説明

芳香族ポリアミド短繊維及びその製造方法

【課題】生産速度の高速化や工程の低湿化などの環境変化に対応し、カード工程通過性やニードルパンチ工程での耐針折れ性が向上した芳香族ポリアミド短繊維を提供すること。
【解決手段】芳香族ポリアミド繊維の表面に油剤が付着しており、該油剤が下記の(A)成分を20〜60重量%、(B)成分を0.5〜5重量%、(C)成分を5〜30重量%、かつ(D)成分を15〜50重量%含有する芳香族ポリアミド短繊維。(A)30℃での粘度が5〜50mm/sの鉱物油、または分子量200〜500の脂肪酸エステル。(B)30℃での粘度が5〜20mm/sのジメチルシリコーン。(C)第4級アンモニウム塩型またはアミン塩型のカチオン活性剤。(D)ノニオン活性剤。さらには、該油剤が(E)成分を1〜10重量%含有することが好ましい。(E)炭素数8〜20のアルキルホスフェートのアルカリ金属塩、または炭素数8〜20のアルキルホスフェートに炭素数2〜3のアルキレンオキサイドが付加された化合物のアルカリ金属塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族ポリアミド短繊維、特には紡績性等の後加工性に優れた芳香族ポリアミド短繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミド繊維は、ポリエステル繊維や脂肪族ポリアミド繊維等の汎用合成繊維に比べ物性に優れ、近年では各種産業用途や機能性衣料として広く利用されている。中でも高結晶性で耐熱性に優れ大量生産に適することから、一定長に切断された短繊維が、消防服等の特に難燃性が要求される産業用資材や衣料用途に広く使用されている。
【0003】
しかし、芳香族ポリアミド繊維は他の合成繊維に比べて極めて静電気を帯び易いという特徴が有る。そのため特に短繊維を加工する後加工においては、例えば紡績加工におけるカード工程でのシリンダー部への捲付きあるいはウェア斑の発生や、不織布加工におけるニードルパンチング工程でのウェブのローラー捲付きの発生などが起こりやすいとの問題があった。
【0004】
これらの問題に対し古くは汎用繊維用の油剤の適用から始まり、特許文献1では、平滑性の改善を目的にエステルや鉱物油を主成分にアニオン系界面活性剤やカチオン系界面活性剤を添加した処理剤が提案されている。確かにこの処理剤はアニオンやカチオン活性剤主体の従来型処理剤に比べて平滑性が向上し、ニードルパンチ工程での針折れは減少するものの制電性能が低く、特に低湿環境等では静電気が発生し易く、均一なウェブが得られないという問題があった。
【0005】
一方、芳香族ポリアミド系短繊維の処理剤として、特許文献2には、有機アンモニウムホスフェートまたは有機ホスホニウムホスフェートからなる界面活性剤とアミノ変性ポリオルガノシロキサンとからなる処理剤が提案されている。しかし、この処理剤は粘性が高く平滑性が低くなるという問題があった。また、高速カード工程でのシリンダー捲付きや、二−ドルパンチ工程での針折れ等の問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−2879号公報
【特許文献2】特開平11−172577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特に生産速度の高速化や工程の低湿化などの環境変化に対応し、カード工程通過性やニードルパンチ工程での耐針折れ性が向上した芳香族ポリアミド短繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の芳香族ポリアミド短繊維は、芳香族ポリアミド繊維の表面に油剤が付着している芳香族ポリアミド短繊維であって、該油剤が下記の(A)成分を20〜60重量%、(B)成分を0.5〜5重量%、(C)成分を5〜30重量%、かつ(D)成分を15〜50重量%含有することを特徴とする。
(A)30℃での粘度が5〜50mm/sの鉱物油、または分子量200〜500の脂肪酸エステル、
(B)30℃での粘度が5〜20mm/sのジメチルシリコーン
(C)第4級アンモニウム塩型またはアミン塩型のカチオン活性剤
(D)ノニオン活性剤。
【0009】
さらには、該油剤が(E)成分を1〜10重量%含有することが好ましい。
(E)炭素数8〜20のアルキルホスフェートのアルカリ金属塩、または炭素数8〜20のアルキルホスフェートに炭素数2〜3のアルキレンオキサイドが付加された化合物のアルカリ金属塩。
【0010】
また、該油剤の付着量が、繊維重量に対して0.1〜1.0重量%であることや、芳香族ポリアミド繊維がポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維であることが好ましい。
そして、本発明の紡績糸または不織布は、上記本発明の芳香族ポリアミド短繊維からなるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特に生産速度の高速化や工程の低湿化などの環境変化に対応し、カード工程通過性やニードルパンチ工程での耐針折れ性が向上した加工しやすい芳香族ポリアミド短繊維が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、芳香族ポリアミド繊維の表面に油剤が付着している芳香族ポリアミド短繊維に関するものである。ここで芳香族ポリアミド繊維としては、パラ系芳香族ポリアミド繊維(いわゆるパラ系アラミド繊維)やメタ系芳香族ポリアミド繊維(いわゆるメタ系アラミド繊維)を挙げることができるが、本発明の効果は短繊維として生産、加工が行われることが多い、メタ系芳香族ポリアミド繊維であることが特に好ましい。またここで好ましいメタ系芳香族ポリアミド繊維としては、20重量%までは、他の共重合成分を混合しても良く、共重合成分としては、パラ系芳香族ポリアミド成分であることが特に好ましい。
【0013】
より詳細に好ましいメタ系芳香族ポリアミド繊維について述べると、この繊維はポリメタフェニレンイソフタルアミドからなる繊維であるが、ここで用いるポリメタフェニレンイソフタルアミドとしては、下記(ア)〜(ウ)のいずれの芳香族ポリアミドを混合したポリマーからなる繊維であってもよい。
(ア)アミン成分が、キシレンジアミン35〜100モル%、芳香族ジアミン65〜0モル%、酸成分が芳香族ジカルボン酸からなる芳香族ポリアミド。
(イ)アミン成分が、炭素数1〜4のアルキル置換基を少なくとも1つ有するフェニレンジアミンまたは置換基を有さない芳香族ジアミンであり、酸成分が芳香族ジカルボン酸よりなる芳香族ポリアミド。
(ウ)アミン成分が、1〜4のハロゲン置換基を有するフェニレンジアミン40〜100モル%と、置換基を有さない芳香族ジアミン60〜0モル%とからなり、酸成分が芳香族ジカルボン酸からなる芳香族ポリアミド。
【0014】
なお、このメタ系芳香族ポリアミド繊維としては、固有粘度は、0.5g/100mlの濃硫酸溶液(30℃)で測定した値が0.8〜4.0、特に1.0〜3.0のものであることが好ましい。さらに、難燃剤、着色剤、耐光向上剤、艶消し剤、導電剤などの添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で含有してもよい。
【0015】
また本発明の芳香族ポリアミド短繊維の長さとしては200mm以下、通常は0.2〜150mm、より好ましくは38〜76mmの範囲であることが好ましい。また繊度としては25dtex以下、通常は0.5〜15dtex、より好ましくは1.3〜3.3dtexの範囲であることが好ましい。このような形状の短繊維であると、紡績して紡績糸としたり、絡合させて不織布とすることが容易となる。
【0016】
本発明の芳香族ポリアミド繊維は、このような繊維の表面に油剤が付着しているものであって、その油剤が下記の(A)成分を20〜60重量%、(B)成分を0.5〜5重量%、(C)成分を5〜30重量%、かつ(D)成分を15〜50重量%含有することを必須とするものである。
(A)30℃での粘度が5〜50mm/sの鉱物油、または分子量200〜500の脂肪酸エステル、
(B)30℃での粘度が5〜20mm/sのジメチルシリコーン、
(C)第4級アンモニウム塩型またはアミン塩型のカチオン活性剤、
(D)ノニオン活性剤。
【0017】
特に本発明においては、油剤のベース成分である(A)成分に非相溶の成分である(B)成分のジメチルシリコーンを併用することにその特徴があり、少量のジメチルシリコーンにより平滑性を確保することができたがゆえに、本発明の特徴的な成分である(C)成分のカチオン活性剤の制電性を阻害することなく、高いレベルの平滑性や制電性が確保されたのである。
【0018】
さらに本発明において用いられている各成分についての説明を以下に行う。
(A)成分である30℃粘度が5〜50mm/sの鉱物油、または分子量200〜500の脂肪酸エステルは、主に本発明の短繊維に平滑性を付与し、また特にニードルパンチング工程での針折れ防止などに有効な成分である。この(A)成分が鉱物油である場合には、30℃での粘度が5〜50mm/sで有ることが必要であり、5.8〜49.2mm/sで有ることが好ましい。鉱物油の粘度が5mm/s未満では、揮発しやすく効果を持続させることができない。また室内の温度が高くなると揮発するため、使用時の安全、衛生面等でも不都合となる。一方、鉱物油の粘度が50mm/sを超えると粘性が高くなり、短繊維の平滑性が得られない。鉱物油の代わりに主要成分として脂肪酸エステルを選択した場合、その分子量は200〜500であることが必要である。分子量が200未満の場合には粘度が低く、鉱物油が低粘度の場合と同様に適さない。また分子量が500を超えると鉱物油と同様に平滑性の面で好ましくない。ここで本発明の油剤の主成分である(A)成分は油剤中に20〜60重量%の割合で含有していることが必要である。含有が20重量%未満では平滑性がそこなわれ、60重量%を越えると乳化が均一にならずエマルジョンを均一に繊維に付与することができない。
【0019】
また、(A)成分として用いられる脂肪酸エステルとしては、一価、二価、三価、多価等があるが、一価の脂肪酸エステルが平滑性及び乳化性の点で好ましい。特に一価の脂肪酸エステルが、アルコール部の主鎖は炭素数が1〜18で直鎖またはイソ体であり、脂肪酸部の主鎖は炭素数が11〜18であることが好ましい。これらは30℃では液状であり、本発明の用途に最適である。一価の脂肪酸エステルを具体的に例示するとメチルパルミテート、メチルステアレート、メチルオレート、エチルオレート、イソプロビルミリスチレート、イソプロピルパルミテート、ブチルラウレート、ブチルオレート、イソブチルオレート、オクチルラウレート、イソオクチルパルミテート、ラウリルラウレート、ラウリルオレートなどである。また単独で使用してもよいが、他の脂肪酸エステルや鉱物油と混合して使用することも好ましい。
【0020】
次に(A)成分と併用する(B)成分であるが、30℃での粘度が5〜20mm/sのジメチルシリコーンである。このようなジメチルシリコーンを0.5から5重量%の少量含有することが、本発明の油剤では必要である。本発明で用いる配合ではこのようなジメチルシリコーンを少量添加することにより、平滑性が著しく向上し、(A)成分の脂肪酸エステル等の含有比率を抑えることができたのである。このように(A)成分、(B)成分を最小限に抑えることにより、本発明では他の成分の含有量を増加させることが可能となり、結果的にカードでの静電気発生の抑制や油剤エマルジョンの安定性を向上させることが可能となった。
【0021】
ここで本発明に用いるジメチルシリコーンは、30℃での粘度が5〜20mm/sであることが必要である。ジメチルシリコーンの粘度が5mm/s未満では、揮発しやすく性能を維持することができない。また20mm/s以上では、安定した油剤エマルジョンが得られず、本発明の芳香族ポリアミド繊維に有効に塗布することができない。なお、(B)成分は油剤中に0.5〜5重量%含有していることが必要である。含有が0.5重量%未満では平滑性の向上効果は認められず、5重量%を越えると油剤中での乳化が均一にならず、繊維に均一に付与することができない。この(B)成分は油剤中でエマルジョンであることが好ましく、このように溶解しないことにより、油剤中での有効成分が高く、少量でも性能を発揮しうるのである。
【0022】
本発明で用いられる(C)成分は、第4級アンモニウム塩型及び又はアミン塩型カチオン活性剤である。これらは一般的な紡績用油剤であるアニオン活性剤主体油剤に比べて静電気抑制効果が大きく、少量の添加で静電気の発生を抑制することが可能となる。なお本発明に用いる油剤では、(C)成分は油剤中に5〜30重量%含有することが必要である。含有量が5重量%未満では静電気抑制効果が小さく、また30重量%を越えると油剤の粘性が高くなり平滑性がそこなわれる。
【0023】
本発明で用いられるカチオン活性剤としては第4級アンモニウム塩型やアミン塩型を挙げることができる。より具体的には、第4級アンモニウム塩型としてはラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルエチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルエチルアンモニウムブロマイド、ステアリルアミドエチルヒドロキシエチルアミンのトリヒドロキシエチル燐酸塩やステアリルアミドエチルヒドロキシエチルアミンのトリヒドロキシエチル硝酸塩、等が挙げられる。また、アミン塩型としてはジヒドロキシエチルステアリルアミン、2−ヘプタデセニルーヒドロキシエチルイミダゾリン、ソロミンA、アーコベルA、等を挙げるこことができる。
【0024】
また(C)成分とともに(E)成分である炭素数8〜20のアルキルホスフェートのアルカリ金属塩、または炭素数8〜20のアルキルホスフェートに炭素数2〜3のアルキレンオキサイドが付加された化合物のアルカリ金属塩を併用することが好ましい。このような(E)成分を併用することにより、本発明の芳香族ポリアミド短繊維を加工する際の後工程等における金属の腐食を、高いレベルにて防止することができる。この(E)成分が金属の腐食を防止する理由は明確ではないが、工程を通過する際に、その金属表面にアルキルホスフェート塩が吸着し保護膜となり、腐食が起こりにくくなるものであると推定される。本発明で用いられる油剤は(C)成分を必須とするが、そのカチオン活性剤は、各種金属製の糸導であるローラーやガイド等を腐食し易い傾向にあり、作業環境によっては金属の腐食による錆の発生で、本発明の芳香族ポリアミド短繊維や、それからなるトウや綿が汚染されることが有る。このような問題は、(E)成分を含有することで解消されるので有る。
【0025】
なお(E)成分のアルカリ金属塩は本発明で用いられる油剤中に1〜10重量%含有するものであることが好ましい。さらには2〜5重量%含有することが好ましい。含有量が少ないと金属の腐食を防止する効果が小さく、また10重量%を越えると油剤の粘性が高くなり、平滑性がそこなわれる傾向にある。このような(E)成分のアルカリ金属塩としては、例えば炭素数8〜20のアルキルホスフェートのアルカリ金属塩、該アルキルホスフェートにエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドが1〜9モル付加された化合物のアルカリ金属塩が挙げられる。アルカリ金属塩としてはナトリウム塩、カリ塩、リチウム塩を挙げることができる。より具体的にはオクチルホスフェートのカリ塩、ラウリルホスフェートのカリ塩、ラウリルホスフェートのナトリウム塩、オレイルホスフェートのカリ塩、ラウリルホスフェートのエチレンオキサイド3モル付加のカリ塩等を挙げることができる。
【0026】
本発明で用いられる(D)成分のノニオン活性剤は、各成分の乳化剤として用いられるものである。特に(A)成分の鉱物油や脂肪酸エステル及び(B)成分のジメチルシリコーンを、水系のエマルジョンにするために用いられる。(D)成分は本発明で用いる油剤中に15〜50重量%含有することが必要である。含有比率が15重量%未満では、本発明で用いる油剤を水系エマルジョンで使用することができなくなる。乳化剤成分の比率が低下し、安定水系エマルジョンとすることができないのである。含有比率が50重量%超えると平滑剤の効果を阻害し、糸導ガイドとの擦過によって毛羽や断糸が発生しやすく、最終的に本発明の芳香族ポリアミド短繊維の物性や品質を低下させることになる。
【0027】
(D)成分のノニオン系の界面活性剤としては、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸のエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、多価アルコールの脂肪酸エステル等が挙げられる。より具体的に挙げるならば、ラウリルアルコールやオレイルアルコールのエチレンオキサイド付加物、ノニルフェノールやベンジルフェニルフェノール、トリスチレン化フェノールのエチレンオキサイド付加物、ラウリン酸やステアリン酸のエチレンオキサイド付加物、ヒマシ油や硬化ヒマシ油のエチレンオキサイド付加物、グリセリンやソルビタンとラウリン酸エステルのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0028】
なお、本発明に用いられる油剤成分には、上記の鉱物油、脂肪酸エステル、シリコーン化合物、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤以外に、通常繊維処理剤として使用されている他成分を併用してもよい。例えば、乳酸やオレイン酸の脂肪酸、エチレングリコール、オレイルアルコールのアルコール等の乳化調整剤、さらには、抗菌剤、防腐剤、紫外線吸収剤等を、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択使用することができる。
【0029】
本発明の芳香族ポリアミド短繊維は、上記の成分からなる油剤が付着したものであるが、その油剤の付着量としては、繊維重量に対して0.1〜1.0重量%であることが好ましい。その付着方法は特に限定する必要はないが、例えば、油剤を1〜10%の水溶液として、ローラー法、浸漬沫、スプレー法等の任意の方法により、紡糸、延伸等任意の段階で付与することができる。処理剤の付着量は、繊維に対して0.1〜1.0重量%、特には0.1〜0.6重量%とすることが望ましい。
【0030】
また本発明の芳香族ポリアミド短繊維は、後の後加工が行いやすいように捲縮をかけたものであることが好ましく、捲縮数としては捲縮数としては6〜15個/25mm、捲縮率としては7.5〜19%の範囲であることが好ましい。
【0031】
この本発明の芳香族ポリアミド短繊維は、平滑性が高く後工程でのシリンダー巻き付きやローラー巻き付き等を有効に防止することができる。またそのために厚み斑の無いウェブとすることができ、かつ動摩擦係数の少ないウェブとすることができるため、ニードルパンチング性に優れ、針折れも少なく、繊維の絡み合いの大きい密度の高いフェルトを得ることができる。また工程途中での摩擦によっても静電気の発生が少なく、加工性に極めて優れた芳香族ポリアミド短繊維となる。
【0032】
本発明の紡績糸は、この本発明の芳香族ポリアミド短繊維からなるものであり、捲縮をかけた芳香族ポリアミド短繊維を混打綿、カード工程、練条工程により紡績することにより得られる。
【0033】
また本発明の不織布は、この本発明の芳香族ポリアミド短繊維からなるものであり、捲縮をかけた芳香族ポリアミド短繊維を混打綿、カード工程、交絡工程により不織布とすることにより得られる。交絡工程としてはニードルパンチ工程が好ましく、フェルト化することが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の%はすべて重量%を示す。また夫々の評価は下記の方法に従った。
【0035】
(1)カード通過性
(紡績糸)
25℃、65%RHの条件下で300ゲレン/ヤード(0.9144m)、12rpmでカードにかけ口出し時のコイラーチュ−ブ詰りおよびカレンダーロールとコイラー間でのスライバーの垂れを観察、カード通過性が題のないものを○とし、カード通過性が不良の場合を×、中間のものを△と判定した。
(不織布)
ローラーカードにて20g/m、巾2mのウェアを速度30m/分でカーデイングし、シリンダー部への繊維の捲付き状態、得られたウェブの均一性を観察評価した。
ウェブが特に不良でニーパンが円滑に加工できない場合を×、中間のものを△と判定した。
【0036】
(2)カード静電気発生
25℃、45%RHの条件下で300ゲレン/ヤード(0.9144m)、12rpmでカードにかけドッファ−と引取ローラとの間でウェブから10cm離れた高さ(位置)で春日式静電気測定器で静電気量(キロボルト:kV)を測定した。
【0037】
(3)練条通過性
また、練条工程における特性としては、25℃、湿度65%の条件下で300ゲレン/ヤード(0.9144m)を180m/分の紡速で練条機を3回通過させ、口出し時の練条ローラー詰りや練条ローラーへの捲付きを観察し、総合的に良好なものを○とし、特に不良で円滑に練条工程を通過できないものを×、中間を△と判定した。
【0038】
(4)ニードルパンチ性(針折れ)
25℃、65%RHの条件下でローラーカードにて20g/m、巾2mのウェアを速度30m/分でカーデイングした。カードから排出されたウェブを30層に折り重ねて、パンチ密度300パンチ/cm、ウェブ速度1m/分でニードルパンチングし300g/mの目付のフェルトを作成した。
ニードルボードは、GrOZ−Becker社(西独)製の36番手のレギュラー針を2万本植えこんだものを使用し、ニードルボード上での折れた針の数を本/時間で測定し、ニードルパンチ性(針折れ)とした。
【0039】
(5)金属腐食性
5%のエマルジョンに綿状の芳香族ポリアミド系繊維を浸漬して水分率で100%となるようにした後、湿潤繊維綿に丸釘を置き30℃で24時間放置後の発錆状態を肉眼で観察し、錆の発生状態を○、△、×の3段階で表示した。○は殆ど錆が認められない、△は所々錆が認められる、×は表面全体に錆が認められる。
【0040】
[実施例1]
固有粘度1.8のポリメタフェニレンイソフタルアミドを塩化カルシュウム水溶液中に押し出し、凝固させ単繊維繊度2.2dtex、計14万dtexのトウとなし、これを水洗後3.2倍に沸水中で延伸し、ついで乾燥し340℃で熱処理し、表1記載の油剤に浸漬し、クリンパ−に供給して、クリンパ−での絞り率を調整して油剤付着量を0.5%とした後、クリンパ−で捲縮性能を付与し、120℃で乾燥熱処理を行い、51mmの長さに切断した。
短繊維は捲縮数12山/インチ(2.54cm)、捲縮度は19%であった。また錆の発生も見られなかった。得られた短繊維を用いて、紡績糸ないし不織布に加工した。加工性を評価した結果を、併せて表1に示す。
【0041】
[実施例2、3、比較例1〜3]
表1記載の各油剤に変更した以外は、実施例1と同様に芳香族ポリアミド短繊維を作成し、実施例1と同様に紡績糸ないし不織布に加工し、その加工性を評価した。結果を表1に併せて示す。
【0042】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリアミド繊維の表面に油剤が付着している芳香族ポリアミド短繊維であって、該油剤が下記の(A)成分を20〜60重量%、(B)成分を0.5〜5重量%、(C)成分を5〜30重量%、かつ(D)成分を15〜50重量%含有することを特徴とする芳香族ポリアミド短繊維。
(A)30℃での粘度が5〜50mm/sの鉱物油、または分子量200〜500の脂肪酸エステル、
(B)30℃での粘度が5〜20mm/sのジメチルシリコーン
(C)第4級アンモニウム塩型またはアミン塩型のカチオン活性剤
(D)ノニオン活性剤。
【請求項2】
該油剤が(E)成分を1〜10重量%含有する請求項1記載の芳香族ポリアミド短繊維。
(E)炭素数8〜20のアルキルホスフェートのアルカリ金属塩、または炭素数8〜20のアルキルホスフェートに炭素数2〜3のアルキレンオキサイドが付加された化合物のアルカリ金属塩。
【請求項3】
該油剤の付着量が、繊維重量に対して0.1〜1.0重量%である請求項1または2記載の芳香族ポリアミド短繊維。
【請求項4】
芳香族ポリアミド繊維がポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維である請求項1〜3のいずれか1項記載の芳香族ポリアミド短繊維。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の芳香族ポリアミド短繊維からなる紡績糸。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項記載の芳香族ポリアミド短繊維からなる不織布。

【公開番号】特開2011−74546(P2011−74546A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229624(P2009−229624)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】