説明

荷電粒子線装置

【課題】収差補正器で使用する多数の電源のノイズの影響を低減し、安定した高分解能観察の可能な荷電粒子線装置を提供する。
【解決手段】電子線を試料18上に照射し、走査させるSEMカラム101と、前記試料を載置する試料ステージ80が格納される試料室と、前記電子線の走査により発生する2次電子を検出する検出器73と、前記検出器の出力信号をSEM画像として表示する表示手段と、前記SEMカラム、前記試料室、前記表示手段を含む各構成部品を制御するための制御ユニット103とを備えた荷電粒子線装置において、前記SEMカラムは、一対の静電レンズ91、92と、前記一対の静電レンズの間に置かれた前記電子線の収差を補正する収差補正器10とを有し、前記一対の加速電極に高電圧を印加して、前記収差補正器を通過する間の前記電子線を加速せしめる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線応用技術に係り、特に、収差補正器を搭載した走査電子顕微鏡、電子線半導体検査装置、電子線半導体測長装置、収束イオンビーム装置、等の荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡(SEM)は、物体の表面を光学顕微鏡よりも高分解能で観察できるため、材料研究用の他、近年微細化の進む半導体ウェハ上のパターンの寸法測長や表面異物検査など産業用装置としても広く用いられている。絶縁物が使われている半導体産業の試料(ウェハ)では、絶縁物を帯電することなく観察できる1kV以下の低加速電圧で数nmの高分解能が要求されるようになってきた。SEMの分解能は、試料面上で電子ビームを如何に小さく絞れるかに左右されるので、レンズにより縮小結像された電子源の大きさのほか回折収差や電子レンズの色収差、球面収差などによって決まってくる。今まで電子光学系の工夫、特に光源の縮小率を大きくとり、加速電界、減速電界を組み合わせ対物レンズの形状を最適化して収差を小さくすることで高分解能化を進めてきた。
【0003】
しかし、光軸の周りに回転対称な対物レンズでは球面収差や色収差はゼロにできないことがScherzerにより証明されており、これら従来の方法では、形状寸法、加工精度、材料、耐電圧の面から高分解能化に制約があった。そこで、4極子と8極子を組み合わせた色及び球面収差補正器により対物レンズの収差をキャンセルする方法が提案され(例えば、非特許文献1参照)、1995年にはZachらにより収差補正器を搭載したSEMが実用化された(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
図4に、収差補正器を含むSEM電子光学系の模式図を示す。収差補正器内部では4段の4極子場の効果で、光軸(z軸)に直交する2方向(磁界レンズによる軌道の光軸回りの回転とともに回転するx−y座標系)では互いに軌道が異なる。これをx軌道、y軌道と呼び、例えば2段目の位置でx軌道、3段目の位置でy軌道が各々線状クロスオーバーを形成するよう設定する。この線状クロスオーバーのある2段目、3段目で電子に働く力が一定になるように4極電場と4極磁場を重畳させてやれば、軌道を変えずに系の色収差をx方向、y方向独立に制御することができる(例えば、非特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−103305号公報
【非特許文献1】H.Rose, Optik 33 (1971) 1〜24ページ
【非特許文献2】J.Zach and M.Haider, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A363 (1995) 316〜325ページ
【非特許文献3】S.Uno, K.Honda, N.Nakamura, M.Matsuya,J.Zach Optik 116 (2005) 438〜448ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
収差補正器には、収差補正器内の各段の多極子で4極子場や8極子場および光軸合わせに必要な偏向場などを重畳して発生させるために多数の電圧源と電流源が必要である。4極子場や8極子場の微調整用も含めると、例えば、上述した従来技術(例えば、[非特許文献2])の例では、12極子4段分の48個の電圧源を使用している。特に、電圧源のリップル・安定度については1ppm以下の高精度が必要と言われている。電極に印加された電圧のリップルノイズによりビームが横方向にランダムに振られ、スポット径が大きくなり、収差補正の効果を損なう。特に色収差補正による高分解能化を期待される、低加速ビームでは、この影響が大きい。
【0007】
この電圧源のノイズの影響を緩和するために、電子光学系全体の総合倍率を変化させて補正の効率を変化させ、低加速観察時に相対的に高い補正電圧になるよう調整する方法もある。しかしながら、総合倍率を小さく、つまりスポット縮小率を小さくすればノイズの影響も見えにくくなるが、色収差補正、球面収差補正に必要な電流、電圧が増大し収差補正電源で印加できる最高電圧、最大電流のスペックで制約されるので、限界はある。さらに、この手法では電源ノイズの影響に応じて、総合倍率を変化させた基準軌道を新たに設定し直さなければならず、煩雑な再調整がその度に必要となる。
【0008】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、収差補正器で使用する多数の電源のノイズの影響を低減し、安定した高分解能観察が可能な荷電粒子線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、一対の加速電極の間に色球面収差補正器を配置した構成にして、収差補正器内をその加速電圧Vで加速された電子が通過する構造とする。
【0010】
収差補正器内での極子電圧変動ΔVによるビーム振れ角αは、一対の加速電極に与える電圧をVとするとΔV/Vに比例する。試料面上でのスポットの振れ量dは、ランディングエネルギーをeVとするとα・√(V/V)に比例するから、全体としてΔV/√(V・V)に比例する。ランディング電圧Vは、ダメージやチャージアップなど試料の観察条件の制約で決められるので自由には選べない。極子電圧変動ΔVは、収差補正器電圧源のリップルや、アースの取り方などに関係しており、ある一定の変動ΔVmin以下に抑えるのは困難である。そこで対物レンズの収差の補正可能な範囲で加速電圧Vを上げて極子電圧変動の影響低減を図ることができる。
【0011】
以下、本発明による荷電粒子線装置の代表的な構成例を列挙する。
【0012】
(1)試料を載置する試料ステージと、前記試料ステージ上に載置された前記試料に対して1次荷電粒子線を走査する照射光学系と、前記1次荷電粒子線の走査により発生する2次荷電粒子を検出する検出器と、前記検出器の出力信号を画像表示する表示手段とを有し、前記照射光学系は、一対の加速電極と、前記一対の加速電極の間に置かれた前記一次荷電粒子線の収差を補正する収差補正器とを備え、前記一対の加速電極に高電圧を印加して、前記収差補正器を通過する間の前記1次荷電粒子線を加速せしめることを特徴とする。
【0013】
(2)試料を載置する試料ステージと、前記試料ステージ上に載置された前記試料に対して1次荷電粒子線を走査する照射光学系と、前記1次荷電粒子線の走査により発生する2次荷電粒子を検出する検出器と、前記検出器の出力信号を画像表示する表示手段とを有し、前記照射光学系は、一対の静電レンズと、前記一対の静電レンズの間に置かれた前記1次荷電粒子線の収差を補正する収差補正器とを備え、前記一対の静電レンズに高電圧を印加して、前記収差補正器を通過する間の前記1次荷電粒子線を加速せしめることを特徴とする。
【0014】
(3)前記(1)又は(2)の荷電粒子線装置において、前記収差補正器は、色収差もしくは球面収差、またはその両方を補正できる収差補正器であること特徴とする荷電粒子線装置。
【0015】
(4)前記(1)又は(2)の荷電粒子線装置において、前記収差補正器は、電界もしくは磁界、またはその両方の4極子場と8極子場を発生させる複数個の多極子素子群と、前記複数個の多極子群の、光軸に沿って前段と後段のそれぞれに、軸対称な加速電極が組み込まれていることを特徴とする。
【0016】
(5)前記構成の荷電粒子線装置において、前記収差補正器は、前記照射光学系を格納するカラムとは絶縁されていることを特徴とする。
【0017】
(6)電子線を試料上に照射し、走査させるSEMカラムと、前記試料を載置する試料ステージが格納される試料室と、前記電子線の走査により発生する2次電子を検出する検出器と、前記検出器の出力信号をSEM画像として表示する表示手段と、前記SEMカラム、前記試料室、前記表示手段を含む各構成部品を制御するための制御ユニットとを備えた荷電粒子線装置において、前記SEMカラムは、一対の加速電極と、前記一対の加速電極の間に置かれた前記電子線の収差を補正する収差補正器とを有し、前記一対の加速電極に高電圧を印加して、前記収差補正器を通過する間の前記電子線を加速せしめることを有することを特徴とする。
【0018】
(7)電子線を試料上に照射し、走査させるSEMカラムと、前記試料を載置する試料ステージが格納される試料室と、前記電子線の走査により発生する2次電子を検出する検出器と、前記検出器の出力信号をSEM画像として表示する表示手段と、前記SEMカラム、前記試料室、前記表示手段を含む各構成部品を制御するための制御ユニットとを備えた荷電粒子線装置において、前記SEMカラムは、一対の静電レンズと、前記一対の静電レンズの間に置かれた前記電子線の収差を補正する収差補正器とを有し、前記一対の静電レンズに高電圧を印加して、前記収差補正器を通過する間の前記電子線を加速せしめることを特徴とする。
【0019】
(8)前記(6)又は(7)の荷電粒子線装置において、前記収差補正器は、色収差もしくは球面収差、またはその両方を補正できる収差補正器であること特徴とする。
【0020】
(9)前記(6)又は(7)の荷電粒子線装置において、前記収差補正器は、電界もしくは磁界、またはその両方の4極子場と8極子場を発生させる複数個の多極子素子群と、前記複数個の多極子群の、光軸に沿って前段と後段のそれぞれに、軸対称な加速電極が組み込まれていることを特徴とする。
【0021】
(10)前記構成の荷電粒子線装置において、前記収差補正器は、前記SEMカラムとは絶縁されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、収差補正器で使用する多数の電源のノイズによる影響を低減し、安定した高分解能観察の可能な荷電粒子線装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかる第1の実施例としての走査電子顕微鏡の概略構成を説明する図。
【図2】本発明にかかる第2の実施例としての測長SEMの概略構成を説明する図。
【図3】本発明において用いられる収差補正器の一構成例を示す図。
【図4】収差補正器を含む電子光学系を示す図。
【図5】本発明において用いられる収差補正器の別の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、実施形態として、本発明を走査電子顕微鏡に適用した場合を例にとって説明するが、本発明は、他の電子線応用装置や陽子やイオンなど他の荷電粒子線装置についても、レンズや収差補正器の構成はその種類に応じて変わるが、以下に示す実施例と基本的に同様な考え方で適用できる。
【0025】
(実施例1)
図1に、本発明にかかる第1の実施例としての走査電子顕微鏡の概略構成を示す。本実施例の走査電子顕微鏡は、全体として、真空容器90内にあって電子線(1次荷電粒子線)を試料上に照射ないし走査させる照射光学系を格納するSEMカラム101、試料ステージが格納される試料室102、SEMカラム101や試料室102の各構成部品を制御するための制御ユニット103等により構成されている。制御ユニット103には、更に、所定の情報を格納するためのデータストレージ76や取得画像を表示するモニタ77、装置と装置ユーザとのマン・マシンインタフェースとなる操作卓78が接続されている。操作卓は、例えば、キーボードやマウスなどの情報入力手段により構成される。
【0026】
初めに、SEMカラム101内部の構成要素について説明する。ショットキー電子源1は、タングステンの単結晶に、酸素とジルコニウムなどを拡散させショットキー効果を利用する電子源で、その近傍にサプレッサー電極2、引き出し電極3が設けられる。ショットキー電子源1を加熱し、引き出し電極3との間に+2kV程度の電圧を印加することにより、ショットキー電子を放出させる。サプレッサー電極2には負電圧が印加され、ショットキー電子源1の先端以外からの電子放出を抑制する。引き出し電極3の穴を出た電子は、第1陽極4、第2陽極5で形成される静電レンズにより加速、収束され、光軸0に沿って後段の構成要素へ入射する。第1コンデンサーレンズ6で収束され、可動絞り31にてビーム径を制限され、第2コンデンサーレンズ7および偏向器8、上加速静電レンズ91を通り、収差補正器10に入射する。上加速静電レンズ91と下減速静電レンズ92には高圧電源93により高電圧を印加して、収差補正器10を通過する間の電子の運動エネルギーを増加させる。偏向器8は、コンデンサーレンズ7の軸と収差補正器10の軸が一致するように調節される。
【0027】
上記静電レンズ91、92の各々の3枚電極のうち収差補正器上下直近の一枚づつには、収差補正器を通過する電子のエネルギーを決め電源ノイズの影響を相対的に弱めるための電圧を印加し、他の2枚づつの電極に印加する電圧でビームの開き角度と収差補正器出射後のエネルギーを制御する。第2コンデンサーレンズ7のレンズの強さは、上加速静電レンズ91と連動して、収差補正器10に平行あるいはそれに近い形でビームが入射するように調整する。上記静電レンズ91、92を各々1枚の加速電極で代用してもよいが、その場合、加速電極近辺の静電レンズ作用を考慮に入れて第2コンデンサレンズ7、第3コンデンサレンズ40を連動させ、所望の照射条件が得られるようにする。
【0028】
以下、本実施例では、収差補正器10として、4極―8極子系の色球面収差補正器を例にして説明する。収差補正器10の各段で4極子、8極子を形成するが、これには12極の電極(磁極を兼ねてもよい)を用いると、4極子、8極子のほか、2極子、6極子、12極子も形成可能で、電極、磁極の組み立て誤差、磁極材料の不均一性により生じる場の歪みを電気的に補正するためにそれらを使用する。収差補正器10により、対物レンズ17と相殺する色収差、球面収差を与えられた電子ビームは、下減速静電レンズ92を通過後減速され、第3コンデンサーレンズ40にてExB偏向器71近辺に集束した後、対物レンズ17にて、試料18上に集束し、そのスポットは走査偏向器15にて試料上を走査される。図中、引出番号38は、対物アライナである。
【0029】
試料室102内部には、試料18を載置する試料載置面を備えた試料ステージ80が格納されている。電子線照射により発生する2次電子(2次荷電粒子)は、対物レンズ17を抜けて、反射板72に当たり電子を発生させる。発生した電子は、2次電子検出器73で検出される。ExB偏向器71により、試料から発生する2次電子の軌道を曲げて直接2次電子検出器73に導き、検出したり、反射板72上で2次電子の当たる位置を調整することもできる。
【0030】
検出された2次電子信号は、走査と同期した輝度信号として制御コンピュータ30に取り込まれる。制御コンピュータ30は、取り込んだ輝度信号情報に対して適当な処理を行い、モニタ77上にSEM画像として表示される。検出器は、本例では1つしか図示していないが、反射電子や2次電子のエネルギーや角度分布を選別して画像取得できるように、複数配置することもできる。なお、中心に穴のあいた同軸円板状の2次電子検出器を光軸0上に配置すれば、反射板72は必ずしも必要ではない。
【0031】
制御ユニット103は、電子銃電源20、制御電圧源21、加速電圧源22、第1コンデンサーレンズ電源23、第2コンデンサーレンズ電源24、偏向コイル電源25、収差補正器電源26、走査コイル電源27、対物レンズ電源28、リターディング電源29、可動絞り微動機構32、非点補正コイル電源35、対物アライナー電源37、2次電子検出器電源74,ExB偏向器電源75等により構成され、それぞれSEMカラム内の対応する構成要素と、信号伝送路や電気配線等で接続されている。
【0032】
このような構成において、収差補正器内での極子電圧変動ΔVによるビーム振れ角αは、収差補正器10内を加速されて通過する電子のエネルギーをeVとすると(-eは電子の電荷)ΔV/Vに比例する。試料面上でのスポットの振れ量dは、ランディングエネルギーをeVとするとα・√(V/V)に比例するから、全体としてΔV/√(V・V)に比例する。Vは試料のダメージなどの制約で決められるので、対物レンズの収差の補正可能な範囲で加速電圧Vを上げて収差補正器電源のノイズの影響低減を図ることができる。
【0033】
例えば、Vを1kVと設定したときに、ビームが収差補正器内を2kVで加速され通過する場合は、1kVのまま通過する場合に比べ(同じ軌道を維持するために収差補正器の出力電圧は上がるが、極子電圧変動ΔVが変わらないと仮定すると)、補正器電源ノイズの影響は71%程度に抑えられる。
【0034】
図1では、下減速静電レンズを入れて減速しているが、試料にリターディング電圧をかけて、試料直前でビームを減速して所望のランディングエネルギーにしてもよい。
【0035】
(実施例2)
本実施例では、測長SEM(Critical-Dimension-measurement Scanning Electron Microscope)の場合について説明する。測長を行なう試料としては、回路パターンが形成された半導体ウェハ、チップ、あるいはウェハの一部分を切り出して作成した試料片などが挙げられる。
【0036】
図2には、本発明にかかる第2の実施例としての測長SEMのハードウェア構成図を示す。測長SEMの全体構成が、SEMカラム101、試料ステージが格納される試料室102、制御ユニット103等により構成される点は、実施例1で説明した荷電粒子線応用装置と同じであるが、測長される試料を装置内に導入するための試料準備室(ロードチャンバ)60を有する。試料準備室60と装置本体の試料室102とはゲートバルブ62で仕切られており、試料を本体側に導入する際には、ゲートバルブが開いて、試料搬送機構61により、試料が装置本体の試料室内に搬送される。
【0037】
制御ユニット103についても、おおよその構成は実施例1の装置と同じであるが、測長SEMの場合には、あらかじめ入力されたレシピに従い試料ステージを駆動し、ウェハ上の所定の位置の画像を取得し、検出した二次電子画像信号に対して画像解析を行ない所定のラインパターンの測長を行なう機能を、制御コンピュータ30が有している。なお、SEMカラム101内に格納されている電子光学系の各構成要素は実施例1の装置と同じため、説明は省略する。
【0038】
電子光学系の動作についても、実施例1の荷電粒子線装置と本質的に同様であるが、測長SEMにおいては自動運転に重点がおかれるため、収差補正器調整動作やアライメントの操作は、制御コンピュータ30が、あらかじめインプットされた手順で定期的に自動実行する。測長SEMでは汎用SEMのように電子銃の加速電圧を大幅に変えて観察することはないので、本発明のように必要な収差補正器10内のみ加速ビームを通す構造にすることにより、高加速電圧で電子銃を動作させ、そのまま収差補正器10にビームを入射させる場合と比べて、電子銃の耐電圧が低くてすみ、構造が簡単になるというメリットがある。
【0039】
また、収差補正器10を出たあと減速することにより、対物レンズ17の励磁電流を少なくでき、システム全体の消費電力を低く保つことができる。ここでは測長SEMへの応用例を示したが、ディフェクトレビューSEM等の半導体検査装置にも同様に適用可能である。
【0040】
(実施例3)
図3に、本発明において用いられる収差補正器の一構成例を示す。本例では、12極子4段の構成例について説明する。
【0041】
収差補正器10は、非磁性金属でできたケーシング120の中に、光軸に沿って、絶縁材119を介して前・後段の加速電極93、94が設置され、真空外から電圧導入端子121にて加速電圧が印加される。前・後段の加速電極93、94の間に、4段の12極子111、112、113、114が絶縁材123、124を介してケーシング120に固定されている。電界12極子111と114は、非磁性金属でできており、真空外から電圧導入端子121を介して電圧を印加される。電磁界12極子112と113は、パーマロイなどの軟磁性材料で構成され、絶縁スリーブ125と真空軸シールを介して端部が真空外まで突出し、コイル115が取り付けられる。12極子112と113は磁極として用いられると同時に、12極子112に電圧を印加して電極としても動作する。2、3段の12極子各々を、絶縁物(図示せず)を介して軟磁性リング116、118で固定し、軸上での磁場発生効率を高めている。
【0042】
収差補正器10のケーシング120が非磁性金属なので、外部磁場の影響を受けないよう収差補正器10の外側は磁気シールド110で覆われている。
【0043】
111、112、113、114の12極子により4極子場を形成し、12極子112の中央付近と、12極子113の中央付近で、ビームが線状のクロスオーバーを形成するように、4つの12極子の強さを調整する。この軌道を維持しながら、112と113において電界4極子場と磁界4極子場を重畳させることにより色収差を補正し、さらに111、112、113、114の12極子で4極子場に重畳して8極子場を発生させ適当な強さに調整することにより球面収差を補正する。他に各段に6極子を重畳して調整することにより軸上コマ収差や3回非点収差などの収差を補正して、高分解能像を得る。
【0044】
(実施例4)
図5は、収差補正器の別の構成例を示す。本実施例では、収差補正器内の12極子4段の構成は、実施例3と同一であるが、カラム(鏡体)から絶縁スペーサ126を介して収差補正器10を絶縁(フローティング)した構造になっている。なお、図中、127は真空ガスケットを示す。
【0045】
このフローティングしている収差補正器10は、収差補正器電源のアース、または鏡体のアースポイントとケーシング120を直接アース線でつなぐことによりその電位を定める。特に図示していないが、磁気シールド110の支持は、ケーシング120から支柱などをたてておこなう。電子顕微鏡では、一般的に用いられているイオンポンプやターボ分子ポンプなどからの微小な漏洩電流がカラムを通ってアースに流れ込んでいる。この、カラムを流れる電流は、光軸付近に弱い磁場をつくり、それがビームを振らせて画像ノイズの原因となる。本実施例のような構造にすることにより、カラムを流れる電流を遮断することができる。このノイズを消すことができ、低加速で高分解能が要求されるSEMには、特に有効である。
【0046】
以上詳述したように、本発明によれば、収差補正電子光学系で、収差補正器にのみ加速されたビームを通すことにより、収差補正器で使用する多数の電源のノイズによる影響を低減し、安定した高分解能観察の可能な荷電粒子線装置を実現できる。また、電子銃を高加速にし高加速ビームを鏡体内に通し、試料近辺で強減速してノイズを抑える方式に比べ、製作が容易でシステム全体の消費電力を低く抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、走査型電子顕微鏡、半導体検査装置、走査透過型電子顕微鏡、集束イオンビーム装置などへ利用の可能性がある。
【符号の説明】
【0048】
0…光軸、1…ショットキー電子源、2…サプレッサー電極、3…引き出し電極、4…第1陽極、5…第2陽極、6…第1コンデンサーレンズ、7…第2コンデンサーレンズ、8…偏向器、10…収差補正器、15…走査偏向器、17…対物レンズ、18…試料、20…電子銃電源、21…制御電圧源、22…加速電圧源、23…第1コンデンサーレンズ電源、24…第2コンデンサーレンズ電源、25…偏向コイル電源、26…収差補正器電源、27…走査コイル電源、28…対物レンズ電源、29…リターディング電源、30…制御コンピュータ、31…可動絞り、32…可動絞り微動機構、35…非点補正コイル電源、36…非点補正コイル、37…対物アライナー電源、38…対物アライナー、40…第3コンデンサーレンズ、41…第3コンデンサーレンズ電源、60…試料準備室、61…試料搬送機構、62…ゲートバルブ、63…試料ステージ制御機構、71…ExB偏向器、72…反射板、73…2次電子検出器、74…2次電子検出器電源、75…ExB偏向器電源、76…データストレージ、77…モニタ、78…操作卓、80…試料ステージ、81…試料ステージ制御機構、90…真空容器、91…上加速静電レンズ、92下減速静電レンズ、93…上電極、94下電極、110…磁気シールド、111、114…電界12極子、112,113…電磁界12極子、115…コイル、116…軟磁性リング、120…ケーシング、121…電圧導入端子、122…絶縁スリーブ、123、124、125…絶縁材、126…絶縁スペーサ、127…真空ガスケット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置する試料ステージと、前記試料ステージ上に載置された前記試料に対して1次荷電粒子線を走査する照射光学系と、前記1次荷電粒子線の走査により発生する2次荷電粒子を検出する検出器と、前記検出器の出力信号を画像表示する表示手段とを有し、
前記照射光学系は、一対の加速電極と、前記一対の加速電極の間に置かれた前記一次荷電粒子線の収差を補正する収差補正器とを備え、
前記収差補正器は、電界もしくは磁界、またはその両方の4極子場と8極子場を発生させる複数個の多極子素子群と、前記複数個の多極子群の、光軸に沿って前段と後段のそれぞれに、軸対称な加速電極が組み込まれており、
前記一対の加速電極に高電圧を印加して、前記収差補正器を通過する間の前記1次荷電粒子線を加速せしめることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
試料を載置する試料ステージと、前記試料ステージ上に載置された前記試料に対して1次荷電粒子線を走査する照射光学系と、前記1次荷電粒子線の走査により発生する2次荷電粒子を検出する検出器と、前記検出器の出力信号を画像表示する表示手段とを有し、
前記照射光学系は、一対の静電レンズと、前記一対の静電レンズの間に置かれた前記1次荷電粒子線の収差を補正する収差補正器とを備え、
前記収差補正器は、電界もしくは磁界、またはその両方の4極子場と8極子場を発生させる複数個の多極子素子群と、前記複数個の多極子群の、光軸に沿って前段と後段のそれぞれに、軸対称な加速電極が組み込まれており、
前記一対の静電レンズに高電圧を印加して、前記収差補正器を通過する間の前記1次荷電粒子線を加速せしめることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の荷電粒子線装置において、前記収差補正器は、色収差もしくは球面収差、またはその両方を補正できる収差補正器であること特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
電子線を試料上に照射し、走査させるSEMカラムと、前記試料を載置する試料ステージが格納される試料室と、前記電子線の走査により発生する2次電子を検出する検出器と、前記検出器の出力信号をSEM画像として表示する表示手段と、前記SEMカラム、前記試料室、前記表示手段を含む各構成部品を制御するための制御ユニットとを備えた荷電粒子線装置において、
前記SEMカラムは、一対の加速電極と、前記一対の加速電極の間に置かれた前記電子線の収差を補正する収差補正器とを有し、
前記収差補正器は、電界もしくは磁界、またはその両方の4極子場と8極子場を発生させる複数個の多極子素子群と、前記複数個の多極子群の、光軸に沿って前段と後段のそれぞれに、軸対称な加速電極が組み込まれており、
前記一対の加速電極に高電圧を印加して、前記収差補正器を通過する間の前記電子線を加速せしめることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
電子線を試料上に照射し、走査させるSEMカラムと、前記試料を載置する試料ステージが格納される試料室と、前記電子線の走査により発生する2次電子を検出する検出器と、前記検出器の出力信号をSEM画像として表示する表示手段と、前記SEMカラム、前記試料室、前記表示手段を含む各構成部品を制御するための制御ユニットとを備えた荷電粒子線装置において、
前記SEMカラムは、一対の静電レンズと、前記一対の静電レンズの間に置かれた前記電子線の収差を補正する収差補正器とを有し、
前記収差補正器は、電界もしくは磁界、またはその両方の4極子場と8極子場を発生させる複数個の多極子素子群と、前記複数個の多極子群の、光軸に沿って前段と後段のそれぞれに、軸対称な加速電極が組み込まれており、
前記一対の静電レンズに高電圧を印加して、前記収差補正器を通過する間の前記電子線を加速せしめることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の荷電粒子線装置において、前記収差補正器は、色収差もしくは球面収差、またはその両方を補正できる収差補正器であること特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれか一項に記載の荷電粒子線装置において、前記制御ユニットは、前記試料ステージを駆動し前記試料上の所定の位置のSEM画像を取得することにより、前記試料上のパターンの測長を行う機能を有することを特徴とする荷電粒子線装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−258573(P2011−258573A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184325(P2011−184325)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【分割の表示】特願2006−169787(P2006−169787)の分割
【原出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】