説明

芳香族ポリアミドフィルムおよびその製造方法

【課題】厚膜化時の厚み方向の物性ムラおよび残存揮発分が抑えられ、経済性、耐熱性、表面性に優れた芳香族ポリアミドフィルムを提供する。
【解決手段】芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーとを含有し、熱可塑性ポリマーの含有量が芳香族ポリアミド100質量部に対し70〜400質量部であり、かつ膜厚が50〜150μm、250℃における残存揮発分が0.0〜1.0%、200℃における熱収縮率が0.0〜0.7%、少なくとも一方の面の表面粗さRaが5〜30nmである芳香族ポリアミドフィルム。芳香族ポリアミドの連続相(または、熱可塑性ポリマーの連続相)1、熱可塑性ポリマーの連続相(または、芳香族ポリアミドの連続相)2を有するフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミドフィルムおよびその製造方法に関し、特に、芳香族ポリアミドが連続相を構成している耐熱フィルムおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミドは剛性や強度などの機械特性が高く、薄膜化に非常に有利であることから、コンピュータのデータバックアップなどの磁気記録媒体として活用されている。また、一方でポリイミドに次ぐ耐熱性も有していることから、耐熱工程紙、フレキシブル回路基板、スピーカー振動板、コンデンサーなどの工業材料用途での活用が考えられている。しかし、芳香族ポリアミドはコストが高いことや湿度特性が劣るといった欠点がある。また、芳香族ポリアミドフィルムは溶液製膜工程で溶媒が抜けにくく、膜厚を厚くすることが困難であるといった課題がある。
【0003】
これまでに、芳香族ポリアミドの経済性や湿度特性の欠点を補う方法として、芳香族ポリアミドとポリスチレン(PSt)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)などの比較的安価で湿度特性が良好である熱可塑性ポリマーとをアロイ化することが提案されており、例えば特許文献1〜7にその方法が記載されている。しかし、これらの文献に記載される方法では厚膜化の際、特に熱可塑性ポリマーの含有量を多くしたとき、厚み方向の物性ムラを抑制し、耐熱性と表面平滑性を両立したフィルムを得ることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−237135号公報
【特許文献2】特開平3−286860号公報
【特許文献3】特開平4−25535号公報
【特許文献4】特開平4−27110号公報
【特許文献5】特開平4−107126号公報
【特許文献6】特開平4−117433号公報
【特許文献7】特開2000−273215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は芳香族ポリアミドに、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーをアロイ化し、特定の条件にて製膜することで、厚膜化時の厚み方向の物性ムラや残存揮発分が抑えられ、経済性、耐熱性、表面性、機械特性に優れ、耐熱性工業材料として好適に用いることのできる芳香族ポリアミドフィルムを得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、以下の特徴を有する。
(1)芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーとを含有し、熱可塑性ポリマーの含有量が芳香族ポリアミド100質量部に対し70〜400質量部であり、かつ膜厚が50〜150μm、250℃における残存揮発分が0.0〜1.0質量%、200℃における熱収縮率が0.0〜0.7%、少なくとも一方の面の表面粗さRaが5〜30nmである芳香族ポリアミドフィルム。
(2)フィルム表裏の表面粗さRaの差が0〜20nmである、上記(1)に記載の芳香族ポリアミドフィルム。
(3)芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーとを含む製膜原液を支持体上にキャストしてキャスト膜とし、熱風によりこのキャスト膜を乾燥させて芳香族ポリアミドフィルムを得るに際し、支持体温度Tb(℃)と熱風温度Ta(℃)とが下式を同時に満たす範囲である、上記(1)または(2)に記載の芳香族ポリアミドフィルムの製造方法。
【0007】
80≦Ta<Tb≦180
10≦Tb−Ta
【発明の効果】
【0008】
本発明は芳香族ポリアミドに柔軟な熱可塑性ポリマーをアロイ化し、特定の条件により製膜を行うことで、厚膜化時の厚み方向の物性ムラおよび残存揮発分が抑えられたフィルムを得るものである。本発明のフィルムは熱可塑性ポリマーの軟化流動点以上の温度でも流動せず、高温での熱収縮率も小さく、耐熱性に優れている。そのため、安価な熱可塑性ポリマーを用いることができ、製造コストを下げることが可能である。また、表面性に優れ、かつ熱可塑性ポリマーの単体フィルムに比較して高剛性であるため、耐熱工程紙などの工業材料用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】共連続構造の模式図である。
【図2】海島構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーとのアロイフィルムであり(以下、本発明の芳香族ポリアミドフィルムをアロイフィルムということがある)、芳香族ポリアミド100質量部に対し熱可塑性ポリマーを70〜400質量部含有している。
【0011】
本発明において用いる芳香族ポリアミドは、次の化学式1および/または化学式2の構造単位を50モル%以上含有しているものが好ましく、70モル%以上から成るものがより好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
【化2】

【0014】
ここで、Ar、Ar、Arの基としては、例えば、
【0015】
【化3】

【0016】
などが挙げられる。
【0017】
X、Yは−O−、−CH−、−CO−、−CO−、−S−、−SO−、−C(CH−などから選ばれるが、これらに限定されるものではない。さらに、これら芳香環上の水素原子の一部が、フッ素や臭素、塩素などのハロゲン基(特に塩素)、ニトロ基、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基(特にメチル基)、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのアルコキシ基などの置換基で置換されていてもよく、また、重合体を構成するアミド結合中の水素が他の置換基によって置換されていてもよい。
【0018】
また、本発明に用いる芳香族ポリアミドは、上記の芳香環がパラ配向性を有している重合体が全芳香環の50モル%以上、より好ましくは70モル%以上であるとフィルムの剛性が高く、耐熱性も良好となるため好ましい。ここでパラ配向性とは、芳香環上の主鎖を構成する2価の結合手が互いに同軸または平行にある状態をいう。このパラ配向性が50モル%未満の場合、フィルムの剛性および耐熱性が不十分となる場合がある。
【0019】
また、本発明に用いる芳香族ポリアミドには、本発明の目的を阻害しない範囲で、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、無機または有機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核生成剤などが添加されていてもよい。
【0020】
本発明のアロイフィルムは前述の芳香族ポリアミド100質量部に対して熱可塑性ポリマーを70〜400質量部含有している。熱可塑性ポリマーの量が70質量部より少ない場合は溶媒拡散性の向上、湿度特性の改善、および経済的メリットが小さくなり、また400質量部を超えると芳香族ポリアミドが連続相を形成するのが困難になり、耐熱性や剛性などが低下することがある。製膜性、耐熱性、表面性、経済性などを、より高いレベルで達成できることから、芳香族ポリアミド100質量部に対する熱可塑性ポリマーの含有量は100〜350質量部であることがより好ましい。本発明のアロイフィルムから熱可塑性ポリマーの含有量を測定する方法としては、例えば、トルエンやクロロホルムなどの、芳香族ポリアミドを溶解しない溶媒により熱可塑性ポリマーのみを抽出し、重量変化より求める方法や、共通溶媒に溶解させた溶液をゲル浸透クロマトグラフィーにより分析する方法などが挙げられる。
【0021】
本発明のアロイフィルムにおいて、芳香族ポリアミドと熱可塑性ポリマーの両ポリマーが、それぞれ連続的に連なって形成する共連続構造、あるいは、芳香族ポリアミドが母相の連続相となり、熱可塑性ポリマーが分散相となる海島構造を有することが好ましい。芳香族ポリアミドが連続相を取ることで、フィルムの骨格として働き、芳香族ポリアミドの有する耐熱性、剛性を保持することが可能となる。特に、共連続構造を形成することで、両ポリマーの本来有する特性が相乗的に発揮され得るため、より好ましい。ここで、芳香族ポリアミドが連続相を取るとは、フィルム中から任意に選んだ、1辺10μmの立方体の領域において3次元構造の評価を行ったとき、芳香族ポリアミド相がその領域で連続的に連なった構造を形成していることをいう。本発明における共連続構造および海島構造とは、例えば、それぞれ図1および図2のような構造をいう。
【0022】
本発明のアロイフィルムにおいて、芳香族ポリアミドが連続相を形成するためには、用いる溶媒と両ポリマーとの親和性を制御することが有効である。その方法として、例えば、熱可塑性ポリマーとして、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチレンホスホルアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノンなどのアミド系極性溶媒に溶解する非晶性ポリマーのうち、溶解度パラメーター(SP値)が11以下のものを用いる方法が挙げられる。ここでいうSP値とは凝集エネルギー密度の平方根で表され、Fedorsの方法により計算される値である。上記を満たす熱可塑性ポリマーとして、例えば、ポリカーボネート(SP値10)、ポリメチルメタクリレート(SP値9.5)、ポリスチレン(SP値9.2)などが挙げられる。
【0023】
本発明のアロイフィルムの膜厚は50〜150μmであることが好ましく、70〜130μmであることがより好ましい。また、250℃における残存揮発分は0.0〜1.0質量%であることが好ましく、0.0〜0.5質量%であることがより好ましい。残存揮発分が1.0質量%より多いと、例えば耐熱工程紙として使用する場合、製品の品質に影響を及ぼす可能性があり、また、フレキシブル回路基板のベースフィルムとして使用する場合、高温下での金属層の剥がれや膨れが発生することがある。残存揮発分は、本発明のように、芳香族ポリアミド100質量部に対して熱可塑性ポリマーを70質量部以上含有させた上、後述の条件の下で製膜することで、上記範囲内とすることが可能となる。
【0024】
本発明のアロイフィルムの200℃における熱収縮率は0.0〜0.7%であることが高温での寸法安定性を維持する上で好ましい。より好ましくは0.0〜0.5%である。また、一定荷重(1N/mm)下の200℃での熱寸法変化率は0.0〜3.0%であることが好ましく、0.0〜2.0%であることがより好ましい。熱収縮率および熱寸法変化率が上記範囲を超えると、高温工程においての実用に耐えないことがある。耐熱性(熱収縮率や熱寸法変化率)を上記範囲内とする方法としては、芳香族ポリアミドを連続相とし、熱可塑性ポリマーとの相分離構造のサイズを微細化することが挙げられる。
【0025】
本発明のアロイフィルムのヤング率は少なくとも一方向において2GPa以上であることが好ましく、3GPa以上であることがより好ましい。ヤング率は特に上限はないが、通常は20GPa以下とするのが他のフィルム物性を損なうことが無いため好ましい。
【0026】
本発明のアロイフィルムの少なくとも一方の面の表面粗さRaは5〜30nmであることが好ましく、より好ましくは5〜20nmである。Raが30nmを超えると、例えばフレキシブル回路基板のベースフィルムとして使用する場合、金属層との良好な接着性が得られないことがある。Raが5μm未満の場合は製品のハンドリング性や、加工時の作業性などが悪化することがある。
【0027】
また、フィルム表裏のRaの差は0〜20nmであることが好ましく、0〜10nmであることがより好ましい。このようなRaの表裏差は、フィルム中のアロイ構造が厚み方向で異なることで生じ、Raの表裏差が20nmを超えると、厚み方向の物性ムラにつながることがある。例えば、熱収縮率はフィルムのアロイ構造に大きく影響されるため、厚み方向でアロイ構造が異なると熱収縮率に表裏差が生じ、高温下でカールなどが起こることがある。また、一方の面のみ平滑であっても、コアなどに巻き上げてフィルムロールとする際、もう一方の面から転写することがある。
【0028】
本発明のアロイフィルムの吸湿率は0.0〜1.0%であることが好ましく、0.0〜0.7%であることがより好ましい。吸湿率が1.0%より大きいと、吸湿による寸法変化により実用に耐えないことがある。
【0029】
本発明において用いる芳香族ポリアミドは、例えば、次のような方法で重合されるが、これに限定されるものではない。
【0030】
まずジアミンと酸クロリドから芳香族ポリアミドを得る場合には、前述したアミド系極性溶媒中で、溶液重合により合成される。
【0031】
このような溶液重合では低分子量物の生成を抑制するため、反応を阻害するような水やその他の物質の混入は避けるべきであり、効率的な攪拌手段をとることが好ましい。またモノマーの当量性は重要であるが、製膜性を損なう恐れのあるときは適当に調整することができる。また溶解助剤として塩化カルシウム、塩化リチウム、臭化リチウム、硝酸リチウムなどを添加してもよい。
【0032】
モノマーとして芳香族ジアミンと芳香族ジ酸クロリドを用いると塩化水素が副生するが、これを中和する場合には、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウムなどの周期律表I族かII族のカチオンと水酸化物イオン、炭酸イオンなどのアニオンとからなる塩に代表される無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの有機の中和剤を使用すればよい。
【0033】
このとき中和剤として無機の炭酸塩を用いる場合には、塩化水素に対して93〜99モル%、特に94〜98.5モル%の中和剤で中和することが好ましく、また、中和時間は2時間以上が好ましく、特に3時間以上が好ましく、上限は10時間程度が適切である。塩化水素のモル濃度に対して過剰の炭酸塩で中和を行った場合は、過剰分の炭酸塩がポリマー溶液中に残存し、これが異物となって芳香族ポリアミドフィルムの機械特性や熱寸法安定性を低下させることがあり、逆に少な過ぎると塩化水素の中和が不充分でポリマー溶液の酸性度が強く製膜装置などを腐食させることがある。また塩化水素のモル濃度に対して等当量モル濃度の炭酸塩で中和を行った場合には、中和反応が完了するまでに長時間を要し、あまり長時間の中和を行っても期待したほどの効果が得られず、逆に生産性が悪くなる傾向がある。炭酸塩などによる塩化水素の中和は、それぞれ適切に決めるべきであるが、さらに残存する塩化水素を中和する場合には、有機の中和剤を用いることが好ましい。
【0034】
またフィルムの湿度特性を改善する目的で、すなわち吸湿率を1.0%未満とするために、塩化ベンゾイル、無水フタル酸、酢酸クロリド、アニリンなどを重合の完了したポリマー溶液に添加し、ポリマーの末端官能基を封鎖しておくことが好ましい。
【0035】
本発明に用いる芳香族ポリアミドの固有粘度(ポリマー0.5gを硫酸中で100mlの溶液として30℃で測定した値)は、0.5以上であることが好ましい。このようなポリマーの固有粘度の上限は特に限定されないが、製膜加工性の観点から5以下であることが好ましい。
【0036】
本発明に用いる芳香族ポリアミドの溶液としては、中和後のポリマー溶液をそのまま用いてもよいし、一旦単離したポリマーを再溶解したものを用いてもよいが、中和塩や未反応の中和剤などの影響による表面性悪化や熱可塑性ポリマーの分解などを抑制するため、再溶解することがより好ましい。上記の芳香族ポリアミドを溶解する溶媒としては前述したアミド系極性溶媒を用いることが好ましい。
【0037】
次に製膜原液の調製方法について説明する。
【0038】
熱可塑性ポリマーの添加は、芳香族ポリアミドの重合前にモノマーとともに溶媒に溶解させても、重合後のポリマー溶液に混合させても、単離した芳香族ポリアミドとともに再溶解しても、製膜直前にスタティックミキサーなどを利用して混合させてもよい。また、粉末状やペレットとして添加しても、重合溶媒などの有機溶媒に溶解後、ポリマー溶液と混合してもよい。30℃における溶液粘度は800〜10,000ポイズが好ましい。溶液粘度が800ポイズ未満であると、キャスト厚みを厚くした際、乾燥時に対流により表面が荒れることがあり、10,000ポイズを超えると流延性が悪くなることがある。
【0039】
また、粒子を添加する場合はフィルム中で均一な分散とするため、添加前に好ましくは1Pa・s、より好ましくは0.1Pa・s以下の粘度の溶媒に分散させておくことが好ましい。粒子をあらかじめ分散させずにそのまま製膜溶液に添加した場合、平均粒径および粒径分布が大きくなることがあり、フィルムの表面が荒れることがある。用いる溶媒としては製膜原液と同じものが好ましいが、製膜性に特に悪影響を与えなければ他の溶媒を使用してもよい。分散方法としては、上記溶媒に粒子を入れ、撹拌式分散機、ボールミル、サンドミル、超音波分散機などで分散させる。このように分散させた粒子はポリマー溶液中へ添加混合されるが、重合前の溶媒中へ添加、あるいはポリマー溶液の調整工程で添加してもよい。またキャスト直前に添加してもよい。
【0040】
次に、本発明のアロイフィルムの製膜方法について説明する。
【0041】
上記のように調製されたアロイポリマー溶液(芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミド以外の熱可塑性ポリマーとを含む溶液;製膜原液)を用いた製膜方法としては、乾湿式法、湿式法などの溶液製膜法が挙げられる。ただし、湿式法では表面性の制御が困難なことに加え、厚膜化の際、フィルム内部にボイドが生成したり、表面近傍と内部の脱溶媒速度の差により相分離構造が不均一となることで、目的とする物性が得られないことがある。そのため、本発明のアロイフィルムは乾湿式法で製膜することが好ましい。以下、乾湿式法での製膜方法を説明する。
【0042】
まず製膜原液を口金からドラムやエンドレスベルトなどの支持体上にキャストして、支持体からの伝熱およびキャスト膜表面への熱風によりキャスト膜中の有機溶媒を蒸発させて乾燥を行う。この乾式工程が本発明の重要な点の1つで、乾燥条件を制御することで、厚膜化してもフィルムの表面(非支持体面)側と裏面(支持体面)側の相分離構造が均一なフィルムを得ることが可能となる。ここで、フィルム表裏の物性の均一化と相分離進行の抑制を両立するため、キャスト時の支持体温度Tb(℃)と熱風温度Ta(℃)とが下式を同時に満たす範囲であることが好ましい。
【0043】
80≦Ta<Tb≦180
10≦Tb−Ta
Taが80℃未満では乾燥速度が遅いため、相分離が進行し、構造の粗大化が起こることで、耐熱性や表面性が悪化することがある。より好ましくは100℃以上である。また、Tbが180℃を超えると、急激な溶媒蒸発で表面が荒れたり、温度による相分離構造の粗大化が起こることがある。より好ましくは160℃以下である。Tb−Taが10℃未満では、表面からの乾燥が、支持体面側からの乾燥より早くなり、相分離サイズは支持体面側の方が粗大化することがある。これにより、フィルム表裏の物性に不均一が生じ、例えば高温での熱収縮率の差によりカールが起きることがある。また、フィルム表面の乾燥が急激に進行することで、表皮が形成され、乾式工程および次の湿式工程において、フィルム内部の脱溶媒が十分に行われず、支持体からの剥離性が悪化したり、最終フィルムの残存揮発分が目的の範囲を満たさないことがある。Tb−Taはより好ましくは20℃以上である。
【0044】
次に乾式工程を終えたフィルムは支持体から剥離されて、湿式工程に導入され、脱塩、脱溶媒などが行なわれる。ここで湿式工程の湿式浴は一般的に水系であるが、水の他に少量の無機や有機溶媒あるいは無機塩などを含んでいてもよい。このとき、浴温度は40〜100℃が好ましく、60〜80℃がより好ましい。浴温度が40℃未満では、脱溶媒が十分に行われず、最終フィルムの残存揮発分が目的の範囲を満たさないことがある。さらに、フィルムと溶媒間の境膜抵抗を減少させるため、浴内を撹拌することも効果的である。また、必要に応じて湿式工程中でフィルムを長手方向に延伸してもよい。
【0045】
湿式工程を経たフィルムは水分を乾燥後、必要に応じて延伸を行った後、熱処理が行なわれてフィルムとなる。
【0046】
延伸温度は200〜400℃の温度範囲内で行うことがフィルムの機械特性向上に有効であり、より好ましくは220〜350℃、さらに好ましくは240〜300℃であり、幅方向の延伸倍率は0.9〜3倍の範囲内とすることが好ましい。
【0047】
また、フィルムの延伸中あるいは延伸後に熱処理が行なわれるが、熱処理温度は230〜280℃の範囲内にあることが好ましい。熱処理温度が230℃未満では残存揮発分が多くなったり、高温での熱寸法変化が大きくなることがあり、280℃以上では相分離構造の粗大化が起こったり、フィルムの靱性が悪化したりすることがある。
【0048】
本発明のアロイフィルムは単層構成のフィルムでも、複数層を有する積層構成のフィルムでもよく、積層構成のフィルムとする場合には、例えば、口金内での積層、複合管での積層や、一旦1層を形成しておいてその上に他の層を形成する方法などを用いればよい。
【0049】
本発明のアロイフィルムは、耐熱性、表面性、剛性、湿度特性などに優れることから、フレキシブル回路基板用途や、工程フィルム、スピーカー振動板、耐熱粘着ベースフィルム、太陽電池基板などの様々な工業材料用途で好適に使用できる。
【0050】
本発明のアロイフィルムは、コアなどに巻き上げフィルムロールとすることができる。コアの材質は特に限定されず、紙、プラスチックなど種々のものを使用できる。また外径が1〜10インチ、特に2〜8インチのものが好ましく用いられる。コア長は150〜2,000mm、特に500〜1,500mmのものが好ましく用いられる。
【実施例】
【0051】
本発明における効果の評価、物性の測定は次の方法に従って行った。
【0052】
(1)フィルム構造観察
フィルムの断面構造は、超薄切片法により薄膜断面試料を作製し、(株)日立製作所製TEM(H−7100FA)により観察した。また、3次元構造はエスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製FIB−SEM複合機(SMI3200SE)により連続的に切削した試料断面を観察し、画像処理ソフトImageJ(Image Processing and Analysis in Java)により3次元画像を再構築し、評価した。
【0053】
(2)残存揮発分
(株)島津製作所製の熱重量測定装置(TGA−50H)および熱分析ワークステーション(TA−60WS)を用いて測定を行った。サンプル約18mgを炉内にセットして、炉内を窒素雰囲気下(20ml/分)とし、昇温速度10℃/分で室温から250℃まで加熱した。得られた熱重量曲線から下式により、残存溶媒量を求めた。
【0054】
残存揮発分=((W−W)/W)×100(質量%)
:加熱前の30℃における質量(g)
W:250℃、2時間保持後の質量(g)
(3)熱収縮率
フィルムを幅10mm、長さ250mmに切断し、両端から25mmの位置に印をつけ、200℃に設定したオーブン中で10分間加熱後、室温に戻して寸法を測り、下記の計算式より算出した。
【0055】
熱収縮率=((L−L)/L)×100(%)
:初期長 200mm
L:処理後の長さ(mm)
(4)熱寸法変化率
セイコーインスツルメント(株)社製TMAおよび同社製EXSTAR6000熱分析レオロジーシステムを用いて測定を行った。幅4mm、長さ15mmの試験片を、荷重1N/mmのもと、昇温速度10℃/分で、室温から200℃まで加熱した。得られた寸法変化から、下式により寸法変化率を求めた。
【0056】
熱寸法変化率=(|L−L|/L)×100(%)
:初期長 15mm
L:200℃での寸法(mm)
(5)ヤング率
幅10mm、長さ150mmに切断したフィルムを、(株)オリエンテック製ロボットテンシロンAMF/RTA−100を用いてチャック間距離50mm、引張速度300mm/分、温度23℃、相対湿度65%の条件下で引張試験を行い、得られた荷重−伸び曲線から求めた。
【0057】
(6)表面粗さRa
デジタルインスツルメンツ社製原子間力顕微鏡NanoScopeIIIを用いて、以下の条件でガラス板または流延ベルト(支持体)に接触していない表面について測定した。
【0058】
探針:ナノセンサーズ社製SPMプローブNCH−W型、単結晶シリコン
走査モ−ド:タッピングモ−ド
走査範囲:30μm×30μm
走査速度:0.5Hz
測定環境:温度23℃、相対湿度65%、大気中
(7)吸湿率
フィルムを120℃のオーブン中で2時間加熱脱湿後、窒素雰囲気下で降温し、完全脱湿時の質量を測定した。このフィルムを25℃−75%RH下で48時間放置して吸湿させた後の質量を測定し、下式より算出した。
【0059】
吸湿率=((W−W)/W)×100(%)
:脱湿時の質量(g)
W:吸湿後の質量(g)
(8)銅張積層板(CCL)耐熱試験
フィルム上にエポキシ系接着剤(厚み10μm)を用いて銅箔(厚み18μm)をラミネートすることでCCLを作製した。得られたCCLを30mm四方に切断し、200℃における銅箔表面の膨れ、シワ、銅箔の剥がれ、CCLのカールの有無を確認することで評価した。なお、○、△が実用範囲内である。
【0060】
○:銅箔表面の変化、銅箔の剥がれ、CCLのカールなどが見られなかった。
【0061】
△:200℃において微小な膨れ、シワ、若干の剥がれ、カールなどが見られた。
【0062】
×:200℃において大きな膨れ、シワ、剥がれ、カールなどが見られた。
【0063】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
脱水したN−メチル−2−ピロリドンに、85モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと15モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを溶解させ、これに98.5モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリドを添加して、30℃以下で約2時間の撹拌を行い、芳香族ポリアミドを重合させた。この重合ポリマーを炭酸リチウム、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンにより中和することでポリマー溶液を得た。このポリマー溶液を多量の水に投入し、再沈・乾燥して粉体状のポリマーを得た。このポリマーをNMPに溶解させ、さらにポリカーボネート(出光タフロンA2200)を芳香族ポリアミド100質量部に対し100質量部となるように添加し、60℃で4時間攪拌することで製膜溶液を得た。
【0065】
次いで、アプリケーターでポリマー溶液をステンレス板上にキャストして、熱風温度(Ta)120℃、支持体温度(Tb)150℃でフィルムが自己支持性を持つまで乾燥させた後、ゲルフィルムを支持体から剥離した。次に、ゲルフィルムを金属枠に固定して、水温80℃の水槽内で残存溶媒の水抽出を行った。水抽出後、含水フィルム両面の水分をガーゼで拭き取り、金枠に固定したまま、250℃のオーブンで熱処理することで、最終厚み75μmのアロイフィルムを得た。
【0066】
得られたアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。ポリカーボネートとのアロイ化により溶媒拡散性が向上し、残存揮発分が抑えられたフィルムを得た。また、このアロイフィルムは芳香族ポリアミドを母相とする海島構造を取っており、耐熱性、剛性、表面性の優れたフィルムとなった。
【0067】
(実施例2)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し230質量部とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。実施例1と同様、残存揮発分が抑えられたフィルムを得た。さらに、ポリカーボネートにより吸湿率が抑えられた一方で、少量成分の芳香族ポリアミドも連続構造を取り、骨格として機能することで優れた耐熱性を保持したフィルムを得た。
【0068】
(実施例3)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し400質量部とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。共連続構造を取ることで、耐熱性と湿度特性を両立したフィルムを得た。
【0069】
(実施例4)
最終厚みを150μmとすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0070】
(実施例5)
最終厚みを150μmとすること以外は実施例2と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0071】
(実施例6)
Taを100℃、Tbを120℃とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0072】
(実施例7)
Taを120℃、Tbを180℃とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0073】
(実施例8)
Taを100℃、Tbを120℃とすること以外は実施例2と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0074】
(実施例9)
Taを120℃、Tbを180℃とすること以外は実施例2と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0075】
(比較例1)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し20質量部とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。残存揮発分が多く、それにより熱収縮率が大きくなった。また、CCL耐熱試験でも膨れ、シワが顕著に見られた。
【0076】
(比較例2)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し50質量部とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。比較例1同様、残存揮発分が多いフィルムとなった。
【0077】
(比較例3)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し500質量部とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。このアロイフィルムは芳香族ポリアミドが連続構造を取っておらず、ポリカーボネートを母相とする海島構造を取るため、ポリカーボネートのガラス転移温度近傍の150℃で軟化してしまった。
【0078】
(比較例4)
Taを60℃、Tbを120℃とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。熱風温度が低く、乾燥速度が低下したことで相分離が進行し、耐熱性、表面性が悪化した。
【0079】
(比較例5)
Taを150℃、Tbを30℃とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。フィルムの表面付近と支持体側面付近の相分離サイズが大きく異なり、CCL耐熱試験においてカールが見られた。また、表面の乾燥が先に進行することで内部の溶媒蒸発が進まず、残存揮発分が多くなった。
【0080】
(比較例6)
Taを120℃、Tbを200℃とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。支持体面からの急激な乾燥により、表面性がやや悪化した。また、乾燥時の熱により相分離構造の粗大化が起こり、耐熱性が悪化した。
【0081】
(比較例7)
Taを60℃、Tbを120℃とすること以外は実施例2と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。熱風温度が低く、乾燥速度が低下したことで相分離が進行し、耐熱性、表面性が悪化した。それにより、CCL耐熱試験でも膨れ、シワ、剥がれが顕著に見られた。
【0082】
(比較例8)
Taを150℃、Tbを30℃とすること以外は実施例2と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。フィルムの表面付近と支持体側面付近の相分離サイズが大きく異なり、CCL耐熱試験においてカールが見られた。また、表面の乾燥が先に進行することで内部の溶媒蒸発が進まず、残存揮発分が多くなった。
【0083】
(比較例9)
Taを120℃、Tbを200℃とすること以外は実施例2と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。支持体面からの急激な乾燥により、表面性が悪化した。また、乾燥時の熱により相分離構造の粗大化が起こり、耐熱性が悪化した。それにより、CCL耐熱試験でも膨れ、シワ、剥がれが顕著に見られた。
【0084】
【表1】

【符号の説明】
【0085】
1 芳香族ポリアミドの連続相(または、熱可塑性ポリマーの連続相)
2 熱可塑性ポリマーの連続相(または、芳香族ポリアミドの連続相)
3 熱可塑性ポリマーの分散相(島成分)
4 芳香族ポリアミドの母相(海成分、連続相)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーとを含有し、熱可塑性ポリマーの含有量が芳香族ポリアミド100質量部に対し70〜400質量部であり、かつ膜厚が50〜150μm、250℃における残存揮発分が0.0〜1.0質量%、200℃における熱収縮率が0.0〜0.7%、少なくとも一方の面の表面粗さRaが5〜30nmである芳香族ポリアミドフィルム。
【請求項2】
フィルム表裏の表面粗さRaの差が0〜20nmである、請求項1に記載の芳香族ポリアミドフィルム。
【請求項3】
芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーとを含む製膜原液を支持体上にキャストしてキャスト膜とし、熱風によりこのキャスト膜を乾燥させて芳香族ポリアミドフィルムを得るに際し、支持体温度Tb(℃)と熱風温度Ta(℃)とが下式を同時に満たす範囲である、請求項1または2に記載の芳香族ポリアミドフィルムの製造方法。
80≦Ta<Tb≦180
10≦Tb−Ta

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−195882(P2010−195882A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40432(P2009−40432)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】