説明

茹で麺類の製造方法および茹で麺類

【課題】滑らかさに優れ、しかもコシがあり粘弾性に優れる食感の麺類が得られる茹で麺類の製造方法を提供すること。
【解決手段】常法により得られる未α化状態の生麺線を、温度5〜50℃でpH8〜12のアルカリ性水溶液に0.5〜10分間浸漬した後、茹で処理を行うことを特徴とする茹で麺類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茹で麺類の製造方法に関する。詳細には、滑らかさに優れ、しかもコシがあり粘弾性に優れた食感を有する茹で麺類を容易に製造することができる茹で麺類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、麺類の製造方法として、長期保存可能な麺類の提供、冷凍保存中の品質劣化の防止、麺帯を麺線に切断する際の切断性の改良、即席麺類における復元性の向上などを目的として、切り出した麺線を水、食塩水、酸性水溶液などで処理して麺類を製造する方法が提案されている。
具体的には、特許文献1には、茹で麺を長期保存可能にすることを目的として、第1原料のα化温度の低い澱粉に約100℃の熱湯を添加してα化し糊化させた後、第2原料としてアミロペクチン100%の澱粉を加えてミキシングし、次いで第3原料として小麦粉などの穀粉を加えて再度ミキシングを行った後、高圧押出機で生地を得、この生麺からゆで麺を製造する過程で、酢の希釈液に麺を浸漬させて、麺のpHを酸性域に調整する工程を含むゆで麺類の製造法が記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、冷凍保存中の麺類の品質劣化を防止することを目的として、生麺線を短時間加熱処理して表面を糊化し、多孔性の容器に入れて水漬けした後に冷凍する冷凍麺類の製造方法が記載されている。さらに、特許文献3には、糊化温度が低い澱粉を5%〜30%配合してなる生麺線を、冷温水シャワーした後、蒸気処理し、ついで水洗処理した後、冷凍する冷凍中華麺の製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献4には、多加水の麺線群を熱水の流れる桶中で熱水中に浸漬しながら移行させた後、所定の長さにカットして本茹で処理して茹で麺類を連続的に製造する方法が記載されている。この方法では、熱水中への麺線群の浸漬は、麺線の表面をα化して、後段の本茹で時に麺線同士の付着を防止する目的で行われている。
【0005】
特許文献5には、容易に復元する即席乾燥麺類を得ることを目的として、常法により製造した麺帯または麺線を60〜130℃の高温食塩水中に浸漬した後、乾燥して即席乾燥麺類を製造する方法が記載されている。この方法では、60〜130℃の高温食塩水に浸漬して澱粉をα化しており、そのため浸漬時間も10〜30分と長いものである。
【0006】
また、特許文献6には、常法により製麺された生麺線を60〜100℃の湯に浸漬、シャワー及び/又は噴霧する湯処理を行い、これを蒸煮した後に0〜40℃の水で冷却処理し、次いで熱風乾燥する即席麺類の製造方法が記載されている。この方法では、60〜100℃の湯による湯処理は、次の蒸煮処理と相俟って麺線に吸湯させて麺線中の澱粉を糊化膨潤させることによって即席麺の復元性を向上させるために行っている。
【0007】
上記した特許文献1〜6の従来技術では、麺線の水性液体による処理は、高温の水または塩水を用いて麺帯や麺線をα化するために行われているか、α化した後の麺線に対して行われており、生麺線を未糊化状態でアルカリ性水溶液で処理した後、茹で処理して茹で麺類を製造することは行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−128632号公報
【特許文献2】特開昭49−100251号公報
【特許文献3】特開平3−133350号公報
【特許文献4】特開昭60−83554号公報
【特許文献5】特開昭53−81641号公報
【特許文献6】特開平11−276105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、滑らかさに優れ、しかもコシがあり粘弾性に優れる食感の麺類が得られる茹で麺類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねる中で、常法により得られる未α化状態の生麺線を、特定温度、特定pHのアルカリ性水溶液に特定時間浸漬した後、茹で処理を行うことにより上記目的を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、常法により得られる未α化状態の生麺線を、温度5〜50℃でpH8〜12のアルカリ性水溶液に0.5〜10分間浸漬した後、茹で処理を行うことを特徴とする茹で麺類の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の茹で麺類の製造方法によれば、常法により得られた未α化状態の生麺線を、未α化状態のままで、温度5〜50℃でpH8〜12のアルカリ性水溶液に0.5〜10分間という短時間浸漬するだけで、滑らかさに優れ、しかもコシがあり粘弾性に優れる高品質の茹で麺類が得られる。なお、中華麺などの麺類について、製麺原料にアルカリ性物質を多めに配合して生麺のpHを同様に調整しても本発明の効果は得られない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明の茹で麺類の製造方法について説明する。
本発明の茹で麺類の製造方法は、常法により得られる未α化状態の生麺線を、温度5〜50℃でpH8〜12のアルカリ性水溶液に0.5〜10分間浸漬した後、茹で処理を行うものである。
本発明における麺類の種類としては、麺線が未α化状態の生麺であれば特に限定されないが、例えばうどん、日本そば、中華麺、焼きそば、チャンポンなどが挙げられる。そのうちでも、麺線が細めのうどん、そうめん、ひやむぎ、中華麺や焼きそば、チャンポンなどが好ましい。これら麺類は常法に従って製造したものであればよく、圧延・切り出し法、押出法、手延べ法または手打ち法など、いずれの方法で製造されたものでもよい。
【0014】
本発明における生麺線のアルカリ性水溶液への浸漬は、生麺線がα化(糊化)しない条件下で行うことが必要である。具体的には、アルカリ性水溶液の温度を生麺線がα化(糊化)しない5〜50℃の範囲に調整する。この温度は、アルカリの種類やアルカリ性水溶液のpH値、麺類の種類、麺線の太さ、求める食感などによって上記範囲内で適宜調節すればよいが、10〜40℃の範囲がより好ましい。
アルカリ性水溶液の温度が5℃より低いと、浸漬時間が長くなり、製造効率が低下し、浸漬による効果が得られなくなる。また、温度が50℃より高いと、麺線が糊化したり、浸漬により麺線がもろくなり、切れ麺の発生など麺類の品質が低下する。
【0015】
アルカリ性水溶液のpH値は、pH8〜12の範囲であり、好ましくはpH10〜12の範囲である。このpH範囲のアルカリ性水溶液を用いることによって、浸漬しない場合や中性の水に浸漬した場合に比べて、滑らかさに優れ、しかもコシがあり粘弾性に優れる食感となる。詳細には、滑らかさが増し、適度な粘性を保持しながら、コシがあって、弾性に富む食感となる。アルカリ性水溶液に用いるアルカリ性物質の種類としては、食品に使用可能なアルカリ性物質のいずれもが使用でき、そのうちでも、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどの、かん水として通常用いられているアルカリ性物質が好ましい。これらのアルカリ性物質は単独で用いてもよいが、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0016】
アルカリ性水溶液への生麺線の浸漬時間は0.5〜10分間であり、1〜5分間が好ましい。この浸漬時間はアルカリの種類、アルカリ性水溶液の温度やpH値、麺線の太さ、麺の種類などによって、上記範囲内で適宜調節すればよい。この浸漬時間が0.5分間より短すぎると、上述の食感向上効果が得られなくなり、一方浸漬時間が10分間より長すぎると、得られる麺類の茹でどけが大きくなったり、滑らかさおよび粘弾性の低下などが生じる。
【0017】
上記のアルカリ性水溶液への浸漬処理後、生麺線を茹で処理することにより、本発明の茹で麺類が得られる。この茹で処理は、麺の種類に応じた従来の生麺線の茹で処理と同様の方法および条件により行うことができる。
【0018】
本発明の方法で製造された茹で麺類は、冷蔵もしくはチルド状態の茹で麺として、または冷凍麺の形態で流通・販売することが好ましいが、茹で麺類に殺菌処理などの所定の処理を施し、常温品として流通・販売してもよい。
【実施例】
【0019】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0020】
〔実施例1〜3および比較例1〕
準強力小麦粉(日清製粉製「麗華」)100質量部に対して、予めかんすい1.3質量部を水35質量部に溶かしたかんすい溶液を加えて、横型ミキサーで均一に混合した。この生地を常法に従って製麺ロールを用いて複合、圧延して厚さ1.5mmの麺帯にした後、16番の丸の切刃を用いて麺線に切り出して生麺線(生ちゃんぽん)を得た。
得られた生麺線(生ちゃんぽん)を、下記の表1に示す浸漬処理を行った後、沸騰水中にて茹でて、歩留まりが210〜220%の茹で麺(茹でちゃんぽん)を得た。この茹でちゃんぽんを密封容器中に入れ、5℃にて24時間保存した後、沸騰水中で30秒間茹で戻しし、10名のパネラーにより、下記の表2に示す評価基準にしたがって官能試験を行った。得られた評点の平均値を下記の表1に示す。なお、浸漬処理を行わなかった茹でちゃんぽんを対照例1とし、その評点を標準の3点とした。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
上記表1に示す結果から、生ちゃんぽんを1%、0.5%または0.1%かんすい溶液に浸漬した本発明の場合(実施例1〜3)には、未浸漬の場合(対照例1)や中性の水に浸漬した場合(比較例1)と比較して、滑らかさ、粘弾性に優れる茹でチャンポンが得られることが確認された。
【0024】
〔実施例4〜7および比較例2〕
準強力小麦粉(日清製粉「特ナンバーワン」)100質量部に対して、予めかんすい1.3質量部を水35質量部に溶かしたかんすい溶液を加えて、横型ミキサーで均一に混合した。この生地を常法に従って製麺ロールを用いて複合、圧延して厚さ1.5mmの麺帯にした後、18番の角の切刃を用いて麺線に切り出して生麺線(生中華麺)を得た。
得られた生麺線(生中華麺)を、下記の表3に示す浸漬処理を行った後、沸騰水中にて茹でて、歩留まりが200〜210%の茹で麺(茹で中華麺)を得た。この茹で中華麺を−40℃の急速冷凍庫で冷凍し、−30℃にて1週間保存した後、沸騰水中で40秒間茹で戻しし、10名のパネラーにより、上記表2に示す評価基準にしたがって官能試験を行った。得られた評点の平均値を下記の表3に示す。なお、浸漬処理を行わなかった茹で中華麺を対照例2とし、その評点を標準の3点とした。また、浸漬液のpH値は水温が15℃のときの値である。
【0025】
【表3】

【0026】
上記表3に示す結果から、10〜40℃の1%かんすい溶液に浸漬した本発明の場合(実施例4〜7)には、滑らかさ、粘弾性に優れる冷凍茹で中華麺が得られるのに対して、60℃のかんすい溶液に浸漬した場合(比較例2)には、却って滑らかさ、粘弾性が低下することが確認された。また、比較例2では、得られる茹で中華麺の表面にやや荒れが見られ、外観の点でも好ましいものではなかった。
【0027】
〔実施例8〜12および比較例3〜4〕
準強力小麦粉(日清製粉「特ナンバーワン」)75質量部およびタピオカ澱粉(松谷化学「桜2」)25質量部の合計100質量部に対して、予めかんすい1.3質量部を水35質量部に溶かしたかんすい溶液を加えて、横型ミキサーで均一に混合した。この生地を常法に従って製麺ロールを用いて複合、圧延して厚さ1.5mmの麺帯にした後、18番の丸の切刃を用いて麺線に切り出して生麺線(生中華麺)を得た。
得られた生麺線(生中華麺)を、下記の表4に示す浸漬処理を行った後、沸騰水中にて茹でて、歩留まりを250〜260%とした。この茹であげた麺を水洗冷却した後、容器中に入れて5℃で24時間保存し、冷し中華麺(調理麺)を得た。この冷し中華麺(調理麺)を10名のパネラーに食してもらって上記表2に示す評価基準にしたがって官能試験を行った。得られた評点の平均値を下記の表4に示す。なお、浸漬処理を行わなかった冷し中華麺を対照例3とし、その評点を標準の3点とした。
【0028】
【表4】

【0029】
上記表4に示す結果から、1%かんすい溶液への浸漬時間が0.5〜10分間の本発明の場合(実施例8〜12)には、滑らかさ、粘弾性に優れた冷やし中華麺が得られるのに対して、浸漬時間が0.1分間の場合(比較例3)では、対照例3と比較してやや滑らかさ、粘弾性が向上するものの十分なもとのはいえないことが確認された。一方、浸漬時間を20分間とした場合(比較例4)には、却って滑らかさ、粘弾性が低下し、しかも冷やし中華麺の表面にやや荒れが見られ、外観の点においても好ましいものではなかった。
【0030】
〔実施例13〕
実施例5と同じ方法で得られた生中華麺を、下記の表5に示す浸漬処理を行った。なお、浸漬処理後の生中華麺のpHは10.5であった。浸漬処理後、沸騰水中にて茹でて、歩留まりが200〜210%の茹で中華麺を得た。この茹で中華麺を密封容器中に入れ、5℃にて24時間保存した。
【0031】
〔比較例5〕
準強力小麦粉100質量部に対して、かんすい2.6質量部を用いた以外は実施例5と同様にして生中華麺を得た。なお、この生中華麺のpHは10.5であった。次いで、この生中華麺を沸騰水中にて茹でて、歩留まりが200〜210%の茹で中華麺を得た。この茹で中華麺を密封容器中に入れ、5℃にて24時間保存した。
【0032】
実施例13および比較例5の茹で中華麺を沸騰水中で40秒間茹で戻しし、10名のパネラーにより、上記表2に示す評価基準にしたがって官能試験を行った。得られた評点の平均値を下記の表5に示す。なお、実施例5と同じ方法で得られた生中華麺について、浸漬処理を行わなかった茹で中華麺を対照例4とし、その評点を標準の3点とした。
【0033】
【表5】

【0034】
上記表5に示す結果から、かんすい溶液に生中華麺を浸漬した本発明の場合(実施例13)には、滑らかさ、粘弾性に優れる茹で中華麺が得られるのに対して、麺原料にかんすいを多めに配合して生中華麺のpHを合わせても、浸漬処理を行わない場合(比較例5)には、本発明の場合と同様な効果が得られないばかりか、却って滑らかさ、粘弾性が低下し、しかもエグ味のある食味となり、茹で中華麺として品質に著しく劣ることが確認された。
【0035】
〔実施例14および比較例6〕
強力小麦粉(日清製粉「ミリオン」)60質量部、そば粉(日穀製粉「金寿月」)30質量部およびタピオカ澱粉(松谷化学「桜2」)10質量部の合計100質量部に対して、予め食塩1質量部を水35質量部に溶かした食塩水を加えて、横型ミキサーで均一に混合した。この生地を常法に従って製麺ロールを用いて複合、圧延して厚さ1.4mmの麺帯にした後、20番の角の切刃を用いて麺線に切り出して生麺線(生そば)を得た。
得られた生麺線(生そば)を、下記の表6に示す浸漬処理を行った後、沸騰水中にて茹でて、歩留まりが260〜270%の茹で麺(茹でそば)を得た。この茹でそばを密封容器中に入れ、5℃にて24時間保存した。この茹でそばを10名のパネラーに食してもらって上記表2に示す評価基準にしたがって官能試験を行った。得られた評点の平均値を下記の表6に示す。なお、浸漬処理を行わなかった茹でそばを対照例5とし、その評点を標準の3点とした。
【0036】
【表6】

【0037】
上記表6に示す結果から、麺の種類が原料にかんすいなどのアルカリ性物質を配合しないそばであっても、生麺線をアルカリ性水溶液に浸漬することにより、滑らかさ、粘弾性に優れる茹でそばが得られることが確認された。
【0038】
〔実施例15および比較例7〕
強力小麦粉(日清製粉「スーパーカメリヤ」)95質量部およびタピオカ澱粉(Jオイルミルズ「A−700」)5質量部の合計100質量部に対して、予め食塩3質量部を水30質量部に溶かした食塩水を加えて、横型ミキサーで均一に混合した。この生地を常法に従って製麺ロールを用いて複合、圧延して厚さ1.0mmの麺帯にした後、26番の丸の切刃を用いて麺線に切り出して生麺線(生素麺)を得た。
得られた生麺線(生素麺)を、下記の表7に示す浸漬処理を行った後、沸騰水中にて茹でて、歩留まりを240〜250%とした。得られた茹で素麺を水洗冷却した後、容器中に入れて5℃で12時間保存した。この茹で素麺を10名のパネラーに食してもらって上記表2に示す評価基準にしたがって官能試験を行った。得られた評点の平均値を下記の表7に示す。なお、浸漬処理を行わなかった茹で素麺を対照例6とし、その評点を標準の3点とした。
【0039】
【表7】

【0040】
上記表7に示す結果から、原料にかんすいなどのアルカリ性物質を配合しない素麺においても、生麺線をアルカリ性水溶液に浸漬することにより、滑らかさ、粘弾性に優れる茹で素麺が得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常法により得られる未α化状態の生麺線を、温度5〜50℃でpH8〜12のアルカリ性水溶液に0.5〜10分間浸漬した後、茹で処理を行うことを特徴とする茹で麺類の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法で得られる茹で麺類。