説明

芳香族ポリアミンの製造方法

【課題】ゼオライト触媒存在下で、芳香族ポリアミンが高収率で得られ、かつ4,4’−MDAが高選択的に得られる製造方法を提供する。
【解決手段】例えば、下記一般式(I)


(式中、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数4〜10のシクロアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を表す。)で示されるアミナール化合物を、非プロトン性極性溶媒及び固体酸触媒存在下で反応させて、4,4’−MDA(メチレンジアニリン)を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリアミンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリアミンは、芳香族ポリイソシアネートを製造する際の原料及びポリウレタンの原料として知られている。
【0003】
従来、芳香族ポリアミンの製造方法としては、例えば、塩酸等の鉱酸を触媒として用い、アニリン又はその誘導体とホルムアルデヒドとを反応させる方法が用いられてきた。しかしながら、この方法では、装置の腐食、反応後に得られた反応液を中和するために鉱酸と等モル以上のアルカリを必要とし、塩として廃棄物が発生することが問題となっていた。
【0004】
このような問題点を解決する方法として、種々のゼオライトや粘土鉱物を触媒とした芳香族ポリアミンの製造方法が提案されている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、これらの方法は、ゼオライトの細孔径(ゼオライト構造)やその酸性質(Si/Al比、イオン交換等)に着目した芳香族ポリアミンの製造方法であり、MDA誘導体の収率が十分ではなく、MDA異性体の選択性については何ら課題とされていなかった。
【0006】
このため、高収率で芳香族ポリアミンを得ることができ、最も有用な4,4’−MDAが高選択的に得られる製造方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−26571号公報
【特許文献2】特表2003−529577号公報
【特許文献3】特表2005−521722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、ゼオライト触媒存在下で、芳香族ポリアミンが高収率で得られ、かつ4,4’−MDAが高選択的に得られる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、非プロトン性極性溶媒及び触媒存在下で反応させることで、高収率で経済的に芳香族ポリアミンを製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下に示すとおりの芳香族ポリアミンの製造方法である。
【0011】
[1]下記一般式(I)
【0012】
【化1】

(式中、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数4〜10のシクロアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を表す。)
で示されるアミナール化合物、下記一般式(II)
【0013】
【化2】

(式中、Rは上記と同じ定義である。)
で示される化合物、又はそれらの混合物を、非プロトン性極性溶媒及び固体酸触媒存在下で反応させることを特徴とする下記一般式(III)
【0014】
【化3】

(式中、Rは上記と同じ定義であり、nは1以上の整数を表す。)
で示される芳香族ポリアミンの製造方法。
【0015】
[2]非プロトン性極性溶媒の25℃における比誘電率が、10以上120未満であることを特徴とする上記[1]に記載の芳香族ポリアミンの製造方法。
【0016】
[3]非プロトン性極性溶媒が、ピリジン、N−メチルピロリドン及びジメチルスルホキシドからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の芳香族ポリアミンの製造方法。
【0017】
[4]反応液中の非プロトン性極性溶媒の存在量が、反応液に対して、1重量%以上かつ10重量%以下であることを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の芳香族ポリアミンの製造方法。
【0018】
[5]固体酸触媒がゼオライトであることを特徴とする上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の芳香族ポリアミンの製造方法。
【0019】
[6]ゼオライトが、FAU構造を有するゼオライト、EMT構造を有するゼオライト、MOR構造を有するゼオライト、BEA構造を有するゼオライト、及びMFI構造を有するゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも1種のゼオライトであることを特徴とする上記[5]に記載の芳香族ポリアミンの製造方法。
【0020】
[7]ゼオライトが、FAU構造を有するゼオライト、又はEMT構造を有するゼオライトであることを特徴とする上記[5]に記載の芳香族ポリアミンの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、非プロトン性極性溶媒及び固体酸触媒存在下で反応させることで、芳香族ポリアミン、特にメチレンジアニリン(MDA)を高選択的で経済的に製造することができるため、本発明は産業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、上記一般式(III)で示される芳香族ポリアミンの製造方法であって、
(a)上記一般式(I)で示されるアミナール化合物、
(b)上記一般式(II)で示される化合物、又は
(c)上記一般式(I)で示されるアミナール化合物と上記一般式(II)で示される化合物との混合物
を非プロトン性極性溶媒及び固体酸触媒存在下で反応させることをその特徴とする。
【0023】
まず、上記一般式(I)で示されるアミナール化合物について説明する。
【0024】
上記一般式(I)において、置換基Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数4〜10のシクロアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を表す。Rが水素原子の場合は、N,N’−ジフェニルメチレンジアミンとなる。
【0025】
本発明において、上記一般式(I)で示されるアミナール化合物を製造する方法は特に限定されない。例えば、アニリン誘導体とホルムアルデヒド誘導体とを反応させて製造することができる。上記一般式(I)で示されるアミナール化合物がN,N’−ジフェニルメチレンジアミンの場合、例えば、アニリンとホルムアルデヒドを反応させることで製造できる。
【0026】
以下、アニリンとホルムアルデヒドとの反応を例に、上記一般式(I)で示されるアミナール化合物の製造方法について説明する。
【0027】
この反応において、アニリンとしては特に限定するものではないが、市販品、合成品、本発明で用いられて後に回収されたもの、又はこれらの混合品を用いることができる。また、ホルムアルデヒドは、通常20〜50重量%のホルムアルデヒドを含有する水溶液の形で用いられる。このホルムアルデヒド水溶液はメタノール等の通常の安定剤を含有していても問題ない。
【0028】
アニリンとホルムアルデヒドの比は特に限定されないが、アニリン/ホルムアルデヒドのモル比で2〜50の範囲が好ましい。2より小さい場合、ホルムアルデヒドが過剰に存在するため、効率が低下するおそれがある。また50より大きい場合、大過剰のアニリンが存在するため、後の固体酸触媒存在下で芳香族ポリアミンを製造する際の効率が低下するおそれがある。
【0029】
アニリンとホルムアルデヒドとを反応させる場合、触媒存在下で反応させても、無触媒下で反応させてもよい。また、アニリンとホルムアルデヒドが十分に混合されればよく、回分式、半回分式、連続式のいずれの方法を用いてもよい。
【0030】
反応器は、例えば、槽型、管型等のいずれの形状でもよい。また、アニリンとホルムアルデヒドを混合する場合、アニリンにホルムアルデヒドを加えても、ホルムアルデヒドにアニリンを加えても、いかなる方法でもよい。
【0031】
アニリンとホルムアルデヒドとを反応させる温度は特に限定するものではないが、例えば、0℃〜80℃の範囲で反応を実施することが好ましい。0℃より低温の場合、反応効率は問題ないが冷却のためのエネルギーが必要となり、経済的ではない。また、80℃より高温の場合、反応効率は問題ないが加熱のためのエネルギーが必要となり、経済的ではない。
【0032】
アニリンとホルムアルデヒドとを反応させる反応時間は特に限定するものではないが、例えば、0.5時間〜5時間の範囲で反応を実施すればよい。0.5時間より短い場合、アニリンとホルムアルデヒドの反応が十分に進行しないおそれがある。また、反応時間を5時間より長くしても、それ以上の反応の進行は望めない場合がある。
【0033】
アニリンとホルムアルデヒドとを反応させる場合、溶媒を用いずに合成しても、溶媒を用いて合成してもよい。溶媒を使用する場合は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン系炭化水素を用いることができる。
【0034】
アニリンとホルムアルデヒドとの反応終了後、反応液は通常2相に分離する。水相にはホルムアルデヒド水溶液とメタノール等の水溶性のホルムアルデヒド安定剤が含まれる。有機相にはN,N’−ジフェニルメチレンジアミンとアニリン、及び若干の水が含まれる。
【0035】
このような2相からなる反応液から、アニリンとN,N’−ジフェニルメチレンジアミンの混合物を分離する方法としては特に限定するものではないが、分液等の物理的な分離や、蒸留等の公知の方法を用いることができる。分液により水層を除去した場合、減圧乾燥や、脱水剤により水分を更に除去してもよい。溶媒を用いて反応させた場合、溶媒を除去してもしなくてもよい。
【0036】
上記一般式(I)で示されるアミナール化合物が、N,N’−ジフェニルメチレンジアミン以外の場合も同様に、アニリン誘導体とホルムアルデヒド誘導体とを上記したような条件で反応させ、製造することができる。
【0037】
次に、上記一般式(II)で示される化合物について説明する。
【0038】
上記一般式(II)において、置換基Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数4〜10のシクロアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を表す。Rが水素原子の場合は、N−(アミノベンジル)アニリンとなる。
【0039】
N−(アミノベンジル)アニリンは、アミノ基の位置により異性体が存在する。例えば、アミナール化合物が、N,N’−ジフェニルメチレンジアミンである場合、N−(p−アミノベンジル)アニリン、N−(o−アミノベンジル)アニリン等が製造されるが、工業的にはN−(p−アミノベンジル)アニリンが選択的に得られることが望ましい。
【0040】
上記一般式(II)で示される化合物を製造する方法は特に限定するものではないが、例えば、上記一般式(I)で示されるアミナール化合物を固体酸触媒と接触させることで簡便に製造することができる。
【0041】
この反応で使用される固体酸触媒としては、例えば、金属塩、複合酸化物及びヘテロポリ酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上を好適なものとして挙げることができる。金属塩としては、具体的には、塩化アルミニウム、塩化チタン、塩化ジルコニウム、フッ化ホウ素等の金属ハロゲン化物、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸亜鉛、硫酸クロム等の金属硫酸塩、リン酸アルミニウム、リン酸カリウム、リン酸リチウム等の金属リン酸塩、アルミナ、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化ニオブ、酸化タングステン等の金属酸化物、硫化モリブデン、硫化タングステン等の金属硫化物等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
また、複合酸化物としては、具体的には、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、ジルコニウムとタングステンやモリブデンとの複合酸化物等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
さらに、ヘテロポリ酸としては、具体的には、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、ホスホモリブデン酸、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、ホスホタングステン酸等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
上記の金属塩、複合酸化物及びヘテロポリ酸からなる群より選ばれる1種又は2種以上の固体酸触媒のうち、好ましくはシリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア等の複合酸化物であり、より好ましくはシリカ−アルミナである。
【0045】
上記固体酸触媒の濃度は、十分な触媒性能が得られるよう適宜選択すればよく、特に限定されない。例えば、その反応液に対して、0.1〜500重量%の範囲が好ましく、1.0〜100重量%の範囲がさらに好ましい。固体酸触媒の濃度が0.1重量%より少ないと十分な触媒性能が得られなくなるおそれがある。500重量%より多いと触媒が大量に必要となるため、経済的ではない。
【0046】
以下、上記一般式(I)で示されるアミナール化合物を固体酸触媒の存在下反応させて、上記一般式(II)で示される化合物を得る場合の反応条件等について説明する。
【0047】
この反応は溶媒を用いずに実施しても、溶媒を用いて実施してもよい。溶媒を使用する場合は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン系炭化水素等の溶媒を用いることができる。
【0048】
また、反応温度としては特に限定するものではないが、例えば、50〜300℃の範囲で反応させることが好ましい。反応温度が50℃より低い場合、触媒作用が弱くなって、高い触媒性能を得られなくなるおそれがある。また、反応温度が300℃より高い温度の場合、反応温度を維持するために多量のエネルギーが必要となるため、経済的ではない。
【0049】
また、反応時間としては特に限定するものではないが、例えば、0.5〜50時間の範囲で反応させることが好ましい。反応時間が0.5時間より短い場合、触媒が十分に機能せず、高い触媒性能を得られなくなるおそれがある。また、反応時間を50時間より長くしても、それ以上の反応の進行は望めない場合がある。
【0050】
この反応は、回分式、半回分式、又は固定床のいずれの方法によって実施してもよい。反応器は、例えば、槽型、管型等のいずれの形状でもよい。使用する触媒と反応液との分離は、ろ過、デカンテーション等の固体と液体とを分離する一般的な方法を用いることができる。また、蒸留等、公知の方法により触媒と反応液を分離することもできる。触媒と反応液の分離操作が不要である固定床で実施することが好ましい。
【0051】
この反応において、上記一般式(I)で示されるアミナール化合物は上記一般式(II)で示される化合物にまで完全に転位しなくてもよい(この場合の反応液は、上記一般式(I)で示されるアミナール化合物と上記一般式(II)で示される化合物との混合物として、本発明の原料として使用してもよい)。また、上記一般式(III)で示される芳香族ポリアミンまで反応が進行してもよい。
【0052】
次に、上記一般式(III)で示される芳香族ポリアミンについて説明する。
【0053】
本発明の方法により得られる芳香族ポリアミンは、上記一般式(III)で表される。
【0054】
上記一般式(III)において、置換基Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数4〜10のシクロアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を表し、nは1以上の整数であり、好ましくは1〜5の整数を表す。Rが水素原子であり、かつn=1の場合はメチレンジアニリン(MDA)となる。
【0055】
これらMDA異性体のうち、工業的にはMDAが選択的に得られることが好ましい。また、MDAにはアミノ基の位置によりいくつかの異性体が存在し、例えば、2,2’―MDA、2,4’―MDA、4,4’―MDA等が製造されているが、工業的には4,4’―MDAが選択的に得られることが好ましい。
【0056】
次に、本発明に用いられる非プロトン性極性溶媒について説明する。
【0057】
本発明において非プロトン性極性溶媒とは、プロトン供与性を持たない極性溶媒であり、特に限定するものではないが、例えば、アミン類、アミド類、スルホキシド類等が好適なものとして挙げられる。
【0058】
本発明において、非プロトン性極性溶媒の25℃における比誘電率は、10以上120未満であることが好ましく、10以上50未満がさらに好ましい。比誘電率が10より小さい場合、溶媒の極性が不十分で添加効果が得られにくい。比誘電率が120以上の溶媒は極性が強すぎ添加効果が得られにくい。
【0059】
非プロトン性極性溶媒の25℃における比誘電率が、10以上120未満である非プロトン性極性溶媒としては特に限定するものではないが、例えば、ピリジン(比誘電率12.3)、N−メチルピロリドン(32.2)、ジメチルスルホキシド(47)等が好適なものとして挙げられる。本発明においては、これらを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
本発明において、反応液中の非プロトン性極性溶媒の存在量は、十分な触媒性能が得られるよう適宜選択すればよく、特に限定するものではないが、反応液に対して、1重量%以上であることが好ましく、2重量%以上であることがより好ましく、5重量%であることがさらに好ましい。また、非プロトン性極性溶媒の存在量は、反応液に対し10重量%以下であることが好ましい。非プロトン性極性溶媒の存在量が1重量%未満の場合、非プロトン性極性溶媒の添加効果が得られにくくなるおそれがある。また、非プロトン性極性溶媒の存在量が10重量%よりも大きい場合は、得られる芳香族ポリアミンが水酸基含有化合物で希釈されてしまい、反応効率が低くなるおそれがある。ここで、反応液中の非プロトン性極性溶媒の存在量は、例えば、反応液中に、原料(上記一般式(I)で示されるアミナール化合物や上記一般式(II)で示される化合物)、非プロトン性極性溶媒及び溶媒が含まれる場合は、それらの合計量に対する水酸基含有化合物の含有量(重量%)として、溶媒を使用しない場合は、原料と水酸基含有化合物の合計量に対する水酸基含有化合物の含有量(重量%)として、それぞれ求めることができる。
【0061】
次に、本発明に用いられる固体酸触媒について説明する。
【0062】
本発明において、固体酸触媒としては特に限定するものではなく、例えば、上記一般式(I)で示されるアミナール化合物を反応させる際に使用される、上記した固体酸触媒を使用することもできるが、目的物の収率や選択率を考慮すると、ゼオライトを用いることが特に好ましい。ゼオライトとしては、例えば、一般式:M2/nO・AlSiOO(式中、MはNa、K、Ca、Ba等の金属を表し、nは陽イオンMの原子価を表す。また、yは2以上の数を表し、zは0以上の数を表す。)で示される結晶性アルミノシリケートが挙げられ、天然品や合成品として多くの種類が知られている。
【0063】
このようなゼオライトとしては多種多様なものが知られており、具体的には、AFI構造、ATO構造、BEA構造、CON構造、FAU構造、EMT構造、GME構造、LTL構造、MOR構造、MTW構造、OFF構造等、AEL構造、EUO構造、FER構造、HEU構造、MEL構造、MFI構造、NES構造、TON構造、WEI構造等の構造を有するものが挙げられる。これらのうち、高い触媒性能を得るためには、FAU構造を有するゼオライト、EMT構造を有するゼオライト、MOR構造を有するゼオライト、BEA構造を有するゼオライト、及びMFI構造を有するゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも1種のゼオライトが好ましく、さらに好ましくはFAU構造を有するゼオライト、及びEMT構造を有するゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも1種のゼオライトである。
【0064】
本発明においては、従来公知の方法でゼオライトに前処理を施してもよい。例えば、高い触媒性能を得るためには、ゼオライトがプロトンでイオン交換されていることが好ましい。すなわち、本発明においては、ゼオライトとしてプロトン型ゼオライトを用いることがより好ましい。
【0065】
本発明において、ゼオライトのSiO/Al(モル比)は特に限定するものではないが、高い耐久性を得るためには、SiO/Al(モル比)が5以上であることが好ましい。
【0066】
本発明において、ゼオライトの形状は特に限定されず、例えば、粉末、ペレット、ビーズ等公知の形状のものを用いることができる。
【0067】
本発明において、反応液中の固体酸触媒の濃度は、十分な触媒性能が得られるよう適宜選択すればよく、特に限定するものではないが、反応液に対して、0.1〜500重量%の範囲が好ましく、1.0〜100重量%の範囲がさらに好ましい。反応液中の固体酸触媒の濃度は、例えば、反応液中に、原料(上記一般式(I)で示されるアミナール化合物や上記一般式(II)で示される化合物)、非プロトン性極性溶媒及び溶媒が含まれる場合は、それらの合計量に対する固体酸触媒の含有量(重量%)として、溶媒を使用しない場合は、原料と水酸基含有化合物の合計量に対する固体酸触媒の含有量(重量%)として、それぞれ求めることができる。
【0068】
反応液中の固体酸触媒の濃度が0.1重量%より少ないと十分な触媒性能が得られなくなるおそれがある。一方、500重量%より多いと触媒が大量に必要となるため、経済的ではない。
【0069】
次に、上記一般式(I)で示されるアミナール化合物、上記一般式(II)で示される化合物、又は上記一般式(I)で示されるアミナール化合物と上記一般式(II)で示される化合物との混合物を非プロトン性極性溶媒及び固体酸触媒存在下で反応させる際の反応条件等について説明する。
【0070】
本発明において、反応は、溶媒を用いずに実施しても、溶媒を用いて実施してもよい。溶媒を使用する場合は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン系炭化水素等の溶媒を用いることができる。
【0071】
本発明において、反応温度は特に限定するものではないが、例えば、50〜300℃の範囲で反応させることが好ましい。反応温度が50℃より低い場合、触媒作用が弱くなって、高い触媒性能を得られなくなるおそれがある。また、反応温度が300℃より高い温度の場合、反応温度を維持するために多量のエネルギーが必要となるため、経済的ではない。
【0072】
また、本発明において、反応時間としては特に限定するものではないが、例えば、0.5〜50時間の範囲で反応させることが好ましい。反応時間が0.5時間より短い場合、触媒が十分に機能せず、高い触媒性能を得られなくなるおそれがある。また、反応時間を50時間より長くしても、それ以上の反応の進行は望めない場合がある。
【0073】
本発明において、反応は、回分式、半回分式、又は固定床のいずれの方法によって実施してもよい。反応器は、例えば、槽型、管型等のいずれの形状でもよい。
【0074】
本発明において、使用する触媒と反応液との分離は、ろ過、デカンテーション等の固体と液体とを分離する一般的な方法を用いることができる。また、蒸留等、公知の方法により触媒と反応液を分離することもできる。触媒と反応液の分離操作が不要である固定床で実施することが好ましい。
【0075】
本発明において、上記式(III)で示される芳香族ポリアミンの製造後、反応液から当該芳香族ポリアミンと溶媒とを分離する方法は特に限定されないが、蒸留等の公知の方法を用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明を実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。
【0077】
(芳香族ポリアミンの測定)
ガスクロマトグラフ分析には、ガスクロマトグラフGC−17A(島津製作所製)を用い、生成した芳香族ポリアミンを測定した。カラムにはDB−1(アジレント・テクノロジー社製)、検出器にはFIDを用いた。反応に用いたN,N’−ジフェニルメチレンジアミンの量に対して、ガスクロマト分析により求められた芳香族ポリアミンの量から収率を算出した。
【0078】
実施例1.
(反応原料(1)の合成)
アニリンとホルムアルデヒドのモル比が4となるように、アニリン1304gに37重量%ホルムアルデヒド284gを常温にて滴下し、50℃で1時間撹拌した。放冷後、水相を分液し、減圧下で脱水することにより、N,N’−ジフェニルメチレンジアミンのアニリン溶液を1260g得た。このようにして、上記一般式(I)で示されるアミナール化合物を50重量%含有する反応原料(1)を得た。
【0079】
(水酸基含有化合物及び固体酸触媒存在下での芳香族ポリアミンの合成)
上記反応原料(1)9.5gに対して、非プロトン性極性溶媒としてピリジンを0.5g加えたものに、FAU型ゼオライト(東ソー社製、製品名:HSZ360HUA)0.5gを加え、窒素雰囲気下、140℃で2時間撹拌した。室温まで放冷し、触媒を除去した反応液をガスクロマト分析した結果、MDAの収率は80%、4,4’−MDAの選択率は86%であった。
【0080】
実施例2.
非プロトン性極性溶媒としてピリジンの代わりにN−メチルピロリドンを用いた以外は実施例1と同様にした。ガスクロマト分析の結果、MDAの収率は81%、4,4’−MDAの選択率は85%であった。
【0081】
実施例3.
非プロトン性極性溶媒としてピリジンの代わりにジメチルスルホキシドを用いた以外は実施例1と同様にした。ガスクロマト分析の結果、MDAの収率は81%、4,4’−MDAの選択率は86%であった。
【0082】
実施例4.
(反応原料(2)の合成)
アニリンとホルムアルデヒドのモル比が4となるように、アニリン1304gに37重量%ホルムアルデヒド284gを常温にて滴下し、50℃で1時間撹拌した。放冷後、水相を分液し、減圧下で脱水することにより、N,N’−ジフェニルメチレンジアミンのアニリン溶液を1260g得た。当該アニリン溶液はN,N’−ジフェニルメチレンジアミンを50重量%含有していた。
【0083】
このようにして得られたN,N’−ジフェニルメチレンジアミンのアニリン溶液に、シリカ−アルミナ触媒63gを添加し、90℃で4時間撹拌した。室温まで放冷し、シリカ−アルミナを除去した反応液をガスクロマトグラフ分析した結果、反応液中のN−(アミノベンジル)アニリンの収率は68%であり、N−(アミノベンジル)アニリン中のN−(p−アミノベンジル)アニリン選択率は94%であった。
【0084】
すなわち、上記一般式(I)で示されるアミナール化合物をシリカアルミナ触媒存在下に反応させ、当該アミナール化合物の68が%N−(アミノベンジル)アニリンへ転位した、反応原料(2)を得た。
【0085】
(非プロトン性極性溶媒及び固体酸触媒存在下での芳香族ポリアミンの合成)
上記反応原料(2)9.9gに対して、非プロトン性極性溶媒としてピリジンを0.1g加えたものに、FAU型ゼオライト(東ソー社製、製品名:HSZ360HUA)0.5gを加え、窒素雰囲気下、140℃で2時間撹拌した。室温まで放冷し、触媒を除去した反応液をガスクロマト分析した結果、MDAの収率は90%、4,4’−MDAの選択率は88%であった。
【0086】
実施例5.
反応原料(2)とピリジンの割合を反応原料9.5g、ピリジン0.5gとした以外は実施例4と同様にした。ガスクロマト分析の結果、MDAの収率は88%、4,4’−MDAの選択率は89%であった。
【0087】
実施例6.
反応原料(2)とピリジンの割合を反応原料9.0g、ピリジン1.0gとした以外は実施例4と同様にした。ガスクロマト分析の結果、MDAの収率は85%、4,4’−MDAの選択率は90%であった。
【0088】
実施例7.
非プロトン性極性溶媒としてピリジンの代わりにN−メチルピロリドンを用いた以外は実施例5と同様にした。ガスクロマト分析の結果、MDAの収率は89%、4,4’−MDAの選択率は89%であった。
【0089】
実施例8.
非プロトン性極性溶媒としてピリジンの代わりにジメチルスルホキシドを用いた以外は実施例5と同様にした。ガスクロマト分析の結果、MDAの収率は90%、4,4’−MDAの選択率は89%であった。
【0090】
比較例1.
非プロトン性極性溶媒を加えず、反応原料10.0gを用いた以外は実施例1と同様にした。ガスクロマト分析の結果、MDAの収率は80%、4,4’−MDAの選択率は75%であった。
【0091】
比較例2.
非プロトン性極性溶媒を加えず、反応原料10.0gを用いた以外は実施例4と同様にした。ガスクロマト分析の結果、MDAの収率は90%、4,4’−MDAの選択率は80%であった。
【0092】
実施例1〜8及び比較例1〜2の結果を表1にあわせて示す。なお、表1中の「添加量」は、反応液に対する非プロトン性極性溶媒の添加量(重量%)を表す。
【0093】
【表1】

この表によれば、上記一般式(I)で示されるアミナール化合物、上記一般式(II)で示される化合物、又はそれらの混合物を、非プロトン性極性溶媒及び固体酸触媒存在下で反応させることで、高効率で芳香族ポリアミンを製造するとともに、高選択率で4,4’−MDAを製造できることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明により製造された上記一般式(III)で示される芳香族ポリアミン誘導体は、例えば、ポリウレタンの原料として用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)
【化1】

(式中、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状若しくは分枝状のアルキル基、炭素数4〜10のシクロアルキル基、又は炭素数6〜12のアリール基を表す。)
で示されるアミナール化合物、下記一般式(II)
【化2】

(式中、Rは上記と同じ定義である。)
で示される化合物、又はそれらの混合物を、非プロトン性極性溶媒及び固体酸触媒存在下で反応させることを特徴とする下記一般式(III)
【化3】

(式中、Rは上記と同じ定義であり、nは1以上の整数を表す。)
で示される芳香族ポリアミンの製造方法。
【請求項2】
非プロトン性極性溶媒の25℃における比誘電率が、10以上120未満であることを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリアミンの製造方法。
【請求項3】
非プロトン性極性溶媒が、ピリジン、N−メチルピロリドン及びジメチルスルホキシドからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の芳香族ポリアミンの製造方法。
【請求項4】
反応液中の非プロトン性極性溶媒の存在量が、反応液に対して、1重量以上かつ10重量%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の芳香族ポリアミンの製造方法。
【請求項5】
固体酸触媒がゼオライトであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の芳香族ポリアミンの製造方法。
【請求項6】
ゼオライトが、FAU構造を有するゼオライト、EMT構造を有するゼオライト、MOR構造を有するゼオライト、BEA構造を有するゼオライト、及びMFI構造を有するゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも1種のゼオライトであることを特徴とする請求項5に記載の芳香族ポリアミンの製造方法。
【請求項7】
ゼオライトが、FAU構造を有するゼオライト、又はEMT構造を有するゼオライトであることを特徴とする請求項5に記載の芳香族ポリアミンの製造方法。

【公開番号】特開2013−95724(P2013−95724A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241494(P2011−241494)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】