素ガス、改質水素ガス、メタノールを用いるいずれの型でも、高分子電解質膜を2枚の電極で挟んだ膜電極接合体を複数積層したスタックと呼ばれるもので構成されている。高分子電解質膜には、出力の向上や燃料の有効利用の点から、プロトン伝導性に優れていることが求められる。
【0003】
高分子電解質膜の作製には、従来、パーフルオロアルキレン基を主鎖骨格とし、側鎖にスルホン酸基を有する高分子材料(フッ素系高分子材料)が用いられてきた。しかし、このフッ素系高分子材料は80℃付近に軟化点を有することから、かかる高分子材料を用いて作製される高分子電解質膜は100℃を超える高温下で使用することができなかった。
【0004】
そこで、高温下でも使用できる高分子電解質膜を提供するべく、フェニレン基を主鎖骨格とし、側鎖にスルホン酸基を有する高分子材料(芳香族系高分子材料)が検討されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、従来の芳香族系高分子材料では、フェニレン基を主鎖骨格とするポリマーに対してスルホン酸基の導入がなされるため、スルホン化の部位がポリマーの化学構造の影響を受けることとなり、スルホン化率を十分に上げることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,403,675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、プロトン伝導性に優れる芳香族系高分子材料、及び該高分子材料を得るためのモノマーを提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、以下のフェニレン結合を有する芳香族スルホン酸誘導体をモノマー成分として用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明に係る芳香族スルホン酸誘導体は、式(A)で表されることを特徴とする。
【0009】
【化1】

【0010】
[式(A)において、X1〜X4はそれぞれ独立して水素原子又はハロゲン原子を示す。ただしX1〜X4の少なくとも2つはハロゲン原子である。Rは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、または炭素数1〜20の炭化水素基、a及びbはそれぞれ独立して1以上の整数、Ar1及びAr2はそれぞれ独立して芳香族基を示す。]
【0011】
本発明において、前記式(A)におけるX1〜X4の少なくとも2つがフッ素原子であることや、Ar1及びAr2がフェニレン基であることが好ましい実施態様である。
【0012】
また、本発明には、前記芳香族スルホン酸誘導体の製造方法であって、式(B)で表される芳香族化合物と、炭素数5〜20の芳香族炭化水素化合物とをフリーデルクラフツ反応でカップリングさせる第一工程と、第一工程で得られる反応生成物をスルホン化する第二工程とを含むことを特徴とする製造方法も包含される。
【0013】
【化2】

【0014】
[式(B)において、X1〜X4はそれぞれ独立して水素原子又はハロゲン原子を示す。ただしX1〜X4の少なくとも2つはハロゲン原子である。Yはヒドロキシ基またはハロゲン原子を示す。]
【0015】
上記製造方法において、前記第一工程を、反応温度−20℃〜200℃、前記反応生成物の濃度が10質量%〜50質量%となるように行うことや、前記第二工程を、反応温度20℃〜150℃で行うこと、および、前記第二工程を、前記反応生成物に対して2当量〜12当量の発煙硫酸を加えて行うことが好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る芳香族スルホン酸誘導体は、2個以上のスルホン酸基を有している。このため、当該誘導体をモノマー成分として用いることにより、スルホン化率の高い芳香族系高分子材料を得ることができ、ひいてはプロトン伝導性に優れた高分子電解質膜を提供できるものと推察される。
【0017】
また、当該芳香族系高分子材料は、スルホン酸基が剛直性の高い側鎖(芳香族基)に導入されているため、スルホン酸基を多量に導入したことに起因する耐熱水性や機械的特性の低下が起り難いと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1で得られた芳香族スルホン酸誘導体の1H−NMRスペクトルである。
【図2】実施例1で得られた芳香族スルホン酸誘導体のESI−MSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の芳香族スルホン酸誘導体は、式(A)で表されることを特徴とする。
【0020】
【化3】

【0021】
[式(A)において、X1〜X4はそれぞれ独立して水素原子又はハロゲン原子を示す。ただしX1〜X4の少なくとも2つはハロゲン原子である。Rは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、または炭素数1〜20の炭化水素基、a及びbはそれぞれ独立して1以上の整数、Ar1及びAr2はそれぞれ独立して芳香族基を示す。]
【0022】
以下、当該芳香族スルホン酸誘導体の詳細、およびその製造方法について説明する。
【0023】
(芳香族スルホン酸誘導体)
式(A)において、X1〜X4はそれぞれ独立して水素原子又はハロゲン原子を示し、少なくとも2つはハロゲン原子である。かかる構成により、当該誘導体をモノマー成分として用いて重合させて芳香族系高分子材料を調製した際に、当該X1〜X4で表される置換基を有する芳香族基が主鎖骨格を構成して、スルホン酸基は側鎖に配されることとなる。
【0024】
ハロゲン原子は特に限定されるものではなく、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。当該誘導体を用いて芳香族系高分子材料を調製する際に、当該誘導体が高い反応性を示すことから、X1〜X4のうち少なくとも2つはフッ素原子であることが好ましい。
【0025】
式(A)中、Rで表されるアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子としては、特に限定されるものではなく、アルカリ金属原子としては、例えばリチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子等が挙げられる。また、アルカリ土類金属原子としては、例えばマグネシウム原子やカルシウム原子等が挙げられる。なお、Rがアルカリ土類金属原子である場合には、かかる金属原子は芳香族スルホン酸誘導体中の複数のスルホン酸基と塩を形成していてもよい。あるいは、芳香族スルホン酸誘導体中のスルホン酸基、及び塩化物イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオンなどの遊離イオンの両方と塩を形成してもよい。
【0026】
また、Rで表される炭素数1〜20の炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の直鎖状炭化水素基;イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、s−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルブチル基等の分岐状炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチル基、アダマンチルメチル基、テトラヒドロフルフリル基、3,3−ジメチル−2,4−ジオキソランメチル基、ビシクロ[2.2.2]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基等の脂環式炭化水素基等が挙げられる。これらの炭化水素基の中でも、ネオペンチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、テトラヒドロフルフリル基、ビシクロ[2.2.2]ヘプチル基が好ましい。
【0027】
式(A)中のa及びbは、それぞれ独立して1以上の整数を示し、その上限はAr1及びAr2の種類に応じて変動するものであるが、1または2であることが好ましい。aおよびbが3を超えると、合成時の収率が低下するなどの問題が生じる場合がある。
【0028】
式(A)中、Ar1及びAr2で表される芳香族基としては特に限定されるものではなく、例えばフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が挙げられ、Ar1とAr2は同種であっても異種であってもよいが、Ar1及びAr2がともにフェニレン基であることが好ましい。
【0029】
式(A)で表される芳香族スルホン酸誘導体の具体例としては、例えば下記の化合物が挙げられる。
【0030】
【化4】

【0031】
【化5】

【0032】
【化6】

【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
【化9】

【0036】
【化10】

【0037】
【化11】

【0038】
【化12】

【0039】
【化13】

【0040】
【化14】

【0041】
【化15】

【0042】
【化16】

【0043】
【化17】

【0044】
【化18】

【0045】
【化19】

【0046】
【化20】

【0047】
【化21】

【0048】
【化22】

【0049】
【化23】

【0050】
【化24】

【0051】
【化25】

【0052】
また、上記化合物中、X1〜X4位の塩素原子やフッ素原子が他のハロゲン原子に置換された化合物や、Ar1及びAr2位のフェニレン基がそれぞれ独立してナフチレン基やビフェニレン基等の他の芳香族基に置換された化合物も用いることができる。
【0053】
上記式(A)で表される芳香族スルホン酸誘導体は、これをモノマー成分として用いて芳香族系高分子材料を調製する場合に、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
(芳香族スルホン酸誘導体の製造方法)
上記式(A)で表される芳香族スルホン酸誘導体の製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば下記の方法が挙げられる。
【0055】
すなわち、当該誘導体は、下記式(B)で表される芳香族化合物(以下、単に「芳香族化合物」と称する場合がある。)と炭素数5〜20の芳香族炭化水素化合物(以下、単に「芳香族炭化水素化合物」と称する場合がある。)とを、フリーデルクラフツ反応でカップリングさせる第一工程と、第一工程で得られる反応生成物をスルホン化する第二工程とを経て製造することができる。
【0056】
【化26】

【0057】
[式(B)において、X1〜X4は上記と同義である。Yはヒドロキシ基またはハロゲン原子を示す。]
【0058】
<第一工程>
式(B)中のYは、ハロゲン原子であることが好ましく、塩素原子であることがさらに好ましい。芳香族炭化水素化合物とのカップリング反応において、芳香族化合物が高い反応性を示すからである。
【0059】
式(B)で表される芳香族化合物の具体例としては、例えば、2,3−ジクロロテレフタル酸ジクロリド、2,5−ジクロロテレフタル酸ジクロリド、2,6−ジクロロテレフタル酸ジクロリド、2,3,5−トリクロロテレフタル酸ジクロリド、テトラクロロテレフタル酸ジクロリド、2,3−ジフルオロテレフタル酸ジクロリド、2,5−ジフルオロテレフタル酸ジクロリド、2,6−ジフルオロテレフタル酸ジクロリド、2,3,5−トリフルオロテレフタル酸ジクロリド、テトラフルオロテレフタル酸ジクロリド等のハロゲン化テレフタル酸誘導体;2,4−ジクロロイソフタル酸ジクロリド、2,5−ジクロロイソフタル酸ジクロリド、4,5−ジクロロイソフタル酸ジクロリド、4,6−ジクロロイソフタル酸ジクロリド、2,4,5−トリクロロイソフタル酸ジクロリド、2,4,6−トリクロロイソフタル酸ジクロリド、4,5,6−トリクロロイソフタル酸ジクロリド、テトラクロロイソフタル酸ジクロリド、2,4−ジフルオロイソフタル酸ジクロリド、2,5−ジフルオロイソフタル酸ジクロリド、4,5−ジフルオロイソフタル酸ジクロリド、4,6−ジフルオロイソフタル酸ジクロリド、2,4,5−トリフルオロイソフタル酸ジクロリド、2,4,6−トリフルオロイソフタル酸ジクロリド、4,5,6−トリフルオロイソフタル酸ジクロリド、テトラフルオロイソフタル酸ジクロリド等のハロゲン化イソフタル酸誘導体等が挙げられる。
【0060】
また、上記芳香族化合物中、X1〜X4位の塩素原子やフッ素原子が、それぞれ独立して臭素原子やヨウ素原子に置換された化合物も用いることができる。
【0061】
これらの芳香族化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
上記芳香族化合物とフリーデルクラフツ反応でカップリングさせる、炭素数5〜20の芳香族炭化水素化合物としては、例えばベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、m−ターフェニル、p−ターフェニルなどが挙げられ、特にベンゼンが好ましい。これらの芳香族炭化水素化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
芳香族炭化水素化合物は、芳香族化合物1molに対して1.9mol〜2.1mol添加することが好ましい。
【0064】
第一工程において、芳香族化合物と芳香族炭化水素化合物とのカップリング反応は、通常、触媒を用いて行われる。かかる触媒としては、一般にフリーデルクラフツ反応で用いられる触媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、塩化アルミニウム、塩化鉄、塩化スズ、塩化チタン、塩化亜鉛等の金属塩化物や、当該金属塩化物の塩素原子がフッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子で置換された金属フッ化物、金属臭化物、金属ヨウ化物が挙げられ、特に塩化アルミニウムが好ましい。これらの触媒は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
第一工程におけるカップリング反応は、その進行を適切に制御するために、溶媒中で行うことが好ましい。かかる溶媒としては、芳香族化合物と芳香族炭化水素化合物とをともに溶解し得る溶媒であることが好ましく、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素や、ニトロベンゼン等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
第一工程を溶媒中で行う場合、第一工程を経て得られる反応生成物の濃度が10質量%〜50質量%になるようにすることが好ましい。濃度が10質量%未満の場合には、収率が悪くなる場合がある。濃度が50質量%を超える場合には、副生成物が多量に生成する場合がある。より好ましくは20質量%〜30質量%である。
【0067】
第一工程の反応は、−20℃〜200℃の範囲で行うことが好ましく、−10℃〜100℃の範囲で行うことがより好ましく、−5℃〜50℃の範囲で行うのがさらに好ましい。反応温度が−20℃未満の場合には、カップリング反応の終了までに時間がかかる場合がある。反応温度が200℃を超える場合には、副生成物が多量に生成する場合がある。
【0068】
<第二工程>
第二工程は、上記第一工程を経て得られる反応生成物をスルホン化する工程であり、かかるスルホン化の方法としては特に限定されず、スルホン化剤の種類や量、反応温度および反応時間などを制御しながら反応生成物にスルホン化剤を反応させて、目的の芳香環にスルホン酸基を導入すればよい。
【0069】
第二工程で用いるスルホン化剤は、特に限定されるものではなく、例えば、硫酸、クロロスルホン酸、発煙硫酸、無水硫酸などが挙げられ、特に発煙硫酸が好ましい。これらのスルホン化剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
第二工程の反応は、50℃〜150℃の範囲で行うことが好ましく、60℃〜100℃の範囲で行うことがより好ましい。反応温度が50℃未満の場合には、スルホン化の終了までに時間がかかる場合がある。反応温度が150℃を超える場合には、副生成物が多量に生成する場合がある。
【0071】
第二工程において、スルホン化剤として発煙硫酸を用いる場合は、発煙硫酸の添加量は反応生成物に対して2当量〜12当量とすることが好ましい。スルホン化剤の添加量が2当量未満の場合には、反応生成物にスルホン酸基を十分に導入することができない。また、スルホン化剤は12当量を超えて添加しても、スルホン酸基の導入効率が向上しない。
【0072】
(芳香族系高分子材料)
本発明はモノマー(第一工程を経て得られた反応生成物)に対してスルホン化するものであり、フェニレン基を主鎖骨格とするポリマーに対してスルホン酸基を導入することを要しない。このため、本発明では、上記芳香族スルホン酸誘導体を用いて得られる芳香族高分子材料のスルホン化率を十分に上げることができる。
【0073】
芳香族高分子材料は、例えば、上記芳香族スルホン酸誘導体の他に、芳香族ジオール類などを用いて、公知の方法(例えば、塩基性化合物の存在下、公知の芳香族求核置換反応による重合反応)で製造することができる。芳香族ジオール類は、高分子電解質膜の柔軟性を高め、変形に対する破壊の防止や、ガラス転移温度の低下による電極との接合性向上などの効果をもたらす。
【0074】
芳香族ジオール類としては、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド(4,4’−チオビスフェノール)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマー、4,4’−ビフェノール、4、4’−ジメルカプトビフェノールなどが挙げられる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例および比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、前記及び後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更して実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお下記実施例および比較例において「部」、「%」とあるのは、それぞれ質量部、質量%を意味する。
【0076】
(実施例1)芳香族スルホン酸誘導体1の合成
<第一工程>
撹拌機を取り付けた三口フラスコに、芳香族炭化水素化合物としてベンゼン26.3g(336mmol)、溶媒として1,2−ジクロロエタン126ml、および触媒として塩化アルミニウム50.4g(378mmol)を入れ、0℃に冷却した。これに、芳香族化合物としてテトラフルオロテレフタル酸ジクロリド46.2g(168mmol)を加えた後、氷上で5時間撹拌を続けた(反応温度:約0℃)。撹拌後、反応液を1M HClの氷水336mlに注ぎ、有機層を10%NaOH336mlで1回、純水336mlで1回洗浄し、次いで濃縮、乾燥した。最後に、得られた乾燥物をトルエンで2回再結晶化して、32.0gの反応生成物を得た。
【0077】
<第二工程>
撹拌機を取り付けた三口フラスコに、得られた反応生成物32.0g(87.8mmol)を入れ、これに濃硫酸35mlを加えて反応生成物を溶解させた後、30% 発煙硫酸61ml(反応生成物に対して、5当量)を加えて80℃で30分撹拌した。撹拌後、反応液を790gの氷に注ぎ、炭酸ナトリウムで中和して2500rpmで30分間遠心分離した。次いで、上清を捨て、純水で再結晶化を行い、下記構造式で表される芳香族スルホン酸誘導体1を32.0g得た。
【0078】
【化27】

【0079】
当該芳香族スルホン酸誘導体1の1H−NMRスペクトルを図1に、ESI−MSスペクトルを図2に示す。
【0080】
なお、1H−NMR測定、及びESI−MS測定の条件は以下の通りである。
1H−NMR条件]
装置:VARIAN社製 NMR装置 400−MR
共鳴周波数:400MHz
測定溶媒:d6−DMSO
試料溶液濃度:15mg/ml
積算回数:32
測定温度:室温
【0081】
[ESI−MS条件]
試料を水とメタノールに溶解して、約100ppmに調整した後、下記の条件でESI−MS測定を行った。
装置:BRUKER DALTONICS micrOTOF
イオン化法:ESIネガティブ
【0082】
(実施例2)芳香族スルホン酸誘導体2の合成
実施例1において、テトラフルオロテレフタル酸ジクロリドの代わりに、2,5−ジクロロテレフタル酸ジクロリドを用いた以外は実施例1と同様にして、下記構造式で表される芳香族スルホン酸誘導体2を得た。
【0083】
【化28】

【0084】
(実施例3)芳香族スルホン酸誘導体3の合成
実施例1において、テトラフルオロテレフタル酸ジクロリドの代わりに、テトラフルオロイソフタル酸ジクロリドを用いた以外は実施例1と同様にして、下記構造式で表される芳香族スルホン酸誘導体3を得た。
【0085】
【化29】

【0086】
(参考例)芳香族系高分子材料の調製
実施例1で合成した芳香族スルホン酸誘導体1を用いて、以下の方法にしたがって芳香族高分子材料を調製した。
【0087】
ビフェノール3.1g、炭酸カリウム2.6g、ジメチルスルホキシド101ml、およびトルエン(50ml)をフラスコに入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら140℃に昇温し、トルエンを留去した。その後、上記芳香族スルホン酸誘導体1を10g系内に加え、140℃で6時間撹拌した。得られた溶液をアセトンに滴下し、析出物を回収し、乾燥させて、下記式で表される芳香族高分子材料12gを得た。当該材料を0.5g/dLの濃度でN−メチルピロリドンに溶解し、30℃の恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて粘度測定を行ったところ、対数粘度は0.62dL/gであった。
【0088】
【化30】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(A)で表されることを特徴とする芳香族スルホン酸誘導体。
【化1】


[式(A)において、X1〜X4はそれぞれ独立して水素原子又はハロゲン原子を示す。ただしX1〜X4の少なくとも2つはハロゲン原子である。Rは水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、または炭素数1〜20の炭化水素基、a及びbはそれぞれ独立して1以上の整数、Ar1及びAr2はそれぞれ独立して芳香族基を示す。]
【請求項2】
前記式(A)におけるX1〜X4の少なくとも2つがフッ素原子である請求項1に記載の芳香族スルホン酸誘導体。
【請求項3】
前記式(A)におけるAr1及びAr2がフェニレン基である請求項1または2に記載の芳香族スルホン酸誘導体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の芳香族スルホン酸誘導体の製造方法であって、
式(B)で表される芳香族化合物と、炭素数5〜20の芳香族炭化水素化合物とをフリーデルクラフツ反応でカップリングさせる第一工程と、
第一工程で得られる反応生成物をスルホン化する第二工程と
を含むことを特徴とする製造方法。
【化2】


[式(B)において、X1〜X4はそれぞれ独立して水素原子又はハロゲン原子を示す。ただしX1〜X4の少なくとも2つはハロゲン原子である。Yはヒドロキシ基またはハロゲン原子を示す。]
【請求項5】
前記第一工程を、反応温度−20℃〜200℃、前記反応生成物の濃度が10質量%〜50質量%となるように行う請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第二工程を、反応温度20℃〜150℃で行う請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第二工程を、前記反応生成物に対して2当量〜12当量の発煙硫酸を加えて行う請求項4から6のいずれか一項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−225493(P2011−225493A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98231(P2010−98231)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】