説明

芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法

【課題】芳香族ポリカーボネート樹脂の着色、結晶化異物、ゲルを低減し、製造装置の洗浄後に回収されたフェノールを有効に利用する芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法を提供すること。
【解決手段】所定の反応器を備える製造装置により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する方法であって、製造装置の運転前及び/又は運転後に、製造装置の内部を芳香族モノヒドロキシ化合物により洗浄し、その後、製造装置に供給された芳香族モノヒドロキシ化合物の供給量の50%以上を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法に関し、より詳しくは、連続的な芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法として、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換反応により重縮合反応させる溶融法が知られている。溶融法では、生成する芳香族ポリカーボネート樹脂の着色を防ぐ方法として、芳香族モノヒドロキシ化合物含有液で洗浄処理したステンレス製のリアクターを用いる製造方法が報告されている(特許文献1参照)。
また、溶融重縮合反応停止後、反応液を抜き出し、24時間以内に芳香族モノヒドロキシ化合物や芳香族ジヒドロキシ化合物、炭酸ジエステル等を含む洗浄液で、反応槽等に残存した樹脂を溶解洗浄する方法が報告されている(特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−056984号公報
【特許文献2】特開2004−197004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、複数の反応器を直列に接続した製造装置を運転し、芳香族ポリカーボネート樹脂を製造した後、装置の洗浄処理を充分に行わないと、例えば、各反応器や配管、バルブ等のたまり部分に液溜まりが生じ、次回製造時にヤケ等の異物の原因となるという問題が生じる。
しかし、大型の製造装置の内部をフェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物を含む洗浄液で洗浄するためには大量の芳香族モノヒドロキシ化合物が必要とされる。そして、洗浄液として使用した芳香族モノヒドロキシ化合物を廃液として処理することにより、環境負荷を増大させるという問題が生じる。
【0005】
本発明は、ポリカーボネート樹脂の製造方法におけるこのような課題を解決するためになされたものである。
即ち、本発明の目的は、芳香族ポリカーボネート樹脂の着色、結晶化異物、ゲルを低減し、さらに、製造装置の洗浄後に回収された芳香族モノヒドロキシ化合物を有効に利用する芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かくして本発明によれば、所定の反応器を備えるポリカーボネート樹脂製造装置により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する方法であって、ポリカーボネート樹脂製造装置の運転前及び/又は運転後に、ポリカーボネート樹脂製造装置の内部を芳香族モノヒドロキシ化合物により洗浄し、その後、ポリカーボネート樹脂製造装置に供給された芳香族モノヒドロキシ化合物の供給量の50%以上を回収することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法が提供される。
【0007】
ここで、本発明が適用される芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法において、ポリカーボネート樹脂製造装置に供給された芳香族モノヒドロキシ化合物から、その供給量の50%〜95%を回収することが好ましい。
この場合、ポリカーボネート樹脂製造装置に供給された芳香族モノヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂製造装置より気化させることにより回収することが好ましい。
さらに、ポリカーボネート樹脂製造装置に供給された芳香族モノヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂製造装置に備え付けられた反応器の気相部から回収することが好ましい。
【0008】
また、本発明が適用される芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法において、芳香族ポリカーボネート樹脂がポリカーボネート樹脂製造装置により連続的に製造されることが好ましい。
さらに、ポリカーボネート樹脂製造装置が連続的に接続された複数の反応器を有し、ポリカーボネート樹脂製造装置を芳香族モノヒドロキシ化合物を用いて洗浄した後、複数の反応器の中、最後尾に接続された最終反応器にて芳香族モノヒドロキシ化合物を気化させ、最終反応器の気相部より芳香族モノヒドロキシ化合物を回収することが好ましい。
【0009】
次に、本発明によれば、所定の反応器を備えるポリカーボネート樹脂製造装置により芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料として芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する方法であって、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを原料として芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する芳香族ポリカーボネート樹脂製造工程並びに、芳香族モノヒドロキシ化合物及びアセトンを原料として芳香族ジヒドロキシ化合物を製造する芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程と、及び/又は、芳香族モノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を原料として炭酸ジエステルを製造する炭酸ジエステル製造工程と、を有し、ポリカーボネート樹脂製造装置の運転前及び/又は運転後に、ポリカーボネート樹脂製造装置の内部を芳香族モノヒドロキシ化合物により洗浄し、その後、ポリカーボネート樹脂製造装置に供給された芳香族モノヒドロキシ化合物を回収し、回収された芳香族モノヒドロキシ化合物を、芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程及び/又は炭酸ジエステル製造工程における原料として使用することを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法が提供される。
【0010】
ここで、ポリカーボネート樹脂製造装置において、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換反応触媒を用いて溶融重縮合を行い、溶融重縮合により副生する副生芳香族モノヒドロキシ化合物を所定の回収設備により回収し、回収された副生芳香族モノヒドロキシ化合物を芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程及び/又は炭酸ジエステル製造工程における原料として使用することが好ましい。
さらに、ポリカーボネート樹脂製造装置の内部を洗浄後回収された芳香族モノヒドロキシ化合物を、芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程及び/又は炭酸ジエステル製造工程における原料として使用することが好ましい。
【0011】
また、ポリカーボネート樹脂製造装置を洗浄するために供給される芳香族モノヒドロキシ化合物を、その供給量の50%〜95%を回収することが好ましい。
この場合、ポリカーボネート樹脂製造装置に供給された芳香族モノヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂製造装置より気化させることにより回収することが好ましい。
さらに、ポリカーボネート樹脂製造装置に供給された芳香族モノヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂製造装置に備え付けられた反応器の気相部から回収することが好ましい。
【0012】
また、芳香族ポリカーボネート樹脂がポリカーボネート樹脂製造装置にて連続的に製造されることが好ましい。
さらに、ポリカーボネート樹脂製造装置が連続的に接続された複数の反応器を有し、ポリカーボネート樹脂製造装置を芳香族モノヒドロキシ化合物を用いて洗浄した後、複数の反応器の中、最後尾に接続された最終反応器にて芳香族モノヒドロキシ化合物を気化させ、最終反応器の気相部より芳香族モノヒドロキシ化合物を回収することが好ましい。
【0013】
また、本発明が適用される芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法において、ポリカーボネート樹脂製造装置の内部を洗浄するために使用する芳香族モノヒドロキシ化合物がフェノールであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、芳香族ポリカーボネート樹脂の着色、結晶化異物、ゲルが低減し、さらに、製造装置の洗浄後に回収された芳香族モノヒドロキシ化合物を有効に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
本発明が適用される芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法において使用する「ポリカーボネート樹脂製造装置」とは、少なくとも、原調槽、反応器、真空装置、溜出配管並びにこれらを連結する配管を要素として備えている。また、必要に応じ、適宜、芳香族ポリカーボネート樹脂に添加剤を添加し混練を行う混練機、芳香族ポリカーボネート樹脂を造粒するための造粒装置等を備えていても良い。具体例として、後述する製造装置(図1参照)を一例として挙げ、説明する。尚、本発明において、前述した要素を満たす製造装置であれば、図1に示す製造装置に限定されるものではない。
【0016】
(芳香族ポリカーボネート)
本実施の形態における芳香族ポリカーボネートは、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応に基づく溶融重縮合により製造される。
以下、原料として芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを用い、エステル交換触媒の存在下、連続的に溶融重縮合反応を行うことにより、芳香族ポリカーボネートを製造する方法(溶融法)について説明する。
【0017】
(芳香族ジヒドロキシ化合物)
本実施の形態において使用する芳香族ジヒドロキシ化合物としては、下記一般式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0018】
【化1】

【0019】
ここで、一般式(1)において、Aは、単結合または置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状若しくは環状の2価の炭化水素基、又は、−O−、−S−、−CO−若しくは−SO2−で示される2価の基である。X及びYは、ハロゲン原子又は炭素数1〜6の炭化水素基である。p及びqは、0〜4の整数である。尚、XとY及びpとqは、それぞれ、同一でも相互に異なるものでもよい。
【0020】
芳香族ジヒドロキシ化合物の具体例としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシジフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビスフェノール類;4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル等のビフェノ−ル類;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。
これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」、以下、BPAと略記することがある。)が好ましい。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0021】
(炭酸ジエステル)
本実施の形態において使用する炭酸ジエステルとしては、下記一般式(2)で示される化合物が挙げられる。
【0022】
【化2】

【0023】
ここで、一般式(2)中、A’は、置換されていてもよい炭素数1〜10の直鎖状、分岐状又は環状の1価の炭化水素基である。2つのA’は、同一でも相互に異なるものでもよい。
なお、A’上の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜炭素数10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等が例示される。
【0024】
炭酸ジエステルの具体例としては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。
これらの中でも、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと略記することがある。)、置換ジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステルは、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
また、上記の炭酸ジエステルは、好ましくはその50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下の量を、ジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換してもよい。
代表的なジカルボン酸又はジカルボン酸エステルとしては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジフェニル、イソフタル酸ジフェニル等が挙げられる。このようなジカルボン酸又はジカルボン酸エステルで置換した場合には、ポリエステルカーボネートが得られる。
【0026】
これら炭酸ジエステル(上記の置換したジカルボン酸又はジカルボン酸エステルを含む。以下同じ。)は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して過剰に用いられる。
即ち、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常、炭酸ジエステル1.01〜1.30、好ましくは1.02〜1.20のモル比で用いられる。モル比が過度に小さいと、得られる芳香族ポリカーボネートの末端OH基が多くなり、樹脂の熱安定性が悪化する傾向となる。また、モル比が過度に大きいと、エステル交換の反応速度が低下し、所望の分子量を有する芳香族ポリカーボネートの生産が困難となる傾向となる他、樹脂中の炭酸ジエステルの残存量が多くなり、成形加工時や成形品としたときの臭気の原因となることがあり、好ましくない。
【0027】
(エステル交換触媒)
本実施の形態において使用するエステル交換触媒としては、通常、エステル交換法によりポリカーボネートを製造する際に用いられる触媒が挙げられ、特に限定されない。一般的には、例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物又はアミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。
これらのエステル交換触媒の中でも、実用的にはアルカリ金属化合物が望ましい。これらのエステル交換触媒は、単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
エステル交換触媒の使用量は、通常、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して1×10−9〜1×10−1モル、好ましくは1×10−7〜1×10−2モルの範囲で用いられる。
【0028】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素化合物等の無機アルカリ金属化合物;アルカリ金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等の有機アルカリ金属化合物等が挙げられる。ここで、アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が挙げられる。
これらのアルカリ金属化合物の中でも、セシウム化合物が好ましく、特に、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、水酸化セシウムが好ましい。
【0029】
アルカリ土類金属化合物としては、例えば、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩等の無機アルカリ土類金属化合物;アルカリ土類金属のアルコール類、フェノール類、有機カルボン酸類との塩等が挙げられる。ここで、アルカリ土類金属としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられる。
【0030】
塩基性ホウ素化合物としては、ホウ素化合物のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、ストロンチウム塩等が挙げられる。ここで、ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等が挙げられる。
【0031】
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の3価のリン化合物、又はこれらの化合物から誘導される4級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0032】
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0033】
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0034】
(芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程)
次に、本実施の形態において、芳香族ポリカーボネート樹脂の原料として使用する芳香族ジヒドロキシ化合物の製造工程について説明する。
【0035】
(芳香族ジヒドロキシ化合物合成工程)
本実施の形態で使用する芳香族ジヒドロキシ化合物は、フェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物とアセトン等のカルボニル化合物とを、酸性触媒の存在下で、縮合反応させることにより合成される。
以下、具体例として、フェノールとアセトンからビスフェノールAを合成する工程を例にとって説明する。フェノール(PL)とアセトン(A)とのモル比(PL/A)は、通常、3〜30、好ましくは、5〜20の範囲である。反応温度は、通常30℃〜100℃、好ましくは50℃〜90℃、反応圧力は、一般に常圧〜5kg/cm・Gで行われる。
【0036】
ビスフェノールAの合成に使用される酸性触媒としては、塩酸等の無機酸や有機酸、イオン交換樹脂等を用いることができる。イオン交換樹脂としては、架橋度が1〜8%、好ましくは2〜6%のスルホン酸型陽イオン交換樹脂が挙げられる。
スルホン酸陽イオン交換樹脂は、そのままでも用いられるが、必要に応じて、メルカプト基を有する化合物により変性させたスルホン酸陽イオン交換樹脂を用いることができる。
このようなメルカプト基を有する化合物としては、2−アミノエタンチオール等のアミノアルカンチオール;2−(4−ピリジル)エタンチオール等のω−ピリジルアルカンチオール;加水分解等により容易にメルカプト基を発現する2,2−ジメチルチアゾリジン等のチアゾリジン類等が挙げられる。
【0037】
上述したフェノールとアセトンとを原料とする縮合反応により生成する反応混合物中には、一般に、合成されたビスフェノールAの他に、未反応フェノール、未反応アセトン、触媒、反応生成水及び着色物質等の副生物が含まれる。
このため、ビスフェノールAは、上述したビスフェノールA合成工程の後、低沸除去工程、晶析・分離工程、加熱溶融工程、フェノール除去工程、造粒工程を経由して製造される。
【0038】
(低沸除去工程)
低沸除去工程では、ビスフェノールA合成工程で得られる反応混合液から、反応生成水、未反応アセトン及びこれらと沸点が近いもの等の低沸点成分と、塩酸等の触媒とが除去される。低沸点成分は反応混合物から減圧蒸留等により除去される。触媒等の固体成分は濾過等によって除かれる。減圧蒸留は圧力50mmHg〜300mmHg、温度70℃〜130℃の範囲を用いるのが好ましい。尚、未反応フェノールが共沸してその一部が系外へ除かれることもある。
【0039】
(晶析・分離工程)
晶析・分離工程では、前述の低沸除去工程で処理された反応混合液を冷却することにより、ビスフェノールAとフェノールとの混合物が析出し、分離される。混合物には、ビスフェノールAとフェノールとの付加物結晶、ビスフェノールAとフェノールとの単純混合物が含まれる。
冷却操作は、外部熱交換器や晶析機に加えられる水の蒸発潜熱による除熱により、通常、45℃〜60℃の温度で行われる。冷却操作によって系はスラリー状の液になり、これを濾過、遠心分離等により結晶と反応副生物を含む母液とに分離する。結晶は次工程に供給され、母液の一部又は全部は、前述したビスフェノールA合成工程にリサイクルして、原料として使用されるフェノールの一部又は全部として用いられる。
【0040】
(加熱溶融工程)
加熱溶融工程では、晶析・分離工程で分離された結晶が、100℃〜160℃に加熱されることにより溶融して次工程に供給される。尚、結晶の組成は、通常、ビスフェノールA45重量%〜70重量%、フェノール55重量%〜30重量%の範囲である。
【0041】
(芳香族モノヒドロキシ化合物除去工程)
芳香族モノヒドロキシ化合物除去工程では、加熱溶融工程で得られた溶融液から、減圧蒸留等の方法により、フェノール等が除去され、溶融ビスフェノールAが得られる。減圧蒸留は、通常、圧力10mmHg〜100mmHg、温度150℃〜220℃の範囲で行われる。尚、減圧蒸留に加えてスチームストリッピングを行い、残存するフェノール等を除去することもできる。
【0042】
(造粒工程)
造粒工程では、前工程で得られた溶融状態の高濃度ビスフェノールAが冷却・固化され、造粒されて粒状の製品が得られる。ここでは、溶融状態のビスフェノールAは、スプレードライヤー等の造粒装置により液滴にされ、冷却固化されて製品となる。この液滴は、噴霧、滴下、散布等により調製され、冷却は通常窒素あるいは空気等によって行われる。
【0043】
(炭酸ジエステル製造工程)
次に、炭酸ジエステルの製造工程について説明する。
本実施の形態で使用する炭酸ジエステルは、フェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を原料として触媒の存在下の合成反応により製造される。
カルボニル化合物としては、炭酸ジエステルのカルボニル基を形成するものであれば特に限定されず、例えば、塩化カルボニル(ホスゲン)、一酸化炭素、二酸化炭素、炭酸ジアルキル、シュウ酸ジアルキル等が挙げられる。中でも塩化カルボニル(ホスゲン)が好ましい。
また、触媒としては、種々の公知の触媒を用いることが出来るが、特にピリジンが好ましい。
【0044】
合成反応の条件は特に限定されないが、芳香族モノヒドロキシ化合物としてフェノールを使用する場合は、常圧下でフェノールが溶融状態にある50℃〜180℃が好ましい。また、芳香族モノヒドロキシ化合物とカルボニル化合物との混合比(モル比)は、芳香族モノヒドロキシ化合物1モルに対して、通常、カルボニル化合物0.40モル〜0.49モルが好ましい。
本実施の形態で使用する炭酸ジエステルは、上述したように芳香族モノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を原料として触媒存在下の合成反応が行われる反応工程後、反応液を脱塩酸処理及び除去しきれない塩酸をアルカリ性水溶液により中和処理して水洗する洗浄工程と、さらに、蒸留工程を経て製造される。
【0045】
(芳香族ポリカーボネートの製造方法)
次に、芳香族ポリカーボネートの製造方法について説明する。
芳香族ポリカーボネートの製造方法は、原料である芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステル化合物の原料混合溶融液を調製し(原調工程)、これらの化合物を、エステル交換反応触媒の存在下、溶融状態で複数の反応器を用いて多段階で重縮合反応をさせる(重縮合工程)ことによって行われる。反応方式は、バッチ式、連続式、又はバッチ式と連続式の組合せのいずれでもよい。反応器は、複数基の竪型撹拌反応器及びこれに続く少なくとも1基の横型撹拌反応器が用いられる。通常、これらの反応器は直列に設置され、連続的に処理が行われる。
重縮合工程後、反応を停止させ、重縮合反応液中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去する工程や、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程、芳香族ポリカーボネートを所定の粒径のペレットに形成する工程等を適宜追加してもよい。
次に、製造方法の各工程について説明する。
【0046】
(原調工程)
芳香族ポリカーボネートの原料として使用する芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとは、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、バッチ式、半回分式または連続式の撹拌槽型の装置を用いて、原料混合溶融液として調製される。溶融混合の温度は、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールAを用い、炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートを用いる場合は、通常20℃〜180℃、好ましくは125℃〜160℃の範囲から選択される。
以下、芳香族ジヒドロキシ化合物としてビスフェノールA、炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートを原料として用いる場合を例として説明する。
この際、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの割合は、炭酸ジエステルが過剰になるように調整され、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対して、炭酸ジエステルは通常1.01モル〜1.30モル、好ましくは1.02モル〜1.20モルの割合になるように調整される。
【0047】
(重縮合工程)
芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物とのエステル交換反応による重縮合は、通常、2段階以上、好ましくは3段階〜7段階の多段方式で連続的に行われる。各槽の具体的な反応条件としては、温度:150℃〜320℃、圧力:常圧〜0.01Torr(1.3Pa)、平均滞留時間:5分〜150分の範囲である。
多段方式の各反応器においては、重縮合反応の進行とともに副生するフェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物をより効果的に系外に除去するために、上記の反応条件内で、段階的により高温、より高真空に設定する。尚、得られる芳香族ポリカーボネートの色相等の品質低下を防止するためには、できるだけ低温、短滞留時間の設定が好ましい。
【0048】
重縮合工程を多段方式で行う場合は、通常、竪型撹拌反応器を含む複数基の反応器を設けて、ポリカーボネート樹脂の平均分子量を増大させる。反応器は通常3基〜6基、好ましくは4基〜5基設置される。
ここで、反応器としては、例えば、撹拌槽型反応器、薄膜反応器、遠心式薄膜蒸発反応器、表面更新型二軸混練反応器、二軸横型撹拌反応器、濡れ壁式反応器、自由落下させながら重縮合する多孔板型反応器、ワイヤーに沿わせて落下させながら重縮合するワイヤー付き多孔板型反応器等が用いられる。
【0049】
竪型撹拌反応器の撹拌翼の形式としては、例えば、タービン翼、パドル翼、ファウドラー翼、アンカー翼、フルゾーン翼(神鋼パンテック(株)製)、サンメラー翼(三菱重工業(株)製)、マックスブレンド翼(住友重機械工業(株)製)、ヘリカルリボン翼、ねじり格子翼(日立製作所(株)製)等が挙げられる。
【0050】
また、横型撹拌反応器とは、撹拌翼の回転軸が横型(水平方向)であるものをいう。横型撹拌反応器の撹拌翼としては、例えば、円板型、パドル型等の一軸タイプの撹拌翼やHVR、SCR、N−SCR(三菱重工業(株)製)、バイボラック(住友重機械工業(株)製)、あるいはメガネ翼、格子翼(日立製作所(株)製)等の二軸タイプの撹拌翼が挙げられる。
【0051】
尚、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル化合物との重縮合に使用するエステル交換触媒は、通常、予め水溶液として準備される。触媒水溶液の濃度は特に限定されず、触媒の水に対する溶解度に応じて任意の濃度に調整される。また、水に代えて、アセトン、アルコール、トルエン、フェノール等の他の溶媒を選択することもできる。
触媒の溶解に使用する水の性状は、含有される不純物の種類ならびに濃度が一定であれば特に限定されないが、通常、蒸留水や脱イオン水等が好ましく用いられる。
【0052】
(製造装置)
次に、図面に基づき、本実施の形態が適用される芳香族ポリカーボネートの製造方法の一例を具体的に説明する。
図1は、芳香族ポリカーボネートの製造装置の一例を示す図である。図1に示す製造装置において、芳香族ポリカーボネートは、原料の芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステル化合物を調製する原調工程と、これらの原料を溶融状態で複数の反応器を用いて重縮合反応させる重縮合工程とを経て製造される。
その後、反応を停止させ、重縮合反応液中の未反応原料や反応副生物を脱揮除去する工程(図示せず)や、熱安定剤、離型剤、色剤等を添加する工程(図示せず)、芳香族ポリカーボネートを所定の粒径のペレットに形成する工程(図示せず)を経て、芳香族ポリカーボネートのペレットが成形される。
【0053】
原調工程においては、原料混合槽2aと、調製した原料を重縮合工程に供給するための原料供給ポンプ4aとが設けられている。原料混合槽2aには、アンカー型撹拌翼3aがそれぞれ設けられている。
また、原料混合槽2aには、DPC供給口1a−1から、例えば炭酸ジエステルであるジフェニルカーボネート(DPC)が溶融状態で供給され、BPA供給口1bからは、例えば芳香族ジヒドロキシ化合物であるビスフェノールA(BPA)が粉末状態で供給され、溶融したジフェニルカーボネートにビスフェノールAが溶解する。
【0054】
次に、重縮合工程においては、直列に接続した第1竪型撹拌反応器6a、第2竪型撹拌反応器6b、第3竪型撹拌反応器6c及び第4竪型撹拌反応器6dと、第4竪型撹拌反応器6dの後段に直列に接続した第5横型撹拌反応器9aとが設けられている。第1竪型撹拌反応器6a、第2竪型撹拌反応器6b及び第3竪型撹拌反応器6cには、マックスブレンド翼7a,7b,7cがそれぞれ設けられている。第4竪型撹拌反応器6dにはヘリカルリボン翼7dが設けられている。また、第5横型撹拌反応器9aには、撹拌翼10aが設けられている。
【0055】
尚、5基の反応器には、それぞれ重縮合反応により生成する副生物等を排出するための溜出管8a,8b,8c,8d,8eが取り付けられている。溜出管8a,8b,8c,8d,8eは、それぞれ凝縮器81a,81b,81c,81d,81eに接続し、また、各反応器は、減圧装置82a,82b,82c,82d,82eにより、所定の減圧状態に保たれる。
【0056】
図1に示す芳香族ポリカーボネートの製造装置において、窒素ガス雰囲気下、所定の温度で調製されたDPC溶融液と、窒素ガス雰囲気下計量されたBPA粉末とが、それぞれDPC供給口1a−1とBPA供給口1bから原料混合槽2aに連続的に供給される。
次に、原料混合溶融液は、原料供給ポンプ4aを経由して第1竪型撹拌反応器6aに連続的に供給される。また触媒として、水溶液状の炭酸セシウムが、原料混合溶融液の移送配管途中の触媒供給口5aから連続的に供給される。
【0057】
第1竪型撹拌反応器6aでは、窒素雰囲気下、例えば、温度220℃、圧力13.33kPa(100Torr)、マックスブレンド翼7aの回転数を160rpmに保持し、副生したフェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物を溜出管8aから溜出させながら平均滞留時間が60分になるように液面レベルを一定に保ち、重縮合反応が行われる。
次に、第1竪型撹拌反応器6aより排出された重縮合反応液は、引き続き、第2竪型撹拌反応器6b、第3竪型撹拌反応器6c、第4竪型撹拌反応器6d、第5横型撹拌反応器9aに順次連続供給され、重縮合反応が進行する。各反応器における反応条件は、重縮合反応の進行とともに高温、高真空、低撹拌速度となるようにそれぞれ設定される。重縮合反応の間、各反応器における平均滞留時間は、例えば、60分程度になるように液面レベルを制御し、また各反応器においては、副生するフェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物が溜出管8b,8c,8d,8eから溜出される。
【0058】
尚、本実施の形態においては、第1竪型撹拌反応器6aと第2竪型撹拌反応器6bとにそれぞれ取り付けられた凝縮器81a,81bからは、フェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物等の副生物が連続的に液化回収される。また、第3竪型撹拌反応器6c、第4竪型撹拌反応器6dと第5横型撹拌反応器9aとにそれぞれ取り付けられた凝縮器81c,81d,81eにはコールドトラップ(図示せず)が設けられ、副生物が連続的に液化回収される。
【0059】
(連続製造装置における溶融重縮合の開始)
本実施の形態では、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応に基づく溶融重縮合は、以下の手順に従い開始されることが好ましい。
先ず、図1に示す連続製造装置において、直列に接続された5基の反応器(第1竪型撹拌反応器6a、第2竪型撹拌反応器6b、第3竪型撹拌反応器6c、第4竪型撹拌反応器6d、第5横型撹拌反応器9a)を、予め、エステル交換反応に基づく溶融重縮合に応じた内温と真空度とに、それぞれ設定する。
ここで、各反応器の内温と真空度とは、特に限定されないが、通常、以下の通りである。
(第1竪型撹拌反応器6a)
内温:200℃〜250℃、真空度:常圧〜13.3kPa
(第2竪型撹拌反応器6b)
内温:200℃〜250℃、真空度:70kPa〜10kPa
(第3竪型撹拌反応器6c)
内温:240℃〜320℃、真空度:10kPa〜0.1kPa
(第4竪型撹拌反応器6d)
内温:240℃〜320℃、真空度:1000Pa〜1Pa
(第5横型撹拌反応器9a)
内温:240℃〜320℃、真空度:500Pa〜1Pa
【0060】
次に、別途、原料混合槽2aにて窒素ガス雰囲気下、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、所定のモル比で混合し、原料混合溶融液を得る。
続いて、前述した5基の反応器の内温と真空度が、それぞれの設定値の−5%〜+5%の範囲内に達した後に、別途、原料混合槽2aで調製した原料混合溶融液を、第1竪型撹拌反応器6a内に連続供給する。また、原料混合溶融液の供給開始と同時に、第1竪型撹拌反応器6a内に触媒供給口5aから触媒を連続供給し、エステル交換反応に基づく溶融重縮合を開始する。
【0061】
溶融重縮合が行われる第1竪型撹拌反応器6aでは、重縮合反応液の液面レベルは、所定の平均滞留時間になるように一定に保たれる。第1竪型撹拌反応器6a内の液面レベルを一定に保つ方法としては、通常、槽底部のポリマー排出ラインに設けたバルブ(図示せず)の開度を制御する方法が挙げられる。
ここで、第1竪型撹拌反応器6aにおける平均滞留時間は、特に限定されないが、通常、30分〜120分である。
【0062】
続いて、重縮合反応液は、第1竪型撹拌反応器6aの槽底から排出され、引き続き第2竪型撹拌反応器6b、第3竪型撹拌反応器6c、第4竪型撹拌反応器6d、第5横型撹拌反応器9aに、逐次、連続供給される。
溶融重縮合反応の間、各反応器における液面レベルは、所定の平均滞留時間になるように制御される。ここで、各反応器における平均滞留時間は、特に限定されないが、通常、30分〜120分である。
尚、各反応器において溶融重縮合反応と同時に副生するフェノール等の芳香族モノヒドロキシ化合物は、各反応器に取り付けられた溜出管(8a,8b,8c,8d,8e)により系外に溜去される。
【0063】
このように、本実施の形態では、図1に示す連続製造装置において、5基の反応器の内温と圧力が所定の数値に達した後に、原料混合溶融液と触媒とが連続供給され、エステル交換反応に基づく溶融重縮合が開始される。
このため、各反応器における重縮合反応液の平均滞留時間は、溶融重縮合の開始直後から定常運転時と同等となる。その結果、重縮合反応液は必要以上に熱履歴を受けることがなく、得られる芳香族ポリカーボネート樹脂中に生じる結晶化異物、ゲルまたはヤケ等の異物が低減する。
【0064】
(連続製造装置における溶融重縮合の停止と装置の洗浄)
次に、本実施の形態では、溶融重縮合による連続的な芳香族ポリカーボネート樹脂の製造は、以下の手順に従い停止されることが好ましい。
先ず、図1に示す連続製造装置により、所定の粘度平均分子量(Mv)を有する芳香族ポリカーボネート樹脂の製造運転を所定の時間(t)行った後、引き続き、前述の粘度平均分子量(Mv)より低い粘度平均分子量(Mv)を有する芳香族ポリカーボネート樹脂の製造を一定時間(t)行い、その後、原料混合溶融液及び触媒の供給を停止し、製造運転を停止する。
ここで、前段の連続製造運転で製造される芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、特に制限されないが、通常、15,000〜40,000である。また、後段の製造運転で製造される芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、通常、10,000〜20,000であることが好ましい。このような後段の芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する運転時間(t)は、通常、全反応器の滞留時間の合計(θ)と同等以上、好ましくは4θ以上である。
【0065】
溶融重縮合による連続的な芳香族ポリカーボネート樹脂の製造を停止する前に、後段の製造運転において低い粘度平均分子量(Mv)を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する方法としては、特に限定されないが、通常、原料混合溶融液における炭酸ジエステルのモル比を、前段の連続運転の場合と比較して増大させる方法が採用される。
【0066】
このように、本実施の形態では、後段の製造運転において低い粘度平均分子量(Mv)を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を製造することにより、連続運転停止後、後述するように製造装置から重縮合反応液を短時間で排出することが可能となる。
また、低い粘度平均分子量(Mv)を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を含む重縮合反応液を排出する際に、製造装置系内の高分子量成分が洗い流され、後工程の洗浄効率を高めることができる。さらに、洗浄効率が高まることにより配管等のたまり部分の残存樹脂が低減し、再起動時に、ヤケ等の異物の発生を防ぐことができる。
【0067】
(製造装置の洗浄)
続いて、本実施の形態において、図1に示す製造装置の洗浄操作について説明する。
本実施の形態では、図1に示す製造装置による製造運転停止後、先ず、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルの溶融混合物により洗浄され、続いて、芳香族モノヒドロキシ化合物により洗浄されることが好ましい。
図1に示す製造装置において、原料混合溶融液及び触媒の供給を停止した後、5基の反応器を直列に接続したまま、第5横型撹拌反応器9aの槽底部のパージバルブ(図示せず)を開放して、重縮合反応液の排出を開始する。第5横型撹拌反応器9aの槽底部から重縮合反応液の排出が開始されることにより、第1竪型撹拌反応器6a〜第4竪型撹拌反応器6d内に残存する重縮合反応液は、順次、第5横型撹拌反応器9a内に送液され、最後に第5横型撹拌反応器9a内の重縮合反応液を排出して、製造装置内の重縮合反応液を全て排出する。
【0068】
このように、本実施の形態では、製造運転停止後、5基の反応器内の重縮合反応液は、それぞれの反応器の槽底部から排出されずに、第1竪型撹拌反応器6aから第5横型撹拌反応器9aに順次送液され、最後に第5横型撹拌反応器9aから排出される。
これにより、各反応器に重縮合反応液を排出するためのパージバルブをそれぞれ設ける必要がなく、パージバルブ数を減らすことが可能となる。その結果、パージバルブにて液溜まりが生じることによる、樹脂の劣化やそれに伴う異物の形成を抑止することが可能である。
【0069】
続いて、各反応器の圧力を復圧し、各反応器を結合する移送管のバルブ(図示せず)を閉止する。次に、製造装置を洗浄する洗浄液として、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルの溶融混合物である原料混合溶融液を、原料混合槽2aから第1竪型撹拌反応器6aに供給する。このとき、第1竪型撹拌反応器6aに供給する原料混合溶融液の供給量は、特に限定されないが、通常、定常運転時に供給される量以下である。
【0070】
次いで、第1竪型撹拌反応器6aに供給された原料混合溶融液は、所定時間、第1竪型撹拌反応器6a内で撹拌される。第1竪型撹拌反応器6a内で原料混合溶融液が撹拌される時間は、特に限定されないが、通常、0.5時間〜12時間である。
その後、第1竪型撹拌反応器6aと第2竪型撹拌反応器6bとの移送管のバルブ(図示せず)を開放し、第1竪型撹拌反応器6a内の原料混合溶融液が第2竪型撹拌反応器6bに移送され、さらに、所定時間、第2竪型撹拌反応器6b内で撹拌される。
続いて、原料混合溶融液は、第2竪型撹拌反応器6bから第3竪型撹拌反応器6c、第4竪型撹拌反応器6d、第5横型撹拌反応器9aと順次移送され、それぞれの反応器において同様な操作が行われた後、最後に、第5横型撹拌反応器9aのパージバルブ(図示せず)より排出される。
【0071】
(芳香族モノヒドロキシ化合物による製造装置の洗浄)
次に、各反応器の内温を調整し、各反応器を結合する移送管のバルブ(図示せず)を再度閉止する。内温は、特に限定されないが、通常、150℃〜200℃である。
続いて、製造装置を洗浄する洗浄液として、例えば芳香族モノヒドロキシ化合物であるフェノールを第1竪型撹拌反応器6aに供給し、微減圧にて所定時間撹拌する。
以下、フェノールを使用する場合を例として説明する。このとき、第1竪型撹拌反応器6aに供給するフェノールの供給量は、特に限定されないが、通常、定常運転時に供給される原調液の量の0.1倍〜1.5倍程度である。また、第1竪型撹拌反応器6aの圧力は、通常、101.3kPa〜33.3kPaである。さらに、第1竪型撹拌反応器6a内でフェノールが撹拌される時間は、特に限定されないが、通常、0.5時間〜24時間である。
【0072】
次いで、第1竪型撹拌反応器6aと第2竪型撹拌反応器6bとの移送管のバルブ(図示せず)を開放し、第1竪型撹拌反応器6a内のフェノールが第2竪型撹拌反応器6bに移送され、さらに、所定時間、第2竪型撹拌反応器6b内で撹拌される。
続いて、フェノールは、第2竪型撹拌反応器6bから第3竪型撹拌反応器6c、第4竪型撹拌反応器6d、第5横型撹拌反応器9aに順次移送され、それぞれの反応器において同様な操作が行われた後、第5横型撹拌反応器9aの気相部から溜出される。
【0073】
本実施の形態において、第5横型撹拌反応器9aの気相部からフェノールを回収する操作としては、減圧装置82eにより第5横型撹拌反応器9a内を所定の減圧状態に保ち、製造装置に供給されたフェノールの50%以上、好ましくは50%〜95%を、溜出管8eを介して溜出させる。尚、残渣は、第5横型撹拌反応器9aのパージバルブ(図示せず)よりフェノール廃液として排出される。
【0074】
ここで、製造装置の洗浄に用いたフェノールを回収する際に、製造装置に供給された洗浄用フェノールの100%を回収せずに、一部を反応器内に残し、これを廃液として排出することが好ましい。反応器内に洗浄用フェノールの一部を残留させることにより、残存している芳香族ポリカーボネート樹脂が解重合され、オリゴマーやBPA、DPC等とともに洗浄用フェノールにより洗浄することができる。
【0075】
このように、本実施の形態では、製造運転停止後、製造装置内は、先ず、原料モノマーである芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルの溶融混合物により洗浄される。これにより、製造装置内に残存するポリマーの解重合が促進され、原料モノマーの溶融混合物を排出することにより、残存するポリマーの略全部を取り除くことができる。
さらに、その後行われるフェノールによる洗浄では、フェノール使用量の低減が可能であり、また、洗浄時間を短縮することが可能である。
【0076】
尚、本実施の形態では、製造運転停止後に製造装置内を芳香族モノヒドロキシ化合物であるフェノールを用いて洗浄する操作について説明したが、製造運転前にも、製造装置内をフェノールを用いて洗浄することも可能である。この場合は、前述した通り、洗浄用フェノールは、第5横型撹拌反応器9aの気相部から、製造装置に供給に移送されたフェノールの50%以上、好ましくは50%〜95%を、溜出管8eを介して溜出させる。
【0077】
また、本実施の形態では、図1に示す複数の反応器を備える連続製造装置により芳香族ポリカーボネート樹脂を連続的に製造する際、上述した手順に従い、定常運転後、所定時間行われる後段の製造運転において、定常運転で製造される芳香族ポリカーボネート樹脂と比較して低い粘度平均分子量(Mv)を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を製造し、連続運転停止後、重縮合反応液を排出した反応器内を芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルの溶融混合物により洗浄し、続いて、芳香族モノヒドロキシ化合物により洗浄し、次いで、同じ製造装置を再始動させる際に、前述した手順に従って、複数の反応器の内温及び圧力を定常運転時の所定値に設定し、これらの反応器の内温及び圧力が所定値に達した後に、反応器中に原料混合溶融液と触媒とを連続供給し、エステル交換反応に基づく溶融重縮合を開始させることが好ましい。
【0078】
本実施の形態では、図1に示す製造装置の洗浄に用いられ、回収された洗浄回収フェノールは、前述した芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程、炭酸ジエステル製造工程に移送され、これらの製造工程における原料として使用される。
図2は、洗浄回収フェノールが芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程、炭酸ジエステル製造工程に送られるフローを説明する工程図である。
【0079】
図2に示すように、芳香族ポリカーボネート樹脂(PC)は、芳香族ジヒドロキシ化合物であるビスフェノールA(BPA)と、炭酸ジエステルであるジフェニルカーボネート(DPC)とを原料とするエステル交換反応により溶液重縮合(溶融PC工程)して製造される。尚、溶融PC工程において留去されたフェノール(副生PhOH)は、熱交換器やコンデンサを有する所定の回収設備(図示せず)により液化されて回収され、後述するように、芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程、炭酸ジエステル製造工程に送られ、再利用される。
【0080】
ここで、前述したように、ビスフェノールA(BPA)は、芳香族モノヒドロキシ化合物であるフェノール(PhOH)とアセトンとを原料とし、酸性触媒の存在下で縮合反応させる芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程(BPA工程)により製造される。尚、BPA工程において生成した反応生成水(副生HO)は、別途処理される。
【0081】
また、ジフェニルカーボネート(DPC)は、芳香族モノヒドロキシ化合物であるフェノール(PhOH)とカルボニル化合物である塩化カルボニル(COCl)を原料として触媒の存在下で反応させる炭酸ジエステル製造工程(DPC工程)により製造される。ここで、塩化カルボニル(COCl)は、一酸化炭素(CO)と塩素(Cl)とから合成される。尚、DPC工程において生じた塩酸ガス(副生HCl)は、回収ライン13を経て回収・再処理されることにより塩素(Cl)に戻し、再び、塩化カルボニル(COCl)の原料として再利用される。
【0082】
図2に示すように、BPAとDPCとを原料とする溶融PC工程によるPCの製造運転終了後、製造装置の洗浄に使用された洗浄用フェノールは、製造装置に供給された供給量の50%以上が洗浄回収フェノール(洗浄回収PhOH)として回収される。そして、洗浄回収PhOHは、その後、BPA工程及び/又はDPC工程に送られ(ライン11,12)、それぞれの製造工程における原料フェノールとして再利用される。
ここで、洗浄回収PhOHは、前述した溶融PC工程で留去された副生PhOHが回収される所定の回収設備(図示せず)に供給されることが好ましい。この場合、洗浄回収PhOHは、副生PhOHの回収設備に回収後、副生PhOHとともに蒸留処理され、BPA工程及び/又はDPC工程に送られ、原料として再利用される。
【実施例】
【0083】
次に、実施例に基き本発明をより具体的に説明する。尚、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。尚、実施例、比較例において得られた芳香族ポリカーボネートは下記測定方法により分析した。
【0084】
(1)粘度平均分子量(Mv)
芳香族ポリカーボネートの塩化メチレン溶液(濃度(C)0.6g/dl)を調製し、ウベローデ粘度計を用いて、この溶液の温度20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp
[η]=1.23×10−4Mv0.83
【0085】
(実施例1)
前述した図1に示すように、4基の竪型撹拌反応器と1基の横型撹拌反応器とを有する連続製造装置により、以下の条件で芳香族ポリカーボネートを製造した。
先ず、以下のように、各反応器を、予め反応条件に応じた内温・真空度に設定した。
(第1竪型撹拌反応器6a):220℃、常圧
(第2竪型撹拌反応器6b):220℃、13.3kPa
(第3竪型撹拌反応器6c):240℃、2kPa
(第4竪型撹拌反応器6d):270℃、67Pa
(第5横型撹拌反応器9a):290℃、67Pa
【0086】
次に、別途、原調工程にて窒素ガス雰囲気下、ビスフェノールA(BPA)とジフェニルカーボネート(DPC)とを、一定のモル比(DPC/BPA=1.040)で混合し、140℃に加熱して、原料混合溶融液を得た。
続いて、この原料混合溶融液を、140℃に加熱した原料導入管を介して、前述した所定温度・真空度の±5%の範囲内に制御した第1竪型撹拌反応器6a内に連続供給し、平均滞留時間が60分になるように、槽底部のポリマー排出ラインに設けたバルブ(図示せず)の開度を制御しつつ、液面レベルを一定に保った。
また、上記原料混合溶融液の供給開始と同時に、第1竪型撹拌反応器6a内に触媒供給口5aから触媒として炭酸セシウム水溶液を、ビスフェノールA1モルに対し、0.35μモルの割合で連続供給した。
【0087】
第1竪型撹拌反応器6aの槽底から排出された重縮合反応液は、引き続き、第2竪型撹拌反応器6b、第3竪型撹拌反応器6c、第4竪型撹拌反応器6d、第5横型撹拌反応器9aに、逐次、連続供給された。
重縮合反応の間、各反応器の平均滞留時間が60分になるように液面レベルを制御し、また、重縮合反応と同時に副生するフェノールの溜去を行った。芳香族ポリカーボネートの製造レートは、50kg/Hrである。こうして得られた芳香族ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)は25,000であった。
【0088】
上述した製造条件で芳香族ポリカーボネートの製造運転を100時間行った後、BPAとDPCとのモル比をDPC/BPA=1.060に変更し、さらに、第4竪型撹拌反応器6dの内温を260℃、第5横型撹拌反応器9aの内温を265℃に変更し、さらに24時間の製造運転を行い、粘度平均分子量(Mv)15,000の芳香族ポリカーボネートを製造した後、原料混合溶融液・触媒の供給を停止した。
【0089】
製造運転停止後、5基の反応器を直列に接続したまま第5横型撹拌反応器9aの槽底部のパージバルブ(図示せず)を開放して、重縮合反応液の排出を開始した。第1竪型撹拌反応器6a〜第4竪型撹拌反応器6d内に残存する重縮合反応液は、順次、第5横型撹拌反応器9a内に送液され、最後に第5横型撹拌反応器9a内の重縮合反応液を排出して、製造装置内の重縮合反応液を全て排出した。
【0090】
続いて、各反応器の圧力を復圧し、各反応器を結合する移送管のバルブ(図示せず)を閉止した。次に、反応器を洗浄するために、原料混合槽2aから原料混合溶融液20kgを第1竪型撹拌反応器6aに供給した。
そして、第1竪型撹拌反応器6aにて原料混合溶融液を2時間撹拌後、第1竪型撹拌反応器6a内の原料混合溶融液を第2竪型撹拌反応器6bに移送して2時間撹拌した。
その後、引き続き、第3竪型撹拌反応器6c、第4竪型撹拌反応器6d、第5横型撹拌反応器9aと順次同様の操作を行い、最後に、第5横型撹拌反応器9aのパージバルブ(図示せず)より原料混合溶融液を排出した。
【0091】
次に、各反応器の温度を180℃とし、第1竪型撹拌反応器6aに洗浄液としてフェノール60kgを供給し、微減圧にて5時間撹拌後、フェノールを第2竪型撹拌反応器6bに移送した。続いて、引き続き、第3竪型撹拌反応器6c→第4竪型撹拌反応器6dと順次同様の操作を行って各反応器を洗浄し、最後に第5横型撹拌反応器9aにフェノールを移送し、同様に、微減圧にて5時間撹拌した。
次に、減圧装置82eにより第5横型撹拌反応器9a内を所定の減圧状態に保ち、第5横型撹拌反応器9aに移送されたフェノールの90%を溜出管8eを介して溜出させ、凝縮器81eに回収した。尚、残渣は、第5横型撹拌反応器9aのパージバルブ(図示せず)より排出した。
【0092】
こうして、各反応器を洗浄した後、第5横型撹拌反応器9aの気相部から溜出させて回収したフェノールを、BPAとDPCとのエステル交換反応の際に各反応器から溜出させた副生フェノールを貯蔵するタンクに移送した。続いて、回収したフェノールと副生したフェノールとの混合物を蒸留し、蒸留したフェノールをジフェニルカーボネートの原料として、ジフェニルカーボネート製造工程に供給した。
【0093】
ジフェニルカーボネート製造工程においては、このような反応器の洗浄に使用後、回収・蒸留したフェノールを含む原料を用いたところ、合成して得られたジフェニルカーボネートの色調、純度等の品質に低下は見られなかった。
また、同様に、回収したフェノールと副生したフェノールとの混合物を蒸留し、蒸留したフェノールをビスフェノールAの原料として、ビスフェノールA製造工程に供給した。
ビスフェノールA製造工程においては、このような反応器の洗浄に使用後、回収・蒸留したフェノールを含む原料を用いたところ、合成して得られたビスフェノールAの色調、純度等の品質に低下は見られなかった。
【0094】
以上、詳述したように、本実施の形態によれば、芳香族ポリカーボネート樹脂の製造装置の洗浄に用いたフェノールを有効に再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】芳香族ポリカーボネートの製造装置の一例を示す図である。
【図2】洗浄回収フェノールが芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程、炭酸ジエステル製造工程に送られるフローを説明する工程図である。
【符号の説明】
【0096】
1a−1…DPC供給口、1b…BPA供給口、2a…原料混合槽、3a…アンカー型撹拌翼、4a…原料供給ポンプ、5a…触媒供給口、6a…第1竪型撹拌反応器、6b…第2竪型撹拌反応器、6c…第3竪型撹拌反応器、6d…第4竪型撹拌反応器、7a,7b,7c…マックスブレンド翼、7d…ヘリカルリボン翼、8a,8b,8c,8d,8e…溜出管、9a…第5横型撹拌反応器、10a…撹拌翼、81a,81b,81c,81d,81e…凝縮器、82a,82b,82c,82d,82e…減圧装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の反応器を備えるポリカーボネート樹脂製造装置により芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する方法であって、
前記ポリカーボネート樹脂製造装置の運転前及び/又は運転後に、当該ポリカーボネート樹脂製造装置の内部を芳香族モノヒドロキシ化合物により洗浄し、
その後、前記ポリカーボネート樹脂製造装置に供給された前記芳香族モノヒドロキシ化合物の供給量の50%以上を回収する
ことを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂製造装置に供給された前記芳香族モノヒドロキシ化合物から、その供給量の50%〜95%を回収することを特徴とする請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂製造装置に供給された前記芳香族モノヒドロキシ化合物を当該ポリカーボネート樹脂製造装置より気化させることにより回収することを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂製造装置に供給された前記芳香族モノヒドロキシ化合物を当該ポリカーボネート樹脂製造装置に備え付けられた前記反応器の気相部から回収することを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記芳香族ポリカーボネート樹脂が前記ポリカーボネート樹脂製造装置により連続的に製造されることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂製造装置が連続的に接続された複数の前記反応器を有し、
前記ポリカーボネート樹脂製造装置を前記芳香族モノヒドロキシ化合物を用いて洗浄した後、複数の前記反応器の中、最後尾に接続された最終反応器にて当該芳香族モノヒドロキシ化合物を気化させ、当該最終反応器の気相部より当該芳香族モノヒドロキシ化合物を回収することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項7】
所定の反応器を備えるポリカーボネート樹脂製造装置により芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを原料として芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する方法であって、
前記芳香族ジヒドロキシ化合物と前記炭酸ジエステルを原料として芳香族ポリカーボネート樹脂を製造する芳香族ポリカーボネート樹脂製造工程並びに、
芳香族モノヒドロキシ化合物及びアセトンを原料として前記芳香族ジヒドロキシ化合物を製造する芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程と、及び/又は、
前記芳香族モノヒドロキシ化合物及びカルボニル化合物を原料として前記炭酸ジエステルを製造する炭酸ジエステル製造工程と、を有し、
前記ポリカーボネート樹脂製造装置の運転前及び/又は運転後に、当該ポリカーボネート樹脂製造装置の内部を前記芳香族モノヒドロキシ化合物により洗浄し、
その後、前記ポリカーボネート樹脂製造装置に供給された前記芳香族モノヒドロキシ化合物を回収し、
回収された前記芳香族モノヒドロキシ化合物を、前記芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程及び/又は前記炭酸ジエステル製造工程における原料として使用する
ことを特徴とする芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記ポリカーボネート樹脂製造装置において、前記芳香族ジヒドロキシ化合物と前記炭酸ジエステルとをエステル交換反応触媒を用いて溶融重縮合を行い、
前記溶融重縮合により副生する副生芳香族モノヒドロキシ化合物を所定の回収設備により回収し、
回収された前記副生芳香族モノヒドロキシ化合物を前記芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程及び/又は前記炭酸ジエステル製造工程における原料として使用する
ことを特徴とする請求項7に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記ポリカーボネート樹脂製造装置の内部を洗浄後回収された前記芳香族モノヒドロキシ化合物を、前記芳香族ジヒドロキシ化合物製造工程及び/又は前記炭酸ジエステル製造工程における原料として使用することを特徴とする請求項7又は8に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記ポリカーボネート樹脂製造装置を洗浄するために供給される前記芳香族モノヒドロキシ化合物を、その供給量の50%〜95%を回収することを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項11】
前記ポリカーボネート樹脂製造装置に供給された芳香族モノヒドロキシ化合物を当該ポリカーボネート樹脂製造装置より気化させることにより回収することを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項12】
前記ポリカーボネート樹脂製造装置に供給された前記芳香族モノヒドロキシ化合物を当該ポリカーボネート樹脂製造装置に備え付けられた前記反応器の気相部から回収することを特徴とする請求項7乃至11のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項13】
前記芳香族ポリカーボネート樹脂が前記ポリカーボネート樹脂製造装置にて連続的に製造されることを特徴とする請求項7乃至12のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項14】
前記ポリカーボネート樹脂製造装置が連続的に接続された複数の前記反応器を有し、
前記ポリカーボネート樹脂製造装置を前記芳香族モノヒドロキシ化合物を用いて洗浄した後、複数の前記反応器の中、最後尾に接続された最終反応器にて当該芳香族モノヒドロキシ化合物を気化させ、当該最終反応器の気相部より当該芳香族モノヒドロキシ化合物を回収することを特徴とする請求項7乃至13のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。
【請求項15】
前記芳香族モノヒドロキシ化合物がフェノールであることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1項に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−195918(P2008−195918A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290500(P2007−290500)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】