説明

荷電粒子集束装置

イオン及び荷電液滴がノズル(6)から荷電粒子輸送装置又は脱溶媒パイプ(7)のオリフィス(22)に向かって移動する。この粒子運動は粒子軌道に沿った擬似ポテンシャル分布により制御される。電極アレイ(24)の隣接電極に印加された高周波電圧が荷電粒子を電極アレイ(24)の上方に実質的に浮遊させる。このようにイオンは電極アレイ(24)に達する直前に電極アレイ(24)の表面に垂直な斥力Fを受ける。この斥力Fは電極アレイ(24)のすぐ手前に実効的な障壁(B)を作り出し、結果として擬似ポテンシャル井戸(A)を生じさせる。この井戸では、荷電粒子はきのこ雲の軸(D)に平行には運動しない。従って荷電粒子は井戸(A)の中心線(C)の周辺に集まってくる。高周波電位に加えて直流電位を電極アレイ(24)内の隣接電極に与えると、井戸の領域(23)に微小な直流電場が形成される。この追加の直流電場は、荷電粒子を対称軸(C)に向けて、従って荷電粒子輸送装置又は脱溶媒パイプ(7)のオリフィス(22)に向けて動かす。こうして、通常ならオリフィス(22)を取り囲む面(21)に衝突するであろう荷電粒子の多くが分析可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析装置に関し、さらに詳しくは、イオン又は他の荷電粒子の雲を形成し、それを小径のオリフィスを通して質量分析計又は移動度分析計に導入するように構成された分析装置のイオン源に関する。イオン又は他の荷電粒子の形成は、エレクトロスプレイイオン源(ESI)、大気圧化学イオン源(ACPI)又は高周波誘導結合プラズマイオン源(ICP)のように1気圧又は数気圧のガスの中で行ってもよいし、電子衝撃イオン源(EI)、化学イオン源(CI)、レーザイオン源(LI)又はプラズマイオン源(PI)のように減圧されたガスの中で行ってもよい。
【背景技術】
【0002】
質量分析計や移動度分析計における分析のために分子や原子をイオン化する方法には様々なものがある。これらの方法の多くではイオンが雲状に与えられ、そのうち、狭いオリフィスを通過して移動度分析計や質量分析計に入るものだけが分析に供される。二段階のイオン分析が必要な場合には、略大気圧雰囲気中で小径のオリフィスを通じてイオンを移動度分析計に導入し、さらに別の小径のオリフィスを通じて該移動度分析計からイオンを真空状態の質量分析計に導入しなければならない。一個又は数個の小径のオリフィスを通過するようにイオンを案内することは容易ではないため、通常は相当な割合のイオンがオリフィスの表面に衝突し、分析前に失われてしまう。
【0003】
移動度分析計又は質量分析計の内部より高い圧力のガスの中でイオンが生成される場合には、それらの分析計に流入するガス流の作用も考慮する必要がある。そのため、オリフィスは鋭い先端を持つスキマーの形にすることが多い。その主な理由は、この形状にすればガスの乱流の作用が軽減されるからである。
【0004】
大気圧イオン化法の代表例に「大気圧エレクトロスプレイイオン化法」(ESI)や「大気圧化学イオン化法」(APCI)がある。ESIでは、液体試料を導入したキャピラリのノズルに数kVの電圧が印加される。このノズルにおいて、電荷を帯びた微小な液滴が形成され、その液滴から溶媒が急速に蒸発する。その際、元々溶解していた分子の表面に液滴の電荷の一部が残る。一方、APCIでは、コロナ放電を発生させるための針電極がノズルの先端に配置される。コロナ放電が発生すると、キャリアガスの原子又は分子がイオン化され、ごく短時間の後にそのイオンから目的の分子へ電荷が移動する。いずれの方法でも、液滴の蒸発を速めるためにノズル及び/又はキャリアガスを加熱することが多い。これは、液滴がそのまま到達すると移動度分析計や質量分析計の動作に悪影響を及ぼすからである。
【0005】
真空引きされた質量分析計にイオンを導入する場合、ポンプの能力を越えない程度までガスの流量を低下させる必要がある。これは例えば、直線形状又は屈曲形状のキャピラリを使うことで達成できる(特許文献1参照)。この場合にも、残留液滴の蒸発を促進するためにキャピラリを加熱することが可能である。しかし、ほとんどの場合、生成されたイオンは一部しかキャピラリに導入されず、しかもその多くがキャピラリの壁との相互作用により失われてしまう。この方法において、キャピラリの代わりにスキマーやサンプリングコーンを使用すれば、効率は多少改善される(特許文献2参照)。しかし、いずれの方法でも、利用できるのは生成されたイオンの一部だけである。
【0006】
真空引きされた質量分析計へのイオン転送効率を高めるため、単一ではなく数個のアパーチャを用いるようにした構成もある(特許文献3、4及び5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−68517号公報
【特許文献2】特開平8−304342号公報
【特許文献3】米国特許第6818889号明細書
【特許文献4】米国特許第6949740号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2004/0245458号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、小径のオリフィスを通したイオンの導入効率を高めることにより移動度分析計又は質量分析計の感度を向上させるイオン集束装置を提供するものである。この目的は、初期のイオン雲が存在する領域に特定の高周波電場及び直流電場を発生させることにより達成される。前記高周波電場はイオン又は他の荷電粒子が前記領域内の壁に到達することを防止し、該高周波電場に重畳される前記直流電場はイオンをオリフィスに向けて押し動かす。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る装置は、イオンを小さな雲に集束させる装置であって、円形又は細長い形状のオリフィスをほぼ全周に渡って取り囲む面の上に狭い間隔で配置された複数の電極から成る。前記面に設けられたオリフィスは、イオン化室内で生成されたイオンを移動度分析計又は質量分析計に導入するためのオリフィスとすることができる。単一の面に電極アレイを設けてその集束効果を利用する代わりに、二つ以上の面を、それらのオリフィスがほぼ一直線に並び、且つイオンがすべてのオリフィスを通過できるように配置し、これらの面上に設けられた電極アレイの作用を組み合わせて利用してもよい。なお、前記面の配置は厳密に同心円状でなくてもよく、またオリフィスの形状は厳密に円形でなくてもよい。
【0010】
少なくとも一つの電極アレイにおいて隣接する電極に高周波電圧を印加すると、該高周波電場が前記隣接する電極間においてイオンを前後に揺動させる。電場の方向が素早く変化するため、イオンはいずれの電極にも到達することができず、図1に示したような実効的な擬似ポテンシャル井戸の中で電極の上方に浮遊する。この高周波電圧に加えて、隣接する電極に微小な直流電圧を印加すると、該電圧に応じた直流電場によりイオンが前記オリフィスに向けて押し動かされる。このオリフィスは、イオンが前記質量分析計又は移動度分析計に入るために必ず通らなければならないものである。以上のようなイオンの全体的な挙動を二個のイオンについて数値的に計算した結果を図19に示す。
【0011】
イオン源の種類によっては、イオンの他に不所望の大きな液滴又はイオンクラスタが形成されることがある。イオンが前記オリフィスに向かって加速されると、該イオンは図1に示したように比較的広いきのこ雲を形成する。一方、前記液滴及びクラスタは通常このきのこ雲の中心に集まる。従って、少なくともこれらの粒子の一部を前記オリフィスからずらすことが有利である。実際にそれを達成する方法を図2及び図3に示す。
【0012】
本発明に係るイオン集束装置の第一の実施形態では、図4、図5、図12、図14、図15及び図16に示したように、前記電極が略円環形状の電極として構成される。これらの電極に高周波電位と直流電位とを重畳して与えることにより、電極アレイの正面で大量のイオンを捕捉しつつ、それらを半径方向に前記オリフィスへ向けて押し動かすような電場を形成することができる。いずれの場合でも、一つの電極アレイの中で電極の幅及び間隔を変えることができる(図4参照)。また、複数の電極アレイがある場合、電極アレイごとに電極の幅及び間隔を変えることができる(図5参照)。
【0013】
本発明に係るイオン集束装置の第二の実施形態では、図6、図7、図13及び図17に示したように、前記電極が、略平行に並べられた略直線状の電極として構成される。これらの電極に高周波電位と直流電位とを重畳して与えることにより、該電極に垂直に作用し、細長いオリフィスに向けてイオンを移動させる電場を、前記電極アレイの正面の捕捉領域内に形成することができる。さらに、略直線状の電極を略平行に並べて成る第二の電極アレイを、第一の電極アレイに対して一定の角度(例えば90°)をつけて配置し、前記オリフィスを通過したイオンを該第二の電極アレイに向けて加速することにより、それまで細長く広がっていたイオン雲を小さな体積の雲に収縮させることができる。
【0014】
前記高周波電場の振幅は常に制限されているため、速度vが一定値より低いイオンだけが電極アレイの表面から押し返される。実際には、電極アレイの表面に垂直な速度成分のみ、すなわちv=vcos(α)だけをその値より低く抑えればよい。ここで、αは前記電極アレイの表面の法線とイオン軌道の間の角度である。従って、図3及び図7に示したように、この角度αを大きくすることが有利である。
【0015】
ほとんどの場合、イオン源から引き出されるイオンの総数は印加された電場に依存する。エレクトロスプレイイオン源の場合、これは図1に示したノズルの領域における電場である。ところが、この電場はイオン化室の隅々にまで影響を及ぼすため、電極アレイ及びオリフィスに接近しつつあるイオンの速度vを増大させることが多い。従って、図10及び図11に示したように格子又は絞りを配設し、それに直流電位を印加することにより、電極アレイに接近するときのイオンの速度を低下させることが有利である。
【0016】
大気圧イオン源の多くでは、ガス流がイオンをオリフィスに向けて、従って電極アレイに向けて押し動かす。こうしてイオン速度vに付加される成分は電場により変化させることができない。しかし、前記絞りの少なくとも一つを、前記ガスの一部を除去するように形成したり、さらには前記絞りの少なくとも一つを、前記ガス流の一部の方向を変えるような形状にしたりすることはできる。加えて、排気口を適所に配置するとなおよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、イオン化室で生成されたイオンが高周波電場及び直流電場により他の荷電粒子とともに、質量分析計又は移動度分析計に入るために通過しなければならないオリフィスに向けて案内される。その中には、他の方法では壁面に衝突して失われていたであろう多くのイオンが含まれる。結果として、生成されたイオンの利用効率が大幅に向上し、最終的に記録される移動度スペクトル又は質量スペクトルに現れるイオンの強度が増大するため、実施された測定の感度が高まる。
【0018】
略円環形状且つ略同心円状の複数の電極に適切な大きさの高周波電位及び直流電位が与えられる実施形態では、イオンが他の荷電粒子とともに電極アレイの上方の広い領域に捕捉され、該電極アレイの中央に位置するオリフィスに向けて案内される。
【0019】
略平行な複数の電極に適切な大きさの高周波電位及び直流電位が与えられる実施形態においても、イオンは他の荷電粒子とともに電極アレイの上方の広い領域に捕捉される。ただし、この実施形態の電極アレイはイオンを電極の向きに垂直な方向にしか案内しない。そのイオンを細長いオリフィスに通した後、第一のアレイの向きに垂直な方向に配置された第二の略平行な電極アレイに向けて加速すれば、イオンは前記オリフィスを通じて効率よく取り出すことができるような狭い雲に集束される。
【0020】
イオンが前記略円環形状又は略平行な電極群の上方の捕捉領域に達したとき、該イオン又は他の荷電粒子の速度vが非常に大きくなり、高周波電場により生じる有効斥力Fではそのイオンを捕捉できなくなる場合がある。中間に格子又は絞りを配置し、それに遅延電位を与えれば、イオンの速度vを十分に低下させることができる。
【0021】
高周波電場による捕捉効率は、対象となるイオンの質量が大きいほど、そして高周波電場の強度が大きいほど高くなる。従って、目的のイオン又は他の荷電粒子が十分に捕捉される一方、目的とされない軽い粒子は捕捉されずに電極アレイに衝突するように、高周波電場の強度を設定することが有利である。このようにすれば、不所望の粒子の少なくとも一部が質量分析計又は移動度分析計に送り込まれなくなるため、イオン分析の選択性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)はノズルから出た荷電分子及び非荷電分子から成るきのこ雲の概略図。このきのこ雲の軸Dに向けてイオンを押し動かす本発明に係る電極アレイも描かれている。(b)及び(c)は、それぞれ擬似ポテンシャル井戸の底Cに沿った電位分布及び前記軸Dへ投影された分子軌道に沿った電位分布を示す図。
【図2】図1の変形例。この図の実施例では、前記きのこ雲の軸Dが、いわゆる脱溶媒パイプ(6)又は他の荷電粒子輸送装置の軸Eに対して横方向にずれている。
【図3】図2の変形例。この図の実施例では、前記きのこ雲の軸Dが、いわゆる脱溶媒パイプ(6)又は他の荷電粒子輸送装置の軸Eに対して傾いている。
【図4】一つの平面上に同心円状に配置された円環状電極群に特徴を有する電極アレイの可能な一実施例を示す図。高周波電位の位相が異なる電極が濃い灰色と薄い灰色で示されている。
【図5】二つの略平行な面上にそれぞれ同心円状に配置された円環状電極群に特徴を有する電極アレイの可能な一実施例を示す図。上側の面に配置された電極アレイは前段の集束器として作用する。この実施例においても、高周波電位の位相が異なる電極が濃い灰色と薄い灰色で示されている。
【図6】二つの略平行な面上にそれぞれ配置された平行電極群に特徴を有する電極アレイの可能な一実施例を示す図。該電極アレイは、イオン又は他の荷電粒子が略垂直な二方向に集束されるように、一定の角度をもって配置されている。この実施例においても、高周波電位の位相が異なる電極が濃い灰色と薄い灰色で示されている。
【図7】図6の変形例。この図の実施例では、前記電極アレイがわずかに傾斜した面の上に配置されている。この実施例においても、高周波電位の位相が異なる電極が濃い灰色と薄い灰色で示されている。
【図8】差動排気室を二つ有する大気圧イオン化質量分析装置の全体構成図。
【図9】移動度ごとにイオンを選択し、二つの中間室を通じて該イオンを質量分析計へ送るように構成された大気圧イオン化移動度分析装置の全体構成図。
【図10】図1の変形例。この図の実施例では、イオン又は他の荷電粒子は電極アレイに到達する前に少なくとも一つの格子を通過しなければならない。
【図11】図1の変形例。この図の実施例では、イオン又は他の荷電粒子は電極アレイに到達する前に少なくとも一つの絞りを通過しなければならない。
【図12】図4又は図5の円環状電極アレイをプリント回路基板の形で構成した実施例を示す図。この例の場合、電位はビアを通じて異なる電極に供給される。ビアの直径はそれぞれd又はdより小さくしなければならず、従って最小の繰り返し長が必要とされる。
【図13】図6又は図7の平行電極アレイをプリント回路基板の形で構成した実施例を示す図。この例の場合、電位はビアを通じて異なる電極へ供給することができる。その直径はそれぞれ2d又は2d(すなわち繰り返し長の2倍)より小さくしなければならない。ただし、この実施例では、電極アレイの面内で電位供給源に直接接続することも可能である。
【図14】プリント回路基板の形で構成された部分的円環状の電極アレイの実施例を示す図。この実施例では、電位はビアを通じて異なる電極へ供給することができる。その直径はそれぞれ2d又は2d(すなわち繰り返し長の2倍)より小さくしなければならない。ただし、この構成では、電位供給源への直接接続も可能である。
【図15】螺旋形に近い略同心円状の電極の実施例を示す図。この電極アレイの場合、高周波電位用の接続は二箇所だけでよい。ただし、放射状の直流電場を形成するために、両方の電極を抵抗性材料で形成し、異なる直流電位を各電極の両端に与えなければならない。
【図16】図15の螺旋形電極に極めて似た略同心円状の電極の実施例を示す図。この実施例では3本の電極が使用されており、それらに120°ずつ位相のずれた高周波電圧が印加されることになる。この例の場合、直流電圧を別途印加しなくても、イオン又は他の荷電粒子を中心へ運搬する進行波を形成することができる。
【図17】「蛇行線」状の構造を形成するように接続された略平行な電極群の実施例を示す図。この実施例では3本の電極が使用されており、それらに120°ずつ位相のずれた高周波電圧が印加されることになる。この例の場合も、直流電圧を別途印加しなくても、イオン又は他の荷電粒子を中心へ運搬する進行波を形成することができる。
【図18】図1、図2、図3、図4、図5、図6、図7、図10、図11、図12、図13及び図14に示した回路に必要な高周波電圧及び直流電圧を生成することができる電子回路の図。
【図19】図1に示した本発明の一実施例におけるイオン又は他の荷電粒子の運動を数値的軌道計算により求めた結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、質量分析計又は移動度分析計へ荷電粒子を送る前に該荷電粒子を凝縮する手段として機能する電場を形成することにより、大気圧イオン源と前記分析計との結合効率を高めることを目的としている。このような装置全体の主要な構成要素を図8及び図9に示す。
【0024】
まず、大気圧イオン源を備える質量分析装置を図8に示す。この装置の特徴はイオン化室(1)のノズル(6)にあり、このノズルに、液体試料又は液体クロマトグラフ(図示せず)の溶出液に溶解した目的分子が導入される。このノズルから荷電液滴が現れ、そこからイオン化された分子が中性分子とともに蒸発する。中性分子は分析せずにおくか、放電又はレーザ反応によりイオン化する必要がある。液滴は、いわゆる脱溶媒パイプ(7)(通常、加熱されている)に入ると急速に蒸発する。イオン化室(1)は中性分子及びネブライズガス(図示せず)により満たされ、ほぼ大気圧又はそれより高めの圧力になっている。ネブライズガスの一部は排気管(8)を通って外に流出し、別の一部は荷電粒子輸送装置又は脱溶媒パイプ(7)に入る。また、ポンプ(20)により約10−4Pa以下まで減圧されたチャンバ(5)もある。図示したように、このチャンバの中には四重極質量分析装置(18)とそのためのイオン検出器(19)がある。チャンバ(1)とチャンバ(4)の間にはさらに二つの減圧されたチャンバが設けられており、効果的な差動排気が行われるようになっている。イオン化室(1)を出た荷電粒子は荷電粒子輸送装置又は小径の脱溶媒パイプ(7)を通ってチャンバ(3)に入る。このチャンバはポンプ(15)により100Pa程度に減圧されている。次にこの荷電粒子は細いスキマー(14)を通ってチャンバ(3)からチャンバ(4)へ移動する。チャンバ(4)はポンプ(17)により約10−2Pa以下まで減圧されており、荷電粒子はここを通り抜けてチャンバ(5)に到る。
【0025】
生成されたイオン及び荷電液滴は、主にチャンバ(1)とチャンバ(3)の間の差圧による推進力を受けて荷電粒子輸送装置又は脱溶媒パイプを通過し、チャンバ(3)に入る。このチャンバでは、略同心円状の複数の電極(13)によりイオンをスキマー(14)へ向けて収束させることができる。チャンバ(4)に入るとイオンは加速され、チャンバ(4)とチャンバ(5)を接続する微小開口に向けて収束される。図8ではこの収束レンズが棒状電極群(16)の形になっている。チャンバ(5)では特定の質量電荷比(m/z)を持つイオンが四重極質量分析計(18)により選別され、この選別されたイオンだけがイオン検出器(19)により記録される。なお、チャンバ(5)で使用する質量分析計は飛行時間型質量分析計やフーリエ変換質量分析計等でもよい。これら質量分析計は、その軸が図8に示したように入射ビームと同軸となるように配置してもよいが、それ以外の角度(例えば90°)で配置することも可能である。
【0026】
図9に示したように、本発明は大気圧イオン源と移動度分析計を組み合わせた装置でも利用可能である。移動度分析計(10)は単独で動作するものでもよいし、後段の質量分析計で分析されるイオンをる移動度に応じて予め選別するプレフィルタとして機能するものでもよい。大まかに言えば、図9の装置は図8の装置においてチャンバ(1)とチャンバ(3)の間に別のチャンバ(2)を設けたものである。このチャンバ(2)は(12)により部分的に排気されており、その気圧は通常、チャンバ(1)の気圧よりも少しだけ低い程度である。チャンバ(2)の中には、移動度分析計(10)及びそのためのイオン検出器(11)、並びにイオンを移動度分析計の入口のオリフィスに収束させる複数の電極(9)がある。イオン検出器(11)は対象となるイオンの全移動度スペクトルを記録するが、移動度により選別されたイオンの大部分は質量分析計に送られる。この質量分析計は図9のチャンバ(5)の中に示したものと同様のものである。
【0027】
本発明の大きな特徴を図1(a)に示す。この図は、イオン及び荷電液滴がノズル(6)から荷電粒子輸送装置又は脱溶媒パイプ(7)のオリフィス(22)へと移動する様子を示している。この粒子運動は、粒子の軌道に沿った擬似ポテンシャル分布により制御される。図1(b)に陽イオンの場合の擬似ポテンシャルを示す。この図では、軌道に沿った座標が粒子きのこ雲の対称軸(D)に投影されている。ノズル(6)と荷電粒子輸送装置又は脱溶媒パイプ(7)を取り囲む面(21)との直流電位差に起因する擬似ポテンシャルの分布。ただし、電極アレイ(24)の隣接電極(241〜246)に印加されている高周波電圧もある。ある瞬間におけるこの電圧の値を図1では符号「+」及び「−」で示している。荷電粒子がいずれか一つの電極に向かって運動していても、その電極の極性が十分に高速で反転すれば、粒子はその電極に到達する前に停止する。ゆえに、前記高周波電圧の作用により、荷電粒子は電極アレイ(24)の上方にほぼ浮遊する状態となる。このようにイオンは電極アレイ(24)に達する直前に電極アレイの表面に垂直な斥力Fを受ける。レビュー・オブ・サイエンティフィック・インストゥルメンツ(Review of Scientific Instruments) 76 (2005) 103503に収録の論文「スペース-チャージ・エフェクツ・イン・ザ・キャッチャー・ガス・セル・オブ・ア・アールエフ・イオン・ガイド(Space-charge effects in the catcher gas cell of a RF ion guide)」によると、この斥力の大きさは次式の値に比例する。
(mVRF)/(p)
ここで、mは粒子質量、VRFは高周波電圧の振幅、pは残留ガス圧、dは電極アレイの繰り返し長、すなわち2つの電極の間隔と一方の電極の幅の和である。図4、図5、図6、図7、図12、図13及び図14の場合、繰り返し長はdとdの2通りであり、図15、図16及び図17の場合、繰り返し長はdの1通りである。この斥力Fは電極アレイ(24)のすぐ手前に実効的な障壁(B)を作り出し、結果として擬似ポテンシャル井戸(A)を生じさせる。この井戸では、荷電粒子はきのこ雲の軸(D)に平行には運動しない。従って、荷電粒子は井戸(A)の中心線(C)の周辺に集まってくる。この井戸における荷電粒子の雲の概略的な範囲(23)は図1(a)に示した通りである。高周波電位に加えて直流電位を電極アレイ(24)内の隣接電極に与えると、図1(c)に示したように井戸の領域(23)に微小な直流電場が形成される。この追加の直流電場は、荷電粒子を対称軸(C)に向けて、従って荷電粒子輸送装置又は脱溶媒パイプ(7)のオリフィス(22)に向けて動かす。こうして、通常ならオリフィス(22)を取り囲む面(21)に衝突するであろう荷電粒子の多くが分析可能となる。
【0028】
なお、図1に示した2つのポテンシャル図はいずれも正の荷電粒子を想定したものであるが、斥力Fの大きさは負の荷電粒子の場合でも同じである。従って、直流電位の符号をすべて反転させれば、正の荷電粒子と負の荷電粒子のどちらの場合でも同じような軌道が観察される。
【0029】
図1の実施例を図2又は図3のものに変更すると有利である。いずれの場合も粒子きのこ雲の軸Dが電極アレイの中心からずれている。このようにすると、ほぼ軸Dに沿って運動する傾向がある大きめの液滴が荷電粒子輸送装置又は脱溶媒パイプ(7)に直接入らなくなる一方、荷電粒子はそれまでどおり該装置又はパイプに到達することができる。これは、図2の実施例では粒子きのこ雲の軸Dを荷電粒子輸送装置又は脱溶媒パイプの軸Eに対して横にずらすことにより、また図3の実施例では軸Dを傾けることにより達成されている。
【0030】
電極アレイ(24)の詳細な実施例を図4、図5、図6及び図7に示す。いずれの場合も、暗い色の電極群と明るい色の電極群は、任意の時点において高周波電圧により生じる一方の電極群の電圧が他方の電極群に対して逆になっていることを示している。
【0031】
図4は、一つの平面上に略同心円状に配置された略円環形状の電極(241〜248)から成る電極アレイを示している。この電極アレイはプリント回路基板上の金属ストリップにより形成することができるが、矩形、円形又は楕円形の断面を有する電極を明示的に使用することも可能である。この電極アレイの軸Eは、図1に示した荷電粒子輸送装置又は脱溶媒パイプ(7)の入口のオリフィス(22)の中心をほぼ通過するものとすることができる。荷電粒子輸送装置又は脱溶媒パイプを取り囲む面(21)は通常、電極アレイの表面に平行であるが、これは必須ではない。このような装置において、イオンは電極アレイの上方に浮遊し、追加の直流電場とガス流に起因する力により、電極アレイの軸に向けて半径方向に押し動かされ、荷電粒子輸送装置又は脱溶媒パイプ(7)のオリフィス(22)に吸い込まれる。
【0032】
図5は、荷電粒子輸送装置又は脱溶媒パイプ(7)のオリフィス(22)に対して略同心円状に配置された略円環形状の電極(241〜246)及び(251〜256)から成る二つの電極アレイの組み合わせを示している。第一の電極アレイはイオンをやや大きめのオリフィスに向けて前もって集束する。このオリフィスを通過したイオンは、微小な電位差により第二の電極アレイに向けて押し動かされる。この電極アレイはこれらのイオンを別の(通常、やや小さめの)オリフィスに向けて集束する。
【0033】
図6は、二つの電極アレイの別の組み合わせを示している。この例では、二つの電極アレイが略平行な電極(241〜246)及び(251〜256)から成る。第一の電極アレイは、イオンを、電極に対して垂直な方向に、スリット状のオリフィスに向けて押し動かすが、電極に平行な方向には力を加えない。前記オリフィスを通過したイオンは、微小な電位差により第二の電極アレイに向けて押し動かされる。第二の電極アレイはイオンを電極に対して垂直な方向に押し動かす。第二の電極アレイの電極が第一の電極アレイの電極に対して略直交するように配置されているため、イオンは最終的に非常に狭い領域に凝縮される。図6では、二つの電極アレイによりイオンを押し動かす方向がほぼ90°となるように選択されているが、別の角度にすることも可能である。なお、略平行な電極アレイの作用と、略同心円状且つ略円環形状の電極アレイの作用を組み合わせてもよいことは言うまでもない。
【0034】
図7は、図6のものと同様に略平行な電極(241〜246)及び(251〜256)から成る二重の電極アレイを示している。ただし、図7の電極は、平行な面ではなく、互いに対してやや傾斜した面に配置されている。前述の実効的な力F∝(mVRF)/(p)は電極アレイの表面に対して垂直に作用するから、この力はイオン速度のFに平行な成分と釣り合わなければならない。電極アレイの表面への法線が入射イオンの速度ベクトルに対して角度を成していれば、該ベクトルのFに平行な速度の成分は全速度よりも小さな要素cos(α)となる。
【0035】
図10及び図11は、電極アレイに近づくときの荷電粒子の速度を低下させることができる実施例を示している。図10では、電極アレイの直流電位とあまり差がない電位を設定できる少なくとも一つの格子(26)が設けられており、粒子はこの格子を通過した後でなければ電極アレイ(24)に到達できない。図11では、電極アレイ(24)の高周波電位により捕捉可能なレベルにまで荷電粒子の運動エネルギーを低下させるような直流電位を設定できる絞り(271、272、273)が設けられており、荷電粒子はこれらの絞りを通過した後でなければ電極に到達できない。さらに、このような絞りの一つ又は複数により、電極アレイに向かって運動する中性ガス原子に起因するガス流を変化させたり、その一部の方向を変えたりしてもよい。これは、ガス流の一部が電極アレイの表面に対して略平行に、且つ荷電粒子輸送装置又は脱溶媒パイプ(7)の軸から離れる方向に流れるように、一又は複数の排気管(8)が配置されている場合に特に有利である。
【0036】
問題となる電極アレイの繰り返し長dを小さくする(つまり、個々の電極の幅及び間隔を小さくする)ことにより、力F∝(mVRF)/(p)そのものをかなり増大させることができる。ただし、繰り返し長dを小さくすれば、結果的に製造上の問題が生じる。プリント回路基板の技術を利用すればかなり微小な構造を作製できるが、それにリード線を接続することは容易なことではない。
【0037】
また、略同心円状且つ略円環形状の電極アレイへの適切な電位の供給を、電極アレイに垂直な方向にしか行うことができない。これは、例えば明示的にリード線を用いるか、図12に示したようにビアを用いれば実施可能である。ただし、バイアの直径はd及びd、つまり図12に示した二通りの繰り返し長よりも小さくなければならない。
【0038】
一方、略平行な電極アレイへの適切な電位の供給は、電極アレイの面内で行うことができる。これは、かなり細めのリード線を用いれば可能である。何らかの理由でビアを用いざるを得ない場合でも、その直径は2d及び2d(つまり図13に示した二倍繰り返し長)よりも小さければよい。
【0039】
電極アレイの面内で適切な電位を略円環状且つ略同心円状の電極に供給する方法を図14に示す。ただし、この方法では、電極を360°の完全な円環状にするのではなく、その一部分だけにしなければならない。図14の場合、その部分は180°よりやや大きい角度をカバーしている。何らかの理由でビアを用いざるを得ない場合でも、その直径は2d及び2d(つまり図14に示した二倍繰り返し長)よりも小さければよい。この場合、イオンきのこ雲の軸をオリフィスそのものに向けるのではなく、そこからずれた位置へ向けることにより、全てのイオンがアレイ表面のうち電極の存在する位置に達するようにすることが望ましい。
【0040】
略円環状且つ略同心円状の電極を図15に示したように螺旋状に構成することも可能である。なお、図15は「螺旋」を二重にした例である。この構成では、高周波電位は各「螺旋」の一端だけに与えればよい。ただし、直流電位は、電流が「螺旋」を通って流れ、その長さに沿って電位降下が生じるように、各「螺旋」の両端に与えなければならない。この実施例では、電力損失が適度な範囲に収まるように、「螺旋」を高抵抗材料で作製することが有利である。
【0041】
図15に示したように絡み合った「螺旋状」構造体の数を、2本ではなく3本、4本、5本などとすることも可能である。図16に「3重螺旋」の例を示す。これらの電極も、図15の「二重螺旋」の場合と同様に、各螺旋の両端に直流電位を、またその一端に高周波電位をそれぞれ与えることにより利用することができる。ただし、これらの構造の場合、与える高周波電位の周波数及び位相を適切に選択すれば、直流電位を与えずに電極を利用することが可能である。「n重螺旋」の場合、電位差は360°/nとする必要がある。従って、図16の構造の場合、位相差を120°に設定することになる。ただし、n>3の場合、電位低下部が「螺旋」の中心に向かって半径方向に内方へ移動するように各電位を選択することもできる。
【0042】
なお、図15及び図16に示したような「螺旋状」構造の場合、円環状電極で構成された構造に比べて中心付近の電場の精度がやや犠牲になる。しかし、前述の通り、オリフィスの近傍において、図19から分かるように、オリフィス内へのイオンの加速やオリフィス内へのガス流に起因するかなり強い力が別途作用するため、前述の犠牲は十分に許容できる。
【0043】
進行波の技術を、略平行な細長い電極から成る電極アレイに応用することも可能である。この場合、電極の形状が蛇行線状となるように電極を接続しなければならない。図17に示した例は「3重蛇行線」であるが、同様にして任意の「n重蛇行線」を構成することができる。
【0044】
図1、図2、図3、図4、図5、図6、図7、図10、図11、図12、図13、図14及び図15に示した様々な電極アレイに印加すべき高周波電圧及び直流電圧は、図18に示したような電気回路により発生させることができる。このような回路は、少なくとも一つの高周波電源と、アレイの各電極に対応した異なる直流電圧を取り出すことができる少なくとも一つの直流電源を備えていなければならない。これらの直流電圧は、図18に示したような抵抗分圧器から得ることができるが、コンピュータによりデジタル方式で駆動される多数の個別のデジタル−アナログ変換器(DAC)から得ることもできる。
【符号の説明】
【0045】
1…図8及び図9のイオン化室
2…図9の移動度分析室
3…図8及び図9の第一中間真空室
4…図8及び図9の第二中間真空室
5…図8及び図9の質量分析室
6…図1、図2、図3、図10及び図11のノズル
7…図1、図2、図3、図10及び図11の脱溶媒パイプ又は荷電粒子輸送装置
8…図8及び図9のイオン化室の排気管
9…図9において、移動度分析計の内部にイオンを収束させるためにチャンバ2内に設けられたレンズ
10…図9の移動度分析計
11…図9の移動度分析計用の検出器
12…図9の移動度分析室のポンプ
13…図8及び図9のスキマーにイオンを収束させるためにチャンバ3内に設けられたレンズ
14…図8及び図9のスキマー
15…図8及び図9のチャンバ3のポンプ
16…図8及び図9の質量分析計用のオリフィスにイオンを収束させるためにチャンバ4内に設けられたレンズ
17…図8及び図9のチャンバ4のポンプ
18…図8及び図9の四重極質量分析計
19…図8及び図9の質量分析計用の検出器
20…図8及び図9の質量分析室のポンプ
21…図1、図2、図3、図10及び図11の電極アレイの背後にある壁
22…図1、図2、図3、図10及び図11の脱溶媒パイプ等の開口
23…図1、図2、図3、図10及び図11のイオン捕捉領域
24…図1、図2、図3、図10及び図11の電極アレイ
241〜248…図1、図2、図3、図4、図5、図6、図7、図10及び図11の面1上の電極群
251〜256…図5、図6及び図7の面2上の電極群
26…図10の遮蔽用格子
271、272、273…図11の遮蔽用絞り
281、282、283…図15及び図16の渦巻き状電極群
291、292、293…図17の蛇行線状の電極群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略1気圧のガスの中で動作する荷電粒子集束装置であって、前記ガスの中で荷電粒子が生成され、該荷電粒子は少なくとも一つのオリフィスを含む面に向けて加速され、該オリフィスを通って、真空引きされた質量分析計又はガスで満たされた移動度分析計まで移動できるような荷電粒子集束装置において、
前記荷電粒子を前記少なくとも一つのオリフィスまで移動させるための開口が残るように、前記面の上に、又は該面から微小距離をあけて、互いに近接して配置された多数の電極又は導電性表面ストリップのアレイを備え、
隣接する前記電極又は導電ストリップの間に高周波電圧を印加することにより、前記荷電粒子を前記電極又は導電ストリップの上方に浮遊させる高周波電場を発生させ、さらに、隣接する前記電極又は導電ストリップに追加の直流電位を印加することにより前記荷電粒子を前記オリフィスに向けて押し動かすことができること、
を特徴とする荷電粒子集束装置。
【請求項2】
前記電極又は導電ストリップは略平らな面上に配置された略同心円状の円環であり、前記直流電位は前記荷電粒子を前記略同心円状の円環の中心に向けて押し動かし、該円環の中心は前記荷電粒子が通過できる略円形のオリフィスと一直線に揃っていることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子集束装置。
【請求項3】
電極又は導電ストリップが二つの面の上に配置されており、それらが両方とも略同心円状の円環であり、前記第一の面に配置された異なる円環に印加された直流電位が荷電粒子を略同心円状且つ円環状の電極又は導電ストリップの中心に向けて半径方向に押し動かし、荷電粒子を第二の面に向けて加速するための通路となるオリフィスが前記中心に配置され、前記第二の面に配置された異なる円環に印加された直流電位が荷電粒子をそれぞれ略同心円状の電極又は導電ストリップの中心に向けて半径方向に押し動かし、そこから多くの場合は第一のオリフィスよりも小さい別のオリフィスに向けて押し動かすことを特徴とする請求項2記載の荷電粒子集束装置。
【請求項4】
前記電極又は導電ストリップは略直線状且つ略平行であり、互いに対して角度ΔΦで傾斜した二つの略平らな面S1a及びS1bに配置され、該二つの面の交線は前記電極又は導電ストリップに略平行であり、異なる電極及び導電ストリップの直流電位は該電極又は導電ストリップの延伸方向に略垂直な方向に、且つ前記二つの面S1a及びS1bの交線に向けて荷電粒子を押し動かし、該荷電粒子はそこで細長い荷電粒子雲を形成し、該荷電粒子雲は前記交線に配置された細長いオリフィスを通って加速可能であることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子集束装置。
【請求項5】
互いに対して角度ΔΦで傾斜した前記略平らな面S1a及びS1bに加えて、互いに対して角度ΔΦで傾斜した第二組の略平らな面S2a及びS2bが別に設けられ、第一組の略平らな面S1a及びS1bに配置された異なる電極及び導電ストリップの直流電位により荷電粒子が前記二面の交線に向けて押し動かされ、該交線には細長いオリフィスが配置されており、該オリフィスを通って細長い荷電粒子の雲から荷電粒子が第二組の面S2a及びS2bに向けて加速可能であり、該第二組の面S2a及びS2bに配置された電極及び導電面の直流電位により荷電粒子が前記二面の交線に向けて押し動かされ、前記二つの交線の角度が90°から大きくずれていなければ、前記細長い荷電粒子雲が全体として小さな断面にまで圧縮されることを特徴とする請求項4記載の荷電粒子集束装置。
【請求項6】
互いに対して角度ΔΦで傾斜した前記略平らな面S1a及びS1bに加えて、略円環状且つ略同心円状の電極又は導電ストリップが配置された別の面が設けられ、第一組の略平らな面S1a及びS1bに配置された異なる電極及び導電面の直流電位により荷電粒子が前記二面の交線に向けて押し動かされ、該交線には細長いオリフィスが配置されており、該オリフィスを通って荷電粒子が、略円環状且つ略同心円状の電極又は導電ストリップが配置された前記面に向けて加速可能であり、該荷電粒子は前記円環状の電極又は導電ストリップの直流電位により半径方向に押し動かされ、その結果、初めは細長かった荷電粒子の雲が全体として小さな断面にまで圧縮されることを特徴とする請求項4記載の荷電粒子集束装置。
【請求項7】
前記角度ΔΦが0°であることを特徴とする請求項4記載の荷電粒子集束装置。
【請求項8】
前記角度ΔΦ及びΔΦの少なくとも一方が0°であることを特徴とする請求項5記載の荷電粒子集束装置。
【請求項9】
前記面S1a及びS1bのそれぞれが少なくとも二つの略平らなサブ面S1a1及びS1a2又はS1b1及びS1b2に分割されており、該サブ面が互いに対して傾斜し、その交線が前記電極又は導電ストリップに略平行であること、及び/又は、前記面S2a及びS2bのそれぞれが少なくとも二つの略平らなサブ面S2a1及びS2a2並びにS2b1及びS2b2に分割されており、該サブ面が互いに対して傾斜し、その交線が前記電極又は導電ストリップに略平行であることを特徴とする請求項5記載の荷電粒子集束装置。
【請求項10】
前記面S1a及びS1bの並びに/もしくはS2a及びS2bの少なくとも一方が略平面であることを特徴とする請求項5記載の荷電粒子集束装置。
【請求項11】
前記電極又は導電ストリップがプリント回路基板の技術で形成されており、前記高周波電位及び直流電位が前記電極にビアを通じて与えられ、該ビアの直径が、繰り返し長、すなわち一つの電極又は導電ストリップの幅と隣接電極からの離間距離との和より小さいままでなければならないことを特徴とする請求項2記載の荷電粒子集束装置。
【請求項12】
前記電極又は導電ストリップがプリント回路基板の技術で形成されており、前記高周波電位及び直流電位が前記電極にビアを通じて与えられ、該ビアの直径が、繰り返し長、すなわち一つの電極又は導電ストリップの幅と隣接電極からの離間距離との和の2倍より小さいままでなければならないことを特徴とする請求項4記載の荷電粒子集束装置。
【請求項13】
前記電極又は導電ストリップがプリント回路基板の技術で形成されており、前記電極又は導電ストリップが完全な円環ではなく円環の一部であり、該電極又は導電ストリップの面内で電源回路から前記電極又は導電ストリップへリード線を通じて高周波電位及び直流電位を直接与えることができることを特徴とする請求項2記載の荷電粒子集束装置。
【請求項14】
前記電極又は導電ストリップがプリント回路基板の技術で形成されており、前記電極又は導電ストリップが完全な円環ではなく円環の一部であり、前記高周波電位及び直流電位が前記電極にビアを通じて印加可能であり、該ビアの直径が、繰り返し長の2倍、すなわち一つの電極又は導電ストリップの幅と隣接する電極又は導電ストリップからの離間距離との和の2倍より小さいままであればよいことを特徴とする請求項2記載の荷電粒子集束装置。
【請求項15】
前記電極又は導電ストリップがプリント回路基板の技術で形成されており、略円環状且つ略同心円状の電極又は導電ストリップのリング構造体が2本の絡み合った螺旋により擬似的に形成され、前記高周波電圧が該螺旋の間に印加され、各螺旋の両端にそれぞれ適切な直流電位を与えるとともに前記電極又は導電ストリップを高抵抗材料で作製することにより、該螺旋に沿った直流電位を発生させることを特徴とする請求項2記載の荷電粒子集束装置。
【請求項16】
前記電極又は導電ストリップがプリント回路基板の技術で形成されており、肉薄のプリント回路基板の前面及び背面のそれぞれに、略円環状且つ略同心円状の電極又は導電ストリップのリング構造体が2本の互いに絡み合った螺旋により擬似的に形成され、前記プリント回路基板の背面の螺旋は導電性の良好な材料から成り、前記プリント回路基板の前面の螺旋は高抵抗材料から成り、前記前面の各螺旋の両端に適切な直流電位を与えることにより該螺旋に沿った直流電位が形成される一方、前記背面の2本の螺旋には高周波電圧が印加され、該高周波電位は前記前面の螺旋と容量結合されていることを特徴とする請求項2記載の荷電粒子集束装置。
【請求項17】
前記電極又は導電ストリップがプリント回路基板の技術で形成されており、略円環状且つ略同心円状の電極又は導電ストリップのリング構造体が「N=3、4、…」本の互いに絡み合った螺旋により擬似的に形成され、前記高周波電圧は隣接する螺旋に約360°/Nの位相差で印加され、各螺旋の両端にそれぞれ適切な直流電位を与えるとともに前記電極又は導電ストリップを高抵抗材料で作製することにより、該螺旋に沿った直流電位が形成されることを特徴とする請求項2記載の荷電粒子集束装置。
【請求項18】
前記電極又は導電ストリップがプリント回路基板の技術で形成されており、肉薄のプリント回路基板の前面及び背面のそれぞれに、略円環状且つ略同心円状の電極又は導電ストリップのリング構造体が「N=3、4、…」本の絡み合った螺旋状により擬似的に形成され、前記プリント回路基板の背面の螺旋は導電性の良好な材料から成り、前記プリント回路基板の前面の螺旋は高抵抗材料から成り、前記前面の各螺旋の両端に適切な直流電位を与えることにより該螺旋に沿った直流電位が形成される一方、前記背面の隣接する螺旋には、一の螺旋から隣りの螺旋へ移ると約360°/Nの位相差が生じるような高周波電圧が印加され、該高周波電位は高抵抗である前記前面の螺旋と容量結合されていることを特徴とする請求項2記載の荷電粒子集束装置。
【請求項19】
前記直流電位は0であり、前記高周波電位は、略円環状且つ略同心円状の電極又は導電ストリップの中心に向けて荷電粒子を輸送するような電場の力を該荷電粒子が受けるように調整されていることを特徴とする請求項17記載の荷電粒子集束装置。
【請求項20】
螺旋1から螺旋2、螺旋3、…螺旋Nへと移動しつつ荷電粒子を前記リング構造体の中心に向けて略半径方向に引っ張るような電位低下部が形成されるように前記高周波電位が選択されていることを特徴とする請求項19記載の荷電粒子集束装置。
【請求項21】
前記略平行な電極又は導電ストリップがプリント回路基板の技術で形成されており、前記高周波電位及び直流電位が電源回路からリード線を通じて前記電極又は導電ストリップの面内で直接与えられることを特徴とする請求項4記載の荷電粒子集束装置。
【請求項22】
前記電極又は導電ストリップがプリント回路基板の技術で形成されており、前記略平行な電極又は導電ストリップが2本の絡み合った蛇行線を形成するように接続され、前記高周波電圧が該2本の蛇行線の間に印加され、各蛇行線の両端にそれぞれ適切な直流電位を与えるとともに前記電極又は導電ストリップを高抵抗材料で作製することにより、該蛇行線に沿った直流電位が形成されることを特徴とする請求項4記載の荷電粒子集束装置。
【請求項23】
前記電極又は導電ストリップがプリント回路基板の技術で形成されており、肉薄のプリント回路基板の前面及び背面のそれぞれにおいて、略平行な電極又は導電ストリップが2本の絡み合った蛇行線を形成するように接続され、該プリント回路基板の背面の蛇行線は導電性の良好な材料から成り、前記プリント回路基板の前面の蛇行線は高抵抗材料から成り、前記前面の各蛇行線の両端に適切な直流電位を与えることにより該螺旋に沿った直流電位が形成される一方、前記背面の2本の蛇行線には高周波電圧が印加され、該高周波電位は前記前面の蛇行線と容量結合されていることを特徴とする請求項4記載の荷電粒子集束装置。
【請求項24】
前記電極又は導電ストリップがプリント回路基板の技術で形成されており、前記略平行な電極又は導電ストリップがN=3、4、…本の互いに絡み合った蛇行線を形成するように接続され、前記高周波電圧は隣接する蛇行線に約360°/Nの位相差で印加され、各螺旋の両端にそれぞれ適切な直流電位を与えるとともに前記電極又は導電ストリップを高抵抗材料で作製することにより、該螺旋に沿った直流電位が形成されることを特徴とする請求項4記載の荷電粒子集束装置。
【請求項25】
前記電極又は導電ストリップがプリント回路基板の技術で形成されており、肉薄のプリント回路基板の前面及び背面のそれぞれにおいて、略平行な電極又は導電ストリップがN=3、4、…本の絡み合う蛇行線を形成するように接続され、前記プリント回路基板の背面の蛇行線は導電性の良好な材料から成り、前記プリント回路基板の前面の蛇行線は高抵抗材料から成り、前面の各蛇行線の両端に適切な直流電位を与えることにより各蛇行線に沿った直流電位が形成される一方、前記背面の隣接する蛇行線には、一の蛇行線から隣りの蛇行線へ移ると約360°/Nの位相差が生じるような高周波電圧が印加され、該高周波電位は高抵抗である前記前面の蛇行線と容量結合されていることを特徴とする請求項4記載の荷電粒子集束装置。
【請求項26】
前記直流電位が0であり、周波数が粒子運動の速度に合わせて調節されていることを特徴とする請求項24記載の荷電粒子集束装置。
【請求項27】
前記直流電位が0であり、周波数が粒子運動の速度に合わせて調節されていることを特徴とする請求項25記載の荷電粒子集束装置。
【請求項28】
蛇行線1から蛇行線2、蛇行線3、蛇行線Nへと移動しつつ荷電粒子を前記細長い電極に略垂直な方向に引っ張ることによって細長い荷電粒子の雲を形成するような電位低下部が形成されるように、前記高周波電位が選択されていることを特徴とする請求項26記載の荷電粒子集束装置。
【請求項29】
前記電極又は導電ストリップの幅及び/離間距離が、異なる複数の面上で、さらには複数の面の中の1つの面内でも異なっていることを特徴とする請求項2記載の荷電粒子集束装置。
【請求項30】
初期の荷電粒子のきのこ雲の軸が前記略円環状且つ略同心円状の電極又は導電ストリップの中心からずれた方向に向いており、この軸ずれが、前記初期の荷電粒子の雲を横にずらすか、該雲の主たる運動方向を傾けることにより達成されていることを特徴とする請求項2記載の荷電粒子集束装置。
【請求項31】
初期のイオン及び荷電粒子のきのこ雲の軸が、電極又は導電性ストリップの配置された面の交線であって、前記電極又は導電性ストリップがそれに略平行であるところの交線からずれた方向に向いており、この軸ずれが、前記初期の荷電粒子の雲を横にずらすか、該雲の主たる運動方向を傾けることにより達成されていることを特徴とする請求項2記載の荷電粒子集束装置。
【請求項32】
初期の荷電粒子のきのこ雲の軸が、電極又は導電ストリップの配置された面の交線であって、前記電極又は導電ストリップがそれに略平行であるところの交線からずれた方向に向いており、この軸ずれが、前記初期の荷電粒子の雲を横にずらすか、該雲の主たる運動方向を傾けることにより達成されていることを特徴とする請求項4記載の荷電粒子集束装置。
【請求項33】
初期の荷電粒子のきのこ雲と電極又は導電ストリップが配置された第一の面との間に少なくとも一つの格子が配置され、該格子の電位が、前記面に接近するときの荷電粒子の速度を、前記電極又は導電ストリップのアレイの高周波斥力により該荷電粒子を前記面から押し返せるレベルにまで低下させることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子集束装置。
【請求項34】
初期の荷電粒子の羽毛状の雲と電極又は導電ストリップが配置された第一の面との間に少なくとも一つの絞りが配置され、該絞りの電位が、前記面に接近するときの荷電粒子の速度を、前記電極又は導電ストリップのアレイの高周波斥力により該荷電粒子を前記面から押し返せるレベルにまで低下させることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子集束装置。
【請求項35】
前記高周波電圧の振幅が、一定の制限質量より重い荷電粒子だけが前記電極又は導電ストリップの上方に浮遊するように実験的に決定された値にまで縮小されていることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子集束装置。
【請求項36】
前記電極は、絶縁されてはいるが導電性を有する引き延ばされたリード線として形成され、該リード線の表面は、むき出しの導電性表面又は薄い誘電体層で被覆された導電性表面であることを特徴とする請求項4記載の荷電粒子集束装置。
【請求項37】
前記電極はプリント回路基板の技術で形成された導電ストリップとして形成され、該導電ストリップは、むき出しの導電性表面又は薄い誘電体層で被覆された導電性表面を有することを特徴とする請求項1記載の荷電粒子集束装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公表番号】特表2010−527095(P2010−527095A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548253(P2009−548253)
【出願日】平成19年5月21日(2007.5.21)
【国際出願番号】PCT/JP2007/060750
【国際公開番号】WO2008/142801
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】