説明

芳香族炭化水素の製造方法

【課題】原料油から高い収率で炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を製造できるとともに、他の化学品も製造できるようにした、芳香族炭化水素の製造方法を提供する。
【解決手段】10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油から芳香族炭化水素を製造する製造方法である。原料油を、結晶性アルミノシリケートを含有する単環芳香族炭化水素製造用触媒に接触させ反応させて、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素、及び炭素数9以上の重質留分を含む生成物を得る分解改質反応工程と、分解改質反応工程で得られた生成物から炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素と炭素数9以上の重質留分とをそれぞれ分離する分離工程と、分離工程で分離された炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を精製し回収する精製回収工程と、分離工程で分離された炭素数9以上の重質留分からナフタレン類を分離し回収するナフタレン回収工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族炭化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流動接触分解(以下、「FCC」という。)装置で生成する分解軽油であるライトサイクル油(以下、「LCO」という。)は、多環芳香族炭化水素を多く含み、軽油または重油として利用されていた。しかし、近年ではLCOから、高オクタン価ガソリン基材や、石油化学原料として利用でき、付加価値の高い炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等)を得ることが検討されている。
例えば、特許文献1〜3では、ゼオライト触媒を用いて、LCO等に多く含まれる多環芳香族炭化水素から、単環芳香族炭化水素を製造する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−2128号公報
【特許文献2】特開平3−52993号公報
【特許文献3】特開平3−26791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の方法では、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素の収率が十分に高いとは言えなかった。
また、近年では、LCOのさらなる有効活用が期待されている。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を効率良く製造するのに加えて、同じプロセスあるいは一部に新たなプロセスを付加するだけで、有効な副生物として他の化学品も製造できるようにすることが期待されている。
【0005】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、多環芳香族炭化水素を含む原料油から高い収率で炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を製造できるとともに、他の化学品、例えば前記単環芳香族炭化水素以外の芳香族炭化水素も製造できるようにした、芳香族炭化水素の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は前記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
LCO中には多環芳香族炭化水素を多く含むことから、これを分解改質反応処理すると、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素以外に炭素数が9以上の重質留分も比較的多く得られる。この重質留分については、単に軽油・灯油基材として回収したり、前記単環芳香族炭化水素の原料としてリサイクルするといったことが検討されていただけであった。
【0007】
そこで、本発明者は重質留分の有効活用を図るべく、その成分を細かく分析した結果、重質留分にはナフタレンやアルキルナフタレンが多く含まれることが分かった。そして、このような知見に基づき、前記単環芳香族炭化水素の製造と並行して、化学品としてのナフタレンの製造についてさらに検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の芳香族炭化水素の製造方法は、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油から芳香族炭化水素を製造する芳香族炭化水素の製造方法であって、
前記原料油を、結晶性アルミノシリケートを含有する単環芳香族炭化水素製造用触媒に接触させ、反応させて、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素、及び炭素数9以上の重質留分を含む生成物を得る分解改質反応工程と、
前記分解改質反応工程で得られた生成物から炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素と炭素数9以上の重質留分とをそれぞれ分離する分離工程と、
前記分離工程で分離された炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を精製し、回収する精製回収工程と、
前記分離工程で分離された炭素数9以上の重質留分から少なくともナフタレンを含むナフタレン類を分離し、回収するナフタレン回収工程と、を有することを特徴としている。
【0009】
また、前記芳香族炭化水素の製造方法においては、前記ナフタレン回収工程が、ナフタレン以外にさらにメチルナフタレンおよび/またはジメチルナフタレンを分離し、回収する工程であるのが好ましい。
また、前記芳香族炭化水素の製造方法においては、前記ナフタレン回収工程でナフタレン類を分離した残りの留分を水素化する水素化反応工程と、前記水素化反応工程により得られる、前記ナフタレン類を分離した残りの留分の水素化反応物を前記分解改質反応工程に戻すリサイクル工程と、を有するのが好ましい。
また、前記芳香族炭化水素の製造方法においては、前記ナフタレン回収工程において、ナフタレンを含むナフタレン類を分離し、回収する手段が、蒸留装置を用いた手段であるのが好ましい。
【0010】
また、前記芳香族炭化水素の製造方法においては、前記分解改質反応工程で使用する単環芳香族炭化水素製造用触媒に含有される結晶性アルミノシリケートが、中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトを主成分としたものであるのが好ましい。
また、前記芳香族炭化水素の製造方法においては、前記分解改質反応工程において前記原料油と前記単環芳香族炭化水素製造用触媒とを反応させる際の反応温度を、400℃以上600℃以下とするのが好ましい。
また、前記芳香族炭化水素の製造方法においては、前記分解改質反応工程において前記原料油と前記単環芳香族炭化水素製造用触媒とを反応させる際の反応圧力を、0.1MPaG以上1.0MPaG以下とするのが好ましい。
また、前記芳香族炭化水素の製造方法においては、前記分解改質反応工程において前記原料油と前記単環芳香族炭化水素製造用触媒とを接触させる接触時間を、5秒以上300秒以下とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の芳香族炭化水素の製造方法によれば、多環芳香族炭化水素を含む原料油から比較的高い収率で炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を製造することができ、しかも、他の化学品としてナフタレンを含むナフタレン類も共に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の芳香族炭化水素の製造方法の一実施形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の芳香族炭化水素の製造方法について詳しく説明する。
図1は、本発明の芳香族炭化水素の製造方法の一実施形態を説明するための図であり、本実施形態の芳香族炭化水素の製造方法は、原料油から炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を製造するとともに、ナフタレンを含むナフタレン類を製造する方法である。
【0014】
すなわち、本実施形態の芳香族炭化水素の製造方法は、図1に示すように、
(a)原料油を、単環芳香族炭化水素製造用触媒に接触させ、反応させて、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素、及び炭素数9以上の重質留分を含む生成物を得る分解改質反応工程
(b)分解改質反応工程で生成した生成物を複数の留分に分離する分離工程
(c)分離工程で分離されたガス成分から、分解改質反応工程で副生した水素を回収する水素回収工程
(d)分離工程で分離された液体留分から、分解改質反応工程で副生したLPGを回収するLPG回収工程
(e)分離工程で分離された液体留分から単環芳香族炭化水素を精製し、回収する精製回収工程
(f)分離工程で分離された液体留分より得られる炭素数9以上の重質留分から、少なくともナフタレンを含むナフタレン類を分離し、回収するナフタレン回収工程
(g)水素回収工程で回収された水素を水素化反応工程に供給する水素供給工程
(h)ナフタレン回収工程でナフタレン類を分離した残りの留分を水素化する水素化反応工程
(i)水素化反応工程で得られた水素化反応物を分解改質反応工程に戻すリサイクル工程
なお、前記(a)〜(i)の工程のうち、(a),(b),(e),(f)の工程は、本願請求項1に係る発明において必須の工程であり、その他の工程は任意の工程である。
【0015】
以下、各工程について具体的に説明する。
<分解改質反応工程>
分解改質反応工程では、原料油を単環芳香族炭化水素製造用触媒に接触させて、原料油に含まれる飽和炭化水素を水素供与源とし、飽和炭化水素からの水素移行反応によって多環芳香族炭化水素を部分的に水素化し、開環させて単環芳香族炭化水素に転換する。これにより、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素、及び炭素数9以上の重質留分を含む生成物を得る。なお、この生成物には、単環芳香族炭化水素や重質留分以外にも、水素、メタン、エタン、エチレン、LPG(プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン等)などが含まれる。また、重質留分中には、ナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレンが多く含まれている。なお、本願においては、これらナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレンを総称して、「ナフタレン類」と記している。
本分解改質反応工程では、原料油中のナフテノベンゼン類、パラフィン類、ナフテン類等の成分は単環芳香族炭化水素を製造することで消失でき、多環芳香族炭化水素は単環芳香族炭化水素への転換と同時にアルキル側鎖を切断することで主にナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレンといった側鎖の少ない高付加価値のナフタレン類とすることが可能となる。したがって、本分解改質反応工程においては、単環芳香族炭化水素を高収率で製造できると同時に、ナフタレン類と近接する沸点を有する他の成分を極力削減し、側鎖の短いナフタレン類の生成量を増大させ、分解改質反応生成油中のナフタレン類の含有割合を高めることにより、後述するナフタレン類の回収を効率的に行うことができる。
なお、主な原料油として挙げられる分解軽油等には元々ナフタレン類が多く含まれているが、同時にナフテノベンゼン類、パラフィン類等の他の成分も多く含有されているため、原料油中のナフタレン類の含有割合が少なく、原料油から直接ナフタレン類を分離精製することは極めて困難である。もし、原料油からナフタレン類の分離精製を行う場合、晶析などのエネルギー多消費型プロセスを採用することになり好ましくない。
本分解改質反応工程は、上述の通り、有用な芳香族炭化水素を回収できる割合を大幅に向上させることを可能とする。
【0016】
(原料油)
本発明で使用される原料油は、10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下の油である。10容量%留出温度が140℃未満の油では、軽質のものから単環芳香族炭化水素を製造することになり、本発明の主旨にそぐわなくなる。また、90容量%留出温度が380℃を超える油を用いた場合には、単環芳香族炭化水素の収率が低くなる上に、単環芳香族炭化水素製造用触媒上へのコーク堆積量が増大して、触媒活性の急激な低下を引き起こす傾向にある。
原料油の10容量%留出温度は150℃以上であることが好ましく、原料油の90容量%留出温度は360℃以下であることが好ましい。一方、原料油の10容量%留出温度の上限および90容量%留出温度の下限に特に限定はないが、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素およびナフタレン類を効率的に製造できる点で、10容量%留出温度は210℃以下、90容量%留出温度は240℃以上が好ましい。
【0017】
なお、ここでいう10容量%留出温度、90容量%留出温度とは、JIS K2254「石油製品−蒸留試験方法」に準拠して測定される値を意味する。
10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油としては、例えば、FCC装置で生成する分解軽油(LCO)、LCOの水素化精製油、水素化分解軽油・熱分解軽油等の他の分解軽油、石炭液化油、重質油水素化分解精製油、直留灯油、直留軽油、コーカー灯油、コーカー軽油およびオイルサンド水素化分解精製油などが挙げられる。
【0018】
また、原料油中に多環芳香族炭化水素が多く含まれると単環芳香族炭化水素の収率が低下するため、原料油中の多環芳香族炭化水素の含有量(多環芳香族分)は50容量%以下が好ましく、40容量%以下であることがより好ましい。ただし、後述するように単環芳香族炭化水素とともに製造するナフタレン(またはナフタレン類)の収率をより高めたい場合には、原料油中の多環芳香族炭化水素の含有量(多環芳香族分)を例えば50容量%以上としてもよい。しかし、その場合においても、3環以上の芳香族炭化水素の含有量は30容量%以下とすることが好ましく、15容量%以下とすることがより好ましい。
なお、ここでいう多環芳香族分とは、JPI−5S−49「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に準拠して測定、あるいはFIDガスクロマトグラフ法にて分析される2環芳香族炭化水素含有量(2環芳香族分)および、3環以上の芳香族炭化水素含有量(3環以上の芳香族分)の合計値を意味する。以降、多環芳香族炭化水素、2環芳香族炭化水素、3環以上の芳香族炭化水素の含有量が容量%で示されている場合はJPI−5S−49法に、質量%で示されている場合はFIDガスクロマトフラフ法に基づいて測定されたものである。
【0019】
(反応形式)
原料油を単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触、反応させる際の反応形式としては、固定床、移動床、流動床等が挙げられる。本発明においては、重質分を原料とするため、触媒に付着したコーク分を連続的に除去可能で、かつ安定的に反応を行うことができる流動床が好ましく、反応器と再生器との間を触媒が循環し、連続的に反応−再生を繰り返すことができる、連続再生式流動床が特に好ましい。単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触する際の原料油は、気相状態であることが好ましい。また、原料は、必要に応じてガスによって希釈してもよい。
【0020】
(単環芳香族炭化水素製造用触媒)
単環芳香族炭化水素製造用触媒は、結晶性アルミノシリケートを含有する。
【0021】
[結晶性アルミノシリケート]
結晶アルミノシリケートは、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトであることが好ましい。
中細孔ゼオライトは、10員環の骨格構造を有するゼオライトであり、中細孔ゼオライトとしては、例えば、AEL、EUO、FER、HEU、MEL、MFI、NES、TON、WEI型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。これらの中でも、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできることから、MFI型が好ましい。
大細孔ゼオライトは、12員環の骨格構造を有するゼオライトであり、大細孔ゼオライトとしては、例えば、AFI、ATO、BEA、CON、FAU、GME、LTL、MOR、MTW、OFF型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。これらの中でも、単環芳香族炭化水素および炭素数3〜4の脂肪族炭化水素の合計の収率をより高くできることから、BEA型が好ましい。
【0022】
ただし、後述するように単環芳香族炭化水素とともに製造するナフタレン(またはナフタレン類)の収率をより高めたい場合には、前記のMFI型やBEA型のゼオライト以外の結晶性アルミノシリケートを含有したものを用いてもよいのは、もちろんである。
【0023】
また、結晶性アルミノシリケートは、中細孔ゼオライトおよび大細孔ゼオライト以外に、10員環以下の骨格構造を有する小細孔ゼオライト、14員環以上の骨格構造を有する超大細孔ゼオライトを含有してもよい。
ここで、小細孔ゼオライトとしては、例えば、ANA、CHA、ERI、GIS、KFI、LTA、NAT、PAU、YUG型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。
超大細孔ゼオライトとしては、例えば、CLO、VPI型の結晶構造のゼオライトが挙げられる。
【0024】
分解改質反応工程を固定床の反応とする場合、単環芳香族炭化水素製造用触媒における結晶性アルミノシリケートの含有量は、単環芳香族炭化水素製造用触媒全体を100質量%とした際の60〜100質量%が好ましく、70〜100質量%がより好ましく、90〜100質量%が特に好ましい。結晶性アルミノシリケートの含有量が60質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くできる。また、ナフタレン類の収率も比較的高くできる。
【0025】
分解改質反応工程を流動床の反応とする場合、単環芳香族炭化水素製造用触媒における結晶性アルミノシリケートの含有量は、単環芳香族炭化水素製造用触媒全体を100質量%とした際の20〜60質量%が好ましく、30〜60質量%がより好ましく、35〜60質量%が特に好ましい。結晶性アルミノシリケートの含有量が20質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くできる。また、ナフタレン類の収率も比較的高くできる。なお、結晶性アルミノシリケートの含有量が60質量%を超えると、触媒に配合できるバインダーの含有量が少なくなり、流動床用として適さないものになることがある。
【0026】
[リン、ホウ素]
単環芳香族炭化水素製造用触媒においては、リンおよび/またはホウ素を含有することが好ましい。単環芳香族炭化水素製造用触媒がリンおよび/またはホウ素を含有すれば、単環芳香族炭化水素の収率の経時的な低下を防止でき、また、触媒表面のコーク生成を抑制できる。
【0027】
単環芳香族炭化水素製造用触媒にリンを含有させる方法としては、例えば、イオン交換法、含浸法等により、結晶性アルミノシリケートまたは結晶性アルミノガロシリケートまたは結晶性アルミノジンコシリケートにリンを担持する方法、ゼオライト合成時にリン化合物を含有させて結晶性アルミノシリケートの骨格内の一部をリンと置き換える方法、ゼオライト合成時にリンを含有した結晶促進剤を用いる方法、などが挙げられる。その際に用いるリン酸イオン含有水溶液としては、特に限定されないものの、リン酸、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムおよびその他の水溶性リン酸塩などを任意の濃度で水に溶解させて調製したものを好ましく使用できる。
【0028】
単環芳香族炭化水素製造用触媒にホウ素を含有させる方法としては、例えば、イオン交換法、含浸法等により、結晶性アルミノシリケートまたは結晶性アルミノガロシリケートまたは結晶性アルミノジンコシリケートにホウ素を担持する方法、ゼオライト合成時にホウ素化合物を含有させて結晶性アルミノシリケートの骨格内の一部をホウ素と置き換える方法、ゼオライト合成時にホウ素を含有した結晶促進剤を用いる方法、などが挙げられる。
【0029】
単環芳香族炭化水素製造用触媒におけるリンおよび/またはホウ素の含有量は、触媒全体を100質量%とした際の0.1〜10質量%であることが好ましく、0.2〜5質量%であることがより好ましく、0.2〜2質量%であることがさらに好ましい。リンおよび/またはホウ素の含有量が0.1質量%以上であれば、経時的な収率低下をより防止でき、10質量%以下であれば、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできる。
【0030】
[ガリウム、亜鉛]
単環芳香族炭化水素製造用触媒には、必要に応じて、ガリウムおよび/または亜鉛を含有させることができる。ガリウムおよび/または亜鉛を含有させれば、単環芳香族炭化水素の生成割合をより多くできる。
単環芳香族炭化水素製造用触媒におけるガリウム含有の形態としては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内にガリウムが組み込まれたもの(結晶性アルミノガロシリケート)、結晶性アルミノシリケートにガリウムが担持されたもの(ガリウム担持結晶性アルミノシリケート)、その両方を含んだものが挙げられる。
【0031】
単環芳香族炭化水素製造用触媒における亜鉛含有の形態としては、結晶性アルミノシリケートの格子骨格内に亜鉛が組み込まれたもの(結晶性アルミノジンコシリケート)、結晶性アルミノシリケートに亜鉛が担持されたもの(亜鉛担持結晶性アルミノシリケート)、その両方を含んだものが挙げられる。
結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、SiO、AlOおよびGaO/ZnO構造が骨格中に存在する構造を有する。また、結晶性アルミノガロシリケート、結晶性アルミノジンコシリケートは、例えば、水熱合成によるゲル結晶化、結晶性アルミノシリケートの格子骨格中にガリウムまたは亜鉛を挿入する方法、または結晶性ガロシリケートまたは結晶性ジンコシリケートの格子骨格中にアルミニウムを挿入する方法により得られる。
【0032】
ガリウム担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートにガリウムをイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。その際に用いるガリウム源としては、特に限定されないが、硝酸ガリウム、塩化ガリウム等のガリウム塩、酸化ガリウム等が挙げられる。
亜鉛担持結晶性アルミノシリケートは、結晶性アルミノシリケートに亜鉛をイオン交換法、含浸法等の公知の方法によって担持したものである。その際に用いる亜鉛源としては、特に限定されないものの、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛塩、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0033】
単環芳香族炭化水素製造用触媒がガリウムおよび/または亜鉛を含有する場合、単環芳香族炭化水素製造用触媒におけるガリウムおよび/または亜鉛の含有量は、触媒全体を100質量%とした際の0.01〜5.0質量%であることが好ましく、0.05〜1.5質量%であることがより好ましい。ガリウムおよび/または亜鉛の含有量が0.01質量%以上であれば、単環芳香族炭化水素の生成割合をより多くでき、5.0質量%以下であれば、単環芳香族炭化水素の収率をより高くできる。
【0034】
[形状]
単環芳香族炭化水素製造用触媒は、反応形式に応じて、例えば、粉末状、粒状、ペレット状等にされる。例えば、流動床の場合には粉末状にされ、固定床の場合には粒状またはペレット状にされる。流動床で用いる触媒の平均粒子径は30〜180μmが好ましく、50〜100μmがより好ましい。また、流動床で用いる触媒のかさ密度は0.4〜1.8g/ccが好ましく、0.5〜1.0g/ccがより好ましい。
【0035】
なお、平均粒子径は、ふるいによる分級で得られた粒径分布において50質量%となる粒径を表し、かさ密度はJIS規格R9301−2−3の方法で測定された値である。
粒状またはペレット状の触媒を得る場合には、必要に応じて、バインダーとして触媒に不活性な酸化物を配合した後、各種成形機を用いて成形すればよい。
単環芳香族炭化水素製造用触媒がバインダー等の無機酸化物を含有する場合、バインダーとしてリンを含むものを用いても構わない。
【0036】
(反応温度)
原料油を単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触、反応させる際の反応温度については、特に制限されないものの、400〜600℃とすることが好ましく、450〜600℃とすることがより好ましい。反応温度が400℃以上であれば、原料油を容易に反応させることができる。また、反応温度が450℃以上かつ600℃以下であれば、単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くでき、しかもナフタレン類の収率も比較的高くできる。
【0037】
(反応圧力)
原料油を単環芳香族炭化水素製造用触媒と接触、反応させる際の反応圧力については、1.0MPaG以下とすることが好ましい。反応圧力が1.0MPaG以下であれば、軽質ガスの副生を抑制できる上に、反応装置の耐圧性を低くできる。また、0.1MPaG以上かつ1.0MPaG以下であれば、単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くでき、しかもナフタレン類の収率も比較的高くできる。
【0038】
(接触時間)
原料油と単環芳香族炭化水素製造用触媒との接触時間については、所望する反応が実質的に進行すれば特に制限はされないものの、例えば、単環芳香族炭化水素製造用触媒上のガス通過時間で5〜300秒が好ましく、さらに下限を10秒、上限を150秒とするのがより好ましい。接触時間が5秒以上であれば、確実に反応させることができ、接触時間が300秒以下であれば、コーキング等による触媒への炭素質の蓄積を抑制できる。または分解による軽質ガスの発生量を抑制できる。さらに、単環芳香族炭化水素の収率を十分に高くでき、しかもナフタレン類の収率も比較的高くできる。
【0039】
<分離工程>
分離工程では、分解改質反応工程で生成した生成物を複数の留分に分離する。
複数の留分に分離するには、公知の蒸留装置、気液分離装置を用いればよい。蒸留装置の一例としては、ストリッパーのような多段蒸留装置により複数の留分を蒸留分離できるものが挙げられる。気液分離装置の一例としては、気液分離槽と、該気液分離槽に前記生成物を導入する生成物導入管と、前記気液分離槽の上部に設けられたガス成分流出管と、前記気液分離槽の下部に設けられた液成分流出管とを具備するものが挙げられる。
【0040】
分離工程では、少なくともガス成分と液体留分とを分離するともに、該液体留分を、さらに複数の留分に分離する。このような分離工程として具体的には、炭素数2以下の成分(例えば、水素、メタン、エタン)を含むガス成分と、液体留分とに分離するとともに、前記液体留分を、LPG(例えば、プロピレン、プロパン、ブテン、ブタン)、単環芳香族炭化水素を含む留分、複数の重質留分に分けて分離するのが好ましい。したがって、本実施形態の分離工程では、前記生成物を、炭素数2以下の成分を含むガス成分と、LPGと、主に炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を含む留分と、ナフタレン類を主に含む重質留分と、その他の重質留分とに分けて分離する形態が好適に採用される。ただし、重質留分については、ナフタレン類を単独分離してもよく、また、重質留分を複数に分けることなく、まとめて分留するようにしてもよい。
【0041】
<精製回収工程>
精製回収工程は、分離工程で得られた炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を精製し、回収する。
この精製回収工程では、前記分離工程で液体留分が十分に分留されており、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素がベンゼン/トルエン/キシレンに分離されている場合には、それぞれを精製し回収する工程が採用される。また、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素としてまとめて分留されている場合には、この単環芳香族炭化水素を回収した後、ベンゼン/トルエン/キシレンに分離し、その後それぞれを精製、回収する工程が採用される。
【0042】
なお、前記分離工程で液体留分が良好に分留されておらず、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を回収した際に該単環芳香族炭化水素以外の留分を多く含んでいる場合には、この留分を分離し、例えば後述する水素化反応工程やナフタレン回収工程に供給するようにしてもよい。特に、単環芳香族炭化水素以外の留分のうち、該単環芳香族炭化水素よりも重質の留分(炭素数9以上の重質留分)については、ナフタレン回収工程に供給するのが好ましい。前記単環芳香族炭化水素よりも重質の留分(炭素数9以上の重質留分)は、多環芳香族炭化水素を主成分としており、特にナフタレンやアルキルナフタレンを多く含んでいるからである。
【0043】
<ナフタレン回収工程>
ナフタレン回収工程は、分離工程で分離された液体留分より得られる炭素数9以上の重質留分から、少なくともナフタレンを含むナフタレン類を分離し、回収する。
このナフタレン回収工程では、分離工程で分離された前記重質留分が、特にナフタレン類を主に含む重質留分と、その他の重質留分とに分けて分離されている場合には、ナフタレン類を含む重質留分を精製し、ナフタレン類を分離、回収する。また、分離工程において、炭素数9以上の重質留分を複数に分けることなく、まとめて分留している場合には、ナフタレン類を含む留分、具体的にはナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレンを含むナフタレン類、その他の留分に分離し、少なくともナフタレンを含むナフタレン類を精製し、回収する。
なお、重質留分を複数の留分に分離するには、前記分離工程で用いられたような公知の蒸留装置(蒸留塔)を用いればよい。
【0044】
前記分解改質反応工程を経ることで、分解改質反応生成油中のナフタレン類と近接する沸点を有する成分が大幅に削減されたため、本ナフタレン回収工程においては、前記分離工程で用いられたような公知の蒸留装置のみを用いてナフタレンを高純度で分離し、精製、回収することができる。例えば、ナフタレンを純度80〜98%程度にまで精製し、回収することが可能である。なお、回収されるナフタレン純度は、分解改質反応工程において残存するナフタレンと近接する沸点を有する成分の数および当該成分の生成量を削減すること、並びに蒸留装置の性能とにより決定される。95%以上の純度でナフタレンを回収した場合、一般に粗ナフタレンとして流通している商業価値を有する製品として取り扱うことが可能であり、純度が95%未満、例えば80〜95%程度のものについては、後に精製処理を行って95%以上に純度を上げることにより、化学品としての粗ナフタレンとすることが可能となる。また、95%以上の純度を有する留分においても、さらに精製処理を行い、より高純度のナフタレンにすることができる。この場合の精製処理手段としては、例えば晶析などが挙げられる。
【0045】
前記ナフタレン回収工程では、ナフタレンを分離、回収さえできれば、ナフタレン以外のナフタレン類をまとめてアルキルナフタレンとして、または個別にメチルナフタレン、ジメチルナフタレン等としてそれぞれ分離し、精製、回収してもよい。この場合、メチルナフタレンやジメチルナフタレンをそれぞれ純度80〜95%程度にまで精製し、回収する。その後、化学品として要求される純度にまで精製する。
【0046】
ここで、このナフタレン回収工程では、目的とするナフタレンやメチルナフタレン、ジメチルナフタレン以外の留分も得られる。この留分は系外に送られ、例えば必要に応じて精製等の処理がなされた後、軽油・灯油基材とされる。または、後述する水素化反応工程に送られ、さらにこの工程を経てリサイクルされるようになっている。
【0047】
なお、図1に示す本実施形態ではナフタレン回収工程が一つの工程になっているが、まず炭素数9以上の重質留分よりナフタレンを分離、回収する工程を設け、次にメチルナフタレン、ジメチルナフタレン等をそれぞれ分留し、回収する工程を設けるといった複数の工程に分けて、ナフタレン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレンをそれぞれ分留し、回収することもできる。また、これら以外の留分については、前記したように軽油・灯油基材とされ、あるいはリサイクルに供せられる。
【0048】
<水素化反応工程>
この水素化反応工程では、ナフタレン回収工程でナフタレン類を分離した残りの留分の一部または全部が、この水素化反応工程に供給され、これを水素化する。ここで、ナフタレン回収工程でナフタレンしか分離・回収せず、メチルナフタレンやジメチルナフタレンといったアルキルベンゼンについては分離・回収しなかった場合、これらアルキルベンゼンは前記の「ナフタレン類を分離した残りの留分」となり、水素化反応工程に供給されるようになる。なお、水素化反応工程に供給されなかったナフタレン類を分離した残りの留分を、軽油・灯油等の燃料基材として利用してもよい。
【0049】
具体的には、ナフタレン回収工程でナフタレン類を分離した残りの留分と水素とを水素化反応器に供給し、水素化触媒を用いて、ナフタレン類を分離した残りの留分に含まれる多環芳香族炭化水素の少なくとも一部を水素化処理する。
多環芳香族炭化水素については、特に限定されないものの、芳香環が平均1つ以下になるまで水素化することが好ましい。芳香環が平均1つ以下になるまで水素化すれば、分解改質反応工程に戻した際に単環芳香族炭化水素に容易に変換できる。
【0050】
また、特に単環芳香族炭化水素の収率をより向上するには、水素化反応工程で得られる水素化反応物における多環芳香族炭化水素の含有量を20質量%以下にすることが好ましく、10質量%以下にすることが好ましい。水素化反応物における多環芳香族炭化水素の含有量は、原料油の多環芳香族炭化水素含有量より少ないことが好ましく、水素化触媒量を増やす程、反応温度を高くする程、反応圧力を高くする程、減少させることができる。ただし、多環芳香族炭化水素の全部を飽和炭化水素になるまで水素化処理する必要はない。過剰な水素化は、水素消費量の増加、発熱量の増大を招く傾向にある。
【0051】
また、単環芳香族炭化水素の収率向上より、ナフタレン(ナフタレン類)の収率向上を優先させたい場合には、水素化反応工程で得られる水素化反応物における多環芳香族炭化水素の含有量を、20質量%以上にすることが好ましい。
本実施形態例では、水素として、分解改質反応工程で副生したものを利用することも可能である。すなわち、分離工程で得たガス成分から後述する水素回収工程で水素を回収し、水素供給工程で、回収した水素を水素化反応工程に供給する。
【0052】
水素化反応工程における反応形式としては、固定床が好適に採用される。
水素化触媒としては、公知の水素化触媒(例えば、ニッケル触媒、パラジウム触媒、ニッケル−モリブデン系触媒、コバルト−モリブデン系触媒、ニッケル−コバルト−モリブデン系触媒、ニッケル−タングステン系触媒等)を用いることができる。
反応温度は、使用する水素化触媒によっても異なるものの、通常は100〜400℃の範囲とされる。
【0053】
反応圧力については、8MPaG以下にすることが好ましい。反応圧力を8MPaG以下にすれば、耐用圧力の低い水素化反応器を使用でき、設備費を低減することができる。また、水素回収工程にて回収される水素の圧力は通常8MPaG以下であるから、回収された水素を昇圧せずに使用することができる。
一方、反応圧力は、水素化反応の収率の点からは、1.0MPaG以上であることが好ましい。
【0054】
<水素回収工程>
水素回収工程では、分離工程で得られたガス成分から水素を回収する。
水素を回収する方法としては、分離工程で得られたガス成分に含まれる水素とそれ以外のガスとを分離できれば、特に制限はなく、例えば圧力変動吸着法(PSA法)、深冷分離法、膜分離法などが挙げられる。
通常、水素回収工程で回収される水素の量は、前記の重質留分または軽油・灯油留分を水素化するのに必要な量より多くなる。
【0055】
<水素供給工程>
水素供給工程では、水素回収工程で得られた水素を水素化反応工程の水素化反応器に供給する。その際の水素供給量については、水素化反応工程に供給する、ナフタレン回収工程でナフタレン類を分離した残りの留分量に応じて調整される。また、必要であれば、水素圧力を調節する。
本実施形態例のように水素供給工程を備えることにより、前記分解改質反応工程で副生した水素を用いて前記のナフタレン回収工程でナフタレン類を分離した残りの留分を水素化することができ、装置の効率化を図ることができる。
【0056】
<リサイクル工程>
リサイクル工程では、水素化反応工程で得られた、ナフタレン回収工程でナフタレン類を分離した残りの留分の水素化反応物を原料油に混合して、分解改質反応工程に戻す。
このような水素化反応物を分解改質反応工程に戻すことにより、副生物であった重質留分(ナフタレン類を除く)も原料にして単環芳香族炭化水素やナフタレン類を得ることができる。そのため、副生物量を削減できる上に、単環芳香族炭化水素やナフタレン類の生成量を増やすことができる。また、水素化によって飽和炭化水素も生成するため、分解改質反応工程における水素移行反応を促進させることもできる。これらのことから、原料油の供給量に対する総括的な単環芳香族炭化水素の収率を向上することができるとともに、ナフタレン類の収率も向上することができる。
なお、水素化処理せずにナフタレン回収工程でナフタレン類を分離した残りの留分をそのまま分解改質反応工程に戻した場合には、多環芳香族炭化水素の反応性が低いため、単環芳香族炭化水素の収率向上はほとんど期待できない。ただし、ナフタレン類の収率向上を図ることは可能である。
【0057】
<LPG回収工程>
LPG回収工程は、分離工程で分離された液体留分から、分解改質反応工程で副生したLPGを回収する。
このLPG回収工程では、LPGとして炭素数が3、4の液体留分、すなわちプロピレン、プロパン、ブテン、ブタンを精製し、回収する。本実施形態の芳香族炭化水素の製造方法において分解改質反応生成油中には、通常の石油精製プロセスにおける水素化分解等の生成物と異なり、プロピレン、ブテン等のオレフィン類がより多く存在するため、必要に応じて、水素化もしくは精留によるオレフィン類の回収も可能である。
【0058】
以上説明したように本実施形態の芳香族炭化水素の製造方法にあっては、多環芳香族炭化水素を含む原料油から比較的高い収率で炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を製造することができ、しかも、他の化学品としてナフタレンを含むナフタレン類や、プロピレン、プロパン、ブテン、ブタンといったオレフィン類も共に製造することができる。
【0059】
特にナフタレンについては、従来ではコールタール留出油を冷却して結晶析出させる、晶析法によって製造するのが一般的であるが、晶析法は複雑な工程を要するため、製造コストが高いといった課題がある。
これに対して本実施形態の芳香族炭化水素の製造方法は、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を製造するプロセスにおいて、ナフタレン回収工程や必要に応じてナフタレン類分離回収工程を付加するだけで、比較的高い純度のナフタレンを得ることができる。したがって、ナフタレン(またはナフタレン類)の製造コストについては、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を製造する分を差し引くと、晶析法による従来法に比べ格段に低くなり、したがってナフタレン(またはナフタレン類)を安価に提供することが可能になる。
【0060】
「他の実施形態」
なお、本発明は前記実施形態例に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、図1に示した方法において、分離工程と精製回収工程との間に、分離工程で分離した液成分の一部を水素化する水素化反応工程を設け、精製回収工程では、水素化反応工程で得られた水素化反応物を蒸留して、単環芳香族炭化水素を精製し、回収するようにしてもよい。
また、分離工程で分離した重質留分の一部を、ナフタレン回収工程を経ずに水素化反応工程に供給し、水素化して分解改質反応工程に戻してもよい。
また、これら方法や図1に示した方法において、水素化反応工程で使用する水素については、分解改質反応工程で副生したものに代えて、公知の水素製造方法で得た水素を用いてもよく、また、他の接触分解方法で副生した水素を用いてもよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
〔単環芳香族炭化水素製造用触媒調製例〕
Gaおよびリン担持結晶性アルミノシリケートを含む触媒の調製:
硅酸ナトリウム(Jケイ酸ソーダ3号、SiO:28〜30質量%、Na:9〜10質量%、残部水、日本化学工業(株)製)の1706.1gおよび水の2227.5gからなる溶液(A)と、Al(SO・14〜18HO(試薬特級、和光純薬工業(株)製)の64.2g、テトラプロピルアンモニウムブロマイドの369.2g、HSO(97質量%)の152.1g、NaClの326.6gおよび水の2975.7gからなる溶液(B)をそれぞれ調製した。
次いで、溶液(A)を室温で撹拌しながら、溶液(A)に溶液(B)を徐々に加えた。得られた混合物をミキサーで15分間激しく撹拌し、ゲルを解砕して乳状の均質微細な状態にした。
次いで、この混合物をステンレス製のオートクレーブに入れ、温度を165℃、時間を72時間、撹拌速度を100rpmとする条件で、自己圧力下に結晶化操作を行った。結晶化操作の終了後、生成物を濾過して固体生成物を回収し、約5リットルの脱イオン水を用いて洗浄と濾過を5回繰り返した。濾別して得られた固形物を120℃で乾燥し、さらに空気流通下、550℃で3時間焼成した。
得られた焼成物は、X線回析分析(機種名:Rigaku RINT−2500V)の結果、MFI構造を有するものであることが確認された。また、蛍光X線分析(機種名:Rigaku ZSX101e)による、SiO/Al比(モル比)は、64.8であった。また、この結果から計算された格子骨格中に含まれるアルミニウム元素は1.32質量%であった。
次いで、得られた焼成物の1g当り5mLの割合で、30質量%硝酸アンモニウム水溶液を加え、100℃で2時間加熱、撹拌した後、濾過、水洗した。この操作を4回繰り返した後、120℃で3時間乾燥して、アンモニウム型結晶性アルミノシリケートを得た。その後、780℃で3時間焼成を行い、プロトン型結晶性アルミノシリケートを得た。
次いで、得られたプロトン型結晶性アルミノシリケート120gに、0.4質量%(結晶性アルミノシリケート総質量を100質量%とした値)のガリウムが担持されるように硝酸ガリウム水溶液120gを含浸させ、120℃で乾燥した。その後、空気流通下、780℃で3時間焼成して、ガリウム担持結晶性アルミノシリケートを得た。
次いで、得られたガリウム担持結晶性アルミノシリケート30gに、0.7質量%のリン(結晶性アルミノシリケート総質量を100質量%とした値)が担持されるようにリン酸水素二アンモニウム水溶液30gを含浸させ、120℃で乾燥した。その後、空気流通下、780℃で3時間焼成して、結晶性アルミノシリケートとガリウムとリンとを含有する触媒Aを得た。
【0063】
(実施例1)
原料油である表1に示すLCO(10容量%留出温度224.5℃、90容量%留出温度が349.5℃)を、反応温度:550℃、反応圧力:0.1MPaG、接触時間30秒の条件で、流動床反応器にて触媒A(ガリウム0.4質量%およびリン0.7質量%を担持したMFI型ゼオライト)と接触、反応させ、単環芳香族炭化水素の製造を行った。
得られた反応生成油をFIDガスクロマトグラフ法にて分析したところ、デュレン(沸点:196℃)とナフタレン(沸点:218℃)の間の不純物量はナフタレン100に対して1.9質量%であった。また、ナフタレンと2-メチルナフタレン(沸点:241℃)との間の不純物量はナフタレン100に対して0.6質量%であり、メチルナフタレン100に対しては0.4質量%であり、ナフタレンと近接する沸点を有する成分が非常に少ないことが分かった。
次いで、得られた反応生成油を精留塔にて、ガス留分、単環芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン)を含む留分、炭素数9以上の重質留分(重質留分1)に分留した。
重質留分1をさらに精留塔にて蒸留し、ナフタレン(沸点218℃)を主とする留分とナフタレン以外の留分(重質留分2)とに分留した。
分留して得られた単環芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン)の収率は30質量%、ナフタレン留分の収率は7量%であった。なお、ナフタレン留分中のナフタレン純度は96質量%であった。
【0064】
【表1】

【0065】
(実施例2)
原料油である表1に示すLCO(10容量%留出温度224.5℃、90容量%留出温度が349.5℃)を反応温度:550℃、反応圧力:0.3MPaG、接触時間18秒の条件で、固定床反応器にて触媒A(ガリウム0.4質量%およびリン0.7質量%を担持したMFI型ゼオライト)と接触、反応させ、単環芳香族炭化水素の製造を行った。
得られた反応生成油をFIDガスクロマトグラフ法にて分析したところ、デュレン(沸点:196℃)とナフタレン(沸点:218℃)の間の不純物量はナフタレン100に対して2.4質量%であった。また、ナフタレンと2-メチルナフタレン(沸点:241℃)との間の不純物量はナフタレン100に対して1.6質量%であり、メチルナフタレン100に対しては0.9質量%であり、ナフタレンと近接する沸点を有する成分が非常に少ないことが分かった。
次いで、得られた反応生成油を精留塔にて、ガス留分、単環芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン)を含む留分、炭素数9以上の重質留分に分留した。
炭素数9以上の重質留分をさらに精留塔にて蒸留し、ナフタレン(沸点218℃)を主とする留分とナフタレン以外の留分とに分留した。
分留して得られた単環芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン)の収率は37質量%、ナフタレン留分の収率は9量%であった。なお、ナフタレン留分中のナフタレン純度は95質量%であった。
【0066】
(実施例3)
実施例1において得られたナフタレン以外の留分(重質留分2:多環芳香族炭化水素含有量が95質量%以上)を市販のニッケル−モリブデン触媒を用い、反応温度350℃、反応分圧5MPaGの条件で水素化反応を行った。得られた水素化反応物は、芳香環を1つ有する炭化水素化合物を69質量%、芳香環を2つ以上有する化合物(多環芳香族炭化水素)を28質量%含み、水素化反応前と比べて多環芳香族炭化水素の含有量が大幅に減少していた。
次いで、表1に示すLCOに、水素化反応物をLCOに対して0.4質量倍となる量をリサイクルした原料油を、反応温度:550℃、反応圧力:0.3MPaG、接触時間30秒の条件で、流動床反応器にて触媒A(ガリウム0.4質量%およびリン0.7質量%を担持したMFI型ゼオライト)と接触、反応させ、単環芳香族炭化水素の製造を行った。
得られた単環芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン)の収率は36質量%であり、水素化反応物のリサイクルを行っていない実施例1と比較して単環芳香族炭化水素の収率の向上が見られた。
【0067】
実施例1〜3の結果より、本発明に係る芳香族炭化水素の製造方法に基づけば、ベンゼン、トルエン、キシレンからなる炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を収率よく得られるのと同時に、高純度(90質量%以上)のナフタレンも製造可能であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10容量%留出温度が140℃以上かつ90容量%留出温度が380℃以下である原料油から芳香族炭化水素を製造する芳香族炭化水素の製造方法であって、
前記原料油を、結晶性アルミノシリケートを含有する単環芳香族炭化水素製造用触媒に接触させ、反応させて、炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素、及び炭素数9以上の重質留分を含む生成物を得る分解改質反応工程と、
前記分解改質反応工程で得られた生成物から炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素と炭素数9以上の重質留分とをそれぞれ分離する分離工程と、
前記分離工程で分離された炭素数6〜8の単環芳香族炭化水素を精製し、回収する精製回収工程と、
前記分離工程で分離された炭素数9以上の重質留分から少なくともナフタレンを含むナフタレン類を分離し、回収するナフタレン回収工程と、を有することを特徴とする芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項2】
前記ナフタレン回収工程が、ナフタレン以外にさらにメチルナフタレンおよび/またはジメチルナフタレンを分離し、回収する工程であることを特徴とする請求項1記載の芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項3】
前記ナフタレン回収工程でナフタレン類を分離した残りの留分を水素化する水素化反応工程と、
前記水素化反応工程により得られる、前記ナフタレン類を分離した残りの留分の水素化反応物を前記分解改質反応工程に戻すリサイクル工程と、を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項4】
前記ナフタレン回収工程において、ナフタレンを含むナフタレン類を分離し、回収する手段が、蒸留装置を用いた手段であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項5】
前記分解改質反応工程で使用する単環芳香族炭化水素製造用触媒に含有される結晶性アルミノシリケートが、中細孔ゼオライトおよび/または大細孔ゼオライトを主成分としたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項6】
前記分解改質反応工程において前記原料油と前記単環芳香族炭化水素製造用触媒とを反応させる際の反応温度を、400℃以上600℃以下とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項7】
前記分解改質反応工程において前記原料油と前記単環芳香族炭化水素製造用触媒とを反応させる際の反応圧力を、0.1MPaG以上1.0MPaG以下とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の芳香族炭化水素の製造方法。
【請求項8】
前記分解改質反応工程において前記原料油と前記単環芳香族炭化水素製造用触媒とを接触させる接触時間を、5秒以上300秒以下とすることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の芳香族炭化水素の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−62255(P2012−62255A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205903(P2010−205903)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】