説明

荷電粒子装置の球面収差を補正する収差補正装置

【課題】長焦点用収差補正機能と短焦点用収差補正機能の両方の機能を実現できる収差補正の構成を提供する。
【解決手段】2つの多極子レンズの間に2つの回転対称レンズを配置するという従来の収差補正装置の構成を有しつつ、対物レンズと多極子レンズの間には従来2つの回転対称レンズを配置していたものを3つの回転対称レンズを配置する。対物レンズの焦点距離が長い状態で使用する場合は対物レンズと多極子レンズの間に配置した3つの回転対称レンズのうち、2つを使用することで収差を補正する。また、高分解能観察など、対物レンズの焦点距離が短い状態で使用する場合には対物レンズと多極子レンズの間の3つの回転対称レンズのうち、長焦点の場合とは異なる組み合わせの2つの回転対称レンズを使用することで収差を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収差補正装置及び荷電粒子装置に関し、例えば、多極子レンズと回転対称レンズを含む収差補正装置で、透過型電子顕微鏡をはじめとする荷電粒子線顕微鏡装置の、特に対物レンズの球面収差を補正するための光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査透過型電子顕微鏡(STEM)など電子顕微鏡においては、電子線を収束するために電場或いは磁場を用いた電子レンズが不可欠である。電子レンズとして最も良く用いられるのは、回転対称な電磁界を用いた球面レンズとして作用するレンズである。このような回転対称電子レンズでは正の球面収差が不可避であることが知られている。この場合、更に回転対称電子レンズを用いても負の球面収差を作ることは不可能であるので、光学におけるような凹/凸組レンズによる球面収差補正はできず、従来の電子顕微鏡装置においては球面収差が実質的な分解能を決める主要因となっている。
【0003】
一方、この電子レンズの球面収差は非回転対称な多極子レンズの組合せにより、原理的に補正可能であることが指摘されているが、これら多極子補正器は多段の4極、6極、8極子などを用いるため構造が複雑である。
【0004】
収差補正装置の1つに、多極子レンズで6極子場を発生させて回転対称レンズの球面収差を補正するものがある。球面収差補正の原理は以下の通りである。一般的に対物レンズの正の球面収差に対して、多極子レンズにより6極子場を発生させることで、負の球面収差を作り出し、対物レンズの球面収差を打ち消す。また6極子場の強度を変化させることで、負の球面収差を制御することができるので、電子顕微鏡に搭載されているレンズ、すなわち対物レンズや収束レンズ、投影レンズなどを含めた光学系全体の球面収差を任意の量に制御することができる。ただし、6極子場は2次の収差を発生させるため、2つの多極子レンズの間に2つの回転対称レンズを配置し、多極子レンズ間の電子ビームの軌道を反転させることにより、6極子場の2次の収差を打ち消すことができる。
【0005】
例えば、特許文献1には、このような電子顕微鏡の回転対称レンズの球面収差を補正する装置に関して開示されており、図1はその概略図である。図1において、各電子レンズは光学レンズのように図示されているが、これは図示を簡略化するためであり、実際には磁界を用いる電子レンズとなっている。
【0006】
補正装置には、多極子レンズ2及び3の間に回転対称レンズ4及び5が配置され、多極子レンズ2と対物レンズ6の間には2つの回転対称レンズ7及び8が配置される。回転対称レンズの焦点距離は全て同じfであり、回転対称レンズ7及び8間の距離は2f、多極子レンズ2と回転対称レンズ4及び8間の距離はどちらもf、回転対称レンズ4及び5間の距離は2f、多極子レンズ3と回転対称レンズ5の距離はfとなっている。従来、電子顕微鏡で高分解能観察を行う際、試料位置9は対物レンズ6内に存在し、対物レンズ6の焦点距離は数mmと非常に強励磁で使用する。軸上軌道10は試料と光軸の交点を通り、光軸に対してある角度を持った電子線の軌道であり、多極子レンズ2に対して光軸と平行に入射させる。その後、回転対称レンズ4及び5によって軌道を反転させ、多極子レンズ3に対して光軸と平行に入射させる(球面収差補正条件)。上記のように多極子レンズ2及び3と回転対称レンズ4及び5を配置すると、軸上軌道10は多極子レンズ2及び3に対して、光軸から同じ距離だけ離れて通過する(球面収差補正条件)。6極子場の強度は光軸からの距離によって決まるので、2つの多極子レンズの励磁を同じにすることで2次の収差を打ち消すことができる。すなわち、対物レンズ6の球面収差と逆符号で半分の量の球面収差を2つの多極子レンズの6極子場でそれぞれ与えることにより、2次の収差を打ち消しつつ、対物レンズの球面収差を補正することができる。
【0007】
また、図1の収差補正装置は軸上コマ収差を補正する構成となっている。回転対称レンズには軸上コマ収差がない面があり、これをコマフリー面と呼ぶ。このコマフリー面は通常、回転対称レンズの後ろ焦点面付近に存在するため、試料位置9を対物レンズ6内に配置し、対物レンズ6を強励磁で使用する高分解能観察を行う場合、対物レンズ6のコマフリー面11は対物レンズ6の数mm後ろに存在することになる。このとき対物レンズ6のコマフリー面11と回転対称レンズ7の距離をfとすることで、コマフリー面11を回転対称レンズ7のコマフリー面に転写することができる。
【0008】
図1の構成によれば、同様の原理でコマフリー面11を、回転対称レンズ8、4及び5のコマフリー面に転写することができる。多極子レンズのコマ収差は多極子レンズの中心を通る軌道で、かつ2つの多極子レンズ2及び3の間の中心で軌道が対称になることで打ち消すことができる。図1においては対物レンズ6のコマフリー面11を通る軸外軌道12は多極子レンズ2及び3の中心を通り、2つの多極子レンズ2及び3の間の中心で軌道を対称にすることで、コマフリー面を転写し、軸上コマ収差を補正している。
【0009】
以上のように図1の構成では、補正装置の後半部分である多極子レンズ2及び3の間において軸上軌道10によって球面収差補正条件(多極子レンズ2及び3に対して光軸と平行にビームが入射し、多極子レンズ2及び3においてビームが対称(光軸からの距離が同じ)となっていること)を満たし、補正装置の前半部分である対物レンズ6から多極子レンズ2の間において軸外軌道12によってコマフリー面転写条件を満たす球面収差補正装置となっている。
【0010】
特許文献2には別の構成によって球面収差を補正することが開示されており、図2はその概略図である。これも図1と同じように試料位置9が対物レンズ6内に存在する高分解能観察用の収差補正装置である。補正装置の後半部分である多極子レンズ2及び3間の構成は前述の図1と同じであるが、補正装置の前半部分である対物レンズ6と多極子レンズ2の間の構成が図1とは異なる。
【0011】
図2において、回転対称レンズ7及び8の焦点距離をそれぞれf、fとし、対物レンズ6のコマフリー面11と回転対称レンズ7の距離をf、回転対称レンズ7及び8間の距離をf+f、回転対称レンズ8と多極子レンズ2の距離をfとしている。軸上軌道10は補正装置の後半部分が前述の図1と同じ構成なので同じ原理により球面収差補正条件を満たしている。また、補正装置の前半部分は前述の図1と構成は異なるが、回転対称レンズ7及び8を焦点距離の位置に配置することにより、軸外軌道12はコマフリー面転写条件を満たしている。
【0012】
図2の収差補正装置の特徴としては球面収差の微調整のしやすさが挙げられる。対物レンズ6の焦点距離を変化させたとき、対物レンズ6の球面収差とコマフリー面11が変化するため、図4の構成では全ての回転対称レンズの焦点距離fを調整しなければならない。しかし、図2の構成で対物レンズ6の球面収差補正を微調整する場合、回転対称レンズ7及び8の焦点距離f、fを微調整することで、多極子レンズ2を通る軸上軌道10の位置は変化しないため、回転対称レンズ4及び5の焦点距離fおよび多極子レンズ2及び3の励磁を変化させずに球面収差を補正することができる。よって、図2の構成によれば、回転対称レンズ7及び8の位置と焦点距離f、fを微調整することで球面収差補正条件とコマフリー面転写条件を満たすことができ、球面収差の補正が微調整しやすくなるという効果が期待できる。また、図2の構成では焦点距離を調整できるので、図1よりも図2の構成の方が、自由度が大きく、例えば像に倍率をつけることも可能となる。
【0013】
【特許文献1】特開平3−295140号公報
【特許文献2】特表2002−510431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述のように、従来の球面収差補正装置は試料位置9が対物レンズ6内に存在する高分解能観察用の補正装置であり、図1及び2の構成もそのようになっている。
【0015】
しかるに、図1及び2においては、いずれも試料が対物レンズ内に置かれているが、試料を対物レンズの外に置くことが可能であれば、試料観察条件の自由度を広げることができる。例えば、磁性体試料の磁性観察を行う場合、通常は対物レンズ内に試料を配置し、対物レンズを使用せず、その下の投影レンズなどを用いて観察する。ところが、結像に用いる投影レンズなどの励磁は小さくなるため、試料の磁性を高分解能に観察するのは難しい。あるいは試料に対物レンズの磁場を与え、観察する方法もあるが、このとき磁場は一方向にしか与えられない。このような磁性体試料の磁性観察では試料を対物レンズの磁場の影響がない位置に置くことで、対物レンズを用いて結像することができ、その下の投影レンズなどは拡大系として使用することができる。また、ある程度の試料スペースが必要となるが、磁場印加装置内に試料を置くことで、試料に任意の方向の磁場を与えることができる。対物レンズ内に試料を置く場合は限られたスペースに試料と試料に条件を与える装置を収めなければならないため、試料に与えられる条件は限られる。試料の温度や圧力を変化させて観察を行う場合も、対物レンズの外に試料を置くことで、様々な条件下で観察を行うことができるようになる。
【0016】
しかしながら、対物レンズの外に試料を配置する場合、対物レンズの焦点距離は長い状態(長焦点)で使用しなければならない。一般的に焦点距離が長くなると球面収差が非常に大きくなる。このことは、球面収差係数Csと焦点距離fの関係は一般的に式(1)のように表されることからも判る。
【0017】
【数1】

ここでS、Dはそれぞれポールピースのギャップとボア径である。
【0018】
このように対物レンズの外に試料を配置すると球面収差が大きくなるため、適切に試料を観察することができないという問題が生じる。従って、対物レンズの焦点距離が長い場合に対応する長焦点用球面収差補正装置が必要となる。
【0019】
特許文献1及び2(図1や図2)のような従来の構成において、試料位置9を対物レンズ6の外に配置し、対物レンズ6を長焦点で使用する場合、対物レンズ6のコマフリー面11は対物レンズの後ろ焦点面付近に存在する。このため、回転対称レンズ7の後ろにコマフリー面11が存在してしまい、コマフリー面11を多極子レンズ2の中心に転写する軸外軌道12を作ることができない。従って、特許文献1及び2において試料位置を対物レンズの外にすると、球面収差補正条件を満たす軸上軌道10とコマフリー面転写条件を満たす軸外軌道12を同時に作ることができない。
【0020】
対物レンズが短焦点の場合は、球面収差が小さいため試料の高分解能観察が可能であるが、試料を対物レンズ内に配置しなければならないので磁性材料観察には適さず、又、対物レンズ内に配置できないくらいに大きい試料の観察ができない等、観察の自由度が小さい。一方、対物レンズが長焦点の場合は、球面収差が大きいため短焦点の場合に比べて試料の高分解能観察には適さないが、対物レンズの磁場の影響を受けないので磁性材料の観察が適切にでき、試料の大きさにも制限を受けない等、観察の自由度が大きい。
【0021】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、長焦点用収差補正機能と短焦点用収差補正機能の両方の機能を実現できる収差補正の構成を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
まず、長焦点用収差補正機能実現のために、本発明による収差補正装置においては、2つの多極子レンズの間に2つの回転対称レンズを配置し、対物レンズと多極子レンズの間に2つのレンズを配置するという従来の構成に加えて、対物レンズと回転対称レンズの距離を長焦点で使用する際の対物レンズの焦点距離よりも長くする。これにより、コマフリー面を転写する軸外軌道12の条件を満たし、また前述した球面収差を補正する軸上軌道10の条件も同時に満たすようにしている。
【0023】
また、長焦点用収差補正機能と短焦点用収差補正機能の両方の機能を1つの構成で得るために、本発明による収差補正装置は、2つの多極子レンズの間に2つの回転対称レンズを配置するという構成は従来の収差補正装置と同じだが、対物レンズと多極子レンズの間には従来2つの回転対称レンズを配置していたものを3つの回転対称レンズを配置する。対物レンズの焦点距離が長い状態で使用する場合は対物レンズと多極子レンズの間に配置した3つの回転対称レンズのうち、2つを使用することで収差を補正する。また、高分解能観察など、対物レンズの焦点距離が短い状態で使用する場合には対物レンズと多極子レンズの間の3つの回転対称レンズのうち、長焦点の場合とは異なる組み合わせの2つの回転対称レンズを使用することで収差を補正する。
【0024】
即ち、本発明による収差補正装置は、荷電粒子線装置における対物レンズの収差を補正するための収差補正装置であって、対物レンズ6側に配置された第1の多極子レンズ(多極子レンズ2)と、投影レンズ側に配置された第2の多極子レンズ(多極子レンズ3)と、第1及び第2の多極子レンズ間に配置され、対物レンズのコマフリー条件を第2の多極子レンズに転写するための第1の転写レンズ群(回転対称レンズ4及び5)と、第1の多極子レンズと対物レンズ間に配置され、対物レンズのコマフリー条件を第1の多極子レンズに転写するための第2の転写レンズ群(回転対称レンズ7、8及び13)と、を備える。そして、第2の転写レンズ群は3つの回転対称レンズを含み、対物レンズから近い順に第1、第2、及び第3の回転対称レンズと定義した場合、第3の回転対称レンズ(回転対称レンズ8)と第1の回転対称レンズ(回転対称レンズ13)の組み合せ、及び第3の回転対称レンズ(回転対称レンズ8)と第2の回転対称レンズ(回転対称レンズ7)の組み合せを切り換えながら用いて、対物レンズの焦点が対物レンズの内部と外部にある場合の対物レンズの収差補正を可能としている。
【0025】
ここで、対物レンズの焦点が対物レンズの外部にある場合(対物レンズが長焦点の場合)、第2及び第3の回転対称レンズの組合せを用いて前記対物レンズの収差補正を行うようにする。一方、対物レンズの焦点が対物レンズの内部にある場合(対物レンズが短焦点の場合)、第1及び第3の回転対称レンズの組合せを用いて対物レンズの収差補正を行うようにする。より詳細には、対物レンズが長焦点の場合、対物レンズの収差補正を可能とする条件は、軸上軌道が対物レンズと第2の回転対称レンズとの間で光軸と交差せず、軸上軌道が第2及び第3の回転対称レンズの間で光軸と交差し、軸外軌道が第2及び第3の回転対称レンズの間で光軸と交差しないことである。また、対物レンズが短焦点の場合、対物レンズの収差補正を可能とする条件は、軸上軌道が対物レンズと第1の回転対称レンズとの間で光軸と交差せず、軸上軌道が第1及び第3の回転対称レンズの間で光軸と交差し、軸外軌道が第1及び第3の回転対称レンズの間で光軸と交差しないことである。
【0026】
上記のように長焦点用収差補正を行える構成では、試料位置9を対物レンズ6内に配置し、対物レンズを短焦点で使用する場合、球面収差を補正する軸上軌道10の条件とコマフリー面11を転写する軸外軌道12の条件の両方を満たすことができる。このとき軸上軌道10は多極子レンズ2、3に対して光軸に平行に入射するが、光軸付近を通る軌道となる。多極子レンズが発生させる6極子場は光軸から遠い位置の方が磁場の影響が強いため、球面収差を補正するには多極子レンズによる6極子場の励磁を非常に強くし、光軸付近まで6極子場の影響を強めなければならない。6極子場には対称性と安定度が求められ、このうち安定度は電源のスペックによって決まり、電源の出力が大きくなれば、安定度は悪くなる。上記の構成で長焦点の収差補正を行う場合、多極子レンズの電源には低出力・高安定度が求められるが、短焦点の収差補正を行う場合、高出力・低安定度が求められる。すなわち、求められる電源のスペックが異なるため、電源を2種類用意しなければならない。あるいは高出力・高安定度の電源が必要となるが、現在、要求を満たすような電源はない。従って、短焦点の収差補正を行う際の6極子場の強度を抑えられる構成が必要となるが、長焦点用収差補正の構成を大きく変更することは避けたい。
【0027】
そこで本発明では、対物レンズ6と回転対称レンズ7の間に新たに回転対称レンズ13を追加し、高分解能観察を行う際には回転対称レンズ7は使用せず、追加の回転対称レンズ13と回転対称レンズ8を使用することで、対物レンズの焦点距離が短い場合も収差を補正する。軸上軌道10と軸外軌道12の条件を同時に満たしたとき、球面収差とコマ収差を補正することができるが、この2つの収差が十分小さいとき色収差の影響が大きくなる。本発明では対物レンズと多極子レンズの間の回転対称レンズの位置を色収差の影響が小さい位置に置くことができる。
【0028】
なお、本発明は、上述の構成を含む収差補正装置を備える荷電粒子装置をも提供する。
さらなる本発明の特徴は、以下本発明を実施するための最良の形態および添付図面によって明らかになるものである。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、対物レンズと多極子レンズの間の3つの回転対称レンズのうち、異なる2つの組み合わせを使用することにより、試料が対物レンズ外に配置され、対物レンズの焦点距離が長い状態で使用する磁性観察などの場合の球面収差補正だけでなく、試料が対物レンズ内に配置され、対物レンズの焦点距離が短い状態で使用する高分解能観察の場合の球面収差補正も行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。なお、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。また、本実施形態では荷電粒子線装置としてTEMを用いた場合を例にしているが、これに限られるものではない。
【0031】
<収差補正装置の構成>
図3は、本発明の実施形態による収差補正装置の概略構成を示している。図3に示されるように、収差補正装置1では、多極子レンズ2及び3の間に回転対称レンズ4及び5が配置され、対物レンズ6と多極子レンズ2の間には回転対称レンズ7、8、及び13の3つのレンズが配置されている。回転対称レンズ4及び5の焦点距離はどちらもfであり、多極子レンズ2と回転対称レンズ4の距離、および多極子レンズ3と回転対称レンズ5の距離はf、回転対称レンズ4、5間の距離は2fである。高分解能観察の際の対物レンズ6のコマフリー面11と回転対称レンズ13の距離、回転対称レンズ13、7間の距離、回転対称レンズ7、8間の距離、回転対称レンズ8と多極子レンズ2の距離をそれぞれl、l、l、lとする。磁性観察など、対物レンズを長焦点で使用する場合は、試料位置14のように対物レンズの外に試料位置が存在する。また、ビームの開き角度を制限するための絞り装置やビームの軌道を調整する偏向子など本発明の説明に主要ではない装置については、図3乃至5では省略している。
【0032】
図4は、試料位置14が対物レンズ6の外に存在する場合、すなわち磁性観察など、対物レンズ6を長焦点で使用する場合に収差を補正する長焦点用収差補正機能を実現する構成を示している。対物レンズ6と多極子レンズ2の間の3つの回転対称レンズのうち、回転対称レンズ13は使用せず(電流を流さない)、回転対称レンズ7及び8を使用する。ここで、対物レンズ6を長焦点で使用する際のコマフリー面16と回転対称レンズ7の距離をlとする。
【0033】
また、図4に示されるように、試料14と光軸の交点から光軸に対してある角度を持った軸上軌道15は多極子レンズ2及び3に対して光軸と平行に入射している。このようにビームが多極子レンズ2及び3に入射すれば、前述した球面収差を補正するための条件を満足させることができる。さらに、対物レンズ6を長焦点で使用する際のコマフリー面16を通る軸外軌道17は、多極子レンズ2及び3の中心に投影されるような軌道となっている。このようにすれば、前述したコマフリー面を転写させるための条件を満足させることができる。軸上軌道15と軸外軌道17が同時に上記の条件を満たす回転対称レンズ7及び8の位置および焦点距離はいくつかの解が存在するが、球面収差と軸上コマ収差を補正したとき、色収差の影響が大きくなるので、色収差が小さくなるような回転対称レンズ7及び8の位置および焦点距離にすることが望ましい。このとき、対物レンズ6を長焦点で使用する際のコマフリー面16は回転対称レンズ7の前に存在し、さらに試料位置14からの軸上軌道15は対物レンズ6と回転対称レンズ7の間でクロスオーバを作らないという条件を満たさなければならない。そのため、対物レンズ6を長焦点で使用する際のコマフリー面16は対物レンズ6の後ろ焦点面付近に存在するので、lは対物レンズ6の焦点距離よりも長くしなければならない。球面収差の補正は従来の球面収差補正器と同様、多極子レンズの励磁を調整し、6極子場の強度によって球面収差を制御するので、回転対称レンズ4、5の焦点距離は変化させない。コマフリー面16を転写する軸外軌道17の条件を満たすには回転対称レンズ7、8の焦点距離を調整し、回転対称レンズ7、8の位置は変えない。
【0034】
図1及び2のような従来の収差補正装置の構成の場合、前述したようにコマフリー面は回転対称レンズの後ろ焦点面付近に存在するため、回転対称レンズ7及び8の焦点距離とレンズ間距離を調整することで、対物レンズ6のコマフリー面11を回転対称レンズ7、8、4及び5それぞれのコマフリー面に転写することができる。しかし、現実的に回転対称レンズ7及び8の位置を調整することは位置精度や電子顕微鏡の構造上の問題から困難である。回転対称レンズ7及び8の焦点距離のみを調整してコマフリー面を転写できることが望ましい。
【0035】
そこで、本構成では対物レンズ6のコマフリー面16を回転対称レンズ7及び8のコマフリー面に転写するのではなく、対物レンズ6の軸上コマ収差を回転対称レンズ7及び8の軸上コマ収差によって打ち消すことによって、見かけ上、対物レンズ6のコマフリー面16を転写する。従来、回転対称レンズ7及び8はその焦点距離の位置に配置しなければならなかったが、本構成ではある程度自由に回転対称レンズ7及び8の位置を決めることができ、軸上コマ収差は回転対称レンズ7及び8の焦点距離を調整することで補正する。
【0036】
以上のように、コマフリー面を転写する軸外軌道17の条件を満たし、同時に球面収差を補正する軸上軌道15の条件も満たすような回転対称レンズ7及び8の焦点距離にしなければならない。
【0037】
図5は、試料位置9が対物レンズ6内に存在する場合、すなわち高分解能観察など対物レンズを短焦点で使用する場合の短焦点用収差補正機能を実現する構成を示す図である。短焦点収差補正機能を実現する場合には、対物レンズ6と多極子レンズ2の間の3つの回転対称レンズのうち、回転対称レンズ7は使用せず(電流を流さず)、回転対称レンズ13及び8を使用する。
【0038】
図5において、試料と光軸の交点から光軸に対してある角度を持った軸上軌道10は多極子レンズ2及び3に対して光軸と平行に入射する軌道である。よって、前述した球面収差を補正するための条件を満たしている。また、対物レンズ6を短焦点で使用する際のコマフリー面11を通る軸外軌道12は多極子レンズの中心に投影されるような軌道である。よって、前述したコマフリー面を転写させるための条件も満足している。
【0039】
前述の長焦点用収差補正装置の場合と同じように、対物レンズ6の軸上コマ収差を回転対称レンズ13及び8の軸上コマ収差によって打ち消すことによって、見かけ上、対物レンズ6のコマフリー面11を転写する。軸上軌道10と軸外軌道12が同時に上記の条件を満たす回転対称レンズ13の位置および回転対称レンズ13及び8の焦点距離はいくつかの解が存在するが、球面収差とコマ収差を補正したとき、色収差の影響が大きくなるので、色収差が小さくなるような回転対称レンズ13の位置および回転対称レンズ13及び8の焦点距離にすることが望ましい。回転対称レンズ8の位置は長焦点用収差補正装置の場合と同じにする。このとき、対物レンズ6を短焦点で使用する際のコマフリー面11は回転対称レンズ13の前に存在し、さらに試料位置9からの軸上軌道10は対物レンズ6と回転対称レンズ13の間において試料位置9以外でクロスオーバを作らないという条件を満たさなければならない。球面収差の補正は従来の収差補正装置器と同様に、多極子レンズの励磁を調整し、6極子場の強度によって球面収差を制御するので、回転対称レンズ4及び5の焦点距離は変化させない。コマフリー面16の転写には回転対称レンズ13及び8の焦点距離を調整し、回転対称レンズ13及び8の位置は変えない。
【0040】
<収差補正条件についての考察>
続いて、図6乃至8を用いて収差補正条件、つまり各レンズの配置と焦点との関係について考察する。
【0041】
図6は、本発明の実施形態による収差補正装置1の全体のレンズ配置を示す模式図であり、ほぼ図3と同様の図となっている。ここで、41は対物レンズ6の主面の位置を示す。また、コマフリー面(コマ収差が0となる面)は、対物レンズ6の後焦点面付近に存在する。
【0042】
従って、対物レンズを短焦点で使用する場合の焦点距離をfOS、対物レンズを長焦点で使用する場合の焦点距離をfOLとしたとき、対物レンズの主面41から高分解能観察時のコマフリー面11までの距離はfOS、対物レンズの主面41から対物レンズを長焦点で使用する際のコマフリー面16までの距離はfOLとなる。よって、図3中のlはl=l+fOL−fOSと表される。また、高分解能観察時の試料位置9から対物レンズの主面41までの距離をlOS、対物レンズを長焦点で使用する際の試料位置14から対物レンズの主面41までの距離をlOLとする。さらに、回転対称レンズ7、8、13の焦点距離をそれぞれf、f、f13とする。
【0043】
図7は、対物レンズを長焦点で使用する場合のレンズ配置と電子線の軌道を示す模式図である。長焦点用収差補正機能を実現する構成において球面収差とコマ収差を同時に補正するには、
i)軸上軌道15が対物レンズ6と回転対称レンズ7の間で光軸と交差せず、回転対称レンズ7、8間で光軸と交差すること、
ii)軸外軌道17が回転対称レンズ7及び8の間で光軸と交差しないこと、
が条件となる。従って、以下の条件式を満たす必要がある。
【0044】
【数2】

【0045】
ここで、(2)式は軸上軌道15が対物レンズ6と回転対称レンズ7の間で光軸と交差しない条件、(3)及び(4)式は軸上軌道15が回転対称レンズ7及び8の間で光軸と交差する条件、(5)及び(6)式は軸外軌道17が回転対称レンズ7及び8の間で光軸と交差しない条件である。
【0046】
また、図8は、対物レンズ6を短焦点で使用する場合のレンズ配置と電子線(ビーム)の軌道を示す模式図であり、図4と同様の図となっている。短焦点用収差補正機能を実現する構成において球面収差とコマ収差を同時に補正するには、
iii)長焦点での収差補正と同様に、軸上軌道10が対物レンズ6と回転対称レンズ13の間で光軸と交差せず、回転対称レンズ13、8間で光軸と交差すること、
iv)軸外軌道12が回転対称レンズ13及び8の間で光軸と交差しないこと、
が条件となる。従って、以下の条件を満たす必要がある。
【0047】
【数3】

【0048】
ここで、(7)式は軸上軌道10が対物レンズ6と回転対称レンズ13の間で光軸と交差しない条件、(8)及び(9)式は軸上軌道10が回転対称レンズ13及び8の間で光軸と交差する条件、(10)及び(11)式は軸外軌道12が回転対称レンズ13及び8の間で光軸と交差しない条件である。なお、(4)式を満たしていれば、(9)式は省略できる。
【0049】
よって、(2)乃至(11)式で示した条件を満たすことにより、対物レンズ6を長焦点・短焦点どちらで使用する場合でも収差を補正することができる。(2)乃至(11)式の条件を満たす解は多数存在するので、実際に回転対称レンズ13、7及び8の位置を決める場合には、回転対称レンズの焦点距離をできるだけ小さくするような解を用いる。これは色収差の影響を小さくするためである。ここで、色収差とは球面収差・コマ収差の次に問題となる収差であり、上記条件を満足するのみでは補正するのに十分ではない。色収差はレンズの焦点距離におおよそ比例するため、レンズの焦点距離を小さくし、色収差の影響を小さくすることが望ましい。しかし、(5)、(6)、(10)及び(11)式の条件からレンズの焦点距離を小さくするには限界がある。よって、(2)乃至(11)式による条件を満足する解の中で、各レンズの焦点距離がなるべく小さくなるものを採用すればよい。なお、機械的な構造の限界もあるため、これらを考慮して最適条件を決めなければならない。
【0050】
<構造的な問題への対処>
補正装置1を電子顕微鏡に組み込む場合、電子顕微鏡自体が高くなり、構造的に不安定になるという問題がある。そのため補正装置1はできるだけ小さいことが望まれる。補正装置1の後半部分である多極子レンズ2及び3間に関しては回転対称レンズ4及び5の焦点距離fを決めるとレンズ間距離が決まる。上述のような色収差や構造的な問題を考えると、回転対称レンズ4及び5の焦点距離fはできるだけ短くした方がよい。
【0051】
しかしながら、電子顕微鏡の加速電圧や対物レンズの球面収差の補正量によって多極子レンズ2及び3と回転対称レンズ4及び5に必要な励磁などが決まり、また製作する際の構造的な問題があるため、回転対称レンズ4及び5の焦点距離fを短くするのには限界がある。
【0052】
補正装置1の前半部分である対物レンズ6から多極子レンズ2の間では球面収差補正条件とコマフリー面転写条件を満たすように回転対称レンズ7、8及び13の焦点距離と各レンズ間距離を調整する。このとき、球面収差補正条件とコマフリー面転写条件の2つを同時に満たす回転対称レンズの焦点距離と各レンズ間距離の解はいくつかある。前述したように色収差が小さくなるように回転対称レンズの焦点距離と各レンズ間距離を決めるが、さらに補正装置1の全長を小さく抑えることが望まれる。
【0053】
対物レンズ6を長焦点で使用する場合、対物レンズ6の焦点距離によって回転対称レンズ7の位置がある程度制限される。また構造的な問題のため、対物レンズ6から多極子レンズ2までの距離は制限される。このため、3つの回転対称レンズの位置を決める場合は以下の手順で行えばよい。
【0054】
まず、対物レンズ6から多極子レンズ2までの距離を構造的に無理がないように決める。次に、長焦点で使用する際の対物レンズ6の焦点距離を試料位置14との関係から決め、回転対称レンズ7を対物レンズ6の焦点距離よりも長い位置に配置する。そして、対物レンズ6を長焦点で使用する場合の収差を補正するように回転対称レンズ7及び8の焦点距離と位置を調整する。このとき、球面収差補正条件とコマフリー面転写条件(上記条件i)ii)、(2)乃至(6)式)を満たしながら、色収差を小さくするように回転対称レンズ7及び8の焦点距離と位置を調整する。最後に、対物レンズ6を短焦点で使用する場合の収差補正条件を満たすように回転対称レンズ13の焦点距離と位置および回転対称レンズ8の焦点距離を調整する。このとき回転対称レンズ8の位置は先ほど決めた長焦点の場合と同じにする。球面収差補正条件とコマフリー面転写条件(上記条件iii)iv)、(7)乃至(11)式)を同時に満たし、色収差も小さくなるような回転対称レンズ8及び13の条件を決める。
【0055】
対物レンズの焦点距離は長焦点、短焦点それぞれにおいて設計段階で決めた値で使用することが望ましい。しかし、試料位置の変化や倍率変化などのために対物レンズの焦点距離を設計段階とは異なる値で使用する場合、本構成では回転対称レンズ7、8及び13の位置は変えず、焦点距離を変化させることで、球面収差補正条件とコマフリー面転写条件を満たすことができる。
【0056】
<透過型電子顕微鏡への適用>
図9は、本発明の実施形態による収差補正装置を透過型電子顕微鏡(TEM)に組み込んだ場合の構成を示す図である。電子源18から出射した電子線は、収束レンズ19及び20によってビーム電流量が調整された後、高分解能観察の場合は試料位置9に、磁性観察などの場合は試料位置14に適切な条件で照射される。電子線18は試料を透過し、その透過像は対物レンズ6によって拡大され、補正装置1によって収差が補正される。その後、透過像は、投影レンズ21、22によってさらに拡大され、蛍光板23に投影される。
【0057】
試料位置14は、試料スペース14aの大きさによって対物レンズ6までの距離が決まる。また、試料の磁性観察を行う場合は、対物レンズ6の磁場の影響範囲6aよりも遠い位置に試料位置14を配置しなければならない。対物レンズの焦点距離が長くなると対物レンズの球面収差は大きくなり、長焦点用収差補正装置によって対物レンズの焦点距離が長い場合でも球面収差を補正することができる。しかし、大きな球面収差を補正する場合、球面収差を補正する6極子場の強度を強くする必要があり、この場合には補正装置1が大きくなるため、試料位置14と対物レンズ6の間の距離はできるだけ小さい方が望ましい。そのため試料スペース14aはできるだけ小さくした方がよい。
【0058】
<電子レンズの制御構成例>
図10は、本発明の収差補正装置を構成する各電子レンズ(対物レンズ、回転対称レンズ、および多極子レンズの電流源24乃至31)をパーソナルコンピュータなどの計算機32を用いて制御する構成を示している。
【0059】
図10において、計算機32は、上述の収差補正条件を満たす電流値を計算し、各電流源24乃至31に適切な信号を送ることにより収差を補正する。計算機32は表示部を備えており、操作者はこれを見て装置の状態を確認することができる。
【0060】
図10に示される構成において、操作者が指示を入力することによって長焦点用の収差補正と短焦点用の収差補正の切り換えはモードを選択して、使用するレンズを切り換えることができるようになっている。長焦点、短焦点どちらの場合も球面収差を補正する方法は同じで、電流源28及び31によって多極子レンズ2及び3の励磁を変化させることによって6極子場の強度を調整し、6極子場で与える球面収差を制御する。
【0061】
長焦点の場合の対物レンズの軸上コマ収差を補正するには、電流源26及び27によって回転対称レンズ7及び8の励磁を変化させ、対物レンズの軸上コマ収差を回転対称レンズ7及び8の軸上コマ収差で打ち消すことで、見かけ上、対物レンズのコマフリー面を多極子レンズ2の中心に転写する。
【0062】
短焦点の場合は、電流源25及び27によって回転対称レンズ13及び8の励磁を変化させ、対物レンズの軸上コマ収差を回転対称レンズ7及び8の軸上コマ収差で打ち消すことで、長焦点の場合と同様に見かけ上、対物レンズのコマフリー面を転写する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】従来の多極子レンズと回転対称レンズを用いた収差補正装置のレンズ配置と電子線の軌道を示す模式図である。
【図2】従来の多極子レンズと回転対称レンズを用いた図4とは別の収差補正装置のレンズ配置と電子線の軌道を示す模式図である。
【図3】本発明の収差補正装置の全体のレンズ配置を示す模式図である。
【図4】対物レンズの外に観察試料がある場合(長焦点の場合)のレンズ配置と電子線の軌道を示す模式図である。
【図5】対物レンズの内に観察試料がある場合(短焦点の場合)のレンズ配置と電子線の軌道を示す模式図である。
【図6】収差補正の光学系とコマフリー面との位置関係を示す図である。
【図7】長焦点の場合の収差補正条件を説明するための図である。
【図8】短焦点の場合の収差補正条件を説明するための図である。
【図9】本発明の収差補正装置を含む透過型電子顕微鏡(TEM)の構成図である。
【図10】本発明の収差補正装置の各レンズを制御するための構成を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
1:補正装置、2,3:多極子レンズ、4,5:回転対称レンズ、6:対物レンズ、6a:対物レンズの磁場の影響範囲、7,8:回転対称レンズ、9:高分解能観察時の試料位置、10:高分解能観察時の軸上軌道、11:高分解能観察時のコマフリー面、12:高分解能観察時のコマフリー面を通る軸外軌道、13:新たに追加した回転対称レンズ、14:対物レンズを長焦点で使用する際の試料位置、14a:試料スペース、15:対物レンズを長焦点で使用する際の軸上軌道、16:対物レンズを長焦点で使用する際のコマフリー面、17:対物レンズを長焦点で使用する際のコマフリー面を通る軸外軌道、18:電子源、19:第1収束レンズ、20:第2収束レンズ、21:第1投影レンズ、22:第2投影レンズ、23:蛍光板、24〜31:電流源、32:計算機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線装置における対物レンズの収差を補正するための収差補正装置であって、
前記対物レンズ側に配置された第1の多極子レンズと、
投影レンズ側に配置された第2の多極子レンズと、
前記第1及び第2の多極子レンズ間に配置され、前記対物レンズのコマフリー条件を前記第2の多極子レンズに転写するための第1の転写レンズ群と、
前記第1の多極子レンズと前記対物レンズ間に配置され、前記対物レンズのコマフリー条件を前記第1の多極子レンズに転写するための第2の転写レンズ群と、を備え、
前記第2の転写レンズ群は3つの回転対称レンズを含み、前記対物レンズから近い順に第1、第2、及び第3の回転対称レンズと定義した場合、前記第3の回転対称レンズと前記第1の回転対称レンズの組み合せ、及び前記第3の回転対称レンズと前記第2の回転対称レンズの組み合せを切り換えながら用いて、前記対物レンズの焦点が前記対物レンズの内部と外部にある場合の前記対物レンズの収差補正を可能とする収差補正装置。
【請求項2】
前記対物レンズの焦点が前記対物レンズの外部にある場合(対物レンズが長焦点の場合)、前記第2及び第3の回転対称レンズの組合せを用いて前記対物レンズの収差補正を行うようにし、
前記対物レンズの焦点が前記対物レンズの内部にある場合(対物レンズが短焦点の場合)、前記第1及び第3の回転対称レンズの組合せを用いて前記対物レンズの収差補正を行うようにすることを特徴とする請求項1に記載の収差補正装置。
【請求項3】
前記対物レンズが長焦点の場合、前記対物レンズの収差補正を可能とする条件は、軸上軌道が前記対物レンズと前記第2の回転対称レンズとの間で光軸と交差せず、前記軸上軌道が前記第2及び第3の回転対称レンズの間で前記光軸と交差し、軸外軌道が前記第2及び第3の回転対称レンズの間で前記光軸と交差しないことであり、
前記対物レンズが短焦点の場合、前記対物レンズの収差補正を可能とする条件は、軸上軌道が前記対物レンズと前記第1の回転対称レンズとの間で光軸と交差せず、前記軸上軌道が前記第1及び第3の回転対称レンズの間で前記光軸と交差し、軸外軌道が前記第1及び第3の回転対称レンズの間で前記光軸と交差しないことである、ことを特徴とする請求項2に記載の収差補正装置。
【請求項4】
前記対物レンズが長焦点の場合の、前記対物レンズの主面とコマフリー面との距離をfOL、前記試料と前記対物レンズの主面との距離をlOL、とし、
前記対物レンズが短焦点の場合の、前記対物レンズの主面とコマフリー面との距離をfOS、前記試料と前記対物レンズの主面との距離をlOS、とし、
前記対物レンズが長焦点の場合のコマフリー面と前記第1の回転対称レンズとの距離をl、前記第1及び第2の回転対称レンズの距離をl、前記第2及び第3の回転対称レンズの距離をl、前記第3の回転対称レンズと前記第1の多極子レンズとの距離をl、とし、
前記第1乃至第3の回転対称レンズの焦点距離をf、f、及びf13、とすると、
前記対物レンズが長焦点の場合の前記収差補正を可能とする条件は、
【数1】

であり、
前記対物レンズが短焦点の場合の前記収差補正を可能とする条件は、
【数2】

であることを特徴とする請求項3に記載の収差補正装置。
【請求項5】
試料に荷電粒子線を照射して試料像を取得し、前記試料を観察する荷電粒子装置であって、
前記荷電粒子線を発生する電子源と、
前記荷電粒子線を収束させ、前記試料に照射するための収束レンズと、
前記試料を透過した像を拡大するための対物レンズと、
対物レンズの収差を補正するための収差補正装置と、を備え、
前記収差補正装置は、
前記対物レンズ側に配置された第1の多極子レンズと、
投影レンズ側に配置された第2の多極子レンズと、
前記第1及び第2の多極子レンズ間に配置され、前記対物レンズのコマフリー条件を前記第2の多極子レンズに転写するための第1の転写レンズ群と、
前記第1の多極子レンズと前記対物レンズ間に配置され、前記対物レンズのコマフリー条件を前記第1の多極子レンズに転写するための第2の転写レンズ群と、を備え、
前記第2の転写レンズ群は3つの回転対称レンズを含み、前記対物レンズから近い順に第1、第2、及び第3の回転対称レンズと定義した場合、前記第3の回転対称レンズと前記第1の回転対称レンズの組み合せ、及び前記第3の回転対称レンズと前記第2の回転対称レンズの組み合せを切り換えながら用いて、前記対物レンズの焦点が前記対物レンズの内部と外部にある場合の前記対物レンズの収差補正を可能とする、
荷電粒子装置。
【請求項6】
前記対物レンズの焦点が前記対物レンズの外部にある場合(対物レンズが長焦点の場合)、前記第2及び第3の回転対称レンズの組合せを用いて前記対物レンズの収差補正を行うようにし、
前記対物レンズの焦点が前記対物レンズの内部にある場合(対物レンズが短焦点の場合)、前記第1及び第3の回転対称レンズの組合せを用いて前記対物レンズの収差補正を行うようにすることを特徴とする請求項5に記載の荷電粒子装置。
【請求項7】
前記対物レンズが長焦点の場合、前記対物レンズの収差補正を可能とする条件は、軸上軌道が前記対物レンズと前記第2の回転対称レンズとの間で光軸と交差せず、前記軸上軌道が前記第2及び第3の回転対称レンズの間で前記光軸と交差し、軸外軌道が前記第2及び第3の回転対称レンズの間で前記光軸と交差しないことであり、
前記対物レンズが短焦点の場合、前記対物レンズの収差補正を可能とする条件は、軸上軌道が前記対物レンズと前記第1の回転対称レンズとの間で光軸と交差せず、前記軸上軌道が前記第1及び第3の回転対称レンズの間で前記光軸と交差し、軸外軌道が前記第1及び第3の回転対称レンズの間で前記光軸と交差しないことである、ことを特徴とする請求項6に記載の荷電粒子装置。
【請求項8】
前記対物レンズが長焦点の場合の、前記対物レンズの主面とコマフリー面との距離をfOL、前記試料と前記対物レンズの主面との距離をlOL、とし、
前記対物レンズが短焦点の場合の、前記対物レンズの主面とコマフリー面との距離をfOS、前記試料と前記対物レンズの主面との距離をlOS、とし、
前記対物レンズが長焦点の場合のコマフリー面と前記第1の回転対称レンズとの距離をl、前記第1及び第2の回転対称レンズの距離をl、前記第2及び第3の回転対称レンズの距離をl、前記第3の回転対称レンズと前記第1の多極子レンズとの距離をl、とし、
前記第1乃至第3の回転対称レンズの焦点距離をf、f、及びf13、とすると、
前記対物レンズが長焦点の場合の前記収差補正を可能とする条件は、
【数3】

であり、
前記対物レンズが短焦点の場合の前記収差補正を可能とする条件は、
【数4】

であることを特徴とする請求項7に記載の荷電粒子装置。
【請求項9】
さらに、
前記各回転対称レンズおよび前記多極子レンズの電流源を制御するための制御手段と、
前記制御手段を操作するための入力手段と、
前記試料の像を表示するための表示装置と、を備え、
前記制御手段は、前記収差補正を可能とする条件に基づいて、前記各回転対称レンズと前記各多極子レンズに与えるべき電流を計算し、前記各回転対称レンズと前記各多極子レンズを制御することを特徴とする請求項8に記載の荷電粒子装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−224067(P2009−224067A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64717(P2008−64717)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(506086797)独立行政法人沖縄科学技術研究基盤整備機構 (10)
【Fターム(参考)】