説明

芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法

【課題】従来、芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造する場合、原料となる芳香族ヒドロキシ化合物をナトリウムなどのアルカリ金属塩にし、反応を行うのが一般的であった。しかし、このような製造方法では、原料をアルカリ金属塩としているため、反応終了後、アルカリ金属と芳香族ヒドロキシカルボン酸との分離操作が必要となる。
【解決手段】そこで、本件発明は上記課題に鑑み、次の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法を提供する。すなわち、芳香族ヒドロキシ化合物と炭酸カルシウムなどの塩基性触媒とを超臨界流体状態の二酸化炭素と反応させることで、溶剤やアルカリ金属を用いずに芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造する。これにより、生成物のアルカリ金属や溶剤からの分離操作を極力抑えることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、原料となる芳香族ヒドロキシ化合物を、アルカリ金属塩化することなく芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ヒドロキシカルボン酸は、食品や化粧品などの防腐剤や保存料、また顔料や染料、液晶高分子やエンジニアリングプラスティックなどの原材料あるいは中間体として重要な化合物である。
【0003】
従来、サリチル酸(o-ヒドロキシ安息香酸)や、p-ヒドロキシ安息香酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造する場合、原料となるフェノールやナフトールなどの芳香族ヒドロキシ化合物をナトリウムなどのアルカリ金属塩とし、反応を行うのが一般的であった。例えば、有名な反応としては、フェノール性水酸基を有する芳香族化合物をアルカリ金属塩として、二酸化炭素と固気相反応を行わせることで、芳香族ヒドロキシカルボン酸を得るコルベ・シュミット反応(Kolbe-Schmitt reaction)などが一般的である。
【0004】
また、原料となる芳香族ヒドロキシ化合物をアルカリ金属塩としない方法としては、特許文献1に記載されているように、芳香族ヒドロキシ化合物と、無機炭酸塩、二酸化炭素を水素化トリフェニルなどの溶融剤の存在下で、473K以上の温度にて、0.05-2.5MPaの圧力下で反応することで、芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造する方法が示されている。
【特許文献1】特開2002−302465
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、コルベ・シュミット反応では、原料をアルカリ金属塩としているため、反応終了後、アルカリ金属と芳香族ヒドロキシカルボン酸との分離操作が必要となる。また、特許文献1に示されているように芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法では、反応終了後、溶剤との分離操作が必要となる。
【0006】
このような、反応終了後の精製操作は、芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造するためのコストを押し上げてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題に鑑み、本件発明では次の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法を提供する。すなわち、第一の発明としては、芳香族ヒドロキシ化合物と塩基性触媒と超臨界流体状態の二酸化炭素と、を反応させることを特徴とする、芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法を提供する。
【0008】
第二の発明としては、塩基性触媒は、炭酸カリウムであることを特徴とする第一の発明に記載の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法を提供する。
【0009】
第三の発明としては、芳香族ヒドロキシ化合物はフェノールであることを特徴とする第一の発明に記載の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法を提供する。
【0010】
第四の発明としては、芳香族ヒドロキシ化合物は1-ナフトールまたは2-ナフトールであることを特徴とする第一の発明に記載の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法を提供する。
【0011】
第五の発明としては、芳香族ヒドロキシ化合物と塩基性触媒と二酸化炭素を充填し、二酸化炭素を超臨界流体状態に保つ反応炉と、芳香族ヒドロキシ化合物を反応炉に充填するための第一充填部と、塩基性触媒を反応炉に充填するための第二充填部と、二酸化炭素を反応炉に充填するための第三充填部と、前記各部材が充填された状態の反応炉を二酸化炭素が超臨界流体状態となるように加圧・温度調整する臨界制御部と、反応炉での生成物である芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応炉から取り出すための取り出し部と、を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本件発明によれば、原料となる芳香族ヒドロキシ化合物をアルカリ金属塩化することなく、また溶融剤などを用いることなく、芳香族ヒドロキシカルボン酸を、製造することが可能となる。これにより、反応終了後、塩基性触媒と、反応生成物の分離は、メタノールなどの有機溶剤に対する溶解度の違いにより分離が容易であり、脱塩や溶剤の分離などの煩雑な分離操作を必要なく芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造することが可能となる。また、これにより、反応装置を流通式にて行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本件発明の実施の形態について、添付図面を用いて説明する。なお、本件発明は、これら実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
【0014】
実施形態1は、主に請求項1などに関する。
【0015】
実施形態2は、主に請求項2などに関する。
【0016】
実施形態3は、主に請求項3などに関する。
【0017】
実施形態4は、主に請求項4などに関する。
【0018】
実施形態5は、主に請求項5などに関する。
<実施形態1>
<実施形態1 概要>
【0019】
本実施形態は、原料となる芳香族ヒドロキシ化合物と、塩基性触媒を超臨界流体状態の二酸化炭素下で反応させることで、芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造する方法である。芳香族ヒドロキシ化合物と二酸化炭素は、常温常圧条件下の二酸化炭素では反応せず、芳香族ヒドロキシ化合物をアルカリ金属塩化したり、有機溶剤下にて反応させたりする必要があった。そこで、本件発明では、二酸化炭素を超臨界流体状態とし塩基性触媒を介して反応を行うことで、アルカリ金属塩化する必要や有機溶剤下にて反応することなく、芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造する方法を提供する。
<実施形態1 構成>
【0020】
本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法は、芳香族ヒドロキシ化合物と塩基性触媒と超臨界流体状態の二酸化炭素とを反応させる。
【0021】
従来、フェノールなどの芳香族ヒドロキシ化合物と、二酸化炭素と反応を行う気相−固相系での反応は、二酸化炭素が求電子的であるため、フェノールのような酸性物質とは反応せず、芳香族ヒドロキシ化合物をアルカリ金属塩として二酸化炭素を反応させる必要があった。また、特許文献1のように芳香族ヒドロキシ化合物をアルカリ金属塩としない製造方法の場合は、溶融剤として有機溶剤を使用し、液相系にて反応を行う必要があった。
【0022】
本件発明では、芳香族ヒドロキシ化合物をアルカリ金属塩化せず、また、有機溶剤を用いずに、芳香族ヒドロキシ化合物から芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造する方法を見いだした。すなわち、超臨界流体状態の二酸化炭素を酸性溶媒とし、塩基性触媒を介して芳香族ヒドロキシ化合物から芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造する方法である。
【0023】
本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法の反応は、まず芳香族ヒドロキシ化合物の水酸基のプロトンが塩基性触媒上のルイス塩基(電子対供与体)点により引き抜かれ、同時にプロトンが引き抜かれた芳香族ヒドロキシ化合物のフェノキシ酸素が塩基性触媒上のルイス酸(電子対受容体)点に結合する。次に、二酸化炭素はルイス酸点に結合したフェノキシアニオンの芳香核と求電子的な反応により芳香族ヒドロキシカルボン酸の生成が進行する。
【0024】
<芳香族ヒドロキシ化合物>
【0025】
本発明において用いられる芳香族ヒドロキシ化合物としては、芳香環(単環式芳香環、多環式芳香環、縮合芳香環、芳香族複素環)にヒドロキシル基を1個または2個以上有する化合物であればよい。原料として用いる芳香族ヒドロキシ化合物としては、一般に市販されているもの(例えば、純度98%品など)を使用できるが、不純物の種類や含有量が少ないことが好ましい。
【0026】
<二酸化炭素>
【0027】
本発明において用いられる二酸化炭素としては、一般に市販されているもの(例えば純度99%品など)であればよく、特に限定されない。ただし、不純物の種類や含量の少ないものが望ましい。また、二酸化炭素は、希ガスや窒素など不活性ガスで希釈して用いられても良い。本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法では、二酸化炭素は超臨界流体状態にて反応が行われる。二酸化炭素が超臨界流体状態となる条件は、圧力が7.38MPa以上、温度が304.1K以上であり、本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造においては、これらの圧力及び温度以上で反応を行う。
【0028】
<塩基性触媒>
【0029】
本実施形態で用いる塩基性触媒は、ルイス性塩基点を有する触媒である。ルイス性塩基点とは、ルイス酸に対して供与する電子対である。つまり、本実施形態の塩基性触媒はルイス酸に対して供与する電子対を有する塩基性触媒である。
【0030】
ここで、芳香族ヒドロキシ化合物から芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造するために触媒を選定するために、以下の実験を行った。
【0031】
この実験を行う際の反応条件は、反応温度473K、反応時間5時間、二酸化炭素圧力8MPa、無機固体触媒1gである。原料となる芳香族ヒドロキシ化合物はフェノールを用いた。
【0032】
図1に種々の無機固体触媒による芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造したときに生成される、芳香族ヒドロキシカルボン酸(サリチル酸(o-ヒドロキシ安息香酸)、p-ヒドロキシ安息香酸)の生成量(mol%)を示した。検討を行った無機固体触媒は、Lewis酸触媒であるシリカ(SiO2)および硫酸化ジルコニア(ZrO2-SO42-)、酸塩基両性触媒であるγ-アルミナ(ALO-2、ALO-3、ALO-4)およびヒドロキシアパタイト(HAP-1、HAP-2、HAP-3)、塩基性触媒である酸化ジルコニウム(ZRO-2、ZRO-3)、酸化セリウム(CEO-1、CEO-2、CEO-3)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、炭酸カリウム(K2CO3)を用いて検討を行った。その結果、Lewis酸触媒であるシリカおよび硫酸化ジルコニアでは反応が生起しないことが明らかとなった。また、酸塩基両性触媒であるγ-アルミナおよびヒドロキシアパタイトを用いた場合でも、ヒドロキシ安息香酸は生成しない結果となった。これに対し、塩基性触媒上での反応では、ヒドロキシ安息香酸の生成が確認された。この中でも特に炭酸塩である炭酸カリウムにおいてヒドロキシ安息香酸の生成量が多い結果となった。以上の結果から、芳香族ヒドロキシ化合物を超臨界流体状態の二酸化炭素と反応させることで芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造するのに必要な触媒は、塩基性触媒であることが示された。より具体的には、本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法において、芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造するための塩基性触媒としては、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸リチウム(LiCO3)、炭酸ルビジウム(RbCO3)、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸バリウム(BaCO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、酢酸カリウム(CH3COOK)などが挙げられる。
【0033】
尚、図1に示した種々の触媒のうち、ALO-2、ALO-3、ALO-4、ZRO-2、ZRO-3、CEO-1、CEO-2、CEO-3は、触媒学会が提供する参照触媒である。
<実施形態1 効果>
【0034】
本実施形態のように、芳香族ヒドロキシ化合物を塩基性触媒を介して、超臨界流体状態の二酸化炭素と反応させることで、効率的に芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造することが可能となる。また、反応には有機溶剤などの溶媒を用いず、アルカリ金属などを用いずに芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造することが可能となる。
<実施形態2>
<実施形態2 概要>
【0035】
本実施形態は、実施形態1を基本とし、さらに塩基性触媒として炭酸カリウムを用いることを特徴とする芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法である。塩基性触媒として、炭酸カリウムを用いることにより、他の塩基性触媒に比べて高い転化率で芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造することが可能となる。
<実施形態2 構成>
【0036】
本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法は、塩基性触媒を炭酸カリウムとした。
【0037】
炭酸カリウムは、特に限定はなく市販されている炭酸カリウムを使用することが可能である。ただし、不純物の種類や含有量が少ないものが望ましい。
【0038】
実施形態1に述べたように、本件発明の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法において、触媒として塩基性触媒を用いることが好ましい。このとき、特に芳香族ヒドロキシカルボン酸の生成量が多い塩基性触媒は炭酸カリウム(K2CO3)であった。そこで、本実施形態では、図2に示した炭酸塩の種類による芳香族ヒドロキシカルボン酸生成量への影響を検討した。反応は、原料となる芳香族ヒドロキシ化合物として、フェノールを用い、製造される芳香族ヒドロキシカルボン酸は、サリチル酸(o-ヒドロキシ安息香酸)とp-ヒドロキシ安息香酸である。反応条件は、反応温度473K、反応時間5時間、二酸化炭素圧力8MPa、炭酸塩触媒10mmolで反応を行った。検討を行った炭酸塩触媒としては、炭酸リチウム(Li2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸ルビジウム(Rb2CO3)、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸バリウム(BaCO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)である。反応の結果、図2に示したように、全ての炭酸塩において、ヒドロキシ安息香酸の生成が確認されたが、最もヒドロキシ安息香酸の生成量が多いのは、炭酸カリウムであった。
【0039】
次に、最もヒドロキシ安息香酸の生成量の多かった炭酸カリウムについて、カリウムの影響を調べるために、アニオン種の違いによる反応への影響を検討した。反応は、原料となる芳香族ヒドロキシ化合物として、フェノールを用い、製造される芳香族ヒドロキシカルボン酸は、サリチル酸(o-ヒドロキシ安息香酸)とp-ヒドロキシ安息香酸である。反応条件は、反応温度473K、反応時間5時間、二酸化炭素圧力8MPa、炭酸塩触媒10mmolで反応を行った。検討を行ったカリウム塩触媒としては、硫酸カリウム、硝酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、炭酸カリウムである。反応の結果を図3に示した。反応の結果、硫酸カリウムおよび酢酸カリウムは、ほとんど活性を示さないことが明らかとなった。また、硝酸カリウムおよび塩化カリウムの活性は、炭酸カリウムと比較すると低いことが示唆された。これらのことから、超臨界二酸化炭素中においてフェノールの直接カルボキシル化を行うポイントは、反応に適した塩基性度を有する触媒を選択する必要があり、特に炭酸カリウムが優れていることが示された。
【0040】
以上の結果より、本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造するためには、塩基性触媒として炭酸カリウムを用いることが望ましいことが示された。
<実施形態2 効果>
【0041】
本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法のように、塩基性触媒として炭酸カリウムを用いることで、効率的に芳香族ヒドロキシ化合物から芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造することが可能となる。
<実施形態3>
<実施形態3 概要>
【0042】
本実施形態は、実施形態1および実施形態2を基本とし、原料となる芳香族ヒドロキシ化合物がフェノールであることを特徴とする芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法である。原料をフェノールとすることで、本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法によって、サリチル酸(o-ヒドロキシ安息香酸)およびp-ヒドロキシ安息香酸を得ることが可能となる。
<実施形態3 構成>
【0043】
本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法は、芳香族ヒドロキシ化合物がフェノールである。芳香族ヒドロキシカルボン酸の原料となる芳香族ヒドロキシ化合物をフェノールとすることで、反応後製造される芳香族ヒドロキシカルボン酸は、サリチル酸(o-ヒドロキシ安息香酸)、およびp-ヒドロキシ安息香酸が製造される。
【0044】
フェノールは、特に限定はなく市販されているフェノールを使用することが可能である。ただし、不純物の種類や含有量が少ないものがのぞましい。
【0045】
以下に、芳香族ヒドロキシカルボン酸の原料となる芳香族ヒドロキシ化合物をフェノールとしたときに、種々の反応条件下で芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造したときの具体例を示す。
【0046】
<反応温度が反応性に及ぼす影響>
【0047】
次に、芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造における、反応温度の影響について検討した。図4に反応温度を変化させたときの、芳香族ヒドロキシカルボン酸の生成率を示した。図4に示した反応は、原料となる芳香族ヒドロキシ化合物として、フェノールを用い、製造される芳香族ヒドロキシカルボン酸は、サリチル酸(o-ヒドロキシ安息香酸)とp-ヒドロキシ安息香酸である。反応は、塩基性触媒として炭酸カリウムを10.0mmol用い、反応温度を313Kから473Kまで変化させ、反応時間5時間、二酸化炭素圧力8MPaで反応を行った。
【0048】
反応の結果、反応温度413Kまでは温度によらず、ヒドロキシ安息香酸は生成しないことが明らかとなった。反応温度473Kにおいて36.6 mol%のヒドロキシ安息香酸収率を示し、このときのサリチル酸選択率は98.5%であった。つまり、ヒドロキシ安息香酸の製造には、413K以上の温度が必要となる。
【0049】
<二酸化炭素圧が反応性に及ぼす影響>
【0050】
次に、芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造における、反応時の二酸化炭素の圧力の影響について検討した。図5に反応時の二酸化炭素圧力を変化させたときの、芳香族ヒドロキシカルボン酸の生成率を示した。図5に示した反応は、原料となる芳香族ヒドロキシ化合物として、フェノールを用い、製造される芳香族ヒドロキシカルボン酸は、サリチル酸(o-ヒドロキシ安息香酸)とp-ヒドロキシ安息香酸である。反応は、塩基性触媒として炭酸カリウムを10.0mmol用い、反応温度を473Kし、反応時間5時間、二酸化炭素圧力を1MPaから17MPaまで変化させて反応を行った。
【0051】
反応の結果、二酸化炭素圧7MPaまでは、二酸化炭素圧の増加にともないサリチル酸生成量は増大傾向を示した。臨界圧近傍においてサリチル酸生成量は極大値を示した。
【0052】
以上の結果から、芳香族ヒドロキシ化合物から、塩基性触媒を介して芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造するためには、反応温度が300K以上で、反応時の二酸化炭素圧力が8MPa度あることが望ましい。つまり、二酸化炭素が超臨界状態となる304.1K上の温度と7.3MPa以上の条件下で反応させることが望ましい。
【0053】
<反応時間の影響>
【0054】
次に、芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造における、反応時間の影響について検討した。図6に反応時間を変化させたときの、芳香族ヒドロキシカルボン酸の生成率を示した。図6に示した反応は、原料となる芳香族ヒドロキシ化合物として、フェノールを用い、製造される芳香族ヒドロキシカルボン酸は、サリチル酸(o-ヒドロキシ安息香酸)とp-ヒドロキシ安息香酸である。反応は、塩基性触媒として炭酸カリウムを10.0mmol用い、反応温度を473Kとし、反応時間を1時間から10時間まで変化させ、二酸化炭素圧力を8MPaとして反応を行った。サリチル酸収率は反応時間の増加に依存し、増大傾向を示すことが明らかとなった。また、反応時間5時間以降はサリチル酸生の生成率は、ほぼ横ばいとなる。
【0055】
<触媒添加量の影響>
【0056】
次に、芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造における、塩基性触媒の添加量の影響について検討した。図7に塩基性触媒の添加量を変化させたときの、芳香族ヒドロキシカルボン酸の生成率を示した。図7に示した反応は、原料となる芳香族ヒドロキシ化合物として、フェノールを用い、製造される芳香族ヒドロキシカルボン酸は、サリチル酸(o-ヒドロキシ安息香酸)とp-ヒドロキシ安息香酸である。反応は、塩基性触媒として炭酸カリウムを1mmolから20mmolまで変化させ、反応温度を473Kとし、反応時間を5時間とし、二酸化炭素圧力を8MPaとして反応を行った。塩基性触媒である炭酸カリウム量の増加にともないサリチル酸生成率は増大傾向を示した。10mmol以上ではサリチル酸生成率は横ばいとなった。炭酸カリウム添加量20mmolにおいてサリチル酸収率は68.3%にまで達することが明らかとなった。また、添加量によらず、サリチル酸選択率は98%以上であった。
【0057】
尚、本実施形態において、芳香族ヒドロキシカルボン酸の原料となる芳香族ヒドロキシ化合物をフェノールとすることで、反応後製造される芳香族ヒドロキシカルボン酸は、サリチル酸(o-ヒドロキシ安息香酸)、m-ヒドロキシ安息香酸、およびp-ヒドロキシ安息香酸の3種類が想定されるが、m-ヒドロキシ安息香酸は、生成しなかった。
【0058】
また実施形態1から実施形態3において、製造された芳香族ヒドロキシカルボン酸の定性および定量は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー:High performance liquid chromatography)を用いて内部標準法により算出した。対照物質としてフェノール(C6H5OH、Wako Pure Chemical Co.、99.5 wt% purity)、サリチル酸(C7H7O3、Wako Pure Chemical Co.、99.5 wt% purity)、p-ヒドロキシ安息香酸(C7H7O3、Wako Pure Chemical Co.、99.5 wt% purity)を用いた。HPLC装置は、Shimadzu LC-10AD chromatographを用い、使用したカラムはTSK-gel ODS-100V, 長さ:250mm、直径4.6mm、移動相はCH3CN/H2O = 1.5を使用し、移動相の移動速度は0.5 ml/minにて行った。また、カラムの温度は、313 Kとし、検出は紫外吸光度検出器(190-600 nm)にて検出を行った。
<実施形態3 効果>
【0059】
本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法は、原料となる芳香族ヒドロキシ化合物として、フェノールを用いることで、溶剤やアルカリ金属を用いることなく、サリチル酸(o-ヒドロキシ安息香酸)を効率的に製造することが可能となる。また副生成物として、p-ヒドロキシ安息香酸が生成する。サリチル酸は、食品の防腐剤や皮膚病治療薬の他、様々な物質の合成中間体として利用可能であり、また副生成物のp-ヒドロキシ安息香酸も液晶高分子などの合成中間体として利用可能である。
<実施形態4>
<実施形態4 概要>
【0060】
本実施形態は、実施形態1および実施形態2を基本とし、原料となる芳香族ヒドロキシ化合物が1-ナフトールまたは2-ナフトールであることを特徴とする芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法である。原料を1-ナフトールまたは2-ナフトールとすることで、本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法によって、ヒドロキシナフトエ酸を得ることが可能となる。
<実施形態4 構成>
【0061】
本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法は、芳香族ヒドロキシ化合物が1-ナフトールまたは2-ナフトールである。芳香族ヒドロキシカルボン酸の原料となる芳香族ヒドロキシ化合物を1-ナフトールまたは2-ナフトールとすることで、反応後製造される芳香族ヒドロキシカルボン酸は、ヒドロキシナフトエ酸が製造される。
【0062】
1-ナフトールおよび2-ナフトールは、特に限定はなく市販されている1-ナフトールおよび2-ナフトールを使用することが可能である。ただし、不純物の種類や含有量が少ないものがのぞましい。
【0063】
以下に、2-ナフトールからヒドロキシナフトエ酸を製造した一例を示す。製造条件としては、2-ナフトール5.0mmolと触媒となる炭酸カリウム10.0mmolを反応容器に封入し、反応容器内を二酸化炭素雰囲気とする。反応容器内の温度を473Kまで昇温し、反応容器内の二酸化炭素分圧が8MPaになるように二酸化炭素を圧入し、10時間反応を行った。反応終了後は、反応容器を急冷し、反応容器内の生成物は水溶液として回収した。回収した生成物は、TMS化(トリメチルシリル化)を行い、GC/FID(Gas Chromatography/Flame Photometric Detector)にて分離・定性・定量を行った。
【0064】
図8にGC-FIDによって得られた結果を示した。この結果から、前記条件にて、芳香族ヒドロキシ化合物(ヒドロキシナフトエ酸)を製造した場合、図9の(a)に示した、2-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸が転化率18.9%の割合で得られた。この他、反応温度、反応圧力、反応時間、触媒などの反応条件を変化させることで、図9に示した(a)から(c)の種々なるヒドロキシナフトエ酸を得ることが可能である。また、原料を1-ナフトールとした場合には、図10の(a)から(d)に示したヒドロキシナフトエ酸を得ることが可能となる。
【0065】
尚、実施形態1から実施形態4において、芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造には、ステンレス製(SUS-316)の内容積50mlの電磁誘導回転翼式オートクレーブ(日東反応機製)を用いた。反応持には、内部を回転翼により撹拌を行った。
<実施形態4 効果>
【0066】
本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法は、原料となる芳香族ヒドロキシ化合物として、1-ナフトール又は2-ナフトールを用いることで、溶剤やアルカリ金属を用いることなく、2-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸などのヒドロキシナフトエ酸を効率時に製造することが可能となる。
<実施形態5>
<実施形態5 概要>
【0067】
本実施形態は、芳香族ヒドロキシ化合物から芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造するための製造装置であって、二酸化炭素が超臨界流体状態となるように反応炉を制御可能に構成したことを特徴とする製造装置である。
<実施形態5 構成>
【0068】
図11に本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造装置の概念図を示した。本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造装置は、芳香族ヒドロキシ化合物と塩基性触媒と二酸化炭素を充填し、二酸化炭素を超臨界流体状態に保つ反応炉(1101)と、芳香族ヒドロキシ化合物を反応炉に充填するための第一充填部(1102)と、塩基性触媒を反応炉に充填するための第二充填部(1103)と、二酸化炭素を反応炉に充填するための第三充填部(1104)と、前記各部材が充填された状態の反応炉を二酸化炭素が超臨界流体状態となるように加圧・温度調整する臨界制御部(1105)と、反応炉での生成物である芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応炉から取り出すための取り出し部(1106)とを有する。
【0069】
本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造装置は、二酸化炭素、芳香族ヒドロキシ化合物、塩基性触媒を逐次反応炉内に充填し反応を行う回分式製造法や、予め塩基性触媒を反応炉内に充填固定し、二酸化炭素および芳香族ヒドロキシ化合物を反応炉内を流通しながら反応を行う流通式製造法に対応することが可能である。
【0070】
<回分式製造法>
【0071】
図11を用いて、回分式製造法における本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造装置を説明する。
【0072】
「反応炉」は、芳香族ヒドロキシカルボン酸の原料となる芳香族ヒドロキシ化合物と二酸化炭素、塩基性触媒を充填し、二酸化炭素を超臨界流体状態に保つことが可能な炉である。実施形態1から実施形態4に述べた、芳香族ヒドロキシ化合物から芳香族ヒドロキシカルボン酸への反応は、反応炉内で行われる。反応炉には、反応炉内の温度を保つための加熱装置が備え付けられている。この加熱装置は、後述する臨界制御部によって制御される。回分式で反応を行う場合には特に、芳香族ヒドロキシ化合物と二酸化炭素、塩基性触媒を撹拌するための撹拌羽根が備え付けら得ていると良い。尚、反応炉には、反応炉内の温度や圧力を測定するための圧力計および熱電対が備え付けられ、得られたデータは後述する臨界制御部に送信される。
【0073】
「第一充填部」は、前述の反応炉内に芳香族ヒドロキシ化合物を充填する。図11の製造装置において、回分式にて反応を行う場合には、加圧前の常圧状態の反応炉に、固体又は液体・気体の芳香族ヒドロキシ化合物を充填する。ここで、芳香族ヒドロキシ化合物が、フェノールだった場合、フェノールは融点が313.9Kであるため、常温では固体である。この固体状態のフェノールを反応炉に充填しても良いが、第一充填部に加熱装置を設け、フェノールを加熱し、液体状態として反応炉に充填しても良い。この場合、液体状のフェノールを反応炉に搬送するポンプにて流量の制御を行うことで、反応炉へのフェノールの充填量を制御することが可能となる。尚、第一充填部は、反応炉内に芳香族ヒドロキシ化合物を充填後、反応炉内の圧力を保ち、反応炉内の内容物が逆流しないよう、逆止弁が設けられている。
【0074】
「第二充填部」は、前述の反応炉内に塩基性触媒を充填する。塩基性触媒は、一般的に常温常圧において固体状態である。第二充填部は、この固体状態の塩基性触媒を、反応炉内に充填する。この際、塩基性触媒の輸送は、ベルトコンベヤやスクリューコンベヤといったコンベヤによって行い、反応炉内に充填する。この他、図12や図13のように、気体状態の二酸化炭素や、加熱し液体状態とした芳香族ヒドロキシ化合物などの流体に塩基性触媒を混合し、反応炉内に充填しても良い。尚、第二充填部は、反応炉内に塩基性触媒を充填後、反応炉内の圧力を保ち、反応炉内の内容物が逆流しないよう、逆止弁が設けられている。
【0075】
また、本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造装置は、塩基性触媒を反応炉内に固定化してもよい。例えば、回分式製造法においては、二酸化炭素および芳香族ヒドロキシ化合物は、反応を行うたびに充填と取り出しを行い、塩基性触媒は、反応炉内に固定した状態としても良い。基本的に、塩基性触媒は触媒であるため、反応によって増減する量は極めて微量であるため、反応のたびに充填や取り出しを行わず、定期的に取り出し部から取り出し、第二充填部から充填すればよい。反応炉内に塩基性触媒を固定化する方法としては、金属板やアルミナなどの担体に担持させてもよいし、粉体の塩基性触媒を反応炉内に充填するだけでも良い。後者の場合、芳香族ヒドロキシ化合物や芳香族ヒドロキシカルボン酸は、超臨界流体状態の二酸化炭素に溶解するが、塩基性触媒は溶解しない性質を利用し、後述する取り出し部に塩基性触媒をトラップするためのフィルターなどを設ければよい。
【0076】
「第三充填部」は、前述の反応炉内に二酸化炭素を充填する。反応炉内の圧力は、第三充填部が充填する二酸化炭素の充填量によって調整される。このため、第三充填部は、反応炉内を高圧にするために二酸化炭素を圧送するポンプなどが備えられている。また、第三充填部は、反応炉に備えられた加熱装置とは別に、充填する二酸化炭素を予め加熱する予備加熱装置を備えていても良い。第一充填部および第二充填部と同様に、第三充填部にも、反応炉内の圧力を保ち、反応炉内の内容物が逆流しないように、逆止弁が設けられている。
【0077】
ここで、回分式製造法において、第一充填部および第二充填部によって反応炉に充填される芳香族ヒドロキシ化合物および塩基性触媒は、反応炉内が常圧の状態で充填することが望ましい。二酸化炭素を超臨界状態とした反応炉内は、高圧であるため、芳香族ヒドロキシ化合物や塩基性触媒を反応炉内に充填するために、より高い圧力で反応炉内に充填する必要が生じる。このような状態は、充填に必要なエネルギーが大きくなるだけでなく、装置の耐用年数を下げる要因ともなる。このため、回分式製造法においては、第一充填部および第二充填部によって反応炉に芳香族ヒドロキシ化合物および塩基性触媒を充填し、その後、第三充填部により二酸化炭素を充填し超臨界状態とすることが望ましい。尚、芳香族ヒドロキシ化合物および塩基性触媒を二酸化炭素によって気体輸送し反応炉内に充填する場合には、この限りではない。
【0078】
「臨界制御部」は、第一充填部、第二充填部、第三充填部により充填された状態の反応炉を、二酸化炭素が超臨界流体状態となるように加圧・温度調整する。回分式製造法において、反応炉内を二酸化炭素が超臨界流体状態となるように調整するには、臨界制御部は、第三充填部、反応炉、取り出し部を制御する。第三充填部に対しては、反応炉内に充填する二酸化炭素の量を制御し、反応炉内の二酸化炭素圧力を制御する。また、第三充填部に予備加熱装置が備え付けられている場合には、予備加熱装置の温度制御も行う。反応炉については、反応炉に備え付けられた加熱装置を制御し反応炉内の温度を制御する。また、取り出し部に関しては、後述する反応炉からの出口となる取り出し弁の開閉状況を監視し、取り出し弁が閉まった状態で、第三充填部に対して、二酸化炭素を充填し反応炉内の圧力を上昇させるなどの制御を行う。以上が、臨界制御部が反応炉内を二酸化炭素が超臨界流体状態となるように調整するために最低限必要な制御である。
【0079】
尚、図示していないが、臨界制御部は、第一充填部、第二充填部を制御し、芳香族ヒドロキシ化合物や塩基性触媒の充填のタイミングなどを制御しても良い。回分式製造法における処理の流れについては後述する。
【0080】
「取り出し部」は、反応終了後、反応炉内から製造された芳香族ヒドロキシカルボン酸の他、二酸化炭素や塩基性触媒、未反応の芳香族ヒドロキシ化合物を取り出す。取り出し部には、反応炉内を閉鎖系とし、また反応炉内の芳香族ヒドロキシカルボン酸などを取り出すための取り出し弁が設けられている。反応炉内は反応終了後も高圧状態であるため、取り出し弁を開放すると、反応炉内の二酸化炭素や芳香族ヒドロキシカルボン酸、塩基性触媒などが噴出する。芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ヒドロキシ化合物は、超臨界流体状態の二酸化炭素に溶解しているが、取り出し弁から噴出後は、常温常圧となるため、気体状態の二酸化炭素と固体の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシ化合物、塩基性触媒に分離される。気体状態の二酸化炭素は、そのまま大気中に開放しても良いが、再度第三充填部に送り、再度反応に利用しても良い。また、塩基性触媒を反応炉内に固定する場合は、固体状態の塩基性触媒が反応炉内から流出しないように、取り出し弁より反応炉側に、塩基性触媒をトラップするフィルターを設置してもよい。
【0081】
<回分式製造法における処理の流れ>
【0082】
図14に本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造装置の回分式製造法における処理の流れの一例を説明するためのフローチャートを示した。
【0083】
まず、臨界制御部は、取り出し部の取り出し弁の閉鎖を確認し(S1401)、第一充填部および第二充填部に対して、逆止弁を開放(S1402)し芳香族ヒドロキシ化合物および塩基性触媒を常温常圧状態の反応炉内に所定量充填するように制御する(S1403)。反応炉に所定量の芳香族ヒドロキシ化合物および塩基性触媒を充填後、臨界制御部は第一充填部、第二充填部の逆止弁を閉鎖するように制御する(S1404)。次に臨界制御部は反応炉内が所定温度になるように反応炉の加熱装置を制御し昇温する(S1405)。尚、反応炉内の昇温は、芳香族ヒドロキシ化合物および塩基性触媒の充填前であってもよい。臨界制御部は、第三充填部を二酸化炭素が反応炉内の圧力が所定圧力になるまで充填(S1406)し、充填完了後、逆止弁を閉鎖するように制御する。
【0084】
この段階で反応炉内の二酸化炭素は超臨界流体状態となり反応が開始される(S1407)。所定時間が経過し反応が終了すると、臨界制御部は取り出し部の取り出し弁の開放を制御し、反応炉内の内容物を回収する(S1408)。尚、塩基性触媒を固定する場合には、第二充填部による塩基性触媒の充填が不要となる。
【0085】
<流通式製造法>
【0086】
本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造装置において流通式製造法による製造法について説明する。図15に本実施形態の流通式製造法による芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造装置を説明するための概念図を示した。
【0087】
流通式製造法では、二酸化炭素と芳香族ヒドロキシ化合物を、反応炉(1501)内を流通させて反応を行う。この際、塩基性触媒も二酸化炭素および芳香族ヒドロキシ化合物と同様に流通させても良いが、回分式製造法にも述べたように、塩基性触媒は反応炉内に固定させた方が効率的である。よって、以下の説明は、反応炉内に塩基性触媒を固定させた流通式製造法である。尚、塩基性触媒を反応炉内に充填する第二充填部(1503)は、回分式製造法とほぼ同様であるため詳細な説明は省略する。
【0088】
流通式製造法における第一充填部(1502)は、回分式製造法とほぼ同様であるが、反応中は、反応炉内に所定量の芳香族ヒドロキシ化合物を連続的に充填し続ける。また、反応炉内は、二酸化炭素が超臨界流体状態であるため、高圧である。そのため、第一充填部は、芳香族ヒドロキシ化合物を高圧で充填するためのポンプを備えている。
【0089】
流通式製造法における第三充填部(1504)は、回分式製造法とほぼ同様であるが、反応中は反応炉内に二酸化炭素を連続的に充填し続ける。第三充填部は、取り出し部の取り出し弁から取り出される内容物の量と、第三充填部から充填される二酸化炭素の量を制御することで、反応炉内の圧力の調整を行う。
【0090】
流通式製造法における臨界制御部(1505)は、回分式製造法とほぼ同様であるため、詳細な説明は省略する。尚、前述の第三充填部の二酸化炭素充填量と、取り出し部からの取り出し量の制御は、臨界制御部が、反応炉内の圧力を監視しながら制御を行う。
【0091】
流通式製造法における取り出し部(1506)は、回分式製造法とほぼ同様であるが、反応中は、反応炉内から反応炉内の内容物を連続的に取り出している。
【0092】
<流通式製造法における処理の流れ>
【0093】
図16に本実施形態における流通式製造法による芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法の処理の流れの一例を説明するためのフローチャートを示した。図16のフローチャートでは、流通式製造法において、連続的に反応が行われるまでの流れを説明している。
【0094】
まず、反応炉内に固定された塩基性触媒の充填の必要の有無を確認する(S1601)。反応炉内に塩基性触媒が全く固定されていない場合や、塩基性触媒が劣化している場合には、塩基性触媒を反応炉内に充填し固定する(S1602)。次に、臨界制御部は取り出し部の取り出し弁の閉鎖を確認し(S1603)、二酸化炭素を反応炉内に充填する(S1604)。二酸化炭素の充填を開始後、反応炉内の温度が所定温度および所定圧力になるまで昇温、昇圧を行う(S1605)。次に、二酸化炭素を反応炉内に連続的に充填している状態で、反応炉内の温度および圧力が所定値を保ち、尚かつ一定時間反応炉内に保持されるように、取り出し弁を一部開放する(S1606)。この状態では、二酸化炭素は連続的に第三充填部から反応炉内に充填され、反応炉内の二酸化炭素は超臨界流体状態となり、なおかつ取り出し部より一定量ずつ流出した状態となる。次に、第一充填部から、芳香族ヒドロキシ化合物を連続的に反応炉内に充填する。反応炉内に充填された芳香族ヒドロキシ化合物は、二酸化炭素とともに、一定時間反応炉内に保持され、反応が行われ、取り出し部より外部へ取り出される。芳香族ヒドロキシ化合物を連続的に反応炉内に充填することで、一定量ずつ、取り出し部より芳香族ヒドロキシカルボン酸が得られる。この状態で芳香族ヒドロキシ化合物から芳香族ヒドロキシカルボン酸が連続的に製造される。
<実施形態5 効果>
【0095】
本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造装置は、反応炉内を二酸化炭素が超臨界流体状態となるようにすることで、芳香族ヒドロキシ化合物から芳香族ヒドロキシカルボン酸を効率的に製造することが可能となる。また本実施形態の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造装置では、回分式または流通式の製造方法で芳香族ヒドロキシカルボン酸を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】実施形態1の触媒種の違いによる芳香族ヒドロキシカルボン酸の生成量の変化
【図2】実施形態2の触媒種の炭酸塩の違いによる芳香族ヒドロキシカルボン酸の生成量の変化
【図3】実施形態2の触媒種のアニオンの違いによる芳香族ヒドロキシカルボン酸の生成量の変化
【図4】実施形態3における反応温度の違いによる芳香族ヒドロキシカルボン酸の生成量の変化
【図5】実施形態3における反応圧力の違いによる芳香族ヒドロキシカルボン酸の生成量の変化
【図6】実施形態3における反応時間の違いによる芳香族ヒドロキシカルボン酸の生成量の変化
【図7】実施形態3における触媒添加量の違いによる芳香族ヒドロキシカルボン酸の生成量の変化
【図8】実施形態4において2-ナフトールを原料としたときに得られるヒドロキシナフトエ酸の転化率
【図9】実施形態4において2-ナフトールを原料としたときに得られるヒドロキシナフトエ酸の一例
【図10】実施形態4において1-ナフトールを原料としたときに得られるヒドロキシナフトエ酸の一例
【図11】実施形態5の回分式製造法による芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法の一例
【図12】実施形態5の回分式製造法による芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法の一例
【図13】実施形態5の回分式製造法による芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法の一例
【図14】実施形態5の回分式製造法による芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法を説明するためのフローチャート
【図15】実施形態5の流通式製造法による芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法の一例
【図16】実施形態5の流通式製造法による芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法を説明するためのフローチャート
【符号の説明】
【0097】
△ サリチル酸(o-ヒドロキシ安息香酸)
○ p-ヒドロキシ安息香酸
1101 反応炉
1102 第一充填部
1103 第二充填部
1104 第三充填部
1105 臨界制御部
1106 取り出し部
1201 反応炉
1202 第一充填部
1203 第二充填部
1204 第三充填部
1205 臨界制御部
1206 取り出し部
1301 反応炉
1302 第一充填部
1303 第二充填部
1304 第三充填部
1305 臨界制御部
1306 取り出し部
1501 反応炉
1502 第一充填部
1503 第二充填部
1504 第三充填部
1505 臨界制御部
1506 取り出し部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ヒドロキシ化合物と
塩基性触媒と
超臨界流体状態の二酸化炭素と、を反応させることを特徴とする、芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
前記塩基性触媒は、炭酸カリウムであることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項3】
前記芳香族ヒドロキシ化合物はフェノールであることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項4】
前記芳香族ヒドロキシ化合物は1-ナフトールまたは2-ナフトールであることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造方法。
【請求項5】
芳香族ヒドロキシ化合物と塩基性触媒と二酸化炭素を充填し、二酸化炭素を超臨界流体状態に保つ反応炉と、
芳香族ヒドロキシ化合物を反応炉に充填するための第一充填部と、
塩基性触媒を反応炉に充填するための第二充填部と、
二酸化炭素を反応炉に充填するための第三充填部と、
前記各部材が充填された状態の反応炉を二酸化炭素が超臨界流体状態となるように加圧・温度調整する臨界制御部と、
反応炉での生成物である芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応炉から取り出すための取り出し部と、
を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−173563(P2009−173563A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12059(P2008−12059)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 conference on electronics and information communications 刊行物名 International Symposium on Catalysis and Fine Chemicals 2007 発行年月日 2007年12月16日
【出願人】(598163064)学校法人千葉工業大学 (101)
【Fターム(参考)】