説明

芳香族ビスアニリンの製造方法

【課題】反応操作途中に、実質ろ過操作を加えるだけで金属イオンの少ない芳香族ビスアニリン類が得られる芳香族ビスアニリンの製造方法を提供すること。
【解決手段】芳香族ケトンとアニリンとを酸性触媒の存在下で縮合させて芳香族ビスアニリンを製造する方法において、上記反応物の反応後の反応液を、アルカリ金属水酸化物水溶液を用いてアルカリ性としてから水相を排出し、有機相をろ過してさらに有機相を純水で洗浄し、再結晶操作により精製することを特徴とする芳香族ビスアニリンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性ポリアミドやポリイミドの原料あるいは改質添加物などに用いられる芳香族ビスアニリンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ビスアニリンは、機能性ポリアミドやポリイミドの原料として用いた場合に、剛直な芳香族基本骨格をもつため光学特性に特徴があって、かつ耐熱性の優れたものが得られる。このような用途に用いる材料は透明性が要求される。ポリマーの透明性を低下させる要因は様々あるが、例えば、ポリマー材料中に存在する微量金属イオンの存在は、錯体形成などによって着色の原因となるため、含有量の少ないものが求められる。
【0003】
このため、例えば、特許文献1は、芳香族ビスアニリン類を低級脂肪族ケトンに溶解してろ過することを提案している。しかしこの方法では、アミノ基とケトンとが反応することによりイミンを形成する場合があり、乾燥前に加水分解するなど、付帯する操作が必要になる場合がある。さらには、上記低級脂肪族ケトンが反応や再結晶に使用する溶媒とは異なるため、溶媒置換に伴うろ過や乾燥といった操作が加わって、煩雑となっていた。
【特許文献1】特開平03−204842号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、機能性ポリアミドやポリイミドの原料あるいは改質添加物などに用いられる、金属含有量の低い芳香族ビスアニリンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、より簡素で、不純物の生成がなく、芳香族ケトンとアニリンとの反応生成物から金属イオンを除去する方法を鋭意検討した。まず、芳香族ケトンとアニリンとの反応生成物から金属イオンを除去する方法としては、反応生成物の水洗が挙げられる。この際の洗浄水を酸性にすれば、生成した芳香族ビスアニリンが水中に溶解してしまう。一方、水を中性あるいはアルカリ性にすれば、芳香族ビスアニリンの溶解は抑制できるが、アルカリ金属を除いて金属イオンは水酸化物を形成して水に不溶となってしまう。このように水洗操作では特に多価金属を除くのに困難がある。
【0006】
従って、反応生成物から金属を効率的に除くためには、中性ないしはアルカリ性下でかつ芳香族ビスアニリンが溶解した状態でろ過することで目的が達成されることがわかる。特許文献1は中性溶液下のろ過であって、そのような要求に対しての一つの解である。
【0007】
さて、本発明者は、芳香族ケトンとアニリンとの反応生成物からのより効率的な脱金属を目指して製造過程を見直した。すなわち、前述の特許文献1では反応生成物(製品)を脱金属処理するのに適した方法であるが、製造の途中段階でより簡素な手法で脱金属するための方法を探索した。
【0008】
そして、多価金属イオンはアルカリ性領域で水酸化物コロイドを形成すること、アルカリ金属イオンは、どのpH領域においてもイオンで溶存すること、そして芳香族ビスアニリンの製造過程では、反応直後に反応液をアルカリ性領域から中性領域へ変化させる過程を導入することが容易であることに考察が至った。すなわち、反応後の中和処理においてはアルカリ性になるまでアルカリ水溶液を添加し、その後に水相を除去してろ過操作をすること、続いて純水で洗操作することで目的が達成されることに気がついて、実験により実証することで本発明が完成した。
【0009】
本発明は、芳香族ケトンとアニリンとを酸性触媒の存在下で縮合させて芳香族ビスアニリンを製造する方法において、上記反応物の反応後の反応液を、アルカリ金属水酸化物水溶液を用いてアルカリ性としてから水相を排出し、有機相をろ過してさらに有機相を純水で洗浄し、再結晶操作により精製することを特徴とする芳香族ビスアニリンの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によると、反応操作途中に、実質ろ過操作を加えるだけで金属イオンの少ない芳香族ビスアニリン類が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
芳香族ビスアニリンの製造方法としては、一般的には芳香族ケトンとアニリンとを酸触媒の存在下で縮合反応させる方法が既に公知であって、古くは、例えば、Macromolecules,14,488,1881、あるいは工業的製法として、特開昭62−149650号公報に記されている。なお、この公報では共沸溶媒により反応水を除くことで収率の上昇が図れると論じており、同様に特開平03−215455号公報では、窒素ガスで水分を除去する方法が提案されているが、実施例に記載されているフルオレノンとの縮合反応に関しては本発明者の追試によれば、このような溶媒や窒素ガスによる水分の追い出しは不必要であり、常圧操作で蒸発してくる水分を系外に排出するだけで事足りた。
【0012】
触媒である酸は、特開昭62−149650号公報ではアニリン塩酸塩の形で加えているが、当然ながら系内に塩酸を直接加える方法でもよい。むしろアニリン塩酸塩の工業薬品としての流通が極少量であること、アニリン塩酸塩は経日によって着色しやすいことを勘案すると、一般に使用されている薬品である塩酸とアニリンを使う方が、反応生成物の着色抑制の意味では好ましいといえる。また、その量については、芳香族ケトンに対してモルで1/10程度で充分である。すなわち、例えば、芳香族ケトンとしてフルオレノンを140℃で反応させる場合は、1/10量の酸触媒で1時間以内に反応が完結し、1/20量の酸触媒でも3時間で反応が完結する。
【0013】
反応温度は、芳香族ケトンにより若干の違いはあるが、140℃以上が好ましい傾向にあった。130℃以下では水分の蒸発除去が不十分で反応が完結するまでに多大の時間を要する。また、窒素ガス導入や減圧下で125℃を下回る条件を設定する場合は、反応生成物が着色する傾向にあり、何らかの副反応が進行しているものと推定される。
【0014】
縮合反応の終了後、反応触媒として加えられている酸を中和するために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどのアルカリ水溶液を添加する。このうち水酸化ナトリウムを使うのが費用面から最も好適であり、アンモニア水は操作上で臭気があるため、あえて選択する利点はない。このアルカリ水溶液の濃度は、中和によって生成する塩が析出しない濃度まで低減したものが使われ、例えば、水酸化ナトリウムを使用する場合の濃度は、8〜10質量%である。また、この量は、触媒である酸の当量に対して過剰にしておくことが重要である。これによって、多価金属イオンを水酸化物コロイドとして析出させることが可能となる。
【0015】
そこでこの塩水を静置分離して排出し、有機相をろ過して金属水酸化物を含まないろ液を得ることができる。このろ液には中和に使用したアルカリ金属イオンが若干残留しているので、純水で洗浄することで、低金属イオンの反応液とすることができる。
【0016】
以後は、特開昭62−149650号公報に記されている精製法、すなわち、この液を常温程度まで冷却することで、芳香族ビスアニリンが析出するので、ろ取してトルエンなどで再結晶精製することで、高純度で金属イオンの少ない芳香族ビスアニリンが得られる。
【0017】
なお、本発明で使用する芳香族ケトンとしては、例えば、フルオレノン、1−インダノン、ベンゾフェノンなどが挙げられ、アニリンとしては、アニリンの他に、アニリン誘導体などが挙げられる。
上記芳香族ケトンとアニリンとは、本発明において芳香族ケトン1モルあたりアニリンを4〜16モルの比率で反応させることが好ましい。
【実施例】
【0018】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
攪拌機を備えた2,000mlフラスコに、フルオレノン70g(0.38mol)、濃塩酸104g(1mol)、アニリン1,000gを入れ、常圧で140℃まで昇温し、5時間保持した。この過程で留出してくる蒸気(塩酸あるいは反応に由来する水分)は系外に排出した。その後、80℃まで冷却し、10質量%水酸化ナトリウム水溶液420g(1.05mol)を添加し、攪拌および静置し、底部より水相を排出した。有機相をNo.5Cのろ紙にてろ過した後、150gの脱イオン水(70〜80℃)を用いて洗浄を5回繰り返した。これを放冷することでビスアニリンフルオレンの粗結晶を得、さらにこれをトルエンによって再結晶することで、精製ビスアニリンフルオレンを得た。乾燥物収量122g(収率90%)、LC純度99.4%で、Na、K、Ca、Cuの含有量はそれぞれ1ppm未満、Feの含有量は1ppmであった。
【0019】
[実施例2]
実施例1のフルオレノンに代え、1−インダノン50.2g(0.38mol)を用いて、その他は実施例1と同様に操作した。1,1−ビスアニリンインダンを乾燥物収量114.9g(収率87%)得た。LC純度98.8%で、Na、K、Ca、Fe、Cuの含有量は全て1ppm未満であった。
【0020】
[実施例3]
実施例1のフルオレノンに代え、ベンゾフェノン69.2g(0.38mol)を用いて、その他は実施例1と同様に操作した。ビスアニリンベンゾフェノンを乾燥物収量49g(収率71%)得た。LC純度99.0%で、Na、K、Ca、Cu、Feの含有量は全て1ppm未満であった。
【0021】
[比較例1]
実施例1において、アルカリ添加水相分離後のろ過操作を行わずに、同様に操作してビスアニリンフルオレンを得た。LC純度99.4%で、Na、K、Caの含有量はそれぞれ1ppm未満、Cuの含有量は5ppm、Feの含有量は34ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の方法によると、反応操作途中に、実質ろ過操作を加えるだけで金属イオンの少ない芳香族ビスアニリン類が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ケトンとアニリンとを酸性触媒の存在下で縮合させて芳香族ビスアニリンを製造する方法において、上記反応物の反応後の反応液を、アルカリ金属水酸化物水溶液を用いてアルカリ性としてから水相を排出し、有機相をろ過してさらに有機相を純水で洗浄し、再結晶操作により精製することを特徴とする芳香族ビスアニリンの製造方法。
【請求項2】
芳香族ケトンが、フルオレノン、インダノンおよびベンゾフェノンから選ばれる1種である請求項1に記載の芳香族ビスアニリンの製造方法。

【公開番号】特開2009−102252(P2009−102252A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274634(P2007−274634)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】