説明

芳香族化合物の製造方法

【課題】産業利用上有用な芳香族化合物の選択的かつ効率的な製造方法を提供すること。
【解決手段】
下記一般式(1)で表される芳香族化合物と硫黄化合物から、


[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン誘導体(下記一般式(2))


を生成する工程を含む芳香族化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン(後述の化合物1、以下BTBTと略す)の合成は、多くの方法で試みられている。
【0003】
化合物1を合成する方法として、α、α−ジクロロトルエンと硫黄との反応から、化合物1を合成する方法が知られており、収率も39%であるが、一般的にジクロロメチル基を有する化合物の入手性や保存性に問題が多い(特許文献1)。α、α、α−トリクロロトルエンから化合物1を合成する方法(特許文献1、特許文献2)が知られているが、目的物は得られているものの、収率は12%程度と非常に低く実用的ではない。その後、開発された合成法として、反応式1の反応が知られているが、反応経路が長く生産コストが非常に高くなってしまう問題があった(特許文献3)。
【0004】
【化1】

【0005】
最近、2,2’−ジブロモジフェニルアセチレンとtert−ブチルリチウムを極低温下で反応させたのち、硫黄を加えることにより目的物を得るという方法が開発されたが、空気中の水分と反応して発火するような、tert−ブチルリチウムを使用するのは、安全性と工業性において問題がある(特許文献4、非特許文献1)。
【0006】
なお、最新の合成法としては、2,7−ジアミノBTBTを出発物質としてジアゾ化からジアゾ分解で合成するもの(特許文献5)があるが、2,7−ジアミノBTBT(反応式1中、R=NHのもの)の合成は、数段階必要であり、それを出発物質とするのは、非常に高価にもなり効率的な製造法ではない。
【0007】
また、BTBTにさらに、ベンゼン環が縮環したものとして、たとえば、Dinaphtho[2,3-b:2’,3’-f]thieno[3,2-b]thiophene(以下、DNTTと略す)が知られている。
この化合物は、有機半導体として優れた特性を有していることが報告されており、移動度も3.0cm/Vsを超え、低閾値でもあり、これらのDNTT誘導体の工業的な製造法の確立が期待されている。
【0008】
現在、この化合物は、以下のルートで合成されている。
【0009】
【化2】

【0010】
しかしながら、この合成ルートでは、(1)工程1では、悪臭物質であるジメチルジスルフィドを使用すること、(2)禁水物質であるn−ブチルリチウムを使用すること、(3)工程3では、ヨウ素を32mol倍使用するなど、反応の効率が極めて低いこと、(4)副生物として、劇物であるMeIを生成するなど環境的な面からも問題があること、など種々の問題があった(特許文献6,非特許文献2,3)。
【0011】
以上のように、BTBT誘導体(たとえば、DNTT誘導体も含む)を工業的に製造することは非常に困難なものであった。
【0012】
このような中、芳香族アルデヒドを出発物質として、BTBTを合成できる手法が開発された(特許文献7)。この方法では、入手が容易な芳香族アルデヒドから容易に1段階でBTBT誘導体(たとえば、DNTT誘導体も含む)の合成(反応式3)が出来るなど、非常に効果的な合成方法である。
【0013】
【化3】

【0014】
以上のように、BTBT誘導体(たとえば、DNTT誘導体も含む)は、優れた特性を有する化合物群であることも容易に推定でき、現在でも工業的な製造方法の研究が続けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】US3278552号公報
【特許文献2】US3433874号公報
【特許文献3】SU755785号公報
【特許文献4】WO2006/077888 A1
【特許文献5】特開2008−239987号
【特許文献6】WO2008/050726
【特許文献7】特開2008−290963号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Journal of Heterocyclic Chemistry(1998),35(3),725−726.
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society(2007),129(8),2224−2225.
【非特許文献3】Science and Technology of Advanced Materials(2007),8(4),273−276.
【非特許文献4】Tetrahedron Letters(2002),43(13),2449−2453.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、芳香族化合物誘導体の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン誘導体の製造に関するものであり、従来の合成技術に比べて高選択的かつ高収率で目的の[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン誘導体(一般式(2))をより簡便な合成技術で可能とした製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン誘導体(一般式(2))の簡便かつ工業的な製造方法を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、
(1)一般式(1)
【化4】


[式中、Xは、それぞれ独立にハロゲン原子を表す。R1,R2はそれぞれ独立に置換基を表す。m、nはそれぞれ、置換基R1、R2の置換基の数を表し、それぞれ独立に0〜4の整数を表す。m,nがそれぞれ2以上の場合、それぞれの置換基R1、R2は同一でも異なっていてもよく、また互いに連結して環を形成してもよい。]で表される芳香族化合物、及び硫黄、硫化水素、金属水硫化物及び金属硫化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の硫黄化合物から、一般式(2)
【化5】


[式中、R1,R2,m,nは一般式(1)と同じ意味を示す。]で表される芳香族化合物を製造する、芳香族化合物の製造方法。
(2)一般式(1)で表される化合物の置換基Xのハロゲン原子が、それぞれ独立に、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、R1,R2がそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有してもよい炭素数1〜18のアルキル基、置換基を有してもよいカルボニル基、置換基を有してもよいアルコキシ基(OC1〜C18)、置換基を有してもよいアルキルチオ基(SC1〜C18)、置換基を有してもよいエステル基、置換基を有してもよいアリール基、又は炭素数1〜18のアルキル基を有するシリル基、である、(1)に記載の芳香族化合物の製造方法。
(3)前記硫黄化合物が、硫黄、硫化水素、含水又は無水の水硫化ナトリウム、含水又は無水の硫化ナトリウム、及び含水又は無水の多硫化ナトリウムからなる群から選ばれる、(1)又は(2)に記載の芳香族化合物の製造方法。
(4)複数種の前記硫黄化合物を混合して用いる、(1)乃至(3)のいずれか一つに記載の芳香族化合物の製造方法。
(5)硫黄化合物として、硫黄と含水又は無水の水硫化ナトリウムとの混合物、硫黄と含水又は無水の硫化ナトリウムとの混合物、又は、硫黄と含水又は無水の水硫化ナトリウムと含水又は無水の硫化ナトリウムとの混合物を用いる、(1)乃至(4)のいずれか一つに記載の芳香族化合物の製造方法。
(6)銅含有化合物を含む金属触媒の存在下で反応を行う、(1)乃至(5)のいずれか一つに記載の芳香族化合物の製造方法。
(7)反応溶媒として、少なくとも一種の沸点100℃以上の高沸点溶媒を使用する、(1)乃至(6)のいずれか一つに記載の芳香族化合物の製造方法。
(8)沸点100℃以上の高沸点溶媒がN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリンジノン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びジメチルスルホキシドからなる群から選ばれる、(7)に記載の芳香族化合物の製造方法。
(9)一般式(1)で表される化合物が、一般式(3)
【化6】


[式中、X,R1,R2,m,nは一般式(1)と同じ意味を示す。]、一般式(4)
【化7】


[式中、X,R1,R2,m,nは一般式(1)と同じ意味を示す。]又は、一般式(5)
【化8】


[式中、X,R1,R2,m,nは一般式(1)と同じ意味を示す。]
である(1)乃至(8)のいずれか一つに記載の芳香族化合物の製造方法。
(10)一般式(1)で表される化合物が、一般式(6)
【化9】


[式中、Xは一般式(1)と同じ意味を示す。]、又は
一般式(7)
【化10】


[式中、Xは一般式(1)と同じ意味を示す。]である、(1)乃至(8)のいずれか一つに記載の芳香族化合物の製造方法。
に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン誘導体の簡便な製造を可能とした。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の製造法について詳細に述べる。本発明の製造法に関する反応式は次の通りである。
【0022】
【化11】

【0023】
本発明において、Xで表されるハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。より好ましくは、塩素原子、臭素原子である。
【0024】
一般式(1)で示されるR及びRはそれぞれ独立に置換基を表す。R及びRは通常、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有してもよい炭素数1〜18のアルキル基、置換基を有してもよいカルボニル基、置換基を有してもよいアルコキシ基(OC1〜C18)、置換基を有してもよいアルキルチオ基(SC1〜C18)、置換基を有してもよいエステル基、置換基を有してもよいアリール基、又は炭素数1〜18のアルキル基を有するシリル基、を示す。なお、R、Rは同一でも異なっていてもよく、また互いに連結して、ベンゼン環などの環を形成してもよい。
【0025】
ここで炭素数1〜18のアルキル基とは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基などがあげられ、これらが1つ又は複数脱水素したものでもよい。
【0026】
好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基などのアルキル基であり、より好ましくは、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基であり、これらが1つ又は複数脱水素したものでもよい。
【0027】
アリール基とは、フェニル基、ナフチル基、アンスリル基、フェナンスリル基、ピレニル基、ベンゾピレニル基などの芳香族炭化水素基やピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、ピロリル基、インドレニル基、イミダゾリル基、カルバゾリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、ピリドニル基などの複素環基、ベンゾキノリル基、アントラキノリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基のような縮合系複素環基が挙げられる。またこれらの置換基は、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナンスレン環、ピレン環、フラン環、ピロール環、チオフェン環、ピリジン環などで縮環していてもよい。これらのうち、好ましいものはフェニル基、ナフチル基、ピリジル基及びチエニル基である。
【0028】
アルコキシ基(OC1〜C18)とは、上記炭素数1〜18のアルキル基を有するアルコキシ基、アリールオキシ基など意味し、そのアルコキシ基(OC1〜C18)中のアルキル基として、好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、フェニル基であり、より好ましくは、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、フェニル基である。
【0029】
アルキルチオ基(SC1〜C18)とは、上記炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキルチオ基、アリールチオ基などを意味し、好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、フェニル基などのアルキルチオ基であり、より好ましくは、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、フェニル基を有するアルキルチオ基である。
【0030】
及び/又はRが置換基を有してよい炭素数1〜18のアルキル基、置換基を有してよいアルコキシ基(OC1〜C18)、置換基を有してよいアルキルチオ基又は置換基を有してよいアリール基を表す場合、導入される置換基は、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、複素環基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルキルチオ基、シアノ基、ニトロ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、ホルミル基、及びアシルアミノ基からからなる群から選ばれる。
【0031】
エステル基とは、カルボン酸、上記炭素数1〜18のアルキル基(CO2−アルキル基)又はアリール基(CO2−アリール基)を有するエステル基のことを言う。
【0032】
カルボニル基とは、アルデヒド、上記炭素数1〜18のアルキル基(CO−アルキル基)又はアリール基(CO−アリール基)を有するケトン基のことを言う。
【0033】
アミノ基とは、無置換、又は、上記炭素数1〜18のアルキル基、カルボニル基又は上記アリール基のいずれかが1つ又は2つ置換したアミノ基のことを言う。
【0034】
一般式(1)で表される化合物は、芳香族アルデヒド同士の亜鉛と四塩化チタンを使用したマクマリー反応(McMurry reaction)(反応式2,特許文献5,非特許文献2,3)や、芳香族アルデヒドとリンイリドとから、スチルベン誘導体を合成するWittig反応などを利用することで当業者ならば容易に入手できる(非特許文献4)。
【0035】
一般式(1)で表される化合物としては、X=Clとして、以下のような化合物1〜40で表される具体例を下記表1、2に例示するが、これらに限定されるものではない。なお、以下表中特記しない限り、空欄は水素原子を表し、メチル基をMe、エチル基をEt、プロピル基をPr、ブチル基をBu、ヘキシル基をHexyl、アセチル基をAc、フェニル基をPh、トリル基をTolyl、ナフチル基をNapで表す。
【0036】
【化12】

【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
さらに、一般式(1)で表される化合物をX=Clとして、以下のような化合物41〜70で表される具体例を例示するが、これらに限定されるものではない。
【0040】
【化13】

【0041】
【化14】

【0042】
出発物質(一般式(1))1モルに対して、反応に用いる硫黄化合物は、通常2〜30モル倍使用する。好ましくは、3〜20モル倍、より好ましくは3〜16モル倍である。
【0043】
硫黄化合物としては、硫黄、硫化水素、金属水硫化物、金属硫化物であれば、いかなるものでも使用可能であるが、入手が容易な、硫黄、硫化水素、含水又は無水の水硫化ナトリウム、含水又は無水の硫化ナトリウム、含水又は無水の多硫化ナトリウムが好ましい。より好ましくは、硫黄、含水又は無水の水硫化ナトリウム、含水又は無水の硫化ナトリウム、含水又は無水の多硫化ナトリウムである。
【0044】
また、単独の硫黄化合物を用いても、反応は進行するが、複数の硫黄化合物を用いることで、反応の収率が向上したり、反応の後処理でタール化を抑えることが出来るなど、メリットが有る場合も多い。
【0045】
複数の硫黄化合物を混合して用いる場合、用いる硫黄化合物は、硫黄、硫化水素、金属水硫化物、金属硫化物であればよい。より好ましくは硫黄と含水又は無水の水硫化ナトリウムとの混合物、又は、硫黄と含水又は無水の硫化ナトリウムとの混合物、又は、硫黄と含水又は無水の水硫化ナトリウムと含水又は無水の硫化ナトリウムとの混合物(3種を混合したもの)である。
【0046】
複数の硫黄化合物を混合して用いる場合、出発物質1molに対して、硫黄化合物合計量が、2mol倍〜30mol倍となる様に混合するのが望ましい。より好ましくは、3〜20モル倍、さらに好ましくは3〜16モル倍である。
【0047】
反応温度は通常0℃〜300℃で行い、反応温度を可変して行うこともできるし、一定にして行うこともできる。好ましい反応温度は100℃〜250℃であり、より好ましくは、150℃〜250℃である。
【0048】
反応を行うときは溶媒を使用しても使用しなくてもよい。溶媒を使用する場合、その溶媒は、通常の有機合成に用いられる溶媒であれば、いかなるものでも使用可能である。たとえば、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ニトロベンゼン等のメチル基を有しない芳香族化合物や、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−ペンタン等の飽和脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロペンタン等の環状炭化水素、n−プロピルブロマイド、n−ブチルクロライド、n−ブチルブロマイド、ジクロロメタン、ジブロモメタン、ジクロロプロパン、ジブロモプロパン、ジクロロエタン、ジブロモエタン、ジクロロプロパン、ジブロモプロパン、ジクロロブタン、クロロホルム、ブロモホルム、四塩化炭素、四臭化炭素、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン等の飽和脂肪族ハロゲン化炭化水素、クロロシクロヘキサン、クロロシクロペンタン、ブロモシクロペンタン等のハロゲン化環状炭化水素、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル等のエステル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトンをあげることが出来る。これらの溶媒は単独でも2種以上混合して用いても良い。
【0049】
また、反応溶媒として、少なくとも一種の沸点100℃以上の高沸点溶媒を使用すると大幅に反応速度が向上するので好ましい。
【0050】
沸点100℃以上の高沸点溶媒としてはアミド類(N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAc)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリンジノン)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、又はスルホキシド類(ジメチルスルホキシド(以下、DMSO)、スルホラン)が好ましく、より好ましくは、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)である。
【0051】
溶媒を使用するときの、使用量は一般式(1)で示される出発物質1に対して、通常0.01〜300重量倍、好ましくは、0.1〜300重量倍、より好ましくは、2〜50重量倍である。この際、複数の溶媒を組み合わせて使用しても良い。
【0052】
反応を行うときに、触媒の使用は必須ではないが、触媒を利用すると反応がスムーズに進行する場合がある。
【0053】
また、この反応は、金属触媒を使用することでも反応を進行させることが出来る。
【0054】
用いる金属触媒としては、銅、塩化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(I)、臭化銅(II)、ヨウ化銅(I)、ヨウ化銅(II)等の銅含有化合物が挙げられ、このうちの一種又は複数を組み合わせて使用することができる。好ましくは、銅、塩化銅(I)、臭化銅(I)である。
【0055】
用いる金属触媒量は、出発物質1molに対して、通常0.01mol倍〜1mol倍、好ましくは、0.05〜0.6mol倍、より好ましくは0.1〜0.6mol倍である。
【0056】
金属触媒を複数用いる場合は、各金属触媒量の合計は、出発物質1molに対して、通常0.01mol倍〜1mol倍、好ましくは、0.05〜0.6mol倍、より好ましくは0.1〜0.6mol倍である。
【0057】
反応時間は、通常、1時間〜50時間であるが、おおむね24時間以内に終了する。
【0058】
必要に応じて通常の有機合成反応に用いられる単離・精製法により反応物から目的化合
物が得られる。より純度を上げるためには、真空昇華精製を行うことも可能である。
【0059】
また、一般式(2)で表される化合物の具体例(化合物71〜110)を、特に例示するが、これらに限定されるものではない。
【0060】
【化15】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
また、一般式(2)で表される化合物として、以下のような化合物111〜140で表される具体例を例示するが、これらに限定されるものではない。
【0064】
【化16−1】


【化16−2】

【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0066】
実施例1 ベンゾチエノ[3,2−b]ベンゾチオフェンの合成(化合物71)
70%NaSH・nH2O(320mg,4mmol)、硫黄(64mg,2mmol)及びCuCl(50mg,0.5mmol)をN−メチルピロリドン(以下、NMPと略すことがある)(10ml)に加えて、180℃に加熱後、そこに2,2’−ジクロロスチルベン(化合物1,249mg,1mmol)を加えた。反応を2時間行ったのち、70%NaSH・nH2O(320mg,4mmol)を加え、3時間180℃で反応を行った。さらに70%NaSH・nH2O(320mg,4mmol)を加え11時間反応を行った。放冷後、飽和塩化アンモニウム水溶液(50ml)に加え、トルエン(50ml×3回)で抽出し、有機層を水(50ml×5回)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥して、濃縮した。濃縮液をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、展開溶媒ヘキサン)で精製して、目的物71(110mg,収率47%)を得た。
1H NMR(400MHz,CDCl3)d7.95−7.85(m,4H),7.50−7.39(m,4H);MS(70eV,EI)m/z=240(M+)
【0067】
実施例2 ジナフト[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[3,2−b]チオフェン(DNTT,化合物117)
スチルベン(化合物47,1.05g,3.0mmol)のNMP(30ml)溶液に、70%NaSH・nHO(0.96g,12.0mmol,4mol倍)と硫黄(192mg,6mmol,2mol倍)を加え、ディーンスターク脱水管で水を除去しながら、反応温度を上げていき、160−180℃で8時間反応を行った。ろ別して、水50mlで3回洗浄し、メタノール(50ml)、水(50ml)、アセトン(50ml)で洗浄し、60℃で一晩乾燥し、目的物(化合物117,0.19g,収率18.6%)を得た。精製はさらに昇華精製装置で行った。
黄色結晶;mp>300℃;1H NMR(400MHz,CDCl3)δ 7.54−7.57(m,4H,ArH),7.96−7.98(m,2H,ArH),8.05−8.07(m,2H,ArH),8.40(s,2H,ArH),8.45(s,2H,ArH);IR(KBr)ν 1273,872,750,739 cm−1;MS(70eV,EI)m/z=340(M+),170(M+/2);Anal.Calcd for C22H12S2:C,77.61;H,3.55%.Found:C,77.40;H,3.38%.
【0068】
次に、DNTT(化合物117)の合成実施例として種々の条件で反応を行った場合の結果を実施例3〜7で示す。実験は、出発原料のスチルベン(化合物47)を1g用い、実施例2と同様の操作で行った。ここでは、単独又は混合して用いた各種硫黄化合物の量を出発原料に対するmol倍量として記載し、そしてDNTTの生成量の関係を表5に示す。
【0069】
【表5】

【0070】
次の実施例8では、少量実験の実施例2〜7の結果から、工業的な生産が可能かどうかを調査する目的で、実施例5の実験のスケールアップ実験を行った結果を示す。
【0071】
実施例8 ジナフト[2,3−b:2’,3’−f]チエノ[3,2−b]チオフェン(DNTT,化合物117)
スチルベン(化合物47,12.99g,37.2mmol)のNMP(100ml)溶液に、NaS・5HO(11.91g,0.149mol,4mol倍)と硫黄(2.38g,74.4mmol,2mol倍)を加え、ディーンスターク脱水管で水を除去しながら、反応温度を上げていき、160−180℃で8時間反応を行った。ろ別して、水100mlで3回洗浄し、メタノール(100ml)、水(100ml)、アセトン(100ml)で洗浄し、60℃で一晩乾燥し、目的物(化合物117,6.12g,収率48.3%)を得た。スペクトル等は、実施例2と同等であった。
【0072】
以上のように本発明により、優れた特性を有する化合物群であるBTBT誘導体である、[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェン誘導体(一般式(2))の選択的かつ効率的な製造を可能とした。
従って、本発明の芳香族化合物の誘導体の製造方法は極めて有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】


[式中、Xは、それぞれ独立にハロゲン原子を表す。R1,R2はそれぞれ独立に置換基を表す。m、nはそれぞれ、置換基R1、R2の置換基の数を表し、それぞれ独立に0〜4の整数を表す。m,nがそれぞれ2以上の場合、それぞれの置換基R1、R2は同一でも異なっていてもよく、また互いに連結して環を形成してもよい。]で表される芳香族化合物、及び硫黄、硫化水素、金属水硫化物及び金属硫化物からなる群から選ばれる少なくとも一種の硫黄化合物から、一般式(2)
【化2】


[式中、R1,R2,m,nは一般式(1)と同じ意味を示す。]で表される芳香族化合物を製造する、芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
一般式(1)で表される化合物の置換基Xのハロゲン原子が、それぞれ独立に、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、R1,R2がそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、置換基を有してもよい炭素数1〜18のアルキル基、置換基を有してもよいカルボニル基、置換基を有してもよいアルコキシ基(OC1〜C18)、置換基を有してもよいアルキルチオ基(SC1〜C18)、置換基を有してもよいエステル基、置換基を有してもよいアリール基、又は炭素数1〜18のアルキル基を有するシリル基、である、請求項1に記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
前記硫黄化合物が、硫黄、硫化水素、含水又は無水の水硫化ナトリウム、含水又は無水の硫化ナトリウム、及び含水又は無水の多硫化ナトリウムからなる群から選ばれる、請求項1又は2に記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項4】
複数種の前記硫黄化合物を混合して用いる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項5】
硫黄化合物として、硫黄と含水又は無水の水硫化ナトリウムとの混合物、硫黄と含水又は無水の硫化ナトリウムとの混合物、又は、硫黄と含水又は無水の水硫化ナトリウムと含水又は無水の硫化ナトリウムとの混合物を用いる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項6】
銅含有化合物を含む金属触媒の存在下で反応を行う、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項7】
反応溶媒として、少なくとも一種の沸点100℃以上の高沸点溶媒を使用する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項8】
沸点100℃以上の高沸点溶媒がN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリンジノン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びジメチルスルホキシドからなる群から選ばれる、請求項7に記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項9】
一般式(1)で表される化合物が、一般式(3)
【化3】


[式中、X,R1,R2,m,nは一般式(1)と同じ意味を示す。]、一般式(4)
【化4】


[式中、X,R1,R2,m,nは一般式(1)と同じ意味を示す。]又は、
一般式(5)
【化5】


[式中、X,R1,R2,m,nは一般式(1)と同じ意味を示す。]
である、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の芳香族化合物の製造方法。
【請求項10】
一般式(1)で表される化合物が、一般式(6)
【化6】


[式中、Xは一般式(1)と同じ意味を示す。]、又は
一般式(7)
【化7】


[式中、Xは一般式(1)と同じ意味を示す。]である、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の芳香族化合物の製造方法。

【公開番号】特開2010−202523(P2010−202523A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46477(P2009−46477)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】