説明

芳香族炭化水素を製造する方法

【課題】 低級炭化水素を原料とした、選択性、および収量が大きな芳香族炭化水素の製造方法を提供する。
【解決手段】 芳香族炭化水素を製造する方法において、ケイ素化合物、ナトリウム化合物、もしくはカルシウム化合物によって修飾したメタロシリケート担体に、モリブデン成分、レニウム成分、あるいはこれらに、白金成分、ロジウム成分を担持した触媒の存在下に加熱して接触反応を行う芳香族炭化水素を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン等の低級炭化水素からベンゼン等の芳香族炭化水素を製造する方法に関し、液化石油ガス、液化天然ガス、石炭乾留ガス、石油精製ガス、ナフサ、有機物発酵ガス、有機物乾留ガス、石炭改質ガス、メタンハイドレート回収ガス等に含有する気体、あるいはこれらの分解生成物として得られる炭素原子数が1乃至8の炭化水素を原料として、芳香族炭化水素を製造する方法に関するものである。また、低級炭化水素を原料とした芳香族化触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素は主に石油系ナフサから製造されていたが、低級炭化水素、とりわけメタンからベンゼン等の芳香族炭化水素を製造する方法として、合成ゼオライトZSM−5に担持されたモリブテンを触媒として直接接触反応させる方法が知られている(例えば、非特許文献1)。しかしながら、それらの触媒を使用した場合、炭素析出が多いことやメタンの転化率が低い上に短時間での触媒活性の低下という技術課題があった。
【0003】
また、メタンやメタン含有低級炭化水素を原料として、ZSM−5にモリブテン、亜鉛等を担持した触媒の存在下で直接接触反応させる方法、あるいは少量の二酸化炭素を添加した原料気体を用いて反応させる方法等が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0004】
これらの方法により、メタン含有低級炭化水素から効率的にベンゼンなどの芳香族化合物が製造されて、長時間にわたり触媒性能が良好に保持されることが確認されている。しかしながら、これら改良型のメタンの芳香族化反応のプロセスでは、ZSM−5担持触媒を用いた場合、依然アルキルベンゼンやナフタレン類などの芳香族炭化水素が20%以上の選択率で生成することによりベンゼンの選択率は70%程度であり、触媒性能も反応時間の経過につれ幾分低下する傾向が観察されるなど、なお実用化技術として課題があった。
芳香族炭化水素の製造効率をさらに高め、ベンゼン選択率を向上させ、かつ長期間安定的な触媒性能を維持する反応効率に優れた触媒の開発が望まれていた。
【非特許文献1】JOURNAL OF CATALYSIS,165(2),150−161(1997)
【特許文献1】特開平10−272366号公報
【特許文献2】特開平11−60514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、メタンなどの低級炭化水素を原料として、ベンゼンあるいはベンゼンを主成分とする芳香族化合物と水素ガスとを高転化率且つ高選択率で同時に製造することができ、しかも長時間にわたり安定な触媒能を示す低級炭化水素の芳香族化触媒及びそれを用いた低級炭化水素からのベンゼンあるいはベンゼンを主成分とする芳香族化合物と水素の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、芳香族炭化水素を製造する方法において、ケイ素化合物、ナトリウム化合物、もしくはカルシウム化合物によって修飾したメタロシリケート担体に、モリブデン化合物もしくはレニウム化合物を担持した触媒の存在下に加熱して接触反応を行う芳香族炭化水素を製造する方法によって解決することができる。
触媒が、白金またはロジウムを含む前記の芳香族炭化水素を製造する方法である。
【0007】
メタロシリケート担体を修飾するケイ素化合物が、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基から選ばれる塩基性基と、トリアルコキシ基、トリフェニル基から選ばれるメタロシリケートの細孔径以上の大きさの有機基からなる前記の芳香族炭化水素を製造する方法である。
また、メタロシリケート担体を修飾するナトリウム化合物またはカルシウム化合物が、クラウンエーテル、へキサフルオロペンタンジオン、あるいはアセチルアセトナートから選ばれるメタロシリケートの細孔径以上の大きさの有機基からなる前記の芳香族炭化水素を製造する方法である。
【0008】
また、芳香族炭化水素の製造触媒において、ケイ素化合物、ナトリウム化合物、もしくはカルシウム化合物によって修飾したメタロシリケート担体に、モリブデン化合物もしくはレニウム化合物を担持した芳香族炭化水素の製造触媒である。
モリブデン化合物もしくはレニウム化合物に加えて、白金またはロジウム化合物を担持した前記の芳香族炭化水素の製造触媒である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の芳香族炭化水素を製造する方法は、高転化率および高選択率でメタン等の低級炭化水素から芳香族炭化水素を製造することができ、特にベンゼンの選択性が大きく、ベンゼンを主成分とする芳香族炭化水素を、長時間、安定に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、芳香族炭化水素の製造に使用する触媒として、従来のメタロシリケート担体にモリブデン等の金属成分を担持したものに比べて、メタロシリケート担体を、アミノシリケート等で修飾したもの担持することによって、ベンゼンを主成分とする芳香族炭化水素の転化率が向上し、生成物に占めるナフタレン等の割合が少なくなるとともに、長時間にわたり安定した性能を発揮することが可能であることを見出したものである。
【0011】
本発明の芳香族炭化水素の製造に使用する触媒担体として使用するメタロシリケートは、ゼオライトと称されるシリカ及びアルミナを主成分とする多孔質体であり、モレキュラーシーブ5A、フォジャサイト(NaY)及びNaX、ZSM−5、ZSM−11、ZRP−1,MCM−22、フェリオライト、β−ゼオライトなどを挙げることがができ、細孔径が0.4〜0.7nmのものが好ましい。
【0012】
また、本発明の低級炭化水素の芳香族化反応を、実用的な低級炭化水素の転化率及び芳香族炭化水素への選択率で実施するためには、シリカ/アルミナ比は10〜100であることが好ましい。さらに好ましくはシリカ/アルミナ比は20〜70であるアルミノシリケートである。
【0013】
また、本発明のメタロシリケート担体は、ケイ素化合物、ナトリウム化合物、カルシウム化合物等によって化学修飾されたものである。
ケイ素化合物としては、メタロシリケート表面と反応するアミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基等の塩基性基と、トリアルコキシ基、トリフェニル基のメタロシリケートの細孔径以上のかさ高い有機基を含む化合物を挙げることができる。
【0014】
具体的には、メトキシエチルトリエトキシシラン、3−アセトキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノプロピルトリエトキシラン、2−(4−ピリジル)トリエトキシシラン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5、ジヒドロイミダゾール、2−(トリエトキシシリル)ピリジン、3−(トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、ビス(トリメトキシルプロピル)アミン、ビス(メチルヂエトキシプロピル)アミン、シビスクロロメチルジクロロシラン、3−ブロモプロピルトリクロロシラン、3−ブロモプロピルトリメトキシシラン、パラクロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、シクロペンチルシラン、ジエチルシラン、ジメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、エチルメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、トリフェニルアミノシラン、トリフェニルシラン、テトラエトキシシラン、ジクロロシラン、ジヨードシラン、シラン、トリメチルシランなどが良い。
【0015】
さらに、好ましいケイ素化合物としてはメトキシエチルトリエトキシシラン、3−アセトキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニルアミノプロピルトリエトキシラン、2−(4−ピリジル)トリエトキシシラン、N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5、ジヒドロイミダゾール、2−(トリエトキシシリル)ピリジン、3−(トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、ビス(トリメトキシルプロピル)アミン、ビス(メチルジエトキシプロピル)アミンが挙げられる。
【0016】
ケイ素化合物をメタロシリケートに担持させる方法としては、ケイ素化合物を含有する有機溶媒溶液、例えば、ベンゼン、トルエン、メチレンクロライド、クロロホルム、ヘキサン、テトラフラン、エタノール、プロピルアルコール、ジエチルエーテル等を溶媒とした溶液をメタロシリケート担体に含浸させるか、あるいは窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性な気体、あるいは水素、二酸化炭素雰囲気中でケイ素化合物を吸着担持させた後、酸素含有雰囲気において加熱処理することによって製造することができる。
【0017】
例えば、ZSM−5粉体に3−アミノプロピルトリエトキシシランのトルエン溶液を含浸させ、溶媒を減圧蒸留で除去した後、空気気流中で250〜800℃、好ましくは350〜600℃で加熱処理して、化学修飾ZSM−5を製造することができる。
【0018】
メタロシリケート担体にケイ素化合物を担持させる場合には、メタロシリケート担体とケイ素化合物の比率は、酸化ケイ素(SiO2) 基準でメタルシリケート100重量部当たり、0.001−50重量部、より好ましくは0.0l〜10重量部であり、さらに好ましくは、0.1−5重量部である。
【0019】
また、化学修飾メタロシリケートとして、ナトリウム化合物、カルシウム化合物を担持する場合には、かさ高い有機基、例えば、12−クラウン−4(1,4,7,10−テトラオキサシクロドデカン)、15−クラウン−5(1,4,7,10,13−ペンタオキサシクロドデカン)、18−クラウン−6(1,4,7,10,13,16−ヘキサオキサシクロオクタデカン)、(18−クラウン−6)−2,3,11,12−テトラカルボン酸、2−アミノメチル−15−クラウン−5、2−(ヒドロキシメチル)−12−クラウン−4、2−(ヒドロキシメチル)−15−クラウン−5、2−(ヒドロキシメチル)−18−クラウン−6、2−(ヒドロキシメチル)アントラキノン、ヘキサフルオロペンタジオンナトリウム、ナトリウム2,4−ペンタジオン塩、リチウムテトラメチルペンタンジオン塩、トリメチルシラネートナトリウム塩、N−(トリメトキシシリルプロピル)ジエチレントリアミン、t−ブトキシナトリウム、Na(Li,K)フタロシアニン、トリ−t−ブチルプロピルアルコキサイド、アセチル酢酸カルシウム、カルシウムビス(6,6,7,7,8,8,8)ヘプタフルオロ−2,2−ジメチル−3,5−オクタジオン、ヘキサフルオロアセチル酢酸カルシウム、環状エチレンジアミノ化合物を含むナトリウム、カルシウムの錯体あるいは化合物を挙げることができる。
これらの金属含有有機化合物を用いてメタロシリケートを修飾する方法は、ケイ素化合物によって修飾する場合と同様の方法によって行うことができる。
【0020】
本発明の触媒は、以上のようにして製造したケイ素化合物、ナトリウム化合物、あるいはカルシウム化合物で修飾したメタロシリケート担体上に、モリブデン、またはレニウムの少なくてもいずれか一種を担持することによって製造することができる。担持は、これらの金属成分の前駆体の溶液を含浸する等の方法で担持させた後に酸素含有雰囲気において加熱することによって製造することができる。
【0021】
モリブデン、レニウムの前駆体としては、パラモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、12−ケイモリブデン酸、酸化物、あるいは塩化物、臭化物等のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の鉱酸塩、炭酸塩、酢酸塩、蓚酸塩等のカルボン酸塩、あるいはカルボニル錯体やアセチル酢酸塩などの金属錯塩などの金属錯体を挙げることができる。
【0022】
モリブデン、レニウム化合物の担持は、これらの化合物を含有した水溶液を化学修飾メタロシリケート担体に含浸させるか、あるいはイオン変換方法により担持させた後、空気中で加熱処理する方法によって製造することができる。
例えば、化学修飾メタロシリケート担体にモリブデン酸アンモニウムの水溶液を含浸させ、乾燥させた後、空気気流中で250〜800℃、好ましくは350〜600℃で加熱処理して、モリブデンを担持した化学修飾メタロシリケート触媒を製造することができる。
【0023】
モリブテン、レニウムを化学修飾メタロシリケート担体に担持させる際には、例えばモリブデンと化学修飾メタロシリケートの質量比は、化学修飾メタロシリケートの100重量部に対して、0.001〜50重量部が好ましく、より好ましくは0.0l〜30重量部である。
【0024】
また、本発明の触媒は、モリブデンまたはレニウム成分に加えて、白金またはロジウム成分を更に含有したものを用いることができる。
【0025】
白金、またはロジウム成分を導入する場合には、それらの塩化物、臭化物等のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩、蓚酸塩等のカルボン酸塩等を含む化合物を原料とすることができる。
【0026】
白金、またはロジウム成分と担体の質量比は、担体100重量部に対して、白金またはロジウムは0.001〜50重量部が好ましく、より好ましくは0.01〜40重量部である。
【0027】
白金、またはロジウムを化学修飾メタロシリケートに担持させる方法としては、モリブデンを導入する方法と同様にこれらの前駆体の水溶液を化学修飾メタロシリケート担体に含浸あるいはイオン変換方法により担持させた後、空気中で加熱処理することによって作製することができる。
【0028】
触媒の金属成分の担体への担持は、(1)モリブデン、またはレニウム成分の少なくともいずれか一種を担持して、その後に、白金、またはロジウム成分のうちの少なくともいずれか一種を担持する方法、(2)白金、またはロジウム成分のうち少なくとも一種を担持して、その後にモリブデン、またはレニウム成分の少なくてもいずれか一種を担持する方法、(3)モリブデン、またはレニウム成分の少なくともいずれか一種と、白金、またはロジウム成分の少なくともいずれか一種とを含んだ溶液を用いて担持する方法が挙げられる。
【0029】
これらの担持方法の一例を挙げると、例えば、化学修飾メタロシリケート担体に所定の量のモリブデン酸アンモニウムの水溶液を含浸させ、次いで乾燥させた後、空気気流中で250〜800℃、好ましくは350〜600℃で加熱処理し、その後、更に塩化白金酸あるいは塩化ロジウム水溶液を含浸させ、次いで乾燥させた後、空気気流中で250〜800℃、好ましくは350〜600℃で加熱処理して、モリブデン成分と白金成分とを担持した化学修飾メタロシリケート触媒、あるいはモリブデン成分とロジウム成分とを担持した化学修飾メタロシリケート触媒を製造することができる。
【0030】
また、以上の説明では、化学修飾したメタロシリケート担体に、触媒の金属成分を含有した化合物を含浸して担持した後に、加熱処理する方法について述べたが、メタロシリケート担体に、モリブデン酸アンモニウムの水溶液を含浸担持させ乾燥させた後、空気気流中で250〜800℃、好ましくは350〜600℃で加熱処理し、その後、更に塩化白金酸あるいは塩化ロジウム水溶液を含浸担持させ乾燥させた後、空気気流中で250〜800℃、好ましくは350〜600℃で加熱処理して、モリブデン成分と白金成分、あるいはモリブデン成分とロジウム成分を担持した後に、その後これに3−アミノプロピルトリエトキシシランのトルエン等の有機溶媒溶液を含浸担持させ、溶媒を減圧して除去した後、空気気流中で250〜800℃、好ましくは350〜600℃で加熱処理して製造することができる。
【0031】
また、本発明の芳香族炭化水素製造用の触媒にあっては、モリブデン、レニウム、あるいは白金、ロジウム等は金属、金属酸化物等の形態で存在しているものとみられ、本発明におけるモリブデン成分等の表現は、両者の少なくともいずれか一方を含有するものを意味する。
【0032】
本発明の芳香族炭化水素の製造方法は、以上で説明した化学修飾したメタロシリケート担体に、モリブデン、レニウム、白金、ロジウム成分を担持した触媒を用いて、低級炭化水素を原料として、酸素が存在しない気相中において、温度、300〜800℃、好ましくは450〜775℃、圧力0.01〜lMPa、好ましくは0.1〜0.7MPaにて接触反応をさせることによって行うことがができる。
反応は、回分式あるいは流通式の反応形式で実施され得るが、特に固定床、移動床又は流動化床等の流通式の反応形式で実施することが好ましい。
流通式では、重量時間空間速度(WHSV)は0.1〜10であり、好ましくは0.5〜5.0である。反応生成物から回収される未反応原料は、芳香族化反応に再循環させることができる。
【0033】
芳香族炭化水素の製造方法に用いる原料の低級炭化水素としては、反応条件において気体である分子中の炭素数が1〜8の飽和及び不飽和炭化水素が含まれているものを用いることができる。具体的には、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、n−ブタン、イソブタン、n−ブテン及びイソブテン、ペンタン、ペンテン、ヘキサン、ヘキセン、ヘプタン、ヘプテン、オクタン、オクテン等を挙げることができ、直鎖状に限らず、分岐状、環状構造のものを挙げることができる。
これらの単独のもの、混合物、各種の化学プロセス等から生じたもの、例えば、石油ガス、石炭乾留ガス、石油精製ガス、ナフサ、有機物発酵ガス、有機物乾留ガス、石炭改質ガス、メタンハイドレート回収ガス等を挙げることができる。
【0034】
また、本発明の芳香族化合物の製造方法においては、容積比で低級炭化水素100部に対して、1−20部、好ましくは3−10部の水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気を添加することによって、触媒表面への炭素析出を抑制することができる。
【0035】
本発明の芳香族化合物の製造方法においては、ベンゼンを主成分とする芳香族炭化水素とともに、水素を併産することを特徴としている。
一般に、メタン等の低級炭化水素の水蒸気改質とその後のシフトコンバータを利用した水素の製造方法では、低級炭化水素中の炭素成分はすべて二酸化炭素となり、生成した二酸化炭素は大気中へ放出されているので、環境負荷を高めることとなる。
これに対して、本発明の方法では、低級炭化水素中の炭素はすべて芳香族炭化水素等として利用されるので、本発明で併産される水素を燃料電池等の原料として使用する場合には、環境問題に対しても好ましいものである。
以下に、本発明を実施例、比較例を示し説明する。
【実施例1】
【0036】
(試料1〜4の調製)
メタロシリケート担体として、シリカ/アルミナ比が32、比表面積は320m2/g である10gのHZSM−5に対して、37mg、92mg、184mg、368mgの3−アミノプロピルトリエトキシシランをエタノール溶液で添加し、十分吸着担持した後に、120℃で16時間乾燥、大気中で550℃で4時間焼成することにより酸化ケイ素基準で、メタロシリケート100重量部に対して、修飾量がそれぞれ0.1重量部、0.25重量部、0.5重量部、および1.0重量部である酸化ケイ素修飾HZSM−5担体を得た。
【0037】
得られた酸化ケイ素の修飾量が異なるHZSM−5をそれぞれモリブデン酸アンモニウム1.174gをイオン交換水17mlに溶解した水溶液を含浸し、550℃で10時間の焼成後に、酸化ケイ素修飾量がそれぞれ37mgの試料1、92mgの試料2、184mgの試料3、および368mgの試料4を得た。
【0038】
(芳香族炭化水素の製造試験)
各触媒の1.2gを用いて、メタンおよび水素を含有した気体を原料にして芳香族炭化水素の製造試験を行い、触媒の性能を確認した。
製造試験は、触媒を固定床に充填し、触媒を空気気流下550℃まで昇温し、1時間維持した後、メタン93体積%に水素7体積%を含有する低級炭化水素原料を供給して、650℃まで昇温し、1時間維持した。その後、750℃まで昇温し、圧力0.3MPaの条件で重量時間速度(WHSV)2700ml/g/hで混合気体を供給して、の条件下で実施した。
【0039】
生成物中の水素、メタンは、熱伝導率検出装置を使用したガスクロマトグラフィーによって、また炭化水素は、水素炎検出装置を使用したガスクロマトグラフィーによって測定した。
なお、ここで性能の指標は触媒1g当り1秒間に生成した各生成物、すなわち、水素及び芳香族炭化水素のnmo1数とした。
得られた測定結果を表1に示す。
【実施例2】
【0040】
(試料5〜7の調製)
実施例1でメタロシリケート担体の修飾に用いた3−アミノプロピルトリエトキシシランに代えて、異なる組成と量のケイ素含有物質を用いた点を除き、他の点は実施例1と同様にして、175mgの3−アミノプロピルトリメトキシシランを用い、メタロシリケート担体の100重量部に対してケイ素酸化物の修飾量が1.1重量部の試料5、180mgのプロピルトリエトキシシランを用い、メタロシリケート担体の100重量部に対してケイ素酸化物の修飾量が1.1重量部の試料6、375mgのトリフェニルアミノシランを用いた、メタロシリケート担体の100重量部に対してケイ素酸化物の修飾量が1.1重量部の試料7のそれぞれの触媒を調製した。
【0041】
(芳香族炭化水素の製造試験)
各触媒の1.2gを用いて、実施例1と同様にして芳香族炭化水素の製造試験を行い、触媒の性能を確認した。
得られた測定結果を表1に示す。
【実施例3】
【0042】
(試料8、9の調製)
実施例1でメタロシリケート担体の修飾に用いた3−アミノプロピルトリエトキシシランに代えて、280mgの18−クラウンー6ナトリウム塩のエタノール溶液、あるいは275mgのへキサフルオロペンタンジオンナトリウム塩を用いて修飾を行った点を除き、他の点は実施例1と同様にして、酸化ナトリウム(Na2O )基準で、メタロシリケート100重量部に対して、修飾量がそれぞれ1.1重量部である試料8、試料9の触媒を調製した。
【0043】
(芳香族炭化水素の製造試験)
各触媒の1.2gを用いて、実施例1と同様にして芳香族炭化水素の製造試験を行い、触媒の性能を確認した。
得られた測定結果を表1に示す。
【実施例4】
【0044】
(試料10の調製)
実施例1でメタロシリケート担体の修飾に用いた3−アミノプロピルトリエトキシシランに代えて、230mgのカルシウムアセチルアセトナートを用いて修飾を行った点を除き、他の点は実施例1と同様にして、酸化カルシウム(CaO )基準で、メタロシリケート100重量部に対して、修飾量が1.1重量部である試料10の触媒を調製した。
【0045】
(芳香族炭化水素の製造試験)
各触媒の1.2gを用いて、実施例1と同様にして芳香族炭化水素の製造試験を行い、触媒の性能を確認した。
得られた測定結果を表1に示す。
【0046】
比較例1
(比較試料1の調製)
HZSM−5の10gにモリブデン酸アンモニウム1.17gを水17mlに溶解した水溶液を含浸し、550℃で10時間の焼成し、比較試料1のモリブデン担持HZSM−5触媒を得た。
【0047】
(芳香族炭化水素の製造試験)
得られた触媒の1.2gを用いて、実施例1と同様にして芳香族炭化水素の製造試験を行い、触媒の性能を確認した。
得られた測定結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【実施例5】
【0049】
(試料11の調製)
実施例1でメタロシリケート担体の修飾に用いた3−アミノプロピルトリエトキシシランに代えて、475mgの3−アミノプロピルトリメトキシシランを用いて修飾を行った点を除き、他の点は実施例1と同様にして、酸化ケイ素(SiO2 )基準で、メタロシリケート100重量部に対して、修飾量が1.1重量部である修飾メタロシリケートを作製した。
次いで、得られた修飾メタロシリケート担体の1.5gにパラレニウム酸アンモニウム1.25gをイオン交換水20mlに溶解した水溶液を含浸し、350℃で10時間の焼成後に、酸化レニウムを担持した試料11の酸化ケイ素修飾HZSM−5触媒を得た。
【0050】
(芳香族炭化水素の製造試験)
各触媒の1.2gを用いて、実施例1と同様にして芳香族炭化水素の製造試験を行い、触媒の性能を確認した。
得られた測定結果を表2に示す。
【実施例6】
【0051】
(試料12の調製)
実施例1でメタロシリケート担体の修飾に用いた3−アミノプロピルトリエトキシシランに代えて、426mgの3−トリメトキシシリルプロピルジエチレントリアミンをエタノール溶液を用いて修飾を行った点を除き、他の点は実施例1と同様にして、酸化ケイ素(SiO2 )基準で、メタロシリケート100重量部に対して、修飾量が1.1重量部である修飾メタロシリケートを作製した。
次いで、得られた修飾メタロシリケート担体の1.5gにパラレニウム酸アンモニウム1.25gと塩化白金酸0.275gをイオン交換水20mlに溶解した水溶液を含浸し、350℃で10時間の焼成後に酸化レニウム−白金を担持した試料12の酸化ケイ素修飾HZSM−5触媒を得た。
【0052】
(芳香族炭化水素の製造試験)
得られた触媒の1.2gを用いて、実施例1と同様にして芳香族炭化水素の製造試験を行い、触媒の性能を確認した。
得られた測定結果を表2に示す。
【実施例7】
【0053】
(試料13の調製)
メタロシリケート担体として、10gのHZSM−11を用い、435mgの3−メチルプロピルトリエトキシシランおよびN−フェニルアミノプロピルトリエトキシシランをエタノール溶液で添加し、十分含浸した後に、120℃で16時間乾燥、550℃で4時間焼成することにより、酸化ケイ素(SiO2 )基準で、メタロシリケート100重量部に対して、修飾量が1.0重量部である修飾メタロシリケートを作製した。
次いで、得られた修飾メタロシリケート5gにモリブテン酸アンモニウム1.25gと0.35gの塩化ロジウムを水25mlに溶解した水溶液を含浸し、大気中において350℃で10時間の焼成後に、試料13のMo−Rh担持酸化ケイ素修飾ZSM−11を得た。
【0054】
(芳香族炭化水素の製造試験)
得られた触媒の1.2gを用いて、実施例1と同様にして芳香族炭化水素の製造試験を行い、触媒の性能を確認した。
得られた測定結果を表2に示す。
【実施例8】
【0055】
(試料14の調製)
メタロシリケート担体として、10gのMCM−22を用いた点を除き、実施例7と同様にして酸化ケイ素(SiO2 )基準で、メタロシリケート100重量部に対して、修飾量が1.0重量部である修飾メタロシリケートを作製した。
次いで、得られた修飾メタロシリケート5gに実施例7と同様にして触媒金属成分を担持して、試料14のMo−Rh担持酸化ケイ素修飾MCM−22を得た。
【0056】
(芳香族炭化水素の製造試験)
得られた触媒の1.2gを用いて、実施例1と同様にして芳香族炭化水素の製造試験を行い、触媒の性能を確認した。
得られた測定結果を表2に示す。
【実施例9】
【0057】
(試料15の調製)
メタロシリケート担体として、10gのβ−ゼオライトを用いた点を除き、実施例7と同様にして酸化ケイ素(SiO2 )基準で、メタロシリケート100重量部に対して、修飾量が1.0重量部である修飾メタロシリケートを作製した。
次いで、得られた修飾メタロシリケート5gに、モリブテン酸アンモニユウム1.25gと0.52gの塩化白金酸を水25mlに溶解した水溶液を含浸し、350℃で10時間の焼成後に、試料15のMo−Pt担持酸化ケイ素修飾―ゼオライト触媒を得た。
【0058】
(芳香族炭化水素の製造試験)
得られた触媒の1.2gを用いて、実施例1と同様にして芳香族炭化水素の製造試験を行い、触媒の性能を確認した。
得られた測定結果を表2に示す。
【0059】
比較例2
(比較試料2の調製)
HZSM−5の10gにパラレニウム酸アンモニウム1.24gを水17mlに溶解した水溶液を含浸し、550℃で10時間の焼成し、比較試料2のレニウム担持HZSM−5触媒を得た。
【0060】
(芳香族炭化水素の製造試験)
得られた触媒の1.2gを用いて、実施例1と同様にして芳香族炭化水素の製造試験を行い、触媒の性能を確認した。
得られた測定結果を表1に示す。
【0061】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の芳香族炭化水素を製造する方法は、ケイ素、アルカリ金属、あるいはアルカリ土類金属含有化合物によって修飾したメタロシリケート担体に金属またはその酸化物を担持した触媒を用いたので、低級炭化水素を原料として反応初期から、ベンゼンを主成分とする芳香族炭化水素を高い選択率と収量で製造することができ、反応時間が経過しても収量の減少が少ないものであって、低級炭化水素を原料とした芳香族炭化水素の効率的な製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素を製造する方法において、ケイ素化合物、ナトリウム化合物、もしくはカルシウム化合物によって修飾したメタロシリケート担体に、モリブデン化合物もしくはレニウム化合物を担持した触媒の存在下に加熱して接触反応を行うことを特徴とする芳香族炭化水素を製造する方法。
【請求項2】
触媒が、白金またはロジウムを含むことを特徴とする請求項1記載の芳香族炭化水素を製造する方法。
【請求項3】
メタロシリケート担体を修飾するケイ素化合物が、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基から選ばれる塩基性基と、トリアルコキシ基、トリフェニル基から選ばれるメタロシリケートの細孔径以上の大きさの有機基からなることを特徴とする請求項1または2記載の芳香族炭化水素を製造する方法。
【請求項4】
メタロシリケート担体を修飾するナトリウム化合物またはカルシウム化合物が、クラウンエーテル、へキサフルオロペンタンジオン、あるいはアセチルアセトナートから選ばれるメタロシリケートの細孔径以上の大きさの有機基からなることを特徴とする請求項1または2記載の芳香族炭化水素を製造する方法。
【請求項5】
芳香族炭化水素の製造触媒において、ケイ素化合物、ナトリウム化合物、もしくはカルシウム化合物によって修飾したメタロシリケート担体に、モリブデン化合物もしくはレニウム化合物を担持したことを特徴とする芳香族炭化水素の製造触媒。
【請求項6】
モリブデン化合物もしくはレニウム化合物に加えて、白金またはロジウム化合物を担持したことを特徴とする請求項5記載の芳香族炭化水素の製造触媒。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素を製造する方法において、ケイ素化合物、ナトリウム化合物、又はカルシウム化合物によって修飾したメタロシリケート担体に、モリブデン化合物もしくはレニウム化合物を担持した触媒の存在下に加熱して接触反応を行う方法であって、前記ケイ素化合物は、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基から選ばれる塩基性基と、トリアルコキシ基、トリフェニル基から選ばれるメタロシリケートの細孔径以上の大きさの有機基を有するケイ素化合物であり、前記ナトリウム化合物あるいは前記カルシウム化合物は、クラウンエーテル、へキサフルオロペンタンジオン、アセチルアセトナートから選ばれるメタロシリケートの細孔径以上の大きさの有機基を有する化合物であることを特徴とする芳香族炭化水素を製造する方法。
【請求項2】
触媒が、白金またはロジウムを含むことを特徴とする請求項1記載の芳香族炭化水素を製造する方法。
【請求項3】
芳香族炭化水素の製造触媒において、ケイ素化合物、ナトリウム化合物、又はカルシウム化合物によって修飾したメタロシリケート担体に、モリブデン化合物もしくはレニウム化合物を担持した触媒であって、前記ケイ素化合物は、アミノ基、アルキルアミノ基、ピリジル基から選ばれる塩基性基と、トリアルコキシ基、トリフェニル基から選ばれるメタロシリケートの細孔径以上の大きさの有機基を有するケイ素化合物であり、前記ナトリウム化合物あるいは前記カルシウム化合物は、クラウンエーテル、へキサフルオロペンタンジオン、アセチルアセトナートから選ばれるメタロシリケートの細孔径以上の大きさの有機基を有する化合物であることを特徴とする芳香族炭化水素の製造触媒。
【請求項4】
モリブデン化合物もしくはレニウム化合物に加えて、白金またはロジウム化合物を担持したことを特徴とする請求項3記載の芳香族炭化水素の製造触媒。

【公開番号】特開2006−249065(P2006−249065A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208437(P2005−208437)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(597039939)
【Fターム(参考)】