説明

荷電粒子加速器及び荷電粒子加速方法

【課題】従来の線形加速器よりも容易に設計及び製作することが可能な、任意の大きさの加速電流が得られる荷電粒子加速器を提供する。
【解決手段】
荷電粒子加速器100は、前記複数の進行軌道のそれぞれに沿って配列する加速電極によって構成される荷電粒子加速ユニット101を複数備え、イオン発射部102から発射される複数のイオンビームそれぞれを、複数の荷電粒子加速ユニット101により、同期して加速することができるよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子加速器及び荷電粒子加速方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、荷電粒子を加速する方式として、線形加速器が知られている。線形加速器は、加速電極管を線形に配置し、その間に加速電界を形成することで、加速器内部を通過する荷電粒子を加速する加速器である(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−157400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
医療、エネルギー、産業分野への応用を考えると、加速器の加速電流が大きく、かつ単位時間当たりに加速する荷電粒子の個数が多い程、その応用範囲は広くなる。従来、線形加速器では、荷電粒子の軌道方向に配列する加速電極管の数を増やし、荷電粒子を加速する加速電界の数を増やすことで、高エネルギーの荷電粒子を得ていた。しかしながら、この方法では、複数の荷電粒子からなるイオンビームを、大きな加速電流で加速しようとするため、空間電荷効果によって、イオンビームの膨張速度が増大し、イオンビームを形成する荷電粒子が外壁と衝突してしまう。これを回避するためには、加速電極管の内径を大きくしなければならない。このため、必要となる加速電流にあわせて加速電極管の内径サイズを設計しなければならず、設計及び試験に要するコストが増大するという問題がある。また、加速電極管の内径サイズの設計を行うためには、シミュレーションによる計算を行う必要があるため、設計に膨大な時間が必要となるといった問題もある。これらの理由から、従来型の線形加速器では、加速電流の大きな加速器を安価に、かつ短期間で、設計及び製作することは困難であった。
【0005】
本発明は、斯かる事情を鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、上記課題を解決することができる荷電粒子加速器及び荷電粒子加速方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一の態様の荷電粒子加速器は、互いに異なる複数の進行軌道のそれぞれに複数の荷電粒子を発射する荷電粒子発生源と、前記複数の進行軌道のそれぞれに沿って、空間を隔てて直列的に並べられ、荷電粒子が通過する複数の電極管と、前記電極管に印加するための電圧を発生する電源と、を備え、前記複数の進行軌道のそれぞれに対応する複数の電極管からなる電極管群が、前記荷電粒子発生源によって発射される荷電粒子が通過する順番に複数段設けられており、前記電源と、一の段の電極管群とを接続することにより、前記一の段の電極管群と、前記一の段の電極管群と隣り合う他の段の電極管群との間の空間に荷電粒子を加速するための電界を形成するように構成されている。
【0007】
また、上記態様において、前記電源によって発生される電圧を、前記電極管に印加するためのスイッチと、前記スイッチを制御する制御部と、をさらに備え、前記電源は、直流電圧電源であり、前記スイッチは、前記電源と、一の段の電極管群とを接続させ、又は接続を遮断させることにより、前記一の段の電極管群と、前記一の段の電極管群と隣り合う他の段の電極管群との間の空間に荷電粒子を加速するための電界を形成するように構成されていてもよい。
【0008】
上記態様において、前記荷電粒子発生源は、前記複数の荷電粒子を同時に発射することができるように構成されていてもよい。
【0009】
上記態様において、前記電極管群に含まれる複数の電極管それぞれは、互いに平行になるように配設されていてもよい。
【0010】
上記態様において、前記電極管群に含まれる複数の電極管それぞれは、前記複数の進行軌道を集束すべく、互いに傾斜するように配設されていてもよい。
【0011】
また、本発明の一の態様の荷電粒子加速方法は、互いに異なる複数の進行軌道のそれぞれに複数の荷電粒子を発射するステップと、前記荷電粒子を発射するステップにより発射される複数の荷電粒子それぞれの進行軌道に沿って、空間を隔てて直列的に並べられている電極管からなり、荷電粒子が通過する順番に複数段設けられている電極管群のうち、一の段の電極管群と、前記一の段の電極管群と隣り合う他の段の電極管群との間の空間に荷電粒子を加速するための加速電界を形成するステップと、を有する。
【0012】
前記一の段の電極管群の一方を荷電粒子が通過する間に、電源と前記一の段の電極管群とを接続させ、又は接続を遮断させるステップをさらに有していてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る荷電粒子加速器及び荷電粒子加速方法によれば、前記電極管群それぞれの電極管の数を増減するだけで、任意の大きさの加速電流が得られる荷電粒子加速器及び荷電粒子加速方法を容易に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態1に係る荷電粒子加速器の概略構成を示す斜視図。
【図2】実施の形態1に係る荷電粒子加速器の構成を示す模式図。
【図3】実施の形態1に係る荷電粒子加速器の構成の一部を示す模式図。
【図4】実施の形態1に係る加速電極管群の構成を示す模式図。
【図5】実施の形態1に係る荷電粒子加速器が有する制御部の処理の流れを示すフローチャート。
【図6】スイッチング素子の切替制御を示すタイミングチャート。
【図7】実施の形態2に係る荷電粒子加速器の構成を示す模式図。
【図8】実施の形態3に係る荷電粒子加速器の構成を示す模式図。
【図9】その他の実施の形態に係る荷電粒子加速器の構成の一部を示す模式図。
【図10】その他の実施の形態に係る固体金属ターゲットの概略構成を示す斜視図。
【図11】その他の実施の形態に係る固体金属ターゲットのA−A断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0016】
(実施の形態1)
実施の形態1に係る荷電粒子加速器の構成について説明する。図1は、実施の形態1に係る荷電粒子加速器の概略構成を示す斜視図である。本実施の形態に係る荷電粒子加速器100は、複数の荷電粒子加速ユニット101,101,101,…と、荷電粒子を発射するイオン発射部102と、荷電粒子加速ユニット101,101,101,…それぞれによって加速された荷電粒子が照射されることで核反応により中性子線を発生する、複数の固体金属ターゲット103,103,103,…と、を備えている。イオン発射部102は、複数の荷電粒子加速ユニット101,101,101,…に対して、荷電粒子からなるイオンビームを同時に発射可能に構成されている。
【0017】
複数の荷電粒子加速ユニット101,101,101,…は、図1に示すように、並列に配置されている。各荷電粒子加速ユニット101は、28本の加速電極管T,T,T,…,T28を備えている。加速電極管T,T,T,…,T28それぞれは、イオン発射部102の荷電粒子を発射する方向に沿って、順番に配置されている。また、加速電極管T,T,T,…,T28は、イオン発射部102から遠ざかる毎に長くなるよう構成されている。
【0018】
図2及び図3は、実施の形態1に係る荷電粒子加速器の構成を示す模式図である。図2に示すように、荷電粒子加速器100は、2つの高電圧直流電源P1,P2を備えている。高電圧直流電源P1,P2それぞれの出力電圧は60kVである。
【0019】
各荷電粒子加速ユニット101は、加速電極管T,T,T,T,…,T28が直列的に28段配置された構成である。つまり、複数の荷電粒子加速ユニット101,101,101…のそれぞれには、28段の加速電極器T,T,T,T,…,T28が設けられており、各荷電粒子加速ユニット101,101,101…のそれぞれに含まれる同じ段の加速電極管によって加速電極管群が構成される。即ち、荷電粒子加速器100は、28段の加速電極管群を備えている。
【0020】
高電圧直流電源P1の陰極には、スイッチング素子SWRを介して1つの荷電粒子加速ユニット101の加速電極管Tが接続されている。また、各荷電粒子加速ユニット101,101,101,…の加速電極管T,T,T,…は互いに導電体により接続されている。つまり、1段目の加速電極管群に含まれる各加速電極管T,T,T,…は互いに導通可能に接続されている。さらに高電圧直流電源P1の陰極は、スイッチング素子SWRを介して1つの加速電極管Tに接続され、スイッチング素子SWRを介して1つの加速電極管Tに接続され、同様にスイッチング素子SWR,SWR,…,SWR28のそれぞれを介して加速電極管T,T,…,T28のそれぞれに1つずつ接続されている。2段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…は導電体により互いに接続されており、同様に、3段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…、4段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…、…、28段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T28,T28,T28,…のそれぞれについても、同じ段の加速電極管群に含まれる加速電極管同士が互いに導通可能に接続されている。高電圧直流電源P1の陽極は接地されている。
【0021】
上記の構成についてさらに詳しく説明する。図4は加速電極管の構成を示す模式図である。互いに平行に配置された加速電極管T,T,T,…、即ち、1段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…は加速電極管保持部材104によって保持されている。この加速電極管保持部材104は導電体であるステンレス合金により構成されている。このため、加速電極管保持部材104により加速電極管T,T,T,…は電気的に接続されることになる。2段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…、3段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…、4段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…、…、28段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T28,T28,T28,…それぞれの加速電極管についても、1段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…と同様に、同じ段の加速電極管群に含まれる加速電極管同士が加速電極管保持部材104によって保持されており、加速電極管保持部材104によって電気的に接続されている。
【0022】
高電圧直流電源P2の陽極には、スイッチング素子SWFを介して1つの荷電粒子加速ユニット101の加速電極管Tが接続されている。また、高電圧直流電源P2の陽極は、スイッチング素子SWRを介して1つの加速電極管Tに接続され、スイッチング素子SWRを介して1つの加速電極管Tに接続され、同様にスイッチング素子SWR,SWR,…,SWR28のそれぞれを介して加速電極管T,T,…,T28のそれぞれに1つずつ接続されている。かかる高電圧直流電源P2の陰極は接地されている。
【0023】
これにより、スイッチング素子SWRをオンにし、スイッチング素子SWFをオフにすると、高電圧直流電源P1と1段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…とが接続されて、各加速電極管T,T,T,…の電位は−60kVに変化する。逆に、スイッチング素子スイッチング素子SWFをオンにし、スイッチング素子SWRをオフにすると、高電圧直流電源P1と1段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…との接続が遮断され、高電圧直流電源P2と加速電極管T,T,T,…と接続されて、各加速電極管T,T,T,…の電位は60kVに変化する。
【0024】
図2に示すように、加速電極管T,T,T,…それぞれと加速電極管T,T,T,…それぞれとの間には、ギャップG,G,G,…が設けられている。これと同様に、隣り合う加速電極管T〜T28のそれぞれの間にも、ギャップG〜G27が設けられている。
【0025】
このように、隣り合う加速電極管T及びTn+1の間にギャップGが設けられていることにより、T及びTn+1に電位差が生じると、ギャップGに電界が形成される。この電界により、ギャップGを通過する荷電粒子が加速される(nは2〜27の整数)。
【0026】
また、本実施の形態に係る荷電粒子加速器100は、各荷電粒子加速ユニット101,101,101,…へイオンビームを発射するイオン発射部102と、FPGA(Field Programmable Gate Array)からなる制御部105とを有している。イオン発射部102は、荷電粒子加速ユニット101,101,101,…それぞれの加速電極管T,T,T,…へ同時にイオンビームを発射することが可能である。また、図4に示すように、制御部105は、各スイッチング素子SWR,SWR,…,SWR28,SWF,SWF,…,SWF28に接続されており、スイッチング素子SWR,SWR,…,SWR28,SWF,SWF,…,SWF28を駆動することができる。また、制御部105は、イオン発射部102にも接続されており、イオン発射部を駆動することができる。
【0027】
次に、本実施の形態に係る荷電粒子加速器100の動作について説明する。図5は、実施の形態1に係る荷電粒子加速器100が有する制御部の処理の流れを示すフローチャートである。まず、制御部105は、スイッチング素子SWRをオンにし、スイッチング素子SWFをオフにする。これと共に、スイッチング素子SWR,SWR,SWR,…,SWR28をオンにし、スイッチング素子SWF,SWF,SWF,…,SWF28をオフにする(ステップS1)。スイッチング素子SWRがオンとされ、スイッチング素子SWFがオフとされると、1段目の加速電極管群に含まれる各加速電極管T,T,T,…と高電圧直流電源P1とが接続され、1段目の加速電極管群に含まれる各加速電極管T,T,T,…と高電圧直流電源P2との接続が遮断される。したがって、1段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…には、負の電位が印加される。また、ステップS1の処理が実行された後、加速電極管Tに印加される電位の変化が収束するのに十分な時間が経過してから、ステップS2の処理が実行される。このため、1段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…の電位は−60kVとなる。
【0028】
また、スイッチング素子SWR,SWR,SWR,…,SWR28がオンとされ、スイッチング素子SWF,SWF,SWF,…,SWF28がオフとされると、各荷電粒子加速ユニット101,101,101,…の加速電極管T,T,T,…,T28のそれぞれと高電圧直流電源P2との接続が遮断され、各荷電粒子加速ユニット101,101,101,…の加速電極管T,T,T,…,T28のそれぞれと高電圧直流電源P1とが接続される。したがって、各荷電粒子加速ユニット101,101,101,…の加速電極管T,T,T,…,T28のそれぞれの電位は、−60kVとなる。
【0029】
次に制御部105は、イオン発射部102を制御して、イオンビームを発射させる(ステップS2)。イオン発射部102は、設定で定められたイオン電流値、直径、及び長さを有するイオンビームを各荷電粒子加速ユニット101,101,101,…の加速電極管T,T,T,…それぞれへ同時に発射する。イオン発射部102から発射されたイオンビームは加速電極管Tに進入する。
【0030】
次に制御部105は、所定の切替時間に到達したか否かを判別し(ステップS3)、切替時間に到達していないと判断した場合には(ステップS3においてNO)、再度ステップS3の処理を繰り返す。この切替時間は、予め設定された値であり、イオンビームが発射されてから、各イオンビームのリーディングエッジが1段目の加速電極管群に含まれる各加速電極管T,T,T,…の中央に到達するまでの時間である。つまり、ステップS3において、切替時間に到達したと判断された時点では、各イオンビームのリーディングエッジが各加速電極管T,T,T,…の中央部分に位置していることになる。
【0031】
ステップS3において、切替時間に到達している場合には(ステップS3においてYES)、制御部105はスイッチング素子SWRをオフにし、同時にスイッチング素子SWFをオンにする(ステップS4)。こうすることで、1段目の加速電極管群に含まれる各加速電極管T,T,T,…と高圧直流電源P1との接続が遮断され、1段目の加速電極管群に含まれる各加速電極管T,T,T,…と高圧直流電源P2とが接続される。このとき、1段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…それぞれの電位は60kV、1段目の加速電極管群に後続する2段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…それぞれの電位は−60kVであるため、ギャップG,G,G,…それぞれにおける電位差は120kVである。この電圧によりギャップG,G,G,…には電界が形成される。この電界の向きは、加速電極管Tから加速電極管Tへ向かう方向である。本実施の形態におけるイオンビームに含まれる荷電粒子は、正の電荷を有しているため、イオンビームはギャップGを通過する間に、電界によって加速され、加速電極管Tに進入する。
【0032】
制御部105は、ステップS4を実行した後、変数qに2を代入し(ステップS5)、次に進入する加速電極管Tに対応する所定の切替時間に到達したか否かを判別し(ステップS6)、切替時間に到達していないと判断した場合には(ステップS6においてNO)、再度ステップS6の処理を繰り返す。切替時間は加速電極管T,T,T,…,T28毎に、予め定められている。各切替時間は、イオンビームが発射されてから、イオンビームのリーディングエッジが当該切替時間に対応する加速電極管Tの中央に到達するまでの時間である。つまり、ステップS6において、切替時間に到達したと判断された時点では、各イオンビームのリーディングエッジがq段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…の中央部分に位置していることになる。
【0033】
ステップS6において、切替時間に到達している場合には(ステップS6においてYES)、制御部はスイッチング素子SWRをオフにし、同時にスイッチング素子SWFをオンにする(ステップS7)。こうすることで、q段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…と高電圧直流電源P2とが接続され、q段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…と高電圧直流電源P1との接続が遮断される。したがって、q段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…には、正の電位が印加される。したがって、スイッチング素子SWRをオフにし、同時にスイッチング素子SWFをオンにすると、加速電極管T,T,T,…それぞれの電位は60kVに変化する。
【0034】
ここで、q段目の加速電極管群に後続するq+1段目の加速電極管群に含まれる加速電極管Tq+1,Tq+1,Tq+1,…は、高電圧直流電源P2に接続されておらず、高電圧直流電源P1に接続されている。このため、q+1段目の加速電極管群に含まれる加速電極管Tq+1,Tq+1,Tq+1,…の電位は−60kVである。したがって、加速電極管T,T,T,…とTq+1,Tq+1,Tq+1,…との間のギャップG,G,G,…における電位差は120kVであり、ギャップG,G,G,…における電界の向きは加速電極管T,T,T,…から加速電極管Tq+1,Tq+1,Tq+1,…へ向かう方向である。これにより、ギャップG,G,G,…を荷電粒子が通過する間に、この電界によって荷電粒子は加速されることになる。
【0035】
制御部は、その時点での変数qの値が28であるか否かを判別する(ステップS8)。変数qの値が28でない場合には(ステップS8においてNO)、制御部は変数qの値を1だけインクリメントし(ステップS9)、ステップS6へ処理を戻す。これにより、荷電粒子加速器100の動作初期には−60kVに印加されていた2段目以降の各段の加速電極管群の電位が順次60kVに切り替えられる。
【0036】
図6は、スイッチング素子SWR,SWF,SWR,SWF,SWR,SWF,…,SWR28,SWF28のオン/オフ制御を説明するための図である。以下の説明では、が1〜26の整数を示すものとする。イオンビームに含まれる荷電粒子が加速電極管Tの軸長方向中央を通過するときには(図中、1行目)、スイッチング素子SWRがオンとされ、スイッチング素子SWFがオフとされる。このため、加速電極管Tの電位は+60kVとなっている。一方、スイッチング素子SWRn+1及びSWRn+2はオフ(初期状態)とされ、スイッチング素子SWFn+1及びSWFn+2がオン(初期状態)とされている。つまり、加速電極管Tに後続する加速電極管Tn+1,加速電極管Tn+2の電位は−60kVとなっている。このため、ギャップGには120kVの電位差が生じており、ギャップGにおける電界の向きは荷電粒子の進行方向と一致している。なお、ギャップGn+1の電位差は0であり、ギャップGn+1には電界が生じていない。
【0037】
荷電粒子はギャップGを通過し、このときギャップGの電界により加速される。加速された荷電粒子は、次の加速電極管Tn+1に進入する(図中、2行目)。荷電粒子が加速電極管Tn+1の軸長方向中央を通過するときには(図中、3行目)、スイッチング素子SWRn+1がオンに切り替えられ、スイッチング素子SWFn+1がオフに切り替えられる。このため、加速電極管Tn+1の電位は+60kVに変化する。このとき、スイッチング素子SWRn+2及びSWFn+2のそれぞれは初期状態から変化しない。したがって、加速電極管Tn+2の電位は−60kVとなっている。このため、ギャップGn+1には120kVの電位差が生じ、ギャップGn+1における電界の向きは荷電粒子の進行方向と一致する。
【0038】
荷電粒子はギャップGn+1を通過し、ギャップGn+1の電界により加速される。加速された荷電粒子は、次の加速電極管Tn+2に進入する(図中、4行目)。荷電粒子が加速電極管Tn+2の軸長方向中央を通過するときには(図中、5行目)、スイッチング素子SWRn+2がオンに切り替えられ、スイッチング素子SWFn+2がオフに切り替えられる。このため、加速電極管Tn+2の電位は+60kVに変化する。
【0039】
このように、ギャップG,G,G,…,G27の電位差が次々に0から120kVに切り替わり、ギャップG,G,G,…,G27を通過することで、荷電粒子が加速される。
【0040】
ステップ8において、変数qの値が28である場合には(ステップS8においてYES)、制御部は、処理を終了する。
【0041】
本実施の形態に係る荷電粒子加速器100では、上記のように複数の荷電粒子加速ユニット101,101,101,…によって荷電粒子を加速するため、単一の荷電粒子加速ユニットしか持たない通常の荷電粒子加速器と比べて、出力されるイオンビーム全体の電荷量、すなわち加速電流値を高くすることができる。
【0042】
本実施の形態に係る荷電粒子加速器100では、複数のイオンビームを同時にイオン発射部から発射し、複数の荷電粒子加速ユニット101,101,101,…によって同時に荷電粒子を加速するため、単位時間当たりに発射するイオンビームの総電荷量をより大きくすることができる。
【0043】
本実施の形態に係る荷電粒子加速器100では、複数の平行なイオンビームをイオン発射部102から発射し、並列に配置された複数の荷電粒子加速ユニット101,101,101,…それぞれによって荷電粒子を加速するため、同一の方向又は対象に対してより大きな加速電流のイオンビームを照射することができる。
【0044】
本実施の形態に係る荷電粒子加速器100では、荷電粒子加速ユニット101,101,101,…を前述のように並列に配置することで、加速電流を大きくしている。これにより、配列する荷電粒子加速ユニット101の数を増減することで任意の大きさの加速電流を実現でき、加速電極管の内径サイズを固定化することができる。例えば、電荷量が1.8×10−8クーロン/パルス、直径が60mmのイオンビームを加速する場合、加速電極管の内径サイズは108mmに固定化することができる。このような構成の場合、加速周波数が500kHzであれば、1つの荷電粒子加速ユニットあたり、9mAの加速電流のイオンビームを得ることができる。また、電荷量が8.5×10−8クーロン/パルス、直径130mmのイオンビームを加速する場合、加速電極管の内径サイズは213mmに固定化することができる。このような構成の場合、加速周波数が500kHzであれば、1つの荷電粒子加速ユニットあたり、42.5mAの加速電流のイオンビームを得ることができる。
【0045】
本実施の形態に係る荷電粒子加速器100では、内径サイズを固定し、配列する荷電粒子加速ユニット101の数を増減することで、任意の大きさの加速電流を実現できるため、荷電粒子加速器の設計及び試験に要するコストを低減することができる。このため、従来の線形加速器よりも安価に荷電粒子加速器を提供することができる。
【0046】
本実施の形態に係る荷電粒子加速器100では、高電圧直流電源P1,P2を用い、イオンビームの通過するタイミングに基づいてスイッチング素子SWR,SWF,SWR,SWF,SWR,SWF,…,SWR28,SWF28を切り替えることにより、イオンビームを加速している。これにより、従来の高周波電圧を利用した加速器と比較して、加速電極管及びギャップの長さを精密に調整する必要がなく、装置の製造コストを低減することができる。
【0047】
本実施の形態に係る荷電粒子加速器100では、複数の荷電粒子加速ユニット101,101,101,…それぞれに対応する被照射面を有するように固体金属ターゲット103が構成されている。これにより、従来は点源であった中性子線の発生源を面源とすることができ、偏向等の手段を用いなくとも広範囲に照射できる中性子線を発生させることができる。
【0048】
(実施の形態2)
実施の形態2に係る荷電粒子加速器200の構成について説明する。本実施の形態に係る荷電粒子加速器200は、線形加速器である。荷電粒子加速器200は、実施の形態1における荷電粒子加速器100と同様に、複数の荷電粒子加速ユニット201,201,201,…と、荷電粒子加速ユニット201,201,201,…それぞれによって加速された荷電粒子が照射されることで核反応により中性子線を発生する、複数の固体金属ターゲット(図示せず)と、を備えている。イオン発射部は、荷電粒子からなるイオンビームを発射可能に構成されている。
【0049】
図7は、実施の形態2に係る荷電粒子加速器200の構成を示す模式図である。図7に示すように、荷電粒子加速器200は複数の高電圧直流電源DC1,DC2,DC3,…,DC28を備えている。高電圧直流電源DC1,DC2,DC3,…,DC28の出力電圧は60kVであり、これらは商用交流電源バス202と接続されており、商用交流電源バス202からの交流電圧を直流電圧に変換するよう構成されている。各高電圧直流電源DC1,DC2,DC3,…,DC28の陽極及び陰極は、対応する加速電極管T,T,T,…,T28それぞれとスイッチング素子SW,SW,SW,…,SW28を介して接続されている。スイッチング素子SW,SW,SW,…,SW28はスイッチを切り替えることで、加速電極管T,T,T,…,T28それぞれに接続される各高電圧直流電源DC1,DC2,DC3,…,DC28の極を、陽極又は陰極に切り替えることができるよう構成されている。これにより、スイッチング素子SW,SW,SW,…,SW28を切り替えることで、加速電極管T,T,T,…,T28それぞれに印加する電圧の符号を逆にすることができる。
【0050】
スイッチング素子SW,SW,SW,…,SW28を操作し、加速電極管T,T,T,…,T28それぞれと各高電圧直流電源DC1,DC2,DC3,…,DC28の陽極とを接続した場合、各加速電極管T,T,T,…,T28の電圧は60kVに変化する。逆に、スイッチング素子SW,SW,SW,…,SW28を操作し、加速電極管T,T,T,…,T28それぞれと各高電圧直流電源DC1,DC2,DC3,…,DC28の陰極とを接続した場合、各加速電極管T,T,T,…,T28の電圧は−60kVに変化する。スイッチング素子SW,SW,SW,…,SW28の切り替えは、実施の形態1と同様に制御部(図示せず)からの制御によって行われる。
【0051】
荷電粒子加速ユニット201,201,201,…、各加速電極管T,T,T,…,T28、及びイオン発射部の構成は、実施の形態1における荷電粒子加速ユニット101,101,101,…、各加速電極管T,T,T,…,T28、及びイオン発射部103と同様であるので、説明を省略する。
【0052】
次に、実施の形態2に係る荷電粒子加速器200の動作について説明する。まず、制御部は、スイッチング素子SWを制御し、各加速電極管T,T,T,…と高電圧直流電源DC1と陰極とを接続させ、1段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…に、負の電位を印加させる。これにより、1段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…の電位は−60kVとなる。
【0053】
また、スイッチング素子SW,SW,SW,…,SW28も同様に切り替えられ、各荷電粒子加速ユニット201,201,201,…の加速電極管T,T,T,…,T28のそれぞれと高電圧直流電源DC2,DC3,…,DC28の陰極とが接続される。したがって、各荷電粒子加速ユニット201,201,201,…の加速電極管T,T,T,…,T28のそれぞれの電位は、−60kVとなる。
【0054】
イオン発射部から、設定で定められたイオン電流値、直径、及び長さを有するイオンビームが各荷電粒子加速ユニット201,201,201,…の加速電極管T,T,T,…それぞれへ同時に発射される。イオン発射部から発射されたイオンビームは加速電極管Tに進入する。
【0055】
次に制御部は、実施の形態1におけるステップS3と同様に所定の切替時間に到達したか否かを判別する。この切替時間は、実施の形態1と同様に予め設定された値であり、イオンビームが発射されてから、各イオンビームのリーディングエッジが1段目の加速電極管群に含まれる各加速電極管T,T,T,…の中央に到達するまでの時間である。つまり、ここで切替時間に到達したと判断された場合、各イオンビームのリーディングエッジが各加速電極管T,T,T,…の中央部分に位置していることになる。
【0056】
切替時間に到達している場合、制御部はスイッチング素子SWを切り替える。こうすることで、1段目の加速電極管群に含まれる各加速電極管T,T,T,…と高電圧直流電源DC1の陰極との接続が遮断され、1段目の加速電極管群に含まれる各加速電極管T,T,T,…と高電圧直流電源DC1の陽極とが接続される。このとき、1段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…それぞれの電位は60kV、1段目の加速電極管群に後続する2段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…それぞれの電位は−60kVであるため、ギャップG,G,G,…それぞれにおける電位差は120kVである。この電圧によりギャップG,G,G,…には電界が形成される。この電界の向きは、加速電極管Tから加速電極管Tへ向かう方向である。本実施の形態におけるイオンビームに含まれる荷電粒子は、正の電荷を有しているため、イオンビームはギャップGを通過する間に、電界によって加速され、加速電極管Tに進入する。
【0057】
制御部は、SWの切り替えを実行した後、実施の形態1におけるステップS5と同様に、変数qに2を代入し、実施の形態1におけるステップS6と同様に、次に進入する加速電極管Tに対応する所定の切替時間に到達したか否かを判別する。この切替時間は加速電極管T,T,T,…,T28毎に、予め定められている。各切替時間は、実施の形態1と同様にイオンビームが発射されてから、イオンビームのリーディングエッジが当該切替時間に対応する加速電極管Tの中央に到達するまでの時間である。つまり、ここで切替時間に到達したと判断された場合、各イオンビームのリーディングエッジが加速電極管T,T,T,…の中央部分に位置していることになる。
【0058】
切替時間に到達している場合、制御部はスイッチング素子SWを切り替える。こうすることで、q段目の加速電極管群に含まれる各加速電極管T,T,T,…と高電圧直流電源DCqの陰極との接続が遮断され、q段目の加速電極管群に含まれる各加速電極管T,T,T,…と高電圧直流電源DCqの陽極とが接続される。したがって、q段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…には、正の電位が印加される。したがって、スイッチング素子SWを切り替えると、q段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T,T,T,…それぞれの電位は60kVに変化する。
【0059】
ここで、q段目の加速電極管群に後続するq+1段目の加速電極管群に含まれる加速電極管Tq+1,Tq+1,Tq+1,…は、高電圧直流電源DCqの陰極と接続されている。このため、q+1段目の加速電極管群に含まれる加速電極管Tq+1,Tq+1,Tq+1,…の電位は−60kVである。したがって、加速電極管T,T,T,…とTq+1,Tq+1,Tq+1,…との間のギャップG,G,G,…における電位差は120kVであり、ギャップG,G,G,…における電界の向きは加速電極管T,T,T,…から加速電極管Tq+1,Tq+1,Tq+1,…へ向かう方向である。これにより、ギャップG,G,G,…を荷電粒子が通過する間に、この電界によって荷電粒子は加速されることになる。
【0060】
制御部は、実施の形態1のステップS8と同様に、その時点での変数qの値が28であるか否かを判別する。変数qの値が28でない場合には、制御部は変数qの値を1だけインクリメントし、実施の形態1と同様に処理を戻す。これにより、荷電粒子加速器200の動作初期においては−60kVに印加されていた各加速電極ユニット201,201,201…の加速電極管T,T,T,…,T28それぞれの電位が順次60kVに切り替えられる。
【0061】
このように、ギャップG,G,G,…,G27の電位差が次々に0から120kVに切り替わり、ギャップG,G,G,…,G27を通過することで、荷電粒子が加速される。
【0062】
変数qの値が28である場合には、制御部は、処理を終了する。
【0063】
本実施の形態に係る荷電粒子加速器200では、各加速電極管T,T,T,…,T28に印加する電圧を切り替えるためのスイッチング素子が、陽極又は陰極の何れか片方に接続を切り替えるように構成されている。これにより、単一のスイッチング素子により加速電極管に印加する電圧を切り替えることができ、簡易な制御で荷電粒子を加速することができる。
【0064】
(実施の形態3)
実施の形態3に係る荷電粒子加速器300の構成について説明する。本実施の形態に係る荷電粒子加速器300は、線形加速器である。荷電粒子加速器300は、実施の形態1における荷電粒子加速器100と同様に、複数の荷電粒子加速ユニット301,301,301,…と、荷電粒子を発射するイオン発射部(図示せず)と、荷電粒子加速ユニット301,301,301,…それぞれによって加速された荷電粒子が照射されることで核反応により中性子線を発生する、複数の固体金属ターゲット(図示せず)と、を備えている。イオン発射部は、荷電粒子からなるイオンビームを発射可能に構成されている。荷電粒子加速ユニット301は、実施の形態1における荷電粒子加速ユニット101と同様に、28本の加速電極管T,T,T,…,T28を備えている。また、荷電粒子加速ユニット301,301,301,…は、並列に配置されている。加速電極管T,T,T,…,T28それぞれは、イオン発射部の荷電粒子を発射する方向に沿って、順番に配置されている。
【0065】
図8は、実施の形態3に係る荷電粒子加速器の構成を示す模式図である。図8に示すように、荷電粒子加速器300は高周波電圧電源ACを備えている。高周波電圧電源ACの出力電圧及び周波数は、荷電粒子の加速エネルギー、加速電極管の長さ、加速ギャップの長さ等の加速条件から、適切な値を設定する。高周波電圧電源ACは、隣り合う加速電極管に異符号の電位が印加されるように、加速電極管T,T,T,…,T28それぞれと接続されている。
【0066】
図8に示すように、加速電極管T,T,T,…それぞれと加速電極管T,T,T,…それぞれとの間には、ギャップG,G,G,…が設けられている。これと同様に、隣り合う加速電極管T〜T28のそれぞれの間にも、ギャップG〜G27が設けられている。
【0067】
隣り合う加速電極管T及びTn+1それぞれに異符号の電圧を印加することで、隣り合う加速電極管T及びTn+1に電位差が生じる。この電位差により、加速電極管T及びTn+1の間に設けられたギャップGに電界が形成される。ここで、印加する電圧は高周波電圧であるため、各加速電極管T,T,T,…,T28には時間に伴って正負が変化する電圧が印加される。このため、ギャップGに形成される電界の向きは、電圧の変化に伴い、荷電粒子の進行方向に向く位相(加速位相)と、荷電粒子の進行方向とは逆に向く位相(減速位相)とに変化する。よって、荷電粒子のギャップ通過タイミングが加速位相と同期するように、加速電極管T,T,T,…,T28及びギャップG,G,G,…,G27の長さを調整する。これにより、荷電粒子がギャップG,G,G,…,G27を通過することで、荷電粒子は加速される。
【0068】
次に、実施の形態3に係る荷電粒子加速器300の動作について説明する。まず、イオン発射部は、設定で定められたイオン電流値、直径、及び長さを有するイオンビームを発射する。ここで、イオンビームの発射と同期して、高周波電圧電源ACは、加速電極管T,T,T,…,T28それぞれに高周波電圧を印加する。すると、ギャップG,G,G,…,G27に電界が形成される。その後、イオンビームは加速電極管T,T,T,…,T28それぞれを順次通過しながら、各ギャップG,G,G,…,G27を順次通過していく。ここで、前述のように、ギャップ通過タイミングが加速位相と同期するように、加速電極管T,T,T,…,T28及びギャップG,G,G,…,G27の長さは調整されている。このため、荷電粒子はギャップG,G,G,…,G27を通過するたびに、順次加速される。
【0069】
本実施の形態に係る荷電粒子加速器300では、電源として、高周波交流電圧電源を利用しており、スイッチング素子等による加速電極管へ印加する電圧の切り替えをせずに、前記実施の形態1と同様の効果を有する線形加速器を実現できる。
【0070】
(その他の実施の形態)
なお、上記の各実施の形態において、各加速電極管群に含まれる加速電極管それぞれは平行に設置されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、荷電粒子加速器から発生する中性子線を集束すべく、加速電極管群に含まれる加速電極管それぞれが互いに傾斜するように設置されてもよい。例えば、図9に示すように、各荷電粒子加速ユニットから射出される荷電粒子の進行方向を集束すべく、最後尾の28段目の加速電極管群に含まれる加速電極管T28,T28,T28,…のうち外側に設けられた加速電極管がより傾斜するように配設されていてもよい。なお、この場合、図9では省略しているが、他の段の加速電極管群についても同様に、外側に設けられた加速電極管がより傾斜するように配設されている。このような構成の場合、各加速電極管に対応する固体金属ターゲット400,400,400,…に対して荷電粒子が射出され、その結果固体金属ターゲット400,400,400,…から中性子線照射スポット401に対して集中して中性子線が照射される。これにより、中性子線の利用効率を高めることができる。
【0071】
また、上記の各実施の形態においては、イオン発射部は、全ての荷電粒子加速ユニットに対して、同時にイオンビームを発射するよう構成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0072】
また、上記の各実施の形態においては、各荷電粒子加速ユニットは28本の加速電極管で構成されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、荷電粒子を加速する加速電界を形成するためのギャップを設けることができれば、加速電極管の本数はいくつでもよい。
【0073】
また、上記の各実施の形態においては、互いに平行に配置された加速電極管それぞれは加速電極管保持部材で保持され、加速電極管それぞれが加速電極管保持部材により電的に接続されるように構成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、互いに平行に配置された加速電極管それぞれを電気的に接続されるように構成されていれば、導線等の導電体を用いてもよい。
【0074】
また、上記の各実施の形態においては、荷電粒子加速器により加速された荷電粒子を固体金属ターゲットに照射することで中性子線を発生するよう構成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図10及び図11に示すようにイオンビームの進行方向に伸びる中空の突起を複数有しその底部には、荷電粒子加速ユニットそれぞれで加速されたイオンビームが照射されることにより、中性子線を発生する被照射面を有するように構成されていてもよい。ここで、図10は本具体例の固体金属ターゲットの概略構成を示す斜視図、図11は、図10におけるA−A断面の断面図である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の荷電粒子加速器及び荷電粒子加速方法は、荷電粒子を加速する荷電粒子加速器及び荷電粒子加速方法として有用である。
【符号の説明】
【0076】
100,200,300 荷電粒子加速器
101,201,301 荷電粒子加速ユニット
102 イオン発射部
103,400 固体金属ターゲット
104 制御部
202 商用交流電源バス
401 中性子線照射スポット
,T,T,…,T28 加速電極管
,G,G,…,G27 ギャップ
SWR,SWR,…,SWR28 スイッチング素子
SWF,SWF,…,SWF28 スイッチング素子
SW,SW,…,SW28 スイッチング素子
P1,P2 高電圧直流電源
DC1,DC2,DC3,…,DC28 高電圧直流電源
AC 高周波電圧電源


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる複数の進行軌道のそれぞれに複数の荷電粒子を発射する荷電粒子発生源と、
前記複数の進行軌道のそれぞれに沿って、空間を隔てて直列的に並べられ、荷電粒子が通過する複数の電極管と、
前記電極管に印加するための電圧を発生する電源と、
を備え、
前記複数の進行軌道のそれぞれに対応する複数の電極管からなる電極管群が、前記荷電粒子発生源によって発射される荷電粒子が通過する順番に複数段設けられており、
前記電源と、一の段の電極管群とを接続することにより、前記一の段の電極管群と、前記一の段の電極管群と隣り合う他の段の電極管群との間の空間に荷電粒子を加速するための電界を形成するように構成されている、
荷電粒子加速器。
【請求項2】
前記電源によって発生される電圧を、前記電極管に印加するためのスイッチと、
前記スイッチを制御する制御部と、
をさらに備え、
前記電源は、直流電圧電源であり、
前記スイッチは、前記電源と、前記一の段の電極管群とを接続させ、又は接続を遮断させることにより、前記一の段の電極管群と、前記一の段の電極管群と隣り合う他の段の電極管群との間の空間に荷電粒子を加速するための電界を形成するように構成されている、
請求項1に記載の荷電粒子加速器。
【請求項3】
前記荷電粒子発生源は、前記複数の荷電粒子を同時に発射することができるように構成されている、
請求項1又は2に記載の荷電粒子加速器。
【請求項4】
前記電極管群に含まれる複数の電極管それぞれは、互いに平行になるように配設されている、
請求項1乃至3の何れかに記載の荷電粒子加速器。
【請求項5】
前記電極管群に含まれる複数の電極管それぞれは、前記複数の進行軌道を集束すべく、互いに傾斜するように配設されている、
請求項1乃至3の何れかに記載の荷電粒子加速器。
【請求項6】
互いに異なる複数の進行軌道のそれぞれに複数の荷電粒子を発射するステップと、
前記荷電粒子を発射するステップにより発射される複数の荷電粒子それぞれの進行軌道に沿って、空間を隔てて直列的に並べられている電極管からなり、荷電粒子が通過する順番に複数段設けられている電極管群のうち、一の段の電極管群と、前記一の段の電極管群と隣り合う他の段の電極管群との間の空間に荷電粒子を加速するための加速電界を形成するステップと、
を有する、
荷電粒子加速方法。
【請求項7】
前記一の段の電極管群の一方を荷電粒子が通過する間に、電源と前記一の段の電極管群とを接続させ、又は接続を遮断させるステップをさらに有する、
請求項6に記載の荷電粒子加速方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−16284(P2013−16284A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146685(P2011−146685)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(511143553)株式会社Quan Japan (3)
【Fターム(参考)】