説明

茶飲料及びその抽出方法

【課題】
アントシアニンを含有し、可視光の極大吸収が500〜550nmの吸収範囲にあり、赤色からピンク色を呈する茶飲料及びその抽出方法を提供する。
【解決手段】
アントシアニンを含有しpH5.5未満であることを特徴とする茶飲料、及びアントシアニンを含有する植物からpH5.5未満で抽出することを特徴とする茶飲料の抽出方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤色を呈する茶飲料及びその抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な茶飲料は、ツバキ科ツバキ属チャノキ(Camellia sinensis 属)の茶葉を使用して、緑茶、紅茶、ウーロン茶、プーアル茶などとして各種用途に応じて製造される。これらの茶飲料は、苦味、渋味、甘味などの呈味や香りの他、飲料自体の色彩も嗜好性の上で重要である。緑茶は非発酵茶であり、摘み取った茶葉を加熱したのち乾燥したものであり、黄緑色から茶色を呈する。紅茶、ウーロン茶、プーアル茶は発酵茶であり、摘み取った茶葉を発酵させたものであり、茶色から赤褐色を呈する。茶飲料の中でも嗜好性が高い色彩として赤色が考えられ、紅茶や赤ウーロン、プーアル茶ではより赤色に近いものが好まれる傾向がある。
【0003】
赤色の色素としてはアントシアニンが挙げられ、このアントシアニンは、植物の花または果皮など美しい色を持つ部分に多く存在する配糖体で、赤、青、紫などの色を示し、酸性で赤色を呈することが知られている。アントシアニン色素は、赤キャベツやムラサキイモなどの植物から抽出され、鮮やかな赤色を呈する。
【0004】
ハーブティーのうち、ローズヒップティーのようにローズヒップの実から煎じたものや、ハイビスカスティーのようにハイビスカスの花から煎じたものでは、アントシアニンが含まれ、抽出液がアントシアニンを由来とする赤色を呈することが知られている。このようなハーブティーは、赤色を呈しているが、酸味や甘味などの呈味が独特で、茶飲料のように世代を超えて広く普及されるまでには至っていない。
【0005】
これに対し、茶飲料の中でも赤みが強い紅茶は、実際は、赤色と茶色の中間の色合いを呈するものであり、可視光の極大吸収が500nm未満で、赤色の吸収範囲である500〜550nmを外れ、純粋な赤色を呈するものではない。紅茶の色素成分はテアフラビン、テアルビジンの他、重合ポリフェノールなどであり、アントシアニンを主成分とするものとは異なる色を呈する。
【0006】
また、特許文献1には、ポリフェノール類を30重量%以上含有する緑茶抽出物をpH5.5〜8.5の熱水に溶解して得られる赤色を呈する飲料について開示されているが、このポリフェノールは主にカテキン類であり、緑茶抽出物にアントシアニンが含まれるという記載はない。
【特許文献1】特許第3032153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、アントシアニンを含み赤い抽出液が得られる茶葉は知られておらず、さらに、アントシアニンを色素成分として可視光の極大吸収が500〜550nmの吸収範囲にあって赤色からピンク色を呈する茶飲料は存在しなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的としては、アントシアニンにより赤色を呈する茶飲料及びその抽出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、赤色を呈する茶飲料について鋭意研究し、ツバキ科ツバキ属チャノキの茶葉の中にも、アントシアニンを含有するものがあるという知見を得た。例えば、中国の雲南緑茶の紫娟茶を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で吸収波長520nmを使用して分析した結果を図5に示す。緑茶(a)、プーアル茶(b)、烏龍茶(c)、紅茶(d)には見られないアントシアニンによるピークが紫娟茶(e)では明確に検出される。紫娟茶は、通常、水道水などの中性の水を沸騰させて抽出され、やや紫がかったグレー(灰色)という独特の色を呈し、赤色を呈するものではなかった。
【0010】
そこで、本発明者らは、アントシアニンを含有する茶飲料が赤色を呈する状態についてさらに鋭意研究し、アントシアニンを含有し、pH5.5未満である茶飲料が鮮やかな赤色からピンク色を呈することを見出し、本発明を完成するに至った。また、本発明者らは、アントシアニン色素の性質を生かした茶飲料の抽出方法について鋭意研究し、クエン酸などの食用酸を用いた酸性水溶液で抽出することにより、茶飲料の赤色が安定化することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は以下の内容を要旨とするものである。
(1) アントシアニンを含有し、pH5.5未満であることを特徴とする茶飲料。
(2) 葉にアントシアニンを含む植物から抽出されることを特徴とする(1)に記載の茶飲料。
(3) 前記植物がツバキ科ツバキ属チャノキ(Camellia sinensis 属)の植物であることを特徴とする(2)に記載の茶飲料。
(4) 前記ツバキ科ツバキ属チャノキ(Camellia sinensis 属)の植物が紫娟茶であることを特徴とする(3)に記載の茶飲料。
(5) 着色料が無添加であることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の茶飲料。
(6) 難消化性デキストリンを含有することを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の茶飲料。
(7) 可視光の吸収範囲500〜550nmにおいて極大吸収を有することを特徴とする(1)から(6)のいずれかに記載の茶飲料。
(8) アントシアニンを含有する植物からpH5.5未満で抽出することを特徴とする茶飲料の抽出方法。
(9) アントシアニンを含有する植物の葉から抽出されることを特徴とする(8)に記載の茶飲料の抽出方法。
(10) クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸等の食用酸又はその塩類の1種以上を用いて抽出することを特徴とする(8)又は(9)に記載の茶飲料の抽出方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アントシアニンを含有し、可視光の極大吸収が500〜550nmの吸収範囲で赤色からピンク色を呈し、特徴的で面白みのある色彩であり嗜好性の高い茶飲料を提供することができる。また、本発明によれば、アントシアニンを含有するツバキ科ツバキ属チャノキの茶葉のみで、又はそれ以外の食物原料等と組み合わせて、着色料を使用せずに赤色からピンク色を呈する茶飲料を製造することができる。また、赤色からピンク色を呈する茶飲料の呈味性や安定性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施の形態について説明するが、本実施の形態における例示が本発明を限定することはない。
【0014】
本発明の茶飲料はアントシアニンを含有しpH5.5未満であることを特徴とする。このような茶飲料によれば、アントシアニンに由来する赤色を呈する茶飲料を提供することができる。この茶飲料が呈する赤色は、赤色からピンク色を帯びた色彩まで含まれ、好ましくは可視光の吸収範囲500〜550nmの赤色を呈する範囲において極大吸収があり、より好ましくは極大吸収の吸光度値が0.01以上のものである。この茶飲料の色彩は、従来の紅茶や赤ウーロンなどの赤褐色とは異なり、アントシアニン由来の鮮やかな赤色からピンク色を呈し、特徴的で面白みがあり嗜好性が高いものである。また、茶飲料に別途着色料を添加しなくても茶飲料自体が赤色を呈するため、着色料を無添加として赤色を呈する茶飲料を提供することができる。
【0015】
本発明の茶飲料はアントシアニンを含有するものであればいずれの茶葉を用いたものでもよいが、好ましくは、この茶飲料は葉にアントシアニンを含む植物から抽出され、より好ましくはこの植物がツバキ科ツバキ属チャノキの植物である。さらに好ましくは、このツバキ科ツバキ属チャノキの植物が紫娟茶である。紫娟茶は中国の雲南緑茶であり、ツバキ科ツバキ属チャノキの植物の中で葉にアントシアニンを含む品種であるが、通常は中性の水で抽出され、抽出液は紫がかった灰色を呈し、従来赤色を呈したものはなかった。また、アントシアニンを含有する茶葉としては、紫娟茶に限定されず、べにばななどの品種を挙げることができる。
【0016】
本発明の茶飲料はpH5.5未満である。アントシアニンを含む茶葉を酸性下で抽出、又はpH無調整で抽出後に酸性にすることで、得られる茶飲料が鮮やかな赤色を呈する。酸性条件としては、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸等の各種の食用酸及びその塩類を1種又は2種以上の組み合せで用いて調整することができる。茶飲料のpHは5.5未満であれば良いが、好ましくはpH2.5〜5.5未満である。pHが2.5未満で低すぎる場合は、アントシアニンが十分に抽出されるが、香味の良好な抽出が得にくく、また酸味が強すぎて飲みにくくなる。他方pHが5.5を超えて高すぎる場合は、明瞭な赤色を抽出しにくく、しかも色素が不安定になるため好ましくない。さらに、pHの調整は2.5〜4.5とするのが特に好ましい。酸味度や呈味性等から考慮して、食用調味料としてはクエン酸又はグルコン酸が特に好ましい。
【0017】
本発明の茶飲料には、必要に応じて、甘味料や、安定化剤、他の茶飲料に使用される植物原料等を添加することができる。甘味料としては、ぶどう糖、果糖、蔗糖、及びキシリトール等の糖類や、糖アルコール、ペプチド等が挙げられる。安定化剤としては、α、β、γ−サイクロデキストリン等の難消化デキストリンの多糖類が挙げられる。他の茶飲料に使われる植物原料等としては、日本茶や紅茶のような他の茶類、ハトムギ、ジャスミン茶、菊花茶、ローズティ、ハイビスカスティー等が挙げられる。特に、本発明の茶飲料に呈味性の調整に日本茶や紅茶のような他の茶類や、麦、ハトムギなど、香りの調整にジャスミンや菊花などを加えることで、茶飲料全体の色合いを着色料を添加せずに赤色にし、いわゆるブレンド茶を提供することができる。
【0018】
また、茶飲料に、α、β、γ−サイクロデキストリン等の難消化デキストリンを添加することで、茶飲料の呈味が改善され嗜好性が高まることがわかった。茶飲料が酸性側に調整されると、酸味が強くなり呈味のバランスが崩れやすくなるが、難消化デキストリンを添加することで酸味が和らぐことがわかった。α、β、γ−サイクロデキストリンのいずれでも呈味を改善することができるが、特にβ―サイクロデキストリンを添加したものが嗜好性の上で好ましい。なお、難消化デキストリンは上述したように安定化剤としても添加されるため、茶飲料に添加する安定化剤を適宜選択することで、同時に呈味を調整することが可能になる。
【0019】
本発明の茶飲料の抽出方法は、中性の水で茶葉を抽出した後に食用酸を用いてpHを5.5未満に調整をしてもよいが、食用酸を用いてpHを5.5未満に調整した水溶液で茶葉を抽出することで、赤色をより安定化させることができる。いずれの方法においても、茶飲料の抽出条件について、抽出温度は40℃〜100℃が好ましく、60℃〜90℃がより好ましい。抽出時間は2〜10分とするのが好ましく、抽出温度が高温ならば短時間で、低温ならば長時間で抽出する方が良い。なお、抽出時間が長すぎる場合は、カフェイン等渋み成分が多く抽出され、またアントシアニンが酸化、変色しやすくなる可能性が高い。抽出回数は1〜3回が好ましい。茶飲料を抽出した後、ろ過、冷却、更に分離ろ過などを常法に従って行い、適宜調整された茶飲料を提供することができる。
【0020】
本発明の茶飲料は、一般的な飲料と同様に、缶、瓶、ペットボトル、紙パックなどに充填して容器詰茶飲料として提供することができる。
【0021】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0022】
(実施例1)
紫娟茶葉の重量に対する30倍の1000ppmクエン酸水溶液(pH2.8:堀場社製pH Meter D−52を用いて25℃で測定、以下同じ)を90℃まで加熱させてから、茶葉を投入し、90℃に保った状態で5分間抽出した。茶殻をろ過により除去してから、冷水で室温(20℃〜25℃)まで冷却し、またろ紙で細かい残渣や澱成分を除去した。更に陽イオンおよび陰イオンを除去した水で3倍希釈し、茶飲料を得た。この茶飲料のpHは4.2であり、鮮やかな赤色を呈していた。日立社製U−2000によって吸収曲線を測定した。結果を図1に示す。可視光の吸収範囲500〜550nmにおいて、極大吸収は522nmで、Abs値は0.134であった。
【0023】
(実施例2)
ビタミンC(アスコルビン酸)、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、クエン酸、の1000ppm水溶液を用いて、実施例1と同様に、紫娟茶を抽出、希釈し、吸収曲線を測定した。結果を表1に示す。可視光の吸収範囲500〜550nmにおいて、各抽出液の極大吸収は520nm付近であり、Abs値は全て0.01以上であった。すなわち、いずれの食用酸を用いても茶飲料は赤色を呈することがわかった。
【0024】
【表1】

【0025】
(実施例3)
実施例1と同様に、紫娟茶をクエン酸水溶液で90℃、5分間抽出ろ過後、α、β、γ−サイクロデキストリンを全体に対し0.3重量%になるように添加し、よく攪拌したのち、冷却、ろ過、更に陽イオンおよび陰イオンを除去した水で3倍希釈した。サイクロデキストリン無添加の抽出液をコントロールとして、被験者数6人で官能評価し、得た結果を表2に示す。サイクロデキストリンの添加により、抽出液の味や香りに多少変わりがあったが、いずれのサイクロデキストリンもコントロールより総合的に美味しいという官能評価が得られ、特にβ−サイクロデキストリンの添加では抽出液の渋みと酸味を抑えながら、香りが強いままという結果が得られた。
【0026】
【表2】

【0027】
(実施例4)
実施例1と同様に、紫娟茶をクエン酸水溶液で90℃、5分間で抽出後、冷却、ろ過し、得られた抽出液に対し0.3重量%になるようにβ−サイクロデキストリンを添加し、よく攪拌した後、冷却、ろ過、更に陽イオンおよび陰イオンを除去した水で3倍希釈した。この抽出液の吸収曲線を図2に示す。β−サイクロデキストリンが添加されても抽出液の吸収曲線にはほとんど変化がなかった。極大吸収は522nmであり、Abs値は0.132であった。すなわち、β−サイクロデキストリンを添加しても抽出液の赤色は影響を受けなかった。
【0028】
(実施例5)
実施例1と同様に抽出希釈した紫娟茶飲料を市販の紅茶、赤ウーロン茶、プーアル茶、緑茶と比較して、500〜550nmの極大吸収を測定した。結果を図3に示す。紫娟茶以外の茶飲料は、可視光の吸収範囲500〜550nmにおいて極大吸収が見られたものは紫娟茶のみであり、紫娟茶以外の茶飲料では見られなかった。実施例1の紫娟茶、市販の緑茶、レモンティを透明のペットボトルに充填して色を観察したところ、紫娟茶は赤色からピンク色を帯びた透明な液色であり、緑茶は黄色から黄緑色を帯びた透明な液色であり、レモンティは茶褐色のやや濁った液色であり、緑茶及びレモンティに比べて紫娟茶がより赤い成分を呈していることがわかった(図4参照)。これより、紫娟茶は従来の他の茶飲料と比べて特有の鮮やかな赤色を発色することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、本発明に係る実施例1における紫娟茶飲料の吸収曲線を示す。
【図2】図2は、本発明に係る実施例4におけるβ−サイクロデキストリンを添加した紫娟茶飲料の吸収曲線を示す。
【図3】図3は、本発明に係る実施例5における紫娟茶、市販の紅茶、赤ウーロン茶の吸収曲線(a)、及び市販のプーアル茶、緑茶の吸収曲線(b)を示す。
【図4】図4は、本発明に係る実施例5における紫娟茶、市販の緑茶、レモンティをペットボトルに充填した状態の写真である。
【図5】図5は、緑茶(a)、プーアル茶(b)、烏龍茶(c)、紅茶(d)、紫娟茶(e)の検出波長520nmにおけるHPLCの測定結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントシアニンを含有し、pH5.5未満であることを特徴とする茶飲料。
【請求項2】
葉にアントシアニンを含む植物から抽出されることを特徴とする請求項1記載の茶飲料。
【請求項3】
前記植物がツバキ科ツバキ属チャノキ(Camellia sinensis 属)の植物であることを特徴とする請求項2記載の茶飲料。
【請求項4】
前記ツバキ科ツバキ属チャノキ(Camellia sinensis 属)の植物が紫娟茶であることを特徴とする請求項3記載の茶飲料。
【請求項5】
着色料が無添加であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の茶飲料。
【請求項6】
難消化性デキストリンを含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の茶飲料。
【請求項7】
可視光の吸収範囲500〜550nmにおいて極大吸収を有することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の茶飲料。
【請求項8】
アントシアニンを含有する植物からpH5.5未満で抽出することを特徴とする茶飲料の抽出方法。
【請求項9】
アントシアニンを含有する植物の葉から抽出されることを特徴とする請求項8記載の茶飲料の抽出方法。
【請求項10】
クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸等の食用酸又はその塩類の1種以上を用いて抽出することを特徴とする請求項8又は9記載の茶飲料の抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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