説明

荷電粒子加速器およびそのメンテナンス方法

【課題】 装置設置スペースの低減と、装置構成を複雑化することなくメンテナンス性を改善することができる荷電粒子加速器およびそのメンテナンス方法を提供する。
【解決手段】 高電圧ターミナル3と、この高電圧ターミナル3に接続された加速管4とが高圧タンク2内に配置されており、高圧タンク2内に絶縁性ガスは圧縮乾燥空気とし、高圧タンク2の内部には、メンテナンス空間M1と非メンテナンス空間M2とに仕切る仕切体32が非気密的に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧発生部と、荷電粒子を加速する加速管とが、密閉容器内に配置され、密閉容器内に絶縁性ガスとして圧縮乾燥空気が充填されている荷電粒子加速器およびそのメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、イオンや電子を所望のエネルギーに加速するための荷電粒子加速器は、イオン注入装置や電子顕微鏡等に適用されている。特に、1MV級イオン注入装置やイオンビーム分析装置等、高エネルギーでイオンビームを照射する用途には、図2に概略的に示すシングルエンド型イオン加速器が用いられている。
【0003】
図2は従来のシングルエンド型イオン加速器1の構成を示している。このシングルエンド型イオン加速器1は、密閉容器としての高圧タンク2を有している。高圧タンク2の内部には高電圧ターミナル3および加速管4が配置されている。高電圧ターミナル3には、イオン源5、質量分離電磁石6等が収容されている。
【0004】
イオン源5は、分析装置用途の場合には水素やヘリウム等の正イオンを発生させ、イオン注入用途の場合にはボロンや燐、砒素イオンを発生させる。7はガスボックスであり、図示せずともボンベや流量調整器、バルブ等が収納され、イオン源5にイオンとなる原料ガスを供給する。8はイオン源電源であり、発電機9から所定の電力が供給される。発電機9は、高圧タンク2の外部に設置されたモータ10に対し、絶縁棒11を介して接続されている。絶縁棒11は高圧タンク2と高電圧ターミナル3との間に接続され、内部に発電機9を駆動させるモータ10の回転軸(図示略)が収納されている。
【0005】
加速管4は、質量分離電磁石6の下流側に配置されている。加速管4は、一端が高電圧ターミナル3に接続され、他端が高圧タンク2に接続されている。この加速管に平行してコッククロフトウォルトン型の倍電圧回路12が高圧タンク2と高電圧ターミナル3との間に配置されている。加速管4の下流側には磁場型四重極レンズ(以下Qレンズという)13、偏向マグネット14および照射チャンバ15が順に配置されている。イオン源5から照射チャンバ15までのビーム輸送ラインは、図示しない真空ポンプで所定の真空度(例えば10-3Pa以下)に減圧されている。
【0006】
高圧タンク2は、グランド電位に接続されている。高圧タンク2と高電圧ターミナル3との間の絶縁を確保するため、高圧タンク2内にはSF6 等の絶縁性ガスが所定圧で充填されている。16は絶縁性ガスのリザーバタンク、17は高圧タンク2とリザーバタンク16との間を開閉するバルブである。
【0007】
以上のように構成されるシングルエンド型イオン加速器1の動作について説明する。
【0008】
高電圧ターミナル3は、倍電圧回路12によって例えば500〜1000kVの高電圧が印加されている。また、高電圧ターミナル3内のイオン源電源8には、発電機9で発電された電力が供給されている。イオン源電源8からイオン源5に電力が供給され、ガスボックス7内のガスボンベから導入されたガスのプラズマがイオン源5で発生する。イオン源5より例えば約10〜25kVで引き出されたイオンは、アインツエルレンズ(図示略)で収束され、更に質量分離電磁石6により所望のイオンが選別され、加速管4に入射する。加速管4で加速されたイオンは、Qレンズ13で収束され、偏向マグネット14で偏向されて、照射チャンバ15内の被処理基板W上に、1価のイオンに相当するエネルギー換算で、最大500〜1000keVのエネルギーで照射される。
【0009】
ところで、この種のシングルエンド型イオン加速器1においては、例えばイオン源5のメンテナンスを定期的に行う必要がある。具体的には、イオン源5として熱陰極型イオン源が採用されている場合には、フィラメントの定期的な交換が必要である。この際、高電圧ターミナル3の電位をグランド電位にまで低下させた後、高圧タンク2に充填された絶縁性ガス(SF6 )をバルブ17を介してリザーバタンク16に回収する。そして、真空バルブ18を閉じてイオン源5と加速管4との間の連通を遮断し、イオン源5のメンテナンスを行っている。
【0010】
しかしながら、従来のイオン加速器1においては、高圧タンク2内に充填される絶縁性ガスに環境に有害なSF6 ガスを用いているので、メンテナンス時に絶縁性ガスを回収するためのリザーバタンク16を必要とし、これが装置設置スペースの大型化を招いているという問題がある。また、メンテナンス作業の終了後、高圧タンク2内に再度、絶縁性ガスを充填する必要があるため、運転再開に多大な時間を要するという問題がある。
【0011】
このような問題を解決するため、下記特許文献1には、図3に示すシングルエンド型イオン加速器21が提案されている。このイオン加速器21は、高圧タンク22の内部をメンテナンス空間S1と非メンテナンス空間S2に仕切る仕切壁23を備えている。メンテナンス空間S1にはイオン源24や質量分離電磁石25が収容され、非メンテナンス空間S2には加速管26が収容されている。仕切壁23は空間S1と空間S2との間を気密に区画している。そして、これら2つの空間S1,S2にそれぞれSF6 等の絶縁性ガスを充填している。メンテナンス空間S1にはメンテナンス扉27が設置されている。
【0012】
以上のような構成のイオン加速器21においては、イオン源24のメンテナンス時、メンテナンス空間S1のみを外気に開放してイオン源24等の所要のメンテナンスを行うようにして、SF6 ガスの回収用リザーバタンクの容積小型化、運転再開時のSF6 ガス充填作業時間の短縮を図るようにしている。
【0013】
【特許文献1】特開平11−67143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記特許文献1に記載のイオン加速器21は、メンテナンス時に絶縁性ガスの回収作業は従来と変わらず必要であるとともに、リザーバタンクを設置するためのスペースも依然として必要とされる。このリザーバタンクは装置運転時には全く不要な構造物であり、装置設置スペース低減の障害となっている。
【0015】
また、絶縁性ガスに用いられるSF6 ガスは環境負荷が大きく、漏洩による外部への影響も甚だしい。温室効果はCO2 の約22000倍に相当する。このため、仕切壁23に高い気密性が要求され、イオン源等の高電圧発生部との間の接続部に高い信頼性を確保する必要がある。これにより、装置構造の複雑化、高コスト化を招くという問題がある。
【0016】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、装置設置スペースの低減を図ることができ、装置構成を複雑化することなくメンテナンス性を改善することができる荷電粒子加速器およびそのメンテナンス方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
以上の課題を解決するに当たり、本発明の荷電粒子加速器は、高電圧発生部と、この高電圧発生部に接続され荷電粒子を加速する加速管とが、密閉容器内に配置されており、前記密閉容器内に絶縁性ガスが充填されている荷電粒子加速器において、前記絶縁性ガスは圧縮乾燥空気であり、前記密閉容器の内部には、メンテナンス空間と非メンテナンス空間とを非気密的に仕切る仕切体が設けられている。
【0018】
本発明では、絶縁性ガスとして圧縮乾燥空気を用いているので、メンテナンス時には当該絶縁性ガスを大気に開放することができる。これにより、SF6 ガス等を絶縁性ガスとして用いる従来の加速器構造と比較して、リザーバタンク等のガス回収用タンクが不要となり、装置の設置スペースの大幅な低減を図ることができる。
【0019】
また、本発明では、密閉容器の内部を仕切体によってメンテナンス空間と非メンテナンス空間とに仕切っているので、メンテナンス時における非メンテナンス空間の湿度の上昇を抑制し、装置運転再開時における圧縮乾燥空気の充填時間の短縮を図ることができる。
【0020】
更に、本発明では、上記仕切体でメンテナンス空間と非メンテナンス空間とを非気密的に仕切るようにしている。従って、メンテナンス時において、非メンテナンス空間を大気圧以上とすることにより、仕切体と高電圧発生部間の隙間を介して非メンテナンス空間からメンテナンス空間へ向かって空気の流れを形成でき、メンテナンス空間への外気の侵入を抑えることが可能となる。これにより、メンテナンス空間の湿度上昇を抑えながらメンテナンス作業を行うことができる。
【0021】
更にまた、上記仕切体が高電圧発生部と非接触で設置されているので、仕切体の構造を簡素化できる。そして、この仕切体を密閉容器内に常設させても、装置運転時における高電圧発生部と密閉容器との間の絶縁性を確保できる。
【0022】
上記仕切体は、電気的に絶縁性の材料で形成されるのが好ましい。また、この仕切体をメンテナンス時と非メンテナンス時で位置を変えられるようにしてもよい。すなわち、両空間を仕切る作動位置と、両空間を仕切らない非作動位置とを選択的にとれるように当該仕切体を構成する。これにより、非メンテナンス時は密閉容器と高電圧発生部間の絶縁性を高めることができ、メンテナンス時は非メンテナンス空間の湿度上昇を抑えることができる。
【0023】
また、本発明の他の荷電粒子加速器は、高電圧発生部と、この高電圧発生部に接続され荷電粒子を加速する加速管とが、密閉容器内に配置されており、前記密閉容器内に絶縁性ガスが充填されている荷電粒子加速器において、前記絶縁性ガスは圧縮乾燥空気であり、前記密閉容器には、外部と連絡する連絡口と、この連絡口を非気密的に遮蔽する遮蔽体とが設けられている。
【0024】
本発明は、連絡口を遮蔽する遮蔽体によって、密閉容器内部への外気の侵入を抑制し、密閉容器内部の湿度の大きな上昇を防ぐようにしている。これにより、装置運転再開時における圧縮乾燥空気の充填時間の短縮を図ることができる。
なお、遮蔽体は、フレキシブル性のある材料、例えばビニールフィルムや布などの低廉な素材で形成できる。
【0025】
一方、本発明の荷電粒子加速器のメンテナンス方法は、高電圧発生部と、荷電粒子を加速する加速管とが密閉容器内に配置され、前記密閉容器内に絶縁性ガスとして圧縮乾燥空気が充填されている荷電粒子加速器のメンテナンス方法であって、メンテナンス時に、前記密閉容器の内部から前記密閉容器の外部へ向かう空気流を形成している。これにより、メンテナンス空間への外気の侵入を抑えることが可能となり、メンテナンス空間の湿度上昇を抑えながらメンテナンス作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
以上述べたように、本発明によれば、絶縁性ガス回収用のタンクの設置が不要となるので、装置設置スペースの大幅な低減を図ることができる。また、装置構成を複雑化することなく、メンテナンス時における密閉容器内部の湿度上昇を抑えられ、運転再開時の圧縮乾燥空気の充填時間を短縮し、生産性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0028】
図1は本発明の実施の形態を示している。なお、図において図2と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略するものとする。
【0029】
本実施の形態の荷電粒子加速器は、図1に示すシングルエンド型イオン加速器31として構成されている。密閉容器として構成された高圧タンク2の内部には、イオン源5、質量分離電磁石6、ガスボックス7、イオン源電源8、発電機9等が収容される高電圧ターミナル(高電圧発生部)3と、この高電圧ターミナル3と密閉容器2との間に連結された加速管4と、加速管4に並行配置されたコッククロフトウォルトン型の倍電圧回路12などが設置されている。
【0030】
高圧タンク2はグランド電位に接続されており、高電圧ターミナル3は、倍電圧回路12を介して所定の高電圧(例えば500〜1000kV)が印加されている。これら高圧タンク2と高電圧ターミナル3との間の電気的絶縁は、高圧タンク2の内部に充填された圧縮乾燥空気によって確保されている。
【0031】
ここで、圧縮乾燥空気の耐電圧の大きさは、圧縮乾燥空気のコンディションによって変化する。空気の圧縮度が高いほど耐電圧は向上するが、圧縮空気中の湿度が高くなると耐電圧は低下する。また、空気の圧縮度を高めると、圧縮空気中の湿度は増大する。
すなわち、圧縮空気の圧縮度が高いほど、高圧タンクと高電圧発生部との間の耐電圧は向上するものの、圧縮度の上昇に伴って空気中の水分が凝結する結果、沿面放電等による耐電圧の劣化等が懸念されることになる。このため、高電圧発生部に発生させる電圧の大きさに応じて、充填空気の湿度管理が行われる。例えば本実施の形態のように、高電圧ターミナル3の最大発生電圧を1000kVとした場合、充填される圧縮乾燥空気は、ゲージ圧2気圧(0.2MPa)で湿度50%以下に管理されている。
【0032】
なお、高圧タンク2への圧縮乾燥空気の導入は、エアコンプレッサを備えたエアタンク37からエアドライヤ36及びバルブ38を介して行われる。また、導入した圧縮乾燥空気を再びエアタンク37に戻して、エアタンク37、エアドライヤ36及び高圧タンク2の間で圧縮乾燥空気を循環させるようにすれば、充填する圧縮乾燥空気の湿度を容易に調整することができる。
【0033】
次に、高圧タンク2の内部は、仕切体32によって、高電圧ターミナル3が属するメンテナンス空間M1と、加速管4や倍電圧回路12等が属する非メンテナンス空間M2とに仕切られている。メンテナンス空間M1には、外部と連絡する連絡口33と、この連絡口33を気密に閉塞するメンテナンス扉35が設置されている。連絡口33は、作業者が出入りできる程度の開口面積で形成されている。なお、39a,39bは、メンテナンス空間M1および非メンテナンス空間M2の内圧を測定する連成計あるいは圧力計である。
【0034】
仕切体32は、図では簡略的に示しているが、高電圧ターミナル3の周囲から高圧タンク2の内壁面に向かって設置されている。特に本実施の形態では、仕切体32は電気的に絶縁性の材料(例えば非導電性プラスチック、木材など)で形成されており、高圧タンク2の内部に常設され、高圧タンク2の内面隅部から高電圧ターミナル3に向けて延在させてその沿面距離を長くとっている。
【0035】
仕切体32の構成は特に限定されず、例えば、高圧タンク2の連絡口33側の四側辺から高電圧ターミナル3に向けて各々延設させた4枚の板材で構成することができる。あるいは、高圧タンク2の連絡口33側の側面から、頂点が開口された円錐台もしくは角錐台形状に上記仕切体32を形成してもよい。なお、仕切体32には、作業者の体重と、メンテナンス空間M1と非メンテナンス空間M2間の所定の圧力差に耐え得る程度の機械的強度が備えられているものとする。
【0036】
仕切体32は、高電圧ターミナル3に対して非接触とされている。すなわち、図1において領域Aに示したように、仕切体32の先端部と高電圧ターミナル3との間には一定の隙間が形成されている。これにより、メンテナンス空間M1と非メンテナンス空間M2とは上記隙間Aを介して空気の連通が可能となっている。また、非メンテナンス時において高電圧ターミナル3に大電圧が印加されても、仕切体32での沿面放電による絶縁破壊が防止され、密着時における場合よりも耐電圧の向上を図ることができる。
【0037】
なお、仕切体32を図示する作動位置と一点鎖線で示す非作動位置との間で移動自在に構成してもよい。この場合、メンテナンス時には実線で示す作動位置に移動し、運転時(非メンテナンス時)は一点鎖線で示す非作動位置に待機させるようにする。これにより、運転時における耐電圧を更に向上させることができる。
【0038】
一方、連絡口33には、この連絡口33を遮蔽する遮蔽体34が設置されている。この遮蔽体34は、連絡口33をタンク内側から遮蔽することによって、当該連絡口33を介しての外気の侵入を制限し、メンテナンス空間M1の湿度の上昇を規制する作用を行う。遮蔽体34は連絡口33を気密に遮蔽する必要はない。この遮蔽体34で、湿度の高い外気がメンテナンス空間M1に入るのを制限できればよい。
【0039】
遮蔽体33は、例えばビニル製または布製のカーテン等で構成することができる。材質は電気的に絶縁製の材料であることが好ましいが、高電圧ターミナル3から一定の離間距離が確保されていれば金属等の導電性材料であってもよい。また、遮蔽体34をエアカーテン等で形成してもよい。
【0040】
次に、以上のように構成される本実施の形態のシングルエンド型イオン加速器31のメンテナンス方法について説明する。特に本実施の形態では、高電圧ターミナル3に収容されたイオン源5のメンテナンス方法について説明する。
【0041】
メンテナンスを開始するに当たり、倍電圧回路12による昇圧作用が停止され、高電圧ターミナル3がグランド電位に落とされる。また、イオン源5と質量分離電磁石6との間に設けられた真空バルブ18を閉じて、イオン源5側を大気圧に開放する。その後、メンテナンス空間M1の内圧が大気圧に調整される。次いで、メンテナンス扉35が開放され、作業者が連絡口33から遮蔽体34を押し退けて内部へ進入する。そして、イオン源5のメンテナンス作業、更に詳しくは、高電圧ターミナル3の作業窓3aを開口させて、熱陰極フィラメントの交換作業が行われる。
【0042】
メンテナンス時、連絡口33に設置された遮蔽体34によって、メンテナンス空間M1への外気の侵入が抑えられ、メンテナンス空間M1の低湿度雰囲気が維持される。
【0043】
また、非メンテナンス空間M2は、メンテナンス空間M1に対して非気密的であるので、このメンテナンス空間M1の内圧と平衡をとるように、非メンテナンス空間M2からメンテナンス空間M1に向かって空気が移動する。この空気の流れは、仕切体32の先端と高電圧ターミナル3の周囲との間の隙間Aを介して行われる。
【0044】
これにより、メンテナンス空間M1には、非メンテナンス空間M2から低湿度の空気が流入されるので、メンテナンス空間M1の外気侵入による湿度上昇が抑えられる。また、非メンテナンス空間M2からメンテナンス空間M1に向かう空気の流れによって、メンテナンス空間M1が大気圧より若干高めに維持されるので、メンテナンス空間M1から高圧タンク2外部へ向かう空気の流れをも形成できるようになり、外気侵入抑制効果をより一層高めることができる。
【0045】
なお、メンテナンス時、エアタンク37側から非メンテナンス空間M2へ圧縮乾燥空気を供給することで、メンテナンス空間M1と非メンテナンス空間M2との間に一定の圧力差を発生させておいてもよい。これにより、隙間Aを介しての空気の流れを維持でき、メンテナンス空間M1の湿度上昇を抑えることができる。
【0046】
メンテナンス作業の終了後、作業者は遮蔽体を押し退けて連絡口33から高圧タンク2外部へ退出する。その後、メンテナンス扉35が閉められ、高圧タンク2の内部が外部から密閉される。次いで、エアタンク37から高圧タンク2の内部へ圧縮乾燥空気が所定圧充填される。また、イオン源5の内部が真空排気され真空バルブ18が開放される。更に高電圧ターミナル3に所定電圧が印加され、運転再開の準備がなされる。
【0047】
なお、この圧縮乾燥空気の充填作業は、湿度コントロールした外気を高圧タンク2へ充填し、これが所定圧に達した後、高圧タンク2内の充填空気をエアタンク37およびエアドライヤ36を介して循環送出させる。高圧タンク2内の圧縮空気が所定の湿度以下に達した後、バルブ38を閉じ空気の送出を停止させる。
【0048】
以上述べたように、本実施の形態によれば、高圧タンク2に充填される絶縁性ガスに圧縮乾燥空気が用いられているので、メンテナンス時には当該絶縁性ガスを大気に開放することができる。これにより、SF6 ガス等を絶縁性ガスとして用いる従来の加速器構造と比較して、リザーバタンク等のガス回収用タンクが不要となり、装置の設置スペースの大幅な低減を図ることができる。
【0049】
また、高圧タンク2の内部を仕切体32によってメンテナンス空間M1と非メンテナンス空間M2とに仕切っているので、メンテナンス時における非メンテナンス空間M2の湿度の上昇を抑制し、装置運転再開時における圧縮乾燥空気の充填時間の短縮を図ることができる。
【0050】
更に、上記仕切体32が高電圧ターミナル3と非接触で設置されているので、メンテナンス時において、仕切体32と高電圧ターミナル3間の隙間Aを介して非メンテナンス空間M2からメンテナンス空間M1へ向かって空気の流れを形成でき、メンテナンス空間M1への外気の侵入を抑えることが可能となる。これにより、メンテナンス空間M1の湿度上昇を抑えながら、イオン加速器31のメンテナンス作業を行うことができる。
【0051】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、勿論、本発明はこれに限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0052】
例えば以上の実施の形態では、高圧タンク2の内部に仕切体32と遮蔽体34の両方を設置する場合を例に挙げて説明したが、これに代えて、仕切体32および遮蔽体34のうち何れか一方のみを用いる構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態によるシングルエンド型イオン加速器31の概略構成図であり、特にイオン源5のメンテナンス工程を説明している。
【図2】従来のシングルエンド型イオン加速器の概略構成図である。
【図3】従来の他のシングルエンド型イオン加速器の概略構成図である。
【符号の説明】
【0054】
2…高圧タンク、3…高電圧ターミナル、4…加速管、5…イオン源、6…質量分離電磁石、7…ガスボックス、8…イオン源電源、9…発電機、12…倍電圧回路、18…真空バルブ、31…シングルエンド型イオン加速器(荷電粒子加速器)、32…仕切体、33…連絡口、34…遮蔽体、35…メンテナンス扉、36…エアドライヤ、37…エアタンク、38…バルブ、M1…メンテナンス空間、M2…非メンテナンス空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧発生部と、この高電圧発生部に接続され荷電粒子を加速する加速管とが、密閉容器内に配置されており、前記密閉容器内に絶縁性ガスが充填されている荷電粒子加速器において、
前記絶縁性ガスは圧縮乾燥空気であり、
前記密閉容器の内部には、メンテナンス空間と非メンテナンス空間とを非気密的に仕切る仕切体が設けられていることを特徴とする荷電粒子加速器。
【請求項2】
前記仕切体は、前記高電圧発生部に対して非接触で設けられている請求項1に記載の荷電粒子加速器。
【請求項3】
前記仕切体は、電気絶縁性の材料で形成されている請求項1に記載の荷電粒子加速器。
【請求項4】
前記仕切体は、前記メンテナンス空間と前記非メンテナンス空間との間を仕切る作動位置と、前記メンテナンス空間と前記非メンテナンス空間との間を仕切らない非作動位置とを選択的にとる請求項1に記載の荷電粒子加速器。
【請求項5】
前記メンテナンス空間には、前記密閉容器の外部と連絡する連絡口と、この連絡口を非気密的に遮蔽する遮蔽体とが設けられている請求項1に記載の荷電粒子加速器。
【請求項6】
高電圧発生部と、この高電圧発生部に接続され荷電粒子を加速する加速管とが、密閉容器内に配置されており、前記密閉容器内に絶縁性ガスが充填されている荷電粒子加速器において、
前記絶縁性ガスは圧縮乾燥空気であり、
前記密閉容器には、外部と連絡する連絡口と、この連絡口を非気密的に遮蔽する遮蔽体とが設けられていることを特徴とする荷電粒子加速器。
【請求項7】
前記遮蔽体は、フレキシブル性のある材料で形成されている請求項6に記載の荷電粒子加速器。
【請求項8】
前記密閉容器の内部には、メンテナンス空間と非メンテナンス空間とを非気密的に仕切る仕切体が設けられている請求項6に記載の荷電粒子加速器。
【請求項9】
高電圧発生部と、荷電粒子を加速する加速管とが密閉容器内に配置され、前記密閉容器内に絶縁性ガスとして圧縮乾燥空気が充填されている荷電粒子加速器のメンテナンス方法であって、
メンテナンス時に、前記密閉容器の内部から前記密閉容器の外部へ向かう空気流を形成することを特徴とする荷電粒子加速器のメンテナンス方法。
【請求項10】
前記密閉容器の内部には、メンテナンス空間と非メンテナンス空間とに仕切る仕切体が前記高電圧発生部に対して非接触で設けられており、前記メンテナンス空間と前記非メンテナンス空間との圧力差で前記空気流を形成する請求項9に記載の荷電粒子加速器のメンテナンス方法。
【請求項11】
前記密閉容器には外部連絡用の連絡口が形成されており、この連絡口を遮蔽する遮蔽体を前記連絡口に非気密的に設置することで前記空気流を形成する請求項9に記載の荷電粒子加速器のメンテナンス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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