説明

菊酸のエナンチオマーの取得方法

工業的スケールで簡単に実行し得る、新規の方法について開示し、この方法は、菊酸を含有する混合物から出発して、菊酸のエナンチオマーを、高収率で取得する方法である。この方法は、上記の混合物を、キラル体の選択剤として、2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール(DMPP)及び2−ジメチルアミノ−1−[4−(メチルチオ)フェニル]プロパン−1,3−ジオール(MTDP)のエナンチオマーと反応することを有する。本発明は、中間生成物として、菊酸の上記のキラル選択剤との塩を包含する。本発明による方法により、回収と再利用が難しい溶媒混合物よりもむしろ単一の溶媒中で作用可能であり、最終的な結晶性の産物は、溶媒分子を組み込まない。使用する塩基は、その後除去され、次なる分離に再利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピレスロイド系殺虫剤、並びにその製造方法及び精製方法に関する。菊酸のエナンチオマーを得る新規の方法について、述べる。
【背景技術】
【0002】
過去30年間、2,2−ジメチル−3−(2−メチル−1−プロペニル)シクロプロパンカルボン酸(菊酸、以下、ChAと略す。)の合成の分野で多くの研究がなされてきた。この化合物は、種々のピレスロイド系殺虫剤の合成用の重要な出発物質であって、この殺虫剤は、農業、並びにアリ、クモ、蚊、ハエ及びその他の所望しない虫を家庭内で制御するのに広く使用される;この殺虫剤は、哺乳類に対する毒性が低い一方、殺虫作用は高いことを特徴とする。
【0003】
菊酸は、キラル化合物であって、不斉中心を有し、光学的に活性である;菊酸は、変化する光学性及び幾何学異性により特徴づけられたd−cis、l−cis、d−trans、l−transの4つの形態で存在し得る。
【0004】
市販のラセミ体であるChAは、非特異的な合成により、主として得られ(非特許文献1、1951年の特許文献1及び非特許文献2)、特に、65/35、80/20及び92/8のtrans/cisの混合比率で典型的に存在する。transの異性体、特に、d−transの配置は、より大きい殺虫活性を有することから、好ましい;従って、特にd−transの配置の菊酸を得るべく、さらなる研究がなされてきた。
【0005】
d−エナンチオマーが豊富なChAの混合物は、不斉合成の公知の方法を適用することにより実際に得られる(非特許文献3乃至8、Masamune,S.及びLowental,R.E.著の1994年の特許文献2及び非特許文献9乃至12);しかしながら、これらの方法の多くは、複雑で、コストがかかり、工業スケールに発展させるのが難しい:特に、示されているのは、ジアステレオ型及びエナンチオ型の触媒に関して、高価であること、不安定であること及び回収の問題であって、複雑で専用の装置を使用する必要があり、且つ高い純度で試薬及び溶媒を、非常に低い温度で制御する必要があることである。これらの問題に関し、工業レベルでは、非特異的な合成によるChAの産生(ラセミ又はスカルミック(scalemic))は、未だ好ましいものであって、得た異性体の混合物から、ジアステレオ型異性体の塩の選択的な沈殿工程(変換)により必要な異性体の回収を伴うものである。菊酸のcis/transのジアステレオ型異性体を分離するため、以下の方法が一般的に使用される:(a)画分毎に繰り返し行う結晶化のステップと;(b)trans異性体との物理化学的特性及び/又は溶解特性が良好に異なることを利用して、cis異性体をラクトン又はその他の誘導体へと変換するステップと;(c)異性化反応により、より安定なtrans異性体を濃縮するステップと;である。これらの工程の収率は、出発混合物のcis/transの比率、並びに区別化及び異性化工程に必要なステップの数に依存して有意に変化することが知られている。
【0006】
菊酸のd−エナンチオマー及びl−エナンチオマーの分解能(resolution)について、特定の溶媒及び溶媒混合物における溶解度が異なる2つのエナンチオマーとの塩を形成するいくつかのキラル塩基が利用される;利用されるキラル塩基としては、下記の文献に言及されている:キニン(非特許文献13)、リジン(非特許文献14)、L−2−ベンジル−アミノプロパノール(非特許文献15)、D−N−メチル−エフェドリン(特許文献3)並びにエタノール及びメタノールの混合物中の2−ジメチルアミノ−1−(4−ニトロフェニル)プロパンジオール(DMAD)(特許文献4)がある。DMADについて、最近の研究(非特許文献16)では、溶解性の低いジアステレオ異性体の塩の結晶の核生成及び成長の促進には、メタノールが不可欠であることが示された;同様の研究では、メタノール分子は、最終的な結晶に残存することが示された。溶媒を導入することで、ヒトに対する毒性が増加し、得られた結晶性の化合物の単位重量当たりの活性が低下する。
【0007】
正確な組成の溶媒の混合物を使用することが必要であることは、利用する溶媒の効率的な回収及び次なる工程においてこれらを使用することの障害となるとともに、コスト及び製造時間に対しても、大きな影響を及ぼすものとなる。
【特許文献1】米国特許第2,574,500号明細書
【特許文献2】米国特許第5,298,623号明細書
【特許文献3】米国特許第4,257,976号明細書
【特許文献4】仏国特許発明第1481978号明細書
【特許文献5】欧州特許第62979号明細書
【特許文献6】米国特許第4,898,655号明細書
【非特許文献1】Schechter,M.S.ら著、J.Am.Chem.Soc.、1949年、71巻、p.3165
【非特許文献2】Martel,J.、及びHuynh,C.著、Bull.Soc.Chim.、フランス、1967年、p.985
【非特許文献3】Nozaki,H.ら著、Tetrahedron Lett.、1966年、7巻、p.5239
【非特許文献4】Aratani,T.ら著、Tetrahedron Lett.、1975年、16巻、p.1707
【非特許文献5】Aratani,T.ら著、Tetrahedron Lett.、1977年、18巻、p.2599
【非特許文献6】Aratani,T.ら著、Tetrahedron Lett.、1982年、23巻、p.685
【非特許文献7】Aratani,T.著、Pure Appl.Chem.、1985年、57巻、p.1839
【非特許文献8】Lowental,R.E.及びMasamune,S.著、Tetrahedron Lett.、1991年、32巻、p.7373
【非特許文献9】Kanemasa,S.ら著、Tetrahedron Lett.、1994年、35巻、p.7985
【非特許文献10】Evans,D.A.ら著、J.Am.Chem.Soc.、1991年、113巻、p.726
【非特許文献11】Evans,D.A.ら著、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.、1992年、31巻、p.430
【非特許文献12】Sanders,C.J.ら著、Tetrahedron:Asymmetry、2001年、12巻、p.1055
【非特許文献13】J.Sci.Food.Agric.、1952年、3巻、p.189−192
【非特許文献14】Agr.Biol.Chem.、1971年、35巻、p.1984
【非特許文献15】Agr.Biol.Chem.、1973年、37巻、p.1713
【非特許文献16】J.Chem.Soc.Perkin.、2巻、2000年、p.149
【非特許文献17】Clarke,HT.ら著、J.Am.Chem.Soc.、1933年、55巻、p.4571
【非特許文献18】Cope,A.C.ら著、J.Am.Chem.Soc.、1960年、82巻、p.4651
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これらの先行技術を考慮すると、一般的な非特異的又は非対称な合成方法で得たジアステレオ異性体及びエナンチオマーの混合物から、所望のtrans−菊酸のエナンチオマー、特に、d−transのエナンチオマーを分離し回収する向上した方法が望まれている;また、回収及び再利用が困難な溶媒混合物又は毒性のある溶媒を使用することに頼ることなく、高い収率でこの産物を得ることが望ましい。最後に、出発混合物のジアステレオ型異性体及びエナンチオマーの成分に関係なく、特に上記の混合物に存在するcis−ChAの質に関係なく、一定の効果で菊酸のエナンチオマーを分離する方法を得ることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、菊酸の異性体の混合物から、d−trans菊酸(d−trans−ChA)及び/又はl−trans−菊酸(l−trans−ChA)を分離し回収する新規の方法に関する;この出発混合物は、2つのd−エナンチオマー及びl−エナンチオマーを等量(ラセミ混合物)で含有してもよく、又は2つのd体及びl体のいずれか一方が鏡像異性体的に豊富(スカルミック混合物)であってもよい。
【0010】
本発明による方法は、2つのキラル選択剤である2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール(DMPP)及び2−ジメチルアミノ−1−[4−(メチルチオ)−フェニル]プロパン−1,3−ジオール(MTDP)を使用することを特徴とする;これらの化合物は、1S,2S−(+)又は1R,2R−(−)のエナンチオマー体のいずれかで利用される。
【0011】
DMPPは、その後沈殿によって分離されるtrans−ChAエナンチオマーと選択的に塩を形成する能力を有する一方、溶液に残存するcis−ChAとは不活性である。
【0012】
MTDPは、塩の形態で2つのエナンチオマー(d−trans−ChA又はl−trans−ChA)のいずれかのみを沈殿する能力を有し、対応する相手方のエナンチオマーを溶液中に残存させる。
【0013】
ChAのフリーの酸は、酸性溶液で処理することにより、DMPP及びMTDPとの塩に容易に置き換えられる。これらの塩基・DMPP及びMTDPは、アルカリ性とすることにより、鏡像異性体的にインタクト(intact)で回収され、さらなる処理サイクルに再利用され得る。
【0014】
本発明は、上記の方法の中間体として、上記のキラル選択剤との菊酸の塩を包含し、上記のMTDPなどの選択剤は、本発明において新規に合成された分子である。
【0015】
本発明による方法は、回収及び再利用が困難な溶媒混合物よりもむしろ単一の溶媒中で実行可能であって、最終的な結晶化した産物は、溶媒分子を取り込まない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明において、DMPPは、transのジアステレオ型異性体の選択的な沈殿により、cis−ChAからtrans−ChAを分離するように、1S,2S−(+)又は1R,2R−(−)のエナンチオマーのひとつで利用される:事実、上記の混合物に存在するtrans−ChAに相対して化学量論的量(1:1)で利用されるDMPPは、沈殿物としてDMPPとtrans−ChAの塩を形成するように、後者と選択的に反応する;この塩は、キラル選択剤として1S,2S−(+)−DMPP又は1R,2R−(−)−DMPPを使用したかに依存して、trans−ChA・1S,2S−(+)−DMPP又はtrans−ChA・1R,2R−(−)−DMPPのそれぞれである。
【0017】
上記の2つの塩は、1:1の比率で2つのエナンチオマーであるd−trans−ChA及びl−trans−ChAの共結晶産物であるので、p型の塩のカテゴリーに属するものである。化学量論的量で使用されるDMPPは、最初の混合物に存在するcis−ChAと反応せず、溶液中に残存する;従って、元の液体から沈殿したp型の塩を分離することにより、trans−ChAは、cis−ChAから分離される。
【0018】
元の液体から分離されたp型の沈殿塩は、その後、酸性溶液で処理される。この様式において、d−trans−ChA及びl−trans−ChAのエナンチオマーは、その塩と置き換えられ、溶液となる。この酸性溶液は、その後、有機溶媒で抽出される。d−trans及びl−transのエナンチオマーは、溶媒を除去することにより、固体から回収されたところから有機溶媒層に移動する;アンモニウム塩の状態で水相に残存するDMPPアミンは、アルカリ性とすることにより、沈殿され得る;このDMPPアミンは、鏡像異性体的にインタクトの状態で得られ、その後、上記の方法の後のステージに再生利用される。
【0019】
このようにして回収されたd−trans−ChA及びl−trans−ChAの混合物は、適当な溶媒に溶解され、その後、MTDPで処理される。このアミンは、塩の状態で上記の2つのtrans−ChAのエナンチオマーのいずれか一方のみを選択的に沈殿するのに使用され、溶液にもう一方のエナンチオマーを残存させる。特に、1S,2S−(+)−MTDPを、混合物に存在するl−trans−ChAのエナンチオマーに相対した化学量論的量(1:1)で使用する場合(つまり、全d−trans−ChAに相対して0.5当量)、形成し且つ沈殿する塩は、l−trans−ChA・1S,2S−(+)−MTDPであり、もう一方のd−trans−ChAは、溶液に残存する。1R,2R−(−)−MTDPを代わりに使用した際、上記の混合物に存在するd−trans−ChAのエナンチオマーに相対して同様の化学量論的量(1:1)(つまり、全trans−ChAに相対して0.5当量)にて、形成し沈殿する塩は、d−trans−ChA・1R,2R−(−)−MTDPであり、もう一方のエナンチオマーであるl−trans−ChAは、溶液に残存する。
【0020】
上記の2つの塩は、MTDPで塩化された単一のエナンチオマー(d体又はl体)からなるので、n型のカテゴリーに属する塩である。このn型の塩を元の液体から分離することにより、d−trans−ChAは、l−trans−ChAから分離される。
【0021】
MTDPで塩化されたエナンチオマーは、上記と同様の様式で、酸溶液で処理し有機溶媒で抽出することにより、上記のn型の塩から置き換えられる:このエナンチオマーは、乾燥するまで有機相を蒸発することにより、固体で得られる;MTDPのアミンは、アルカリ性とすることにより沈殿され得るところから水相に残存する:MTDPアミンは、鏡像異性体的にインタクトな状態で得られ、これは、上記の方法の後のステージで再生利用され得る。
【0022】
溶液に残存するもう一方のエナンチオマーは、上記のn型の塩から、上記の溶液を濾過し、濾過した溶液を乾燥するように蒸発させることにより、固体で回収される。
【0023】
上記のDMPPとの反応に由来する残存する元の液体は、cis−ChAが豊富であって、以下の通り順に処理されてもよく、追加の量のd−trans−ChA及び/又はl−trans−ChAを得る:特許文献5に述べるようにルイス酸で処理するか、特許文献6に述べるようにラセミ化することにより、cis−ChAをtrans−ChAに優先的に変換して、エピマー化してもよい。得たtrans−ChAの溶液は、その後、上述の方法で、d−trans−ChA及び/又はl−trans−ChAが固体で得られるまで、MTDPと反応される。
【0024】
上記のDMPP及びMTDPとの反応は、ChAのラセミ混合物、つまり、d−ChA及びl−ChAの等量を含有する混合物から開始するように述べられている。しかしながら、このアミンのペアは、cisのスカルミックな混合物、つまり、d体又はl体のエナンチオマーのいずれかが豊富な混合物から出発して、d−trans−ChA及びl−trans−ChAのエナンチオマーを得ることも可能である。
【0025】
この場合、上記の方法は、下記の4つのいずれかで行われる;
d体が豊富なChAのスカルミックな混合物の場合:
a)上記の混合物を、この混合物に存在するより少ないエナンチオマー(l体)に相対して2当量の量の1S,2S−(+)−DMPPで処理する;p型の塩を沈殿物として得る;cis−ChAとともに塩化された元の液体も含有しており、過剰量のエナンチオマー(d体)は、DMPPと反応しない。
【0026】
b)上記の混合物を、過剰に存在するエナンチオマー(d体)に相対して1当量の量で1R,2R−(−)−DMPPで反応する;この場合、鏡像異性体的に過剰であって、n型の塩の形態でDMPPとともに沈殿する;cis−ChAとともに塩化された元の液体も含有しており、d−trans−ChA及びl−trans−ChAのラセミ混合物は、DMPPと反応しない。
【0027】
l体が豊富なChAのスカルミックな混合物の場合:
c)上記の混合物を、この混合物に存在するより少ないエナンチオマー(d体)に相対して2当量の量の1R,2R−(−)−DMPPで処理する;p型の塩を沈殿物として得る;cis−ChAとともに塩化された元の液体も含有しており、過剰量のエナンチオマー(l体)は、DMPPと反応しない。
【0028】
d)上記の混合物を、過剰に存在するエナンチオマー(l体)に相対して1当量の量で1S,2S−(+)−DMPPで反応する;この場合、鏡像異性体的に過剰であって、n型の塩の形態でDMPPとともに沈殿する;cis−ChAとともに塩化された元の液体も含有しており、d−trans−ChA及びl−trans−ChAのラセミ混合物は、DMPPと反応しない。
【0029】
上記のa)の場合、溶液に残存する過剰なd−エナンチオマーは、上記の過剰なd−エナンチオマーに相対した化学量論的量(1:1)で、後者を1R,2R−(−)−DMPPと反応することで、回収される;これにより、n型の塩の形態で定量的に沈殿し、一方、cis−ChAは、溶液に残存する。
【0030】
上記のc)の場合、溶液に残存する過剰なl−エナンチオマーは、上記の過剰なl−エナンチオマーに相対した化学量論的量(1:1)で、後者を1S,2S−(+)−DMPPと反応することで、回収される;これにより、n型の塩の形態で定量的に沈殿し、一方、cis−ChAは、溶液に残存する。
【0031】
型の塩が得られる上記のa)、b)、c)及びd)の全ての場合、これに含有されるエナンチオマーは、上述の通り、常に回収される。つまり、塩を酸と反応し、有機溶媒で抽出し、且つ有機相を乾燥して蒸発させることにより、回収される;得た固形物を、水に再溶解し、d−trans及び/又はl−transのエナンチオマーが固体で回収されるまで、MTDPで処理される。n型の塩が得られる場合、これに含有されるエナンチオマーは、上述の通り、常に回収される。つまり、塩を酸と反応し、有機溶媒で抽出し、且つ有機相を乾燥して蒸発させることにより、回収される。
【0032】
本発明では、種々のChA、つまり、ラセミ混合物又はスカルミックな混合物のいずれから出発しても、d−trans−ChA及び/又はl−trans−ChAを得ることができる。
【0033】
ジアステレオ型異性体の成分の観点から、全ての可能なtrans/cisの比率の全てのChAの形態が含まれ、例えば、65/35、80/20及び92/8が挙げられ、これらは、市販のものである。事実、出発混合物におけるtrans/cisは、本発明による方法の収率(出発混合物に存在する上記の異性体の量に相対した回収される異性体の量として考慮)に影響を与えないことが観察された;d−trans−ChAが多量に製造される場合、いずれの場合であっても、transの異性体がより豊富なChAの混合物から出発することが有益であろう。
【0034】
ジアステレオ型異性体の成分の観点から、出発物質であるChAは、鏡像異性体的に豊富でなくてもよい(非立体特異的な様式で製造されるChAの場合である);また、d体又はl体のエナンチオマーが豊富であってもよい(非対称な触媒による合成により取得可能なものとして)。
【0035】
DMPP及びMTDPを用いた反応の両過程は、イソプロピルエーテル中で好ましく実行される;両方の場合、この溶媒を用いることにより、塩化が可能であり、従って、所望の異性体を選択的に沈殿できる;沈殿は、反応温度に関係なく、且つ核化剤などの共溶媒を添加する必要なく、広い様式で、急速且つ一貫して行う。上記の方法は、イソプロピルエーテルと実質的に同等な、上記のChAの異性体に対する溶解能/沈殿能を有するその他の種々の溶媒を使用することを有し、この溶媒としては、トルエン、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタンが挙げられる。
【0036】
上記の全てのDMPPとの塩化反応は、好ましくは0℃から100℃の温度で、10分〜5時間の範囲で行われ;より好ましくは、50℃から80℃の温度で、1分〜1時間の範囲で行われ;さらに好ましくは、10分〜30分で行われる。
【0037】
上記の方法の好適実施例において、DMPPは、イソプロピルエーテルと前もって混合され、この混合物を還流して加熱する;イソプロピルエーテルに前もって溶解されたChAを、この混合物に添加し、得た混合物を、攪拌しながら、還流で保持する。
【0038】
このようにDMPPで沈殿した塩を、上記の混合物から分離し、適当な様式、好ましくはイソプロピルエーテルで洗浄する;得た塩は、trans体であって、実質的に純粋である(約98%);若干量の残存するcisジアステレオ型異性体は、イソプロピルエーテルを用いた追加の洗浄により、又は溶媒(例えば、トルエン)からの結晶化により、除去されてもよい。
【0039】
MTDPとの反応は、0℃〜70℃の温度で10分〜5時間の時間、イソプロピルエーテル中で好ましく実行され、より好ましくは、50℃〜70℃の温度で10分〜1時間の時間で、実行される。
【0040】
上記の方法の好適実施例において、MTDPは、イソプロピルエーテルに前もって溶解され、還流下、加熱される;前もってイソプロピルエーテルに溶解されたd,l−trans−ChAをその後添加し、得た混合物を、攪拌しながら還流下で保持する。イソプロピルエーテルで1回以上適当に洗浄した、MTDPとの塩は、酸性化の後、約95%の鏡像異性体的に過剰なd−trans−ChAを与える。この鏡像異性体的に過剰な産物は、必要であれば、追加の洗浄及び塩の再結晶化により、増加され得る。
【0041】
DMPP又はMTDPとの塩からChAに置き換えるのに使用する酸の種類としては、特に制約はない;抽出に用いる溶媒は、一般的には、イソプロピルエーテル、トルエン、クロロホルム、塩化メチレン又は酢酸エチルなどの有機溶媒であって;好ましくは、イソプロピルエーテルである。
【0042】
本発明のさらなる態様では、下記のものを与える:
下記のDMPPとのp型の塩:
dl−trans−ChA・1S,2S−(+)−2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール;
dl−trans−ChA・1R,2R−(−)−2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール;
下記のDMPPとのn型の塩:
l−trans−ChA・1S,2S−(+)−2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール;
d−trans−ChA・1R,2R−(−)−2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール;
下記のMTDPとのn型の塩:
l−trans−ChA・1S,2S−(+)−2−ジメチルアミノ−1−[4−(メチルチオ)フェニル]プロパン−1,3−ジオール;
d−trans−ChA・1R,2R−(−)−2−ジメチルアミノ−1−[4−(メチルチオ)フェニル]プロパン−1,3−ジオール。
【0043】
上記の塩の全ては、下記の実験部で強調するように、特定の物理化学的値及び分光的値(mp、[α]、IR、HNMR、13CNMR、質量)を特徴とする均質な結晶性固体である。これらの値は、上記の塩の特徴であって、産物の再溶解及び再結晶後に変化しないことを示すものである。
【0044】
出願人の検討では、上記のp型の塩は、d−trans−ChA・1S,2S−(+)−(DMPP)とl−trans−ChA・1S,2S−(+)−(DMPP)とが1:1の固定された比率で、又はd−trans−ChA・1R,2R−(−)−(DMPP)とl−trans−ChA・1R,2R−(−)−(DMPP)とが1:1の固定された比率で、共結晶化した産物であることが示された。
【0045】
還流下でイソプロピルエーテルに混合し、0.5時間、沸点で保持した際、n型の塩であるl−trans−ChA・1S,2S−(+)−(DMPP)と、p型の塩であるd−trans−ChA・1S,2S−(+)−(DMPP)との等量で、繰り返しの再結晶の後でも変化しない、dl−trans−ChA・1S,2S−(+)−(DMPP)のp型の塩の典型的な特徴を有する沈殿物が高い収率で得られる。
【0046】
本発明では、核化及び結晶の成長を惹起するようにメタノールに頼ることなく、高収率でd−trans−ChAが得られる。共溶媒としてメタノールを使用しないことは、ヒトに対する毒性が軽減される点、及び得られるd−trans−ChAの結晶の活性/重量比率が高くなる点で、有利である。さらに、DMPP及びMTDPとの両反応中、並びに種々の洗浄中、単一の溶媒(イソプロピルエーテル)を使用することは、調製方法及び製造プラントの設計を実質的に単純化することとなる。
【0047】
上記の方法の有効性は、cis−ChAの存在下で行うことで、低減されず、従って、不十分なジアステレオ型及び鏡像型の選択性をしばしば特徴とする非対称な触媒により得られる結果が、向上し、これにより、鏡像異性体的に純粋なtrans型の菊酸がもたらされる。
【0048】
DMPPは、trans−ChAのジアステレオ型異性体に対して高い選択性を有することが証明され、塩の形態で、イソプロピルエーテルから選択的に沈殿させ得る;この塩化の収率(最初に存在したtrans型の異性体の量に対して得られたtrans型の異性体の百分率として計算したもの)は、高く、80〜90%のオーダーである;産物の鏡像異性体的な純度は、実質的に100%である。同様に、DMPPのエナンチオマーの区別可能で排他的な特性としては、trans−ChAのみのp型の塩を生成し、cis−ChAの異性体に対しては反応性を有さないことが発見された。上記のDMPPのエナンチオマーは、公知であって、市販されているものである。
【0049】
MTDPは、d−trans−ChAのエナンチオマーに対して高いエナンチオ選択性を有することが証明され、塩化の収率は、これも高く、80〜90%のオーダーである。得られたものの鏡像異性体的純度は、実質的に100%である。
【0050】
1R,2R−(−)−MTDP及び1S,2S−(+)−MTDPは、新規の化合物であって、本発明のさらなる態様を構成する。これらの化合物は、クロラムフェニコールの工業的合成における中間体として公知である1R,2R−(−)ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール及びそのエナンチオマーのN,N−ビスメチル化によって、非特許文献17の方法及び非特許文献18の貢献的な関連プロトコールに従って、調製される。
【0051】
DMPP及びMTDPを使用することにより、容易にアクセス可能なアミンであり、光学的に高い純度で工業的に製造され、方法の終期において安全且つ実用的に回収可能であり、後の塩化サイクルに再利用可能であり、活性の損失がなく、実際のコストを削減し得るという、N,N−ジメチル誘導体であるという、さらなる工業的な利点を有する。
【実施例】
【0052】
本発明について、以下に、限定しない例を示す。
【0053】
(実験部)
産物として利用され且つ得られた菊酸及びその塩基について、GC、HPLC、TLC及びIR、HNMR、13CNMR並びに質量分光光度技術を用いて、特徴付けを行った。
【0054】
[α]値は、特に記載しない限り、20℃で測定した。
【0055】
種々の菊酸のサンプルのジアステレオ型異性体及びエナンチオマー型の成分について、GC(Rt−βDEXsm(登録商標)−RESTEKのキャピラリーカラム(Corp.−30mt;0.32mmID;0.25μmf);注入温度275℃;300℃のFID検出器;80℃で2分間の後125℃(1.5℃/分で昇温)にてプログラム)により分析した。
【0056】
1.塩の物理化学的及び分光光度的特徴
1.1)dl−trans−ChA・1S,2S−(+)−DMPP(p型塩)
[(1S,2S)−(+)−1,3−ジヒドロキシ−N,N−ジメチル−1−フェニルプロパン−2−アミノ d,l−trans−2,2−ジメチル−3−(2−メチルプロプ−1−エン−1−イル)シクロプロパンカルボキシレート]:
【0057】
H−NMR(300MHz,CDCl):δppm:1.08(s,3H,CH(酸));1.22(s,3H,CH(酸));1.30(dd,1H,J=5.40Hz,J=1.78Hz,CH(酸));1.68(s,6H,2CH(酸));1.94(dd,1H,J=7.99Hz,J=5.40Hz,CH(酸));2.71(s,6H,2CH,N−CH);2.94(m,1H,CH(アミン));3.33(dd,1H,J=12.93Hz,J=6.22Hz,CH(アミン));3.52(dd,1H,J=12.93Hz,J=2.87Hz,CH(アミン));4.67(d,1H,J=9.58Hz,CH(アミン));4.85(d,1H,J=5.27Hz,CH(酸));7.34(m,5H,CH,Ar−H(アミン));7.41(s,3H,2OH,NH)
【0058】
13C−NMR(75MHz,CDCl):δppm:19.10;21.35;23.06;26.16(CH(酸));27.94(C(酸));32.31;32.42;37.49;37.63(CH(酸),(2つのジアステレオ型異性体));42.06(N−CH);58.41(CH(アミン));71.51;71.69(CH(アミン));122.80(CH(酸));122.85;127.68;128.91;129.27(CH,Ar−CH);134.85(C(酸));141.86(C;Ar−C);179.60(C=O)
【0059】
I.R.(KBr)v:3151(br,OH);2922(NH);1568(s,COO);1421(m,COO)cm−1
【0060】
質量:(ES+):296(M+1);297(M+1);(ES−):167(M−1);168(M
【0061】
[α]=+26.8°(c=1.036,CHCl);mp:109.7〜111.5℃
【0062】
1.2) dl−trans−ChA・1R,2R−(−)−DMPP (p型塩)
[(1R,2R)−(−)−1,3−ジヒドロキシ−N,N−ジメチル−1−フェニルプロパン−2−アミノ d,l−trans−2,2−ジメチル−3−(2−メチルプロプ−1−エン−1−イル)シクロプロパンカルボキシレート]
この塩は、先のp型塩の左旋性のエナンチオマーであり、物理化学的及び分光光度的特徴は、上記と同様である。
【0063】
1.3)l−trans−ChA・1S,2S−(+)−DMPP(n型の塩)
[(1S,2S)−(+)−1,3−ジヒドロキシ−N,N−ジメチル−1−フェニルプロパン−2−アミノ (1S,3S)−(−)−2,2−ジメチル−3−(2−メチルプロプ−1−エン−1−イル)シクロプロパンカルボキシレート]
【0064】
H−NMR(300MHz,CDCl):δppm:1.08(s,3H,CH(酸));1.22(s,3H,CH(酸));1.30(dd,1H,J=5.40Hz,J=1.78Hz,CH(酸));1.69(s,6H,2CH(酸));1.94(dd,1H,J=7.99Hz,J=5.40Hz,CH(酸));2.71(s,6H,2CH,N−CH);2.94(m,1H,CH(アミン));3.31(dd,1H,J=12.93Hz,J=6.22Hz,CH(アミン));3.54(dd,1H,J=12.93Hz,J=2.87Hz,CH(アミン));4.68(d,1H,J=9.58Hz,CH(アミン));4.85(d,1H,J=5.27Hz,CH(酸));7.32(m,5H,CH,Ar−H(アミン));7.67(s,3H,2OH,NH)
【0065】
13C−NMR(75MHz,CDCl):δppm:18.60;20.83;22.57;25.67(CH(酸));27.33(C(酸));31.77;37.56(CH(酸));41.53(N−CH);57.83(CH(アミン));71.00(CH(アミン));122.37(CH(酸));127.20,128.42,128.77(CH,Ar−CH);134.32(C(酸));141.39(C;Ar−C);179.20(C=O)
【0066】
I.R.(KBr)v:3151(br,OH);2922(NH);1568(s,COO);1421(m,COO)cm−1
【0067】
質量:(ES+):296(M+1);297(M+2);(ES−):167(M−1);168(M
【0068】
[α]=+12.3°(c=0.9720,CHCl);mp:132.6〜134.0℃
【0069】
1.4)d−trans−ChA・1R,2R−(−)−DMPP(n型の塩)
[(1R,2R)−(−)−1,3−ジヒドロキシ−N,N−ジメチル−1−フェニルプロパン−2−アミノ(1R,3R)−(+)−2,2−ジメチル−3−(2−メチルプロプ−1−エン−1−イル)シクロプロパンカルボキシレート]
この塩は、先のn型の塩の左旋性のエナンチオマーであり、物理化学的及び分光光度的特徴は、上記と同様である。
【0070】
1.5)l−trans−ChA・1S,2S−(+)−MTDP(n型の塩)
{(1S,2S)−(+)−1,3−ジヒドロキシ−N,N−ジメチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]プロパン−2−アミノ (1S,3S)−(−)−2,2−ジメチル−3−(2−メチルプロプ−1−エン−1−イル)シクロプロパンカルボキシレート}
【0071】
H−NMR(300 MHz,CDCl):δppm:1.08(s,3H,CH(酸));1.22(s,3H,CH(酸));1.30(dd,1H,J=5.40Hz,J=1.78Hz,CH(酸));1.68(s,6H,2CH(酸));1.94(dd,1H,J=7.99Hz,J=5.40Hz,CH(酸));2.44(s,3H,CH,S−CH);2.73(s,6H,2CH,N−CH);2.92(m,1H,CH(アミン));3.33(dd,1H,J=12.93Hz,J=6.22Hz,CH(アミン));3.57(dd,1H,J=12.93Hz,J=2.87Hz,CH(アミン));4.67(d,1H,J=9.58Hz,CH(アミン));4.85(d,1H,J=5.27Hz,CH(酸));7.18(m,5H,CH,Ar−H(アミン));7.28(d,1H,J=8.82Hz,CH,Ar−H);7.36(s,3H,2OH,NH)
【0072】
13C−NMR(75MHz,CDCl):δppm:19.10;21.35;23.06;26.16(CH(酸));27.94(C(酸));32.31;32.42;37.49;37.63(CH(酸));42.06(N−CH);58.41(CH(アミン));71.51;71.69(CH(アミン));122.80(CH(酸));122.85;127.68;128.91;129.27(CH,Ar−CH);134.85(C(酸));141.86(C;Ar−C);179.60(C=O)
【0073】
I.R.(KBr)v:3254(br,OH);2915(NH);1576(s,COO);1424(m,COO)cm−1
【0074】
質量:(ES+):242(M+1);243(M+2);(ES−):167(M−1);168(M
【0075】
[α]=+10.5°(c=0.986,CHCl);mp:138〜140℃
【0076】
1.6)d−trans−ChA・1R,2R−(−)−MTDP(n型の塩)
{(1R,2R)−(−)−1,3−ジヒドロキシ−N,N−ジメチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]プロパン−2−アミノ(1R,3R)−(+)−2,2−ジメチル−3−(2−メチルプロプ−1−エン−1−イル)シクロプロパンカルボキシレート}:
この塩は、先のn型の塩の左旋性のエナンチオマーであり、物理化学的及び分光光度的特徴は、上記と同様である。
【0077】
(例1)
trans:cisのジアステレオ型の比率が65:35であるラセミ菊酸からの、(1S,2S)−(+)−DMPPを用いたd,l−trans−菊酸の分離
41.0gの(1S,2S)−(+)−2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール[(1S,2S)−(+)−DMPP](0.21モル)を、200mLのイソプロピルエーテルに添加する。この混合物を、還流下、加熱し(65℃)、これを、trans:cisのジアステレオ型の比率が65:35であるラセミ菊酸50.5g(0.30モル)を有する100mLのイソプロピルエーテルの溶液に、緩徐に添加する。
【0078】
この添加の終期において、数分後、対応する塩の沈殿が観察される。
【0079】
この混合物を、攪拌しながら、65℃で45分間、保持する。
【0080】
これを、周囲温度に冷却し、10℃で攪拌する。
【0081】
得た塩を、濾過し、50mLのイソプロピルエーテルで2回洗浄する。
【0082】
乾燥後、d−p型の塩であるdl−trans−ChA・1S,2S−(+)−DMPP71.9gを得る。
【0083】
得た塩に500mLのトルエンを添加し、この混合物を、塩が溶解するまで、還流下で加熱する。
【0084】
この混合物を、周囲温度に冷却して、塩を沈殿させ、その後、10℃に冷却する。
【0085】
得た固形物を濾過し、乾燥した後、融点が110〜111.5℃;[α]が+26.8℃(c:1.036、クロロホルム)である、純粋なp型塩であるdl−trans−ChA・1S,2S−(+)−DMPP59.6gを得る。
【0086】
この塩を、1NのHCl水溶液に溶解し、トルエンで抽出して、減圧下で蒸留した後、26.1gのtrans−菊酸(最終収率80.3%、trans:cisのジアステレオ型の比率が99.5:0.5、ee(l−trans)=2.6%)を得る。
【0087】
NaOHでアルカリ性(pH10)とした元の液体において、塩基の沈殿物である(1S,2S)−(+)−DMPP(30.4g、収率75%)を観察し、静かに注ぎ、水で数回洗浄し、吸引下で乾燥して、光学的にインタクトな状態で回収する。残りの元の液体は、イソプロピルエーテル(2×150mL)で抽出して、残りの量の塩基を回収してもよい。
【0088】
NaOHでアルカリ性(pH10)とした元の液体は、鏡像異性体的にインタクトな8.71gの塩基の沈殿物を生じた。
【0089】
(例2)
trans:cisのジアステレオ型の比率が65:35であるラセミ菊酸からの、(1R,2R)−(−)−DMPPを用いたd,l−trans−菊酸の分離
菊酸のdl−cis異性体からのdl−trans異性体の分離は、塩基である(1R,2R)−(−)−2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール[(1R,2R)−(−)−DMPP]を用いた以外は、例1と同様の方法に従って、行った。l−p型の塩、つまり、dl−trans−ChA・1R,2R−(−)−DMPPの形成は、このように誘導した:
融点=110〜111.5℃
[α]=−26.4℃(c:1.032、クロロホルム)、d−p型のエナンチオマー
【0090】
(例3)
trans:cisのジアステレオ型の比率が80:20であるラセミ菊酸からの、(1S,2S)−(+)−DMPPを用いたd,l−trans−菊酸の分離
例1で述べたのと同様に、46.9gの(1S,2S)−(+)−2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール[(1S,2S)−(+)−DMPP](0.24モル)を有する250mLのイソプロピルエーテルを、trans:cisのジアステレオ型の比率が80:20であるラセミ菊酸50g(0.30モル)を溶解した50mLのイソプロピルエーテルの溶液と反応する。添加の後、しばらくした後、対応する塩の沈殿物が観察された。
【0091】
この混合物を、攪拌しながら、65℃で1.5時間、保持する。
【0092】
これを、周囲温度に冷却し、10℃に冷却する。
【0093】
得た塩を、濾過し、50mLのイソプロピルエーテルで2回洗浄する。
【0094】
乾燥後、81.7gの塩を得る。
【0095】
1NのHClで処理しエチルエーテルで処理した後、塩のサンプルの分析(キラルカラムを用いたGC)を行ったところ、trans:cisのジアステレオ型の比率が95:5である菊酸(ee(l−trans)=0.6%、ee=0%)であった。このようにして得た塩を、例1と同様に処理して乾燥した後、融点が110〜111.5℃;[α]が+26.8℃(c:1.036、クロロホルム)である、純粋なp型塩であるdl−trans−ChA・1S,2S−(+)−DMPP77.8gを得る。
【0096】
このようにして得た塩を、例1と同様に処理して、36.0gのtrans−菊酸(100%trans、ee(l−trans)=2.6%)を定量的に得た。
【0097】
例1に述べたように、鏡像異性体的にインタクトな状態での塩基である(1S,2S)−(+)−DMPPの回収を行った。
【0098】
(例4)
trans:cisのジアステレオ型の比率が80:20であるラセミ菊酸からの、(1R,2R)−(−)−DMPPを用いたd,l−trans−菊酸の分離
菊酸のdl−cis異性体からのdl−trans異性体の分離は、塩基である(1R,2R)−(−)−2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール[(1R,2R)−(−)−DMPP]を用いた以外は、例1と同様の方法に従って、行った。l−p型の塩、つまり、dl−trans−ChA・1R,2R−(−)−DMPPの形成は、このように誘導した:
融点=110〜111.5℃
[α]=−26.4℃(c:1.032、クロロホルム)、d−p型のエナンチオマー
【0099】
(例5)
(1R,2R)−(−)−MTDP及び(1S,2S)−(+)−MTDPとのn型の塩の形成による、ラセミのtrans−菊酸の形成能
480mLのイソプロピルエーテルを、67.6g(0.28モル)の(1R,2R)−(−)−2−ジメチルアミノ−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−1,3−プロパンジオール[(1R,2R)−(−)MTDP]に添加する。この混合物を、完全に溶解するまで、還流下で加熱し、220mLのイソプロピルエーテルに、例1及び2で述べたように調製した、90.8g(0.54モル)のラセミのtrans−菊酸を添加した。
【0100】
その後、塩の沈殿が観察される。この混合物を、還流下、攪拌しながら、30分間保持する。周囲温度に冷却し、濾過して、沈殿した塩を分離する。この塩を、その後、100mLのイソプロピルエーテルで3回洗浄し、25℃/24ミリバールで乾燥して、粗生成物であるl−n型の塩であるd−trans−ChA・1R,2R−(−)−MTDP90.8gを得る。この塩基を通常の置き換えを行った後のサンプルをGC分析したところ、ee=94%のd−trans−菊酸であった。このようにして得た塩に、150mLのイソプロピルエーテルを添加し、この混合物を還流下、攪拌しながら、30分間加熱する。
【0101】
この混合物を周囲温度に冷却し、濾過して分離した塩を、30℃/24ミリバールの吸引下で乾燥し、88.4gの純粋なl−n型の塩を得る:
融点=138〜140℃;
[α]=−10.5°(c:0.986、クロロホルム)。
【0102】
この塩を1NのHCl水溶液に溶解し、トルエンで抽出し、減圧下で蒸留した後、36.3g(最終収率80%)のd−trans−菊酸である、d−trans−ChA(ee=97%)を得る。
【0103】
分割剤(resolving agent)として使用する塩基である(1R,2R)−(−)−MTDPは、NaOHでアルカリ性とした元の液体から沈殿する。これは、光学的にインタクトな状態で、濾過、水による洗浄及び吸引下での乾燥により、回収される(51.7g、収率76.2%)。残りの元の液体は、イソプロピルエーテル(2×100mL)で抽出して、残りの量の塩基(5.4g)を回収してもよい。
【0104】
上記のl−n型の塩の洗浄用に使用されるイソプロピルエーテルが添加される濾過したイソプロピルエーテルの溶液は、1Nの塩酸で酸性とした水(pH3.5)で洗浄され、その後、水で数回洗浄され、MgSOで乾燥され、減圧下で蒸留され、52.14gのl−trans−菊酸(ee=73%)を与える。10.22gの塩基性の分解剤は、NaOHでpH10とアルカリ性とされた元の液体から沈殿して、塩基性の(1R,2R)−(−)−2−ジメチルアミノ−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−1,3−プロパンジオールの99%が回収される。
【0105】
このようにして得たl−transの菊酸(52.1g、ee=73%、0.31モル)を、420mLのイソプロピルエーテルに溶解し、沸点とし、64.3g(0.27モル)の(1S,2S)−(+)−2−ジメチルアミノ−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−1,3−プロパンジオール[(1S,2S)−(+)MTDP]を添加する。この反応混合物を沸騰させながら1/2時間保持し、その後、周囲温度に冷却する。前の塩のエナンチオマーである、沈殿したd−n型の塩(l−trans−ChA・1S,2S−(+)−MTDP)(102.0g)を、濾過で収集する;融点=138〜140°、[α]=+10.5°(c:1.154、クロロホルム);酸で置き換え、通常の様式でトルエンで抽出して、減圧下で蒸留して、41.23gのl−transの菊酸(最終収率90.73%)(ee=98%)を得る。上述の通りに元の液体をNaOHでアルカリ性とすると、分割剤として使用した塩基である(1S,2S)−(+)−MTDP59.12gが沈殿する。元の液体をエーテルで続いて抽出すると、鏡像異性体的にインタクトな上記の塩基の全ての回収が可能である。塩基の沈殿物の元の液体に残渣が残存し、適当に処理すると、13.56gのd−trans−菊酸(ee=47%)を得る。
【0106】
(例6)
ee=60%のスカルミックな混合物からの、d−p型の塩の形成及び(1S,2S)−(+)−DMPPの使用を介した、鏡像異性体的に過剰量のd−trans−ChAの回収
(1S,2S)−(+)−DMPP(2.34g、0.012モル)を、熱条件下で、40mLのイソプロピルエーテルに溶解し、この溶液を、4:1の比率(ee=60%)のd−trans/l−transの菊酸のスカルミックな混合物5.0g(0.03モル)を有する40mLのイソプロピルエーテルに添加する。この混合物を、65℃で、攪拌しながら30分間加熱し、その後周囲温度に冷却する。固形の沈殿物が観察される。
【0107】
これを、攪拌しながら、15分間、0℃に冷却し、得た固形物を濾取し、2部(9mL)のイソプロピルエーテルで洗浄する。
【0108】
この固形物を乾燥して、d−p型の塩、つまり、dl−trans−ChA・1S,2S−(+)−DMPP2.34gを得る:融点=110〜111.5℃;[α]=+26.8℃(c:1.036、クロロホルム)。上記の例に述べたように塩の成分を置き換えて、d−trans−ChAを得、上記の塩基を回収し得る。
【0109】
洗浄水に添加した濾過したエーテル溶液を、pH3.5に酸性化した水で洗浄して、乾燥し、30℃/24ミリバールで蒸留して、3.1gのd−trans−菊酸(ee>95%)を得る。
【0110】
(例7)
ee=60%のスカルミックな混合物からの、l−p型の塩の形成及び(1R,2R)−(−)−DMPPの使用を介した、鏡像異性体的に過剰量のl−trans−ChAの回収
4:1の比率(ee=60%)のl−trans/d−transの菊酸のスカルミックな混合物5.0g(0.03モル)を、例4で述べたように、(1R,2R)−(−)−DMPP(2.34g、0.012モル)で処理して、l−p型の塩、つまり、dl−trans−ChA・1R,2R−(−)−DMPP3.27gを得る:融点=110〜111.5℃;[α]=−26.3℃(c:1.026、クロロホルム)。上記の例に述べたように塩の成分を置き換えて、dl−trans−ChAを得、上記の塩基を回収し得る。
【0111】
洗浄水に添加した濾過したエーテル溶液を、pH3.5に酸性化した水で洗浄して、乾燥し、30℃/24ミリバールで蒸留して、3.0gのl−trans−菊酸(ee>95%)を得る。
【0112】
(例8)
ee=80%のスカルミックな混合物からの、d−p型の塩の形成及び(1S,2S)−(+)−DMPPの使用を介した、鏡像異性体的に過剰量のd−trans−ChAの回収
例4で述べたのと同様に、35mLのイソプロピルエーテルに溶解した1.17g(0.006モル)の(1S,2S)−(+)−DMPPを、90:10の比率(ee=80%)を有するd−trans/l−transの菊酸5.0g(0.03モル)を溶解した20mLのイソプロピルエーテルと反応する。
【0113】
例4と同様に処理した後、d−p型の塩、つまり、dl−trans−ChA・1S,2S−(+)−DMPP1.89gを得る:融点=110〜111.5℃;[α]=+26.8℃(c:1.036、クロロホルム)。上記の例に述べたように塩の成分を置き換えて、dl−trans−ChAを得、上記の塩基を回収し得る。
【0114】
洗浄水に添加した濾過したエーテル溶液を、pH3.5に酸性化した水で洗浄して、乾燥し、30℃/24ミリバールで蒸留して、3.98gのd−trans−菊酸(ee>95%)を得る。
【0115】
(例9)
ee=80%のスカルミックな混合物からの、l−p型の塩の形成及び(1R,2R)−(−)−DMPPの使用を介した、鏡像異性体的に過剰量のl−trans−ChAの回収
90:10の比率(ee=80%)のl−trans/d−transの菊酸のスカルミックな混合物(5.0g、0.03モル)を、例4で述べたように、(1R,2R)−(−)−DMPP(1.16g、0.006モル)で処理して、l−p型の塩、つまり、dl−trans−ChA・1R,2R−(−)−DMPP1.95gを得る:融点=110〜111.5℃;[α]=−26.4℃(c:1.029、クロロホルム)。上記の例に述べたように塩の成分を置き換えて、dl−trans−ChAを得、上記の塩基を回収し得る。
【0116】
洗浄水に添加した濾過したエーテル溶液を、pH3.5に酸性化した水で洗浄して、乾燥し、30℃/24ミリバールで蒸留して、4.0gのl−trans−菊酸(ee>95%)を得る。
【0117】
(例10)
ee=60%のスカルミックな混合物からの、l−n型の塩の形成及び(1R,2R)−(−)−DMPPの使用を介した、鏡像異性体的に過剰量のd−trans−ChAの回収
(1R,2R)−(−)−DMPP(3.51g、0.018モル)を、熱条件下で、40mLのイソプロピルエーテルに溶解する。この溶液に、4:1の比率(ee=60%)のd−trans/l−transの菊酸のスカルミックな混合物5.0g(0.03モル)を有する40mLのイソプロピルエーテルを添加する。この混合物を、30分間、攪拌しながら、65℃に加熱し、その後、周囲温度に冷却する。固形の沈殿が観察される。
【0118】
これを、15分間攪拌しながら、0℃に冷却し、得た固形の沈殿を濾取し、2部(9mL)のイソプロピルエーテルで洗浄する。
【0119】
この固形物を乾燥して、l−n型の塩、つまり、d−trans−ChA・1R,2R−(−)−DMPP6.43gを得る:融点=135〜137℃;[α]=−12.3°(c:0.9720、クロロホルム)。上記の例に述べたように塩の成分を置き換えて、2.90gのd−trans−ChA(ee>95%)を得、上記の塩基を回収し得る。
【0120】
洗浄水に添加した濾過したエーテル溶液を、pH3.5に酸性化した水で洗浄して、乾燥し、30℃/24ミリバールで蒸留して、1.98gのdl−trans−菊酸を得る。
【0121】
(例11)
ee=60%のスカルミックな混合物からの、d−n型の塩の形成及び(1S,2S)−(+)−DMPPの使用を介した、鏡像異性体的に過剰量のl−trans−ChAの回収
4:1の比率(ee=80%)のd−trans/l−transの菊酸のスカルミックな混合物(5.0g、0.03モル)を、例6に述べたように、(1S,2S)−(+)−DMPP(4.69g、0.024モル)で処理し、6.47gのd−n型の塩、つまり、l−trans−ChA・1S,2S−(+)−DMPPを得る:融点=133〜135℃;[α]=+12.2°(c:1.021、クロロホルム)。上記の例に述べたように塩の成分を置き換えて、2.87gのl−trans−ChA(ee>95%)を得、上記の塩基を回収し得る。
【0122】
洗浄水に添加した濾過したエーテル溶液を、pH3.5に酸性化した水で洗浄して、乾燥し、30℃/24ミリバールで蒸留して、1.92gのdl−trans−菊酸を得る。
【0123】
(例12)
ee=80%のスカルミックな混合物からの、l−n型の塩の形成及び(1R,2R)−(−)−DMPPの使用を介した、鏡像異性体的に過剰量のd−trans−ChAの回収
(1R,2R)−(−)−DMPP(4.68g、0.024モル)を、熱条件下で、40mLのイソプロピルエーテルに溶解する。この溶液に、9:1の比率(ee=80%)のd−trans/l−transの菊酸のスカルミックな混合物5.0g(0.03モル)を有する40mLのイソプロピルエーテルを添加する。この混合物を、例6に記載の通りに処理した。
【0124】
濾過して得た固形物を乾燥し、8.58gのl−n型の塩、つまり、d−trans−ChA・1R,2R−(−)−DMPPを得る:融点=133〜135℃;[α]=−12.1°(c:0.9875、クロロホルム)。上記の例に述べたように塩の成分を置き換えて、3.85gのd−trans−ChA(ee>95%)を得、上記の塩基を回収し得る。
【0125】
洗浄水に添加した濾過したエーテル溶液を、pH3.5に酸性化した水で洗浄して、乾燥し、30℃/24ミリバールで蒸留して、0.95gのdl−trans−菊酸を得る。
【0126】
(例13)
ee=80%のスカルミックな混合物からの、d−n型の塩の形成及び(1S,2S)−(+)−DMPPの使用を介した、鏡像異性体的に過剰量のl−trans−ChAの回収
9:1の比率(ee=80%)のl−trans/d−transの菊酸のスカルミックな混合物(5.0g、0.03モル)を、例7に述べたように、(1S,2S)−(+)−DMPP(4.68g、0.024モル)で処理し、8.63gのd−n型の塩、つまり、l−trans−ChA・1S,2S−(+)−DMPPを得る:融点=133〜135℃;[α]=+12.2°(c:1.021、クロロホルム)。上記の例に述べたように塩の成分を置き換えて、3.92gのl−trans−ChA(ee>95%)を得、上記の塩基を回収し得る。
【0127】
洗浄水に添加した濾過したエーテル溶液を、pH3.5に酸性化した水で洗浄して、乾燥し、30℃/24ミリバールで蒸留して、0.91gのdl−trans−菊酸を得る。
【0128】
(例14)
ee=80%のスカルミックな混合物からの、l−n型の塩の形成、及びdl−cis−ChA(20%)の存在する(1R,2R)−(−)−DMPPの使用を介した、鏡像異性体的に過剰量のd−trans−ChAの回収
(1R,2R)−(−)−DMPP(12.5g、0.064モル)を、熱条件下で、80mLのイソプロピルエーテルに溶解する。この溶液に、20%のdl−cis−ChA(0.02モル)と80%のtrans−ChA(0.08モル、ee=80%:d−trans0.072モル;l−trans0.008モル)とからなる菊酸16.8g(0.1モル)を有する40mLのイソプロピルエーテルを添加する。この混合物を、例6に記載の通りに処理した。
【0129】
濾過して得た固形物を乾燥し、22.8gのl−n型の塩、つまり、d−trans−ChA・1R,2R−(−)−DMPPを得る:融点=133〜135℃;[α]=−12.1°(c:0.9875、クロロホルム)。上記の例に述べたように塩の成分を置き換えて、9.8gのd−trans−ChA(ee>95%)を得、上記の塩基を回収し得る。
【0130】
洗浄水に添加した濾過したエーテル溶液を、pH3.5に酸性化した水で洗浄して、乾燥し、30℃/24ミリバールで蒸留して、5.90gのdl−trans−菊酸を得る。
【0131】
(例15)
dl−cis−ChA(20%)の存在するee=80%のスカルミックな混合物からの、(1S,2S)−(+)−DMPPを使用したl−n型の塩の形成、及び(1R,2R)−(−)−DMPPを使用したl−n型の塩の形成を介した、鏡像異性体的に過剰量のd−trans−ChAの回収
(1S,2S)−(+)−DMPP(3.12g、0.016モル)を、熱条件下で、80mLのイソプロピルエーテルに溶解する。この溶液に、20%のdl−cis−ChA(0.02モル)と80%のtrans−ChA(0.08モル、ee=80%:d−trans0.072モル;l−trans0.008モル)とからなる菊酸16.8g(0.1モル)を有する40mLのイソプロピルエーテルを添加する。この混合物を、例6に記載の通りに処理した。
【0132】
濾過して得た固形物を乾燥し、5.72gのd−p型の塩、つまり、dl−trans−ChA・1S,2S−(+)−DMPPを得る:融点=110〜111.5℃;[α]=+26.8°(c:1.038、クロロホルム)。
【0133】
pH3.5に酸性化した水で洗浄したエーテル溶液を、乾燥し、30℃/24ミリバールで蒸留して、(GC)dl−cisと、過剰なd−transとからなる10.5gの菊酸を得る。cis−ChA異性体からのd−trans−ChAの分離は、上記の混合物をイソプロピルエーテル(30mL)に溶解し、熱条件下で40mLのイソプロピルエーテルに溶解した(1R,2R)−(−)−DMPPの溶液を添加することで、達成される。この混合物を、例6に記載の通りに処理する。濾過して得た固形物を乾燥し、22.81gのl−n型の塩、つまり、d−trans−ChA・1R,2R−(−)−DMPPを得る:融点=133〜135℃;[α]=−12.1°(c:0.9875、クロロホルム)。
【0134】
上記の例に述べたようにd−p型の塩及びl−n型の塩を置き換えて、関連する塩基を回収するとともに、2.55gのdl−trans−ChA、及び10.3gのd−trans−ChA(ee>95%)をそれぞれ得る。
【0135】
残りのエーテル溶液の蒸留により、3.28gのdl−cis−ChAを得る。
【0136】
(例16)
(1S,2S)−(+)−2−ジメチルアミノ−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−1,3−プロパンジオール[(1S,2S)−(+)−MTDP]の合成
(1S,2S)−(+)−2−アミノ−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−1,3−プロパンジオール(42.7g、0.2モル)を、少量、32.2g(0.7モル)のギ酸に0℃で添加し、その後、35%のホルムアルデヒド水溶液43mL(0.05モル)を添加した。その後、この溶液を、24時間、90℃に加熱した。冷却した後、17mLの6NのHClを添加し、この混合物を、ジクロロメタン(3×20mL)で抽出した。このように精製した水相に、pHが塩基性となるまで、20%のNaOH水溶液を添加した。このアルカリ性の水を、ジクロロメタンで抽出する。その有機溶液を、MgSO上で乾固し、濾取し、減圧下で蒸留して、41.40g(収率86%)のN,N−ジメチル誘導体を得る:融点89〜91.5℃;[α]19=+24.0°(c:1.52、アセトン);[α]19=+39.9°(c:1.36、アセトン)
【0137】
IR(KBr)δ:3437;2942;1598;1457cm−1
【0138】
H NMR(200MHz,CDCl)δ:2.45(s,9H);2.60(m,1H);3.38(m,2H);4.30(d,1H,J=9.6Hz),7.22(m,4H)ppm
【0139】
13C NMR(50MHz,CDCl)δ:16.42;41.93;58.74;71.40;71.70;127.18;128.16;138.64;139.31ppm
【0140】
質量:241,240,195,154,137
【0141】
(例17)
(1R,2R)−(−)−2−ジメチルアミノ−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−1,3−プロパンジオール[(1R,2R)−(−)−MTDP]の合成
(1R,2R)−(−)−2−アミノ−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−1,3−プロパンジオール(42.0g、0.197モル)、31.7g(0.69モル)のギ酸、及び42.4mL(0.49モル)の35%ホルムアルデヒド水溶液を、例15に述べたように、処理し、47.5gのN,N−ジメチル誘導体(収率88%)を得た:融点89〜91.5℃;[α]19=−22.7°(c:1.49、アセトン);[α]19=−37.6°(c:1.30、クロロホルム)。
【0142】
IR(KBr)、H NMR、13C NMR、及び質量分析に係るデータは、(1S,2S)−(+)MTDPで得たデータと同様であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
菊酸(ChA)の異性体の混合物から出発する、d−trans−菊酸(d−trans−ChA)及び/又はl−trans−菊酸(l−trans−ChA)の単離方法であって、
キラル選択剤として、2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール(DMPP)及び2−ジメチルアミノ−1−[4−(メチルチオ)フェニル]プロパン−1,3−ジオール(MTDP)を使用するステップを有することを特徴とする方法。
【請求項2】
trans−ChAからcis−ChAを単離する、請求項1に記載の方法であって、ChAを、該ChAに存在するtrans−ChAの量に相対して1当量の量を利用した1S,2S−(+)−DMPP又は1R,2R−(−)DMPPと反応するステップを有することを特徴とする方法。
【請求項3】
trans−ChAのラセミ混合物を、そのd−trans及びl−transの異性体に分離する、請求項1に記載の方法であって、前記混合物を、該混合物に存在するtrans−ChAに相対して0.5当量の量の1S,2S−(+)−MTDP又は1R,2R−(−)−MTDPと反応するステップを有することを特徴とする方法。
【請求項4】
trans−ChAのスカルミックな混合物を分離する、請求項1に記載の方法であって、前記混合物を、1S,2S−(+)−DMPP又は1R,2R−(−)−DMPPと反応するステップを有することを特徴とする方法。
【請求項5】
前記のスカルミックな混合物は、d体が鏡像異性体的に豊富であり、
より少ないl体のエナンチオマーに相対して2当量の量で1S,2S−(+)−DMPPが利用され、又は
過剰なd体のエナンチオマーに相対して1当量の量で1R,2R−(−)−DMPPが利用されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記のスカルミックな混合物は、l体が鏡像異性体的に豊富であり、
過剰なl体のエナンチオマーに相対して1当量の量で1S,2S−(+)−DMPPが利用され、又は
より少ないd体のエナンチオマーに相対して2当量の量で1R,2R−(−)−DMPPが利用されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記のDMPP及びMTDPとの反応産物は、p型又はn型の塩であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
必要なtrans−ChAのエナンチオマーは、塩を酸性溶液に溶解し、有機溶媒で抽出し、有機相を回収且つ蒸留し、蒸留で得た固形物を適当な溶媒に溶解し、及び得た溶液を1S,2S−(+)−MTDP又は1R,2R−(−)−MTDPと、存在するtrans−ChAに相対した0.5当量の量で反応することにより、前記のp型の塩から回収されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
必要なtrans−ChAのエナンチオマーは、塩を酸性溶液に溶解し、有機溶媒で抽出し、及び有機相を回収且つ蒸留することにより、前記のn型の塩から回収されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
酸性化し且つ抽出した後に残存する水性溶液は、塩基性化され、
溶液に存在するDMPP又はMTDPを、鏡像異性体的に純粋な沈殿物として、後の塩化サイクルにおいて再利用し得るように、回収することを特徴とする請求項7又は8に記載の方法。
【請求項11】
DMPP又はMTDPとの反応で得た元の液体は、溶液に残存する前記ChAから必要なエナンチオマーを回収するように、さらに処理されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記の元の液体は、ジアステレオ型異性体であるcis−ChAを含有し、
必要なエナンチオマー(d−trans又はl−trans)は、cis−ChAをtrans−ChAに変換し、ルイス酸で処理し、及び得たtrans−ChAを、請求項3乃至9のいずれか一項に記載の方法によって処理することで、得られることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記の元の液体は、ジアステレオ型であるtrans−ChAを含有し、
必要な異性体(d−trans又はl−trans)は、請求項3乃至9のいずれか一項に記載の方法に従って、回収されることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記の元の液体は、d−trans−ChAのエナンチオマー又はl−transのエナンチオマーを含有し、
該d体又はl体のエナンチオマーは、関連する元の液体を乾燥し蒸留することにより、回収されることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項15】
分離されるChAの異性体の混合物は、30/70〜99/1のtrans−ChA/cis−ChAの比率であることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
分離されるChAの異性体の混合物は、65/35、80/20又は92/8から選択されたtrans−ChA/cis−ChAの比率であることを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
DMPP及びMTDPとの塩化反応は、イソプロピルアルコール中で実行されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項18】
dl−trans−ChA・1S,2S−(+)−2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール;
dl−trans−ChA・1R,2R−(−)−2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール;
l−trans−ChA・1S,2S−(+)−2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール;
d−trans−ChA・1R,2R−(−)−2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール;
d−trans−ChA・1S,2S−(+)−2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール;及び
l−trans−ChA・1R,2R−(−)−2−ジメチルアミノ−1−フェニル−1,3−プロパンジオール;
から選択された、1S,2S−(+)−DMPP、又は1R,2R−(−)−DMPPとの菊酸の塩。
【請求項19】
l−trans−ChA・1S,2S−(+)−2−ジメチルアミノ−1−[4−(メチルチオ)フェニル]プロパン−1,3−ジオール;及び
d−trans−ChA・1R,2R−(−)−MTDP−2−ジメチルアミノ−1−[4−(メチルチオ)フェニル]プロパン−1,3−ジオール;
から選択された、1S,2S−(+)−MTDP、又は1R,2R−(−)−MTDPとの菊酸の塩。
【請求項20】
2−ジメチルアミノ−1−[4−(メチルチオ)フェニル]プロパン−1,3−ジオール。

【公表番号】特表2008−530180(P2008−530180A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555613(P2007−555613)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際出願番号】PCT/EP2006/060013
【国際公開番号】WO2006/087357
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(507277457)エンデュラ ソシエタ ペル アチオニ (5)
【Fターム(参考)】