説明

芳香族化合物の誘導体とそれらの中間体の製造方法

【課題】有機半導体特性を有する芳香族化合物と関係するそれらの中間体化合物の製造方法の提供。
【解決手段】下記式(1);


式中、Xは、硫黄原子、又はセレン原子を表し、Aは、置換基を有してもよいアミノ基である;で表される芳香族化合物と、少なくとも、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれか一つを含むハロゲン化剤とを反応させる製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物の誘導体と関係するそれらの中間体化合物の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は有機半導体特性を有する新規なベンゾカルコゲノフェン誘導体と関係するそれらの中間体化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[1]ベンゾカルコゲノ[3,2−b][1]ベンゾカルコゲノフェン(以下、後述の式(1)中のXがカルコゲン元素である場合、この母核部分をBXBXと略記し、Xが硫黄原子(以下Sと略記)の場合をBTBT、Xがセレン原子(以下Seと略記)の場合をBSBSと略記する)への1,6−位への選択的ハロゲン化反応は知られていない。
【0003】
一方、BTBTを母核としたジハロゲノ置換誘導体、2,7−ジハロゲノBTBTとして、ハロゲンがヨウ素(特許文献1)、臭素(特許文献2、非特許文献1)、塩素(特許文献2、非特許文献1)は其々公知であり、特に反応性が高いハロゲンを有する2,7−ジヨードBTBTは、有機半導体として非常に優れた化合物である、2,7−ジフェニルBTBTの重要な中間体化合物であることが記載されており(特許文献1)、2,7−位にアリール基を有する下記化合物(1002)は移動度2.0 cm2V-1s-1を有することが、知られているなど有用な化合物である。
【0004】
【化1】

【0005】
また、BTBTを母核とし1,6−位にハロゲン以外の置換基を有する化合物は知られている(特許文献3、非特許文献2〜4)。例えば、合成法の開示はないが、有機半導体として優れた特性を有する下記の四置換体BTBT誘導体(1003)について述べられている(特許文献3)。
【0006】
【化2】

【0007】
上記の公知文献は、BTBT誘導体が優れた特性を有する有機半導体化合物であることを示すものであるが、BTBT骨格の1,2,6,7−位に置換基を有する化合物の合成法に関する記載は殆ど無い事から関係する適切な合成法は殆ど無いと思われる。
【0008】
以上のように、後述する式(3)で示す化合物群は優れた有機半導体特性を有し、さらなる用途開発が期待されている。そこで、本発明に記載の下記式(2)で表される新規中間体化合物に関する製造法の確立は、産業の発達にも大きく寄与することから、非常に期待されている。
【0009】
【特許文献1】WO 2006077888 A1
【特許文献2】SU755785
【特許文献3】特開2008-010541
【非特許文献1】Zhurnal Organicheskoi Khimii (1980),16(2),430-8.
【非特許文献2】Collection of Czechoslovak Chemical Communications(2002),67(5),645-664.
【非特許文献3】Zhurnal Organicheskoi Khimii(1974),10(4),811-816.
【非特許文献4】Journal of Scientific & Industrial Research(1961), 20B,169-176.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、芳香族化合物の誘導体と関係するそれらの中間体化合物の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は有機半導体特性を有する新規なベンゾカルコゲノフェン誘導体とそれに関係するそれらの中間体化合物の製造法に関するものであり、本発明の目的はベンゾカルコゲノベンゾカルコゲノフェン誘導体(以下、式(3)をBTBT誘導体と略記する)と関係するそれらの誘導体を合成する際に重要な中間体となる1,6−ジハロゲノ−2,7−ジアミノベンゾカルコゲノベンゾカルコゲノフェン誘導体(下記式(2))の簡便かつ効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、BTBT誘導体の開発とそれらの誘導体を合成する際の重要な中間体である1,6−ジハロゲノ−2,7−ジアミノベンゾカルコゲノベンゾカルコゲノフェン誘導体(下記一般式(2))の簡便かつ効率的な製造方法を見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、
【0012】
(1)下記式(1);
【化3】

式中、Xは、硫黄原子、又はセレン原子を表し、Aは、置換基を有してもよいアミノ基である;
で表される芳香族化合物と、少なくとも、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれか一つを含むハロゲン化剤とを反応させる、下記式(2);
【化4】

式中、X及びAは上に定義したとおりであり、Zは、それぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を表す;
で表される芳香族化合物の製造方法。
(2)ハロゲン化剤が、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、三塩化リン 、三臭化リン、四塩化炭素 、四臭化炭素、N−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド、N−ヨードスクシンイミド、N,N−ジクロロウレア、臭素酸ナトリウム、過ヨウ素酸、1,3−ジクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、塩化スルフリル、塩素、臭素、またはヨウ素から成る四級アンモニウムパーハライド、塩化第二銅、臭化第二銅、N−クロロ−フタルイミド、塩素、臭素又はヨウ素から成るピリジニウム−パーハライド、塩素、臭素又はヨウ素から成るピロリドンパーハライド、ヘキサクロロ−2,4−シクロヘキサジエノン、次亜ハロゲン酸t−ブチル、トリクロロイソシアヌル酸、トリクロロメタンスルホニルハロゲニド、及び一塩化ヨウ素からなる群から選択される、(1)に記載の上記式(2)で表わされる芳香族化合物の製造方法。
(3)ハロゲン化剤が、塩素、臭素又はヨウ素から成る四級アンモニウムパーハライド、又は塩素、臭素又はヨウ素から成るピリジニウム−パーハライドである、(2)に記載の上記式(2)で表わされる芳香族化合物の製造方法。
(4)沸点が100℃以上の反応溶媒を少なくとも一種類使用する、(1)から(3)のいずれか一項に記載の上記式(2)で表される芳香族化合物の製造方法。
(5)上記沸点100℃以上の反応溶媒がアミド類、グリコール類、又はスルホキシド類であることを特徴とする、(4)に記載の上記式(2)で表される芳香族化合物の製造方法。
(6)下記式(3)で表わされる芳香族化合物;
【化5】

式中、Xは硫黄原子又はセレン原子を表し、Yはそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、又は置換基を有してもよいアミノ基を表し、Zはそれぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、又はアリール基を表す。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、有機半導体特性を有する新規なベンゾカルコゲノベンゾカルコゲノフェン誘導体(上記式(3))と関係するそれらの誘導体を合成する上で重要な中間体化合物である上記式(2)で表される1,6−ジハロゲノ−2,7−ジアミノベンゾカルコゲノベンゾカルコゲノフェン誘導体を簡便かつ容易に製造出来る合成法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の製造法について詳細に述べる。本発明の反応式は次の通りである。
【0015】
【化6】

【0016】
上記反応式において、ハロゲン化剤は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子の少なくとも一つを含有している。中でも臭素原子またはヨウ素原子が好ましい。
【0017】
ハロゲン化剤の具体例は、下記に限定されるわけではないが、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、三塩化リン 、三臭化リン、四塩化炭素 、四臭化炭素、N−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド、N−ヨードスクシンイミド、N,N−ジクロロウレア、臭素酸ナトリウム、過ヨウ素酸、1,3−ジクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、塩化スルフリル、四級アンモニウムパーハライド類(塩素、臭素、またはヨウ素から成る)、塩化第二銅又は臭化第二銅、N−クロロ−フタルイミド、ピリジンパークロライド、ピリジン又はピロリドンパーブロマイド、ピリジン又はピロリドンパーヨージド、ヘキサクロロ−2,4−シクロヘキサジエノン、次亜ハロゲン酸t−ブチル、トリクロロイソシアヌル酸、トリクロロメタンスルホニルハロゲニド、または一塩化ヨウ素等である。好ましくは、塩素、臭素またはヨウ素から成る四級アンモニウムパーハライド類(ベンジルトリメチルアンモニウムトリブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムトリヨージド等)、および塩素、臭素またはヨウ素から成るピリジンパーハライド類(ピリジニウムブロミドパーブロミド等)であり、より好ましくは、ベンジルトリメチルアンモニウムトリブロミド(東京化成工業株式会社等から容易に入手可能)である。
【0018】
上記式(1)、(2)に記載の置換基Aは、アミノ基を表し、アミノ基とは、無置換でも、炭素数1〜18のアルキル基、カルボニル基またはアリール基のいずれかが1つまたは2つ置換したアミノ基である。
【0019】
上記式(2)に記載の置換基Zは、それぞれ独立に、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはヨウ素原子)であり、好ましくは、臭素原子、ヨウ素原子である。
【0020】
上記の炭素数1〜18のアルキル基としては、下記に限定されないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシプロピル基、プロポキシプロピル基、メチルチオメチル基、エチルチオメチル基、プロピルチオメチル基、メチルチオエチル基、エチルチオエチル基、プロピルチオエチル基、メチルチオプロピル基、エチルチオプロピル基、プロピルチオプロピル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−シアノフェニル基、3−シアノフェニル基、4−シアノフェニル基、2−ニトロフェニル基、3−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基等が挙げられる。
【0021】
より好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基などのアルキル基であり、より好ましくは、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、およびn−ドデシル基である。
【0022】
上記のアリール基としては、下記に限定されないが、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、ベンゾピレニル基などの芳香族炭化水素基やピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、ピロリル基、インドレニル基、イミダゾリル基、カルバゾリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、ピリドニル基などの複素環基、ベンゾキノリル基、アントラキノリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基のような縮合系複素環基が挙げられる。またこれらの置換基は、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、フラン環、ピロール環、チオフェン環、ピリジン環等で縮環していてもよい。これらのうち、好ましいものはフェニル基、ナフチル基、ピリジル基、およびチエニル基である。
【0023】
上記のアルコキシ基の具体例は下記に限定されないが、酸素原子と結合する炭素数1〜18のアルキル基を有するアルコキシ基、またはアリールオキシ基等であり、そのアルキル基およびアリール基としては、好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、フェニル基であり、より好ましくは、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、およびフェニル基である。
【0024】
上記のアルキルチオ基の具体例は下記に限定されないが、硫黄原子と結合する炭素数1〜18のアルキル基を有するアルキルチオ基、またはアリールチオ基等であり、好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、フェニル基であり、より好ましくは、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、フェニル基である。
【0025】
カルボニル基とは、アルテヒド、上記炭素数1〜18のアルキル基(CO−アルキル基)またはアリール基(CO−アリール基)を有するケトン基、カルボン酸、上記炭素数1〜18のアルキル基(CO2−アルキル基)またはアリール基(CO2−アリール基)を有するエステル基である。
【0026】
例えば、下記式(1004)で表される化合物は、2,7−ジアミノBTBT(式(1)のX=S、A=NH)は、非特許文献1に記載の方法で合成可能である。
【0027】
また、下記式(1004)は、無水酢酸中、硫酸を用いて、容易にジアセチル体などに合成可能であり、適当な脂肪族または芳香族酸クロライドと反応させることでジアシル化物の合成も容易にできる。
【0028】
【化7】

【0029】
一方、下記式(1005)で表される化合物(X=Sの場合)の具体例としては、以下のような化合物(1)〜(12)が挙げられる。なお、下表中に特記しない限り、メチル基をMe、エチル基をEt、プロピル基をPr、ブチル基をBu、ヘキシル基をHexyl、アセチル基をAc、フェニル基をPh、トリル基をTolyl、ナフチル基をNapで表す。
【0030】
【化8】

【0031】
【表1】

【0032】
出発物質(式(1))1モルに対して、反応に用いるハロゲン化剤は、モル比換算で、通常2〜16モル倍使用する。好ましくは、2〜8モル倍、より好ましくは2〜5モル倍である。
【0033】
反応温度は−50℃〜+200℃で行い、反応温度は可変又は一定にして行う。好ましくは−30℃〜+150℃、より好ましくは、−10℃〜+110℃である。
【0034】
反応を行うときに溶媒を使用しても使用しなくてもよい。通常の有機合成に用いられる溶媒であれば、いかなるものでも使用可能である。例えば、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ニトロベンゼン等のメチル基を有しない芳香族化合物や、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−ペンタン等の飽和脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素、n−プロピルブロマイド、n−ブチルクロライド、n−ブチルブロマイド、ジクロロメタン、ジブロモメタン、ジクロロプロパン、ジブロモプロパン、ジクロロエタン、ジブロモエタン、ジクロロプロパン、ジブロモプロパン、ジクロロブタン、クロロホルム、ブロモホルム、四塩化炭素、四臭化炭素、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン等の飽和脂肪族ハロゲン化炭化水素、クロロシクロヘキサン、クロロシクロペンタン、ブロモシクロペンタン等のハロゲン化環状炭化水素、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル等のエステル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトンをあげることが出来る。これらの溶媒は単独でも2種以上混合して用いても良い。
【0035】
また、沸点100℃以上の反応溶媒を少なくとも一種使用すると大幅に反応速度が向上するので好ましい。
【0036】
沸点100℃以上の反応溶媒としてはアミド類(例えばN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記)、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、DMAc)等)、グリコール類(例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、またはスルホキシド類(例えばジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記)等)が好ましく、より好ましくは、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドである。
【0037】
溶媒の使用量は出発物質(式(1))1重量部に対して、通常0.01〜100重量部、好ましくは、0.1〜80重量部、より好ましくは、2〜50重量部である。なお、複数の溶媒を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
反応時に、触媒は必須ではないが、触媒を利用すると反応が円滑に進行する場合がある。
【0039】
上記の触媒としては、例えばハロゲン化物であるルイス酸である、BCl、AlCl、TiCl、SnClFeCl、SOCl等の塩素系化合物やBBr等の臭素系化合物であるが、好ましくは塩素系化合物であり、さらに好ましくはBCl、AlCl又はTiClである。
【0040】
反応完了には通常1時間〜50時間を要すが、おおむね24時間以内に終了する。
【0041】
必要に応じて通常の有機合成反応に用いられる単離・精製法により反応物から目的化合物が得られる。より純度を上げるためには、真空昇華精製を行うことも可能である。
【0042】
また、下記式(1006)の場合の具体例を化合物(13)〜(36)に記載するが、Zをハロゲン(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)のうち、臭素原子(表2)、ヨウ素原子(表3)としたものを、特に例示するが、これらに限定されるものではない。
【0043】
【化9】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
次に、式(3)で、X=S、Y=NH、Z=Brである、化合物13を出発原料に用いた場合の各種誘導体合成フローを以下に記載する。
【0047】
【化10】

【0048】
上記合成フローから明らかな通り、ジアゾ化合物を中間体としてアミノ基を臭素化物(実施例2を参照)又はヨウ素化合物(実施例3を参照)等のハロゲン置換基に変換することが可能であり、アミノ基をジアゾ化熱分解をすることで水素原子にも変換可能である(実施例4を参照)。
【0049】
また、鈴木−宮浦カップリング反応で、芳香族ホウ酸誘導体を利用することにより、ハロゲン原子を芳香族化合物に変換可能である(実施例5、実施例6を参照)。
【0050】
次に式(3)で表される化合物の具体例として、実施例2〜6に示した方法(詳細は後述を参照)、および類似の反応により合成した、化合物(37)〜(78)を例示するが、これらに限定されるものではない。表中、チエニル基をThienyl、ピリジル基をPyrで示す。
【0051】
【化11】

【0052】
【化12】

【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1 1,6−ジブロモ−2,7−ジアミノ[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンの合成(化合物13)
化合物1の2,7−ジアミノBTBT(28.4g,0.08mol)のDMF溶液(300ml)を20℃以下に冷却し、ベンジルトリメチルアンモニウムトリブロミド(63.9g,0.164mol,東京化成工業株式会社製品)を分割添加した。液温を30℃で6時間保った後、60℃で一時間加熱して放冷した。メタノール600mlを加えて濾別し、メタノール100ml、水100ml、メタノール100mlで順次洗浄して、化合物13の粗体(40.2g,収率98%)を得た。
次に化合物13の粗体の全量をDMF(400ml)に加え、液温100℃まで昇温し、1時間攪拌をした後、60℃まで冷却し、セライトをろ過助剤に用いて濾過し、ろ液にメタノール500ml、水150mlを添加して、室温で晶析し、固形分をろ別してメタノール300mlで洗浄後、60℃で乾燥して化合物13(20.0g、収率50%)を得た。化合物13のMS(70eV,EI)測定値は、m/z=428(M+)であった。
【0057】
実施例2 1,2,6,7−テトラブロモ−[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンの合成(化合物37)
化合物13(21.4g,0.05mol)を含む水溶液(110ml)に、48%臭化水素酸38mlをゆっくりと滴下し、室温で1時間攪拌した。冷却して液温を0〜2℃に保ち、5℃以下を保持しながら39.8%亜硝酸水溶液(17.3g)を徐々に滴下し、引き続き0〜2℃下で1時間攪拌した。その後、反応液を30℃に保った48%HBr溶液38ml(予め溶液中にCuBr(18.6g,0.13mol)を含む)中に発泡に注意しながら徐々に滴下し、以後は終夜で攪拌した。
その後、70℃に昇温し、1時間攪拌したのち、液温を30℃まで冷却した後、固形分を濾別して、水500mlで洗浄後、引き続きアセトン300mlで洗浄、60℃で乾燥して化合物37(25.2g,収率90%)を得た。
化合物37のMS(70eV,EI)測定値は、m/z=555(M+)であった。
【0058】
実施例3 1,6−ジブロモ−2,7−ジヨード[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンの合成(化合物38)
化合物13(21.4g,0.05mol)を含む水溶液(70ml)に、濃塩酸52mlを徐々に滴下した後、室温で30分間攪拌した。冷却して液温を0〜2℃に保ち、5℃以下を保持しながら39.8%亜硝酸水溶液(17.7g)を徐々に滴下、引き続き0〜2℃で2時間攪拌した。その後、30℃に保った66%ヨウ化カリウム水溶液(1L)中に反応液を発泡に注意しながら徐々に滴下し、以後は室温下で終夜で攪拌した。
液温30℃で1時間攪拌したのち、70℃に昇温して1時間攪拌した。固形分を濾別して、水500mlで洗浄、引き続きメタノール300mlで洗浄し、60℃で乾燥し化合物38(29.7g,収率91%)を得た。
化合物38のMS(70eV,EI)測定値は、m/z=649(M+)であった。
【0059】
実施例4 1,6−ジブロモ−[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンの合成(化合物39)
化合物13(12.8g,0.03mol)のエタノール溶液(100ml)に硫酸30mlを徐々に加え、室温で30分間攪拌した。液温を0〜2℃に保ち、亜硝酸ナトリウム(7.25g,0.10mol)を少量ずつ添加した。室温で2時間攪拌したのち、エタノールを200ml加えて、1時間還流した。室温まで冷却後、固形分を濾別して水500mlで洗浄し、引き続きメタノール300mlで洗浄、60℃で乾燥して化合物39(11.0g,収率92%)を得た。
化合物39のMS(70eV,EI)測定値は、m/z=398(M+)であった。
【0060】
実施例5 1,6−ジフェニル−[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンの合成(化合物43)
化合物39(3.98g,0.01mol)のDMF溶液(200ml)にリン酸カリウム(34g,0.16mol)とフェニルホウ酸(3.05g,0.25mol)を加え、Pd(PPh(1.16g,1mmol)を添加して、6時間加熱した。反応液に、水300ml加えて、固形分を濾別し、水300ml、引き続きアセトン200mlで洗浄、60℃で乾燥して化合物43(2.5g,収率64%)を得た。
化合物43のMS(70eV,EI)測定値は、m/z=392(M+)であった。
【0061】
実施例6 1,6−ビス(4’−メチルフェニル)−2,7−ジアミノ[1]ベンゾチエノ[3,2−b][1]ベンゾチオフェンの合成(化合物55)
化合物13(8.56g,0.02mol)のDMF溶液(100ml)にリン酸カリウム(45.7g)と4−メチルフェニルホウ酸(6.80g,0.32mol)を加え、Pd(PPh(2.31g,2mmol)を添加して、6時間加熱した。反応液に、水300ml加えて、固形分を濾別し、水300ml、引きつ続きアセトン200mlで洗浄、60℃で乾燥して化合物55(8.56g,収率95%)を得た。
化合物55のMS(70eV,EI)測定値は、m/z=450(M+)であった。
【0062】
以上のように、本発明により、優れた有機半導体特性を有する化合物群であるBTBT誘導体(例えば、一般式(3)で示すような化合物群)を容易に合成出来るそれらの新規中間体化合物に関する製造方法(式(1)より式(2)の製造)は、極めて有用なものであると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1);
【化1】

式中、Xは、硫黄原子、又はセレン原子を表し、Aは、置換基を有してもよいアミノ基である;
で表される芳香族化合物と、少なくとも、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれか一つを含むハロゲン化剤とを反応させる、下記式(2);
【化2】

式中、X及びAは上に定義したとおりであり、Zは、それぞれ独立にフッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を表す;
で表される芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
ハロゲン化剤が、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、三塩化リン 、三臭化リン、四塩化炭素 、四臭化炭素、N−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド、N−ヨードスクシンイミド、N,N−ジクロロウレア、臭素酸ナトリウム、過ヨウ素酸、1,3−ジクロロ−5,5−ジメチルヒダントイン、1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントイン、塩化スルフリル、塩素、臭素、またはヨウ素から成る四級アンモニウムパーハライド、塩化第二銅、臭化第二銅、N−クロロ−フタルイミド、塩素、臭素又はヨウ素から成るピリジニウム−パーハライド、塩素、臭素又はヨウ素から成るピロリドンパーハライド、ヘキサクロロ−2,4−シクロヘキサジエノン、次亜ハロゲン酸t−ブチル、トリクロロイソシアヌル酸、トリクロロメタンスルホニルハロゲニド、及び一塩化ヨウ素からなる群から選択される、請求項1に記載の上記式(2)で表わされる芳香族化合物の製造方法。
【請求項3】
ハロゲン化剤が、塩素、臭素又はヨウ素から成る四級アンモニウムパーハライド、又は塩素、臭素又はヨウ素から成るピリジニウム−パーハライドである、請求項2に記載の上記式(2)で表わされる芳香族化合物の製造方法。
【請求項4】
沸点が100℃以上の反応溶媒を少なくとも一種類使用する、請求項1から3のいずれか一項に記載の上記式(2)で表される芳香族化合物の製造方法。
【請求項5】
上記沸点100℃以上の反応溶媒がアミド類、グリコール類、又はスルホキシド類であることを特徴とする、請求項4に記載の上記式(2)で表される芳香族化合物の製造方法。
【請求項6】
下記式(3)で表わされる芳香族化合物;
【化3】

式中、Xは硫黄原子又はセレン原子を表し、Yはそれぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、又は置換基を有してもよいアミノ基を表し、Zはそれぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、又はアリール基を表す。

【公開番号】特開2010−1236(P2010−1236A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160377(P2008−160377)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】