説明

芳香族ポリアミドフィルムおよびその製造方法

【課題】 芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミドは異なる熱可塑性ポリマーを特定の条件にてアロイ化することで、芳香族ポリアミドの無色透明性、耐熱性、機械特性を損なうことなく、経済性および湿度特性に優れた芳香族ポリアミドフィルムを提供すること。
【解決手段】 芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーとを含有し、熱可塑性ポリマーの含有量が芳香族ポリアミド100質量部に対し30〜400質量部であり、かつ全光線透過率が80〜100%、ヘイズが0.0〜5.0%である芳香族ポリアミドフィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、十分な光線透過率を有する芳香族ポリアミドフィルムおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミド、特にパラ配向性芳香族からなる芳香族ポリアミドは剛性や強度などの機械特性が高く、薄膜化に非常に有利であることから、磁気記録媒体として活用されている。また、ポリイミドに次ぐ耐熱性も有しており、耐熱工程紙、フレキシブル回路基板、スピーカー振動板、コンデンサーなどの工業材料用途での活用が考えられている。一方で、芳香族ポリアミドの高い機械特性、耐熱性などの特長を活かし、光学フィルムへの適用についても検討されており、例えば特許文献1に特定の構造を導入することで着色を抑え、無色透明化したものが開示されている。しかしながら、無色透明化した芳香族ポリアミドは使用する原料が高価であるなどの理由でコストが高くなり、その展開用途が限定されることが課題となっている。また、湿度特性が劣るといった欠点がある。
【0003】
これまでに、芳香族ポリアミドの経済性を補う方法として、芳香族ポリアミドと比較的安価な熱可塑性ポリマーとをアロイ化することが提案されており、例えば特許文献2に開示されている。また、芳香族ポリアミドに液晶ポリマーを含有させることで吸湿率を低下させたフィルムが特許文献3に開示されている。しかし、これらの文献記載の技術では芳香族ポリアミドの構造に起因する着色および、相分離ドメインの形成による散乱が生じ、無色透明なフィルムは得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再公表特許WO2004/039863号公報
【特許文献2】特開平3−237135号公報
【特許文献3】特開2006−45517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。すなわち、本発明は、分子構造を制御することで無色透明性を発現せしめた芳香族ポリアミドに、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーを、特定の条件にてアロイ化することで、芳香族ポリアミドの無色透明性、耐熱性、機械特性を損なうことなく、経済性および湿度特性を改善し、耐熱性光学材料や回路材料として好適に用いることのできる芳香族ポリアミドフィルムを得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明は、以下の特徴を有する。
【0007】
(1)芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーとを含有し、熱可塑性ポリマーの含有量が芳香族ポリアミド100質量部に対し30〜400質量部であり、かつ全光線透過率が80〜100%、ヘイズが0.0〜5.0%である芳香族ポリアミドフィルム。
【0008】
(2)200℃における熱収縮率が0.0〜0.5%、吸湿率が0.0〜1.5%、少なくとも一方の面の表面粗さRaが0.1〜10nmである、上記(1)に記載の芳香族ポリアミドフィルム。
【0009】
(3)芳香族ポリアミドの構造を、分子内電荷移動錯体の形成を阻害し、着色を抑えた特定の構造とする、上記(1)または(2)に記載の芳香族ポリアミドフィルム。
【0010】
(4)重合後の芳香族ポリアミドを単離した後、このポリマーを熱可塑性ポリマーとともに溶媒に再溶解してアロイポリマー溶液とし、このアロイポリマー溶液を用いて溶液製膜を行う、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の芳香族ポリアミドフィルムの製造方法。
【0011】
(5)熱可塑性ポリマーを溶媒に溶解させてポリマー溶液とした後、この溶液に単離した芳香族ポリアミドを加えてアロイポリマー溶液とし、このアロイポリマー溶液を用いて溶液製膜を行う、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の芳香族ポリアミドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は芳香族ポリアミドに、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーを、特定の条件にてアロイ化することで、芳香族ポリアミドの無色透明性、耐熱性、機械特性を損なうことなく、経済性および湿度特性に優れたフィルムを得るものである。本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、使用する熱可塑性ポリマーの軟化流動点以上の温度でも流動せず、高温での低熱収縮率を維持する。そのため、安価な熱可塑性ポリマーを用いることができ、製造コストを下げることが可能である。また、湿度特性、表面性に優れ、かつ熱可塑性ポリマーの単体フィルムに比較して高剛性であるため、各種表示材料用途・回路材料用途などに有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムは、芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーとのアロイフィルムであり(以下、本発明の芳香族ポリアミドフィルムを単にアロイフィルムということがある)、芳香族ポリアミド100質量部に対し熱可塑性ポリマーを40〜400質量部含有している。
【0014】
本発明において用いる芳香族ポリアミドは、化学式(I)〜(IV)で示される構造単位を含み、かつ、化学式(I)、(II)、(III)および(IV)で示される構造単位のモル分率をそれぞれa、b、c、dとしたとき、次式(A)〜(C)を満足していることが好ましい。
【0015】
50<a+b+c≦100 ・・・ (A)
0≦a、b、c≦100 ・・・ (B)
0≦d≦50 ・・・ (C)
芳香族ポリアミドの着色は分子内および分子間の電荷移動錯体によると考えられているが、化学式(I)、(II)および(III)はいずれも芳香族ポリアミド分子内および分子間の電荷移動錯体の形成を阻害し、芳香族ポリアミドの無色透明化に寄与すると考えられる。
【0016】
そのため、a+b+cの値が50を超えていることが好ましい。好ましくはa+b+cの値は80以上であり、より好ましくは100である。a+b+cの値が50以下の場合には、これらの効果よりも着色に寄与する構造単位の寄与が大きくなり無色透明性の高いフィルムが得にくくなる。
【0017】
また、上記のa、b、cは、0≦a、b、c≦100を満たしていることが重要である。すなわち、a、b、cはそれぞれ存在するか、もしくは50<a+b+c≦100を満たす範囲であれば、存在しない構成単位があっても構わない。
【0018】
さらに、0≦d≦50を満たしていることも重要である。化学式(IV)で表される構成単位はポリマーの着色に寄与することがあり、このモル分率dが50を超えると無色透明性の高いフィルムが得にくくなる。
【0019】
【化1】

【0020】
:環構造を有する基
:芳香族基
:任意の基
:任意の基
【0021】
【化2】

【0022】
:電子吸引基
:電子吸引基
:任意の基
:任意の基
:芳香族基
【0023】
【化3】

【0024】
10:Siを含む基、Pを含む基、Sを含む基、ハロゲン化炭化水素基、または、エーテル結合を含む基(ただし、分子内においてこれらの基を有する構造単位が混在していてもよい。)
11:任意の基
12:任意の基
13:直結されているか、または、フェニル基を必須成分とする炭素数6から12の任意の基
14:直結されているか、または、フェニル基を必須成分とする炭素数6から12の任意の基
15:芳香族基
【0025】
【化4】

【0026】
16:芳香族基
17:芳香族基
化学式(I)は、Rで示された、環構造と分子鎖とが蝶番状に結合した、カルド構造と呼ばれる構造をとり、Rの電子雲が分子鎖の電子雲を分断し、分子内電荷移動錯体の形成を阻害すると考えられる。さらに嵩高いRが分子間電荷移動錯体の形成を阻害すると考えられる。この目的のためにRは環構造を少なくとも1個有していることが好ましい。ここで、環構造とは、芳香族環、脂肪族環、複素環など、その環の構成元素に特に制限はない。また、単環、縮合環、スピロ環など、その形状も問わない。これらの環構造の中では、Rは5員環、6員環または7員環を有する基であることが好ましい。さらに、化学式(IX)でそれぞれ示される環状基であることがより好ましい。中でも最も好ましいのはフルオレン基である。
【0027】
【化5】

【0028】
化学式(I)においてRは芳香族基であれば特に制限はないが、好ましくは化学式(X)で示される群より選ばれる基である。
【0029】
【化6】

【0030】
20〜R36:それぞれ独立にH、D(重水素)、ハロゲン、芳香族基、炭素数1〜5の炭化水素基、または、炭素数1〜5のハロゲン化炭化水素
中でも、さらに好ましくはフェニル基、クロロフェニル基である。耐熱性や剛性を付与する目的においては、例えばパラフェニレン、2−置換パラフェニレン、ビフェニルのような剛直な芳香族基であることが好ましい。一方、ターフェニルやアントラセンなどの多環式芳香族基は剛直ではあるが、多くのπ電子を有し、ポリアミドが着色する原因になることがある。
【0031】
化学式(I)において、RやRに特に制限はなく、任意の基であればよい。好ましくは、−H、炭素数1〜5の脂肪族基、−CF、−CCl、−OH、−F、−Cl、−Br、−OCH、シリル基、または、芳香族基である。RおよびRは、側鎖の置換基であるため、主鎖の置換基と比較して、ポリアミドの物性に与える影響は相対的に小さいが、光学特性や濡れ性、溶媒可溶性などを改良するために、適宜導入することが好ましい。例えば、濡れ性や2色性色素による染色性向上を目的に−OHや−COOHを導入することができる。
【0032】
化学式(II)において、R、R、R、Rが全て−Hである場合は、電荷移動錯体が形成され、ポリアミドが着色することがある。本発明においては、RおよびRとして、それぞれ独立に電子吸引基を導入することにより、電荷移動錯体の形成を阻害し、芳香族ポリアミドの無色透明度を高めている。ここで、電子吸引基とは、Hammettの置換基常数において正の値を示す基であり、例えば−CF、−CCl、−CI、−CBr、−F、−Cl、−Br、−I、−NO、−CN、−COCH、−CO、などが例示できる。この中でも好ましくは−CF、−CCl、−NO、−CNであり、最も好ましいのは−CFである。これらの基を有する構造単位は、ポリアミド分子内において混在していても構わない。なお、上記のHammett常数については、例えば小竹無二雄監修、朝倉書店発行の「大有機化学」第1巻第308〜311頁等に解説されている。
【0033】
化学式(II)において、R、Rに特に制限はなく、上記の目的を阻害しない範囲で任意の基を用いればよい。好ましくは、上記した電子吸引基、−H、炭素数1〜5の脂肪族基、シリル基、または芳香族基などである。
【0034】
化学式(II)においてRは芳香族基であれば特に制限はないが、好ましくは化学式(X)で示される群より選ばれる基である。中でも、さらに好ましくはフェニル基、クロロフェニル基である。耐熱性や剛性を付与する目的においては、例えばパラフェニレン、2−置換パラフェニレン、ビフェニルのような剛直な芳香族基であることが好ましい。一方、ターフェニルやアントラセンなどの多環式芳香族基は剛直ではあるが、多くのπ電子を有し、ポリアミドが着色する原因になることがある。
【0035】
また、化学式(III)において、R10としてSiを含む基、Pを含む基、Sを含む基、ハロゲン化炭化水素基、または、エーテル結合を含む基(ただし、分子内においてこれらの基を有する構造単位が混在していてもよい)を選択することにより、電荷移動錯体の形成を阻害し、ポリアミドの透明度を高めることができる。具体的には、−SO−、−O−、−C(CF−、−(CCl−、−(CBr−、−CF−、−CCl−、−CBr−が好ましく、特に好ましくは、−SO−、−C(CF−である。
【0036】
化学式(III)において、R11やR12に特に制限はなく、任意の基であればよい。好ましくは、−H、炭素数1〜5の脂肪族基、−CF、−CCl、−OH、−F、−Cl、−Br、−OCH、シリル基、または、芳香族基である。R11およびR12は、側鎖の置換基であるため、主鎖の置換基と比較して、ポリアミドの物性に与える影響は相対的に小さいが、光学特性や濡れ性、溶媒可溶性などを改良するために、適宜導入することが好ましい。例えば、濡れ性や2色性色素による染色性向上を目的に−OHや−COOHを導入することができる。
【0037】
化学式(III)においてR15は芳香族基であれば特に制限はないが、好ましくは化学式(X)で示される群より選ばれる基である。中でも、さらに好ましくはフェニル基、クロロフェニル基である。耐熱性や剛性を付与する目的においては、例えばパラフェニレン、2−置換パラフェニレン、ビフェニルのような剛直な芳香族基であることが好ましい。一方、ターフェニルやアントラセンなどの多環式芳香族基は剛直ではあるが、多くのπ電子を有し、ポリアミドが着色する原因になることがある。
【0038】
ここで、化学式(IV)で表される構成単位を導入することにより化学式(I)、(II)および(III)の効果により得た無色透明性を保持したまま、機械特性、熱特性などを向上することができる。
【0039】
化学式(IV)においてR16およびR17は芳香族基であれば特に制限はないが、好ましくはそれぞれ化学式(X)で示される群から選ばれた基である。中でも、さらに好ましくはフェニル基である。耐熱性や剛性を付与する目的においては、例えばパラフェニレン、2−置換パラフェニレン、ビフェニルのような剛直な芳香族基であることが好ましい。一方、ターフェニルやアントラセンなどの多環式芳香族基は剛直ではあるが、多くのπ電子を有し、ポリアミドが着色する原因になることがある。
【0040】
さらに、芳香族ポリアミドが化学式(V)〜(VIII)で示される構造単位を含み、かつ、化学式(V)、(VI)、(VII)および(VIII)で示される構造単位のモル分率をそれぞれe、f、g、hとし、e+f=50としたとき、次式(D)〜(F)を満足していると、無色透明性、機械特性、熱特性、溶媒への溶解性などを高いレベルで満足でき、また、ポリマー構造中に塩素原子を含有しないため、環境への負荷が小さくなり、より好ましい。
【0041】
40≦e≦45 ・・・ (D)
30≦g≦50 ・・・ (E)
0.9≦(g+h)/(e+f)≦1.1 ・・・ (F)
【0042】
【化7】

【0043】
【化8】

【0044】
18:SO、C(CF、またはO-Ph-SO-Ph-O
【0045】
【化9】

【0046】
19:HまたはF
【0047】
【化10】

【0048】
本発明において用いる芳香族ポリアミドは、例えば、次のような方法で重合されるが、これに限定されるものではない。
【0049】
芳香族ポリアミドを得る方法は種々の方法が利用可能であるが、低温溶液重合法、つまりジアミンと酸ジクロライドから得る場合には、非プロトン性有機極性溶媒中で合成される。非プロトン性有機極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、フェノール、o−、m−、またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコール、ヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどを挙げることができ、これらを単独または混合物として用いるのが望ましい。さらに、ポリマーの溶解を促進する目的で溶媒には50質量%以下のアルカリ金属、またはアルカリ土類金属の塩を添加することが好ましい。この溶解助剤としては臭化リチウム、塩化リチウムなどが例示できる。ポリマー溶液は、単量体としてジアミンと酸ジクロライドを使用すると塩化水素が副生するが、これを中和する場合には水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウムなどの無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機の中和剤が使用される。
【0050】
2種類以上のジアミンを用いて重合を行う場合、ジアミンは1種類ずつ添加し、該ジアミンに対し10〜99モル%の酸ジクロライドを添加して反応させる段階的な反応方法、およびすべてのジアミンを混合して添加し、この後に酸ジクロライドを添加して反応させる方法などが利用可能である。また、2種類以上の酸ジクロライドを使用する場合も同様に段階的な方法、同時に添加する方法などが利用できる。いずれの場合においても全ジアミンと全酸ジクロライドのモル比は95〜105:105〜95が好ましく、この値を外れた場合、製膜に適したポリマー溶液を得ることが困難となる。
【0051】
本発明のアロイフィルムは前述の芳香族ポリアミド100質量部に対して熱可塑性ポリマーを30〜400質量部含有している。熱可塑性ポリマーの量が30質量部より少ない場合は経済的メリットおよび湿度特性の改善性が小さくなる。一方、400質量部を超えると、相分離により形成されるドメイン径が大きくなることで、光散乱が起き、白濁したフィルムとなったり、また、フィルム中で芳香族ポリアミドが連続相を形成するのが困難になり、耐熱性や剛性などが低下することがある。上述の理由から、芳香族ポリアミド100質量部に対する熱可塑性ポリマーの含有量は80〜300質量部であることが、より好ましい。
【0052】
ここで、本発明に用いる熱可塑性ポリマーとしては、N−メチル−2−ピロリドンに10質量%以上溶解可能であり、かつ、ASTM D570−98(2005)に従って測定した吸水率(23℃、水中24時間浸漬)が1%以下の非晶性ポリマーを用いることが好ましい。ここで、N−メチル−2−ピロリドンに10質量%以上溶解可能とは、N−メチル−2−ピロリドンにポリマーを10質量%以上溶解させた後、25℃で2週間静置後も、溶液が均一な一相であり、かつ、流動性を保つことをいう。流動性を保つとは、25℃において100mlのビーカーにポリマー溶液を100ml入れて90°傾けたとき、1時間以内に50ml以上が流れ出る状態をいう。上記のポリマーとして例えばポリスチレン(吸水率:<0.1%)、ポリカーボネート(吸水率:約0.2%)、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルイミド、ポリスルホン(いずれも吸水率:約0.3%)、ポリエーテルスルホン(吸水率:約0.4%)などが挙げられる。中でも本発明の目的の一つである経済性改善の点から、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートなどの比較的安価なポリマーを用いることが、より好ましい。
【0053】
次に、本発明に用いるアロイポリマー溶液(芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミド以外の熱可塑性ポリマーとを含む溶液;製膜原液)の調製方法について説明する。
【0054】
重合後の芳香族ポリアミドの溶液には前述のとおり、溶解助剤(金属塩)、中和塩、および中和剤の未反応物などの添加物が溶解している。このような芳香族ポリアミド溶液をそのままアロイポリマー溶液の調製に用いると、塩により製膜時に芳香族ポリアミド分子と熱可塑性ポリマー分子との相分離が促進され、熱可塑性ポリマードメインの粗大化が起きることで、アロイフィルムの無色透明性や耐熱性、靱性などが悪化することがある。また、未反応の中和剤が、製膜時の熱可塑性ポリマーの分解を促進することもある。
【0055】
一方で、本発明に用いる芳香族ポリアミドは、分子鎖が非常に剛直であるため、溶解を促進する溶解助剤や中和塩を除去すると、溶解性が低くなり、溶媒へ不溶となったり、溶液のポットライフが悪化することがある。また、フィルム化する際、乾燥工程において溶媒を蒸発させていくと、ポリマーの急激な析出により白濁が生じ、最終フィルムの無色透明性が損なわれることがある。そのため、通常、無色透明性を有する芳香族ポリアミド単独のフィルムを得る際は、溶解助剤や中和塩を含んだ溶液を製膜原液に用いることが通例である。
【0056】
一方、本発明では、上記の相反する課題を解決するため、芳香族ポリアミドと熱可塑性ポリマーの混合の方法として、重合後の芳香族ポリアミドを単離した後、このポリマーを熱可塑性ポリマーとともに溶媒に再溶解してアロイポリマー溶液とし、このアロイポリマー溶液を製膜原液として用いて溶液製膜を行う方法を採用することが好ましい。また、あらかじめ溶媒に熱可塑性ポリマーを溶解させてポリマー溶液としたところに、単離した芳香族ポリアミドを添加してアロイポリマー溶液とし、このアロイポリマー溶液を製膜原液として用いて溶液製膜を行う方法を採ることがより好ましい。これにより、溶媒に溶解させる際、芳香族ポリアミドの分子間凝集力が熱可塑性ポリマー分子により緩和され、溶解性が得られやすくなるとともに、アロイポリマー溶液のポットライフが改善される。また、塩による相分離の進行が抑制され、無色透明なアロイフィルムが得られる。
【0057】
ここで、本発明において、重合後の芳香族ポリアミドを単離する方法として、例えば、重合後の芳香族ポリアミド溶液を多量の水に投入し、溶解助剤(金属塩)、中和塩、中和剤の未反応物などの添加物、および溶媒を十分に水中に抽出した後、析出したポリマーを乾燥させることで、粉体状の芳香族ポリアミドが得られる。
【0058】
次に、本発明のアロイフィルムの製膜方法について説明する。
【0059】
上記のように調製されたアロイポリマー溶液を用いた製膜方法としては、乾湿式法、湿式法などの溶液製膜法が挙げられ、いずれの方法で製膜してもよいが、湿式法では急激な溶媒除去が起こることがあり、その際にフィルム内部にボイドが生成することがある。また、生産性の観点からも乾湿式法が好ましく、以下、乾湿式法での製膜方法を説明する。
【0060】
まず、アロイポリマー溶液を口金からドラムやエンドレスベルトなどの支持体上にキャストして、支持体からの伝熱およびキャスト膜表面への熱風によりキャスト膜中の有機溶媒を蒸発させて乾燥を行う。この時、溶媒の乾燥速度は3〜30質量%/分であることが好ましい。乾燥速度が3質量%/分未満では、生産性が悪く、また、乾燥時の相分離の進行により、フィルム中の相分離ドメインサイズが粗大化し、物性の低下を招くことがある。一方、乾燥速度が30質量%/分を超えると急激な溶媒蒸発でフィルム表面が荒れることがある。また、乾燥温度は100〜200℃であることが好ましく、より好ましくは120〜180℃である。
【0061】
乾式工程を終えたフィルムは支持体から剥離されて、湿式工程に導入され、脱溶媒が行なわれる。ここで、湿式工程の湿式浴は一般的に水系であるが、水の他に少量の無機や有機溶媒あるいは無機塩などを含んでいてもよい。このとき、浴温度は40〜100℃が好ましく、60〜80℃がより好ましい。浴温度が40℃未満では、脱溶媒が十分に行われず、最終フィルムの残存揮発分が目的の範囲を満たさないことがある。さらに、フィルムと溶媒間の境膜抵抗を減少させるため、浴内を撹拌することも効果的である。また、必要に応じて湿式工程中でフィルムを長手方向に延伸してもよい。
【0062】
湿式工程を経たフィルムは水分を乾燥後、必要に応じて幅方向に延伸を行った後、熱処理が行なわれてフィルムとなる。
【0063】
幅方向の延伸温度は200〜300℃の温度範囲内で行うことがフィルムの機械特性向上に有効であり、より好ましくは220〜280℃あり、この時の延伸倍率は0.9〜3倍の範囲内とすることが好ましい。また、フィルムの延伸中あるいは延伸後に熱処理が行なわれるが、熱処理温度は230〜300℃の範囲内にあることが好ましい。熱処理温度が230℃未満では残存揮発分が多くなったり、高温での熱寸法変化が大きくなることがあり、300℃以上では相分離構造の粗大化が起こったり、フィルムの着色が起きたりすることがある。
【0064】
本発明のアロイフィルムは各種光学材料用途に好適に用いられる。このため、本発明のアロイフィルムの全光線透過率は、好ましくは80〜100%、より好ましくは85%〜100%、最も好ましくは90〜100%である。また、本発明のアロイフィルムのヘイズは、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3%、最も好ましくは0〜1%である。全光線透過率およびヘイズを上記範囲とするためには、芳香族ポリアミドを上述した構造とし、分子内および分子間の電荷移動錯体による着色を抑えるとともに、フィルム中の芳香族ポリアミド相および熱可塑性ポリマー相のドメインサイズをできるだけ微細に制御し、相分離ドメインによる光散乱を抑制することが好ましい。ドメインサイズを微細に制御する方法としては、アロイポリマー溶液の調整方法およびアロイフィルムの製膜方法を上述した方法で行うことが好ましい。また、芳香族ポリアミドと熱可塑性ポリマーの屈折率が近いと、アロイフィルム中の両ポリマー相界面における光散乱を抑制できるため、より好ましい。さらに、両ポリマーには純度の高い原料を用い、重合、溶液調製、製膜の際にも不純物の混入を防止することが効果的である。
【0065】
本発明のアロイフィルムの200℃における熱収縮率は、0.0〜0.5%であることが、高温での寸法安定性を維持する上で好ましい。より好ましくは0.0〜0.3%である。熱収縮率を上記範囲内とするため、熱可塑性ポリマーの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し400質量部以下とし、かつ、アロイフィルム中の熱可塑性ポリマー相のドメインサイズをできるだけ微細に制御することが好ましい。また、芳香族ポリアミドを本発明の構造とすることで、無色透明性や溶媒への溶解性を損なわない程度に剛直性が得られ、耐熱性が良好なアロイフィルムが得られる。
【0066】
本発明のアロイフィルムの吸湿率は、0.0〜1.5%であることが、加工時、使用時の吸湿による特性の変化を抑制できるため好ましく、0.0〜1.0%であることがより好ましい。吸湿率を上記範囲内とするため、吸水率が1%以下の熱可塑性ポリマーを用い、熱可塑性ポリマーの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し30質量部以上とすることが好ましい。
【0067】
本発明のアロイフィルムのヤング率は、3GPa以上であることが好ましく、4GPa以上であることがより好ましい。ヤング率は特に上限はないが、通常は20GPa以下とするのが他のフィルム物性を損なわない点で好ましい。ヤング率を上記範囲内とするため、熱可塑性ポリマーの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し400質量部以下とすることが好ましい。また、芳香族ポリアミドを本発明の構造とすることで、無色透明性や溶媒への溶解性を損なわない程度に剛直性が得られる。
【0068】
本発明の破断伸度は、10%以上、より好ましくは15%以上であることが、製膜、加工時の破断を抑制できるため好ましい。破断伸度の上限は特に限定されるものではないが、現実的には250%程度である。破断伸度を上記範囲内とするため、アロイフィルムの製膜方法を上述した方法により行うことで、フィルム内部のボイド生成を抑制することが好ましい。
【0069】
本発明のアロイフィルムの少なくとも一方の面の表面粗さRaは、0.1〜10nmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜5nmである。Raが10nmを超えると、フィルム表面で光が散乱し、透明性が低下することがある。また、他の素材との積層フィルムとして使用する場合に、良好な接着性が得られないことがある。Raの下限は特に限定されるものではないが、実質的には0.1nm程度である。表面粗さRaを上記範囲内とするため、フィルム中の相分離ドメインのサイズをできるだけ微細に制御し、かつ、熱処理時の相分離構造の粗大化を抑制することが好ましい。ドメインサイズの微細化および相分離構造の粗大化抑制のため、アロイフィルムの製膜方法を上述した方法で行うことが好ましい。
【0070】
本発明のアロイフィルムは単層構成のフィルムでも、複数層を有する積層構成のフィルムでもよく、積層構成のフィルムとする場合には、例えば、口金内での積層、複合管での積層や、一旦1層を形成しておいてその上に他の層を形成する方法などを用いればよい。
【0071】
本発明のアロイフィルムは、フレキシブルプリント基板、光電複合回路基板、光導波路基板、半導体実装用基板、多層積層回路基板、表示材料用基板、透明導電フィルム、位相差フィルム、タッチパネル、コンデンサー、プリンターリボン、スピーカー振動板、光記録媒体、耐熱粘着ベースフィルム、太陽電池基板などの用途で好適に使用できる。
【0072】
一般に、表示材料基板としてはガラスが用いられているが、本発明の芳香族ポリアミドフィルムを表示材料基板として用いると、薄膜化、軽量化、割れないという大きなメリットがある。本発明の表示材料の種類は特に限定は無いが、薄膜、軽量がメリットとなる薄膜ディスプレイ、あるいは、薄膜表示体であることが好ましい。薄膜ディスプレイとしては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、電子ペーパーなどが例示できる。
【0073】
回路基板として用いる場合、本発明のアロイフィルムの特徴である無色透明性により、透明な回路を作成することができる。このため、光導波路や光電複合回路では基板に貫通孔を設けることなく、基板の一方の面から他方の面へ光信号を通過させることが可能である。
【0074】
また、フィルムに金属層を積層する場合、通常用いられているように接着層を用いる方法でも積層可能だが、本発明のアロイフィルムの場合、フィルムと金属板とを積層した後、用いた熱可塑性ポリマーのガラス転移温度付近で熱圧着することで積層体を作製できるといった特長がある。
【0075】
本発明のアロイフィルムは、コアなどに巻き上げフィルムロールとすることができる。コアの材質は特に限定されず、紙、プラスチックなど種々のものを使用できる。外径は1〜10インチ、特に2〜8インチのものが好ましく用いられる。コア長は150〜2,000mm、特に500〜1,500mmのものが好ましく用いられる。
【0076】
本発明のアロイフィルム中の芳香族ポリアミドの構造は、その原料であるジアミンとカルボン酸ジクロライドによって決定される。原料が不明である場合は芳香族ポリアミド組成物から構造解析を行うが、この手法としては、例えば質量分析、核磁気共鳴法、分光分析などが挙げられる。また、本発明のアロイフィルムから熱可塑性ポリマーの含有量を測定する手法としては、フィルムを共通溶媒に再溶解させた溶液をゲル浸透クロマトグラフィーにより分析する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0077】
本発明における効果の評価、物性の測定は次の方法に従って行った。
【0078】
(1)全光線透過率、ヘイズ
日本電色工業(株)製濁度計NDA−5000を用いて下記条件下で測定した。
【0079】
測定雰囲気:温度23℃、相対湿度65%
測定方法:JISモード
光学条件:JIS−K7361−1−1997に準拠
(2)熱収縮率
フィルムを幅10mm、長さ250mmに切断し、両端から25mmの位置に印をつけ、200℃に設定したオーブン中で10分間加熱後、室温に戻して寸法を測り、下記の計算式より算出した。
【0080】
熱収縮率=((L−L)/L)×100(%)
:初期長 200mm
L:処理後の長さ(mm)
(3)吸湿率
フィルムを120℃のオーブン中で2時間加熱脱湿後、窒素雰囲気下で25℃に降温し、完全脱湿時の質量を測定した。このフィルムを25℃−75%RH下で48時間放置して吸湿させた後の質量を測定し、下式より算出した。
【0081】
吸湿率=((W−W)/W)×100(%)
:脱湿時の質量(g)
W:吸湿後の質量(g)
(4)ヤング率、破断伸度
幅10mm、長さ150mmに切断したフィルムを、(株)オリエンテック製ロボットテンシロンAMF/RTA−100を用いてチャック間距離50mm、引張速度300mm/分、温度23℃、相対湿度65%の条件下で引張試験を行い、得られた荷重−伸び曲線から求めた。
【0082】
(5)表面粗さRa
デジタルインスツルメンツ社製原子間力顕微鏡NanoScopeIIIを用いて、以下の条件でガラス板または流延ベルト(支持体)に接触していない側の表面について測定した。
【0083】
探針:ナノセンサーズ社製SPMプローブNCH−W型、単結晶シリコン
走査モ−ド:タッピングモ−ド
走査範囲:30μm×30μm
走査速度:0.5Hz
測定環境:温度23℃、相対湿度65%、大気中
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0084】
(実施例1)
溶解助剤として無水臭化リチウムを加えたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に、90モル%に相当する2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、および、10モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルスルフォンを溶解させ、窒素雰囲気下、0℃に冷却、攪拌しながら、78.8モル%に相当するテレフタル酸ジクロライドと19.7モル%に相当する4,4’−ビフェニルジカルボニルクロライドの混合物を添加した。さらに1時間攪拌した後、反応で発生した塩化水素を炭酸リチウム、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンで中和して芳香族ポリアミドAのポリマー溶液を得た。このポリマー溶液を多量の水に投入し、再沈・乾燥して粉体状の芳香族ポリアミドAを単離した。
【0085】
次に、ポリカーボネート(PC、出光タフロンA2200)を芳香族ポリアミド100質量部に対し30質量部となるようにNMPに溶解させ、この溶液に、単離した芳香族ポリアミドAを所定量添加し、アロイポリマー溶液を得た。
【0086】
次いで、アプリケーターでポリマー溶液をガラス板上にキャストして、熱風温度120℃でフィルムが自己支持性を持つまで乾燥させた後、ゲルフィルムを支持体から剥離した。その後、ゲルフィルムを金属枠に固定して、水温80℃の水槽内で残存溶媒の水抽出を行った。水抽出後、含水フィルム両面の水分をガーゼで拭き取り、金枠に固定したまま、280℃のオーブンで熱処理することで、アロイフィルムを得た。得られたアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0087】
(実施例2)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し100質量部とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0088】
(実施例3)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し250質量部とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0089】
(実施例4)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し400質量部とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0090】
(実施例5)
熱可塑性ポリマーをポリエーテルスルホン(PES、スミカエクセル7600P)とすること以外は実施例2と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0091】
(実施例6)
熱可塑性ポリマーをポリエーテルスルホンとすること以外は実施例3と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0092】
(実施例7)
溶解助剤として無水臭化リチウムを加えたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に、100モル%に相当する2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニルを溶解させ、窒素雰囲気下、0℃に冷却、攪拌しながら、98.5モル%に相当する2−クロロテレフタル酸ジクロライドを添加し、1時間攪拌した。その後、反応で発生した塩化水素を炭酸リチウム、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンで中和して芳香族ポリアミドBのポリマー溶液を得た。このポリマー溶液を多量の水に投入し、再沈・乾燥して粉体状の芳香族ポリアミドBを得た。
【0093】
この芳香族ポリアミドBを用いること以外は実施例5と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0094】
(実施例8)
単離した芳香族ポリアミドAを、ポリカーボネートと同時にNMPに添加、溶解させてアロイポリマー溶液を得ること以外は実施例2と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。実施例2に記載の、ポリカーボネートをNMPに溶解させた後に、芳香族ポリアミドAを添加する方法と比較し、全光線透過率およびヘイズなどが低下したが、無色透明なフィルムが得られた。
【0095】
(比較例1)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し20質量部とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0096】
熱可塑性ポリマーの含有量が少なく、製膜時に白濁が生じた。また、吸湿率の高いフィルムとなった。
【0097】
(比較例2)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し500質量部とすること以外は実施例1と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0098】
芳香族ポリアミドの持つ、耐熱性および剛性を維持することができなかった。
【0099】
(比較例3)
熱可塑性ポリマーをポリビニルピロリドン(PVP、東京化成K90)とすること以外は実施例2と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0100】
PVPにより、吸湿率の非常に高いフィルムとなった。
【0101】
(比較例4)
N−メチル−2−ピロリドンに、85モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと15モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを溶解させ、これに98.5モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリドを添加して、30℃以下で約2時間の撹拌を行った。その後、反応で発生した塩化水素を炭酸リチウム、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンで中和して芳香族ポリアミドCのポリマー溶液を得た。このポリマー溶液を多量の水に投入し、再沈・乾燥して粉体状の芳香族ポリアミドCを得た。
【0102】
この芳香族ポリアミドCを用いること以外は実施例2と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0103】
芳香族ポリアミドC由来の着色と、相分離ドメインにより、黄白色のフィルムとなった。
【0104】
(比較例5)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し250質量部とすること以外は比較例4と同様にして、アロイポリマー溶液を得た。
【0105】
このポリマー溶液をアプリケーターでガラス板上にキャストして、ガラス板ごと水温25℃の水槽内に投入し、溶媒の抽出を行った。その後、含水フィルム両面の水分をガーゼで拭き取り、金枠に固定したまま、280℃のオーブンで熱処理することで、アロイフィルムを得た。得られたアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0106】
比較例4と同様、黄白色のフィルムとなった。
【0107】
(比較例6)
実施例1と同様にして芳香族ポリアミドAのポリマー溶液を得た。この芳香族ポリアミドAを単離せず、重合ポリマー溶液中にポリカーボネートを添加し、アロイポリマー溶液を得ること以外は実施例2と同様にして、アロイフィルムを得た。得られたアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0108】
アロイポリマー溶液中の溶解助剤および中和塩により、製膜時に相分離が進行し、無色透明性や表面平滑性が損なわれたフィルムとなった。
【0109】
(比較例7)
ポリカーボネートの含有量を芳香族ポリアミド100質量部に対し250質量部とすること以外は比較例6と同様にして、アロイフィルムを得た。このアロイフィルムのフィルム特性を表1に示す。
【0110】
比較例6と同様、無色透明性や表面平滑性が損なわれたフィルムとなった。
【0111】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミドと、芳香族ポリアミドとは異なる熱可塑性ポリマーとを含有し、熱可塑性ポリマーの含有量が芳香族ポリアミド100質量部に対し30〜400質量部であり、かつ全光線透過率が80〜100%、ヘイズが0.0〜5.0%である芳香族ポリアミドフィルム。
【請求項2】
200℃における熱収縮率が0.0〜0.5%、吸湿率が0.0〜1.5%、少なくとも一方の面の表面粗さRaが0.1〜10nmである、請求項1に記載の芳香族ポリアミドフィルム。
【請求項3】
芳香族ポリアミドが、化学式(I)〜(IV)で示される構造単位を含み、かつ、化学式(I)、(II)、(III)および(IV)で示される構造単位のモル分率をそれぞれa、b、c、dとしたとき、次式(A)〜(C)を満足している、請求項1または2に記載の芳香族ポリアミドフィルム。
50<a+b+c≦100 ・・・ (A)
0≦a、b、c≦100 ・・・ (B)
0≦d≦50 ・・・ (C)
【化1】

:環構造を有する基
:芳香族基
:任意の基
:任意の基
【化2】

:電子吸引基
:電子吸引基
:任意の基
:任意の基
:芳香族基
【化3】

10:Siを含む基、Pを含む基、Sを含む基、ハロゲン化炭化水素基、または、エーテル結合を含む基(ただし、分子内においてこれらの基を有する構造単位が混在していてもよい。)
11:任意の基
12:任意の基
13:直結されているか、または、フェニル基を必須成分とする炭素数6から12の任意の基
14:直結されているか、または、フェニル基を必須成分とする炭素数6から12の任意の基
15:芳香族基
【化4】

16:芳香族基
17:芳香族基
【請求項4】
芳香族ポリアミドが、化学式(V)〜(VIII)で示される構造単位を含み、かつ、化学式(V)、(VI)、(VII)および(VIII)で示される構造単位のモル分率をそれぞれe、f、g、hとし、e+f=50としたとき、次式(D)〜(F)を満足している、請求項1または2に記載の芳香族ポリアミドフィルム。
40≦e≦45 ・・・ (D)
30≦g≦50 ・・・ (E)
0.9≦(g+h)/(e+f)≦1.1 ・・・ (F)
【化5】

【化6】

18:SO、C(CF、またはO-Ph-SO-Ph-O
【化7】

19:HまたはF
【化8】

【請求項5】
重合後の芳香族ポリアミドを単離した後、このポリマーを熱可塑性ポリマーとともに溶媒に再溶解してアロイポリマー溶液とし、このアロイポリマー溶液を用いて溶液製膜を行う、請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリアミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
熱可塑性ポリマーを溶媒に溶解させてポリマー溶液とした後、この溶液に単離した芳香族ポリアミドを加えてアロイポリマー溶液とし、このアロイポリマー溶液を用いて溶液製膜を行う、請求項1〜4のいずれかに記載の芳香族ポリアミドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−32400(P2011−32400A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181270(P2009−181270)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】