説明

荷電粒子線装置

【課題】
アノードの位置を変化しても光軸のずれを効果的に抑制できる荷電粒子線装置を提供することにある。
【解決手段】
荷電粒子を放出する荷電粒子源を備えたカソードと、放出された荷電粒子に電界を加えるアノードと、アノードを通過した荷電粒子線の軌道を偏向させる荷電粒子線偏向器と、荷電粒子が照射された試料からの荷電粒子線を検出する荷電粒子線検出器と、を備え、前記荷電粒子源から放出される荷電粒子量に対応して前記カソードと前記アノードとの間の距離が変更される距離変更機構と、前記変更された距離において荷電粒子線を偏向させて走査された前記試料から検出される荷電粒子線量が所望の大きさになる前記偏向器の条件を検出し、前記条件に基づいて試料測定時の前記偏向器の偏向を制御する偏向量制御機構とを備えたことを特徴とする荷電粒子線装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は荷電粒子線装置に係る。
【背景技術】
【0002】
通常、電子顕微鏡の電子銃のような荷電粒子線装置の荷電粒子源周辺機構においては、カソード(陰極)とアノード(陽極)間の距離は固定である。このために低加速電圧を印加して使用する場合には電界強度が不足し充分な電子線量をカソードから引き出すことができなかった。これを改善するためにアノードの位置を可変できるような機構として低加速電圧を印加時には上記距離を短くし、電界強度を増すことで充分な電子線量をカソードから引き出せる構成とした従来技術(実1016333(実公昭48−5947号公報))があった。また、特開2002−8572号公報では、X線管において有孔陽極(アノード)の位置を陰極(カソード)に対して前後に移動できる移動手段を備えていた。
【0003】
【特許文献1】実公昭48−5947号公報
【特許文献2】特開2002−8572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述公知例の実公昭48−5947号公報では電子顕微鏡の光軸調整という観点からの記述がなく、また特開2002−8572号公報においても偏向コイルの図示はあるものの電子線の方向を調整する偏向コイルとだけの記述に留まり、詳細説明はなかった。即ち、アノードの位置変化に伴う光軸調整という観点からの考慮は上記公知例ではなかった。電子顕微鏡においては、アノードの位置変化によって電子線発生部分(電子銃)の光軸が後段に位置する照射レンズ系との光軸と一致せず、僅かなずれが生じて、操作上、拡大像の観察に影響が発生していた。上記の僅かなずれの原因は、アノードの電子線通過孔,ウェーネルトの電子線通過孔,電子が放出されるフィラメント先端の位置が、理想的に光軸上にないことやアノードとウェーネルトの向かい合う面の平行度のずれやフィラメント先端の光軸に対する角度など様々な機構的なずれが推測され、アノードの位置変化に伴って電子銃の光軸が変化したためと推定される。
【0005】
本発明は、上述の課題を抑制でき、アノードの位置を変化しても光軸のずれを効果的に抑制できる荷電粒子線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つは、荷電粒子を放出する荷電粒子源を備えたカソードと、放出された荷電粒子に電界を加えるアノードと、アノードを通過した荷電粒子線の軌道を偏向させる荷電粒子線偏向器と、荷電粒子が照射された試料からの荷電粒子線を検出する荷電粒子線検出器と、を備え、前記荷電粒子源から放出される荷電粒子量に対応して前記カソードと前記アノードとの間の距離が変更される距離変更機構と、前記変更された距離において荷電粒子線を偏向させて走査された前記試料から検出される荷電粒子線量が所望の大きさになる前記偏向器の条件を検出し、前記条件に基づいて試料測定時の前記偏向器の偏向を制御する偏向量制御機構とを備えたことを特徴とする荷電粒子線装置である。
【0007】
なお、所望の大きさとなる電子線量を検出する検索において、検索用として少なくとも一組以上の電子光学系のレンズデータを格納および呼出して出力する手段を有することができる。
【0008】
また、前記装置において、前記距離変更機構はアノード位置を変更するアノード位置変更機構を備え、アノード位置に対応した荷電粒子線偏向器の条件データを格納する記憶部と前記記憶部より格納したデータを呼出す読出し手段と呼出されたデータを荷電粒子線偏向器へ出力する出力手段を有し、前記偏向量制御機構は、前記呼出されたデータを基に電子線偏向器の出力を変更して前記条件を検出し、前記検出した条件を記憶部に格納する。
【0009】
また、具体的には、例えば、前記カソードに印加する電圧を設定する入力手段を有し、前記設定された電圧の大きさに対応して前記アノード位置が変更されることができる。
【0010】
また、例えば、前記荷電粒子源と前記アノードとの間に設置されるウェーネルトと、荷電粒子線源から放出される荷電粒子線量を設定する入力手段を有し、前記設定された荷電粒子線量に対応して、前記アノード位置と、前記ウェーネルトに印加する電圧或は前記荷電粒子線源に印加する電圧また前記両電圧と制御することができる。
【0011】
また、例えば、前記荷電粒子線源から放出される荷電粒子線量を検出する手段を設け、該検出された荷電粒子線量に応じてアノード位置を変更し、放出される電子線量を制御できるように構成することができる。
【0012】
また、具体的に例えば、電子を放出する電子源を備えたカソードと、放出された電子に電界を加えるアノードと、アノードを通過した電子線の軌道を偏向させる電子線偏向器と、電子が照射された試料からの電子線を検出する電子線検出器と、を備え、前記カソードに印加する設定電圧の変更に対応して前記カソードと前記アノードとの間の距離が変更される距離変更機構と、前記変更された距離において電子線を偏向させて走査された前記試料から検出される電子線量が所望の大きさになる偏向量を検出し、前記偏向量に基づいて電子線の軸ずれの修正量を記憶する偏向量制御機構とを備え、前記修正量に基づいて試料の測定をおこなうことを特徴とする荷電粒子線装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、これまでアノード位置を変更しても光軸調整を自動で行うことができ、光軸調整に費やす労力と時間を省き、煩雑な調整作業を抑制することができる。また、低加速電圧においても、像観察に必要とする十分な電子線量(明るさ)で観察することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、明細書に記載の形態に限られるものではなく本発明の改良変更を許容するものである。本実施例は電子顕微鏡を例に説明するが、その他の装置にも適用することができる。例えばイオンビーム装置である。
【0015】
具体的には、例えば、電子を放出する電子源を備えたカソードと、放出された電子に電界を加えるアノードと、アノードを通過した電子線の軌道を偏向させる電子線偏向器と、電子が照射された試料からの電子線を検出する電子線検出器と、を備え、前記カソードに印加する設定電圧の変更に対応して前記カソードと前記アノードとの間の距離が変更される距離変更機構と、変更された距離において電子線を偏向させて走査された試料から検出される電子線量が所望の大きさになる偏向量を検出し、その偏向量に基づいて電子線の軸ずれの修正量を記憶する偏向量制御機構とを備え、その修正量に基づいて試料の測定をおこなう。
【0016】
具体的な形態としてより好ましくは、可動するアノード位置に依存する光軸ずれとアノードが可動することによって偶発的に生じる機構的な光軸ずれに対しての2通りで対処することが好ましい。前者の場合には、可動するアノード位置に依存するので、該位置ごとに電子線偏向器の出力値を格納する手段を設け、予め該位置ごとに調整した電子線偏向器の値(データ)を格納し、該位置を検出してそれに対応したデータを呼出して出力すれば、光軸ずれは発生しないことになる。または、アノード位置に対する光軸ずれ量を測定して、その関係式を導出し、該式に基づいてアノード位置変化の都度、電子線偏向器にその値を出力しても良い。後者の場合には、偶発的な光軸ずれで再現性がないので、アノード位置を可動する都度、最適な電子線偏向量を設定する必要がある。このような場合には、電子線を検出する手段と電子線を走査する手段を設け、アノード位置変化と連動して、該走査手段により検出される電子線量が最大となる電子線偏向量を導出し、該偏向量を電子線偏向器に出力するように制御する。
【実施例1】
【0017】
以下、本発明による電子顕微鏡を図1を参照して詳細に説明する。本発明の電子顕微鏡は、透過型電子顕微鏡および、走査透過型電子顕微鏡を含む。以下では、本発明の例として透過型電子顕微鏡を説明するが、本発明は、走査型電子顕微鏡にも適用可能である。
【0018】
電子などの荷電粒子の源であるフィラメント1とフィラメント電圧をかけるためのフィラメント電源31,バイアス用抵抗32とバイアス電圧をかけるためのバイアス電源34,高圧発生電源33,フィラメントに対して負の電圧を印加するウェーネルト2、を備えるカソード部と、ウェーネルトの電位により放出する電子線量を制御してウェーネルトの電子通過孔を介して放出された電子を加速するためにグランド電位となっているアノード3から構成されている電子銃部分より放出,加速された電子線は、照射レンズコイル6a〜cによって集束され、試料10の面上を照射する。ここで、マイクロプロセッサ22aは、バス47aを介してDAC(デジタル−アナログ変換器)19a,b,cによりフィラメント電源31,バイアス用抵抗32,バイアス電源34,高圧発生電源33の電源18a,b,cを制御している。電子源とアノード3間の距離変更機構は例えば、後述するアノード3の位置を変化させる機構を用いることができる。また、アノード3は、アノード可動機構36により位置を可変させることができ、アノード位置はセンサー35によって検出される。アノード可動機構36は、可動機構電源37から電力を供給され駆動し、アノード可動機構36およびセンサー35はインターフェース21a,bを介してマイクロプロセッサ22bによって制御される。
【0019】
試料10を透過した電子線は、対物レンズコイル11および結像レンズコイル14a,bによって拡大され、蛍光板15または撮像用光電変換素子(シンチレータ)16に結像する。撮像用光電変換素子16で光像に変換された試料の透過拡大像は撮像装置、例えばCCDカメラ17によって撮像される。CCDカメラ17からの信号は、画像取り込みインターフェース21cを介してマイクロプロフェッサ22bに取り込まれて処理された後、PC26で制御されるモニター27に画像として表示される。ここでは、透過拡大像をマイクロプロセッサ22bに取り込む際、撮像用光電変換素子16とCCDカメラ17を用いているが、電子線を直接電気信号に変換することができる検出素子を用いても良い。また、蛍光板15および撮像用光電変換素子16に入射する電子線量は、ADC(アナログ−デジタル変換機)20a,bを介してマイクロプロセッサ22bで検出される。
【0020】
マイクロプロセッサ22bは、DAC19e,f,h,j,k,lを介して、電子顕微鏡の照射レンズコイル6a〜c,対物レンズコイル11,結像レンズコイル14a,bに給電する電源18e,f,h,j,k,lを制御している。なお、電子線の偏向器はフィラメントと試料の設置部との間に位置しており、少なくとも一箇所以上が設置されている。なお、電子線偏向器は電子線を光軸に対して水平移動する機能,傾斜する機能,収差補正する機能のいずれか一つ以上を備える。具体的には、試料上部の電子銃軸調整用偏向コイル(電子線の水平移動,傾斜機能)4,5,照射系レンズ非点補正用コイル7,照射系軸調整用偏向コイル(電子線の水平移動,傾斜機能)8,9の電源18d,g,Iも、マイクロプロセッサ22bによりDAC19d,g,Iを介して同様に制御される。また、マイクロプロセッサ22bには、バス47bを介して記憶装置23b,演算装置25,アノード可動用入力手段28,電子線偏向用入力手段29,電子線量入力手段30等が接続されている。PC26およびモニター27は、コミュニケーションインターフェース24c,dを介して、バス47bに接続されており、PC26に接続されているキーボード45およびマウス46は、アノード可動用入力手段28,電子線偏向用入力手段29,電子線量入力手段30などの入力手段としても用いることができる。図1は、制御用のMPUが複数個から構成されているが、全てを統括制御する一つのMPUで構成しても良い。
【0021】
次に、本発明におけるアノード可動機構の例を図2,図3を用いて説明する。図2にモータ駆動によるアノード可動機構を示す。アノード3にはアノード支持台38が取り付けられている。アノード可動量入力はロータリーエンコーダ42を用いて行う。ロータリーエンコーダ42で発生したパルス波は、インターフェース21aでデジタル信号に変換される。マイクロプロセッサ22bは、インターフェース21aから入力されたデジタル信号をもとに、加速電圧ごとに記憶装置23bにあらかじめ設定されているアノード位置を出力し、該当するアノード位置になるようモータ41を動かし、モータ41の回転に連動してウォームギア40が回転する。ウォームギア40の回転運動を直進運動に変換するリニアアクチエーター39が駆動し、該リニアアクチエーター39がアノード支持台38を上下に移動させることにより、アノード3の位置を可変する。
【0022】
図3にエアー駆動によるアノード可動機構を示す。アノード3にはアノード支持台38が取り付けられている。アノード支持台38は、エアーシリンダー43に付属しており、パイプ44aにエアーが送り込まれ、パイプ44bからエアーが抜かれるとアノード支持台は下に移動し、パイプ44aからエアーが抜かれ、パイプ44bからエアー送り込まれるとアノード支持台は上に移動する。アノード支持台38を上下に移動させることにより、アノード3の位置を可変する。
【0023】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【0024】
前記本発明を具体化した形態として例えば、電流を流して加熱し熱電子を放出するように負の電圧が印加されたフィラメントと、フィラメントに対して負の電圧が印加されるウェーネルトとウェーネルトの電子線、通過孔を介して放出された電子線を加速するためにグラウンド電位となっているアノードと該アノードの位置を可動できる機構を備え、アノード位置を予め設定された移動量で可動する手段とフィラメントから放出される電子線量を検出する手段と該アノードの位置変化により放出される電子線の軌道変化を補正するための電子線偏向器と該偏向器に重畳または独立に電子線を走査する手段を有し、該アノードの予め設定された移動毎に検出される電子線量が最大となる電子線偏向量を上記走査手段により検索して所定のアノード位置になるまで、該アノードの移動と検出される電子線量がつねに最大になるように電子線偏向の制御を繰返し制御するように構成することができる。
【0025】
また、図1に示した構成の透過型電子顕微鏡において、加速電圧に応じて予め設定された移動量でアノード位置を可変し、電子線偏向器により電子線を走査し、電子線量が最大となる電子線偏向量を検索し光学条件を設定する。ここでは、所定のアノード位置になるまで、アノードの位置と検出される電子線量がつねに最大になるよう電子線偏向の制御を繰返し行う方法について図4のフローチャートを用いて説明する。
【0026】
例えば、アノード位置は加速電圧が低い場合よりも高い場合の方が電子源やカソード位置との距離が長くなる領域をゆうするよう可変にすることが考えられる。
【0027】
ここでは、加速電圧とアノード位置との関係について説明したが、予め設定された条件に基づきアノードとカソードの距離を可変とすることができる。例えば、電子源であるフィラメントに及ぼす電界やフィラメントから放出される電子線量に対応する指標を用いることが考えられる。指標は一般的に用いられる指標であってもよい。
【0028】
図4のステップ101において、まずアノード位置を図2で説明を行ったモータ駆動や図3のエアー駆動を用いて基準位置に設定する。次にステップ102で加速電圧の入力設定を行う。加速電圧入力はPC付属のキーボード45あるいはマウス46を用いて入力し、マイクロプロセッサ22bで処理し、コミュニケーションインターフェース24a,bを介してマイクロプロセッサ22aに入力情報を送ると同時にその情報を記憶装置23bに保存する。
【0029】
ステップ103では、マイクロプロセッサ22aは、送信された加速電圧情報(フィラメント圧,バイアス電圧を含む)を基に、対応した値をDAC19bに出力し、該DAC出力信号が電源18bによって増幅され、さらに高圧発生電源33で加速電圧を発生させる。同様に、フィラメント電源31に電圧を供給して、フィラメントを加熱し、電子線を発生させる。また、バイアス電源34に電圧を供給して、ウェーネルト2にバイアス電圧をかけ、発生する電子線量を制御する。
【0030】
ステップ104では、マイクロプロセッサ22bはステップ102で設定した加速電圧に応じたアノード移動量を呼び出し、インターフェース21bを介して該移動量に応じた信号を可動機構電源37に供給する。また、上記アノード移動量は、加速電圧に応じた所定のアノード位置から決定されている値で、該所定位置と共に記憶装置23bに予め記憶されている。
【0031】
ステップ105では、上記出力した移動位置までアノード可動機構36を駆動しアノード位置を可変する。アノードの可動は図2で示したモータによる駆動方法および図3で示したエアーによる駆動方法などによって行うことができる。
【0032】
ステップ106では、センサー35を用いて、ステップ105で可変したアノード位置の検出を行う。センサー35で検出したアノード位置は、インターフェース21aを介してデジタル信号に変換され、マイクロプロセッサ22bでその位置情報を読込み、記憶装置23bに保存する。
【0033】
ステップ107において、マイクロプロセッサ22bは、ステップ106で検出したアノード位置において、記憶装置23bに予め記憶されているアノード位置ごとに調整した電子線偏向器のデータを呼出し、該当する照射レンズコイル6a〜c,対物レンズコイル11,結像レンズコイル14a,bの各レンズデータおよび電子銃軸調整用偏向コイル4,5,照射系レンズ非点補正用コイル7,照射系軸調整用偏向コイル9,対物レンズ非点補正用コイル12の電子線偏向コイルデータをDAC19d〜lに出力して、レンズおよび偏向コイルに出力する。
【0034】
なお、アノード位置ごとに対応した偏向器のデータでなく、直接、加速電圧やフィラメントからの発生電子線量や電界であってもよい。レンズのデータは偏向器の偏向条件に関するもので通常の運転においても用いられるデータであってよい。
【0035】
ステップ108では、フィラメントから試料との間に位置した電子線偏向器を用いて電子線を走査させる。
【0036】
ステップ109では、電子線量を検出することのできる蛍光板15および撮像用光電変換素子16を用い、ステップ108にて走査している電子線量を検出する。該検出信号は増幅器48a,bによって増幅された後、ADC20a,bによってアナログ信号からデジタル信号へ変換され、記憶装置23bに検出された電子線量の値が保存される。マイクロプロセッサ22bは、検出される電子線量が最大となる電子線偏向量を導出する。電子線量が最大となる電子線偏向量の検索方法については後述する。上述の電子線量を検出する方法の代替として、CCDカメラ17で撮像された画像強度の合計を用いることでも検索は可能である。
【0037】
ステップ110では、電子線量が最大となる電子線偏向量に設定し出力する。
【0038】
ステップ111では、電子線量が最大となる電子線偏向量を記憶装置23bに記憶する。
【0039】
なお、ここでは、電子線量が最大となる偏向量を用いたが、場合によっては所望の電子線量であれば上記以外を目標値としてもよい。例えば、所定値以上の電子線量であって偏向量が少ない値などを用いることが考えられる。
【0040】
ステップ112において、マイクロプロセッサ22bは、ステップ106で検出したアノード位置と加速電圧に応じた所定のアノード位置を記憶装置23bから呼び出し、両者が一致するか判定を行う。一致しない場合は、ステップ104に戻り、所定のアノード位置になるまでアノードの移動と検出される電子線量がつねに最大になるように電子線偏向の制御を行う。一致する場合には、ステップ113に移る。所定アノード位置におけるレンズ条件および偏向条件を記憶装置23bに保存する。
【0041】
また、光軸ずれの自動調整後、電子線偏向用入力手段29により、電子偏向器の出力を可変し、マニュアルで調整することもできる。自動制御とマニュアル調整を共に備える形態によりより細やかな制御が可能となる。
【0042】
以上の動作によって、加速電圧に応じて予め設定された移動量でアノード位置を可変し、電子線偏向器を用いて電子線を走査することによって、電子線量が最大となる電子線偏向量を検索し、所定のアノード位置になるまでアノードの移動と電子線偏向の制御を繰り返し行うことで、アノードの位置変化に伴う光軸のずれを無くすことができる。
【0043】
なお、例えば、フィラメントから放出される電子線量を設定する入力手段を有し、設定する。そして設定された電子線量に対応して、アノード位置と、ウェーネルトに印加する電圧或は荷電粒子線源に印加する電圧また両電圧と制御するようにすることが考えられる。
【0044】
また、フィラメントから放出される電子線量を検出する手段を設け、検出された電子線量に応じてアノード位置を変更し、放出される電子線量を制御できるようにすることが考えられる。
【0045】
図4のステップ109における電子線量が最大となる電子線偏向量の検索方法について、以下に詳述する。第1例として図5について説明する。
【0046】
図5(a)のように電子線を走査する場合、X方向の電子線偏向コイルの電流を図示の(b)ように変化させ、同様にY方向の電子線偏向コイルの電流を(c)のように変化させる。
【0047】
(d)は、(a)のように電子線を走査したときに、蛍光板15または撮像用光電変換素子16で検出される電子線強度変化の模式的な図である。現在出力している電子線偏向コイル電流値をX0,Y0とする。この(X0,Y0)を基準として、電子線を走査し、検出された電子線強度が最大となる時間(t)のX方向の偏向コイル電流値X1およびY方向の偏向コイル電流値Y1を導出し、(X1,Y1)を記憶装置23bに保存する。
【0048】
図6を用いて第2例について説明する。
【0049】
図6(a)のように、中心から外側に向かって電子線を走査する場合、X方向の電子線偏向コイルの電流を図示の(b)ように変化させ、同様にY方向の電子線偏向コイルの電流を(c)のように変化させる。
【0050】
(d)は、(a)のように電子線を走査したときに、蛍光板15または撮像用光電変換素子16で検出される電子線強度変化の模式的な図である。現在出力している電子線偏向コイル電流値をX0,Y0とする。この(X0,Y0)を基準として、電子線を走査し、検出された電子線強度が最大となる時間(t)のX方向の偏向コイル電流値X1およびY方向の偏向コイル電流値Y1を導出し、(X1,Y1)を記憶装置23bに保存する。
【0051】
上記のような電子線を走査する検索において、走査範囲を可変設定する手段を設けることで、検索する速度を向上させる構成も容易に考えられる。
【0052】
このように、可変したアノード位置ごとに対応した電子線偏向器の値(データ)を呼び出して出力する、または、電子線を検出する手段と電子線を走査する手段を設け、アノード位置変化と連動して、該走査手段により検出される電子線量が最大となる電子線偏向量を導出し、該偏向量を電子線偏向器に出力するように制御することができる。
【0053】
本実施例は荷電粒子線装置、とくに電子顕微鏡について、低加速電圧においても、像観察に必要とする十分な電子線量(明るさ)で観察ができ、アノード位置の可変に伴う光軸ずれを自動調整できる電子顕微鏡に関するものである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は荷電粒子線装置に係る。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一例の電子顕微鏡の構造の例を示す図である。
【図2】本例の透過電子顕微鏡において、アノード可動機構の第1の例を説明する模式図。
【図3】本例の透過電子顕微鏡において、アノード可動機構の第2の例を説明する模式図。
【図4】本例の透過電子顕微鏡において、アノード位置の変更に伴う光軸ずれを自動調整する方法を説明するフローチャート。
【図5】本例の透過電子顕微鏡において、電子線を走査し、電子線量が最大となる電子線変更量を検索する第1の例を説明する図。
【図6】本例の透過電子顕微鏡において、電子線を走査し、電子線量が最大となる電子線変更量を検索する第2の例を説明する図。
【符号の説明】
【0056】
1 フィラメント
2 ウェーネルト
3 アノード
4,5 電子銃軸調整用偏向コイル
6a〜c 照射レンズコイル
7 照射系レンズ非点補正用コイル
8,9 照射系軸調整用偏向コイル
10 試料
11 対物レンズコイル
12 対物レンズ非点補正用コイル
13 イメージシフト用偏向コイル
14a,b 結像レンズコイル
15 蛍光板
16 撮像用光電変換素子
17 CCDカメラ
18a〜n 電源
19a〜l DAC
20a,b ADC
21a〜f インターフェース
22a,b マイクロプロセッサ
23a,b 記憶装置
24a〜d コミュニケーションインターフェース
25 演算装置
26 PC
27 モニター
28 アノード可動用入力手段
29 電子線偏向用入力手段
30 電子線量入力手段
31 フィラメント電源
32 バイアス用抵抗
33 高圧発生電源
34 バイアス電源
35 センサー
36 アノード可動機構
37 可動機構電源
38 アノード支持台
39 リニアアクチエーター
40 ウォームギア
41 モータ
42 ロータリーエンコーダ
43 エアーシリンダー
44a,b パイプ
45 キーボード
46 マウス
47a,b バス
48a,b 増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を放出する荷電粒子源を備えたカソードと、放出された荷電粒子に電界を加えるアノードと、
アノードを通過した荷電粒子線の軌道を偏向させる荷電粒子線偏向器と、荷電粒子が照射された試料からの荷電粒子線を検出する荷電粒子線検出器と、を備え、
前記荷電粒子源から放出される荷電粒子量に対応して前記カソードと前記アノードとの間の距離が変更される距離変更機構と、
前記変更された距離において荷電粒子線を偏向させて走査された前記試料から検出される荷電粒子線量が所望の大きさになる前記偏向器の条件を検出し、前記条件に基づいて試料測定時の前記偏向器の偏向を制御する偏向量制御機構とを備えたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
電子を放出する電子源を備えたカソードと、放出された電子に電界を加えるアノードと、アノードを通過した電子線の軌道を偏向させる電子線偏向器と、電子が照射された試料からの電子線を検出する電子線検出器と、を備え、
前記カソードに印加する設定電圧の変更に対応して前記カソードと前記アノードとの間の距離が変更される距離変更機構と、
前記変更された距離において電子線を偏向させて走査された前記試料から検出される電子線量が所望の大きさになる偏向量を検出し、前記偏向量に基づいて電子線の軸ずれの修正量を記憶する偏向量制御機構とを備え、前記修正量に基づいて試料の測定をおこなうことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1において、前記距離変更機構はアノード位置を変更するアノード位置変更機構を備え、アノード位置に対応した荷電粒子線偏向器の条件データを格納する記憶部と、前記記憶部より格納したデータを呼出す読出し手段と呼出されたデータを荷電粒子線偏向器へ出力する出力手段を有し、
前記偏向量制御機構は、前記呼出されたデータを基に電子線偏向器の出力を変更して前記条件を検出し、前記検出した条件を記憶部に格納することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1において、前記距離変更機構はアノード位置を変更するアノード位置変更機構を備え、アノード位置を任意の位置に移動させるための入力手段を設け、
該入力手段からの信号に応じてアノード位置を可動できるように構成したことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1において、前記カソードに印加する電圧を設定する入力手段を有し、前記設定された電圧の大きさに対応して前記アノード位置が変更されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記荷電粒子源と前記アノードとの間に設置されるウェーネルトと、荷電粒子線源から放出される荷電粒子線量を設定する入力手段を有し、
前記設定された荷電粒子線量に対応して、前記アノード位置と、前記ウェーネルトに印加する電圧或は前記荷電粒子線源に印加する電圧また前記両電圧と制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1において、前記荷電粒子線源から放出される荷電粒子線量を検出する手段を設け、
該検出された荷電粒子線量に応じてアノード位置を変更し、放出される電子線量を制御できるように構成したことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1において、荷電粒子線検出器からの検出情報に基づき荷電粒子線像を形成する像形成手段を有し、撮像した画像強度に応じてアノード位置を変更し、放出される荷電粒子線量を制御できるように構成したことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項1において、前記荷電粒子線は電子線であることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
荷電粒子を放出する荷電粒子源を備えたカソードと、放出された荷電粒子に電界を加えるアノードとアノードを通過した荷電粒子線の軌道を偏向させる荷電粒子線偏向器と、荷電粒子が照射された試料からの荷電粒子線を検出する荷電粒子線検出器と、を備え、
前記荷電粒子源から放出される荷電粒子量に対応して前記カソードと前記アノードとの間の距離を変更し、
前記変更した距離において荷電粒子線を偏向させて前記試料を走査して、前記試料から検出される荷電粒子線量が所望の大きさになる前記偏向器の条件を検出し、前記条件に基づいて試料測定時の荷電粒子線の偏向を制御することを特徴とする荷電粒子線装置の運転方法。
【請求項11】
電子を放出する電子源を備えたカソードと、放出された電子に電界を加えるアノードと、アノードを通過した電子線の軌道を偏向させる電子線偏向器と、電子が照射された試料からの電子線を検出する電子線検出器と、を備え、
前記カソードに印加する設定電圧の変更に対応して前記カソードと前記アノードとの間の距離を変更し、
前記変更した距離において荷電粒子線を偏向させて前記試料を走査して、前記試料から検出される電子線量が所望の大きさになる偏向量を検出し、前記偏向量に基づいて電子線の軸ずれを修正して、試料の測定をおこなうことを特徴とする荷電粒子線装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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