説明

茶抽出物の製造方法

【課題】ガレート型カテキンを低減させることができる茶抽出物の製造方法を提供する。
【解決手段】カルボン酸の官能基を含む弱酸性陽イオン交換樹脂を充填したカラム14に茶抽出液を通液して、茶抽出液と該弱酸性陽イオン交換樹脂とを接触させ、茶抽出液中のガレート型カテキンを吸着処理することにより、苦渋成分であるガレート型カテキンの含有率が低い茶抽出物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茶抽出物の製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
茶は古くより嗜好飲料として親しまれてきたが、近年では茶中に含まれるカテキン類の抗酸化作用、血中コレステロール低下作用などの生理効果が注目されてきており、消費者の健康志向からペットボトル等に充填した容器詰め飲料は高い支持を得ている。しかしながら、より多くのカテキン類が摂取できるように、高濃度にカテキン類を配合した飲料は苦味や渋味が強くなるため、カテキン類を高濃度に含有しながら苦味、渋味を低下させようとする技術が望まれている。
【0003】
茶中のカテキン類には、重合体カテキン類と非重合体カテキン類とがある。そして、非重合体カテキン類の主な成分としては、エピガロカテキンガレート、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピカテキン等が挙げられ、微量成分としては、カテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、ガロカテキンガレート等が挙げられる。上記非重合体カテキン類はガレート基が結合していない遊離型カテキンとガレート基が結合しているガレート型カテキン(没食子酸エステル型カテキン)とに分類され、前者にはエピカテキン、エピガロカテキン、カテキン、ガロカテキンが該当し、後者にはエピガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、カテキンガレート、ガロカテキンガレートが該当する。ガレート型カテキンは遊離型カテキンと比べて強い苦味および渋味を有することが知られている。
【0004】
ガレート型カテキンを低減して茶抽出液の苦味および渋味を低減する技術は種々開発されている。例えば、タンナーゼ処理によりガレート型カテキンを遊離型カテキンと没食子酸に加水分解する方法が知られている(特許文献1〜3)。
【0005】
また、タンナーゼ処理において生成する没食子酸の酸味、エグ味を低減するために、後段に設置した陰イオン交換樹脂により没食子酸を除去する方法も提案されている(特許文献4)。そして、風味やpHへの影響から陰イオン交換樹脂は塩形で使用する必要があるが、塩形のイオン交換樹脂の吸着能力は低いために没食子酸の除去には限界があった。
【0006】
さらに、ポリビニルポリピロリドンと茶抽出液とを高温で接触させ、ガレート型カテキンを選択的に吸着する方法が提案されている(特許文献5)。しかしながら、提案された方法では高価なポリビニルポリピロリドンを多量に添加する必要があり、コストが高くなるという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−133928号公報
【特許文献2】特開平10−313784号公報
【特許文献3】特開2004−321105号公報
【特許文献4】特開2007−195458号公報
【特許文献5】特開2004−159597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ガレート型カテキンを低減させることができる茶抽出物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の茶抽出物の製造方法は、ガレート型カテキンを含む茶抽出液とカルボン酸の官能基を含む弱酸性陽イオン交換樹脂とを接触させ、前記ガレート型カテキンを吸着処理することを特徴とする。
【0010】
また、前記茶抽出物の製造方法において、前記弱酸性陽イオン交換樹脂の母体構造は、アクリル重合体であることが好ましい。
【0011】
また、前記茶抽出物の製造方法において、前記弱酸性陽イオン交換樹脂の官能基の一部は塩型であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ガレート型カテキンを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る茶抽出物製造装置の構成の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0015】
図1は、本実施形態に係る茶抽出物製造装置の構成の一例を示す模式図である。図1に示す茶抽出物製造装置1は、流入ライン10、排出ライン12、カルボン酸の官能基を含む弱酸性陽イオン交換樹脂が充填されたカラム14、貯留槽16を備える。
【0016】
図1に示すように、カラム14の供給口(不図示)には、流入ライン10が接続されている。排出ライン12の一端は、カラム14の排出口(不図示)に接続され、他端は貯留槽16の供給口(不図示)に接続されている。
【0017】
本実施形態において、茶抽出液とは、茶葉成分を含む溶液であれば特に限定されないが、例えば緑茶、ウーロン茶、紅茶などの茶葉抽出液又はその濃縮物、市販のカテキン粉末、市販の粉末茶等を溶解して得られる水溶液等である。
【0018】
上記茶抽出液には、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等の非重合体カテキン類が含まれる。そして、前述したように、非重合体カテキンのうちカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等のガレート型カテキン(没食子酸エステル型カテキン)は、苦味および渋味等の苦渋成分である。
【0019】
上記茶抽出液を流入ライン10からカラム14に供給し、茶抽出液とカルボン酸の官能基を含む弱酸性陽イオン交換樹脂とを接触させる。カルボン酸の官能基を含む弱酸性陽イオン交換樹脂は、ガレート型カテキンとの親和性が、前述した遊離型カテキンと比べて高いため、該樹脂と茶抽出液とを接触させることにより、該樹脂にガレート型カテキンが優先的に吸着される。これにより、苦渋成分であるガレート型カテキンの含有率が低く、苦味および渋味が低減された茶抽出物(処理液)が得られる。得られた茶抽出物は、排出ライン12から排出されて貯留槽16に蓄えられる。
【0020】
このような簡単な工程で、苦渋成分であるガレート型カテキンの含有率の低い茶抽出物を得ることができ、また、本実施形態で使用されるイオン交換樹脂は比較的安価であるため、生産効率、製造コストの観点から非常に有利である。
【0021】
本実施形態で使用されるカルボン酸の官能基を含む弱酸性陽イオン交換樹脂としては、工業用として一般的に使用されている汎用樹脂を利用することができる。例えば、ダウケミカル社製の、アンバーライトFPC3500、IRC76、IRC86RF、ダウエックスMAC−3、三菱化学社製の、ダイヤイオンWK10、WK11、WK40、ランクセス社製の、レバチットS8528、S8229等が挙げられる。カルボン酸の官能基を含む弱酸性陽イオン交換樹脂は、メタクリル酸とジビニルベンゼンとの共重合体等のメタクリル重合体を母体構造に持つ樹脂やアクリル酸とジビニルベンゼンとの共重合体等のアクリル重合体を母体構造に持つ樹脂等がある。このうち、アクリル重合体を母体構造に持つ弱酸性陽イオン交換樹脂は、特にガレート型カテキンとの親和性が強い傾向を示すため、効率的にガレート型カテキンを除去することができる。その一方で、カフェインとの親和性が弱いため、茶抽出液中のカフェインが除去されることが抑制され、得られる茶抽出物の風味等が損なわれないという利点がある。アクリル重合体を母体構造に持つ弱酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライトFPC3500、IRC76、IRC86RF、ダイヤイオンWK40、レバチットS8528、S8229等が挙げられる。
【0022】
本実施形態では、弱酸性陽イオン交換樹脂を充填したカラム14に、茶抽出液を通過させるカラム方式により、茶抽出液と弱酸性陽イオン交換樹脂とを接触させているが、茶抽出液と弱酸性陽イオン交換樹脂とが接触する状態を確保することができれば、必ずしもこれに制限されるものではない。他の形態としては、例えば、茶抽出液に弱酸性陽イオン交換樹脂を添加するバッチ方式により、茶抽出液と弱酸性陽イオン交換樹脂とを接触させてもよい。生産効率、作業性の点では、バッチ方式よりカラム方式の方が好ましい。
【0023】
カラム方式で処理する場合には、例えば、SV(空間速度)が0.5〜30(h−1)の範囲で、弱酸性陽イオン交換樹脂の充填体積当り1〜30倍の通液量の茶抽出液をカラム14に通液することが好ましい。
【0024】
茶抽出液および洗浄水の通液温度は特に限定されないが、好ましくは40℃未満、より好ましくは25℃未満とする。例えば、茶抽出液の通液温度が40℃以上だとガレート型カテキンの吸着効率が低くなる場合がある。
【0025】
カラム14に充填された弱酸性陽イオン交換樹脂は、茶抽出液の通液処理が終了した後、再生処理を行い、ガレート型カテキン等の吸着した成分を樹脂層から溶出させる。本実施形態に用いられる再生剤としては、エタノールあるいはアセトンなどの親水性溶剤およびその水溶液、水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウムなどのアルカリ水溶液等、塩酸あるいは硫酸などの酸水溶液、熱水等を用いることができる。再生剤により吸着成分を溶出させた後、必要に応じて酸溶液あるいはアルカリ溶液を用いて弱酸性陽イオン交換樹脂のイオン形を調整する。
【0026】
弱酸性陽イオン交換樹脂のイオン形としては特に限定されないが、水素形で使用することができる。上記水素形の弱酸性陽イオン交換樹脂によって、ガレート型カテキンが低減された茶抽出物は、pHが酸性となり、酸味が強くなる傾向を示すため、所望により適当なアルカリ薬品を添加してpHを調整することが好ましい。アルカリ薬品としては特に限定されないが、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0027】
また、ガレート型カテキンが低減された茶抽出物のpHを調整する方法としては、上記の弱酸性陽イオン交換樹脂の官能基の一部を予め塩形にして、該樹脂と茶抽出液とを接触させる方法が挙げられる。塩型の官能基を有する弱酸性陽イオン交換樹脂を用いると、イオン交換によって、茶抽出液中のイオンと樹脂に吸着しているイオンが交換されるため、最終的に得られる茶抽出物のpHの変化が小さくなる。塩形の官能基としては特に限定されないが、例えばナトリウム形、カリウム形、カルシウム形などが挙げられる。弱酸性陽イオン交換樹脂の官能基の一部を塩形にする方法として、例えばカラム方式においては、水素イオン形に調製した弱酸性陽イオン交換樹脂を充填したカラム14に適当量のアルカリ溶液を通液することにより、弱酸性陽イオン交換樹脂の官能基の一部を塩型に変換させる方法が挙げられる。その後、水で該樹脂を洗浄し、水素形の樹脂と塩形に変換した樹脂とが均一になるように混合することが望ましい。
【0028】
ガレート型カテキンが低減された茶抽出物は、適当な濃縮手段によって、濃縮物の形態とすることもできる。また、ガレート型カテキンが低減された茶抽出物を噴霧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの乾燥手段によって乾燥させ、粉末状とすることもできる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
緑茶粉末56gにイオン交換水7000gを加え、120秒間攪拌後、フィルター(孔径0.45μm)でろ過を行い清澄な緑茶抽出液を得た。ジャケット付きガラスカラム(内径22mm×高さ1000mm)に、カルボン酸の官能基を含む水素イオン形のアクリル系弱酸性陽イオン交換樹脂(ダウケミカル社製、AMBERLITE FPC3500)を300mL充填した。循環機能付き恒温槽をカラムジャケットに接続して20℃の水を循環させ、カラム内温度を一定にした後、ろ過後の緑茶抽出液6000mLを20℃に調整した後、カラムに通液した。通液時のSVを4(h−1)とした。カラムから排出される処理液(茶抽出物)のうち初期の500mLを除いた5500mLを回収した。回収した処理液に炭酸水素ナトリウム粉末を加えてpHを5.7に調整した。
【0031】
(実施例2)
緑茶粉末56gにイオン交換水7000gを加え、120秒間攪拌後、フィルター(孔径0.45μm)でろ過を行い清澄な緑茶抽出液を得た。ジャケット付きガラスカラム(内径22mm×高さ1000mm)にカルボン酸の官能基を含む水素イオン形のメタクリル系弱酸性陽イオン交換樹脂ダイヤイオン (三菱化学社製、WK11)を300mL充填した。循環機能付き恒温槽をカラムジャケットに接続して20℃の水を循環させ、カラム内温度を一定にした後、ろ過後の緑茶抽出液6000mLを20℃に調整した後、カラムに通液した。通液時のSVを4(h−1)とした。カラムから排出される処理液(茶抽出物)のうち初期の500mLを除いた5500mLを回収した。回収した処理液に炭酸水素ナトリウム粉末を加えてpHを5.7に調整した。
【0032】
(実施例3)
緑茶粉末56gにイオン交換水7000gを加え、120秒間攪拌後、フィルター(孔径0.45μm)でろ過を行い清澄な緑茶抽出液を得た。ジャケット付きガラスカラム(内径22mm×高さ1000mm)にカルボン酸の官能基を含む水素イオン形のアクリル系弱酸性陽イオン交換樹脂(ダウケミカル社製、AMBERLITE FPC3500)を300mL充填した。次いで、カラム上部から1規定の水酸化ナトリウム溶液を5mL添加し、続いてイオン交換水600mLを通液した。次に、カラム下部よりイオン交換水を上向流で通水し、10分間樹脂を流動させた後、通水を停止して樹脂を沈静させた。続いて、循環機能付き恒温槽をカラムジャケットに接続して20℃の水を循環させ、カラム内温度を一定にした後、ろ過後の緑茶抽出液6000mLを20℃に調整した後、カラムに通液した。通液時のSVを4(h−1)とした。カラムから排出される処理液(茶抽出物)のうち初期の500mLを除いた5500mLを回収した。
【0033】
未処理の緑茶抽出液および実施例1〜3の処理液のpH、ガレート体率、官能評価の結果を表1に示まとめた。
【0034】
ガレート体率とは、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレートの8種からなる非重合体カテキンの重量和に対するカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートの4種からなるガレート型カテキンの重量和の100分率である。
ガレート体率=4種のガレート型カテキンの重量和/8種の非重合体カテキンの重量和×100
【0035】
実施例1〜3の処理液(茶抽出物)中のガレート型カテキンの各成分の重量を以下に示す測定方法によって測定した。
【0036】
<カテキン量の測定方法>
試料をイオン交換水で希釈した後、フィルター(孔径0.45μm)でろ過し、日本分光製高速液体クロマトグラフィー(LC−2000Plusシリーズ)に、オクタデシル基導入液体クロマトグラフ用パックドカラムShim−pack FC−ODS(4.6mmφ×150mm:島津製作所製)を装着し、カラム温度を40℃にして、グラジエント法を用いて、以下の条件により測定した。
移動相A液:0.1モル/リットルのリン酸緩衝液(pH2.6)
移動相B液:アセトニトリル
注入量:10μL
UV検出波長:270nm
【0037】
【表1】

【0038】
表1から明らかなように、緑茶抽出液をカルボン酸の官能基を含む弱酸性陽イオン交換樹脂で処理することにより得られる茶抽出物のガレート体率は、未処理の緑茶抽出液と比較して低下していた。特にアクリル酸とジビニルベンゼンの共重合体を母体としたアクリル系弱酸性陽イオン交換樹脂で処理することにより得られる茶抽出物のガレート体率は、未処理の緑茶抽出液と比較して、顕著に低減できており、官能評価においても明らかに苦渋味が抑制されていた。
【符号の説明】
【0039】
1 茶抽出物製造装置、10 流入ライン、12 排出ライン、14 カラム、16 貯留槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガレート型カテキンを含む茶抽出液とカルボン酸の官能基を含む弱酸性陽イオン交換樹脂とを接触させ、前記ガレート型カテキンを吸着処理することを特徴とする茶抽出物の製造方法。
【請求項2】
前記弱酸性陽イオン交換樹脂の母体構造が、アクリル重合体であることを特徴とする請求項1に記載の茶抽出物の製造方法。
【請求項3】
前記弱酸性陽イオン交換樹脂の官能基の一部は塩型であることを特徴とする請求項1又は2に記載の茶抽出物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−125176(P2012−125176A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278792(P2010−278792)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】