説明

苗移植機

【課題】 従来の乗用田植機は、苗植付部のフロートの前方で走行車体の後輪後方には小さな空間しかなく整地装置を配置することが難しく、また、新たに付設した整地装置を苗植付部や昇降リンク機構に干渉させずに上昇させることは困難であった。
【解決手段】 走行車体の後部に昇降リンク機構を介してフロート(27a)及び苗植付装置(25)を装備した苗植付部(4)を昇降自在に連結し、苗植付部(4)の前側で走行車体の後側に苗植付部(4)により支持アーム(32)を介して支持された整地装置(28)を設け、支持アーム(32)をバネを介して上下回動自在に設け、昇降リンク機構により苗植付部(4)を非植付位置に上昇させたときに、所定の荷重が上方から作用して支持アーム(32)が下方に回動して退避することにより、前記整地装置(28)が苗植付部(4)に対して相対的に下降して昇降リンク機構の上方への移動を妨げない構成とした苗移植機とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、苗移植機の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来の乗用田植機は、走行車体の後部に昇降リンク機構を介して苗植付部を昇降自在に連結し、苗植付部の苗植付装置の前側に位置するフロートで植付面を整地し苗植付装置により苗を植え付ける構成である(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−46529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来装置では、フロートで整地した植付面に苗植付装置により苗を植え付ける構成であるので、走行車体の旋回した枕地の苗植付作業では、車輪による泥の移動が多く凹凸が多いため、フロートだけでは均平整地作業が不十分で、苗の植付精度を向上させることが困難であるという不具合があった。
【0004】
この不具合を解決し枕地の均平整地を向上させるためには、フロートの外にもう一つの整地装置を付設することで解決できる。しかし、苗植付部のフロートの前方で走行車体の後輪後方には小さな空間しかなく整地装置を配置することが難しく、また、新たに付設した整地装置を苗植付部や昇降リンク機構に干渉させずに上昇させることは困難であった。そこで、この発明はこのような問題点を解消しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、次のような技術的手段を講じた。
すなわち、走行車体(2)の後部に昇降リンク機構(3)を介してフロート(27a,27b,27c)及び苗植付装置(25)を装備した苗植付部(4)を昇降自在に連結し、苗植付部(4)の前側で走行車体(2)の後側に苗植付部(4)により支持アーム(32)を介して支持された整地装置(28)を設け、支持アーム(32)をバネ(33)を介して上下回動自在に設け、昇降リンク機構(3)により苗植付部(4)を非植付位置に上昇させたときに、所定の荷重が上方から作用して支持アーム(32)が下方に回動して退避することにより、前記整地装置(28)が苗植付部(4)に対して相対的に下降して昇降リンク機構(3)の上方への移動を妨げない構成としたことを特徴とする苗移植機とした。
【0006】
従って、昇降リンク機構(3)を下降し苗植付部(4)が作業位置(A)に位置している状態では、フロート(27a,27b,27c)及び整地装置(28)により均平整地し苗植付装置(25)により苗を植え付けていく。走行車体2が畔際で旋回する際に、昇降リンク機構(3)を上昇させると、所定の荷重が上方から作用して支持アーム(32)が下方に回動して退避し、整地装置(28)が苗植付部(4)に対して相対的に下降して昇降リンク機構(3)の上方への移動を妨げない。
【発明の効果】
【0007】
よって、整地装置28を苗植付部4の前側で走行車体2の後側に備えたものでありながら苗植付部4を高い位置まで上昇させることができ、また、整地装置28の長さを短縮できて乗用田植機の機体全長を縮小して機体の前後バランスを向上させることができ、また、走行性能及び作業性能の向上を図り、苗の植付姿勢の安定化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。
図1〜図2に基づき先ず苗移植機1の全体構成について説明する。この苗移植機1は、乗用の走行車体2の後部に昇降リンク機構3を介して例えば6条植えの苗植付部4が昇降可能に装着されていて、全体で乗用田植機として構成されている。
【0009】
走行車体2には、左・右前輪5,5及び左・右後輪6,6を備えている。機体の前部に配したミッションケース7の左右両側に前輪ファイナルケース8,8を設けて、この前輪ファイナルケース8,8の下部から横側方に突出する前車輪軸に左・右前輪5,5を取り付けている。また、ミッションケース7の背面部に主フレーム9の前端を固着し、その主フレーム9の後端中央部に前後方向水平の後輪ローリング軸を支点にして後輪ギヤケース10,10をローリング自在に支持し、その後輪ギヤケース10,10から横側方に突出する後車軸に左・右後輪6,6を取り付けている。
【0010】
主フレーム9上にエンジン11を搭載し、エンジン11の左側面に突出しているエンジン出力軸に回転動力を取り出し、この回転動力を第1ベルト伝動装置12を介して油圧ポンプ(図示省略)の駆動軸に伝動し、更に、無段変速可能な第2ベルト伝動装置13を経由してミッションケース7に伝達している。
【0011】
ミッションケース7に伝動された回転動力は、ケース内の主変速装置(図示省略)で変速して走行動力と作業機動力に分岐して取り出し、走行動力を前輪ファイナルケース8,8経由で左・右前輪5,5に伝動すると共に、後輪ギヤケース10,10経由で左・右後輪6,6に伝動する。また、作業機動力をPTO軸14から屈折自在の作業機伝動軸15を経て苗植付部4に伝達してその作動部を駆動する。
【0012】
エンジン11の上部をエンジンカバー16で被覆し、エンジンカバー16上に操縦席17を設けている。操縦席17の前方に左・右前輪5,5を操舵操作するハンドル18を設け、走行車体2の前部左右両側に補給用苗を載せる予備苗載せ台19を設けている。
【0013】
昇降リンク機構3は平行リンク構成で、1本の上部リンク3aと左右一対の下部リンク3b,3bにより構成している。これらのリンク3a,3b,3bの基部側を主フレーム9の後端部に立設したリンク前フレーム20に回動自在に軸支し、リンク3a,3b,3bの先端部にリンク後フレーム21を連結している。そして、リンク後フレーム21に苗植付部4をローリング自在に装着している。
【0014】
主フレーム9に固着した支持部材と上部リンク3aに一体形成したスイングアーム22先端との間に、油圧昇降シリンダ23を介装し、この油圧昇降シリンダ23を油圧により伸縮させて、上部リンク3aを上下に回動させ、リンク後フレーム21に連結した苗植付部4を略一定姿勢で昇降させる。油圧昇降シリンダ23は走行車体2に設けた油圧昇降バルブ(図示省略)により伸縮制御される。
【0015】
苗植付部4は例えば6条植えで、苗を一株分づつ所定の苗取出口に供給する苗載せ台24と、苗取出口に供給された苗を圃場に植え付ける6組の苗植付装置25,25,…と、これら苗載せ台24と苗植付装置25,25,…を支持し、且つ、これらに動力を伝達する伝動フレーム26と、苗植え付けに先行して圃場表面を整地するフロートである中央フロート27a,左フロート27b及び右フロート27cを備えている。
【0016】
次に、図3及び図4により苗植付部4の整地装置28について説明する。この整地装置28は、中央整地板28a、該中央整地板28aの左右両側に着脱自在に取り付けられている左・右整地板28b,28cにより構成されている。この中央整地板28a及び左・右整地板28b,28cを前記苗植付部4よりも前側で、且つ、走行車体2の後側に配置されていて、苗植付部4側に取り付けられている。
【0017】
苗植付部4の中央フロート27aを左フロート27b及び右フロート27cよりも前方に配置し、前記中央整地板28aを中央フロート27aの前方に接近して配置し、且つ、左・右後輪6,6の内側に位置し、下部リンク3b,3bの後部下方に位置するように配置している。そして、中央フロート27aに取り付けられている左・右整地板28b,28cは、その左右外側の自由端側を順次後方に位置するように後傾斜に配置し、且つ、左・右後輪6,6の内側に配置している。
【0018】
なお、走行車体2に左・右後輪6,6及び左・右補助車輪29,29を装着した場合には、前記左・右整地板28b,28cの取付位置に左・右補助車輪29,29が位置する関係となる。従って、左・右補助車輪29,29を装着する場合には、左・右整地板28b,28cを取り外し、中央整地板28aのみ取り付けて苗植付作業をする。
【0019】
苗植付部4の伝動フレーム26に取り付けた左右のブラケット30に、ピン31,31を介して左右一対の支持アーム32,32の後端部を上下回動自在に軸支し、支持アーム32,32の前端部に整地装置28の中央整地板28aを取り付けている。このブラケット30と支持アーム32,32との間にバネ33,33を介装して、上下方向に荷重のかからない常態で支持アーム32,32を前後方向に沿わせた状態で支持し、支持アーム32,32に対して所定荷重が上方から作用すると下方に退避回動する構成としている。
【0020】
伝動フレーム26にL形の切替アーム34,34をピン31により軸支し、この切替アーム34,34の一端部を前記バネ33,33の後端部に当接し、整地深さ切替レバー35及び切替ワイヤ36,36を介して、前記切替アーム34,34を下方の整地位置及び上方の非整地位置との切り替えできる構成である。
【0021】
しかして、整地深さ切替レバー35を操作し切替アーム34,34を時計方向に回動すると、切替アーム34,34によりバネ33,33の後端部を下方に回動して支持アーム32,32の前端を上方に回動し、中央整地板28a及び左・右整地板28b,28cが上方の非整地位置に移動する。また、整地深さ切替レバー35を操作し切替アーム34,34を反時計方向に回動すると、中央整地板28a及び左・右整地板28b,28cが下方の整地位置に移動する。なお、固定手段37により切替アーム34,34をロックすると、中央整地板28a及び左・右整地板28b,28cは整地位置あるいは非整地位置で固定される。
【0022】
しかして、通常の苗植付時には、中央整地板28a及び左・右整地板28b,28cを上方の非整地位置に切り替え、枕地の苗植付時に中央整地板28a及び左・右整地板28b,28cを下方の整地位置に切り替えると、地表面の荒れている枕地が均平整地されて苗植付作業を良好に行なうことができる。なお、この中央整地板28a及び左・右整地板28b,28cの整地位置あるいは非整地位置への切り替えを植付深さ調節レバー(図示省略)等に連動して切り替える構成としてもよい。
【0023】
また、この実施例では、図5に示すように、支持アーム32,32の前端部の縦方向の筒部38に、中央整地板28a側の支持ピン39を嵌合保持し、ロック装置40により例えば5段階に上下調節して固定できる構成としている。従って、中央フロート27aに対して中央整地板28a及び左・右整地板28b,28cの整地角度を変向せずに上下に調節できて、安定した均平作業をすることができる。
【0024】
次に、苗植付部4の上昇時における整地装置28の上昇移動状態について説明する。
図3の実線に示すように、上部リンク3a及び左右の下部リンク3b,3bが下方に回動している作業位置Aでは、フロートである中央フロート27a、左フロート27b及び右フロート27c及び整地装置28は接地して地表面をならしながら前進し、左・右後輪6,6により起こされた泥を中央整地板28a,左・右整地板28b,28cで均平整地し、その後に苗植付装置25,25,…により苗を植え付けていく。
【0025】
走行車体2が畔際で旋回する際に、上部リンク3a及び下部リンク3b,3bを中間位置Bまで上昇させると、苗植付部4への動力伝動が遮断された状態で苗植付部4は中間位置Bまで上昇する。すると、中間位置Bまで上昇した下部リンク3b,3bの下面に下方から上昇してきた中央整地板28aの端部が当接する。
【0026】
この中間位置Bから更に上部リンク3a及び下部リンク3b,3bを上昇させて最上昇位置Cに移動させる。この間苗植付部4が上昇を続けると、下部リンク3b,3bにより中央整地板28aの端部を下方に押圧し、支持アーム32,32に装着しているバネ33,33を圧縮しながら支持アーム32,32を下方に退避回動させて、苗植付部4だけが上昇を続けて最上昇位置Cまで移動する。
【0027】
しかして、中央整地板28a,左・右整地板28b,28cを備えた乗用田植機でありながら、苗植付部4を高い位置まで上昇させることができると共に、上部リンク3a及び下部リンク3b,3bの長さを短縮して乗用田植機の機体全長を縮小し、機体の前後バランスを向上させることができ、延いては、走行性能の向上、作業性能の向上、苗の植付姿勢の安定化を図ることができる。
【0028】
なお、この実施例では前記のように、上昇移動する苗植付部4に対して中央整地板28a及び左・右整地板28b,28cを相対的に下方に移動して最上昇位置まで苗植付部4を上昇させる構成としているが、上部リンク3a及び下部リンク3b,3bの上昇移動に関連して例えば油圧シリンダ等のアクチュエータにより支持アーム32,32を下方に回動させ、中央整地板28a及び左・右整地板28b,28cを強制的に下降させ下部リンク3b,3bとの干渉を回避する構成としてもよい。
【0029】
なお、図6に示すように、中央整地板28aが上昇時に作業機伝動軸15に当接する部位に凹部41を構成しておくと、中央整地板28aの上昇時に凹部41に作業機伝動軸15が嵌合し、中央整地板28aを作業機伝動軸15に干渉させずに苗植付部4を上昇位置まで移動させることができる。
【0030】
また、この実施例では、中央フロート27aをセンサフロートに兼用して、苗植付部4の地表面からの距離を検出し苗植付部4を昇降制御する構成であるところ、この中央フロート27aの前方に中央整地板28aを配置し、中央整地板28aに取り付けられている左・右整地板28b,28cを平面視で左右両側ほど後方に位置する後傾斜にして中央フロート27aの前部左右両側に接近させ、中央整地板28a及び左・右整地板28b,28cで中央フロート27aの前部を囲むようにしている。
【0031】
従って、中央整地板28aにより小さな凹凸を均平整地しセンサフロートとしての感知精度を向上させることができ、また、左・右後輪6,6により盛り上げられた泥を左・右整地板28b,28cにより外側の車輪跡に導いてきれいに均平整地することができて、苗植付精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】移動農機の全体側面図である。
【図2】移動農機の全体平面図である。
【図3】要部の切断側面図である。
【図4】要部の平面図である。
【図5】要部の側面図である。
【図6】要部の平面図、背面図、側面図である。
【符号の説明】
【0033】
1:苗移植機、2:走行車体、3:昇降リンク機構、4:苗植付部、25:苗植付装置、27a:中央フロート、27b:左フロート、27c:右フロート、28:整地装置、32:支持アーム、33:バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(2)の後部に昇降リンク機構(3)を介してフロート(27a,27b,27c)及び苗植付装置(25)を装備した苗植付部(4)を昇降自在に連結し、苗植付部(4)の前側で走行車体(2)の後側に苗植付部(4)により支持アーム(32)を介して支持された整地装置(28)を設け、支持アーム(32)をバネ(33)を介して上下回動自在に設け、昇降リンク機構(3)により苗植付部(4)を非植付位置に上昇させたときに、所定の荷重が上方から作用して支持アーム(32)が下方に回動して退避することにより、前記整地装置(28)が苗植付部(4)に対して相対的に下降して昇降リンク機構(3)の上方への移動を妨げない構成としたことを特徴とする苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−45072(P2009−45072A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278376(P2008−278376)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【分割の表示】特願2000−299806(P2000−299806)の分割
【原出願日】平成12年9月29日(2000.9.29)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】